説明

樹脂成形品およびこれを用いた筆記具

【課題】ネジ付きコアピンの無理抜きによる生産性を確保することができ、内周面の雌ネジの形成部分にムシレや白化を発生させる度合いを低減させた樹脂成形品を得ること。
【解決手段】キャビティ31b,32b,32cと、コアピン31a,32aとにより形成される金型空間において樹脂成形品18が成形される。成形品の成形後にネジ付きコアピン32aを成形品から無理抜きすることにより、内周面に雌ネジが形成された成形品18が得られる。前記成形品18における内周面の雌ネジの形成位置に対応する外面に、軸方向に延びる薄肉部が成形され、前記ネジ付きコアピン32aを無理抜きすることによって、前記薄肉部にクラックを発生させる。前記クラックの発生により成形品18の雌ネジ部分にムシレや白化等の欠陥を残すのを解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内周面に雌ネジを施した樹脂成形品、およびこの樹脂成形品を例えば回転型の円筒カムとして用いることで、筆記体の先端部を軸先から突出および没入させることができる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒中に複数の筆記体を収容し、所定の繰り出し操作により、軸筒の前方からいずれか一つの筆記体の先端部を繰り出す構造の複式筆記具が提供されている。
この複式筆記具には、軸筒に収容された複数の筆記体のうちの一つを選択的に繰り出す繰り出し機構が備えられており、その繰り出し機構の駆動方式として回転繰り出し式と呼ばれるものがある。この回転繰り出し式は、特許文献1に開示されているように、前軸に対して後軸を回転させることにより、前軸の前方から筆記体の先端部を選択的に出没させるものである。
【0003】
より具体的には、筆記具の外郭を構成する軸筒内に円筒カムが装填され、前軸に対して後軸を回転させることにより筆記体の後端部に設けられた摺動コマが前記円筒カムのカム面を摺動するように構成されている。
そして、前記円筒カムのカム頂部に設けられた所定深さの凹部に、摺動コマの凸部が嵌ることによって、選択された筆記体の先端部が軸筒の先端から突出した状態に維持される。この状態から更に前軸に対して後軸を回転させることによって、前記円筒カムにおけるカム頂部の凹部から、摺動コマの凸部が外れ、軸筒内に筆記体が没入される構成となっている
【0004】
ところで、前記した複式筆記具に用いられる円筒カムは、後述するように内周面に雌ネジが形成され、この雌ネジを利用して他の構成部品を取り付けるなどの構成が採用される。このように内周面に雌ネジを施した樹脂成形品を射出成形により得る場合には、一般的に、樹脂成形品の外周面を形成するためのキャビティと、前記雌ネジを含めた樹脂成形品の内周面を形成するためのネジ付きのコアピンとを用いて成形する。
【0005】
そして、成形後において樹脂成形品から前記ネジ付きコアピンを取り外す際には、樹脂成形品からネジ付きコアピンを直線的に軸腺方向に引き抜く、いわゆる無理抜きをすることにより、製造の時間と手間を省くことが一般的に行われている。
【0006】
したがって、前記したように内周面に雌ネジが施され、これが内周面に深いアンダーカットを有するものほど、前記した無理抜きにより、樹脂成形品にいわゆるムシレや白化等の欠陥が発生する度合いが大きく、前記内周面における雌ネジに螺合する他の構成部品との間において接続不良を招来させるという問題を抱えることになる。
【0007】
そこで、樹脂成形品の内周面を形成するためのネジ付きコアピンが離型時に弾性変形できるように雌コアにスリット部を形成し、このスリット部に着脱される雄コアとを組み合わせることで、前記したムシレや白化等の発生を解消させた樹脂成形品が特許文献2に開示されている。
また、樹脂成形品の内周面における前記雌ネジと交差するように軸方向に溝部を形成することで、前記ムシレや白化等の発生を防止させることが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平6−15748号公報
【特許文献2】実開平5−76721号公報
【特許文献3】特開2002−316496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2および3に開示の樹脂成形品を得るには、樹脂成形品の内周面を形成するための複数の組み合わせのコアピンが必要になること、また1つ毎の樹脂成形にあたって、コアピン同士(雌コアと雄コア)の回転方向の位置合わせが必要になること、さらにコアピン同士の合わせ部分の隙間により成形品の内周面に余分なバリ等が発生することがあり、これにより高品質な成形部品を得ることが難しくなるなどの問題が生ずる。
