説明

横編機の編糸用ブレーキ

【課題】 ブレーキディスク間を通す編糸の位置を変更することができ、ブレーキディスク間の押圧も均一に行うことができる編糸用ブレーキを提供する。
【解決手段】 回動環部材12は、外周側に、編糸3の入側と出側とを案内する案内部が設けられ、回動させて、(a)とともに、(b)や(c)に示すように、編糸3がブレーキディスク4を通過する位置を調整することができる。ブレーキディスク4が回転する軸線11aに沿って押圧ばね9を設けるので、押圧も均一に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機の編糸供給経路で、揺動変位して編糸に張力を付与する棹状の張力ばねに、通過抵抗を与えながら編糸を供給する横編機の編糸用ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図5に一例として示すようなサイドテンション装置が横編機の針床の側方に設けられ、針床の編針への編糸供給経路で、編成時の編糸の張力変動を抑えるために使用されている(たとえば、特許文献1参照)。サイドテンション装置などの張力変動抑制装置には、通過する編糸に抵抗を与える編糸用ブレーキ1が使用される。特許文献1に示されるようなサイドテンション装置では、編糸用ブレーキ1から張力ばね2の揺動棹2aの先端ガイド2bに編糸3を通して折返す経路を形成して、張力変動を抑えるバッファとしている。編糸3への抵抗は、二つのブレーキディスク4,5間に挟まれる区間で発生する。ブレーキディスク4,5は、支持部材6によって、共通な軸線まわりの回転が可能な状態で支持される。このような編糸用ブレーキ1は、紙面に垂直な方向に複数個が並設され、支持枠7で全体が支持される。各編糸用ブレーキ1の支持部材6を支持枠7で支持するために、支持軸8が紙面に垂直な方向に貫通している。支持軸8の一つには、押圧ばね9も設けられ、ブレーキディスク4,5間で編糸3を挟む押圧力を発生させる。支持軸8は、ブレーキディスク4,5の外部を通る。編糸3は、ブレーキディスク4,5の回転軸線となる編糸用ブレーキ1の中心軸1a付近を含めて、ブレーキディスク4,5間のどの部分でも通ることができる。
【0003】
特許文献1には示されていないけれども、ブレーキディスク4,5間を編糸3が通る位置を規制するために、編糸用ブレーキ1の入側には二本のピン6a,6bが設けられ、出側には一本のピン6cが設けられる。たとえば、糸送りローラ10から送り込まれる編糸3は、編糸用ブレーキ1の入側に、ピン6a,6b間を通り、出側では張力ばね2の揺動変位が大きくなるとピン6cに掛かるようにしておく。張力ばね2の先端ガイド2bを通って折返される編糸3は、支持枠7に設ける出側ガイド7aを通って、針床の編針に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−144301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示すような編糸用ブレーキ1では、編糸3を案内するピン6a,6b,6cの位置が固定されているので、入側でピン6a,6b間に編糸3を通す場合、ブレーキディスク4,5間を通る位置が限られてしまう。しかしながら、編成条件や編糸3の素材の違いに応じて、ブレーキディスク4,5間を通す編糸3の位置の調整が必要となる場合がある。ピン6a,6b間ではなく、外部を編糸3が通るようにすれば、ピン6a,6b間を通す場合に比較して、ブレーキディスク4,5間を通る位置を変えることができる。ただし、編糸3を通しにくくなり、また、編糸3を通し直す場合に、以前どこに通していたのかが判らなくなってしまうおそれがある。さらに、押圧ばね9を設ける位置がブレーキディスク4,5の中心から離れるので、ブレーキディスク4,5間での編糸3に対する押圧力が偏ってしまう。
【0006】
本発明の目的は、ブレーキディスク間を通す編糸の位置を調整することができ、ブレーキディスク間の押圧も均一に行うことができる編糸用ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、横編機の編糸供給経路で、揺動変位して編糸に張力を付与する棹状の張力ばねに、通過抵抗を与えながら編糸を供給する横編機の編糸用ブレーキにおいて、
共通の軸線に沿って対向するように配置され、編糸を挟む二枚のブレーキディスクと、
各ブレーキディスクを該軸線まわりの回転が可能な状態で背面側からそれぞれ支持する支持部材と、
二枚のうちの少なくとも一方のブレーキディスクの背面側を、該軸線に沿って押圧するばねと、
環状の形状を有し、内周側が二枚のブレーキディスクの一側方で支持部材による支持を受け、ブレーキディスクに臨む側面に、編糸の入側と出側とを案内する案内部が設けられ、支持部材に対する軸線まわりの回動で、案内部による編糸の案内位置を調整可能な回動環部材と、
を含むことを特徴とする横編機の編糸用ブレーキである。
【0008】
また本発明で、前記支持部材は、前記回動環部材の内周側を支持する支持部であって、径方向の外方に突出するように付勢され、径方向の内方にも没入可能な爪を有する支持部を備え、
