説明

樹脂が含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法

【課題】高品質の樹脂が含浸したプリプレグに代表される強化繊維織物中間材料が得られ、生産効率の高いホットメルト方式を採用した、強化繊維織物にマトリックス樹脂を含浸させるプリプレグの製造にあたって、強化繊維織物の緯糸に目曲がりの発生がない強化繊維織物中間材料の製造方法を提供する。
【解決手段】実質的に連続する炭素繊維からなる経糸(1) 及び緯糸(2) を使用して強化繊維織物(3) を製織したのち、引き続いて前記強化繊維織物にホットメルト樹脂を連続して含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂が含浸した繊維強化複合材料の中間体である、樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の効率的な製造方法に関し、特に前記中間材料の基材である強化繊維織物における緯糸の目曲りをなくし、形態安定性に優れ所要の力学特性を備える、樹脂が含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた力学特性を必要とする、例えば、航空機や特殊車両、産業機器、或いはスキー板、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスラケットなどのスポーツ用品には、強化繊維に樹脂を含浸させた中間材料であるプリプレグを成形体形状に積層した後、加熱硬化して作製された繊維強化樹脂成形体(以下、成形体という)が広く使われている。その際に用いられるプリプレグとしては、一方向に引き揃えられた強化繊維束に樹脂が含浸されたUDプリプレグと、強化繊維で製織された織布もしくは不織布に樹脂が含浸されたクロスプリプレグとに大別できる。
【0003】
UDプリプレグは、一方向に強化繊維が配列されているため、クロスプリプレグに比べて強化繊維の単位面積あたりの質量が軽減でき、軽量化が望まれている成形体に適している反面、繊維軸方向に対する直角方向の強度が弱いため、これを補完すべく繊維方向の角度を変えながらUDプリプレグを積層するなどして、繊維軸方向に対する直角方向の強度の向上を図っている。このUDプリプレグを積層する工程は複雑であり、成形体の製造効率が低かった。一方のクロスプリプレグは、強化繊維が2軸方向に配列されるため、取り扱いが容易で裁断および積層が容易にでき、成形体が容易に作製できるうえに、2軸方向の機械的特性を任意に制御できるという利点がある。
【0004】
クロスプリプレグの製造方法については多くの提案がなされている。例えば、特開昭58−31716号公報(特許文献1)によれば、織物シートを、基材上に一定膜厚に塗工された樹脂膜と合着させ、織物シート内に均一に樹脂を含浸させるにあたり、前記織物シートが樹脂膜と接触した後、円柱又は円筒類などの少なくとも一部の曲面を有する基材の曲面に沿わせて張力をかけながら連続的に引き取る。かかる構成を採用することにより、厚みが均一で、毛羽、毛玉、隙間、フィッシュ・アイなどの外観上の欠陥が少なく、特に薄物から厚物のプリプレグにおいて、織物シートの各フィラメントが樹脂に十分に含浸したプリプレグ・シートが得られるというものである。
【0005】
また、例えば特開昭60−165211号公報(特許文献2)によれば、補強繊維織物の両面に、少なくとも一方が樹脂担持シ一トであるシートを重ね合せ、その重ね合せ体を加熱ロールで挾圧して樹脂を補強繊維に転移含浸させるプリプレグの製造にあたって、前記加熱ロールのニップ点の前方に、重ね合せ体の少なくとも下面に近接または接触する位置に樹脂溜り制御板を設けている。この樹脂溜り制御板の存在により、樹脂溜りの出現が抑えられ、樹脂溜りによって補強繊維の単糸が切断されることによる毛羽の発生が抑制され、また毛羽の蓄積による樹脂含浸むらを防止することができるとしている。
【0006】
更に、例えば特開2002−327076号公報(特許文献3)によれば、強化繊維織物にマトリックス樹脂を、少なくとも内部に連続する樹脂層を形成するように含浸させ、その後、前記樹脂が含浸された前記強化繊維織物の少なくとも片側表面に、凹凸面をもつ保護フィルムの前記強化繊維織物に向けて貼り付ける。その状態で30〜60℃、大気圧下で12時間以上放置する。得られたプリプレグは、内部に連続する樹脂が存在し、少なくとも片側表面は実質的に含浸樹脂が存在する樹脂含浸部分と、実質的に樹脂が存在しない繊維部分とにより構成される。
【0007】