【0010】
以上のことから、この発明は、前記した問題点に着目してなされたものであり、内周面の雌ネジの形成位置に対応した樹脂成形品の外面に軸方向に延びる薄肉部(割れ目)を形成し、離型時において前記薄肉部に意図的にクラック(割れ)を発生させやすくすることで、ネジ付きコアピンの無理抜きによる生産性を確保すると共に、前記雌ネジの形成位置にムシレや白化を発生させる度合いを低減させた樹脂成形品を提供することを課題とするものである。
またこの発明は、前記樹脂成形品を円筒カムとして用い、軸筒内に収容された複数の筆記体の先端部を択一的に軸筒の前方に繰り出すことができる複式筆記具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る樹脂成形品は、キャビティとネジ付きコアピンとを用いて、ネジ付きコアピンを無理抜きすることにより成形される樹脂成形品であって、内周面の雌ネジの形成位置に対応する外面に、軸方向に延びる薄肉部を形成し、前記ネジ付きコアピンの無理抜き時において、前記薄肉部にクラックを発生させやすくすることを特徴とする。
【0012】
この場合、前記薄肉部の形成位置は、軸方向に直交する断面形状が、前記薄肉部を中央にしてV字状に成形されていることが望ましい。
加えて、前記樹脂成形品の好ましい形態においては、射出成形時におけるウエルド(樹脂の合わせ部分)に、前記薄肉部によるクラックが発生させやすい構成とする。
【0013】
また、前記樹脂成形品の他の好ましい形態においては、前記コアピンの軸芯を挟んで対称となる位置にゲート跡を有し、前記ゲート跡間における周方向の中央部に前記薄肉部によるクラックが発生させやすい構成とする。
【0014】
さらに、前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る筆記具は、軸筒内に収容された複数の筆記体と、前記筆記体の夫々の後端部に連結された摺動コマと、軸周りに回転可能に設けられ、前記摺動コマが摺動可能な円筒カムとが具備され、前記円筒カムの回転により前記摺動コマを前後移動させて、選択的に一つの筆記体の先端部を軸先から突出させる複式筆記具であって、前記円筒カムに前記した樹脂成形品を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前記した樹脂成形品によると、キャビティとネジ付きコアピンとの間において成形された成形品から、前記ネジ付きコアピンを無理抜きすることで、成形品の軸方向に形成された薄肉部にクラックを発生させやすいように施すことができる。
これにより、コアピンが成形品から離れる際、クラックによって成形品が内径を若干拡張することで、雌ネジにムシレや白化等の欠陥を残すのを防止することができる。
【0016】
この場合、樹脂成形品の成形時におけるウエルド(樹脂の合わせ部分)に、前記薄肉部が形成されるようにすることで、コアピンの無理抜きにより、容易に前記薄肉部にクラックを発生させやすいように施すことができる。
また、コアピンの軸芯を挟んで対称となる位置にゲートを備える場合には、前記ゲート間における周方向の中央部に前記薄肉部を形成する。
これにより前記薄肉部とウエルドの位置をほぼ一致させることができ、コアピンの無理抜きにより、前記薄肉部に容易にクラックを発生させやすいように施すことができる。これにより、コアピンの無理抜きによって生ずる雌ネジにムシレや白化等の欠陥を残すのを防ぐことができる。
【0017】
そして、軸筒内に複数の筆記体を収容して、択一的に筆記体の先端部を軸先から突出させる複式筆記具における円筒カムに前記樹脂成形品を採用することで、前記と同様の作用効果を享受することができる。したがって、円筒カム内の雌ネジに螺合する他の構成部品との間において、接続不良を招来させるという問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る筆記具の外観を示した正面図および軸方向に沿って中央で破断した状態の断面図である。
【図2】図1に示す筆記具の軸筒を取り外し内部構造を示した平面図および側面図である。
【図3】図1に示す筆記具に用いられる円筒カムの正面図、側面図および断面図である。
【図4】図3(c)におけるA−Aより矢印方向に視た円筒カムの部分拡大断面図である。
【図5】樹脂成形品として前記円筒カムを成形する金型の締結状態を示した断面図である。
【図6】図5に示した状態に対して直交する方向から視た状態の断面図である。
【図7】前記金型の締結を解いた状態を示した断面図である。