回動環部材の内周側には、周方向に間隔をあけて、前記案内位置に対応する複数の位置に、該爪が突出して係合する位置決め係合部が設けられる、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記一方のブレーキディスクを支持する支持部材は、該ブレーキディスクを支持する方向と逆方向の側面でも、該ブレーキディスクを含む二枚のブレーキディスクとは異なるブレーキディスクを、背面側から回転可能に支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、編糸の入側と出側とを案内する案内部が設けられる回動環部材を回動させて、ブレーキディスク間を通す編糸を案内する案内部の位置を調整することができる。ブレーキディスクが回転する軸線に沿って背面側を押圧するばねを設けるので、ブレーキディスク間の押圧も均一に行うことができる。
【0011】
また本発明によれば、支持部材に設ける爪が回動環部材に設ける複数のうちのいずれかの位置決め係合部に係合するようにして、ブレーキディスクに通す編糸の位置を、容易に位置決めすることができる。
【0012】
また本発明によれば、隣接する支持部材間で二枚のブレーキディスクを対向させて個別の編糸用ブレーキを形成しながら、隣接する個別の編糸用ブレーキ間で支持部材を、両側面でそれぞれブレーキディスクの背面側を回転可能に支持するように共用し、連続して複数の編糸用ブレーキを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施例としての編糸用ブレーキ11の構成を示す右側面図である。
【図2】図2は、図1の編糸用ブレーキ11の正面図および右側面図である。
【図3】図3は、図1の編糸用ブレーキ11を構成部品に分解した状態について、一部を断面で示す平面図、および正面図である。
【図4】図4は、図1の編糸用ブレーキ11を構成する主要な部品の右側面図である。
【図5】図5は、従来からの編糸用ブレーキ1の一例を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図4で、本発明の一実施例としての編糸用ブレーキ11について説明する。ただし、本実施例について、図5に示す編糸用ブレーキ1に関して説明している部分と対応する部分には、同一の参照符を付して、重複する説明を省略する場合がある。また各図の説明では、先に説明している部分について、当該図には示されていない参照符号を記載して言及する場合がある。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての編糸用ブレーキ11の構成を示す。編糸用ブレーキ11も、横編機の編糸供給経路で、揺動変位して編糸3に張力を付与する棹状の張力ばね2を含むサイドテンション装置の糸送りローラ10と張力ばね2との間に設けられる。編糸用ブレーキ11は、通過抵抗を与えながら編糸3を供給するため、図5と同様に、共通の軸線に沿って対向するように配置されて編糸3を挟む二枚のブレーキディスク4,5を含む。ただし本図では、後述する図3(b)に示す方向について図示するので、ブレーキディスク4のみを示す。
【0016】
編糸用ブレーキ11は、押圧ばね9、回動環部材12および支持部材16をさらに含む。支持部材16は、各ブレーキディスク4,5を軸線11aまわりの回転が可能な状態で支持する。押圧ばね9は、この軸線11aに沿って、少なくとも一方、たとえば左のブレーキディスク4とその背面側の支持部材16との間に挿入され、ブレーキディスク4を対向するブレーキディスク5に押圧する。回動環部材12は、環状で、内周側の内面を、ブレーキディスク4を支持する支持部材16によって軸線11aまわりの回動で位置調整が可能な状態で支持され、外周側に、編糸3の入側と出側とを案内する案内部が設けられる。編糸用ブレーキ11では、回動環部材12を回動させて、図1(a)とともに、図1(b)や図1(c)に示すように、編糸3がブレーキディスク4を通過する位置を調整することができる。
【0017】
回動環部材12の案内部としては、図5と同様に、編糸3の入側で、側面に間隔をあけて二本のピン12a,12bが立設され、編糸3の出側で、ピン12cが立設される。支持部材16は、支持枠17に取付けられる。支持枠17には、編糸3を針床側に供給する出口となる出側ガイド17aや、張力ばね2の先端が当たる際の緩衝材となるゴムクッション17bも取付けられる。図1や図5に示す張力ばね2は、上方に揺動支点が設けられるけれども、揺動支点は、下方や側方に設けることもできる。
【0018】
図2は、図1の編糸用ブレーキ11を六個並設する状態を、(a)で正面から、(b)で右側面からそれぞれ示す。ブレーキディスク4,5は、同一部品を面対称に対向させて使用し、隣接する支持部材16間で支持する。支持部材16は、両側でブレーキディスク4,5をそれぞれ支持し、右側では回動環部材12も支持する。すなわち、支持部材16は、両側面でそれぞれブレーキディスク4,5の背面側を回転可能に支持するように、隣接する編糸用ブレーキ11間で共用しながら、連続して複数の編糸用ブレーキ11を形成することができる。全体の右端には、左側でブレーキディスク5を支持し、右側ではブレーキディスク4を支持しない片側用の支持部材15が使用される。右端でも、両側でブレーキディスク4,5を支持可能な支持部材16を使用し、右側は使用しないようにしてもよい。また、支持部材16の両側面でブレーキディスクを支持する構成を、二つの支持部材に分け、個別の編糸用ブレーキが二つの支持部材を有するようにしてもよい。
【0019】
図3は、図1の編糸用ブレーキ11を構成部品に分解した状態を、(a)で一部を断面として平面から、(b)で正面から、それぞれ示す。また、図3(b)に示す面視線I−Iは、図1を右側面図として見る位置および方向を示す。
