説明

樹状細胞ハイブリッド

【課題】免疫系を刺激するための組成物を提供する。
【解決手段】複数の細胞からなり、少なくともその半数が融合細胞であり、該融合細胞がそれぞれ少なくとも1つの哺乳類樹状細胞と、細胞表面抗原を発現する少なくとも1つの哺乳類非樹状細胞との融合によって生成され、融合細胞のうち少なくとも半数は免疫系を刺激するのに有効な量の(a)MHCクラスII分子、(b)B7、および(c)細胞表面抗原を発現する組成物ならびに樹状細胞ハイブリッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
米国特許法35 USC§119 (e)(1)により、本出願は1997年4月15日に出願された先の米国仮出願第60/043,609の恩典を請求するものである。
発明の分野
本発明は細胞性免疫に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
樹状細胞(「DC」)は、免疫系における効果的な抗原提示細胞(「APC」)である。DCはT細胞活性化および増殖に必要な信号すべてを与えることが判っている。これらの信号は2つのタイプに分類することができる。免疫反応に対する特異性を与える第1のタイプは、T細胞受容体/CD3(「TCR/CD3」)複合体と、APC表面にある主要組織適合性遺伝子複合体(「MHC」)のクラスIまたはクラスIIタンパク質により提示される抗原ペプチドとの相互作用によって伝達される。この相互作用は、T細胞活性化を起こさせるために必要ではあるがこれだけでは十分でない。実際、第2のタイプの信号がなくても、第1のタイプの信号はT細胞アネルギーを起こすことができる。補助的刺激(costimulatory signal)信号と呼ばれる第2タイプの信号は、抗原特異性でもなくまたMHC拘束性でもないが、T細胞の完全増殖反応をもたらし、第1タイプの信号の存在下T細胞エフェクター機能を誘導することができる。
【0003】
補助的刺激信号はAPCおよびT細胞の表面で発現される受容体/リガンド対の間の相互作用によって発生する。受容体/リガンド対の一例としては、DC表面のB7補助刺激分子の1つとT細胞上にある片方の受容体CD28またはCTLA-4がある(Freeman et al., Science 262: 909-911, 1993(非特許文献1); Young et al., J. Clin. Invest. 90: 229, 1992(非特許文献2); Nabavi et al., Nature 360: 266, 1992(非特許文献3))。
【0004】
DCは、脾臓、胸腺、リンパ節、表皮、および末梢血のような種々の免疫器官のマイナーな構成要素である。例えば、DCは生の脾臓(Steinman et al., J. Exp. Med. 149: 1, 1979(非特許文献4))または表皮細胞懸濁液(Schuler et al., J. Exp. Med. 161: 526, 1985(非特許文献5); およびRomani et al., J. Invest. Dermatol. 93: 600, 1989(非特許文献6))の約1%、末梢血における単核細胞の0.1〜1%(Freudenthal et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 7698, 1990(非特許文献7))を占めているに過ぎない。末梢血や骨髄前駆体から樹状細胞を生成する方法は以下の文献に記載されている(Inaba et al., J. Exp. Med. 175: 1157, 1992(非特許文献8); Inaba et al., J. Exp. Med. 176: 1693-1702, 1992(非特許文献9); Romani et al., J. Exp. Med. 180: 83-93, 1994(非特許文献10);およびSallusto et al., J. Exp. Med. 179: 1109-1118, 1994(非特許文献11))。
【非特許文献1】Freeman et al., Science 262: 909-911, 1993
【非特許文献2】Young et al., J. Clin. Invest. 90: 229, 1992
【非特許文献3】Nabavi et al., Nature 360: 266, 1992
【非特許文献4】Steinman et al., J. Exp. Med. 149: 1, 1979
【非特許文献5】Schuler et al., J. Exp. Med. 161: 526, 1985
【非特許文献6】Romani et al., J. Invest. Dermatol. 93: 600, 1989
【非特許文献7】Freudenthal et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 7698, 1990
【非特許文献8】Inaba et al., J. Exp. Med. 175: 1157, 1992
【非特許文献9】Inaba et al., J. Exp. Med. 176: 1693-1702, 1992
【非特許文献10】Romani et al., J. Exp. Med. 180: 83-93, 1994
【非特許文献11】Sallusto et al., J. Exp. Med. 179: 1109-1118, 1994
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、免疫系を刺激するための組成物を特徴とする。これらの組成物はそれぞれ複数の細胞を含有しており、少なくともその半数(例えば、70〜80%より多い)は融合細胞であり、その融合細胞はそれぞれ少なくとも1つの哺乳類樹状細胞(例えば、骨髄培養液または末梢血細胞培養液由来のDC)と、細胞表面抗原(例えば、癌抗原)を発現する少なくとも1つの哺乳類非樹状細胞(例えば、癌細胞やトランスフェクトされた細胞)との融合によって生成される。「癌抗原」とは、その癌に罹患している個体の正常細胞とは対照的に、主としてまたは完全に癌細胞により発現される抗原分子を意味する。組成物中の融合細胞のうち少なくとも半数(例えば、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%)は、免疫系を刺激する(例えば、T細胞を活性化する)のに有効な量において、MHCクラスII分子、B7および細胞表面抗原を発現する。「B7」とは、補助的刺激分子のB7族の任意のメンバーを意味する(例えば、B7-1またはB7-2)。
融合細胞の生成に使用される親細胞は、単一の個体(例えば、ヒト、マウスまたはラット)から得ることができる。この親細胞はまた適合もしくは非適合MHC分子を用いて、同一の種(例えば、ホモ・サピエンス)の異なる個体から得ることもできる。
【0006】