【図8】樹脂成形品からコアピンを無理抜きする状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る樹脂成形品およびこれを用いた筆記具について、図に基づいて説明するが、先に前記樹脂成形品を円筒カムに採用して複式筆記具を構成した例について説明し、後で樹脂成形品としての前記円筒カムを射出成形する例について説明する。
なお、以下に示す各図においては、同一部分を同一符号で示しているが、紙面の都合により一部の図面においては、代表的な部分に符号を付け、その詳細な構成はその他の各図面に付けた符号を引用して説明することにする。
【0020】
図1(a)および(b)に示すように、複式筆記具1の外郭を構成する軸筒は、前軸2および後軸3により構成されている。
すなわち、前軸2の後端部内周面に設けられた連結用雌ネジ2aが、ガイド筒4の前端部外周面に形成された雄ネジ4aに螺合して連結されている。また後軸3には、その前端部内周面にリング状の突起3aが形成され、このリング状の突起3aが、前記ガイド筒4の外周面に形成された環状の溝部4bに軸周りに摺動できるように嵌ることによって、前記ガイド筒4に取り付けられている。
したがって、後軸3は前記ガイド筒4の大部分を覆い、前軸2およびガイド筒4に対して軸周りに回動可能になされている。
【0021】
前軸2の前端部には口金5が螺着されており、この口金5はテーパ状に径を細くして、その口先部5aに、筆記体の先端部を出没可能とする小径のガイド孔が形成されている。
また、後軸3の後端部の側面に沿って、クリップ7が取り付けられている。このクリップ7は円筒体の外周面に雄ネジが形成されたクリップ支持部材8の端部に取り付けられており、このクリップ支持部材8の外周面に形成された雄ネジが、後述する円筒カム18の内周面に形成された雌ネジ19aに螺合されることで、前記クリップ7が後軸3に取り付けられている。
【0022】
そして、後軸3の後端部には蓋部材9が装着されている。この蓋部材9には、ロッド状の取り付け部材9aが一体に成形されており、この取り付け部材9aは前記クリップ支持部材8を貫通して前記ガイド筒4の後端部に差し込まれることで、前記蓋部材9を支持している。
【0023】
この実施の形態においては、図2に示すように、筆記体として、シャープペンシル筆記体11、ボールペン筆記体12、13の3本が軸筒内に収容され、これらの筆記体11〜13は前記ガイド筒4に軸方向に摺動可能に支持されている。
すなわち、このガイド筒4は、前記したように、その前端部に前軸2に連結される雄ネジ4aが形成され、この雄ネジ4aよりも後側の周面に、前記後軸3を回動可能に装着するための環状の溝部4bが形成されている。
【0024】
前記ガイド筒4には、前記各筆記体11〜13を軸方向に挿通可能に支持する貫通孔4cが、前記筆記体の本数に合わせて形成されている。そして、これら貫通孔4cよりも後方には、それぞれ軸方向に延びるガイド溝4dが形成されている。
すなわち、前記シャープペンシル筆記体11、およびボールペン筆記体12、13の各筆記体は、ガイド筒4の貫通孔4cにそれぞれ挿通され、前記ガイド溝4dに沿って軸方向に移動可能に配置されている。
【0025】
また、図2に示すように、前記ガイド筒4のガイド溝4d内には、前記筆記体11〜13をそれぞれ捲装するようにしてリターンバネ15が配置されている。
このリターンバネ15の後端部は、各筆記体の後端部に装着された摺動コマ16に当接し、リターンバネ15の前端部は、前記ガイド筒4における貫通孔4cの開口部形成面に当接している。
【0026】
前記摺動コマ16には、図1(b)に示すように、前記各筆記体11〜13の後端部に嵌まり込んで係止された係止部16aと、図2に示すように、後述する回転カム18に向かって突起した凸部16bと、図2(b)に示すように前記凸部16bを中央にしてその両側に形成されたカム斜面16cとが備えられている。
【0027】
図1および図2に示されたように、前記したガイド筒4の後端部には円筒カム18が回転可能に取り付けられている。この円筒カム18は、前記したとおり、その内周面に形成された雌ネジに、クリップ支持部材8の外周面に形成された雄ネジが螺合されることで、ガイド筒4の後端部に回転可能に取り付けられている。
【0028】
そして、図1(b)に示したとおり、円筒カム18は後軸3によって外側が覆われて一体化され、前記前軸2およびガイド筒4に対して、軸周りに回動可能になされている。
したがって、前記前軸2に対して後軸3を軸周りに回動させることで、円筒カム18が前記各筆記体11〜13の後端部に取り付けられた摺動コマ16を選択的に前方に繰り出すように作用する。
