説明

横置き型撹拌システム用撹拌軸

【課題】横置き型撹拌システムにより撹拌される基質の比重に関係なく、水平設置を可能とし、運転時の回転撓みが防止される撹拌軸を提供すること。
【解決手段】本発明の横置き型撹拌システム用撹拌軸は、中空筒体でなる撹拌軸部材;該撹拌軸部材の外周面に設けられた少なくとも1つの撹拌部材;および該撹拌軸部材の外周面および端面の少なくとも一方に設けられ、該撹拌軸部材の内部への液状物の導入および該撹拌軸部材の内部からの液状物の排出を可能とする少なくとも2つの管台を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横置き型撹拌システム用撹拌軸に関する。さらに詳しくは、横置き型撹拌システムに水平に設置し得、回転時の撓みが防止される撹拌軸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、横置き型メタン発酵システムなどのような横置き型撹拌システムは、撹拌軸の質量を軽くするため、中空構造の撹拌軸が用いられている。例えば、図1に示す従来の横置き型メタン発酵システムは、発酵槽10および撹拌軸11を備え、撹拌軸11が軸シール14を介して発酵槽10に設置されている。発酵槽10内に投入される基質の種類が一定の場合、基質と撹拌軸11との比重差の特定が可能である。したがって、必要な回転トルクに合わせた撹拌軸11の径および厚みで撹拌軸11の自重16が特定できるので、浮力17を考慮して、撹拌軸11の径および厚みの調整が可能である。
【0003】
しかし、基質が一定ではない場合、例えば繊維、プラスチック、ゴム、皮革、ガラス、ビニール、ごみ袋、石、陶磁器、金属などが発酵槽10内に含まれていると、基質と撹拌軸11との比重差の特定が困難になる。
【0004】
このように、基質と撹拌軸11との比重差が設計時と大きく異なると、浮力17と撹拌軸11の自重16とのバランスが崩れて撹拌軸の回転撓みが大きくなる。その結果、軸シール14の損耗、駆動機13への過負荷などによって、運転に支障を来すことになる。
【0005】
このような、回転撓みを防止した撹拌軸(シャフト)を備える発酵槽が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されているシャフトは、中空部に充填されたガスまたは空気による浮揚力で、回転撓みを防止している。
【0006】
しかし、中空シャフト中のガスまたは空気は、シャフトに浮力を与え、またシャフトの損傷の発見・防止に利用されているが、これらの気体と水分とが共存すれば、シャフトに腐食損傷を与えるおそれがある。
【0007】
特許文献2には、回転軸を備える長尺型(横置き型)製氷機が記載されている。この装置では、氷掻き取り部材を取り付ける回転軸の撓みを防止するため、回転軸が自重に相当する浮力を被冷却液から受けるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−528260号公報
【特許文献2】特開平9−296973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、横置き型撹拌システムにより撹拌される基質の比重に関係なく、水平設置を可能とし、運転時の回転撓みが防止される撹拌軸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、横置き型撹拌システム用撹拌軸を提供し、該撹拌軸は、中空筒体でなる撹拌軸部材;該撹拌軸部材の外周面に設けられた少なくとも1つの撹拌部材;および該撹拌軸部材の外周面および端面の少なくとも一方に設けられ、該撹拌軸部材の内部への液状物の導入および該撹拌軸部材の内部からの液状物の排出を可能とする少なくとも2つの管台を備える。
【0011】
1つの実施態様では、さらに、上記撹拌軸部材の外周面および端面の少なくとも一方に、該撹拌軸部材の内部への不活性ガスの導入および該撹拌軸部材の内部からの不活性ガスの排出を可能とする、少なくとも2つの管台が設けられる。
【0012】
1つの実施態様では、上記不活性ガスは窒素である。
【0013】
ある実施態様では、上記液状物は水である。
【0014】
また、本発明は、上記横置き型撹拌システム用撹拌軸および撹拌槽を備える、横置き型撹拌システムを提供する。
【0015】
1つの実施態様では、上記横置き型撹拌システムはメタン発酵システムである。
【0016】
さらに、本発明は、横置き型撹拌システム用撹拌軸の撓み防止方法を提供し、該方法は、該撹拌軸を構成する撹拌軸部材の内部に液状物を導入し、あるいは該撹拌軸部材の内部から液状物を排出して、該撹拌軸の自重を調整する工程を包含する。
【0017】
1つの実施態様では、上記撹拌軸の自重を調整する工程において、さらに、不活性ガスを前記撹拌軸部材の内部に導入し、あるいは該撹拌軸部材の内部から排出する。
【0018】
1つの実施態様では、上記不活性ガスは窒素である。
【0019】
ある実施態様では、上記液状物が水である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、横置き型撹拌システムにより撹拌される基質の比重に関係なく、水平設置を可能とし、運転時の回転撓みが防止される撹拌軸を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】メタン発酵システムの撹拌軸として、従来の撹拌軸を用いた実施態様を示す図である。
