説明

樹枝状高分子およびこれを用いた磁気共鳴イメージング造影剤

【課題】樹枝状高分子およびこれを用いた磁気共鳴イメージング造影剤を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気共鳴イメージング造影剤は、


または


で示される構造を有する樹枝状高分子を含む。上記式中、Sはj個のケイ素−酸素残基を有するシクロシラン部分であり、jは2以上の整数である。Pは


であり、lは1以上の整数である。Dはn個の酸素残基を有する炭素数3〜30の樹枝状部分であり、nは3以上の整数である。Xは二官能性を有する炭素数3〜30の部分である。Zは複数の官能基を有する炭素数3〜20の部分である。Lは金属カチオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹枝状高分子およびこれを用いた磁気共鳴イメージング造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用画像撮影は、様々な撮像装置から発せられる磁気、光(例えば、蛍光、近赤外光、X線)および放射線の物理的な信号により、機能的および解剖的な画像を作成することができる。撮像装置としては、例えば、平面X線撮像システム、X線コンピュータ断層撮像(CT)システムおよび磁気共鳴イメージング(MRI)システムなどが挙げられる。これらの撮像装置は、中枢神経系、骨格神経系、腹腔および胸腔の診断、血液造影診断、胆道撮影診断、ならびに、腫瘍組織の転移の診断に利用されている。解剖組織の外観に変化がなくても、診断部位の血流、細胞活性および代謝に変化が生じていることは、臨床上多くの症状において見られる。それゆえ、高感度の核画像システムを用いれば、早期に病巣を検出することができる。
【0003】
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)リガンドは、磁気共鳴イメージングにおける有用なキレート剤として、基礎研究に広く用いられている。その錯体は、水分子のプロトンの縦および横緩和時間(それぞれTおよびT)を減少させるので、磁気共鳴画像のコントラストを大幅に増強することができる。
【0004】
しかし、臨床上使用される造影剤、例えば、マグネビスト(Magnevist(登録商標);DTPAのガドリニウム塩)には、欠点がある。マグネビストは、低分子量の化合物であるので、静脈内に投与した直後に、腎臓糸球体を経由して体外に急速に排泄され、また、血管から漏出してしまう。さらに、排泄速度が速いことから、時間依存的な画像解析を行ったり、患者の高解像度の画像を得たりするには、医師の時間および能力が制限されてしまう。一方、低濃度の小分子造影剤は、磁気共鳴イメージング(MRI)を使用する場合に数センチ未満の異常を検出することができない。このため、造影剤の濃度を高めることが求められる。
【0005】
ところが、濃度を高くして使用すると、高濃度の重金属による毒性の危険が生じるのみならず、多量の分子造影剤が同じ部位に蓄積してしまう。かくして、臨床上の応用は制約を受けている。
【0006】
したがって、磁気共鳴イメージング技術において、より低い投与量で疾患部位に効率よく到達できる所望の磁気共鳴イメージング造影剤を開発することが重要な研究テーマとなっている。
【0007】
かくして、造影剤の体外への排泄速度が速いなどといった欠点を克服し、小分子造影剤の局所的な濃度を高めるという要求を達成するために、多くのキレートを有する高分子量の磁気共鳴イメージング造影剤が開発されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、樹枝状高分子およびこの樹枝状高分子を用いた、人体の疾患部位を高感度に認識することができる磁気共鳴イメージング造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一つの実施態様として、下記の一般式(I)または一般式(II)で示される構造を有する樹枝状高分子を提供する。
【0010】
【化1】


一般式(I)
【0011】
【化2】


一般式(II)
【0012】
上記式中、Sはj個のケイ素−酸素残基を有するシクロシラン部分であり、jは2以上の整数である。例えば、Sは2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサンなどの生分解性のシクロシラン部分とすることができる。
Pは
【0013】
【化3】


であり、lは1以上の整数である。Pはケイ素−酸素残基によりそれぞれSと結合する。
【0014】
Dは、それぞれ独立して、n個の酸素残基を有する炭素数3〜30の樹枝状部分を含み、nは3以上の整数である。Dは酸素残基によりそれぞれPおよびZと結合する。
Xは二官能性を有する炭素数3〜30の部分であり、例えば、
【0015】
【化4】