【0029】
図3(a)〜(c)は、円筒カム18の単体を示した正面図、側面図および断面図であり、この円筒カム18は、円筒状になされた円筒部19と、この円筒部19の前端から前方へ延びるカム部20とから構成されている。
そして、図3(c)に示すように前記円筒部19の内周面には前記したとおり雌ネジ19aが形成されており、この雌ネジ19aに対し、前記したクリップ支持部材8が螺合することで円筒カム18は、前記したとおりガイド筒4の後端部に回動可能に取り付けられている。
【0030】
前記円筒カム18を構成する前記円筒部19の左右両外側には、後述する射出成形による一対のゲート跡19bが形成されており、このゲート跡19b間における周方向の中央部には、薄肉部によるクラック19cが形成されている。
なお、このゲート跡19bと薄肉部によるクラック19cの生成手段については、円筒カム18を射出成形する例に沿って後で詳細に説明する。
【0031】
一方、円筒カム18を構成する前記カム部20は、円筒部19の前端において、周方向に沿って円弧状にカム平坦部20aが形成されている。さらに、前記カム平坦部20aの両側端から前方に尖形するように一対のカム斜面20bが形成されている。この一対のカム斜面20bは、それぞれ円弧状になされ、その先端部は所定幅を有するカム頂部20cの両端にそれぞれ繋がっている。
なお、カム頂部20cは、選択された筆記体に連結された前記摺動コマ16の凸部16bが当接する部位であり、図においては安定性向上のために緩やかな凹状に形成されているが、これは平坦に形成されていてもよい。
【0032】
また、カム平坦部20aの両端には、摺動コマ16の凸部16bが嵌合可能な凹状のカム底部20dがそれぞれ設けられており、カム底部20dの一方の側面はカム斜面20bに連なっている。
なお、このカム底部20dは、選択されていない筆記体の後端に連結された摺動コマ16の凸部16bがそれぞれ嵌まるようになされ、その嵌る動作によってクリック感が出るように作用する。
【0033】
前記した構成の複式筆記具1において、例えばシャープペンシル筆記体11を選択し、その先端を軸先から突出させた場合、図2(a)に示すように、シャープペンシル筆記体11の後端部に連結された摺動コマ16の凸部16bが円筒カム18のカム頂部20cに当接する状態となる。
このとき、シャープペンシル筆記体11において、その後部に捲装されたリターンバネ15は最も圧縮された状態となっている。
【0034】
一方、他の筆記体(ボールペン筆記体12,13)は、図2(b)に示すように、その後端部に連結された摺動コマ16の凸部16bが円筒カム18のカム底部20dに嵌った状態となる。また、このときシャープペンシル筆記体12,13において、その後部に捲装されたリターンバネ15は長く伸びた状態であり、摺動コマ16に対し軸後方に向けて、比較的緩い付勢力を与えている。
【0035】
この状態から、例えばボールペン筆記体12を選択する場合、前軸2に対し後軸3を軸周りに回動させると、前記円筒カム18も同様に回動し、ボールペン筆記体12の後端に連結された摺動コマ16が、円筒カム18のカム斜面20bに沿って摺動を開始し、それにより、その凸部16bがカム底部20dから外れる。
【0036】
一方、円筒カム18のカム頂部20cに当接していたシャープペンシル筆記体11に連結された摺動コマ16は、カム頂部20cから外れ、カム斜面20bをカム底部20dに向けて摺動を開始する。
さらに、選択されない他の筆記体であるボールペン筆記体13にあっては、その後端に連結された摺動コマ16の凸部16bは、カム底部20dから外れ、カム平坦部20aを摺動するようになされる。
【0037】
そして、ボールペン筆記体12の後端に連結された摺動コマ16が円筒カム18のカム頂部20cに達すると、その凸部16bがカム頂部20cに当接して、ボールペン筆記体12の先端が軸先から突出した状態で保持される。
一方、前記ボールペン筆記体12の摺動コマ16が円筒カム18のカム頂部20cに到達すると同時に、シャープペンシル筆記体11に連結され、カム斜面20bを摺動していた摺動コマ16がカム底部20dに到達し、その凸部16bがカム底部20dに嵌る状態となる。
同時に、ボールペン筆記体13に連結され、カム平坦部20aを摺動していた摺動コマ16が他方のカム底部20dに到達し、その凸部16bがカム底部20dに嵌る状態となる。
【0038】
このように、選択された以外の他の筆記体に連結された摺動コマ8が円筒カム18のカム底部20dに嵌り込むことにより、ボールペン筆記体12は、その後端部に連結された摺動コマ16がカム頂部20cから位置ずれすることなく保持される。
