説明

樹脂組成物、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体

【課題】成形加工性、剛性、耐熱性、耐衝撃性、曲げ強度の優れた繰り返し衝撃特性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるイミド系化合物と、セルロースエステル系樹脂とを含有する樹脂組成物。


(式(I)中、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す。R及びRは置換基を有しても良く、また、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせた2価の基(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。但しRが複数個存在する場合、それらは同一又は異なる。)から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、及びその製造方法、並びに電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0003】
セルロースは植物から得られる地球上で再生産可能なバイオマス材料として、また環境中にて生分解可能な材料として、昨今の大きな注目を集めつつある。セルロースは紙に用いられるばかりではなく、その誘導体であるセルロースエステルは、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が、フィルム材料等として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度が大きく衰える問題がある。
また、セルロースエステル系樹脂は吸水性が高いため、フィルムとした場合にはフィルムの透湿度が高くなり、寸法安定性の観点で改良が必要となっている。また、Rth(膜厚方向のレターデーション)が低いフィルムも光学特性が変化しないという観点から求められる。
【0006】
本発明の目的は、様々な用途に用いることができる新規な樹脂組成物を提供することである。特に、成形加工性(流動特性)に優れ、かつ、剛性(曲げ弾性率)、耐熱性(荷重たわみ温度)、及び耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)の観点で優れた樹脂組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、該樹脂組成物を成形して得られる成形体、該成形体の製造方法、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セルロースエステル系樹脂と、特定のイミド系化合物とを含有する樹脂組成物により、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0008】
1.
下記一般式(I)で表されるイミド系化合物と、セルロースエステル系樹脂とを含有する樹脂組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(I)中、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す。R及びRは更に置換基を有しても良く、また、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせて得られる2価の基(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。ただし、Rが複数個存在する場合には、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。)からなる群から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。)
2.
前記一般式(I)で表されるイミド系化合物の含有量が、樹脂組成物の全固形分に対して40質量%以下である上記1に記載の樹脂組成物。
3.
前記セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びセルロースプロピオネートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記1又は2に記載の樹脂組成物。
4.
前記セルロースエステル系樹脂がセルロースアセテートである上記1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.
前記セルロースエステル系樹脂のアシル置換度が2.7以下である上記1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
6.
上記1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱成形して得られる成形体。
7.
上記1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
8.
上記6に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、優れた熱可塑性を有するため、加熱成形などにより成形することができる。また、本発明の樹脂組成物を用いて得られるフィルムは光学特性及び透湿度の観点で優れている。また、本発明の樹脂組成物は、成形加工性、剛性、耐熱性、耐衝撃性の観点で優れており、フィルムに加えて、例えば自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。また、本発明の樹脂組成物は、植物由来の樹脂であるセルロースから得られるセルロースエステル系樹脂を使用しているため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるイミド系化合物とセルロースエステル系樹脂とを含有する。
【0013】
【化2】

【0014】
(一般式(I)中、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す。R及びRは更に置換基を有しても良く、また、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせて得られる2価の基(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。ただし、Rが複数個存在する場合には、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。)からなる群から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。)
【0015】
1.一般式(I)で表されるイミド系化合物
本発明の樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるイミド系化合物を含有する。
【0016】
【化3】

