説明

横編機の注油セット具

【課題】横編機の糸道レールに対する注油を容易にかつ確実に行うことが可能な注油具と、注油具の保管中に注油具に対する油の供給を自動的に行うことが可能な保管台とからなる注油セット具を提供する。
【解決手段】
注油具は、ヤーンキャリアが摺動する糸道レールの摺動面に対し注油を行うために糸道レールの前後の摺動面を挟み込む狭持部を設け、狭持部の糸道レールとの接触箇所には油を含浸させるための繊維質部材あるいは多孔部材からなる注油材を設け、
保管台は、底部に形成した糸道レールに注油するための油を溜める油槽部と、油漕部から上方に延ばして形成され、注油具を狭持させて保持可能な保持部と、保持部の注油具の狭持部に設けた給油材との接する箇所に繊維質部材あるいは多孔部材からなる給油パッドを設けたことを特徴とする、注油セット具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は横編機の糸道レールに注油を行う注油具とその保管台とからなる注油セット具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横編機において、ニードルベッドの上方にニードルベッドの長手方向と平行に糸道レールを設けている。この糸道レールにはヤーンキャリアを摺動自在に配設しているが、ヤーンキャリアが糸道レール上をスムーズに移動させるためには、オペレータが定期的に糸道レールに注油しなければならない。
糸道レールに注油する際には専用の注油具を使用して行う。この注油具は注油器から延びた注油管の先端に刷毛が取り付けられ、注油口から押し出された油は刷毛に含浸する。そしてオペレータは注油具を持って油を押し出しながら刷毛を糸道レールのヤーンキャリアの摺動面に当てて移動することで注油を行う。
【0003】
しかしこのような注油具では、糸道レール上で注油を行う位置が安定せず注油が不均一となる。供給する油の量も均一ではなく、注油の量が多すぎてもまた逆に不足しても編成に不具合をもたらす可能性がある。
また横編機には糸道レールが複数本設けられており、各糸道レール間においては糸道レールの前後摺動面に対する注油はしにくく、特に糸道レールの後側摺動面への注油は難しい。
【0004】
特許文献1では、注油器から延びた注油管の先端に刷毛などの塗油具を設けた注油具において、押し出された油が円滑に刷毛に含浸するように、塗油具の保持部に刷毛材と共に通油を行うパイプを添えて形成することを提案している。
【特許文献1】実開昭54−91585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、横編機の糸道レールに対する注油を容易にかつ確実に行うことが可能な注油具と、注油具の保管中に注油具に対する油の供給を自動的に行うことが可能な保管台とからなる注油セット具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、少なくとも前後一対のニードルベッドを先端部を突き合わした状態で配設し、該ニードルベッドの上方に糸道レールを並設し、該糸道レールにヤーンキャリアを摺動自在に支持する横編機の注油具と保管台とからなる注油セット具であって、
前記注油具は、
前記ヤーンキャリアが摺動する前記糸道レールの摺動面に対し注油を行うために糸道レールの前後の摺動面を挟み込む狭持部を設け、該狭持部の糸道レールとの接触箇所には油を含浸するための繊維質部材あるいは多孔部材からなる注油材を設け、
前記保管台は、
底部に形成した糸道レールに注油するための油を溜める油槽部と、
油漕部から上方に延ばして形成され、注油具を狭持させて保持可能な保持部と、
保持部の注油具の狭持部に設けた給油材との接する箇所に繊維質部材あるいは多孔部材からなる給油パッドを設けたことを特徴とする。
【0007】
好ましくは、前記注油具の狭持部は、糸道レールに注油あるいは注油具を前記保管台に保管する際、糸道レールの前後の摺動面あるいは保管台の保持部を挟み込むように弾性部材により付勢されることを特徴とする。
【0008】
また好ましくは、前記注油具の注油材および前記保管台の給油パッドはフェルトで形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、注油具はヤーンキャリアが摺動する糸道レールの前後の摺動面に対して、油がしみ込んだ注油材を狭持部で挟み込んで注油を行うため、糸道レールの前後摺動面に均一にかつ容易に注油を行うことが可能である。
