説明

樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法

【課題】室温付近で低膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスと、を備え、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が2×10−6/℃以下の線膨張係数を有する。侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子は負膨張性を有し、樹脂による正膨張の作用を相殺する。そして、さらに非酸化物セラミックスの粒子が正膨張性を有するため、製造過程において樹脂−セラミックス複合材料の熱膨張性を低く維持するのが容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法に関し、半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等の各産業分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス粉末と樹脂の複合材料が知られている。そのような複合材料には、ユークリプタイトや石英などの粉末をフィラーとし樹脂と合成させたものがある。また、炭化珪素とメタクレート樹脂との複合材料等についても提案がなされている(たとえば、特許文献1)。特許文献1記載の複合材料は、40%以上の相対密度を有するセラミックス多孔体を液状樹脂に浸し、真空処理により浸透させた樹脂を硬化させて製造されている。
【0003】
一方、侵入型窒化マンガンを用いて熱膨張を制御した金属−セラミックス複合材料も提案されている(たとえば、特許文献2および3)。特許文献2記載の熱膨張抑制剤は、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含んでいる。特許文献3記載の金属−セラミックス複合材料は、アルミニウムやマグネシウム合金等の軽金属または軽金属合金と侵入型窒化マンガンとが複合されて形成されている。そして、その線熱膨張ΔL/Lの変化量δが1×10−4以内となる温度幅20度以上の温度領域が、−30℃以上90℃以下の温度範囲内にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−279106号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/011590号パンフレット
【特許文献3】特開2008−223077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の樹脂−セラミックス複合材料は、室温付近の温度変化により膨張または収縮し、低熱膨張性が求められる部品等へ用いるには適していない。また、仮に負膨張性を有する材料を混合し低熱膨張性の複合材料を作製しようとしても線膨張係数の制御が困難であり、安定して低熱膨張性を有する複合材料を得ることができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、前記強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスと、を備え、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が2×10−6/℃以下の線膨張係数を有することを特徴としている。
【0008】
侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子は負膨張性を有し、樹脂による正膨張の作用を相殺する。そして、さらに非酸化物セラミックスの粒子が正膨張性を有するため、製造過程において樹脂−セラミックス複合材料の熱膨張性を細かく制御しやすい。特に正の低熱膨張性を持たせる調整が容易となる。これにより、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料が得られる。その結果、樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。また、正膨張性を有するセラミックスとして非酸化物を用いるため、製造時に侵入型窒化マンガンセラミックスに酸素を奪われることがなく、所望の特性を有する樹脂−セラミックス複合材料を得やすい。
【0009】
(2)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、前記粒子間のネッキングにより、前記粒子間が化学結合していない成形体より線方向の寸法で1%以上小さいことを特徴としている。このように粒子間に十分なネッキングが存在することにより、粒子が分離されることがなく、温度を上昇させた際、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくなる。その結果、線膨張係数が樹脂の特性に影響されにくく、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。
【0010】
(3)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、45%以上の体積比率を有することを特徴としている。これにより、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が有する負膨張性が十分に得られ、樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数の絶対値を2×10−6/℃以下にすることができる。
【0011】
(4)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が、非酸化物セラミックスの粒子に対して体積比2以上で混合されてなることを特徴としている。これにより、非酸化物セラミックスの粒子が有する正膨張性を十分に相殺するだけの負膨張性が十分に得られ、樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数の絶対値を2×10−6/℃以下にすることができる。
【0012】
(5)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材の非酸化物セラミックスの粒子が、15μm以下の平均粒子径を有することを特徴としている。非酸化物セラミックスの粒子が細かいと、膨張率の細やかな制御が可能になる。その結果、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。
【0013】