【0017】
(一般式(I)中、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す。R及びRは更に置換基を有しても良く、また、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせて得られる2価の基(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。ただし、Rが複数個存在する場合には、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。)からなる群から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。)
【0018】
一般式(I)で表されるイミド系化合物はイミド部位を有し、該イミド部位とセルロースエステル系樹脂とは相互作用することが可能であるため、耐熱性や耐衝撃性向上という効果を奏すると考えられる。
上記一般式(I)で表されるようにベンゼン環で直接結合した剛直な構造のイミド系化合物の両末端のイミド部位が、セルロースエステルのカルボニル基やヒドロキシル基と相互作用することにより、耐熱性や耐衝撃性に関して極めて高い効果を得ることができと考えられる。
【0019】
及びRのうち少なくともいずれかが脂肪族炭化水素基を表す場合、該脂肪族炭化水素基としては、直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、耐衝撃性向上という理由から、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数2〜20のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数2〜15のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数2〜12のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基等が挙げられ、エチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基が特に好ましい。
【0020】
及びRのうち少なくともいずれかが芳香族炭化水素基を表す場合、該芳香族炭化水素基としては、単環、及び縮環のいずれでもよい。芳香族炭化水素基としては、好ましくは炭素数6〜18の芳香族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、更に好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。具体的には、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0021】
及びRが脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す場合、該脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基はそれぞれ置換基を有していてもよい。置換基としてはハロゲン原子(例えば、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素)、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルホニルアミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基及びアシルアミノ基などが挙げられる。置換基として好ましくはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、モルホリル基である。該置換基の炭素数は1〜30が好ましく、1〜20がより好ましい。
【0022】
また、R及びRが脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す場合、その鎖中に、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせて得られる2価の基(例えば、−COO−、−NRCO−、−NRCOO−、−NRCONR4−、−SONR−)(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。ただし、Rが複数個存在する場合には、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。)からなる群から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。
は直鎖、分岐若しくは環状の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表すことが好ましく、直鎖、分岐の置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、トリフルオロメチル基、2−メトキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基、及び2−エチルヘキシル基を挙げることができ、好ましくは、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基を表す。
環状の脂肪族炭化水素基としては、炭素数3〜30のシクロアルキル基が好ましい。例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基を挙げることができ、より好ましくは、炭素数6〜8のシクロアルキル基である。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基が挙げられ、より好ましくはフェニル基、p−トリル基である。
【0023】
本発明における一般式(I)で表されるイミド系化合物の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化4】