以上の特許文献1〜3により提案されたプリプレグの製造方法によれば、全て強化繊維シートとして製織により得られた強化繊維織物が使われているものの、いずれも予め製織され織機から下ろされた織物を使い、その表裏面の少なくとも一面にマトリックス樹脂を担持した樹脂担持シートの樹脂面を重ね合わせてから加圧加熱ロールにて加熱圧着して、マトリックス樹脂を強化繊維織物の内部に転移含浸させる、いわゆるホットメルト方式による含浸接着方法が開示されているが、例えば特開2003−136550号公報(特許文献4)によれば、織機上で製織される強化繊維織物を織機から下ろすことなく、織り上がった強化繊維織物の表面に粒子状のマトリックス樹脂を連続して散布したのち、加圧加熱して溶融樹脂を強化繊維織物の内部に含浸させてからロール状に巻き取るプリプレグの製造方法を提案している。
【特許文献1】特開昭58−31716号公報
【特許文献2】特開昭60−165211号公報
【特許文献3】特開2002−327076号公報
【特許文献4】特開2003−136550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1〜3にも記載されているとおり、従来の強化繊維織物を基材とする繊維強化樹脂成形物の中間材料であるプリプレグの製造の多くが、いわゆるホットメルト方式を採用している。ここでホットメルト方式とは、一般にシリコン樹脂などで表面を離型処理した離型性シート(離型紙又は合成樹脂フィルム)に、エポキシ樹脂などのマトリックス樹脂を均一に必要量をコートして担持させ、その樹脂面を強化繊維織物の表裏又は表裏両面の一方に重ね合わせ、加熱ロールなどによって加熱加圧して、繊維織物の内部に樹脂を含浸させてプリプレグを得る方法である。前記離型性シートは通常は2枚使用し、その少なくとも1枚はマトリックス樹脂を担持しており、繊維シート状物の両面に、各々合体させる。樹脂を含浸した後、冷却板などによって十分に冷却し、次いで片面の離型性シートを取り除いて、一方の離型性シートと樹脂含浸繊維織物との重ね合わせ体を一体に巻き取り、ロール状のプリプレグを得る。
【0009】
このホットメルト方式によれば、マトリックス樹脂を強化繊維織物の表面に均一に付与できて、強化繊維織物の内部に均質に含浸させることが可能である。また、マトリックス樹脂が溶剤を含まないため、プレプレグ・シートに溶剤が残留することがなく、その結果、成形工程における加熱時に溶剤が気化することがなくボイドの発生もない。更には、大がかりな乾燥設備が不要である。一方、上記特許文献4により開示された微粒子状のマトリックス樹脂を強化繊維織物の表面に散布して加熱加圧して溶融樹脂を織物の内部に含浸させる方法では、マトリックス樹脂を織物表面に均などに散布することが極めて難しい。
【0010】
ところで、ホットメルト方式を採用することによる上記利点も、例えば上記特許文献1〜3のように、ホットメルト方式による樹脂含浸工程を強化繊維織物の製織と別工程で独立して行う場合、織物の品質によってプリプレグ工程において大きなトラブルが発生している。特に、樹脂含浸方法がホットメルト方式の場合、強化繊維織物とマトリックス樹脂とを重ね合わせるとき、強化繊維織物の緯糸が蛇行し目曲がりを起こすケースが多く見られる。このように緯糸が蛇行し目曲がりを起こしたプリプレグを用いて成形体を作成した場合、繊維が蛇行しているために繊維軸がずれた状態で積層した成形体となり炭素繊維本来の機械的特性が得られない。
【0011】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その具体的な目的は、高品質の樹脂が含浸したプリプレグに代表される強化繊維織物中間材料が得られ、生産効率の高いホットメルト方式を採用した、強化繊維織物にマトリックス樹脂を含浸させるプリプレグの製造にあたって、強化繊維織物の緯糸に目曲がりの発生がない樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述のように樹脂含浸方法にホットメルト方式を採用すると、強化繊維織物とマトリックス樹脂とを重ね合わせる際、強化繊維織物の緯糸が蛇行し目曲がりを発生させる機構について様々な観点から検討を行った。その結果、強化繊維織物を製織するときに経糸間に張力むらがあると、その強化繊維織物の経糸の張力むら、すなわち紙菅から解舒されてから製織までの間に糸長に長短差が発生する。この経糸の長短差が織機から下ろされた後に張力が弛緩して強化繊維織物上で顕在化し、特にホットメルト方式による樹脂の含浸時に緯糸の目曲がりにつながることを発見した。従って、前記目曲がりの発生を抑えるには織機上に経糸張力を一定にすべく張力調整を厳格に行うことが有効である。
【0013】