(6)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、非酸化物セラミックスの粒子として、SiC、Si4、AlNおよびBCのうちいずれか一つのセラミックス粒子を含むことを特徴としている。これにより、低コストかつ容易に樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。
【0014】
(7)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法は、樹脂とセラミックスとを複合させてなる樹脂−セラミックス複合材料の製造方法であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなる成形体を作製する工程と、前記成形体を熱処理し、収縮率1%以上で収縮させて体積比率45%以上の仮焼体を作製する工程と、前記仮焼体に樹脂を浸透させる工程と、を含むことを特徴としている。
【0015】
成形体を熱処理し、収縮率1%以上で収縮させて仮焼体を作製することで、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子間にネッキングを発生させ、粒子の分離を防止し、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくすることができる。また、体積比率45%以上の仮焼体を用いることで、負膨張性が十分に得られ、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。特に正の低熱膨張性を持たせる調整が容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料が得られる。その結果、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。また、正膨張性を有するセラミックスとして非酸化物を用いるため、製造時に侵入型窒化マンガンセラミックスに酸素を取られることがなく、所望の特性を有する樹脂−セラミックス複合材料を得やすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例および比較例の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、セラミックスと樹脂とが複合されて形成されている。すなわち、樹脂−セラミックス複合材料は、セラミックスの強化材および樹脂のマトリックスにより形成されている。
【0019】
強化材は、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子が混合されたものであり、多孔体を形成している。強化材中の侵入型窒化マンガンセラミックスは、局所的に粒子同士がネッキングを起こしていることが好ましい。そのため、上記のMnNと金属元素を添加して熱処理する際に同時に非酸化物セラミックスを添加してネッキングを起こした仮焼体を形成することが好ましい。このとき、非酸化物セラミックス粒子は、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子間に取り込まれたり、挟まったりしており、非酸化物セラミックスの割合が多くなるとネッキングが阻害される。また、ネッキングは、製造時に強化材の成形体を熱処理した後の線方向の収縮率が1%以上となる程度まで進行していることが好ましい。なお、成形体は、押圧等により成形されたものであり、成形体内部では粒子間が化学結合していない。
【0020】
ネッキングが不十分な状態の強化材の仮焼体に樹脂を浸透すると、線膨張係数は樹脂の特性に大きく影響される。これは負膨張材として強化材を構成する粒子が互いに分離されているため、温度を上昇させた際、樹脂の膨張に粒子が引っ張られるためと考えられる。なお、強化材は、樹脂−セラミックス複合材料内において45%以上の体積比率を有することが好ましい。これにより、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が有する負膨張性が十分に得られ、樹脂−セラミックス複合材料の熱膨張を低く制御することができる。また、強化材は、樹脂の浸透を妨げない程度に多孔質化していることが好ましく、80%以下の体積比率を有することが好ましい。また、強化材の負膨張性を適度に抑制するためには70%未満の体積比率を有することが好ましい。
【0021】
成形体等の粉末状態の強化材に樹脂を浸透させる場合や、成形体からの収縮率が1%未満の仮焼体に樹脂を浸透させる場合には、線膨張係数は樹脂の特性に大きく影響される。これは負膨張材として強化材を構成する侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が互いに分離されているため、温度を上昇させた際、樹脂の膨張に粒子が引っ張られるためと考えられる。なお、強化材は、樹脂−セラミックス複合材料内において45%以上の体積比率を有することが好ましい。これにより、侵入型窒化マンガンのセラミック多孔体が有する負膨張性が十分に得られる。
【0022】
強化材および負膨張材として使用される侵入型窒化マンガンの一般化学式は“Mn4−xN”で表される。記号Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInの中から選ばれる1種の元素を示している。また、xは、0<x<4(ただし、xは整数ではない)の式を満たしている。ただし、記号Aが、Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族の原子のいずれか2種以上の元素を示し、そのうちの少なくとも1種はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、xが0<x<4の式を満たしているものを用いてもよい。また、上記侵入型窒化マンガンにおいて窒素の一部が炭素と置き換わってもよい。
【0023】
このように構成される侵入型窒化マンガンの負膨張性は磁気モーメントの変化に伴って体積が変化する現象に由来するものであり、温度が低下すると体積が増大する効果を生ずる。この効果が通常の正の膨張を超えることにより負の熱膨張が発現する。また、侵入型窒化マンガンの構成元素と組成比、および合成条件、侵入型窒化マンガンに対する非酸化物セラミックスの粒子および樹脂マトリックスとの比率を調節することによって熱膨張を調整することができるので、負膨張材として種々の用途に用いることができる。そのため、正の熱膨張性を有する材料と複合化することにより正味で熱膨張性の低い樹脂−セラミックス複合材料を作製できる。
【0024】
樹脂は、熱硬化性を有し、その硬化温度は0℃以上であればよい。ただし、300℃以上の高温で樹脂を硬化させると侵入型窒化マンガンの酸化および変性等が生じ特性に影響を及ぼす。このような条件をみたせば、樹脂の種類はエポキシ系、フェノール系、ポリエステル系、ビニル系、アクリル系およびポリエーテル系等のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0025】