【0025】
本発明における一般式(I)で表されるイミド系化合物は、既知の方法により製造することができる。例えば、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いたカルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、あるいはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応、カルボン酸無水物とアミン誘導体との反応などにより得られる。
【0026】
本発明における一般式(I)で表されるイミド系化合物の分子量は、200〜1000が好ましく、300〜800がより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物における一般式(I)で表されるイミド系化合物の含有量は、全固形分に対して40質量%以下であることが好ましく、1〜40質量%がより好ましく、5〜35質量%が更に好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。上記範囲内であれば、より優れた成形加工性、曲げ弾性率、耐熱性、耐衝撃性が得られる。
【0028】
また、本発明の樹脂組成物を成膜し、フィルムとして使用する場合、本発明の樹脂組成物における一般式(I)で表されるイミド系化合物の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して30質量%以下であることが好ましく、1〜25質量%がより好ましく、2〜22質量%が更に好ましく、3〜20質量%が特に好ましい。上記範囲内であれば、より優れた光学特性や透湿度が得られる。
【0029】
2.セルロースエステル系樹脂
本発明の樹脂組成物はセルロースエステル系樹脂を含有する。
本発明におけるセルロースエステル系樹脂としては、特に限定はない。セルロースエステルは、通常、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等のセルロースをエステル化して製造されている。
【0030】
セルロースエステル系樹脂は、セルロースをアシル化剤と反応させる慣用のエステル化方法により生成でき、必要に応じてケン化又は熟成工程を経て製造できる。セルロースエステル系樹脂は、通常、パルプ(セルロース)を活性化剤により活性化処理(活性化工程)した後、硫酸などの触媒を用いてアシル化剤によりエステル(トリエステルなど)を調製し(アシル化工程)、ケン化(加水分解)・熟成によりエステル化度を調整する(ケン化・熟成工程)ことにより製造できる。セルロースアセテートの場合は、例えば、硫酸触媒法、酢酸法、メチレンクロライド法等の慣用の方法で製造できる。
【0031】
アシル化工程におけるアシル化剤の割合は、所望のアシル化度(酢化度など)となる範囲で選択でき、例えば、パルプ(セルロース)100質量部に対して230〜300質量部、好ましくは240〜290質量部、更に好ましくは250〜280質量部程度である。なお、セルロースアセテートの場合、アシル化剤としては、例えば、無水酢酸などが使用できる。
【0032】
アシル化又は熟成触媒としては、通常、硫酸が使用される。硫酸の使用量は、通常、セルロース100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは5〜15質量部、更に好ましくは5〜10質量部程度である。また、ケン化・熟成の温度は、40〜160℃の範囲から選択でき、例えば、50〜70℃程度である。
更に、残留した硫酸を中和するために、アルカリで処理してもよい。
【0033】
セルロースエステル系樹脂としては、例えば、有機酸エステル[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等のセルロースC2−6カルボン酸エステルなど]、混合エステル(セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースジC2−6カルボン酸エステルなど)、グラフト体(ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなど)、無機酸エステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等)、有機酸・無機酸混合エステル(硝酸酢酸セルロースなど)等が例示される。
本発明においては、これらのセルロースエステルのうち、有機酸で修飾されたセルロース有機酸エステルが好ましく、炭素数2〜12の有機酸で修飾されたセルロース有機酸エステルがより好ましい。具体的には、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネートブチレートなどが好ましく、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネートブチレートがより好ましく、セルロースアセテートが更に好ましく、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートが特に好ましい。
【0034】
セルロースエステルのアシル置換度は耐衝撃性の観点から2.7以下であることが好ましく、2.65以下であることがより好ましく、2.6以下であることが更に好ましい。アシル置換度は1〜2.7が好ましく、1.3〜2.65がより好ましく、1.5〜2.6が更に好ましい。
セルロースアセテートの場合、平均酢化度30〜62.5%程度の範囲から選択でき、通常、平均酢化度43.7〜62.5%(アセチル基の平均置換度1.7〜3)、好ましくは45〜62.5%(平均置換度1.8〜3)、更に好ましくは48〜62.5%(平均置換度2〜3)程度である。
【0035】
セルロースエステルの重合度は、特に制限されず、粘度平均重合度200〜400、好ましくは250〜400、更に好ましくは270〜350程度である。
【0036】
本発明におけるセルロースエステル系樹脂は公知の方法で製造することができる。また、市販品を使用することもできる。例えば、セルロースアセテートプロピオネートとして、イーストマンケミカル社製、「482−20(アセチル置換度:0.1、プロピオニル置換度:2.5、Mn:73000、Mw:234000)」が、セルロースジアセテートとして、ダイセル化学製、「L−70(アセチル置換度:2.45、Mn:65000、Mw:200000)」、セルローストリアセテートとして、ダイセル化学製、「FRM(アセチル置換度:2.79、Mn:66000、Mw:186000)」などがある。
【0037】
本発明の樹脂組成物に含まれるセルロースエステル系樹脂の含有量は特に限定されない。好ましくはセルロースエステル系樹脂を樹脂組成物の全固形分に対して、50〜95質量%、より好ましくは55〜90質量%、更に好ましくは60〜85質量%含有する。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物を成膜してフィルムとして使用する場合には、樹脂組成物に含まれるセルロースエステル系樹脂の含有量は、好ましくは全固形分に対して、50〜95質量%、より好ましくは55〜95質量%、更に好ましくは60〜90質量%含有する。
【0039】
3.難燃剤
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することによって、燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、ケイ素系難燃剤などが挙げられる。本発明においては、耐衝撃性の低下を防ぐという理由から、ハロゲン、リン、及びケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する難燃剤が好ましい。
ハロゲンを含有する難燃剤としては、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤が特に好ましい。
ハロゲン系難燃剤は、化合物中のハロゲン量が該化合物の分子量の20%以上であることが好ましい。このような特定のハロゲン化合物により、難燃性を向上させることができる。更に、化合物中のハロゲン量が該化合物の分子量の20%以上であるため、セルロースエステル系樹脂との混合や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがない。
ハロゲン系難燃剤中のハロゲン量は該化合物の分子量の20%以上であることが好ましいが、更に95%以下であると、揮散性の抑制に加えて、耐溶剤性の点で好ましい。更に好ましくは30〜90%であり、特に好ましくは40〜85%であり、最も好ましくは50〜85%である。
【0040】
ハロゲン系難燃剤としては、含フッ素化合物、含塩素化合物、含臭素化合物などが挙げられるが、中でも難燃性の観点から、含塩素化合物及び含臭素化合物が好ましく、含臭素化合物が特に好ましい。
【0041】
含フッ素化合物としては、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/フルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。また、含フッ素単量体と、この単量体と共重合可能な種々の単量体との共重合体を用いることもできる。
含塩素化合物としては、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、パークロロシクロペンタデカン、テトラクロロ無水フタル酸、含塩素リン酸エステルなどが挙げられる。
【0042】
含臭素化合物としては、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタレートエステル、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモベンゼン、1,1−スルホニル[3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)]ベンゼン、ポリジブロモフェニレンオキサイド、テトラブロムビスフェノール−S、トリス(2,3−ジブロモプロピル−1)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリブロモネオペンチルアルコール、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリエチレン、テトラブロムビスフェノール−A、テトラブロモビスフェノールA又はその誘導体、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー又はポリマー、臭素化フェノールノボラックエポキシなどの臭素化エポキシオリゴマー又はポリマー、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー又はポリマー、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(2−ヒドロキシジエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモシクロオクタン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ジブロモネオペンチルグリコール、ペンタブロモベンジルポリアクリレート及びその反応体、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、N,N’−エチレン−ビス−テトラブロモテレフタルイミド、臭素化トリアジン、トリブロモスチレン及びその反応体、トリブロモフェニルマレイミド及びその反応体などが挙げられる。