さらに、本発明は融合細胞の製造方法を包含する。これらの方法においては、哺乳類の樹状細胞を、融合剤(例えば、ポリエチレングリコールまたはセンダイウイルス)の存在下で細胞表面抗原を発現する哺乳類の非樹状細胞と融合させる。融合後の細胞混合物を培地(場合により、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含有する)中で一定時間(例えば、5〜12日間)培養した後、2つの細胞群における付着性の相違に基づき、融合していない親の非樹状細胞から培養融合細胞を分離する。融合していない親樹状細胞は増殖せず、従って次第に死滅していく。たとえそれらが治療用組成物に残留しているとしても、融合細胞の効果と緩衝し合うことはない。単離された融合細胞は、典型的に(a)MHCクラスIIタンパク質、(b)B7、および(c)非樹状親細胞の細胞表面抗原を発現するが、これらは免疫系を刺激するのに有用である。
【0007】
本発明はさらに、融合細胞を少なくとも一つの別の哺乳類樹状細胞と再融合することにより、融合細胞のDC表現型を維持する方法を提供する。再融合細胞はMHCクラスII分子、B7、および樹状親細胞の細胞表面抗原を発現し、免疫系を刺激するのに有用である。
【0008】
本発明の組成物は、個体(例えば、ヒト)に投与して個体の免疫系を刺激することができる。この個体は、細胞内病原体による感染もしくは感染に対する感受性;癌;または癌を発症する疾病素質により免疫刺激が必要な場合であってもよい。融合細胞の生成に用いられるDCはこの個体から得ることができる。この個体が癌をもっている場合、個体自身の癌細胞を、彼もしくは彼女自身のDCとの融合に使用して融合細胞を生成することができ、次いでこの融合細胞を該個体に投与する。
【0009】
DC融合細胞で免疫系を刺激すると、細胞表面抗原の異常な発現を特徴とする病態に対し、該個体の免疫が高められる。細胞表面抗原は、融合細胞の親非樹状細胞パートナー上にも存在する。異常な発現とは、(i)細胞表面抗原が正常組織で発現されないこと、(ii)細胞表面抗原が、与えられた組織タイプの罹患細胞において、同じタイプの正常組織におけるよりもはるかに高濃度で発現されること、または、(iii)細胞表面抗原が、与えられた組織タイプの罹患細胞において、同じタイプの正常組織における変更とは異なる変更(例えば、リン酸化)を受けることを意味する。免疫を高めるとは、免疫系の細胞伝達もしくは体液性機能またはその両方を高めることを含む。
【0010】
特記しない限り、本明細書に使用する技術用語および科学用語はすべて本発明が属する分野の当業者が通常理解すると同じ意味をもつものである。以下、方法および物質を例示して記載するが、本明細書に記載の方法および物質と同様または等価なそれは本発明の実施または試験に使用することができる。本明細書に記載した文献およびその他の引用はすべて参照としてその全文が本明細書に組み入れられる。何らかの矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書の記載が優先するものとする。物質、方法および実施例は例示に過ぎず、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
本発明のその他の特徴および利点は、以下の図面、詳細な説明および請求の範囲から明らかとなると思われる。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、(1)DCと非樹状細胞との融合によって得られる融合細胞を含有する免疫系を刺激する組成物、(2)その組成物で免疫系を刺激する方法、および(3)融合細胞を生成する方法を特徴とする。
【0012】
DCは、当技術分野に公知の手法を用いて、骨髄培養液、末梢血、脾臓またはその他哺乳類の適当な組織から得ることができる。骨髄はDC前駆体を含んでおり、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)やインターロイキン4(「IL-4」)のようなサイトカイン類で処理すると、増殖してDCに分化する。そうして得られたDCは相対的に未成熟である(例えば、脾DCと比べて)。本出願人らの知見によれば、これらの未成熟なDCは脾臓で作られるさらに成熟度の高いDCよりもはるかに融合を生じやすい。末梢血もまた比較的未成熟なDCやDC前駆体を含んでおり、これはGM-CSFのような適当なサイトカイン類の存在で増殖・分化することができ、また融合においても使用することができる。
【0013】
本発明に用いられる非樹状細胞は周知の方法によりいずれの組織または癌から由来するものであってよく、かつ、死滅しないものであってもよい。目的の細胞表面抗原を発現する非樹状細胞は、その抗原を含むポリペプチドをコードする核酸分子により、望ましいタイプの非樹状細胞をトランスフェクトすることによって生成することができる。細胞表面抗原の例としては、MUC1、αフェトプロテイン、γフェトプロテイン、癌胚抗原、胎児性スルホグリコプロテイン抗原、α2Hフェトプロテイン、胎盤アルカリホスファターゼおよび白血病関連膜抗原がある。トランスフェクションの方法および抗原の同定法は当技術分野において周知である。
【0014】
DCと非樹状細胞との融合は、ポリエチレングリコール(「PEG」)またはセンダイウイルスを使用する方法など周知の方法で行うことができる。融合におけるDC対非樹状細胞の割合は、1:100〜1000:1の範囲で変更できるが、非樹状細胞を培養液中で激しく増殖させたい場合には、1:1よりも高い割合にするのが好ましい。融合後、融合しなかったDCは培養液中で通常数日以内に死滅する。融合細胞は、以下の2方法により融合していない非樹状親細胞から分離することができる。いずれの方法でも約50%以上の純度をもつ融合細胞が得られる。すなわち、融合細胞生成物における非融合細胞の割合は50%より低く、30%より低い場合がほとんどである。
【0015】
非樹状細胞が死滅するか、もしくは少なくとも所与の試薬の存在下で増殖せず、その感受性がDCとの融合によって抑えられる場合、融合細胞および親細胞を含む融合後の細胞混合物は、非融合細胞の殆どを除くのに十分な時間、この試薬を含む培地で培養することもできる。例えば、多くの腫瘍細胞株は機能性ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(「HGPRT」)を持たないのでHAT感受性である。DCは機能性HGPRTを与えるから、DCとこれらの腫瘍細胞株によって生成した融合細胞はHAT耐性となる。従って、融合後HATによる選択を行えば、融合していない親細胞を除くことができる。標準HAT選択法とは逆に、このHAT選択は一般に12日以上継続してはならない。本出願人らが、長引く培養は融合細胞におけるMHCクラスIIタンパク質および/またはB7補助的刺激分子の損失を招くことを見出したからである。
【0016】
