説明

樹脂モールドバスバおよびそれを用いた電力変換装置

【課題】弾性変形によりバスバの接続部の位置ずれを吸収しつつも、樹脂モールドバスバと電気機器との接続信頼性を向上するバスバおよびそれを用いた電力変換装置を提供する。
【解決手段】接続部6を腕木部5よりも幅方向に長くすることで、腕木部の長手方向に作用する曲げモーメントに対する接続部の剛性は腕木部の剛性よりも大きくなる。したがって、樹脂モールドバスバ1の接触面7に垂直な方向に荷重が加わったときに、腕木部5が屈曲し、接続部7の位置ずれを吸収できるとともに、接合信頼性に影響を及ぼす接続部7の変形を軽減できる。また、接続部6は周囲の電気機器の本体部の上面よりも上方に延伸しているため、押さえ冶具を挿入するスペースを確保できる。この結果、接合作業性が向上し、接合信頼性が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する板状の導電部材と導電部材の外周を樹脂で覆う樹脂モールド部とを有する樹脂モールドバスバに関するものであり、具体的には、電気機器の端子との接続を容易かつ確実に行うことのできる樹脂モールドバスバおよびそれを用いた電力変換装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車において、バッテリーからの直流電力を交流電力に変換する電力変換装置が広く用いられている。この電力変換装置に内蔵されるスイッチング素子、コンデンサ、リアクトル等の電気機器の端子間の接続にバスバが用いられる。
【0003】
そして、電気機器の端子接続に用いられるバスバとして、バスバの端子を弾性変形させることによって、位置ずれを吸収して電気的な接続を行う技術が下記特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−219739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明では、バスバ端子の全体を弾性変形させる構造であり、バスバの端子と電気機器の端子とが接触する部分までも弾性変形させているため、バスバ端子と電気機器の端子との接合部分に変形による応力が残存することになる。そして、接合部に応力が残存している状態でバスバに繰り返し振動などが加わると、接合部にクラック等が発生し、接合信頼性が確保できないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情に鑑み、弾性変形によりバスバの接続部の位置ずれを吸収しつつも、樹脂モールドバスバと電気機器との接続信頼性を向上するバスバおよびそれを用いた電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、導電性を有する導電部材と、導電部材を樹脂で覆う樹脂モールド部と、樹脂モールド部から突出した導電部材よりなるバスバ端子部と、を有する樹脂モールドバスバであって、バスバ端子部は、樹脂モールド部から外側に延びる腕木部と、腕木部の先端において電気機器の端子と接触する接触面を有する接続部とを有し、接触面に垂直な方向に荷重が加わったときに腕木部の長手方向に作用する曲げモーメントに対する接続部の剛性が腕木部の剛性よりも大きいことを特徴としている。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、接触面に垂直な方向および腕木部の長手方向に対して直交する方向を前記バスバ端子の幅方向と定義したときの接続部の幅方向寸法が腕木部の幅方向寸法よりも大きいことを特徴としている。
【0008】
また、請求項3に記載の発明では、接続部は、腕木部よりも上方に突出するとともに、樹脂モールドバスバが接続された電気機器の本体部の上面よりも上方に突出していることを特徴としている。
【0009】
また、請求項4に記載の発明では、前記バスバ端子部を複数有し、複数の前記接触面に加わる荷重の向きが同一であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項5に記載の発明では、一のバスバ端子部と隣接する他のバスバ端子部とは樹脂モールド部の互いに平行でない異なる外表面から突出し、一のバスバ端子部の腕木部が曲折することにより一のバスバ端子部の接触面と他のバスバ端子部の接触面が平行に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の記載に係る発明は、接触面に垂直な方向に荷重が加わったときに、腕木部の長手方向に作用する曲げモーメントに対する接続部の剛性が腕木部の剛性よりも大きいことから、剛性の小さい腕木部を屈曲させて接続部の位置ずれを吸収するとともに、接続部の変形を低減できることから接合信頼性を向上させることができる。