【0043】
上記ハロゲン系難燃剤のうち、好ましいものとしては、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、トリブロモフェニルアリルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、臭素化トリアジン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモフタレートエステル、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、ポリジブロモフェニレンオキシド、臭素化エポキシオリゴマー、トリブロモスチレン及びその反応体、トリブロモフェニルマレイミド及びその反応体、ペンタブロモベンジルアクリレート及びその反応体、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、パークロロシクロペンタデカン、クロレンド酸及び含塩素リン酸エステルが挙げられる。より好ましくは、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールAオリゴマー、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン、クロレンド酸などが挙げられる。
【0044】
本発明においては、セルロースエステル系樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましく、曲げ弾性率、耐衝撃性の低下を防止するという理由から、リンを含有する難燃剤がより好ましい。
【0045】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0046】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0047】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0048】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0049】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0051】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一スズ、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0053】
本発明における難燃剤は公知の方法で製造することができる。また、市販品を使用することもできる。例えば、ケイ素含有難燃剤として、「X−22−343、反応性シリコーンオイル(信越化学社製)」、リン含有難燃剤として、「PX−200、1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)(大八化学製)」などがある。
【0054】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0055】
4.可塑剤
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)等のリン酸エステル、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)等のフタル酸エステル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪酸エステル、クエン酸アセチルトリブチル(OACTB)などのクエン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0056】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0057】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0058】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0059】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0060】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0061】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0062】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、1種でも2種以上でも良く、その含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、0.005〜20質量%がより好ましく、更に好ましくは0.01〜10質量%である。
【0063】
5.相溶化剤
本発明の樹脂組成物は、更に相溶化剤を含有することが好ましい。相溶化剤とは、本発明におけるセルロースエステル系樹脂と一般式(I)で表されるイミド系化合物とを相溶化させるものである。本発明の樹脂組成物に相溶化剤を配合すると、セルロースエステル系樹脂に対する一般式(I)で表されるイミド系化合物の分散性が更に向上し、樹脂組成物の流動性(成形加工性)、及び耐衝撃性などの性能がより向上する。
【0064】
本発明において、相溶化剤としては、反応性基を有するものが好ましく、カルボン酸無水物、又は、エポキシ基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種を有する化合物がより好ましい。
好ましい相溶化剤としては、カルボン酸無水物、エポキシ基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基で変性された重合体、ブロック共重合体、グラフト重合体、並びにランダム共重合体、更に種々のノニオン系界面活性剤、カップリング剤、架橋剤を挙げることができる。
相溶化剤は、上記の条件を満たす材料であれば特に限定されないが、具体的には、日本油脂(株)製モディパーシリーズ、住友化学(株)製、ボンドファースト、ボンダインシリーズ、日本石油(株)社製レクスパールシリーズ、東亞合成(株)社製レゼダシリーズ、アルフォンシリーズ、日本触媒(株)製エポクロスシリーズ、旭化成ケミカルズ(株)社製デュラネートシリーズ(いずれも商品名)などの市販品が好適に用いられる。また相溶化剤はこれらに限定されることはなく、「プラスチック相溶化剤 開発・評価・リサイクル」(シーエムシー出版)に記載の相溶化剤なども好適に用いることができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物における相溶化剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、0.1〜30質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜20質量%である。
【0066】
6.酸化防止剤
本発明の樹脂組成物は、更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられ、好ましくは、フェノール系酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス3114等を好適に使用できる。
本発明の樹脂組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%である。この範囲とすることにより、混練や成型プロセスでの加熱に対して樹脂が十分な安定性の向上効果を得ることができ好ましい。
【0067】
7.樹脂組成物、及び成形体
本発明の樹脂組成物は、セルロースエステル系樹脂と一般式(I)で表されるイミド系化合物とを含有しており、必要に応じて、難燃剤、可塑剤、相溶化剤、酸化防止剤、及びその他の添加剤を含有することができる。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、上記した成分のほか、必要に応じて、フィラー(強化材)等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、樹脂組成物によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0070】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0071】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、前記したもの以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロースエステル系樹脂以外のポリマー、安定剤(紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0073】
前記セルロースエステル系樹脂以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロースエステル系樹脂以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0074】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0075】
本発明の樹脂組成物がセルロースエステル系樹脂以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して30質量%以下が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、様々な用途に用いることが可能である。例えば、溶剤に溶かして塗布法によりフィルムとしてもよい。また、溶融押し出し法などによりフィルムとしてもよい。
本発明の樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、光学特性(Rthなど)及び透湿度の観点で優れている。
【0077】
本発明の成形体は、前記セルロースエステル系樹脂と前記一般式(I)で表されるイミド系化合物を含む樹脂組成物を成形することにより得られる。より詳細には、セルロースエステル系樹脂と前記一般式(I)で表されるイミド系化合物と、必要に応じて各種添加剤等を含む樹脂組成物を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。
本発明の成形体の製造方法は、前記樹脂組成物を加熱し、成形する工程を含む。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0078】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【0079】
また、本発明の樹脂組成物は成膜することで、透湿度及びRthの観点で優れたフィルムとすることができ、例えば光学フィルムとして使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0081】
以下のようにして一般式(I)で表されるイミド系化合物である例示化合物を合成した。
【0082】
<合成例1(例示化合物1の合成)>
【0083】
【化5】