【図2】メタン発酵システムの撹拌軸として、本発明の撹拌軸を用いた一実施態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(A)横置き型撹拌システム用撹拌軸
図2に、本発明の撹拌軸の一実施態様であるメタン発酵システムの撹拌軸を示す。本発明の撹拌軸21は、撹拌軸部材22、撹拌部材(図示せず)、および管台281で構成される。
【0023】
撹拌軸部材22は、本発明の撹拌軸21の根幹をなす部材であり、中空筒体でなる。撹拌軸部材22の材質は特に限定されないが、強度の観点から金属製が好ましい。また、撹拌軸部材22は、回転運動を行うため、円筒形状であることが好ましい。
【0024】
撹拌軸部材22の長さは、設置する撹拌槽の大きさによって適宜設定され得る。好ましくは10m以上であり得る。また、撹拌軸部材22の太さ(外径)も、設置する撹拌槽の大きさによって適宜設定され得る。好ましくは50cm〜150cmであり得る。
【0025】
撹拌軸部材22の外周面には、少なくとも1つの撹拌部材が設けられる。撹拌部材は、一般的には撹拌羽根であり、撹拌される基質の種類、撹拌槽の大きさなどによって、撹拌羽根の大きさ、個数、形状などは、適宜設定され得る。
【0026】
撹拌軸部材22の両端面のうち一方の端面は、本発明の撹拌軸21に回転力を伝える駆動機23に接続し得るように構成されている。
【0027】
撹拌軸部材22の外周面および他の端面の少なくとも一方に、管台が設けられる。図2は、撹拌軸部材22の外周面および端面の両方に管台が設けられた実施態様である。管台281Aおよび282Aは、撹拌軸部材22の外周面に設けられ、管台281Bおよび282Bは、撹拌軸部材22の端面に設けられている。管台は少なくとも2つ、すなわち液状物211を導入および排出する管台281Aおよび281Bのみを設ければよいが、さらに、不活性ガス212を導入および排出する管台282Aおよび282Bを設けることが好ましい。
【0028】
管台281Aおよび281Bは、液状物211を撹拌軸部材22の内部(中空部)へ導入し、撹拌軸部材22の内部から液状物211を排出し得るように設けられる。
【0029】
液状物211は、液状であれば特に限定されず、例えば、水、油類、アルコール類などが挙げられる。液状物211は、安価で入手しやすく、取り扱いが容易な点で、水が好ましい。
【0030】
管台282Aおよび282Bは、不活性ガスの導入および排出のために設けられている。不活性ガス212は、撹拌軸部材22の内部に存在する酸素および液状物211に溶存する酸素によって、撹拌軸部材22の内部が腐食するのを防止するために用いられる。
【0031】
不活性ガス212としては、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素などが挙げられる。不活性ガス212は、入手しやすく、環境への配慮の点で、窒素が好ましい。
【0032】
(B)横置き型撹拌システム
本発明の横置き型撹拌システムは、本発明の撹拌軸および撹拌槽を備える。撹拌槽の容量、長さ、深さなどは、本発明の撹拌軸の長さを考慮して適宜設定され得る。本発明の撹拌システムは、メタン発酵システムとして用いることが好ましい。
【0033】
図2は、上記のように、本発明の撹拌システムをメタン発酵システムとして用いた一実施態様である。このメタン発酵システムは、発酵槽20および本発明の撹拌軸21を備える。
【0034】
撹拌軸21は、撹拌軸21に取り付けられた撹拌部材(図示せず)が発酵槽20の内壁面に接触しないように、発酵槽20の深さ方向のほぼ中央部を、発酵槽20の長手方向に、発酵槽20内を貫通するように設置される。
【0035】
撹拌軸21は、一般的に軸シール24を介して発酵槽20に設置される。発酵槽20の壁面と撹拌軸21とが直接接触することによる損耗の防止、発酵槽20の内容物の漏れの防止などのため、軸シール24が用いられる。
【0036】
撹拌軸21は、駆動機23に接続されて回転運動を生じる。
【0037】
(C)横置き型撹拌システム用撹拌軸の撓み防止方法
本発明の横置き型撹拌システム用撹拌軸の撓み防止方法は、撹拌軸を構成する撹拌軸部材の内部に液状物を導入し、あるいは撹拌軸部材の内部から液状物を排出して、撹拌軸の自重を調整する工程を包含する。以下、図2を参照して説明する。
【0038】
まず、運転前(立上時)に、発酵槽20内に水を加えていき、撹拌軸21が浮力27により浮き上がり始めたとき、管台281Aから撹拌軸21(撹拌軸部材22)内部に液状物211(例えば水など)の導入を開始する。発酵槽20内の水位が撹拌軸21の上面に達するまで発酵槽20に水を供給し、そして撹拌軸21が水平になるまで撹拌軸21内部に液状物211を導入する。
【0039】
次いで、発酵槽20内に基質を加え、運転を始める。基質が導入されると、発酵槽20内の比重が変化するので、撹拌軸21の水平度を定期的に測定し、管台281Bへ液状物211を導入あるいは管台281Bから液状物211を排出して、撹拌軸21の自重を調節して水平状態を維持する。
