説明

樹脂組成物、成形体及び光学用部材

【課題】非常に屈折率が高く、耐熱性が高く、透明性が高い成形体が得られる組成物を提供する。
【解決手段】(A)下記式(I)


(R及びR=炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素、a及びb=0〜3の整数、n=5〜100の整数、但し、Aは、置換基を含むチオエーテルフェニル基を含んでも良いチオエーテルを含む基)で表される繰り返し単位を有する重合体、及び(E)有機溶媒を含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、高屈折率かつ耐熱性に優れた成形体を与えるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)を含有する樹脂組成物、それから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード装置(OLED)用部品、電荷結合素子(CCD類)及び相補型金属酸化物半導体(CMOS)イメージセンサー類(CIS類)等の様々なオプトエレクトロニクスへの応用のための高屈折率のポリマー類が開発されている。特に、CMOSイメージセンサー用のポリマーミクロレンズでは、従来のポリマーの典型的な屈折率は1.30〜1.70の範囲であるが、1.70を超え、1.80もの非常に高い屈折率が望ましい。最先端の光学装置の発展は、新規な機能性材料の入手可能性に依存している。
これまでのポリマーを用いた高屈折率材料(1.8)は主に金属酸化物の微粒子を分散させたものであり、ポリマー自体の高屈折率化によっては1.76程度が限界であった。
【0003】
ポリマー自体の屈折率を上げる一般的なアプローチは、ローレンツ−ローレンツ式に従って、モル屈折が高いか、モル容積が低いか、又は比重が高い置換基を導入することである。従って、モル屈折が高い、重いハロゲン原子、硫黄原子又は金属原子の導入はポリマーの屈折率を高めるのに効果的である。硫黄原子は、高い分極率、安定性、及びポリマーへの導入し易さから、屈折率を高めるのに最もよく使われている(例えば、特許文献1、2)。これまでに、光学適用のために各種の硫黄含有ポリマーが合成され、特徴付けが為されてきた。そして、ポリイミド類、ポリ(フェニレンスルフィド)類(PPS)、ポリ(フェニルキノキサリン)類を含む硫黄含有ポリマーが、高い屈折率を示すことが知られている。
【0004】
また、高屈折率無機ナノ粒子及び有機ポリマーマトリックスからなるナノコンポジットは、1.80を超える屈折率を容易に達成できることも知られている。しかしながら、このようなポリマーナノコンポジットは、保存安定性が悪く、光学的損失が高く、加工性にも劣ることがある。
【0005】
ポリ(フェニレンスルフィド)類は、硫黄含量が高く、ポリマーの密度を高める非常に密な構造を有しているため、最も有望な高屈折率ポリマーの一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211021号公報
【特許文献2】特開平8−325337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、非常に屈折率が高く、透明性が高い成形体が得られる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、チアンスレンジフルオリドとジチオールの重合により得られるチアンスレン単位含有ポリ(フェニレンチオエーテル)の特性について検討したところ、高屈折率(波長633nmにおける屈折率:約1.8)、高い透明性、高い耐熱性を示す光学用部材が得られることを見出した。
【0009】
さらに、高分子量のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)類(TPPS)は、有機溶媒への溶解性が乏しかったり、有機溶媒に不溶であったりするため、成膜性に劣るが、数平均分子量を2,500〜20,000程度のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)類を使用することで、有機溶媒に溶解した組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は下記の樹脂組成物、成形体及び光学用部材を提供する。
1.(A)下記式(I)
【化1】

(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、
a及びbは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
nは、5〜100の整数であり、
Aは、
【化2】

で示される基であり、
mは0〜2の整数であり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、cは0〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位を有する重合体、
及び
(E)有機溶媒
を含有する樹脂組成物。
2.前記(A)成分が、下記式(I−1)〜(I−3)で示される群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有する1に記載の樹脂組成物。
【化3】