【0084】
500mL三口フラスコに、ピロメリット酸無水物30g(東京化成工業製)、1−メチル−2−ピロリドン100g(和光純薬製)を加え、0℃に冷やした。2−エチルヘキシルアミン36g(関東化学製)をゆっくりと添加し、100℃で4時間加熱攪拌した。その後、水700mL中に加えて吸引ろ過し、水とメタノールそれぞれ300mLで洗浄し、無色固体38gを得た。
【0085】
<合成例2(例示化合物2の合成)>
【0086】
【化6】

【0087】
500mL三口フラスコに、ピロメリット酸無水物30g(東京化成工業製)、1−メチル−2−ピロリドン100g(和光純薬製)を加え、0℃に冷やした。ベンジルアミン29.5g(東京化成工業製)をゆっくりと添加し、120℃で4時間加熱攪拌した。その後、水700mL中に加えて吸引ろ過し、水とメタノールそれぞれ300mLで洗浄し、無色固体34gを得た。
【0088】
<合成例3(例示化合物4の合成)>
【0089】
【化7】

【0090】
500mL三口フラスコに、ピロメリット酸無水物30g(東京化成工業製)、1−メチル−2−ピロリドン100g(和光純薬製)を加え、0℃に冷やした。アミルアミン24g(東京化成工業製)をゆっくりと添加し、100℃で3時間加熱攪拌した。その後、水700mL中に加えて吸引ろ過し、水とメタノールそれぞれ300mLで洗浄し、無色固体29gを得た。
【0091】
<合成例4(例示化合物6の合成)>
【0092】
【化8】

【0093】
500mL三口フラスコに、ピロメリット酸無水物30g(東京化成工業製)、1−メチル−2−ピロリドン100g(和光純薬製)を加え50℃に加熱した。2−エチルヘキシルアミン17.8g(東京化成工業製)をゆっくりと添加し、100℃で3時間加熱攪拌した。次に、再び50℃にし、ベンジルアミン14.8g(東京化成工業製)をゆっくりと添加し、120℃で4時間加熱攪拌した。その後、水700mL中に加えて吸引ろ過し、水とメタノールそれぞれ300mLで洗浄し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離精製し、固体11gを得た。
【0094】
<合成例5(例示化合物7の合成)>
【0095】
【化9】