また注油具を保管台に保管中に、保管台から注油具に自動的に油が供給されるため、常に一定の油が注油具の注油材にしみ込んだ状態となる。これにより糸道レールに注油する油の量を一定に保つことができる。これにより注油具に油を付けすぎたり、逆に油が不足したりすることがない。
このような注油具と保管台とからなる注油セット具を使用することで、糸道レールに対する注油を容易にかつ確実に行うことが可能である。
【0010】
また注油具により糸道レールの前後摺動面に注油を行う際、あるいは注油具を保管台に保管する際、注油具の狭持部は弾性部材により糸道レールあるいは保管台の保持部を挟み込むように付勢する。これにより注油具を糸道レールに確実にセットすることができ、均一な注油を行うことができる。また糸道レールの前後の摺動面に対する注油を、同時に行うことが可能である。
また注油具の保管台への保持を確実に行うことができ、保管台から注油具への油の供給が自動的に行われる。
【0011】
また注油具の注油材及び保管台の給油パッドはフェルトで形成される。保管台の給油パッドは毛細管現象により常に一定の油がしみ込んでいるため、注油具を保管台に保管中に注油具の注油材には常に一定の油がしみ込み、糸道レールに注油する油の量を一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下にこの発明を実施するための最良の形態を示すが、これに限るものではない。
【実施例】
【0013】
図1〜図6に実施例を示す。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明をする。図1は本発明の一実施例の横編機の概略的な正面図であり、図中の符号1は横編機を全体的に示す。
この横編機1は、ニードルベッド2を前後に備え、中間の歯口部4で対峙させている。各ニードルベッド2には複数の編針6を進退操作可能に収納する。ニードルベッド2の上面をキャリッジ8が不図示のベルト駆動手段により往復走行され、キャリッジ8に設けた編成カム10により編針6の進退操作が行われる。キャリッジ2には前後のニードルベッド2を跨いで一体的に連結するゲートアーム12を設け、ゲートアーム12にはヤーンキャリア14を連行する移動手段16が搭載されている。
【0014】
ニードルベッド2の上方には、ニードルベッド2の長手方向に沿って4本の糸道レール18が、ニードルベッド2に並設された編針6の先端部近傍を中心としてニードルベッド2前後方向に放射状となるように、編機両端に設けた不図示の支持ブラケット間に糸道レール18を配置する。糸道レール18の前後摺動面20にはヤーンキャリア14が摺動可能に支持され、それぞれのヤーンキャリア14の下端に設ける給糸部16がニードルベッド2に並設された編針6の先端部近傍に位置させる。
【0015】
図2は糸道レール18の前後摺動面20に対して注油を行う注油具22を示した図で、図2(a)は正面図、図2(b)は側面図である。図3は注油具22を糸道レール18に狭持させた状態を示した図である。注油具18の基部24には2本のレバー26が軸28により揺動可能に取り付けられる。
そして注油具22の先端側には糸道レール18に注油する際に糸道レール18の前後摺動面20を狭持するための狭持部30を形成する。注油具22の後端側には弾性部材としてスプリング32を設け、注油具後端部を外側へ押し広げるように付勢することで、注油具先端側に位置する狭持部30が糸道レール18を狭持可能としている。糸道レール18に注油具22を取り付ける際には、オペレータがスプリング32の付勢に抗する方向に握ることで注油具22の狭持部30を開くことができる。糸道レール18に取り付けると、スプリング32の付勢力で注油具22は糸道レール18を狭持する。
注油具22の狭持部30には注油材34が設けられる。この注油材34は例えば繊維質部材であるフェルトからなる。この注油材34に油36を含浸させた状態で注油具22を糸道レール18長手方向に移動させることで、糸道レール18の前後摺動面20に注油することが可能である。
なお本実施例では、注油具22の狭持部30には注油材34を取り付けているが、これは多孔部材であるスポンジなどでも構わない。
【0016】
図4は注油具22の保管台38を示した図で、図4(a)は正面図、図4(b)は側面図である。保管台38の底面には油槽部40が形成され、糸道レール18に注油するための油を溜めることできるようにしている。油槽部40の底部中央付近から上方に向けて注油具22を保持するための保持部42を形成する。注油具22は糸道レール18を狭持するのと同様に保管台38の保持部42を狭持することで、注油具22を保管台38に保持することができる。注油具22を保管台38に取り付けた際に、保管台38の保持部42と注油具22の狭持部30との接する箇所には繊維質部材であるフェルトからなる給油パッド44を設ける。この給油パッド44の下端部を油槽部40に溜める油36に浸かるようにすることで、油槽部40の油36は毛細管現象により保管台38の給油パッド44に供給される。