しかしながら、特にこの種の強化繊維織物を製織する場合、ボビンクリールに掛けられた多数のボビンから個々に経糸が繰り出されたのち整列されて、織機上に直接供給される。更に織機上の到る間に、経糸には、例えば筬打ちや経糸の開口運動時などに発生する大きな張力変動が頻繁に起こるため、多数本にわたる個々の経糸張力を全体に均等となるように調整することは極めて困難である。そこで、発明者らは更に検討を行ったところ、本発明の特徴的構成を採用することにより、仮に各経糸間に通常と同様の張力差が発生していたとしても、ホットメルト方式による強化繊維織物に対する樹脂の含浸時に緯糸に特段の目曲がりが発生しないことを知った。
【0014】
すなわち、本発明の最も基本とする構成は、実質的に連続する炭素繊維を経糸及び緯糸に使用して炭素繊維織物を製織し、製織に引き続いて前記炭素繊維織物にホットメルト法により樹脂を連続して含浸させることを含んでなる樹脂が含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法にある。
【0015】
好ましい態様によれば、前記炭素繊維織物の目付が150〜600g/m2 である。また前記ホットメルト法の好ましい態様は、片面に樹脂を担持するホットメルトフィルムの樹脂面を、製織される前記炭素繊維織物の表面又は表裏両面に連続して添着させることと、前記樹脂面を製織された前記炭素繊維織物の表面だけに添着刷す場合には、炭素繊維織物の裏面に離型紙を連続して添着させることと、前記ホットメルトフィルム間又はと前記ホットメルトフィルムと離型紙との間に挟持されて移動する前記炭素繊維織物を加熱ロールにて加熱加圧してホットメルトフィルムを前記炭素繊維織物に転移含浸させることと、樹脂の含浸を終えた前記炭素繊維織物を巻き取りロールに連続して巻き取ることとを含んでいる。更に、前記加熱ロールの表面にエンボス加工を施すことが好ましい。
【発明の作用効果】
【0016】
ボビンクリールの多数のボビンから個々に繰り出される炭素繊維からなる経糸は、常法に従って綜絖に通して整列され、経糸の開口に炭素繊維からなる緯糸が挿入されたのち筬打ちがなされて織物となる。このとき、各経糸には紙管巻取り時の張力変動、経糸の開口や筬打ちによる大きな張力変動が生じるため、個々に供給される経糸の全ての張力を高精度に管理することは極めて困難であって、僅かではあっても各経糸間には張力変動に差が生じる。織り上がった織物が織機から下ろされたあとで、織物が弛緩して長尺になるほど経糸間の糸長差が加算されて大きな値となる。従来であれば、織機から下ろされた織物にホットメルト方式によって樹脂を含浸するときに、経糸に上記張力の弛緩や変動に基づく経糸間の長さの差が顕在化して、緯糸に目曲がりを発生させる。
【0017】
しかるに、本発明にあっては織機上で製織された強化繊維織物を、織機から下ろさずにそのまま引き続きホットメルト工程、すなわち前記強化繊維織物を、表面又は表裏両面に樹脂を担持するホットメルトフィルムの樹脂面を添着させるとともに、加熱ロールへと連続して移動させて、強化繊維織物をホットメルトフィルム間で、又はホットメルトフィルムと離型紙との間に挟持した状態で加熱ロールにより加熱加圧し、織物内部に溶融樹脂を含浸させる。このとき、加熱ロールは複数設けることができ、温度が50℃前後〜90℃前後の加熱ロールをもって段階的に含浸するようにすることがより好ましい。この樹脂の含浸時には、加熱加圧部位に到る間においても織物は弛緩せず、同時にその表裏面をホットメルトフィルムの樹脂と離型フィルムとにより挟持して移送されるため、各経糸には、織り上がり時の張力が糸長さ方向に分散せず、糸長差も発生しない。その結果、樹脂含浸時においても緯糸の目曲がりが表出しない。
【0018】
ここで、前記加熱ロールの表面にエンボス加工を施してあると、そのエンボス面に沿って溶融樹脂が織物の表面全体に均等に行きわたることに加えて、凸面が凹面以上にホットメルトフィルムを強く押圧して炭素繊維織物を構成する多数の炭素繊維間に溶融樹脂が侵入し、炭素繊維間の接着を確実にする。一方、前記炭素繊維織物の目付が150g/m2 より小さいと、樹脂が含浸した強化繊維織物中間材料が薄くてプリフォームとしても取り扱いが難かしくなり、600g/m2 を越えると樹脂が織物内部まで均等に含浸しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明の樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法を効果的に実施するために使用される製造装置の概略構成を示している。
同図に示すように、本発明に係る製造方法は、織機上で強化繊維織物を製織したのち、引き続いて製織を終えた織物の内部に、ホットメルト法を使ってマトリックス樹脂を直接含浸させることを特徴としている。