【0096】
500mL三口フラスコに、ピロメリット酸無水物30g(東京化成工業製)、1−メチル−2−ピロリドン100g(和光純薬製)を加え、0℃に冷やした。4−(2−アミノエチル)モルホリン38g(東京化成工業製)をゆっくりと添加し、100℃で3時間加熱攪拌した。その後、水700mL中に加えて吸引ろ過し、水とメタノールそれぞれ300mLで洗浄し、無色固体37gを得た。
【0097】
実施例で使用した他のイミド系化合物に関しても同様の方法やJournal of Heterocyclic Chemistry,1972,vol.9,p.319,322,323記載の方法により、合成を行った。
【0098】
<実施例1〜12、比較例1、2>
[成形体の作製]
セルロースエステル系樹脂、イミド系化合物、及びその他の成分を表1に示す配合割合(質量%)で混合し、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給しペレットを作製し、ついで得られたペレットを、射出成形機(ファナック(株)Roboshot S−2000i、自動射出成形機)に供給して、4×10×80mmの多目的試験片を成形した。
【0099】
なお、表1において、各成分は以下のものを示す。
エチルセルロース:ダウケミカル日本(株) 製、商品名:エトセル100cp(エチル置換度:2.55、Mw:185000、Mn:76000)
セルロースアセテートプロピオネート:イーストマンケミカル社製、482−20(アセチル置換度:0.1、プロピオニル置換度:2.5、Mn:73000、Mw:234000)
セルロースジアセテート:ダイセル化学製、L−70(アセチル置換度:2.45、Mn:65000、Mw:200000)
フタル酸ジ(2−エチルヘキシル):東京化成工業製
Irganox1010:フェノール系酸化防止剤「イルガノックス1010」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)
イミド系化合物は下記構造のものである。
【0100】
【化10】

【0101】
[評価]
得られた射出成形用樹脂組成物及び多目的試験片を用いて、以下の項目について評価した。評価結果は表1に示した。
【0102】
(流動特性)
フローテスタ((株)島津製作所製CFT−100D、L=10mm、D=1.0mmのダイを使用)を用い、上記の射出成形用樹脂組成物をガラス転移温度以下の温度で装置に投入し、剪断速度100S−1、昇温速度2℃/minで昇温測定を行った。一般的に射出成形が容易に可能である、この測定での見かけの粘度が100Pa・Sとなる温度を流動特性温度とした。流動特性温度は、より低温である方が、成形しやすくなるため好ましい。
【0103】
(曲げ弾性率)
ISO178に準拠して、射出成形にて成形した試験片を23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調整した後、インストロン(東洋精機製、ストログラフV50)によって支点間距離64mm、試験速度2mm/minで曲げ弾性率を測定した。測定は3回測定の平均値である。
【0104】
(熱変形温度(HDT))
ISO75に準拠して、試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度(℃)を測定した。熱変形温度測定装置は、(株)東洋精機製作所製 HDTテスタ6M−2を用いた。測定は3回測定の平均値である。HDTは高いほど、熱変形しにくくなるため、好ましい。
【0105】
(シャルピー衝撃強度)
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上静置した後、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。測定は3回測定の平均値である。
【0106】
【表1】