【0017】
したがって保管台38に保持する注油具22の注油材34にも、保管台38の保持部42を経由して油36が供給される。糸道レール18に注油する際には注油具22を保管台38から取り外すが、注油具22を使用せずに保管台38に保持しているときは、常に注油具22の注油材34に油36が供給されている状態であり、必要な時に直ぐに注油作業を行うことができる。
本発明による注油具22への油の供給は、保管台38での保管中に毛細管現象を利用して行われるため、常に適量の油36が注油具に供給され、油36の付け過ぎや不足などの不具合の発生を防ぐことができる。
【0018】
図5は注油具22の保管台38の斜視図である。そして図6は注油具22を保管台38の保持部42に保持し保管した状態を示した斜視図である。
【0019】
なお本実施例では注油具22の注油材34および保管台38の給油パッド44には繊維質部材であるフェルトを設けたが、これは多孔部材であるスポンジなどでも構わない。
なお注油具22を長期間使用せずに保管台38に保管する場合、保管台38の油槽部40に埃などが入るのを防ぎ、油36の劣化を防ぐために、注油具22を保管台38の保持部42に保持した状態で油漕部40を覆うことが可能な上蓋を設けても構わない。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】横編機の側面図である。
【図2】注油具の側面図および正面図である。
【図3】注油具により糸道レールに注油している状態を示した図である。
【図4】注油具の保管台を示した図である。
【図5】注油具の保管台の斜視図である。
【図6】注油具を保管台にセットした状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 横編機
2 ニードルベッド
4 歯口部
6 編針
8 キャリッジ
10 編成カム
12 ゲートアーム
14 ヤーンキャリア
16 移動手段
18 糸道レール
20 摺動面
22 注油具
24 基部
26 レバー
28 軸
30 狭持部
32 スプリング
34 注油材
36 油
38 保管台
40 油槽部
42 保持部
44 給油パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対のニードルベッドを先端部を突き合わした状態で配設し、該ニードルベッドの上方に糸道レールを並設し、該糸道レールにヤーンキャリアを摺動自在に支持する横編機の注油具と保管台とからなる注油セット具であって、
前記注油具は、
前記ヤーンキャリアが摺動する前記糸道レールの摺動面に対し注油を行うために糸道レールの前後の摺動面を挟み込む狭持部を設け、該狭持部の糸道レールとの接触箇所には油を含浸させるための繊維質部材あるいは多孔部材からなる注油材を設け、
前記保管台は、
底部に形成した糸道レールに注油するための油を溜める油槽部と、
油漕部から上方に延ばして形成され、注油具を狭持させて保持可能な保持部と、
保持部の注油具の狭持部に設けた給油材との接する箇所に繊維質部材あるいは多孔部材からなる給油パッドを設けたことを特徴とする横編機における注油セット具。
【請求項2】
前記注油具の狭持部は、糸道レールに注油あるいは注油具を前記保管台に保管する際、糸道レールの前後の摺動面あるいは保管台の保持部を挟み込むように弾性部材により付勢されることを特徴とする請求項1に記載の横編機における注油セット具。
【請求項3】
前記注油具の注油材および前記保管台の給油パッドはフェルトで形成されることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の横編機における注油セット具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−163530(P2008−163530A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356915(P2006−356915)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】