【0040】
発酵終了後、あるいは発酵槽20の保守点検の際は、発酵槽20内の基質を排出すると同時に、撹拌軸21内部の液状物211も管台281Bから排出すればよい。
【0041】
一方、撹拌軸21内に水などの液状物211を導入するので、撹拌軸21(撹拌軸部材22)内部の腐食防止(例えば酸化防止)のため、不活性ガス212(例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素など)を、撹拌軸21内に導入することが好ましい。
【0042】
例えば、立上時あるいは運転時に管台282Aから、窒素などの不活性ガス212を導入し、不活性ガス212を管台282Bから導入または排出すればよい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に制限されない。
【0044】
(実施例1)
図2に示すメタン発酵システムを用いて、運転時の撹拌軸中央部の撓みを検証した。
【0045】
発酵槽20(全長40m、直径7m)に、本発明の撹拌軸21を、軸シール24を介して設置した。発酵槽20に水を加えていき、撹拌軸21が浮き上がり始めたときから、管台281Aから撹拌軸21内部に水(液状物211)を導入した。発酵槽20内の水位が撹拌軸21の上面に達するまで水を入れ、その水位で撹拌軸21が水平になるまで撹拌軸21内部に水を導入し、合わせて管台282Aから窒素(不活性ガス212)を導入した。
【0046】
次いで、発酵槽20にメタン発酵用の基質を加え、メタン発酵システムの運転を開始した。運転中は定期的に撹拌軸21の水平度を測定し、水平度を維持するために、管台281Bから水を導入または排出、および管台282Bから窒素を導入または排出した。
【0047】
年間8000時間を超え、6年間運転を行ったが、撹拌軸21は、ほとんど撓むことがなかった。
【0048】
(比較例1)
従来の撹拌軸を備えるメタン発酵システム(図1)を用いて、運転時の撹拌軸中央部の撓みを検証した。
【0049】
発酵槽10(全長40m、直径7m)に、従来の撹拌軸11を、軸シール14を介して設置した。発酵槽10に水およびメタン発酵用の基質を加え、メタン発酵システムを運転させた。
【0050】
撹拌軸の上面まで基質の水位が上がった時点で、撹拌軸11の中央部は、最大で約90mmの撓みを生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、横置き型撹拌システムにより撹拌される基質の比重に関係なく、水平設置を可能とし、運転時の回転撓みが防止される撹拌軸を提供し得る。したがって、本発明は、メタン発酵システムなど撹拌が必要なシステムにおいて有用である。
【符号の説明】
【0052】
10、20 発酵槽
11、21 撹拌軸
12、22 撹拌軸部材
13、23 駆動機
14、24 軸シール
15、25 基質
16、26 自重
17、27 浮力
211 液状物
212 不活性ガス
281A、281B、282A、282B 管台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横置き型撹拌システム用撹拌軸であって、
中空筒体でなる撹拌軸部材;
該撹拌軸部材の外周面に設けられた少なくとも1つの撹拌部材;および
該撹拌軸部材の外周面および端面の少なくとも一方に設けられ、該撹拌軸部材の内部への液状物の導入および該撹拌軸部材の内部からの液状物の排出を可能とする少なくとも2つの管台;
を備える、撹拌軸。
【請求項2】
さらに、前記撹拌軸部材の外周面および端面の少なくとも一方に、該撹拌軸部材の内部への不活性ガスの導入および該撹拌軸部材の内部からの不活性ガスの排出を可能とする、少なくとも2つの管台が設けられる、請求項1に記載の撹拌軸。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素である、請求項2に記載の撹拌軸。
【請求項4】
前記液状物が水である、請求項1から3のいずれかの項に記載の撹拌軸。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の横置き型撹拌システム用撹拌軸および撹拌槽を備える、横置き型撹拌システム。
【請求項6】
メタン発酵システムである、請求項5に記載の横置き型撹拌システム。
【請求項7】
横置き型撹拌システム用撹拌軸の撓み防止方法であって、
該撹拌軸を構成する撹拌軸部材の内部に液状物を導入し、あるいは該撹拌軸部材の内部から液状物を排出して、該撹拌軸の自重を調整する工程、
を包含する、方法。
【請求項8】
前記撹拌軸の自重を調整する工程において、さらに、不活性ガスを前記撹拌軸部材の内部に導入し、あるいは該撹拌軸部材の内部から排出する、請求項7に記載の撓み防止方法。
【請求項9】
前記不活性ガスが窒素である、請求項8に記載の撓み防止方法。
【請求項10】
前記液状物が水である、請求項7から9のいずれかの項に記載の撓み防止方法。

【図1】
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【図2】
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