また、選択された以外の他の筆記体に連結された摺動コマ16が円筒カム18のカム底部20dに嵌り込むことでクリック感が得られるが、それら筆記体に捲装されたリターンバネ15は比較的長く伸びた状態で嵌るため、強い衝撃が生じることなく上質な作業質感を得ることができる。
なお図示しないが、ガイド筒4を透過性のある材料で形成し、クリップ7の後軸3との取り付け位置を円筒カム18のカム頂部20cを一致させることで、クリップ7の回転による係止位置に応じて各筆記体11〜13の繰り出しと一致させることができるので、ガイド筒4の視認により繰り出した筆記体の確認を容易にすることができる。
【0039】
図5ないし図8は、前記した複式筆記具1に用いられる円筒カム18を、樹脂成形品として得る場合の射出成形の例について説明するものである。
すなわち、図5および図6は金型の締結状態において互いに直交する方向から切断した状態の断面図であり、図7は図5に示す状態から金型の締結を解いた状態を示し、さらに図8は樹脂成形品(円筒カム18)からコアピンを無理抜きする状態を示した断面図である。
【0040】
図5ないし図8に示す射出成形用金型は、図に示す上半部が固定金型31を構成し、下半部が可動金型32を構成している。上半部の固定金型31には、その中央部に固定側コアピン31aが配置されており、このコアピン31aを囲むように固定側キャビティ31bが配置されている。これにより、前記コアピン31aとキャビティ31bとの間が、上半部の樹脂成形空間を構成している。なお、符号31cは固定側コアピン31a内に形成されたコア冷却穴を示している。
【0041】
一方、下半部の可動金型32には、その中央部に可動側コアピン32aが配置されており、またこのコアピン32aを囲むように可動側キャビティ32b,32cが配置されている。これにより前記コアピン32aとキャビティ32b,32cとの間が、下半部の樹脂成形空間を構成している。なお、符号32dは固定側コアピン31a内に形成されたコア冷却穴を示している。
【0042】
また、図7に示すように前記可動金型32は、固定金型31に対して矢印Y1方向に移動することで金型の締結が解かれるように構成されている。このとき、前記可動側キャビティ32b,32cは、左右方向(矢印X1およびX2方向)に割れて樹脂成形品としての円筒カム18は露出された状態になされる。
【0043】
加えて前記可動側コアピン32aは、図8に示すように底部基盤32eに植設されており、前記可動金型32からさらに底部基盤32eを矢印Y2方向に移動させることで、可動側コアピン32aを可動金型32に配置されたストリッパーブッシュ32fを介して引き抜くことができるように構成されている。
なお、この実施の形態においては、図8に示すように可動側コアピン32aの先端部の周面にネジ32gが形成されて、可動側コアピン32aはネジ付きコアピンを構成している。これにより樹脂成形品としての前記円筒カム18の内周面には、すでに説明した雌ネジ19aが形成されることになる。
【0044】
加えて、この実施の形態においては、図6に示すようにキャビティとコアピンとの間の樹脂成形空間に対して、コアピン31a,32aの軸芯を挟んで対称となる位置に形成された一対のゲート32iを介して樹脂が充填される。
樹脂の充填後には、図7に示すように固定金型31に対して可動金型32が矢印Y1方向に移動し、さらに可動金型32側のキャビティ32b,32cは、左右方向(X1およびX2方向)に割れて、樹脂成形品としての円筒カム18は、可動側コアピン32aに嵌め合わされた状態で露出される。
【0045】
ところで、前記した円筒カム18は、図3に示されているとおり、射出成形による一対のゲート跡19b間における周方向外面の中央部に、軸方向に延びる一対の薄肉部19cが形成されている。
図4は図3(c)におけるA−A線より矢印方向に視た円筒カム18の部分拡大断面図であり、前記薄肉部19cは、図4に示すように軸方向に直交する断面形状が、前記薄肉部を中央にしてV字状に成形されている。
【0046】
したがって、図8に示すように可動金型32からさらに底部基盤32eを矢印Y2方向に移動させることで、可動側コアピン32aに嵌め合わされた状態の円筒カム18は、可動金型32に配置されたストリッパーブッシュ32fに相対的に当接し、コアピン32aから無理抜きされることになる。
【0047】
このとき、コアピン32aの周面に形成されたネジ32g(アンダーカット部)の作用を受けて、円筒カム18の円筒部19は外側に広がり、当該箇所に形成された前記薄肉部19cにクラック(薄肉部19cと同一符号で示す。)が発生される。