【0012】
請求項2の記載に係る発明は、接続部の幅方向寸法を腕木部の幅方向寸法よりも大きくして接続部の剛性を大きくしており、簡易な構成で接続部の剛性を大きくすることができる。
【0013】
請求項3の記載に係る発明は、接続部を周囲の電気機器の本体部の上面よりも上方に突出させるため、バスバ端子部と電気機器の端子とを接合する場合に、両者の端子を密着させるための押さえ冶具を挿入するスペースを確保することができる。これにより、接合の作業性が向上し、より接合信頼性を高めることができる。
【0014】
請求項4の記載に係る発明は、複数のバスバ端子と複数の電気機器の端子とを接合する場合に、複数の接触面を互いに平行にするとともに、荷重の向きを同一にすることで、複数のバスバ端子の接合作業を迅速かつ容易に行うことができる。
【0015】
請求項5の記載に係る発明は、隣接するバスバ端子部間の沿面距離長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(樹脂モールドバスバの全体構成)
図1〜4に本発明の一実施形態に係る樹脂モールドバスバ1の概略構成図を示す。樹脂モールドバスバ1は、導電部材2と導電部材2を樹脂でモールドした樹脂モールド部3で構成される。
【0017】
導電部材2は、銅、銅合金、アルミニウム又はその他適当な導電性金属材からなる。導電部材2は線材から形成しても良いし、一体的な金属部材を抜き打ち加工して作成しても良い。また、複数の別体の部材を溶接その他の接続作業により組み合わせて作成することも可能である。
【0018】
導電部材2は全部で4体あり、そのうち3体の導電部材2は、両端部を除き、残り1体の導電部材2は、一端部を除き、樹脂で一体化されている。樹脂で被覆された部分が樹脂モールド部3となる。樹脂モールド部3は、上記3体の導電部材2を互いに絶縁している。上記残り1体の導電部材2は上記3体の導電部材のうち1体とのみ導電し、他2体の導電部材2とは絶縁の関係にある。
【0019】
4体の導電部材2の端部は、樹脂で被覆されず、金属が露出している。4体の導電部材2のうち、3体の一端部は、樹脂モールド部3の上方部側面から薄い板状となって延伸しており、バスバ端子部4を形成している。
【0020】
残りの1体である導電部材2の一端部は、薄い板状となって延伸し、その先に導電性ボルト穴8aを形成し、他端部は樹脂モールド部3内で接続部6aを形成する導電部材2と電気的に接続されている。
【0021】
樹脂モールド部3の部位のうち、鉛直下方方向に延伸びる部分は、コネクタ部11であり、電子機器電気機器の端子との接続に用いられる。コネクタ部11からはバスバ端子部4を形成している3体の導電部材2の他端部がそれぞれコネクタピン12として露出している。
【0022】
バスバ端子部4は、一枚の金属板をL字形に打ち抜いて形成したもので、樹脂モールド部の側面から水平方向外側に延びる腕木部5と、腕木部5の先端から鉛直方向上方に延びる接続部6とを有している。接続部6は、電気機器の端子と接触する接触面7を有する。ここで、接触面7に垂直な方向および腕木部5の長手方向に対して直交する方向をバスバ端子部4の幅方向と定義したときの接続部6の幅方向寸法が腕木部5の幅方向寸法よりも大きい。
接続部6aは別体の補助金属板13を取り付けられており、腕木部5aよりも厚みが大きくなっている。接続部6の幅方向寸法を腕木部5の幅方向寸法よりも大きくしたことで、接触面7に垂直な方向に荷重が加わったときに、腕木部5の長手方向に作用する曲げモーメントに対する接続部6の剛性を腕木部5の剛性よりも大きくでき、剛性の小さい腕木部5を屈曲させて接続部6の位置ずれを吸収するとともに、接合信頼性に影響を及ぼす接続部6の変形を低減できる。
【0023】
接続部6の剛性を腕木部5の剛性よりも大きくする手段としては、上記手段の他に、接続部6aのように接続部6を腕木部5よりも厚くすることや、接続部6の材質を腕木部5の材質よりもヤング率が大きいものにすることが挙げられる。