である。
【0016】
Zは、それぞれ独立して、複数の官能基を有する炭素数3〜20の部分を含む。該官能基は、カルボニル基、カルボキシ基、アミン基、エステル基、アミド基またはキレート基よりなる群から選択される基である。Zは個別の官能基によりDおよびLとそれぞれ結合する。例えば、Zは
【0017】
【化5】


である。上記式中、R
【0018】
【化6】

【0019】
【化7】


または
【0020】
【化8】


であり、Rは水素、メチル基、エチル基またはプロピル基である。
【0021】
Lは金属カチオンまたは被分析物に特異な部分である。iは1以上の整数であり、n−1に等しいか、あるいは、n−1よりも小さい。
【0022】
上記実施態様の磁気共鳴イメージング造影剤に含まれる高分子において、Pはエチレングリコールおよびその誘導体の従来公知の結合セグメントとすることができ、好ましくはポリエチレングリコールの高分子セグメントである。ある実施態様では、DはPおよび複数のZと結合可能なn個の酸素残基を有する炭素数3〜30の樹枝状部分である。好ましくは、Dは2,2−ジヒドロキシメチルプロパン酸またはその誘導体の残基、例えば、
【0023】
【化9】

【0024】
である。さらに、Dは層を有するデンドリマー部分とすることができ、その層数は特に限定されるものではないが、好ましくは2〜3層である。Dは、例えば、
【0025】
【化10】


または
【0026】
【化11】


である。
【0027】
ある実施態様では、金属カチオンは、高感度および高精度な磁気共鳴イメージング造影剤として、生理的な代謝に参加することができ、例えば、Gd3+などである。ある実施態様によれば、被分析物に特異な部分は、特定の標的と特異的に反応する分子部分、例えば、葉酸基、グルコース基またはアミノ酸基である。ある実施態様では、Zは、例えば、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)の残基またはエチレンジイミノジブタン酸(EDBA)の残基などのキレート剤とすることができる。さらに、Zは
【0028】
【化12】

【0029】
とすることができる。ここで、Zは1つの酸素原子によりDと結合すると共に、残りの酸素原子によりLと結合する。
【0030】
また、本発明の磁気共鳴イメージング造影剤は、水溶性の星形樹枝状高分子を含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、複数の常磁性金属カチオンを担持可能な担体の設計に樹枝状高分子の概念を導入することにより、1分子あたりの造影剤の信号強度および特異的ターゲッティング能を高めることができた。さらに、本発明の実施態様による樹枝状高分子は、血管内皮細胞を容易に透過することや人体に代謝されやすいという小分子造影剤の欠点を回避することができ、それによって血液循環中の滞留時間が延長される。
【0032】
また、5本の結合手を有するシクロシロキサン系の樹枝状高分子を含む本発明の磁気共鳴イメージング(MRI)造影剤は、環状の樹枝状構造の周辺部に結合するDTPA(ベンジル−DTPA)分子にキレートした常磁性のガドリニウムイオンから構成されている。これらの樹枝状キレート剤は、MRI治療において「拡大鏡」の役割を果たすことができる。
【0033】
さらに、本発明の別の技術的特徴は、複数の放射性同位元素および被分析物に特異な部分を担持する多重樹枝状高分子担体である。大分子担体を有する従来の造影剤、例えば、血清タンパクやポリリン酸などに比べて、本発明の樹枝状高分子は、等比級数的に拡大するユニークな能力を有するので、1単位あたりの分子造影剤の信号強度が大幅に高くなる。また、シクロシロキサンデンドリマーは、多数の金属カチオンを有することから、緩和能の数値がより高くなることもわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下の記載は、本発明を実施するための最良の形態である。この記載は本発明の主要な原理を説明することを目的としたものであり、限定の意味で解釈されるべきではない。
【0035】
本発明は、樹枝状高分子およびこれを用いた磁気共鳴イメージング造影剤を提供する。本発明の磁気共鳴イメージング造影剤を用いれば、人体の疾患部位を高感度に認識することができる。以下では、本発明を特定の実施例により説明するが、本明細書に添付された特許請求の範囲により定義される本発明の原理は、当然のことながら、本明細書で説明される本発明の特定の実施例以外にも適用することができる。さらに、本発明を説明するにあたって、本発明の発明的要素が不明瞭なものとならないように、ある種の詳細は省略している。省略した詳細は、当業者の知識の範囲内である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
≪実施例1≫
金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(A)の製造
【0038】
【化13】


S:
【0039】
【化14】

【0040】
P:ポリエチレングリコールセグメント(分子量:約2,000)

【0041】
【化15】


Z:
【0042】
【化16】

(DTPA)
【0043】
上記式中、Dは酸素残基によりDTPAのカルボニル基(CO)と結合し、エステル基(COO)を形成する。
高分子(A)の製造法は、以下に示すとおりである。
【0044】
【化17】

【0045】
【化18】

【0046】
【化19】

【0047】
【化20】

【0048】
【化21】

【0049】
【化22】

【0050】
【化23】

【0051】
mPEG(16.63g、8.32mmol)を90℃で1時間脱気し、トルエン(10mL)を加えてから、Pd(OAc)(mPEGに対して0.056g、3mol%)、次いで2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン(0.5g、1.66mmol)を加えた。次いで、その反応混合物を90℃で48時間攪拌し、ジクロロメタン(500mL)で希釈してから、セライト545で濾過した。その濾液を濃縮し、乾燥させて、化合物(1)(2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン−ペンタメトキシポリエチレングリコール(D−Me−(PEG−OMe))を得た。化合物(1)の測定した物性値を以下に示す。
【0052】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.13(s,15H,−Si−CH),3.36(s,15H,−OCH),3.63(bs)。
【0053】
二口の丸底フラスコに、化合物(1)(D−Me−(PEG−OMe))(8.0g、0.78mmol)を入れ、一方の口に窒素を吹き込んでパージした還流冷却器を取り付け、他方の口をゴム隔膜で密封し、クロロホルム(10mL)、ピリジン(0.12g、1.52mmol)およびヨードトリメチルシラン(1.67g、5.83mmol)を注入した。ヨードトリメチルシランを加えると、反応混合物が黄色になった。次いで、その反応混合物を攪拌せずに50℃で24時間加熱した。24時間後、無水メタノールを加えて反応を停止させ、その反応混合物をさらに30分間攪拌した。次いで、フラスコの中身を、過剰量のジエチルエーテルが入ったビーカー中に注ぎ込み、エーテル層を分離し、濃縮して、化合物(2)(2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン−ペンタヒドロキシ(末端)ポリエチレングリコール(D−Me−(PEG−OH)))を粘稠な液体として得た。化合物(2)の測定した物性値を以下に示す。
【0054】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.08(s,15H,−Si−CH),3.64(bs)。
【0055】
ジクロロメタン(200mL)中における化合物(2)(D−Me−(PEG−OH))(5.0g、0.49mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.12g、0.98mmol)およびベンジリデン−2,2’−ビス(オキシ)メチルプロピオン酸無水物(BOP無水物)(3.12g、7.32mmol)の混合物を室温で36時間攪拌した。過剰量のBOP無水物を失活させるためにメタノールを加え、さらに12時間攪拌を続けた。次いで、溶剤を完全に除去し、残渣をジエチルエーテル(1L)に加え、粘性物質を分離し、乾燥させて、化合物(3)(D−Me−PEG−(OBn))を得た。化合物(3)の測定した物性値を以下に示す。
【0056】
H−NMR(CDCl、400MHz):δ0.12(s,15H,−Si−CH),1.13(s,15H,−CH),3.59−3.80(m),4.66(m),5.48(s,5H,ベンジリデンCH),7.34(m,15H,Ar−H),7.46(m,10H,Ar−H)。
【0057】
メタノール(150mL)中における化合物(3)(D−Me−PEG−(OBn))(3.0g、0.27mmol)およびPd/C(10%)(0.2g)の混合物を攪拌しながら、Hガスを32時間流した。次いで、触媒をセライトで濾過し、濾液を濃縮した。その混合物にクロロホルム(50mL)を加え、分離した固形物を濾去し、乾燥させて、化合物(4)(D−Me−PEG−G−(OH)10)を得た。ここで、「G」とは、第1世代を意味する単なる命名規則としての記号である。化合物(4)の測定した物性値を以下に示す。
【0058】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.10(s,15H,−Si−CH),1.02(s,15H,−CH),3.21−3.88(bm),12.06(bs,−OH)。
【0059】
化合物(4)(D−Me−PEG−G−(OH)10)(2.0g、0.19mmol)をDMSO(10mL)に溶解した溶液に、トリエチルアミン(0.37g、3.70mmol)を加えてから、その反応混合物を10分間攪拌した。次いで、DTPA一無水物(1.39g、3.70mmol)をDMSO(100mL)に溶解した溶液を滴下して加え、その反応混合物を室温で48時間攪拌した。溶剤を一部除去し、脱イオン水に対して透析し、凍結乾燥させて、化合物(5)(D−Me−PEG−G−(ODTPA)10)を得た。化合物(5)の測定した物性値を以下に示す。
【0060】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.07(s,15H,−Si−CH),1.12(s,15H,−CH),2.98−3.94(bm),4.26(m)。
【0061】
最後に、化合物(5)(0.517g、0.04mmol)およびGd(0.0644g、0.18mmol)の混合物を脱イオン水に溶解し、その反応混合物を60℃で20時間加熱した。次いで、室温まで冷却し、0.2μmの濾紙で濾過してから、凍結乾燥させて、金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(A)を黄色の固形物として得た。
【0062】
【化24】

【0063】
≪実施例2≫
金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(B)の製造
【0064】
【化25】


S:
【0065】
【化26】

【0066】
P:ポリエチレングリコールセグメント(分子量:約2,000)

【0067】
【化27】


Z:
【0068】
【化28】

(DTPA)
【0069】
上記式中、Dは酸素残基によりDTPAのカルボニル基(CO)と結合し、エステル基(COO)を形成する。
高分子(B)の製造法は、以下に示すとおりである。
【0070】
【化29】

【0071】
【化30】

【0072】
【化31】

【0073】
【化32】

【0074】
【化33】

【0075】
【化34】

【0076】
ベンジリデン−2,2’−ビス(オキシ)メチルプロピオン酸無水物(3.12g、7.32mmol)をジクロロメタン(150mL)に溶解した溶液を、ジクロロメタン(50mL)中における化合物(4)(D−Me−PEG−G−(OH)10)(4.0g、0.37mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.090g、0.74mmol)の混合物に加え、その反応混合物を室温で48時間攪拌した。次いで、反応を停止させるためにメタノール(20mL)を加え、さらに10時間攪拌を続けた。次いで、溶剤を完全に除去してから、再度メタノールを加えた。そして、分離した固形物を濾過し、濾液をジエチルエーテル(1L)の入ったビーカーに滴下して加え、粘稠な物質を分離し、乾燥させて、化合物(6)(D−Me−PEG−G−(OBn)10)を収率59%で得た。化合物(6)の測定した物性値を以下に示す。
【0077】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ1.03(s,15H),1.06(s,30H),3.55−3.77(m),5.44(s,10H,ベンジリデンCH),7.29−7.42(m,50H,Ar−H)。
【0078】
メタノール(100mL)中における化合物(6)(D−Me−PEG−G−(OBn)10)(2.5g、0.20mmol)およびPd/C(10%)(0.2g)の混合物を攪拌しながら、Hガスを48時間流した。次いで、触媒をセライトで濾過し、濾液を大過剰量のジエチルエーテルに滴下して加えることにより沈殿させて、化合物(7)(D−Me−PEG−G−(OH)20)を得た。ここで、「G」とは、第2世代を意味する単なる命名規則としての記号である。化合物(7)の測定した物性値を以下に示す。
【0079】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.92(s,15H),0.98(s,30H),3.08(s),3.40−3.77(m)。
【0080】
化合物(7)(D−Me−PEG−G−(OH)20)(2.0g、0.17mmol)をDMSO(20mL)に溶解した溶液に、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)(0.42g、3.34mmol)を加え、その反応混合物を10分間攪拌した。次いで、DTPA一無水物(2.51g、6.68mmol)をDMSO(130mL)に溶解した溶液を滴下して加え、その反応混合物を室温で3日間攪拌した。次いで、その反応混合物を脱イオン水に対して透析し、凍結乾燥させて、化合物(8)(D−Me−PEG−G−(ODTPA)20)を収率29%で得た。化合物(8)の測定した物性値を以下に示す。
【0081】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.19(s),1.22(s)、3.16−3.875(m)。
【0082】
化合物(8)(D−Me−PEG−G−(ODTPA)20)(0.5050g、0.029mmol)およびGd(0.0753g、0.20mmol)の混合物を脱イオン水(40mL)に溶解し、その反応混合物を70℃で20時間加熱した。その反応混合物を室温に冷却し、0.2μmの濾紙で濾過してから、凍結乾燥させて、金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(B)を黄色の固形物として得た。
【0083】
【化35】

【0084】
≪実施例3≫
金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(C)の製造
【0085】
【化36】


S:
【0086】
【化37】

【0087】
P:ポリエチレングリコールセグメント(分子量:約2,000)

【0088】
【化38】


Z:
【0089】
【化39】

(DTPA)
【0090】
上記式中、Dは酸素残基によりDTPAのカルボニル基(CO)と結合し、エステル基(COO)を形成する。
高分子(C)の製造法は、以下に示すとおりである。
【0091】
【化40】

【0092】
【化41】

【0093】
【化42】

【0094】
【化43】

【0095】
【化44】

【0096】
【化45】

【0097】
【化46】

【0098】
【化47】

【0099】
ジクロロメタン(300mL)中における化合物(7)(D−Me−PEG−G−(OH)20)(2.0g、0.17mmol)、ベンジリデン−2,2’−ビス(オキシ)メチルプロピオン酸無水物(BOP無水物)(2.85g、6.70mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.16g、1.33mmol)の混合物を室温で72時間攪拌した。次いで、過剰量のBOP無水物を失活させるべく無水メタノールを加え、さらに12時間攪拌を続けた。溶剤を完全に除去してから、メタノール(30mL)を加え、分離した固形物を濾過し、濾液をジエチルエーテル(2L)の入ったビーカーに加え、粘稠な物質を分離し、乾燥させて、化合物(9)(D−Me−PEG−G−(OBn)20)を収率89%で得た。化合物(9)の測定した物性値を以下に示す。
【0100】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.13(s,15H,−SiCH),1.02(s,60H),1.05(s,15H),1.10(s,30H),3.04(s),3.57−3.78(m),4.56−4.66(m),5.44(s,20H,ベンジリデンCH),7.31−7.34(m,100H,Ar−H)。
【0101】
次いで、メタノール(200mL)およびジクロロメタン(50mL)の混合物中における化合物(9)(2.3g、0.14mmol)およびPd/C(10%)(0.2g)の混合物を攪拌しながら、Hガスを48時間流した。次いで、触媒をセライトで濾過し、濾液を濃縮した。その濾液をジエチルエーテル(2L)の入ったビーカーに滴下して加えた。得られた粘稠な塊を乾燥させて、化合物(10)(D−Me−PEG−G−(OH)40)を得た。ここで、「G」とは、第3世代を意味する単なる命名規則としての記号である。化合物(10)の測定した物性値を以下に示す。
【0102】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ0.87(s,60H),0.95(s,15H),0.97(s,30H),3.07(s),3.51−3.77(m),4.39−4.46(m)。
【0103】
次いで、化合物(10)(2.0g、0.14mmol)をDMSO(20mL)に溶解した溶液に、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)(1.39g、11.22mmol)を加え、その反応混合物を10分間攪拌した。この混合物に、DTPA一無水物(6.31g、16.81mmol)をDMSO(200mL)に溶解した溶液を滴下して加え、その反応混合物を室温で72時間攪拌した。その反応混合物を脱イオン水に対し透析し、凍結乾燥させて、化合物(11)(D−Me−PEG−G−(ODTPA)40)を得た。
【0104】
最後に、化合物(11)(0.3470g、0.014mmol)およびGd(0.0740g、0.20mmol)の混合物を脱イオン水(30mL)に溶解し、その反応混合物を70℃で24時間加熱した。その反応混合物を室温まで冷却し、0.2μmの濾紙で濾過してから、凍結乾燥させて、金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(C)を黄色の固形物として得た。
【0105】
【化48】

【0106】
≪実施例4≫
金属カチオンGd3+を含む下記樹枝状高分子(D)の製造
【0107】
【化49】


S:
【0108】
【化50】

【0109】
P:ポリエチレングリコールセグメント(分子量:約2,000)

【0110】
【化51】


X:
【0111】
【化52】



【0112】
【化53】

【0113】
上記式中、Dは酸素残基によりDTPAのカルボニル基(CO)と結合し、エステル基(COO)を形成する。
高分子(D)の製造法は、以下に示すとおりである。
【0114】
【化54】

【0115】
【化55】

【0116】
【化56】

【0117】
【化57】

【0118】
【化58】

【0119】
【化59】

【0120】
【化60】

【0121】
化合物(4)(1.08g、0.1mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.024g、0.2mmol)を50mLのジクロロメタン中に溶解し、無水コハク酸(0.10g、1.0mmol)を加えた。その反応混合物を一晩攪拌してから、ジエチルエーテル(1L)中に沈殿させた。分離した白色の沈殿物を濾過し、真空下で乾燥させて、化合物(12)(D−Me−PEG−G−(OSA)10)を収率89%で得た。
【0122】
DMSO(10L)中における化合物(12)(0.2g、0.017mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(0.032g、0.20mmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(0.024g、0.20mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.026g、0.20mmol)の混合物を室温で2時間攪拌し、さらに、激しく攪拌しながら、10mLのDMSOに溶解した2−(4−アミノベンジル)ジエチレントリアミン五酢酸(0.101g、0.20mmol)の溶液を滴下して加えた。攪拌を48時間続け、その反応混合物を脱イオン水に対して約3日間透析した。次いで、透析した試料を凍結乾燥させて、化合物(13)(D−Me−PEG−G−(NH−Bz−DTPA)10)を収率47%で得た。
【0123】
最後に、化合物(13)(0.10g、0.006mmol)を水中で化学量論量のGdCl・6HO(0.0156g、0.042mmol)と混合し、その溶液を室温で8時間激しく攪拌した。pHは0.1N NaOH溶液で5.8に維持した。反応の進行をFTIRで追跡した。pH5.8(酢酸緩衝液)でキシレノールオレンジ指示薬を用いて、遊離ガドリニウムイオンの消失を確かめてから、その錯体を0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥させて、高分子(D)を得た。
【0124】
≪T緩和の測定≫
NMR分光計(20MHz)を用いて、反転回復(IR)の標準パルスプログラムにより、水の緩和速度を変化させる能力について、ガドリニウム担持高分子(A)〜(D)を評価した。水のプロトン緩和の結果は、本発明の高分子材料が造影剤として機能する性質を本来的に備えることを示した。3つの世代のシクロシロキサン−コアデンドリマー(高分子(A)〜(C))を全て分析し、市販の造影剤、すなわちマグネビストと比較した。第2および第3世代のDTPA−末端デンドリマー(高分子(B)および(C))は、緩和能の数値が高く、ベンジル−DTPA末端デンドリマーの高分子(A)は、緩和能の数値がより高い。
【0125】
【表1】