融合細胞から非融合細胞を分離する第二の方法は、融合細胞と非樹状親細胞との間で異なる付着性に基づくものである。融合細胞は一般に組織培養容器に対し軽く付着していることが判った。従って、非樹状親細胞が、例えば、癌細胞の場合のように、それよりはるかに強い付着性であれば、融合後の細胞混合物は、適当な培地(HATは必要ではないが、それが非融合細胞の増殖を遅くする場合には加えてもよい)で短時間(例えば、5〜10日間)培養することができる。次に融合細胞を静かに外して吸引することができる。一方、融合していない細胞は組織培養容器にしっかりと付着して増殖する。逆に、非樹状親細胞が浮遊液中で増殖する場合には、培養期間後、融合細胞を容器にゆるく付着させたまま、非樹状親細胞を静かに吸引して除去することができる。上記の方法により得られた融合細胞は、典型的にはDCの表現型特徴を保持している。例えば、これらの融合細胞は、MHCクラスIIタンパク質、B7-1、B7-2のようなT細胞刺激分子、およびICAM-1のようなAPCに特徴的な付着分子を発現する。融合細胞はまた親非樹状細胞の細胞表面抗原を継続して発現するので、細胞表面抗原に対する免疫を誘導するのに有用である。注目すべきことに、非樹状融合パートナーが腫瘍細胞である場合、融合細胞の腫瘍原性は、親の腫瘍細胞に比べて弱められる場合が多いことが判明した。
【0017】
融合細胞がAPC特異的T細胞刺激分子のようなある種のDC特性を失う場合、それら(すなわち、初代融合細胞)は樹状細胞と再融合してDC表現型を回復することができる。再融合細胞(すなわち、二次融合細胞)は非常に強いAPCであり、ある場合には何と初代融合細胞よりも腫瘍原性が低いことが判明した。融合細胞は、必要であれば何度でも、樹状細胞または非樹状親細胞と再融合させることができる。
MHCクラスII分子、B7、またはその他所望のT細胞刺激分子を発現する融合細胞は、これらの分子に対する抗体でパンニングするかまたは蛍光標示式細胞ソーティングによっても選択することができる。
【0018】
本発明の融合細胞は、病気の治療または予防のため、哺乳類の免疫系刺激に使用することができる。例えば、ヒトの腫瘍(原発性もしくは転移性)を治療するため、そのヒト自身のDCと腫瘍細胞から作った融合細胞含有組成物を、例えば、リンパ組織の周辺部位に投与することができる。本組成物は適当な間隔(例えば、2ないし3週間おきに)をおいて適当な用量(例えば、1回の投与あたり約105〜108、例えば、約0.5 x 106〜1 x 106融合細胞)で、複数回(例えば、3〜5回)投与することができる。癌の予防(例えば、ワクチン接種)には、同系DCと同種または異種癌細胞とから、または同種DCと癌細胞とから作った融合細胞のような非同系融合細胞を投与することができる。ワクチン接種の効果をモニターするには、処置を行った個体から得られる細胞障害性Tリンパ球を、癌細胞に対するそのポテンシーについて細胞障害アッセイで調べることができる。細胞傷害性Tリンパ球のポテンシーを高めるため、複数回の追加抗原刺激が必要となることもある。以下の実施例Iは、腫瘍細胞と同系DCとから作った融合細胞が動物モデルの腫瘍を予防し治療できることを示すものである。さらに実施例IIIは、そのような融合細胞が、腫瘍抗原に特異的なアネルギー状態のT細胞を活性化することさえできることを示す。
【0019】
細胞内病原体に感染した細胞はまた、その病原体によって生じる病気を治療するため、融合の非樹状パートナーとして使用することができる。病原体の例としては、ウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、A型、B型またはC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルスまたは麻疹ウイルス)、細菌(例えば、ジフテリア菌、百日咳菌)、そして細胞内真核寄生体(例えば、Plasmodium spp.、Schistosoma spp.、Leishmania spp.、Trypanosoma spp.、またはMycobacterium lepre)が含まれるが、これらに限定されない。適当な融合細胞を含有する組成物は、当業者により適切であると定められた処方に従って個体(例えば、ヒト)に投与される。例えば、本組成物は、適当な間隔(例えば、2ないし3週間おきに)をおいて適当な用量(例えば、1回の投与あたり約105〜108、好ましくは、約107融合細胞)で、複数回(例えば、3〜5回)投与することができる。
【0020】
あるいはまた、1またはそれ以上の核酸構築物(それぞれ1またはそれ以上の同定された癌抗原または病原体由来の抗原をコードする)でトランスフェクトされた非樹状細胞を融合用の非樹状細胞パートナーとして使用することができる。これらの抗原は、それを融合細胞のMHCクラスIまたはII分子によって提示することができれば、癌細胞または病原体の表面に発現する必要はない。DCおよびこれらのトランスフェクトされた細胞によって生成する融合細胞は、癌またはその病原体によって生じる疾病の治療および予防の両方に使用することができる。一例をあげれば、MUC1を発現する融合細胞は、乳癌、子宮癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌および骨髄腫の治療または予防に使用することができる。αフェトプロテインを発現する融合細胞は、αフェトプロテインが高濃度で発現されることが多い肝癌または慢性肝炎の治療または予防に使用することができる。さらに、前立腺特異的抗原を発現する融合細胞は前立腺癌の治療に使用することができる。トランスフェクションの方法および抗原の同定は当技術分野において周知である。そうして生成された融合細胞を含有する組成物の投与は上記した通りである。
以下の実施例により、本発明の組成物および方法を例示的に示す、これらに限定されるものではない。
【0021】
実施例I. マウスの樹状細胞と非樹状細胞との融合
材料および方法
細胞培養および融合
マウス(C57BL/6)MC38腺癌細胞をDF3/MUC1 cDNAにより安定的にトランスフェクトしてMC38/MUC1細胞株を作った(Siddiqui et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2320-2323, 1988; Akagi et al., J. Immunother. 20: 38-47, 1997)。10%熱不活化胎児ウシ血清(「FCS」)、2 mMグルタミン、100 U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地に、MC38、MC38/MUC1および同系MB49膀胱癌細胞を維持した。
Inabaらに記載の方法(J. Exp. Med. 176: 1693-1702, 1992)の変法を用いて、骨髄培養液からDCを得た。要約すれば、骨髄を長骨からフラッシュし、赤血球を塩化アンモニウムで溶解した。以下のモノクローナル抗体(「mAb」)とインキュベートし、続いて補体と共にインキュベートすることによって、骨髄細胞から、リンパ球、顆粒球およびIa+細胞を放出させた:
(1) 2.43、抗CD8 [TIB 210; アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC), Rockville, MD];
(2) GK1.5、抗CD4 (TIB 207, ATCC);
(3) RA3-3A1/6.1、抗B220/CD45R (TIB 146, ATCC);
(4) B21-2、抗Ia (TIB 229, ATCC);および
(5) RB6-8C5、抗Gr-1 (Pharmingen, San Diego, CA)。
5%熱不活化FCS、50μM 2-メルカプトエタノール、1 mM HEPES (pH 7.4)、2 mMグルタミン、10 U/mlペニシリン、10μg/mlストレプトマイシンおよび500 U/mlリコンビナントマウスGM-CSF (Boehringer Mannheim, Indiana)を添加したRPMI 1640培地中、非溶解細胞を6ウェル培養プレートに播種した。培養7日目、付着していない細胞とゆるく付着している細胞を回収し、再び100 mmのペトリ皿(106細胞/ml; 8 ml/皿)に再び播種した。30分間培養した後、非付着性細胞を洗い流し、付着細胞にGM-CSF含有RPMI培地を加えた。MC38/MUC1細胞もしくはMC38と融合させるため、培養18時間後に非付着性細胞集団を除いた。
【0022】
融合は、Ca2+またはMg2+を含まないpH7.4のダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」)中細胞を50% PEGと培養することによって行った。融合におけるDC対腫瘍細胞の比は15:1〜20:1であった。融合後、該細胞を、HAT(Sigma)含有培地中10〜14日間、24ウェル培養プレートに播種した。MC38細胞はHATに対する感受性がさほど高くないため、HATはMC38/MUC1細胞およびMC38細胞を死滅させるためではなく、むしろその増殖を遅くするために使用した。MC38/MUC1細胞およびMC38細胞は組織培養フラスコにしっかり付着して増殖する。一方、融合細胞は静かにピペッティングすることにより取り出した。
【0023】
フローサイトメトリー
細胞をPBSで洗浄し、氷上で30分間、mAb DF3 (抗MUC1)、mAb M1/42/3.9.8(抗MHCクラスI)、mAb M5/114(抗MHCクラスII)、mAb 16-10A1(抗B7-1)、mAb GL1(抗B7-2)およびMAb 3E2(抗ICAM-1)とインキュベートした。PBSで洗浄後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗ハムスター、抗ラットおよび抗マウスIgGを加えて氷上でさらに30分間放置した。その後試料を洗浄・固定してFACSCAN (Becton Dickinson, Mount View, CA)で分析した。
【0024】
細胞傷害性T細胞活性
細胞傷害性T細胞(「CTL」)活性は、乳酸デヒドロゲナーゼ(「LDH」)(CytoTox, Promega, Madison, WI)の放出により測定した。
【0025】
混合白血球反応
DC、MC38/MUC1およびFC/MUC1細胞をイオン照射(30 Gy)し、96ウェル平底培養プレートで5日間1 x 105の同系または同種T細胞に加えた。T細胞は、脾細胞懸濁液をナイロンウールに通して残留APCを除いて作り、100ミリの組織培養皿で90分間平板培養した。付着していない細胞における[3H]チミジンの取り込みはウェルあたり1μCiパルス後6時間目に測定した(GBq/mmol; Du Pont-New England Nuclear, Wilmington, DE)。反応はそれぞれ3回行った。
【0026】
インビボにおける免疫細胞サブセットの除去
mAb GK1.5(抗CD4)、mAb 2.43(抗CD8)またはラットIgGを1日おきにマウスに静脈内、腹腔内の両方による投与を行った。投与は、FC/MUC1による2回にわたる免疫のうち1回目の4日前からMC38/MUC1細胞によるチャレンジの4日前まで行った。フローサイトメトリーおよびCTL活性分析を行うため、脾細胞を回収した。
【0027】
結果
マウスMC38腺癌細胞を骨髄由来のDCと融合させた。融合が成功したことを示すため、まずDF3/MUC1腫瘍関連抗原を安定的に発現するMC38細胞を使用した(Siddiqui et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 5132-5136, 1978)。融合細胞(FC/MUC1)は、MHCクラスIおよびII、B7-1、B7-2およびICAM-1と同様、DF3/MUC1を発現した(図1A)。
【0028】
さらに、ほとんどの融合細胞は、ベール状突起と樹状突起をもつDCの形態を示した。MC38細胞とDCとの融合(FC/MC38)は、検出できないDF3/MUC1抗原を除けば、細胞表面抗原発現について同様のパターンを生じた。マウスにMC38/MUC1を注射すると、皮下に腫瘍が形成された(図1B)。同様な知見は、DCと混合したMC38/MUC1細胞(図1B)によって、またはMC38細胞とDCとの混合後にも得られた。しかしながら、FC/MUC1を注射したマウスに腫瘍が発生しなかったという知見は、融合細胞が腫瘍形成性ではないことを示した(図1B)。
【0029】
樹状細胞は、一次MLRの強力な刺激剤であり(Steinman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 5132-5136, 1978; van Voorhis et al., J. Exp. Med. 158: 174-191, 1983)、インビトロで同種CD8+ T細胞の増殖を誘導する(Inaba et al., J. Exp. Med. 166: 182-194, 1987; Young et al., J. Exp. Med. 171: 1315-1332, 1990)。FC/MUC1細胞の機能を一部特徴づけるため、一次同種MLRにおける効果を、DCおおびMC38/MUC1細胞の効果と比較した。その結果から、FC/MUC1細胞は、DCと同様に同種MLRにおいて刺激機能を生じることが示された(図1C)。反対に、MC38/MUC1細胞はT細胞の増殖にはほとんど影響しなかった(図1C)。
【0030】
インビボにおける機能を調べるため、マウスをFC/MUC1細胞で2回免疫した。106照射MC38/MUC1細胞で2回免疫した後MC38/MUC1細胞でチャレンジしたマウスに腫瘍が発生した(表1)。これに対し、2.5 x 105 FC/MUC1細胞で免疫後、MC38/MUC1細胞でチャレンジした後の全動物には腫瘍の発生が見られなかった(図2Aおよび表1)。しかしながら、DCのみまたはPBSで免疫した後2.5 x 105 MC38またはMC38/MUC1細胞の皮下注によりチャレンジした対照動物には、10〜20日以内に腫瘍の成長が見られた(図2A)。
【0031】
さらに、FC/MUC1またはFC/MC38による免疫では、関連のない同系MB49膀胱癌の成長に検出可能な効果は影響はなかった(表1)。FC/MUC1細胞で免疫したマウスから得られたCTLはMC38/MUC1の溶解を誘発したがMB49細胞は溶解しなかった(図2B)。これに対し、DCまたはPBSで免疫したマウスから得られたCTLは、MC38/MUC1標的に対して検出可能な溶解を生じることはなかった(図2B)。
【0032】
抗腫瘍活性を与えるエフェクター細胞をさらに解明するため、FC/MUC1免疫前後にCD4+またはCD8+細胞の抗体をマウスに腹腔内注射した。脾細胞のフローサイトメトリーによって、各集団は80〜90%除去されることが確認された。抗CD4抗体および抗CD8抗体を投与すると腫瘍発生率が高くなるという知見は、CD4+T細胞およびCD8+T細胞が共に抗腫瘍活性に貢献していることを示している(図2C)。さらに、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の除去はインビトロにおけるMC38/MUC1細胞の溶解を抑え
ることと関連していた(図2D)。
【0033】
【表1】

【0034】
FC/MUC1細胞による免疫が播種性疾病の予防に効果があるかどうかを調べるため、MC38/MUC1肺転移モデルを使用した。FC/MUC1を静注または皮下注して免疫すると、MC38/MUC1細胞の静注チャレンジに対しては完全な予防効果があった(図3A)。これに対し、同様にMC38/MUC1細胞をチャレンジしたが免疫しなかったマウスはすべて250を超える肺転移を起こした(図3A)。
【0035】
治療モデルにおいては、FC/MUC1による免疫の4日前にMC38/MUC1肺転移が証明された。賦形剤により処理した対照マウスは250を超える転移を生じたが、FC/MUC1細胞処置を施した10匹のマウス中9匹は検出可能な転移を示さず、1匹のマウスには10個より少ない小結節があっただけであった(図3B)。FC/MC38細胞で処理したマウスは、検出可能なMC38肺転移が生じなかった(図3B)。これらの所見から、FC/MUC1免疫が転移性疾病の予防および治療の両方に使用できることが示された。
【0036】
実施例II. ヒトDCと骨髄腫細胞との融合
材料および方法
白血球泳動(leukophoresis)により得られたバフィーコート(またはロイコパック)の白血球をフィコール遠心分離によって分画した。(末梢血)単核細胞を含むフラクションを、10%胎児ウシ血清(「FCS」)添加RPMI 1640培地を入れたフラスコ中37℃で30分間インキュベーションした。付着していない細胞を静かに洗い流した(これら非付着細胞の一部はDCでもあった)。これらのDCを回収するため、該細胞を、20% FCS添加RPMI 1640培地で1時間30分インキュベーションした。浮遊細胞は除去した。残った付着細胞を20% FCS添加RPMI 1640培地で2〜3日間インキュベーションした。ゆるやかに付着している細胞はDCであった。残留付着細胞を10% 胎児ウシ血清添加RPMI 1640培地で一晩インキュベーションした。次に、ゆるく付着している細胞を回収し、GM-CSF(1000 U/ml)およびIL-4 (100 U/ml)含有培地中106細胞/mlの濃度で5〜6日間培養した。得られた細胞は融合実験に用いたDCであった。
【0037】
DCは骨髄幹細胞培養液からも得られた。簡単に説明すると、10% FCS添加RPMI 1640培地を入れたフラスコに幹細胞を播種した。37℃で30分間インキュベーションした後、付着していない細胞を洗い流した。残っている付着細胞に10% FCS添加新鮮RPMI 1640培地を加えた。1昼夜インキュベーションした後、ゆるく付着している細胞を回収し、GM-CSF(1000 U/ml)およびIL-4 (100 U/ml)含有10% FCS添加RPMI 1640培地中で5〜6日間培養した。得られた細胞は融合に使用できるDCであった。
【0038】
DCとヒト骨髄腫細胞MY5との細胞融合を行って融合細胞DC/MY5を作った。融合後、細胞を10〜14日間HAT選択培地に播種した。培地には20〜50 ng/mlのIL-6も添加して、DC/MY5細胞の生存を促進した。融合の手順は、融合細胞が示す比較的強い表面付着性に基づいて、融合細胞を非融合骨髄腫細胞から分離した以外は、本質的に前記実施例1の記載通りに行った。
【0039】
結果
フローサイトメトリーに示すように、DC/MY5細胞は親細胞の表現型特徴を持っていた。DC/MY5は、HLA-DR、CD38(骨髄腫細胞表面マーカー)、DF3(腫瘍細胞表面マーカー)、CD83(DC細胞表面マーカー)、B7-1およびB7-2のmAbによる染色に対して陽性であった。MLRアッセイから、これらの融合細胞はT細胞の強力な刺激剤でもあることが示された。
【0040】
実施例III. 融合細胞で免疫したMUC1トランスジェニックマウスにおけるヒトMUC1抗原耐性の逆転
材料および方法
MUC1トランスジェニックマウス
Rowseら(Cancer Res. 58: 315-321, 1998)に記載の通り、ヒトMUC1に対してトランスジェニックなC57B1/6マウス株を樹立した。ヌクレオチド745〜765およびヌクレオチド1086〜1065に相当するMUC1プライマーを用いて、テイルDNA 500 ngをそれぞれPCRにより増幅し、MUC1配列の存在を確認した。PCR生成物は1%アガロースゲル中の電気泳動により検出した(前記Rowse et al.)。
【0041】
細胞培養および融合
マウス(C57B1/6)のMC38、MB49癌細胞をMUC1 cDNAにより安定にトランスフェクトした(Siddiqui et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2320-2323, 1988; Akagi et al., J. Immunotherapy 20: 38-47, 1997; Chen et al., J. Immunol. 159: 351-359, 1997)。細胞は、10%熱不活化FCS、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地中に維持した。骨髄培養液からDCを得、前記実施例Iに記載の通り、癌細胞と融合させた。
【0042】
インビトロにおけるT細胞増殖
10%熱不活化FCS、50μMβ-メルカプトエタノール、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加したRPMI培地に、脾臓およびリンパ節の単一細胞調製物を懸濁した。細胞は、5 U/mlの精製MUC1抗原で刺激した(Sekine et al., J. Immunol. 135: 3610-3616, 1985)。培養1日後、3日後および5日後に、ウェルあたり1μCiの[3H]チミジンで12時間細胞のパルスを行い、半自動細胞ハーベスターによりフィルター上に細胞を回収した。液体シンチレーションによって放射活性を定量した。