【0107】
実施例1〜12の試験片は曲げ弾性率、流動特性、荷重たわみ温度、及びシャルピー衝撃強度の観点で優れていた。セルロースエステル系樹脂を含まない比較例1、及び一般式(I)で表されるイミド系化合物を含まない比較例2は曲げ弾性率、荷重たわみ温度、及びシャルピー衝撃強度の観点で実施例よりも劣っていた。
【0108】
<実施例13〜20、比較例3及び4>
(セルロースエステル溶液の作製)
セルローストリアセテート(アセチル基の置換度が2.78、粘度平均重合度303、含水率が1質量%以下のセルロースアシレートフレーク。また、セルロースアシレートの6位の置換度が0.90のものを用いた。)、一般式(I)で表されるイミド系化合物、TPP/BDP(質量比2/1)を下記表2に示す割合(質量%)で用い、メチレンクロライド300g、メタノール45gを添加して樹脂組成物を調製した。なお、表2における各成分の含有割合は樹脂組成物の全固形分に対する値である。
セルロースエステル溶液の作製においては、より詳細には下記のような操作を行った。
攪拌羽根を有する5Lのガラス容器に、メチレンクロライド、メタノールの溶媒混合溶液によく攪拌・分散しつつ、セルローストリアセテート粉体(フレーク)と一般式(I)で表されるイミド系化合物、TPP/BDPを下記表2に示す割合で混ぜた混合物を徐々に添加し、全体が2kgになるように仕込んだ。なお、溶媒であるメチレンクロライド、メタノールは、すべてその含水率が0.2質量%以下のものを利用した。まず、セルローストリアセテートの粉末と一般式(I)で表されるイミド系化合物、TPP/BDPを下記表2に示す割合で混ぜた混合物は、分散タンクに粉体を投入し窒素ガスを封入して、ディゾルバータイプの偏芯攪拌軸及び、中心軸にアンカー翼を有して30分間分散した。分散の開始温度は30℃であった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとして更に100分間攪拌し、セルローストリアセテートフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.2質量%以下であることを確認した。
【0109】
得られた不均一なゲル状溶液をスクリューポンプで送液して、−70℃で3分間となるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−80℃の冷媒を用いて実施した。そして、冷却により得られた溶液はステンレス製の容器に移送し、50℃で2時間攪拌し均一溶液とした後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、更に絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。
【0110】
(セルローストリアセテートフィルムの作製)
ろ過済みの50℃のセルローストリアセテート溶液を、流延ギーサーを通して鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の温度は5℃であり、流延スピードは3m/分でその塗布幅は30cmとした。室温で1分放置し、その後に乾燥のために55℃の乾燥風を送風した。5分後に鏡面ステンレス支持体から剥ぎ取り、しかる後に133℃で27分乾燥して、膜厚60μmのセルローストリアセテートフィルムを得た。
【0111】
[評価]
得られたフィルムについて、以下の項目について評価した。評価結果は表2に示した。
【0112】
(透湿度)
得られたセルローストリアセテートフィルムの透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップを、各々のフィルム試料を用いて蓋をし、かつ密閉したものを、60℃及び95%RHの条件で、24時間放置した。24時間放置の前後の質量変化(g/(m・日))から、塩化カルシウムの吸湿性に基づくセルローストリアセテートフィルムの透湿度を算出した。
【0113】
(Rth)
エリプソメーター(AEP−100、島津製作所(株)製)を用いて、波長632.8nmで測定したフィルム面内の縦横の屈折率差にフィルム膜厚を乗じた値として、下記式に従って求めた。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
nx:遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率
ny:遅相軸に直交する方向の屈折率
nz:厚さ方向の屈折率であり
d :フィルムの厚さ(単位:nm)
【0114】
なお、表2において、TPP、BDPは以下の化合物を示す。
【0115】
【化11】

【0116】
【表2】

【0117】
実施例13〜20のフィルムはRthが31〜38と比較的低く、透湿度も低い。一般式(I)で表されるイミド系化合物を含まない比較例3及び4のフィルムはRthが高く、透湿度も高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるイミド系化合物と、セルロースエステル系樹脂とを含有する樹脂組成物。
【化1】

(一般式(I)中、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を表す。R及びRは更に置換基を有しても良く、また、−O−、−S−、−NR−、−CO−、−SO−、及びこれらを組み合わせて得られる2価の基(Rは水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。ただし、Rが複数個存在する場合には、それらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。)からなる群から選ばれる2価の基を1つ以上含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるイミド系化合物の含有量が、樹脂組成物の全固形分に対して40質量%以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、及びセルロースプロピオネートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロースエステル系樹脂がセルロースアセテートである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロースエステル系樹脂のアシル置換度が2.7以下である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱成形して得られる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を加熱し、成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。

【公開番号】特開2011−162695(P2011−162695A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28261(P2010−28261)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】