【0020】
本実施形態によれば、前記強化繊維織物の経糸1及び緯糸2には強化繊維として炭素繊維が使われる。この炭素繊維は、以降の成形後に得られる成形品の機械的特性が良好であることから好適に用いられている。この炭素繊維としてはポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維及びピッチ系の炭素繊維のいずれも使用可能である。また、前記経糸1及び緯糸2としては、多数の炭素繊維を引き揃えた状態で使われている。その炭素繊維織物3の目付は150〜600g/m2 が好適であって、その用途により適宜選択される。
【0021】
しかし、強化繊維織物に使用される強化繊維は、長繊維からなる強化繊維であり、炭素繊維以外にも、強化繊維中間材料から成形される成形体の使用目的に応じた様々なものが使用できる。例えば、黒鉛繊維、アラミド繊維などの有機強化繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維などが挙げられ、これらを単独でまたは複数を併用できる。炭素繊維、黒鉛繊維としては、用途に応じて多様な種類の特性をもつ繊維を用いることができるが、引張強度は400kgf/mm2 以上、引張弾性率が15MPa以上のものが、特に機械的物性に優れるので好適に用いられる。
【0022】
また、ホットメルトフィルムの材質についても特に限定されるものではなく、マトリックス樹脂との密着性とを考慮して、マトリックス樹脂の種類に応じて適宜、変更できる。例えば、離型フィルムとして従来から使用されているポリエチレン製のフィルムを使用することができる。本発明における離型フィルムには表面に離型処理がなされた紙も含まれる。
【0023】
マトリックス樹脂も特に限定されるものではない。本発明で使用する樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましく、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステルとビスマレイミド樹脂とを組み合わせた三菱ガス化学(株)製BTレジンなどが上げられるが、エポキシ樹脂を用いることができる。
【0024】
エポキシ樹脂としては、例えば2官能樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂や、或いはこれらを組み合わせた樹脂などが好適に用いられる。
【0025】
更には、3官能以上の多官能性エポキシ樹脂を用いることもできる。この多官能性エポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシメタン)のようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、或いはこれらの組み合わせが好適に用いられる。
【0026】
本発明のマトリックス樹脂にも硬化剤を添加することが好ましい。前記硬化剤としては、ジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタン、三フッ化硼素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。
【0027】
また、これらの硬化剤をマイクロカプセル化したものもプリプレグの保存安定性を高めるために好適に用いることができる。これらの硬化剤には硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組み合わせることができる。好ましい例としては、ジシアンジアミドに3―(3、4―ジクロロフェニル)―1、1、ジメチル尿素(DCMU)等の尿素誘導体あるいはイミダゾール誘導体を硬化促進剤として組み合わせる例、カルボン酸無水物やノボラック樹脂に第三アミンを硬化促進剤として組み合わせる例などが挙げられる。
【0028】
またこれらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させたものをマトリックス樹脂の組成物中に配合することもできる。この方法は粘度調節や保存安定性向上に有効である場合がある。
【0029】
更に、上述したマトリックス樹脂に加えて、樹脂粘度の制御やプリプレグの取扱い性を制御する目的で、熱可塑性樹脂を配合してもよい。その場合、エポキシ樹脂との相溶性や、複合材料としたときの物性へ悪影響を及ぼさないことなどを考慮して樹脂を選択する。好ましい例としては、ポリビニルフォルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンオキサイド、ポリメチルメタアクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリインミド等がある。また、これらの樹脂を2種類以上混合しても構わない。
