説明

樹脂組成物

【課題】 ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる成形品の成形寸法が、添加する顔料の種類によって異なることなく、色替えを行った場合にも、成形寸法が安定した成形品が得られる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 その成形品が成形寸法の安定したものとなる樹脂組成物であって、顔料を含有するポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に、結晶核剤が含有されてなることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。更に詳しくは、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に顔料を含有してなる樹脂組成物において、得られる成形品の成形寸法の安定化が達成できる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、結晶性のポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂を成形する場合に、添加した着色剤によって、得られる成形品の成形寸法が変化することが知られている。これは、着色剤である顔料、特に有機顔料が結晶核剤となってポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂の結晶化を促進することによると考えられる。このため、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に添加する顔料の種類によって、得られる成形品の収縮率(成形寸法)が異なることが生じ、成形品の色替えを行った場合に、得られる成形品が、前色の成形品と同じ寸法のものとならないことが起こる。このことは、キャップや電子材料部品などの精密成形品や、コンテナなどの大型成形品においては深刻な問題となっている(非特許文献1参照)。
【0003】
従って、色替えをした成形品について同じ成形寸法を得ようとすると、着色剤ごとに金型寸法の修正が必要となり、成形時の作業性などに支障がある。また、成形時に樹脂の流れ方向によって、成形品中に収縮率の異なる部分が発生し、成形品に歪みを与えることもある。このような場合には、成形品の歪みを矯正するために、成形後にアニーリングする工程が必要となる。
【0004】
これに対して、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる成形品の成形寸法が、添加する顔料の種類によって異なるという問題を防ぐために、顔料の結晶核剤的な作用を低減させ、成形品の収縮率に影響を与えない顔料が上市されている。しかしながら、これらの顔料は、顔料が本来有している鮮明な色調及び着色力に劣るため、場合によっては成形品の品質が損なわれるという問題がある。更に、これらの顔料は高価であるため、経済性に劣るという問題もある。
【0005】
【非特許文献1】プラスチック用着色剤・カラーコンパウンド 監修 鈴木茂、堤和男 37頁 グレースラボラトリ社 1990年10月15日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂からなる成形品の成形寸法が添加する顔料の種類によって異なることなく、色替えを行った場合にも、成形寸法が安定した成形品が得られる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意検討した結果、顔料を含有するポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に結晶核剤を添加すれば、使用する顔料の種類に関わらず、成形寸法が安定した成形品が得られ、色替えを行った場合にも一定の成形寸法に収斂した成形品が得られる樹脂組成物となることを見出して、本発明に到達した。
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、その成形品が成形寸法の安定したものとなる樹脂組成物であって、顔料を含有するポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に、結晶核剤が含有されてなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0009】
また、本発明にかかる樹脂組成物の好ましい形態としては、上記結晶核剤は、ソルビトール系結晶核剤、安息香酸塩系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤およびノルボルネンジカルボン酸塩系結晶核剤からなる群から選ばれる樹脂組成物、或いは、結晶核剤が、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部含有されてなる樹脂組成物が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる樹脂組成物を用いることで、樹脂組成物に添加する顔料を替えた場合にも、同一の金型で、成形寸法の安定した各色の成形品を得ることができ、従来、色替え時に起こりやすかった成形品の成形寸法が変化するといった問題が解消される。更に、成形時における樹脂の流れ方向による成形品の歪みの発生の問題が解消された、成形寸法の安定した成形品が得られる樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に述べる。先ず、本発明にかかる樹脂組成物を構成するポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂について説明する。本発明に使用するポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂およびブロックポリプロピレン樹脂など、更に、これらの混合物が挙げられる。これらはいずれも結晶性のポリプロピレン樹脂であり、その融点は、120〜165℃の範囲のものである。
【0012】
本発明に使用するポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)および低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)など、更に、これらの混合物が挙げられる。これらはいずれも結晶性のポリエチレン樹脂であり、その融点は、100〜135℃の範囲のものである。
【0013】
本発明にかかる樹脂組成物は、上記した樹脂に顔料が含有されてなるが、特に有機顔料である場合に、前記した本発明の顕著な効果が得られる。有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、アゾ系顔料、ポリアゾ系顔料、イミダゾロン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール(DPP)系顔料およびジオキサジン系顔料などが挙げられる。これらの顔料は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に含有させた場合に、成形品の収縮率(成形寸法)に影響を与える。また、その収縮率の値は顔料の種類によって変化し、一定ではない。そして、樹脂組成物中のこれらの顔料の含有量は微量でも、樹脂組成物の成形後の収縮率に影響を与える。上記した中でも、特に、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール(DPP)系顔料およびジオキサジン系顔料などを、樹脂の着色剤として使用した場合に、本発明にかかる構成とすることによる顕著な効果が得られる。
【0014】
本発明にかかる樹脂組成物中の顔料の含有量は、通常、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂100質量部に対して0.001質量部〜10質量部である。顔料の含有量が0.001質量部未満では得られる成形品に十分な着色を与えることができず、10質量部を超えると樹脂物性が低下するので好ましくない。
【0015】
次に、本発明を特徴づける結晶核剤について説明する。本発明において使用する結晶核剤としては、ソルビトール系結晶核剤、安息香酸塩系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤およびノルボルネンジカルボン酸塩系結晶核剤などが例示できる。但し、タルクやガラス繊維などの核剤は有効ではなく、前記した本発明の顕著な効果を達成するものとしては、好適なものではない。
【0016】
樹脂組成物中における上記に列挙したような結晶核剤の好ましい含有量は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.01質量部〜5質量部である。結晶核剤の含有量が0.01質量部未満では、前記した本発明の顕著な効果が十分に発現されない場合があるので好ましくなく、5質量部を超えても成形後の成形寸法の安定化に対する効果に顕著な差はなく、経済性の点から好ましくない。