負膨張材と混合するセラミックスは非酸化物のものが好ましい。負膨張材である侵入型窒化マンガンは、酸化物セラミックスとして通常用いられているアルミナやチタニアのような粉末と混合して、高温で熱処理を行うと酸化される。侵入型窒化マンガンが酸化されると熱膨張特性に大きく影響を及ぼし、線膨張係数の制御が困難となる。
【0026】
強化材の非酸化物セラミックス粉末の平均粒子径は15μm以下(レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50))であることが好ましい。非酸化物セラミックスの粒子が細かいと、膨張率の細やかな制御が可能になる。その結果、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。特に、正の低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を得やすい。たとえば、0℃以上40℃以下の温度領域において、0/℃以上2×10−6/℃以下の線膨張係数を有する樹脂−セラミックス複合材料を得やすくなる。一方、15μm以上の粒子径の粉末を添加すると線膨張係数が大きくなる傾向にある。これは非酸化物セラミックスが仮焼体を形成する際に粒子同士のネッキングの成長を阻害し、負膨張材である侵入型窒化マンガンセラミックスの熱特性を低下させるためと考えられる。
【0027】
また、同様の理由で強化材は、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が、非酸化物セラミックスの粒子に対して体積比2以上となるように混合されていることが好ましい。侵入型窒化マンガンの添加量を所定量以上とすることにより、十分な負膨張性を発揮させることができる。一方では、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が、非酸化物セラミックスの粒子に対して体積比7以下となるように混合されていることが好ましい。この体積比が7より大きいと負膨張性が大きくなりすぎて、正の低膨張性が得られなくなる。したがって、2≦(侵入型窒化マンガンセラミックス/非酸化物セラミックス)≦7であることが好ましい。
【0028】
混合する非酸化物セラミックスは上記粒子径および添加量であればよい。非酸化物系セラミックスとして、たとえば一般的なSiC、Si、BCまたはAlN等を使用することができる。SiC、Si、BCまたはAlN等のセラミックスを用いることで、低コストかつ容易に樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。なお、いずれか一つの非酸化物セラミックス粒子のみを用いることが好ましい。多数の材料を混合すると線膨張係数の制御が困難になるためである。
【0029】
上記に挙げたセラミックスのうち、SiCを混合する場合には、耐食性の高い樹脂−セラミックス複合材料得ることができ、耐食性部材等に応用することができる。また、SiまたはBCを混合する場合には、高強度の樹脂−セラミックス複合材料得ることができる。また、AlNを混合する場合には、熱伝導性の高い樹脂−セラミックス複合材料得ることができる。
【0030】
このように構成されることにより、樹脂−セラミックス複合材料は、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が2×10−6/℃以下の線膨張係数を有する。これにより、室温付近で低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られる。そして、樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。
【0031】
次に、樹脂−セラミックス複合材料の製造方法を説明する。まず、侵入型窒化マンガン粉末、2種類以上の金属粉末および非酸化物セラミックス粉末を混合し、成形体(充填体を含む)を作製する。金属を含めることで、金属の塑性変形により成形体を作製し易くなる。成形体は、1軸プレスおよびCIP成形などで作製すればよく、成形方法は特に限定されない。このようにして、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなる成形体を作製する。なお、後述の熱処理で得られる仮焼体の体積比率が45%以上となるように、熱処理の条件等を考慮して決定した相対密度を有する成形体を作製する。これにより、侵入型窒化マンガンセラミックスによる十分な負膨張性が得られ、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。少なくとも相対密度は45%以上の成形体を作製しておけば、体積比率45%以上の仮焼体を得られる。
【0032】
そして、成形体を窒素雰囲気において700℃以上、好ましくは800℃以上で熱処理し、強化材を合成することで、仮焼体を作製する。熱処理温度は、強化材を構成する粒子が過度に結合しないよう900℃未満とすることが好ましい。仮焼体は、粒子が集合した多孔体を形成している。熱処理の工程において金属が窒化マンガンと反応する際にネッキングが生じ、ネッキングにより侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子の結合が強化され、仮焼体の強度が高まる。なお、熱処理による収縮率は1%以上であることが好ましい。収縮率は1%以上の仮焼体を作製することで、強化材の粒子間にネッキングを発生させ、粒子の分離を防止し、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくなる。一方、負膨張性が強くなりすぎるのを防止するため収縮率は5%未満であることが好ましい。
【0033】
次に、作製された仮焼体に樹脂を浸透させる。具体的には、仮焼体を真空状態にし、そこに樹脂を流し込む。これにより細部まで樹脂を浸透させることができる。そして、樹脂を浸透させた仮焼体を0℃以上300℃以下の温度で硬化させ、樹脂−セラミックス複合材料を作製する。このように負膨張性を有する侵入型窒化マンガンと非酸化物セラミックスの仮焼体に、正膨張性を有する樹脂を複合化することにより、室温付近で低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。なお、材料の組成、成形体の作製、熱処理の条件および樹脂の選定等は、あらかじめ所望の線膨張係数に応じ、計算式に基づいて決定しておく。
【0034】
[実施例1]