【0030】
また、添加剤として、ゴム粒子、可溶性のゴム、コアシェル構造のゴムなどを含有させることができる。これらは少なくとも母体樹脂に一部溶解しているか、或いは溶解せずに粒子状で存在するが、本発明では品質の良好なプリプレグを得るため、粒子状で存在する場合には、実質的に粒子径が約50μm以上のものは含まれないよう、予め粒子を粉砕しておくか溶解させておくことが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る炭素繊維織物中間材料の製造方法にあっては、図1に示すとおり、従来のレピヤ織機、グリップ織機、ウォータジェットルーム、エアジェットルームなどのシャトルレス織機を使い、ボビンクリール11上の多数のボビン12から解除された、例えば500本程度の炭素繊維束からなる多数の経糸1を、通常の製織時のごとく整経工程を経ることなく、複数のガイドロール及びニップロールを介して綜絖(ヘルド)13に直接通して整列し、織組織に基づく綜絖13の上下動により多数の経糸1間に形成される開口内に炭素繊維束からなる緯糸2が打ち込まれたのち、筬14によって筬打ちがなされて織物となる。通常は織機の回転数は200rpmであって、経糸1の送り速度は0.4m/minである。製織後の炭素繊維織物3は織機から下ろされることなく、織成に引き続いて前方に配された引出しロール15へと送られる。引出しロール15の下方には第1案内ロール16が配されており、前記炭素繊維織物3は前記第1案内ロール16を介して前方へと移動する。
【0032】
一方、前記第1案内ロール16の後方には片面にシリコーンなどの離型剤が塗布されたロール状に巻かれた離型フィルム4が、その離型剤塗布面を前記炭素繊維織物3に重なるように引き出されて前記案内ロール16で合流し、炭素繊維織物3と離型フィルム4とが重ね合わされた状態で更に前方へと送られる。前記第1案内ロール16の前方には、ホットメルト樹脂を炭素繊維織物に接合案内するための第2案内ロール17が配されている。この第2案内ロール17の下面側に前記炭素繊維織物3と離型フィルム4とを重ね合わせた状態で導入される。
【0033】
前記第2案内ロール17の上方の斜め前方には、図2に拡大して示すように、ロール状に巻き上げられた、炭素繊維織物3に含浸されるマトリックス樹脂となるホットメルト樹脂層5を2枚の離型フィルム6,7をもって表裏両面を挟持したホットメルトフィルム8のロール体9が配されている。このときの樹脂層の厚みは、織物の片面に含浸させる場合は80〜300μmであることが好ましく、両面の場合には40〜150μmとすることが好ましい。このロール体9から引き出されるホットメルトフィルム8は、前記第2案内ロール17の半周を巻き回されて前記炭素繊維織物3と第2案内ロール17との間に導入される。この導入に先立って、前記ホットメルトフィルム8の第2案内ロール16とは反対側の表面に配された離型フィルム6は剥離案内ロール18を介して案内され、前記ホットメルト樹脂層5から剥離されて離型フィルム巻取り用紙管10に巻き取られる。従って、ホットメルトフィルム8が第2案内ロール17に導入されるときは、前記ホットメルト樹脂層5が前記炭素繊維織物3の上面に直接添着されることになる。本実施形態にあっては、一方の離型フィルム6の材質はポリエチレンであり、他方の離型フィルム7の材質は離型処理がなされた剥離紙が使われる。
【0034】
上記第2案内ロール17の前方には、上下一対の加熱加圧ロール19,20が配されている。前記炭素繊維織物3、離型フィルム4、ホットメルト樹脂層5及び離型フィルム7は、一体とされて前記加熱加圧ロール19,20の間に導入されて加熱加圧される。このとき、加熱加圧ロール19,20を多段に設けておき、順次高温としていくことが好ましく、その予備加熱温度は50〜60℃であることが望ましく、最後の本加熱温度を80℃〜110℃とすることが好ましい。また、このときの加圧力は0.1〜0.3Mpaとする。この加熱加圧により、ホットメルト樹脂層5は溶融して流動化し、炭素繊維織物3の内部に効果的に含浸させることができる。ホットメルト樹脂が含浸した炭素繊維中間材料3’は第3案内ロール21に案内されて図示せぬ巻取機に巻き取られる。
【0035】
