説明

樹脂粉砕用回転刃

【課題】高硬度の樹脂を粉砕しても摩耗しにくく、破損しない樹脂粉砕用回転刃を提供する。
【解決手段】WCを80〜91重量%含有し、Coを9〜20重量%含有する超硬合金からなる樹脂粉砕用回転刃である。前記樹脂粉砕用回転刃は、2枚以上の複数葉のブレード状で、中心に回転軸が嵌合する穴を有し、モーターで駆動する回転軸に単独又は複数枚を通し重設して用いられるものである。これをエポキシ樹脂やこれに硬質材を添加したような高硬度の樹脂を粉砕しても摩耗しにくく樹脂粉砕材中に摩耗物の混入が殆どなく、破損せず従来のダイス鋼製のものより長寿命である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の粉砕装置に使用される樹脂粉砕用回転刃に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粉砕用回転刃は、特許文献1に示すような方式の樹脂粉砕装置や金属製円筒網内に左右中心対称に刃先を有する一枚刃を多重構造にした樹脂粉砕装置等に用いられている。これらの粉砕装置では、上方から投入される被粉砕樹脂を、回転する樹脂粉砕用回転刃と固定刃や金属製円筒網との協働により粉砕して、網目から排出するものである。
樹脂粉砕用回転刃は、中央の中心シャフトを中心に高速で回転し平板状樹脂塊を粉砕し、金属製円筒網で篩いにかけて必要径まで小さくするようにするものである。
特許文献2には、プラスチック廃材を粉砕する超硬製円筒状粉砕刃が開示されている。超硬合金を使用するものであるが、材料についての具体的開示もなく、被粉砕物がプラスチック廃材であり、工業用の樹脂材料を粉砕するものではない。
特許文献3には、木材を粉砕する超硬合金製粉砕刃が開示されている。この場合も被粉砕物が木材であり、工業用の樹脂材料を粉砕するものではなく、粉砕方法も異なっている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−270146号公報
【特許文献2】特開2001−190978号公報
【特許文献3】特開2003−154505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の樹脂粉砕用回転刃は、工具鋼のうちダイス鋼を焼入れしたものが一般的に使用されていたので、樹脂を粉砕すると摩耗し樹脂中に鋼材成分の混入が著しく、絶縁性の要求が高まった半導体の封止用樹脂材の粉砕等には、不適当となってきた。
本発明は、前記の事情に鑑みなされたものであり、エポキシ樹脂やこれにシリカ等が添加されたような高硬度の樹脂を粉砕しても摩耗しにくく樹脂粉砕材中に摩耗物の混入が殆どなく、破損しない樹脂粉砕用回転刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、WCを80〜91重量%含有し、Co相を9〜20重量%含有する超硬合金からなる中心部に回転用シャフトが挿入される角状穴を有する棒板状である樹脂粉砕用回転刃である。従来の焼入れしたダイス鋼などの工具鋼を使用したものでも硬さは、HRA81〜83程度であるのに対し、本発明のものは全体的な硬さが、HRA85〜90であり硬度の面でも優っており、特に組織的には、ダイス鋼より高硬度のWC相とCo相との複合組織であるのでWC相の部分では、前記の硬さよりはるかに大きく硬質樹脂を粉砕してもダイス鋼などの工具鋼よりも摩耗しにくい。また、超硬合金のWCの量としては、80重量%より少ないとダイス鋼より硬度が低い結合相であるCo相が20重量%より増えるので摩耗しやすくなり、摩耗物が粉砕樹脂中に混入する量が急激に増加するのでWCの量は80重量%以上とする必要がある。しかし、WCの量が91重量%より多くなると硬度は増加するが、結合相であるCo相が9重量%より少なくなり、靭性が低下し樹脂を粉砕中に破断してしまうので、WC量としては80〜91重量%とする必要がある。これに対応して結合材であるCo量を9〜20重量%とすればよい。靭性がより強く要求されるときはCoを多く、硬度がより強く要求されるときはWCを多く配合する。
【0006】
前記樹脂粉砕用回転刃は、2枚以上の複数葉のブレード状で、回転方向と反対側の縁に横断面形状が鋭角部を設けると被粉砕物である樹脂材料に揚力を付与することができるので、被粉砕物である樹脂材料が樹脂粉砕用回転刃に衝突し続け、粉砕効率がよくなる。中心部にモーターで駆動する回転軸が嵌合する角穴形状を有し、モーターで駆動する回転軸に単独又は複数枚を通し重設して用いられるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂粉砕用回転刃では、エポキシ樹脂等の硬質樹脂を粉砕しても摩耗が少なく、樹脂中に樹脂粉砕用回転刃の成分の混入重量が焼入れ鋼材製のものと比較すると1/10以下となり、絶縁性が要求される半導体の封止用樹脂材の粉砕等にも使用できる。また、高硬度の樹脂を粉砕しても破損しない樹脂粉砕用回転刃を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂粉砕用回転刃は、WCを80〜91重量%含有し、Coを9〜20重量%含有する超硬合金からなり、単葉から複葉のブレード状で、中心部にモーターで駆動する回転軸が嵌合する角穴形状を有し、モーターで駆動する回転軸に単独又は複数枚を通し重設して用いられる。回転方向と反対側の縁に横断面形状が鋭角部を設けると被粉砕物である樹脂材料に揚力を付与し粉砕が効率的に行える。超硬合金中のWCの平均粒子径については2μm以上5μm以下が望ましい。WCの平均粒子径については2μmより小さいと、硬さは高くなるがWC粒子間の距離が小さくなり金属結合相の厚さが薄くなるために、WC粒子内で破壊が起こると成長する亀裂が止まりにくく、欠けや割れを生じやすくなる。WCの平均粒子径が5μmより大きいと、WC粒子間の距離が大きくなり、金属結合相の厚さが厚くなるので、WC粒子内で破壊が起きても成長する亀裂が金属結合相で止まるが、硬さが低下し耐摩耗性が十分でない。そのため、WCの平均粒子径については2μm以上5μm以下が望ましい。