【0020】
支持部材16は、ブレーキディスク4,5毎に、対向する背面側に設けられ、ブレーキディスク4,5を軸線11aまわりに回転可能に支持すディスク支持部16a,16bをそれぞれ有する。ディスク支持部16aの径方向の外方には、回動環支持部16cが設けられ、回動環部材12の内周側に挿入される状態で支持する。ディスク支持部16aに対する軸線11a方向の左側には、コイル状の押圧ばね9の内部に挿入されるボス16dが設けられている。押圧ばね9の右端部は、ブレーキディスク4を、他方側のブレーキディスク5に対して押圧する。ブレーキディスク4が回転する軸線11aに沿って押圧ばね9を設けるので、ブレーキディスク4,5間の押圧も均一に行うことができる。回転環部材12の内周側に挿入する回動環支持部16cには、先端に突起16e、外周面に爪16fが設けられる。支持部材16のディスク支持部16b側の側面には、連結部16gが設けられる。隣接する支持部材16同士は、連結部16gを介して、一定の間隔を保つように連結される。
【0021】
図4は、図1の編糸用ブレーキ11を構成する主要な部品となる支持部材16、回動環部材12およびブレーキディスク4を右側面から示す。支持部材16の回転環支持部16cに設ける爪16fは、外周部分の一部が片状に分離して形成され、突端が径方向の外方に突出しているけれども、片状部分の弾性変形で、突端は径方向の内方に没入することもできる。回動環部材12は、内面12dが支持部材16の回動環支持部16cの外周面に装着される状態で支持される。内面12dには、支持部材16の突起16eが通過可能な凹部12e、爪16fが係合可能な位置決め係合部12f,12g,12hがそれぞれ設けられる。回動環部材12に設ける三つの凹部12eの位置を支持部材16の三つの突起16eの位置に同時に合わせれば、回動環部材12を支持部材16に対して軸線11a方向に着脱することができる。回動環部材12を支持部材16に装着して、軸線11aまわりに回動させれば、爪16fの突端が位置決め係合部12f.12g,12hのいずれかと係合する位置で、停止する。爪16fの突端が位置決め係合部12f,12g,12hに係合する位置は、図1の(a),(b),(c)にそれぞれ対応している。これらの停止位置間で回動環部材12を回動させる際には、爪16fの弾性変形で突端が径方向の内方に引込む状態となる。回動環部材12の外周側には、手で回動する際に指を掛けることができる凸部12iも設けられている。
【0022】
なお、軸線11aに沿う方向に関しては、左右を逆にしてもよいことはもちろんである。また、ブレーキディスク4,5間に通す編糸3の調整位置は、三つに限らず、位置決め係合部12f,12g,12hの数に応じて変えることができる。押圧ばね9は、ブレーキディスク5側に設けることもできるけれども、回動環部材12の内側となるブレーキディスク4側の方がコンパクトに収容することができる。回動環部材12に設ける案内部として、ピン12a,12b,12cを用いているけれども、スリットやローラなどを用いることもできる。
【符号の説明】
【0023】
2 張力ばね
3 編糸
4,5 ブレーキディスク
9 押圧ばね
11 編糸用ブレーキ
11a 軸線
12 回動環部材
12a,12b,12c ピン
12f,12g,12h 位置決め係合部
15,16 支持部材
16a,16b ディスク支持部
16c 回動環支持部
16f 爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の編糸供給経路で、揺動変位して編糸に張力を付与する棹状の張力ばねに、通過抵抗を与えながら編糸を供給する横編機の編糸用ブレーキにおいて、
共通の軸線に沿って対向するように配置され、編糸を挟む二枚のブレーキディスクと、
各ブレーキディスクを該軸線まわりの回転が可能な状態で背面側からそれぞれ支持する支持部材と、
二枚のうちの少なくとも一方のブレーキディスクの背面側を、該軸線に沿って押圧するばねと、
環状の形状を有し、内周側が二枚のブレーキディスクの一側方で支持部材による支持を受け、ブレーキディスクに臨む側面に、編糸の入側と出側とを案内する案内部が設けられ、支持部材に対する軸線まわりの回動で、案内部による編糸の案内位置を調整可能な回動環部材と、
を含むことを特徴とする横編機の編糸用ブレーキ。
【請求項2】
前記支持部材は、前記回動環部材の内周側を支持する支持部であって、径方向の外方に突出するように付勢され、径方向の内方にも没入可能な爪を有する支持部を備え、
回動環部材の内周側には、周方向に間隔をあけて、前記案内位置に対応する複数の位置に、該爪が突出して係合する位置決め係合部が設けられる、
ことを特徴とする請求項1記載の横編機の編糸用ブレーキ。
【請求項3】
前記一方のブレーキディスクを支持する支持部材は、該ブレーキディスクを支持する方向と逆方向の側面でも、該ブレーキディスクを含む二枚のブレーキディスクとは異なるブレーキディスクを、背面側から回転可能に支持することを特徴とする請求項1または2記載の横編機の編糸用ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117176(P2012−117176A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269165(P2010−269165)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】