上記実施形態では、1枚のホットメルトフィルムの片面に担持されたホットメルト樹脂層を炭素繊維織物の片面に添着してこれを加熱圧着して、炭素繊維織物にマトリックス樹脂であるホットメルト樹脂を含浸させている。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、片面にホットメルト樹脂層を形成したホットメルトフィルムによりその樹脂面を内側にして強化繊維織物の表裏両面から挟み、強化繊維織物に樹脂を含浸させることもできる。
【0036】
上述の実施形態により得られる炭素繊維織物中間材料は、製織される炭素繊維織物が織機から下ろされることなく、連続して炭素繊維織物に直ちにホットメルト法によるホットメルト樹脂が含浸されるため、その含浸時にも経糸には製織直後の張力分布が維持されていることにより、織目形態が変動せず、特に緯糸の目曲がりの発生が効果的に抑制される。また本実施形態によれば、上記加熱加圧ロール18の周面にエンボス加工を施している。勿論、エンボス加工を施さずに平滑面に形成してもよい。しかして、このエンボス加工により、加熱加圧時にエンボス面の凸部と凹部とがホットメルト樹脂層5を介して炭素繊維織物3を強弱の違いをもって加圧するため、ホットメルト樹脂層5は凸部により周辺の凹部に拡散され、溶融状態にあるホットメルト樹脂が炭素繊維織物3の全体に亘り均等に含浸し、炭素繊維織物3の構成繊維間にも侵入して繊維同士をもしっかりと接着させるよになり、より好ましい。
【0037】
[実施例1〜5及び比較例1〜3]
以下に、本発明をより具体的な実施例に基づき比較例とともに説明する。
【0038】
実施例1〜5及び比較例1〜3には、強化繊維織物の経糸及び緯糸には強化繊維として同じ三菱レイヨン株式会社製パイロフィル(炭素繊維)が使われており、各経糸及び緯糸は、それぞれ3000フィラメントからなる炭素繊維を引き揃えた繊維束からなる。実施例1〜5及び比較例1〜3にあっては、経糸を500本使い、その炭素繊維織物の目付を200g/m2 としている。使用織機にはレピア式織機が使われ、織機の回転数は200rpmであり、経糸の送り速度を0.4m/minとしている。
【0039】
炭素繊維織物の織成は、図1に示すように、ボビンクリール上にかけられた500個のボビンから解除された炭素繊維束からなる各経糸を、複数のガイドロール及びニップロールを介して直接綜絖に通して整列させ、経糸間に形成される開口内に同じく炭素繊維束からなる緯糸を打ち込んだのち、筬打ちがなされて織物となる。実施例1〜5と比較例1及び2は、製織後の炭素繊維織物を織機から下ろすことなく、織成に続いて前方に配された引出しロールへと送り込む。引出しロールへと送られる炭素繊維織物は第1案内ロールを介して更に前方へと移動する。
【0040】
ここで、実施例1、2、比較例1及び3では、マトリックス樹脂であるホットメルト樹脂層を炭素繊維織物の片面に配して転移含浸させている。そのため、炭素繊維織物が第1案内ロールを通るとき、片面にシリコーンなどの離型剤が塗布された離型フィルムの離型剤塗布面を前記炭素繊維織物に重ね合わせて合流させる。
【0041】
また、実施例3〜5及び比較例2では、マトリックス樹脂であるホットメルト樹脂層を炭素繊維織物の表裏両面に配して転移含浸させている。そのため、第1案内ロールに導入される炭素繊維織物に、片面にシリコーンなどの離型剤が塗布された離型フィルムの離型剤塗布面にホットメルト樹脂層を担持させたシートの樹脂面を前記炭素繊維織物に重ね合わせるようにして、同シートを合流させる。
【0042】
合流した炭素繊維織物及び離型フィルム又はシートは、前記第1案内ロールの前方に配された第2案内ロールの下面側へと導入される。このとき同時に、マトリックス樹脂となるホットメルト樹脂層を2枚の離型フィルムをもって表裏両面で挟持した図2に示すホットメルトフィルムを、前記第2案内ロールの半周を巻き回したのち、前記炭素繊維織物と第2案内ロールとの間に導入する。実施例1〜5及び比較例1〜3にあっては、ホットメルトフィルムから剥離する一方の離型フィルムの材質はポリエチレンであり、炭素繊維織物との間でホットメルト樹脂層を挟持する他方の離型フィルムの材質として離型処理がなされた剥離紙が用いられている。実施例1〜5及び比較例1〜3の前記ホットメルト樹脂層の転移厚みは、表1に示すとおりである。
【0043】
ホットメルト樹脂層が片面又は両面に重ね合わされて一体化した炭素繊維織物は、次いで上記第2案内ロールの前方に配された上下一対からなる2組の加熱加圧ロールの間に剥離フィルムとともに導入されて加熱加圧される。このとき、第1組の加熱加圧ロールと第2組の加熱加圧ロールの温度は、表1に示すとおりである。また、このときの加圧力は表1に示すとおりである。この加熱加圧により、ホットメルト樹脂層は溶融して流動化し、炭素繊維織物の内部に含浸する。ホットメルト樹脂が含浸した炭素繊維中間材料は第3案内ロールに案内されて巻取機により巻き取られる。