【0043】
CD8+ T細胞株の作製
5 U/ml MUC1抗原を含有する完全RPMI培地にリンパ節細胞(「LNC」)を懸濁した。培養5日後、10 U/mlのマウスIL-2を添加した。10日目と15日目に、細胞は5 U/ml MUC1抗原およびAPCとして1:5照射(30 Gy)同系脾細胞による再刺激を行った。フィコール遠心分離によって死細胞を除去し、ナイロンウールに通して残留APCを除去した後、T細胞培養液を分析した。このT細胞を、CD3e (145-2C11)、CD4 (H129, 19)、CD8 (53-6.7)、αβTcR (H57-597)およびγδTcR (UC7-13D5) (PharMingen)に対するFITC結合抗体で染色した。氷上で1時間インキュベーション後、細胞を洗浄・固定してFACSCAN (Becton-Dickinson)により分析した。
【0044】
細胞障害アッセイ
標準51Cr放出アッセイにより、インビトロにおける細胞傷害性を測定した。簡単に述べると、37℃で60分間、細胞を51Crで標識した後、取り込まれなかった放射性同位元素を洗い流した。96ウェルV型プレートのウェルに標的細胞(1 x 104)を加え、エフェクター細胞と共に37℃で5時間インキュベーションした。ガンマカウンターで上清の51Crを測定した。51Crの自然放出は、エフェクターの非存在下、標的細胞をインキュベーションすることによって測定した。一方、51Crの最大または総放出量は、標的細胞を0.1% Triton-X-100でインキュベーションすることにより測定した。特異的51Cr放出のパーセンテージは、以下の式によって求めた:
%特異的放出 = [(実験値−自然放出値)/(最大値−自然放出値)]x 100
【0045】
体液性免疫反応
1ウェルあたり5 Uの精製MUC1抗原により4℃で一晩、マイクロタイタープレートを被覆した。ウェルを5%ウマ血清アルブミン含有PBSで洗浄した後、マウス血清の4倍希釈液で1時間インキュベーションした。洗浄してホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(Amersham Life Sciences)とインキュベーション後、o-フェニレンジアミン(Sigma)で展開し、OD 490 nmにおいてELISAマイクロプレートオートリーダーEL310で測定することにより、抗体複合体を検出した。
【0046】
イムノヒストロジー
新しく取り出した組織を液体窒素中で凍結した。クリオスタットで幅5μmの組織切片を調製し、アセトン中で10分間固定した。次いで、該切片を、室温に30分間、モノクローナル抗体DF3 (抗MUC1)、抗CD4 (H129, 19)または抗CD8 (53-6.7)とインキュベーションした。その後、VECTASTAIN ABCキット(Vector Laboratories)を用いて、間接イムノペルオキシダーゼ染色を行った。
【0047】
結果
実施例1に示した通り、DCとMC38/MUC1癌細胞(FC/MUC1)との融合により得られたワクチンは、強力な抗腫瘍免疫を誘導する。MUC1トランスジェニックマウスに対するFC/MUC1ワクチン接種効果を調べるため、マウスを2回5 x 105 FC/MUC1で免疫した。対照として、106照射MC38/MUC1細胞またはPBSによる免疫も行った。106 MC38またはMC38/MUC1細胞によるチャレンジ後に、照射MC38/MUC1細胞またはPBSで免疫したマウスはすべて腫瘍を発生した。これに対し、FC/MUC1で免疫したマウスでは腫瘍成長は観察されなかった。MUC1トランスジェニックマウスのFC/MUC1免疫は、関連のないMB49膀胱癌の成長には何ら影響を与えなかった(Chen et al., J. Immunol. 159: 351-359, 1997)。しかしながら、MUC1 (MB49/MUC1)を発現するMB49細胞はFC/MUC1免疫マウスでは成長しなかった。
【0048】
これらの結果を調べるため、FC/MUC1で免疫したマウスのCTLを、標的細胞の溶解について測定した。照射MC38/MUC1細胞またはPBSで免疫したMUC1トランスジェニックマウスから得られたCTLは、MC38/MUC1細胞に対し、何らかの反応性を示すとしても、それはわずかであった。これに対し、FC/MUC1免疫マウスから得られたCTLは、MC38細胞、MC38/MUC1細胞およびMB49/MUC1細胞の溶解を起こしたがMB49細胞の溶解は生じなかった。野生型のマウス(前記実施例I)で示した通り、FC/MUC1による免疫は、MUC1およびMC38細胞上の他の未知抗原に対する免疫を誘導する。従って、MB49細胞ではなくMB49/MUC1細胞がCTLにより溶解されるということは、FC/MUC1がMUC1特異的反応を誘導することの確証である。さらに、照射MC38/MUC1またはPBSではなく、MUC1トランスジェニックマウスのFC/MUC1による免疫は、MUC1に対する特異的抗体反応を誘導した。
【0049】
MUC1トランスジェニックマウスのT細胞がプライミングして抗MUC1反応を起こすことができるかどうかを調べるため、照射MC38/MUC1細胞またはFC/MUC1免疫マウスから、ドレン(draining)LNCを分離した。インビトロでLNCをMUC1抗原により刺激した。結果は、PBSまたは照射MC38/MUC1細胞で免疫したマウスのLNCがMUC1抗原の存在下では増殖しないことを示している。これに対し、FC/MUC1免疫マウスのLNCは、MUC1に反応して増殖した。MUC1に対するCTL誘導を確認するため、FC/MUC1で免疫したMUC1トランスジェニックマウスからドレンLNCを分離し、MUC1抗原および照射脾細胞の存在下で培養した。細胞は、培養開始時および培養10日〜15日目に、FACSCANにより分析した。結果は、MUC1抗原でインキュベーション後、CD8+ T細胞集団が優先的に選択されたことを示している。免疫されていないMUC1トランスジェニックマウスの無処置T細胞とは異なり、これらのCD8+ T細胞は、MC38/MUC1およびMB49/MUC1標的に対して特異的なCTL活性を示した。総括すると、これらの結果から、FC/MUC1による免疫がMUC1トランスジェニックマウスではMUC1に対する無応答性を逆転することが示唆される。
【0050】
MUC1に対する無応答性がFC/MUC1免疫により逆転できるという知見から、このワクチンが正常な上皮によるMUC1発現を背景に、播種性疾病の治療に使用できることが示唆された。治療モデルでは、MUC1トランスジェニックマウスの尾静脈にMC38/MUC1細胞を注射することにより、MC38/MUC1肺転移を確認した。賦形剤処置した対照マウスは肺転移を生じたのに対し、2日目または4日目にFC/MUC1で免疫したマウスには検出可能な転移がなかった。これらの知見は、FC/MUC1免疫がMUC1トランスジェニックマウスの転移性疾病治療に使用できることを示している。MC38/MUC1腫瘍に対して予防処置されたマウスが正常な気管支上皮および導入遺伝子を発現する他の組織でMUC1抗原の持続性発現を示したことは重要である(Rowse et al., Cancer Res. 58: 315-321, 1998)。さらに、抗CD4および抗CD8抗体をもつMUC1陽性組織染色はT細胞浸潤をまったく示さなかった。
【0051】
成体マウスの自己抗原に対する無応答性を逆転することは、抗腫瘍免疫療法の分野において非常に重要性をもつ。本発明の実施例は、DC腫瘍融合細胞による免疫が、確立した転移を元に戻すに十分な免疫応答を誘導することを示している。抗腫瘍免疫を与える抗MUC1応答の誘導は、管の頂端辺縁でMUC1を発現する正常分泌上皮に影響を与えるとしても、それはごくわずかであり、この点は注目に値する。これらの知見は、抗MUC1免疫誘導が、MUC1陽性ヒト腫瘍の治療に有効なストラテジーであることを示している。
【0052】
その他の態様
詳細な説明と共に本発明を説明してきたが、上記説明は例示にとどまるものであって、添付の請求の範囲に定義されている本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。その他の局面、利点および変更も以下の請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1A】図1Aは、DC(DC)、MC38細胞(MC38/MUC1)およびDCとMC38/MUC1細胞との融合により得られた融合細胞(FC/MUC1)の表面に発現された抗原のフローサイトメトリー分析結果を示すグラフである。
【図1B】図1Bは、以下を雌C57BL/6マウス(1群10匹)に皮下注した時の腫瘍発生率を示すグラフである: 2 x 105 MC38/MUC1細胞(○) 2 x 106 DCと2 x 105 MC38/MUC1細胞との混合物(△) 2 x 105 FC/MUC1細胞(●)または 5 x 105 FC/MUC1細胞(黒塗り□)。腫瘍発生率(直径3ミリより大)は注射後の複数の指定日にモニターした。3回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図1C】図1Cは、混合白血球反応における[3H]チミジンの取り込みを示すグラフである。DC(○)、MC38/MUC1細胞(●)およびFC/MUC1細胞(△)を照射し(30 Gy)、これを指定された割合で1 x 105 同種Balb/c T細胞に加えた。培養6時間目における[3H]チミジンの取り込みを測定3回の平均値+s.e.m.として示す。3回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図2A】図2Aは、FC/MUC1による抗腫瘍活性の誘発を%腫瘍発生率として示すグラフである。10匹のマウス群に14日ごと2回、3 x 105 DC(○)、3 x 105 FC/MUC1(●)またはPBS(□)を皮下注した。14日後マウスに2.5 x 105 MC38/MUC1細胞を皮下注によりチャレンジした。直径3ミリを超える腫瘍は陽性と判定した。3回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図2B】図2Bは、FC/MUC1による抗腫瘍活性の誘発を細胞障害性として示すグラフである。DC(○)、FC/MUC1(●)またはPBS(□)を2回注射したマウスに2.5 x 105 MC38/MUC1腫瘍細胞によりチャレンジした。チャレンジ20日後に脾細胞を取り出し、指定のエフェクター:標的比においてMC38/MUC1標的細胞と培養した。細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)活性(平均値+s.e.m.)は、4-h LDH放出アッセイにより測定した。3回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図2C】図2Cは、FC/MUC1による抗腫瘍活性の誘発を%腫瘍発生率として示すグラフである。FC/MUC1による2回免疫のうち1回目の4日前から5 x 105 MC38/MUC1細胞によりチャレンジする4日前まで、1日おきに、CD4+(□)およびCD8+(●)に対するmAb(モノクローナル抗体)をマウス(1群8匹)に静脈内および腹腔内から投与した。対照としてラットIgG(○)を注射した。直径3ミリを超える腫瘍は陽性と判定した。2回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図2D】図2Dは、FC/MUC1による抗腫瘍活性の誘発を細胞障害性として示す折れ線グラフである。マウスを上記のようにCD4+(□)およびCD8+(●)のmAb、ラットIgG(○)で処理し、FC/MUC1により免疫した後MC38/MUC1細胞によりチャレンジした。腫瘍チャレンジ後20日目に脾細胞を回収してMC38/MUC1細胞と培養した。CTL活性(平均値+s.e.m.)は、4-h LDH放出アッセイにより測定した。3回別々の実験において同様の結果が得られた。
【図3A】図3Aは、FC/MUC1による免疫後MC38/MUC1の肺転移予防を示すグラフである。10匹のマウス群に、FC/MUC1細胞またはPBSを2回注射し、14日後、1 x 106 MC38/MUC1細胞を静脈内投与によりチャレンジした。マウスはチャレンジ後28日目に屠殺した。墨汁で肺を染色した後、肺転移を計数した(Wexler, J. Natl. Cancer Inst. 36: 641-643, 1966)。
【図3B】図3Bは、FC/MUC1による免疫後のMC38/MUC1肺転移治療を示すグラフである。10匹のマウス群に、1 x 106 MC38/MUC1細胞またはMC38細胞を静注した。マウスは、腫瘍によるチャレンジ後4日目および18日目に、1 x 106 FC/MUC1またはFC/MC38により免疫した。次いでさらに10日経過後マウスを屠殺した。各マウスについて肺転移を計数した。2回別々の実験において同様の結果が得られた(2回目の実験では、FC/MUC1で処理した10匹中10匹に肺転移がなかった)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫系を刺激する組成物であって、該組成物が複数の細胞からなり、少なくともその半数が融合細胞であり、該融合細胞がそれぞれ少なくとも1つの哺乳類樹状細胞と、細胞表面抗原を発現する少なくとも1つの哺乳類非樹状細胞との融合によって生成され、融合細胞のうち少なくとも半数は免疫系を刺激するのに有効な量の(a)MHCクラスII分子、(b)B7、および(c)細胞表面抗原を発現する組成物。