以下、実施例を比較例とともに挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。まず、所定量のMnN粉末、Sn粉末およびCu粉末をMnCu0.5Sn0.5N(負膨張材)の配合となるように計量した。この粉末に市販のSiC粉末(平均粒径:13μm)を負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=3:1となるように添加した。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50)である(以下の例についても同様)。次に、これらを均一混合し、1t/cm(=98MPa)で一軸成形し、50×50mmの成形体を得た。そして、成形体を窒素雰囲気中で加熱して仮焼体を作製した。このときの最高温度は850℃で、5時間保持した。成形体から仮焼体への収縮率は、1.1%であった。この仮焼体の体積比率をアルキメデス法で測定したところ、その体積比率は48%であった。
【0035】
この仮焼体に市販のエポキシ樹脂(線膨張係数:3.3×10−5/℃)を流し込み、真空容器内で−0.1MPa以下まで真空引きした。そして、その状態で1時間保持して仮焼体内に樹脂を浸透させた。樹脂を浸透させた仮焼体を150℃の乾燥機内で熱処理し、樹脂を硬化させた。作製した樹脂−セラミックス複合材料から4×4×15mmの試験片を切り出し、線膨張係数を熱膨張計(アルバック理工製:LIX−I)で測定した。その結果、0℃以上40℃以下で熱膨張の低下を示し、膨張量の変位曲線から近似直線で線膨張係数の値を求めた結果、1.8×10−6/℃であった。
【0036】
[実施例2]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、SiC粉末(平均粒径:13μm)を負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=4:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、1.5%であった。また、仮焼体の体積比率は51%であり、樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.5×10−6/℃であった。
【0037】
[実施例3]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径6μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=4:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、2.0%であった。また、仮焼体の体積比率は53%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.2×10−6/℃であった。
【0038】
[実施例4]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、非酸化物セラミックスとしてAlN(平均粒径:11μm)粉末を使用し、負膨張材との体積比が負膨張材/AlN=4:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、1.2%であった。また、仮焼体の体積比率は49%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.4×10−6/℃であった。
【0039】
[実施例5]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=2:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、1.1%であった。また、仮焼体の体積比率は48%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.9×10−6/℃であった。
【0040】
[実施例6]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=5:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、1.5%であった。また、仮焼体の体積比率は51%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で8.9×10−7/℃であった。
【0041】
[実施例7]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=6:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、2.1%であった。また、仮焼体の体積比率は53%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で4.2×10−7/℃であった。
【0042】
[実施例8]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=7:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、2.1%であった。また、仮焼体の体積比率は53%であり、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.3×10−6/℃であった。
【0043】
[実施例9]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=3:1となるように添加し、熱処理条件を830℃で5時間保持とした。成形体から仮焼体への収縮率は、1.1%であった。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.8×10−6/℃であった。
【0044】
[実施例10]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、侵入型窒化マンガンの組成をMn3.226Cu0.387Sn0.387Nとし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=3:1となるように添加した。成形体から仮焼体への収縮率は、1.4%であった。また、浸透させる樹脂としてフェノールを用いた。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.5×10−6/℃であった。
【0045】
[実施例11]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、侵入型窒化マンガンの組成をMn3.226Cu0.387Sn0.387Nとし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=3:1となるように添加した。また、浸透させる樹脂としてポリエステルを用い、熱処理条件を870℃で5時間保持とした。成形体から仮焼体への収縮率は、1.6%であった。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.4×10−6/℃であった。
【0046】