【0017】
なお、本発明にかかる樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、スリップ剤或いは無機フィラーなど、通常、樹脂組成物に使用される各種添加剤を含有していてもよい。
【0018】
次に、本発明にかかる樹脂組成物の製造方法、更に、該樹脂組成物を使用して成形品を製造する方法について、例を挙げて説明する。本発明にかかる樹脂組成物は、その利便性から、主に、着色樹脂ペレット或いはマスターバッチとして提供することが好ましい。
(イ)着色樹脂ペレットは、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に、顔料と結晶核剤の両方、及び必要に応じて適宜に添加剤を含有させて混合し、溶融混練してペレタイズすることによって得られる。
(ロ)マスターバッチは、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に、顔料と結晶核剤の両方を高濃度に含有させ、必要に応じて適宜に添加剤を含有させた材料を混合し、溶融混練してペレタイズすることによって得られる。
【0019】
本発明にかかる樹脂組成物は、射出成形、パイプや異型に使用される押出成形、ブロー成形、インフレーション成形或いはTダイ成形など任意の方法に使用可能である。勿論、これらの成形方法に限定されるものではなく、本発明にかかる樹脂組成物を使用することによって、いずれの場合も、成形寸法の安定した成形品を製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、文中、部とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0021】
[実施例1]
三井ポリプロJ104(ホモポリプロピレン樹脂、MFR=9.0、三井化学製)100部に、結晶核剤として、アデカスタブNA−21(リン酸塩系結晶核剤、旭電化製)を0.1部、下記に示した各有機顔料を0.2部、ステアリン酸マグネシウムを0.2部添加し、ブレンドした混合物を25mmφ同方向二軸押出機にて200℃で混練・ペレット化して、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットを作製した。また、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない以外は上記と同様にして、無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。
【0022】
上記において使用した顔料は、イルガジンエロー3RLTN(イソインドリノンエロー)、クロモフタルレッド2030(ジケトピロロピロール(DPP)レッド)、PVファーストピンクPT(キナクリドンレッド)、クロモファインブルー4920(シアニンブルー)、クロモファイングリーン2GO(シアニングリーン)を使用した。
【0023】
<評価>
上記で得た6種類のペレットをそれぞれ用いて、型締め圧50tの射出成形機にて、200℃で成形棒(127mm×12.5mm×6.3mm)を成形した。そして、使用した金型の寸法と各成形棒の寸法から、下記計算式により、それぞれのペレットを使用した場合の成形品の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
収縮率(%)=[(金型の長手方向の寸法−成形棒の長手方向の寸法)/金型の長手方向の寸法]×100
【0024】
[実施例2]
結晶核剤をハイパーフォームHPN68(ノルボルネンジカルボン酸塩系結晶核剤)に代えた以外は、実施例1と同様にして、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットと、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。そして、これらのペレットを使用して実施例1の場合と同様に成形棒を得、該成形棒の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0025】
[実施例3]
実施例1で使用したポリプロピレン樹脂を、ジェーレックス6080(HDPE、MFR=6.0)に代え、さらに、結晶核剤をアデカスタブNA−11(リン酸塩系結晶核剤)に代えた以外は実施例1と同様にして、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットと、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。そして、これらのペレットを使用して実施例1の場合と同様に成形棒を得、該成形棒の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0026】
[実施例4]
結晶核剤をゲルオールMD(ソルビトール系結晶核剤)に代えた以外は、実施例3と同様にして、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットと、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。そして、これらのペレットを使用して実施例1の場合と同様に成形棒を得、該成形棒の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0027】
[比較例1]
結晶核剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットと、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。そして、これらのペレットを使用して実施例1の場合と同様に成形棒を得、該成形棒の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0028】
[比較例2]
結晶核剤を使用しないこと以外は実施例3と同様にして、色の異なる5種類の着色樹脂ペレットと、その成形時における収縮率の比較のために、顔料を含有しない無着色(ブランク)の樹脂ペレットを作製した。そして、これらのペレットを使用して実施例1の場合と同様に成形棒を得、該成形棒の収縮率を算出した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0029】

【0030】
表1の結果より、顔料と結晶核剤とを含有する本実施例の樹脂組成物から得られた成形品の収縮率は一定であり、無着色(ブランク)の場合の収縮率と同じであることが認められる。一方、結晶核剤を含有しない比較例の樹脂組成物から得られた成形品の収縮率は、使用する顔料によって不揃いであり、安定しないことがわかった。表1に示した通り、この結果は、使用した樹脂がポリプロピレン或いはポリエチレンのいずれの場合においても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により得られた樹脂組成物を用いると、成形時において同一の金型で各色の成形が可能になり、色替え時に起こりやすい成形寸法の不揃いを解消することができる。同時に成形品の歪みを解消することも可能である。特に、精密部品や大型部品を成形する場合に、本発明の樹脂組成物を使用して成形することが有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その成形品が成形寸法の安定したものとなる樹脂組成物であって、顔料を含有するポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂に、結晶核剤が含有されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記結晶核剤は、ソルビトール系結晶核剤、安息香酸塩系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤およびノルボルネンジカルボン酸塩系結晶核剤からなる群から選ばれる請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶核剤が、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部含有されてなる請求項1または2に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−225576(P2006−225576A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43506(P2005−43506)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】