また、樹脂粉砕用回転刃は、硬さが鉄系材料と比較して変わらないものでもその寿命は鉄系材料を使用したものより大きい。これは、摩耗が見かけの硬さのみにより決定されるのではなく、構成材料、組織、曲げ剛性率や耐塑性変形性の違いにより大きく左右されるためである。
【0009】
本発明の樹脂粉砕用回転刃を得るには、平均粒子径が2〜5μmのWC粉末80〜91重量%と、Coの金属粉末9〜20重量%をボールミル、アトライター、ライカイ機などの方法で乾式または湿式法で均一となるよう混合する。また、必要に応じ焼結性や硬度を向上させるために前記組成を100重量部とするとそれに5重量部を超えない範囲でW、Cr、Nb、V、Ti、Moの単体または炭化物を加えてもよい。5重量部を超えると、添加するものにより硬度が低下したり、硬度は上がるが靭性が低下するので、5重量部を超えない方がよい。得られた原料粉末について金網の篩等で粒子径を調整し、成形しやすいように成形用のワックスを添加した後、さらに粒子径を調整後、金型等で成形し(押出成形を含む)、1300℃〜1500℃の温度、非酸化雰囲気で焼結を行い、得られた焼結体を必要に応じて機械加工し所望の形状とする。その後本発明の樹脂粉砕用回転刃を樹脂粉砕装置の回転軸に単数または複数重設してセットしボルト、ナット等で締結して使用する。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
純度99.9%平均粒径2〜5μmのWC粉末85重量%と平均粒径1μmのCo粉末15重量%と適量のワックスとエタノールを添加し、ボールミルにて粉砕、混合した。スプレードライヤで乾燥後に、使用形状の焼結体となるように粉末をプレス成形し、平面研削盤およびボール盤で800×150×15(mm)の大きさの形状に整形を行った。その後脱脂炉中に入れ700℃真空中にて脱ワックスを行った後に脱脂処理し、1300℃〜1500℃の温度でAr雰囲気で焼結を行った。焼結後に万能研削盤で刃立てを行い図1に示すような本発明の樹脂粉砕用回転刃を製造した。この試料を試料No.1とする。次に特許文献1に示すような方式の樹脂粉砕装置で金属製円筒網内に左右中心対称に刃先を有する一枚刃を多重構造にした樹脂粉砕装置に装着した。これは、上方から投入される被粉砕樹脂を回転する樹脂粉砕用回転刃と金属製円筒網との協働により粉砕して、網目から排出するものである。樹脂粉砕用回転刃は、中央の中心軸を中心に高速で回転し平板状樹脂塊を粉砕し、金属製円筒網で篩いにかけて必要径まで小さくするようにするものである。本発明の樹脂粉砕用回転刃試料を図2のように回転軸となるシャフトに90度づつずれるように交互に重設し先端をボルトで締結して固定した。モーターで回転軸を毎分1000回転で運転した。樹脂粉砕装置の金属製円筒網内に半導体素子封止用樹脂材であるエポキシ樹脂とシリカとの混合チップ(60×60×1mm)を投入し、粉砕を行った。比較試料として本組成から外れる範囲のWC−Co系の材料を用いたものと従来から使用されているSKD11を用いて同形状の樹脂粉砕用回転刃を作製し、上記実験と同様にして比較実験を行った。それぞれの試料について200時間粉砕後の摩耗量を測定し、比較した。
測定結果を表1に示す。SKD11の比較試料は欠け、割れは発生しなかったが、摩耗量が大きかった。次に、WC−Co系超硬合金における試料としてCoの含有量を6%、9%、13%、18%、20%に変えて同様の実験を行った。これらをそれぞれ試料No.2、試料No.3、試料No.4、試料No.5、試料No.6、試料No.7として同様の実験を行い、表1に結果を示した。本発明の試料No.3〜試料No.6は十分な耐磨耗性を得られた。しかしながら試料No.2(6重量%Co)は早期に欠けが起こった。この試料は金属バインダーが少ないために破壊の成長が起こりやすく、衝撃により発生した亀裂が妨げられることなく成長し、刃先の欠けに至っていた。また試料No.7(20重量%Co)は欠け、割れは生じなかったが試料No.3〜試料No.6に対して耐磨耗性がわずかに劣っていた。本発明の樹脂粉砕用回転刃は、WCを80〜91重量%含有し、Coを9〜20重量%含有する超硬合金とする必要がある。
【0011】
【表1】

【0012】
表1における「重量減」はSKD11を1としたときの数値
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の樹脂粉砕用回転刃は、エポキシ樹脂やこれに硬質材を添加したような高硬度の樹脂を粉砕しても摩耗しにくく樹脂粉砕材中に摩耗物の混入が殆どなく、破損せず従来のダイス鋼製のものより長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の樹脂粉砕用回転刃を示す3面図である。
【図2】実施例装置の分解状態の外観を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを80〜91重量%含有し、Coを9〜20重量%含有する超硬合金からなる中心部に回転用シャフトが挿入される角状穴を有する棒板状であることを特徴とする樹脂粉砕用回転刃。
【請求項2】
複数枚のブレード状であることを特徴とする請求項1記載の樹脂粉砕用回転刃。

【図1】
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【図2】
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