(式中、nは請求項1で定義した通りである。)
3.前記(A)成分の数平均分子量が、2,500〜20,000の範囲である1又は2に記載の樹脂組成物。
4.さらに、(B)一次粒子径が1〜100nmの範囲内の、周期律表第4族元素の酸化物粒子を含有する1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.前記成分(B)の粒子が、酸化チタン粒子又は酸化ジルコニウム粒子である4に記載の樹脂組成物。
6.前記成分(B)の粒子が、酸化珪素被覆されたルチル型酸化チタン粒子からなる4に記載の樹脂組成物。
7.前記(E)有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(TCE)、及びテトラメチル尿素からなる群から選ばれる1種以上を、全有機溶媒の50重量%以上含有する1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8.さらに、(C)界面活性剤を含有する1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
9.1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物を塗布又は型に流し込み、乾燥させて得られる成形体。
10.波長633nmにおける屈折率が1.70以上である9に記載の成形体。
11.9又は10に記載の成形体からなる光学用部材。
12.固体画像素子の集光材料である11に記載の光学用部材。
13.ディスク集光材料である11に記載の光学用部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、屈折率が非常に高く、高い透明性を有する成形体を与える樹脂組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】合成例2で製造した式(I−2)のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(分子量5,000)のH NMRスペクトルである。
【図2】合成例2で製造した式(I−2)のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(分子量5,000)のIRスペクトルである。
【図3】合成例3で製造した式(I−3)のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(分子量5,000)のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の樹脂組成物、成形体及び光学部材について具体的に説明する。
I.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、少なくとも下記(A)成分及び(E)有機溶媒を含有し、下記(B)〜(D)成分を含み得る。
(A)下記式(I)(以下、チアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)という)
【化4】

(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、
a及びbは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
nは、5〜100の整数であり、
Aは、
【化5】

で示される基であり、
mは0〜2の整数であり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、cは0〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位を有する重合体
(B)一次粒子径が1〜100nmの範囲内の、周期律表第4族元素の酸化物粒子
(C)界面活性剤
(D)その他添加剤
(E)有機溶媒
以下、上記各成分について説明する。
【0014】
(A)チアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)
本発明の樹脂組成物は、下記式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)を含有する。
【0015】
【化6】

(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、
a及びbは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
nは、5〜100の整数であり、
【0016】
Aは、
【化7】

で示される基であり、
mは0〜2の整数であり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、cは0〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位を有する重合体
【0017】
(A)成分は、下記式(I−1)〜(I−3)で示される群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有するチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【化8】

式中、nは上記で定義した通りである。
【0018】
上記式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)は、波長400nmにおいて約70%以上の透過率を有し、透明性が高く、また、波長633nmでの屈折率が1.80にも達し、これまでに報告されている透明性を有する有機ポリマー類のうちで最も高い屈折率を有している。さらに、上記式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)は、5%重量損失温度が400℃以上、ガラス転移点(T)が140℃以上であり、高い耐熱性を有している。従って、式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(成分(A))を含有する本発明の樹脂組成物は、高い透明性、高い屈折率及び高い耐熱性を有する成形体を与える。
【0019】
式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)は、数平均分子量が2,500〜20,000の範囲、好ましくは3,000〜15,000の範囲、より好ましくは5,000〜10,000の範囲である。分子量が20,000を超えると、有機溶媒への溶解性が低下し、成膜性が劣るおそれがある。分子量が上記範囲であれば、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(TCE)、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒に可溶であり、スピンキャスト等における成膜性に優れている。
【0020】
式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)は、2,7−ジフルオロチアンスレンと、HS−A−SH(Aは上記で定義した通りである)とを、炭酸カリウムの存在下、適当な有機溶媒中で加熱して重合させることによって得ることができる。具体的には、合成例1〜3に示す通りである。
【0021】
式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)の分子量を所望の範囲に調節するためには、モノマーの仕込比を調整すればよい。尚、本発明において、式(I)で示されるチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)の分子量は例えば次のようにして決定することができる。即ち、末端に存在するフッ素原子を、4−t−ブチルチオフェノールで修飾し、t−ブチル基中の水素原子と、TPPSの主鎖を構成する芳香環に結合する水素原子のNMR測定における積分比から求めて繰り返し単位を計算することにより決定できる。
【0022】
本発明の樹脂組成物中における成分(A)の配合量は、有機溶媒を除く固形分全量を100重量%としたときに、通常10〜100重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲内である。成分(A)の配合量が10重量%未満では、十分な屈折率が得られなかったり、膜強度が劣るおそれがある。
【0023】
(B)一次粒子径が1〜100nmの範囲内の、周期律表第4族元素の酸化物粒子
成分(B)は周期律表第4属元素の酸化物粒子である。屈折率の高い粒子成分を添加することにより、得られる成形体の屈折率をさらに高めることができる。
成分(B)の粒子の一次粒子径は、1〜100nmの範囲内であることが必要であり、1〜80nmの範囲内であることが好ましく、5〜50nmの範囲内であることがより好ましい。粒子の一次粒子径が1nm未満であると、二次凝集が起こり易く成形体が白化するおそれがあり、100nmを超えると、薄膜形成時の面均一性が損なわれるおそれがある。ここで、一次粒子径は、光散乱法によって測定することができる。
【0024】
成分(B)の粒子として用いることができる酸化物としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム及びこれらの金属酸化物と酸化ケイ素や酸化スズの複合粒子が挙げられ、得られる成形体の屈折率を高める効果の点から、酸化チタン粒子及び酸化ジルコニウム粒子が好ましい。これらの粒子は一種単独で使用することもできるし、複数種類を併用してもよい。
【0025】
成分(B)の粒子は、例えば酸化ケイ素等で被覆されていてもよい。特に、酸化チタンは、光触媒活性を有しており、そのままでは光学用途に用いることは難しいため、粒子表面を酸化ケイ素で被覆することが好ましい。
また、酸化チタンには、結晶型の違いにより、アナターゼ型とルチル型が存在するが、屈折率が高く、耐光性に優れることからルチル型が好ましい。
【0026】
成分(B)として用いる酸化物粒子は、粉体状であってもよいし、溶媒分散ゾルであってもよい。分散媒としては、例えば、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレングレコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0027】
成分(B)として用いることができる粒子の市販品の例としては、例えば、酸化ケイ素被覆アナターゼ型酸化チタン粒子−メタノール分散ゾル(触媒化成工業社製、オプトレイクシリーズ)、酸化ケイ素被覆−酸化スズ含有ルチル型酸化チタン粒子−メタノール分散ゾル(テイカ社製、TSシリーズ)、酸化ジルコニウム粒子−メチルエチルケトン分散ゾル(大阪セメント社製、HXU−120JC)等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物中における成分(B)の配合量は、有機溶媒を除く固形分全量を100重量%としたときに、通常0〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲内である。成分(B)の配合量が90重量%を超えると、膜強度が劣るおそれがある。
尚、成分(B)が溶媒分散ゾルである場合には、成分(B)の配合量には分散媒を含まない。
【0029】
(C)界面活性剤
本発明の樹脂組成物をスピンコート等の方法で基材等に塗布する場合には、均一な塗膜が得られることから、界面活性剤を配合することが好ましい。
本発明で用いることができる界面活性剤の種類としては、ポリジメチルシロキサン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、ポリジメチルシロキサン系界面活性剤が好ましい。
【0030】
ポリジメチルシロキサン系の界面活性剤の例としては、例えば、SH28PA(東レ・ダウコーニング社製、ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体)、ペインタッド19、54(東レ・ダウコーニング社製、ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体)、FM0411(サイラプレーン、チッソ社製)、SF8428(東レ・ダウコーニング社製、ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体(側鎖OH含有))、BYK UV3510(ビックケミー・ジャパン社製、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体)、DC57(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体)、DC190(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体)、サイラプレーンFM−4411、FM−4421、FM−4425、FM−7711、FM−7721、FM−7725、FM−0411、FM−0421、FM−0425、FM−DA11、FM−DA21、FM−DA26、FM0711、FM0721、FM−0725、TM−0701、TM−0701T(チッソ社製)、UV3500、UV3510、UV3530(ビックケミー・ジャパン社製)、BY16−004、SF8428(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、VPS−1001(和光純薬社製)等が挙げられる。特にサイラプレーンFM−7711、FM−7721、FM−7725、FM−0411、FM−0421、FM−0425、FM0711、FM0721、FM−0725、VPS−1001等を挙げることができる。また、エチレン性不飽和基を有する当該シリコーン化合物の市販品としては、例えば、Tego Rad 2300、2200N(テゴ・ケミー社製)等を挙げることができる。
【0031】
フッ素系の界面活性剤の例として、例えば、メガファックF−114、F410、F411、F450、F493、F494、F443、F444、F445、F446、F470、F471、F472SF、F474、F475、R30、F477、F478、F479、F480SF、F482、F483、F484、F486、F487、F172D、F178K、F178RM、ESM−1、MCF350SF、BL20、R08、R61、R90(DIC社製)が挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂組成物中における成分(C)の配合量は、有機溶媒を除く固形分全量を100重量%としたときに、通常0〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%の範囲内である。成分(C)の配合量が10重量%を超えると、屈折率が低下するおそれがある。
本発明の樹脂組成物に界面活性剤(C)を配合する場合には、上述した界面活性剤を1種単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(D)添加剤
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、硬化性化合物、酸化防止剤等が挙げられる。
【0034】
硬化性化合物には、熱硬化性化合物及び光硬化性化合物を含む。これらの化合物を配合することにより、得られる成形体の硬度を高めることができる。
熱硬化性化合物としては、例えば、メラミン化合物、アルコキシシラン等が挙げられる。
光硬化性化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物等が挙げられる。
【0035】
(E)有機溶媒
本発明の樹脂組成物は、通常、成分(A)のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)製造の際に用いる溶媒を含有する。また、成分(B)の酸化物粒子として粒子の溶媒分散ゾルを用いる場合には、その分散媒も本発明の樹脂組成物中に含有される。その他、組成物の粘度を調整し、均一な塗膜を形成するための組成物の塗布性を改善するために、別途、有機溶媒を添加することができる。
【0036】
本発明で用いる有機溶媒としては、非プロトン系有機溶媒が好ましい。また、前記(A)成分の溶解性の点で、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(TCE)、及び、テトラメチル尿素からなる群から選ばれる1種以上の溶媒を含むことが好ましい。さらに、前記の有機溶媒は、全溶媒中の50重量%以上含むことがより好ましい。これら以外にもN,N−ジエチルホルムアミド、N、N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメトキシアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2−(2−メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ピロリン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール酸、p−クロロフェノール、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン等を使用することができる。これらの有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物中における成分(E)有機溶媒の配合量は、有機溶媒を除く固形分全量100重量部に対して、通常50〜9900重量部、好ましくは100〜1900重量部、より好ましくは200〜1900重量部の範囲内である。有機溶媒の配合量が50重量部未満では、スピンコート塗布ができなくなるおそれがあり、9900重量部を超えると、必要膜厚が発現できないおそれがある。
尚、成分(E)の配合量には、成分(A)のチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)溶液に由来する溶媒及び成分(B)の酸化物粒子分散ゾルの分散媒として持ち込まれる溶媒を含む。
【0038】
II.成形体及び光学部材
本発明の成形体は、上記本発明の組成物を塗布、乾燥させることにより得ることができる。本発明の光学部材は本発明の成形体からなることを特徴とする。
【0039】
本発明の成形体は、成分(B)の酸化物粒子を含有しない場合であっても、波長633nmにおける屈折率が、通常1.60以上であり、好ましくは1.68以上、より好ましくは1.70以上である。
本発明の成形体が膜である場合の膜厚は、用途によって適宜選択すべきであるが、通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜2μm、透明性の観点からより好ましくは0.1〜1μmの範囲内である。0.05μm未満では光学用途としての機能を発現しないおそれがあり、5μmを超えると、硫黄原子に起因する着色が見られ、透明性が低下するおそれがある。
【0040】
本発明の成形体又は光学部材は、本発明の樹脂組成物を、スピンコート、バーコート、ダイコート、グラビアコート、インクジェット等の公知の方法で基材に塗布し、又は、型に流し込み、乾燥、即ち有機溶媒を蒸発させることで形成することができる。
有機溶媒を蒸発させるには、例えば、窒素雰囲気下、80〜350℃、好ましくは 100〜300℃で、1〜180分間、好ましくは5〜120分間加熱処理すればよい。加熱は、ホットプレート、オーブン等の公知の装置で行うことができる
【0041】
本発明の成形体は、高い屈折率、優れた透明性及び優れた耐熱性を必要とする光学用部材として好適である。本発明の成形体からなる光学用部材としては、例えば、固体撮像素子の集光材料、記録用ディスクの集光材料等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
合成例1
式(I−1)で表される構造単位を有するチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(TPPS 1)の製造
【化9】

【0044】
フラスコに4,4’−チオビスベンゼンチオール(浙江寿爾福化学有限公司社製;0.955mmol,0.239g)、2,7−ジフルオロチアンスレン(J. Polym. Sci.:Part A:Polym. Chem.,42,6353−6363(2004)に従って合成;1.00mmol,0.252g)、炭酸カリウム(2.4mmol,0.332g)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU、東京化成社製;2mL)及びトルエン(10mL)を加え、窒素置換を行った後、140℃で共沸脱水を行った。その後、190℃まで昇温し、トルエンを除き、同温度で24時間重合を行った。得られた混合物をメタノール中で再沈殿させ、濾過により生成物(仕込分子量10,000)(0.412g,91%)を得た。
【0045】
得られた生成物は、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU、東京化成社製)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(TCE、東京化成社製)及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP;Aldrich社製)に可溶であった。
生成物を、熱重量分析(TG)及び示差走査熱量測定(DSC)によって、5%重量損失温度(T5%;℃、昇温速度10℃/分)及びガラス転移温度(T;℃、第2加熱、20℃/分)を評価した。その結果、T5%は471℃、Tgは143℃であった。
生成物を、温度30CのDMPUに溶解し、0.5g/dLの溶液を調製した後、オストワルド粘度計(Sibata No.2)で通過時間tを測定し、次式により粘度を求めたところ、粘度[η]inh=0.130dL/gであった。
【数1】

(t:溶媒のみの通過時間)
【0046】
元素分析:Calcd for 22 repeating units:C,62.17;H,3.04
Found:C,61.91;H,3.18
【0047】
合成例2
式(I−2)で表される構造単位を有するチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(TPPS 2)の製造
【化10】

【0048】
フラスコに、1,3−ベンゼンジチオール(アルドリッチ社製;0.964mmol,0.137g)、2,7−ジフルオロチアンスレン(1.00mmol,0.252g)、炭酸カリウム(2.4mmol,0.332g)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU,2mL)及びトルエン(10mL)を入れ、窒素置換を行った後、140℃で共沸脱水を行った。そのまま190℃まで昇温し、トルエンを除いた後、同温度で24時間重合を行った。得られた混合物をメタノール中で再沈殿させ、濾過により生成物(仕込分子量10,000)(0.324g,93%)を得た。
【0049】
得られた生成物は、DMPU、TCE及びNMPに可溶であった。
生成物を、熱重量分析(TG)及び示差走査熱量測定(DSC)によって、5%重量損失温度(T5%;℃、昇温速度10℃/分)及びガラス転移温度(T;℃、第2加熱、20℃/分)を評価した。その結果、T5%は438℃、Tgは142℃であった。
[η]inh=0.114dL/g
元素分析:Calcd for 27 repeating units:C,60.88;H,2.83
Found:C,60.77;H,2.97
【0050】
また、分子量が5,000となるように仕込んで得られた生成物を、トリフルオロ酢酸(TFA)2滴加えたCDCl中でH NMRスペクトルを測定した結果を図1に示す。また、IRスペクトルを図2に示す。
【0051】
合成例3
式(I−3)で表される構造単位を有するチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)(TPPS 3)の製造
【化11】