すなわち、離型時に薄肉部19cにクラックが発生されるため、前記円筒カム18の円筒部19は、より外側に広がり易くなる。これにより円筒カム18の雌ネジ19a部分にいわゆるムシレや白化等の欠陥が発生させる度合いを大幅に低下させることができる。
【0048】
しかも、この実施の形態による円筒カム18においては、コアピンの軸芯を挟んで対称となる位置に一対のゲート跡19bを有し、前記ゲート跡間における周方向の中央部に前記薄肉部19cにクラックが発生される。
これによると、射出成形時におけるウエルド(樹脂の合わせ部分)が前記薄肉部にほぼ一致することになるため、薄肉部に対応した前記ウエルドを利用して無理な応力を加えることなく容易にクラック19cを発生させることができる。
【0049】
斯くして、この発明に係る樹脂成形品によると、ネジ付きコアピンを無理抜きすることによる生産性を維持しつつ、成形品に形成された薄肉部に容易にクラックを発生させることができるので、成形品にムシレや白化等の欠陥を残すのを解消することができるなど、前記した発明の効果の欄に記載した作用効果を得ることができる。
【0050】
なお、以上説明した実施の形態においては、成形金型に一対のゲートを備え、ゲート間における周方向の中央部に一対の薄肉部を形成して、薄肉部にクラックを発生させる例を示したが、これは1つのゲートを利用して樹脂成形する場合にも応用できる。
この場合には、樹脂成形時におけるウエルド(樹脂の合わせ部分)となる部分に、薄肉部を形成することで、コアピンの無理抜きによって前記薄肉部に容易にクラックを発生させることが可能であり、これにより同様の作用効果を期待することができる。
【0051】
また、必要に応じて金型に3つ以上のゲートを備える場合においても同様に、ゲート間における周方向の中央部に薄肉部を形成することで、当該薄肉部に前記ウエルドの位置をほぼ一致させることができる。したがって、コアピンの無理抜きによって前記薄肉部に容易にクラックを発生させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 複式筆記具
2 前軸(軸筒)
3 後軸(軸筒)
4 ガイド筒
5 口金
7 クリップ
11 シャープペンシル筆記体
12,13 ボールペン筆記体
16 摺動コマ
18 円筒カム
19 円筒部
19a 雌ネジ
19b ゲート跡
19c 薄肉部(クラック発生部)
20 カム部
31 固定金型
31a 固定側コアピン
31b 固定側キャビティ
32 可動金型
32a 可動側コアピン(ネジ付きコアピン)
32b,32c 可動側キャビティ
32i ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティとネジ付きコアピンとを用いて、ネジ付きコアピンを無理抜きすることにより成形される樹脂成形品であって、
内周面の雌ネジの形成位置に対応する外面に、軸方向に延びる薄肉部を形成し、前記ネジ付きコアピンの無理抜き時において、前記薄肉部にクラックを発生させやすくしたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記薄肉部の形成位置における軸方向に直交する断面形状が、前記薄肉部を中央にしてV字状に成形されていることを特徴とする請求項1に記載された樹脂成形品。
【請求項3】
射出成形時におけるウエルド(樹脂の合わせ部分)に、前記薄肉部によるクラックを発生させやすくしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された樹脂成形品。
【請求項4】
前記コアピンの軸芯を挟んで対称となる位置にゲート跡を有し、前記ゲート跡の間における周方向の中央部に前記薄肉部によるクラックを発生させやすくしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された樹脂成形品。
【請求項5】
軸筒内に収容された複数の筆記体と、前記筆記体の夫々の後端部に連結された摺動コマと、軸周りに回転可能に設けられ、前記摺動コマが摺動可能な円筒カムとが具備され、前記円筒カムの回転により前記摺動コマを前後移動させて、選択的に一つの筆記体の先端部を軸先から突出させる複式筆記具であって、前記円筒カムに請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載された樹脂成形品を用いたことを特徴とする筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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