【請求項2】
哺乳類非樹状細胞が癌細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
哺乳類樹状細胞および哺乳類非樹状細胞が同一の個体から得られる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記個体がヒトである、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
細胞表面抗原が癌抗原である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
哺乳類樹状細胞および哺乳類非樹状細胞が同一種の異なる個体から得られる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記の種がホモサピエンス(Homo sapiens)である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
細胞表面抗原が癌細胞抗原である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
下記の段階を含む、免疫系を刺激するのに有用な融合細胞を製造する方法:
少なくとも1つの哺乳類樹状細胞と、細胞表面抗原を発現する少なくとも1つの哺乳類非樹状細胞との融合によって生成される第一の融合細胞を提供する段階、および
第一の融合細胞を少なくとも1つの哺乳類樹状細胞と融合させて免疫系を刺激するのに有用な第二の融合細胞を生成させる段階。
【請求項10】
第二の融合細胞が(i)MHCクラスII分子、(ii)B7、および(iii)細胞表面抗原を発現する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
哺乳類樹状細胞および哺乳類非樹状細胞がすべてヒト細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
細胞表面抗原が癌抗原である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
下記の段階を含む、融合細胞を製造する方法:
(i)第一の複数の哺乳類樹状細胞と、(ii)細胞表面抗原を発現する複数の哺乳類非樹状細胞とを含む細胞試料を提供する段階、
該細胞試料を融合剤と接触させて少なくとも一つの樹状細胞と少なくとも一つの非樹状細胞との融合生成物である融合細胞を含む融合後細胞集団を生成させる段階、
培地中で該融合後細胞集団を培養して培養融合細胞を含む培養細胞集団を生成させる段階、ならびに
培養融合細胞と融合していない細胞との付着性の差に基づき、培養細胞集団中の培養融合細胞を非融合細胞から分離して単離融合細胞を製造する段階。
【請求項14】
培地がヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
単離融合細胞が免疫系を刺激するのに有用である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
単離融合細胞が(a)MHCクラスII分子、(b)B7、および(c)細胞表面抗原を発現する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
哺乳類樹状細胞が(i)骨髄細胞または(ii)末梢血細胞から培養される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
接触段階と分離段階との間の時間が10日間より少ない、請求項17記載の方法。
【請求項19】
単離融合細胞を少なくとも1つの哺乳類樹状細胞と融合させて第二の融合細胞を製造する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
第二の融合細胞が(i)MHCクラスII分子、(ii)B7、および(iii)細胞表面抗原を発現する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
哺乳類樹状細胞および哺乳類非樹状細胞がすべてヒト細胞である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
細胞表面抗原が癌抗原である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
個体の免疫系を刺激する方法であって、該個体に請求項1記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項24】
個体が以下からなる群より選択される状態を有する、請求項23記載の方法:
細胞内病原体による感染に対する感受性;
細胞内病原体による感染;
癌;および
癌発症前の疾病素質。
【請求項25】
ヒトの免疫系を刺激する方法であって、ヒトに請求項4記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項26】
哺乳類樹状細胞がヒトまたはヒトの一卵性双生児(identical twin)から得られる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
非樹状細胞がヒトから得られる癌細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
細胞表面抗原が癌抗原である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
細胞表面抗原が病原体由来の抗原である、請求項26記載の方法。
【請求項30】
病原体がウイルスである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
癌抗原がMUC1である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
個体が以下の状態または以下の状態の一つを生じる疾病素質を有する、請求項31記載の方法:乳癌、子宮癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、および骨髄腫。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2008−263997(P2008−263997A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147567(P2008−147567)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願平10−544147の分割
【原出願日】平成10年4月15日(1998.4.15)
【出願人】(399052796)ダナ−ファーバー キャンサー インスティテュート インク. (36)
【Fターム(参考)】