【0052】
フラスコに、硫化ナトリウム九水和物(関東化学社製;0.95mmol,0.228g)、2,7−ジフルオロチアンスレン(1.00mmol,0.252g)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(2mL)及びトルエン(10mL)を加え、窒素置換を行った後、140℃で共沸脱水を行った。そのまま190℃まで昇温し、トルエンを除いた後、同温度で24時間重合を行った。得られた混合物をメタノール中で再沈殿させ、濾過により生成物(仕込分子量5,000)(0.201g,82%)を得た。
得られた生成物は、DMPUに可溶であった。
生成物を、熱重量分析(TG)及び示差走査熱量測定(DSC)によって、5%重量損失温度(T5%;℃、昇温速度10℃/分)及びガラス転移温度(T;℃、第2加熱、20℃/分)を評価した。その結果、T5%は430℃、Tgは145℃であった。
[η]inh=0.0663dL/g
元素分析:Calcd for 19 repeating units:C,58.42;H,2.46
Found:C,58.28;H,2.66
また、生成物のIRスペクトルを図3に示す。
【0053】
実施例1
窒素導入管を備えた反応容器に、合成例1で製造したチアンスレン系ポリ(フェニレンスルフィド)TPPS 1(54.5g)に、N,N’―ジメチルプロピレン尿素(488.3g)とジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体(東レダウコーニング社製SH28PA)0.9gを加え溶解させた。次に酸化ケイ素被覆−酸化スズ含有ルチル型酸化チタンの2−ブトキシエタノールゾル(テイカ社製TSシリーズ、粒子含量20重量%)223gを滴下した。その後、室温で1時間攪拌し樹脂組成物を得た。
【0054】
実施例2〜9及び比較例1〜3
下記表1に示す組成とした以外は、実施例1と同様の方法で調製を行い、各樹脂組成物を得た。
【0055】
<成形体の作製>
4インチ径のシリコンウエハ基板上に実施例1〜9及び比較例1〜3で調製した樹脂組成物をディスペンスし、厚さ約0.5μmになるようにスピンコート塗布し、窒素雰囲気下280℃×1.5時間加熱し膜状の成形体を作製した。
【0056】
<成形体の特性評価>
上記のようにして作製した成形体について、下記特性を測定、評価した。結果を下記表1に示す。
【0057】
(1)屈折率
合成例1〜3で得られたTPPS 1〜3、比較例のポリマー及び成分(B)の各粒子、並びに実施例1〜9及び比較例1〜3で得られた成形体について、N&K Technology社のN&K Analyzerを使用して、波長633nmにおける屈折率を測定した。
【0058】
(2)透過率
実施例1〜9及び比較例1〜3で得られた成形体について、JASCO社製のV−570型分光光度計を使用して、波長400nmにおける透過率を測定した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1中の略号等は下記のものを示す。
比較例のポリマー:スチレンアクリルコポリマー ARUFON UG−4070(表品名、東亞合成製)
酸化ケイ素被覆−酸化スズ含有ルチル型酸化チタン:テイカ社製の粒子2−ブトキシエタノールゾル、TSシリーズ、一次粒子径5〜15nm、粒子含量20重量%
酸化ジルコニウム:住友大阪セメント社製の粒子メチルエチルケトンゾル、HXU−120JC、一次粒子径5〜20nm、粒子含量40重量%
酸化ケイ素被覆アナターゼ型酸化チタン:触媒化成工業社製の粒子2−ブトキシエタノールゾル、オプトレイク、一次粒子径5〜15nm、粒子含量25重量%
SH28PA:東レダウコーニング社製界面活性剤、ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体
【0061】
表1の結果から、(B)粒子成分を配合することにより、さらに屈折率が1.874〜1.994と非常に高く、光学用部材に必要な高い透過率も有する成形体が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の樹脂組成物は、高い屈折率及び高い透明性を有する光学用部材の製造に有用である。
本発明の光学部材は、特に固体画像素子の集光材及びディスク集光材として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(I)
【化12】

(式(I)中、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、
a及びbは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
nは、5〜100の整数であり、
Aは、
【化13】

で示される基であり、
mは0〜2の整数であり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルキルスルファニル基、シアノ基、塩素、臭素又はヨウ素であり、cは0〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位を有する重合体、
及び
(E)有機溶媒
を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、下記式(I−1)〜(I−3)で示される群から選ばれる1種以上の繰り返し単位を有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【化14】

(式中、nは請求項1で定義した通りである。)
【請求項3】
前記(A)成分の数平均分子量が、2,500〜20,000の範囲である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(B)一次粒子径が1〜100nmの範囲内の、周期律表第4族元素の酸化物粒子を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(B)の粒子が、酸化チタン粒子又は酸化ジルコニウム粒子である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(B)の粒子が、酸化珪素被覆されたルチル型酸化チタン粒子からなる請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(E)有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(TCE)、及びテトラメチル尿素からなる群から選ばれる1種以上を、全有機溶媒の50重量%以上含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、(C)界面活性剤を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を塗布又は型に流し込み、乾燥させて得られる成形体。
【請求項10】
波長633nmにおける屈折率が1.70以上である請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の成形体からなる光学用部材。
【請求項12】
固体画像素子の集光材料である請求項11に記載の光学用部材。
【請求項13】
ディスク集光材料である請求項11に記載の光学用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177057(P2012−177057A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41678(P2011−41678)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】