なお、バスバ端子部4の形状はL字に限定されるものではなく、T字形など接続部6の幅方向寸法が腕木部5の幅方向寸法よりも大きいものであれば足りる。
【0024】
(複数のバスバ端子部の構造)
腕木部5a〜5cはそれぞれ樹脂モールド部3の互いに平行でない異なる面から延伸しつつも、接触面7は互いに平行となっている。
【0025】
腕木部5a〜5cは沿面距離を確保するために樹脂モールド部3の外表面のうち、それぞれ異なる面から突出している。
【0026】
樹脂モールド部3の腕木部5bが突出する箇所は、凸状に外側に突出する形状を有し、腕木部5bと他の腕木部5a、5cとの沿面距離を長くしている。
【0027】
図5に示す参考図を用いて、実施形態例と比較例を対比して説明する。図5(a)は実施形態例のバスバ端子部4、図5(b)は比較例のバスバ端子部4を示す。
【0028】
図5(a)では、腕木部5cは、曲折部14を有する。腕木部5cを腕木部5bが突出する面と垂直な関係にある面から突出させ、腕木部5cは樹脂モールド部3の外表面近傍で曲折し、接触面7cが接触面7a及び7bと互いに平行な関係になるようにしている。
【0029】
つまり、曲折部14と腕木部5cの突出点15との距離hを突出点15と突出面と前記突出する面の間に位置する挟辺16との距離yよりも短くしており、同一方向に腕木部5を突出させた図5(b)の場合よりも、樹脂モールド部は小型化され、かつ、樹脂モールド部の同一面から突出させた場合よりも沿面距離が長くなる。
【0030】
(ボルト部の構造)
樹脂モールド部3の上部両端に電力変換装置に固定するために用いる非導電性ボルト穴8bを形成し、樹脂モールド部3の裏側の両端に位置合わせのために使用される凸部17を設ける。
【0031】
樹脂モールドバスバ1の凸部17を電力変換装置に設けた凹部にはめ込むことで、確実な位置合わせが可能となる。
【0032】
(コネクタ部)
コネクタ部11の内側面に突部18が形成され、コネクタ部下方に嵌合穴19が形成される。
【0033】
コネクタ部11に突部18を形成することで、誤って斜めにコネクタピン12を電力変換装置に嵌め込み、コネクタピン12の破損や折れ曲がりを生じるといった不具合を防ぐことができる。
【0034】
内側面に形成される突部18はこの形状に限られず、凹凸部や凹部等その他係合できる形状で足りる。
【0035】
コネクタピン12は電力変換装置内部にある直流電圧検出基板の高電圧検出部に接続される。
【0036】
(バスバを電力変換装置に取り付けた状態の形状)
図6に電力変換装置に取り付けられた本発明の樹脂モールドバスバ1の上面図、図7にバスバ端子と電力変換装置に内蔵された電気機器の機器端子部21との接続箇所の斜視図を示す。樹脂モールドバスバ1は、樹脂モールドバスバ1の下端にあるコネクタ部11を電力変換装置内のコネクタ端子(図示せず)にはめ込まれ、樹脂モールドバスバ1の接続部6a、6b、6cはそれぞれ電気機器上面にある機器端子部21に溶接接合される。接続部6と機器端子部21との接続はアーク溶接やハンダ溶接といった接続作業によって行われる。
【0037】
接続部6a〜6cの先端は、すべて同じ高さに統一され、樹脂モールドバスバ1が接続される電気機器の本体部上面より上方に位置する。ここで、電気機器の本体部とは、電力変換装置内のリアクトル、コンデンサおよびスイッチング素子などの電気機器のうち外表面に突出する端子を除いた部分をいう。
【0038】
接続部6の先端を電気機器の本体部の上方に配置した結果、バスバ端子部4と電気機器の端子とを溶接接合する場合に、両者の端子を密着させるための押さえ冶具を挿入するスペースを確保できる。これにより、溶接接合の作業性が向上し、より接合信頼性が向上する。
【0039】
樹脂モールドバスバ1は、高電圧検出部の制御信号を電気機器の上面に設置された制御基板に接続するために用いられる。
【0040】
樹脂モールドバスバ1を取り付ける電気機器は限定されるものではなく、種々の電気機器にも取り付けることができる。
【0041】