【0044】
ここで、実施例1〜5と比較例1及び2は、上述の連続工程を経て炭素繊維中間材料を得ているが、比較例3は、既述したとおり炭素繊維織物は製織後に織機から下ろされ、一旦巻き取ったのち、上述の工程を経てホットメルト樹脂を炭素繊維織物に転移含浸させている。
【0045】
なお、表1の緯糸の目曲がり判定において「○」は目曲がりが殆どなく、「△」は目曲がりが若干発生しており、「×」は目曲がりが発生している場合を示している。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から理解できるように、加熱加圧ロールの加圧力が0.4Mpa以上高くなり、且つ樹脂転移時の樹脂厚みが110μm以上では緯糸の目曲がりの発生が顕著となり、同時に炭素繊維織物にホットメルト樹脂を含浸させるとき樹脂流れが発生する。また、仮に加熱加圧ロールの加圧力が0.4より小さい場合でも、炭素繊維織物の織製に続いてホットメルト法に基づくマトリックス樹脂を炭素繊維織物に転移含浸させずに、炭素繊維織物を織製後に織機から一旦下ろしたのちに別途樹脂含浸処理を行っても機械的特性に優れた炭素繊維中間材料を得ることができない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の製造工程を概略で示す説明図である。
【図2】図1に矢印で示すA部の拡大図である。
【符号の説明】
【0049】
1 経糸
2 緯糸
3 炭素繊維織物
3’ 炭素繊維織物中間材料
4 離型フィルム
5 ホットメルト樹脂層
6,7 離型フィルム
8 ホットメルトフィルム
9 ロール体
10 離型フィルム巻取り用紙管
11 ボビンクリール
12 ボビン
13 綜絖(ヘルド)
14 筬
15 引出しロール
16 第1案内ロール
17 第2案内ロール
18 剥離案内ロール
19,20 加熱加圧ロール
21 第3案内ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に連続する強化繊維からなる経糸及び緯糸を使用して強化繊維織物を製織し、その製織に引き続いて前記強化繊維織物にホットメルト法により樹脂を連続して含浸させることを含んでなる樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維織物の経糸及び緯糸が炭素繊維からなる炭素繊維織物である請求項1記載の強化繊維織物中間材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素繊維織物の目付が150〜600g/m2 である請求項2記載の強化繊維織物中間材料の製造方法。
【請求項4】
前記ホットメルト法は、
離型フィルムの片面に樹脂を担持するホットメルトフィルムの樹脂面を、製織される前記炭素繊維織物の表面に連続して添着させることと、
製織される前記炭素繊維織物の裏面に離型フィルムを連続して添着させることと、
前記ホットメルトフィルムと前記離型フィルムとの間に挟持されて移動する前記炭素繊維織物を加熱ロールにて加熱加圧して、ホットメルトフィルムに担持される樹脂を前記炭素繊維織物に転移含浸させることと、
樹脂の含浸を終えた前記炭素繊維織物を巻き取りロールに連続して巻き取ることと、
を含んでなる請求項2又は3に記載の樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法。
【請求項5】
前記ホットメルト法は、
離型フィルムの片面に樹脂を担持するホットメルトフィルムの樹脂面を、製織される前記炭素繊維織物の表裏面に連続して添着させることと、
前記ホットメルトフィルム間に挟持されて移動する前記炭素繊維織物を加熱ロールにて加熱加圧して、ホットメルトフィルムに担持された樹脂を前記炭素繊維織物に転移含浸させることと、
樹脂の含浸を終えた前記炭素繊維織物を巻き取りロールに連続して巻き取ることと、
を含んでなる請求項2又は3に記載の樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法。
【請求項6】
前記加熱ロールの表面にエンボス加工を施すことを含んでなる請求項4又は5に記載の樹脂を含浸した強化繊維織物中間材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19313(P2009−19313A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184740(P2007−184740)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】