【0126】
注目すべきは、本発明の提供する樹枝状高分子が期待数の金属カチオンを有するという点である(例えば、実施例2の期待数は20、実施例4の期待数は10である)。しかし、立体効果と化学合成に起因する不確定要素とにより、実際の金属カチオン平均数は、期待数よりも小さいのが通常である(例えば、実施例2の実際の平均数は15.6±0.2であり、実施例4の実際の平均数は7である)。実際の金属カチオン数が異なる樹枝状高分子は、様々な実際の化学構造を有するので、一般に、期待数の金属カチオンを有する化学構造は、(同じ合成法により製造された)実際の数の金属カチオンを有する考え得る全ての樹枝状高分子を表すものとして用いられる。
【0127】
表1に示されるように、磁気共鳴イメージング(MRI)に使用可能な高分子(A)〜(D)が開発された。それらは、環状の樹枝状構造の周辺部に結合するDTPA/ベンジル−DTPA分子にキレートした常磁性のガドリニウムイオンから構成されている。そのコントラスト向上特性を、20MHzのNMR分光計を用いて、反転回復(IR)の標準パルス系列により測定し、緩和時間TおよびTを求めた。これらのデンドリマーの緩和能は、市販品よりもはるかに高いことがわかった。さらに、DTPAとデンドリマーとを橋架けする硬直なベンジルリンカーを有する高分子(D)でも、優れた緩和能を示した。
【0128】
以上のことから、本発明によれば、複数の常磁性金属カチオンを担持可能な担体の設計に樹枝状高分子の概念を導入することにより、1分子あたりの造影剤の信号強度および特異的ターゲッティング能を高めることができる。さらに、本発明の樹枝状高分子は、血管内皮細胞を容易に透過することや人体に代謝されやすいという小分子造影剤の欠点を回避することができ、それによって血液循環中の滞留時間が延長される。
【0129】
本発明は、5本の結合手を有するシクロシロキサン系の樹枝状高分子を含む磁気共鳴イメージング(MRI)造影剤を提供する。この造影剤は、環状の樹枝状構造の周辺部に結合するDTPA(ベンジル−DTPA)分子にキレートした常磁性のガドリニウムイオンから構成されている。これらの樹枝状キレート剤は、MRI治療において「拡大鏡」の役割を果たすことができる。
【0130】
さらに、本発明の別な技術的特徴は、複数の放射性同位元素および被分析物に特異な部分を担持する多重樹枝状高分子担体である。大分子担体を有する従来の造影剤、例えば、血清タンパクやポリリン酸などに比べて、本発明の樹枝状高分子は、等比級数的に拡大するユニークな能力を有するので、1単位あたりの分子造影剤の信号強度が大幅に高くなる。また、シクロシロキサンデンドリマーは、多数の金属カチオンを有することから、緩和能の値がより高くなることもわかった。
【0131】
以上、実施例を挙げて、本発明を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないと解されるべきである。むしろ、本発明は、当業者に明らかであるように、様々な変更や類似したアレンジを包含することを意図している。それゆえ、添付された特許請求の範囲は、かかる変更および類似したアレンジが全て包含されるように、最も広い意味に解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)または一般式(II)で示される構造を有する樹枝状高分子。
【化1】


一般式(I)
【化2】


一般式(II)
[式中、Sはj個のケイ素−酸素残基を有するシクロシラン部分であり、jは2以上の整数である;
Pは
【化3】


であり、lは1以上の整数である;Pは前記ケイ素−酸素残基によりSとそれぞれ結合する;
Dは、それぞれ独立して、n個の酸素残基を有する炭素数3〜30の樹枝状部分を含み、nは3以上の整数である;Dは前記酸素残基によりPおよびZとそれぞれ結合する;
Xは二官能性を有する炭素数3〜30の部分である;
Zは、それぞれ独立して、複数の官能基を有する炭素数3〜20の部分を含み、該官能基は、カルボニル基、カルボキシ基、アミン基、エステル基、アミド基およびキレート基よりなる群から選択される基である;Zは個別の前記官能基によりDおよびLとそれぞれ結合する;
Lは金属カチオンである;
iは1以上の整数である]
【請求項2】
Dが2,2−ジヒドロキシメチルプロパン酸またはその誘導体の残基である請求項1記載の樹枝状高分子。
【請求項3】
Dが
【化4】


であり、iが2である請求項2記載の樹枝状高分子。
【請求項4】
Dが
【化5】


であり、iが4である請求項2記載の樹枝状高分子。
【請求項5】
Dが
【化6】


であり、iが8である請求項2記載の樹枝状高分子。
【請求項6】
水溶性の星形樹枝状高分子である請求項1〜5のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項7】
LがGd3+である請求項1〜6のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項8】
Zが金属キレート基である請求項1〜7のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項9】
Zがエチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)の残基またはエチレンジイミノジブタン酸(EDBA)の残基である請求項8記載の樹枝状高分子。
【請求項10】
Zがジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の残基である請求項8記載の樹枝状高分子。
【請求項11】
Sが生分解性のシクロシラン部分である請求項1〜10のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項12】
Sが2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサンである請求項11記載の樹枝状高分子。
【請求項13】
Xが
【化7】


である請求項1〜12のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項14】
Zが
【化8】


であり、R
【化9】


【化10】


または
【化11】


であり、Rが水素、メチル基、エチル基またはプロピル基である請求項1〜13のいずれか1項記載の樹枝状高分子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の樹枝状高分子を含む磁気共鳴イメージング造影剤。

【公開番号】特開2009−161753(P2009−161753A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318830(P2008−318830)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】