[実施例12]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径13μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=4:1となるように添加し、浸透させる樹脂としてポリエステルを用いた。成形体から仮焼体への収縮率は、1.2%であった。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.7×10−6/℃であった。
【0047】
[比較例1]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、複合材料を作製した。ただし、負膨張材として添加するセラミックス粉末としてアルミナ(平均粒径:8μm)を用い、負膨張材との体積比が負膨張材/アルミナ=4:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、1.7%であった。また、仮焼体の体積比率は52%であり、得られた複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で9.8×10−6/℃であった。さらに作製した仮焼体についてXRDを測定したところ、X線回折図のピークに酸化マンガンのピークが認められ、アルミナのピークがほとんど消失していた。これは負膨張材を熱処理する850℃の工程において侵入型窒化マンガンがアルミナの酸素と反応したためと考えられる。
【0048】
[比較例2]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、SiC粉末(平均粒径:13μm)を負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=1.8:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、0.2%であった。また、仮焼体の体積比率は50%であり、得られた複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.5×10−5/℃であった。
【0049】
[比較例3]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製した。ただし、平均粒径28μmのSiC粉末を、負膨張材との体積比が負膨張材/SiC=4:1となるように添加した。その結果、成形体から仮焼体への収縮率は、0.4%であった。また、仮焼体の体積比率は45%であり、得られた複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で6.2×10−5/℃であった。
【0050】
[まとめ]
図1は、上記の実施例および比較例の実験結果を示す表である。図1に示すように、負膨張性を有する侵入型窒化マンガンセラミックスと粒径15μm以下の非酸化物セラミックスとを2以上7以下の体積比で混合して仮焼体を作製し、樹脂を浸透させると、0℃以上40以下の温度領域で低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られることが分かった。一方、比較例1に示すように、侵入型窒化マンガンセラミックスに酸化物セラミックスを混合した場合、非酸化物セラミックスの粒径が15μmより大きい場合、または侵入型窒化マンガンセラミックスと非酸化物セラミックスとを2より小さい体積比で混合した場合には、得られた複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下の温度範囲において2×10−6/℃より大きかった。以上のように、所定の条件で得られる樹脂−セラミックス複合材料は、室温付近で低熱膨張性を有することが実証された。また、所定の条件における製造方法により、特に正の低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を得られることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、
侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、
前記強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスと、を備え、
0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が2×10−6/℃以下の線膨張係数を有することを特徴とする樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項2】
前記強化材は、前記粒子間のネッキングにより、前記粒子間が化学結合していない成形体より線方向の寸法で1%以上小さいことを特徴とする請求項1記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項3】
前記強化材は、45%以上の体積比率を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項4】
前記強化材は、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が、非酸化物セラミックスの粒子に対して体積比2以上で混合されてなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項5】
前記強化材の非酸化物セラミックスの粒子は、15μm以下の平均粒子径を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項6】
前記強化材は、非酸化物セラミックスの粒子として、SiC、Si4、AlNおよびBCのうちいずれか一つのセラミックス粒子を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項7】
樹脂とセラミックスとを複合させてなる樹脂−セラミックス複合材料の製造方法であって、
侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子および非酸化物セラミックスの粒子からなる成形体を作製する工程と、
前記成形体を熱処理し、収縮率1%以上で収縮させて体積比率45%以上の仮焼体を作製する工程と、
前記仮焼体に樹脂を浸透させる工程と、を含むことを特徴とする樹脂−セラミックス複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−228944(P2010−228944A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76311(P2009−76311)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】