上述の樹脂モールドバスバ1によれば、接続部6は腕木部5よりも幅方向に長いことから、腕木部の長手方向に作用する曲げモーメントに対する接続部の剛性は大きくなる。よって、樹脂モールドバスバ1の接触面7に垂直な方向に荷重が加わったときに、腕木部5が屈曲し、接続部7の位置ずれを吸収できるとともに、接合信頼性に影響を及ぼす接続部7の変形を軽減できる。
【0042】
接続部6は周囲の電気機器の本体部の上面よりも上方に延伸しているため、押さえ冶具を挿入するスペースを確保できる。この結果、接合作業性が向上し、接合信頼性が高くなる。
【0043】
複数のバスバ端子部4と複数の電気機器の端子とを溶接接合する場合に、樹脂モールドバスバ1の複数の接触面7a、7b、7cが平行であるため、複数の溶接接合作業を迅速かつ容易に行うことができる。
【0044】
なお、機器端子部21の構造をバスバ端子部4と同様の構造にすることで、機器端子部21とバスバ端子部4の両側において、寸法公差を吸収でき、その効果は倍増される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る樹脂モールドバスバの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る樹脂モールドバスバの下面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る樹脂モールドバスバの背面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る樹脂モールドバスバの右側面図である。
【図5】本発明と従来の2の腕木部の対比図である。
【図6】樹脂モールドバスバを電力変換装置に取り付けた際の上面図である。
【図7】バスバ端子と電気機器端子部との接続箇所の斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 樹脂モールドバスバ
2 導電部材
3 樹脂モールド部
4 バスバ端子部
5 腕木部
6 接続部
7 接触面
8a 導電性ボルト穴
8b 非導電性ボルト穴
11 コネクタ部
12 コネクタピン
13 補助金属板
14 曲折部
15 突出点
16 挟辺
17 凸部
18 突部
19 嵌合穴
21 機器端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する導電部材と、前記導電部材を樹脂で覆う樹脂モールド部と、前記樹脂モールド部から突出した前記導電部材よりなるバスバ端子部と、を有する樹脂モールドバスバであって、前記バスバ端子部は、前記樹脂モールド部から外側に延びる腕木部と、前記腕木部の先端において電気機器の端子と接触する接触面を有する接続部とを有し、前記接触面に垂直な方向に荷重が加わったときに前記腕木部の長手方向に作用する曲げモーメントに対する前記接続部の剛性が前記腕木部の剛性よりも大きいことを特徴とする樹脂モールドバスバ。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂モールドバスバであって、前記接触面に垂直な方向および前記腕木部の長手方向に対して直交する方向を前記バスバ端子の幅方向と定義したときの前記接続部の幅方向寸法が前記腕木部の幅方向寸法よりも大きいことを特徴とする樹脂モールドバスバ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂モールドバスバにより内蔵する電気機器を電気的に接続する電力変換装置であって、前記接続部は、前記腕木部よりも上方に突出するとともに、前記樹脂モールドバスバが接続された電気機器の本体部の上面よりも上方に突出していることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3記載の電力変換装置であって、前記バスバ端子部を複数有し、複数の前記接触面に加わる荷重の向きが同一であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4記載の電力変換装置であって、一のバスバ端子部と隣接する他のバスバ端子部とは前記樹脂モールド部の互いに平行でない異なる外表面から突出し、前記一のバスバ端子部の腕木部が曲折することにより前記一のバスバ端子部の前記接触面と前記他のバスバ端子部の前記接触面が平行に設けられていることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate