説明

樹脂組成物

【課題】本発明は種々の樹脂成形物の表面に望ましいゴム弾性を有する表面層を形成する樹脂配合物を提供することを課題とする。
【解決手段】スチレン系水添ブロック共重合体と、ポリエステルエラストマーと、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体との混合物からなる樹脂組成物を提供する。上記樹脂組成物にはメチルメタクリレート−アクリレート共重合体が含有されているので、PMMAに対して良好な融着性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)等種々の成形用熱可塑性樹脂材料に融着性を有する樹脂配合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用樹脂部品、家庭用樹脂部品等の樹脂部品においては、軟質表面層を有するものが要求される。このような樹脂部品の主体はAS、ABS、PC、PMMA等を材料としている。
従来、上記樹脂部品の表面層を軟質にするには、上記樹脂部品の主体表面に熱可塑性エラストマー層を被覆する手段が提案されている
上記熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系水添ブロック共重合体と、ウレタン系エラストマーあるいはポリエステルエラストマーとからなる組成物が提供されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−130451号公報
【特許文献2】特開2000−63644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記配合物において、ウレタン系エラストマーを含有したものは透明性が乏しくなり、またPMMAには融着しない。またポリエステルエラストマーを含有したものは透明性は良好であるがPMMAには融着せず、また多量配合すると、射出成形中に熱によって加水分解してガスを発生する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、スチレン系水添ブロック共重合体と、ポリエステルエラストマーと、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体との混合物からなる樹脂組成物を提供するものである。
上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して上記ポリエステルエラストマー300〜450質量部、上記メチルメタクリレート−アクリレート共重合体80〜300質量部が配合されていることが望ましく、また上記樹脂組成物には酸変性スチレン系水添ブロック共重合体が相溶化剤として含有されていることが望ましい。この場合上記酸変性スチレン系水添ブロック共重合体は、上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して30〜50質量部添加されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明の樹脂組成物にあっては、スチレン系水添ブロック共重合体に、ポリエステルエラストマーと共にメチルメタクリレート−アクリレート共重合体が配合されているので、透明性が良好でかつPMMAに対する融着性も良好である。上記メチルメタクリレート−アクリレート共重合体はPMMAよりも軟質であり、ある程度の量を配合しても配合物の柔軟性は維持される。したがってポリエステルエラストマーの配合量を減らして、射出成形中のポリエステルエラストマーの加水分解によるガスの発生を抑制することが出来る。
酸変性スチレン系水添ブロック共重合体を相溶化剤として添加すると、スチレン系水添ブロック共重合体とポリエステルエラストマーとの相溶性が向上する。
【0007】
〔効果〕
したがって本発明ではAS、ABS、PCの他にPMMAにも良好な融着性を示しかつ望ましい半透明な軟質層を形成する樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔スチレン系水添ブロック共重合体〕
本発明において使用されるスチレン系水添ブロック共重合体とは、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、、ジメチルスチレン、ビニルナフタレン等のスチレン系単量体の一種または二種以上からなる重合体ブロックAと、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物の一種または二種以上からなる重合体ブロックBとからなるブロック共重合体において、該重合体ブロックBを水添したものであり、上記重合体ブロックAと上記重合体ブロックBとの質量比は5:95〜95:5であり、上記重合体ブロックBの二重結合の80%以上が水素添加されているものであり、上記水添ブロック共重合体の重量平均分子量は通常10,000〜400,000である。
上記水添ブロック共重合体は具体的には例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等であり、市販品としては、例えば「クレイトンG」(クレイトンジャパン社製、商品名)、「セプトン」、「ハイプラー」(クラレ株式会社製、商品名)、「タフテック」(旭化成株式会社製、商品名)、「ダイナロン」(日本合成ゴム株式会社製、商品名)が例示される。
【0009】
〔ポリエステルエラストマー〕
本発明において使用されるポリエステルエラストマーとは、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックを有するポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体であり、ソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなる。
上記ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントであるポリアルキレンエーテルグリコール構成単位の質量平均分子量は、通常400〜6000であり、上記構成単位の含有量は、通常60〜90質量%である。
上記ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のハードセグメントである芳香族ポリエステルは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−または2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルの一種または二種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4’−ジヒドロキシジビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの一種または二種以上との重縮合体であり、市販品としては、例えば「プリマロイ」(三菱化学株式会社製、商品名)、「ペルプレン」(東洋紡績株式会社製、商品名)、「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業株式会社製、商品名)等が例示される。
【0010】
〔メチルメタクリレート−アクリレート共重合体〕
本発明において使用されるメチメタクリレート−アクリレート共重合体とは、メチメタクリレートとアクリレートとの共重合体であって、上記アクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート等の望ましくは炭素数4以下のアルキル基を有するアクリレートが選択される。上記メチルメタクリレートとアクリレートとの共重合比率は95:5〜50:50質量比とされる。
上記共重合体には更にエチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の脂肪族または環式メタアクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、iso−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニル、弗化ビニリデン等のハロゲン含有単量体、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン等のジエン類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、アトロパ酸、シトラコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アリルアルコール等の水酸基含有単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等のアミノ基含有単量体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有単量体、その他ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の水溶性単量体、また上記γ- メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、p−トリメトキシシリルスチレン、p−トリエトキシシリルスチレン、P−トリメトキシシリル−α−メチルスチレン、p−トリエトキシシリル−α−メチルスチレン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β(N−ビニルベンジルアミノエチル−γ−アミノプロピル)トリメトキシシラン・塩酸塩等のような加水分解性シリル基含有ビニル単量体等のメチメタクリレートおよびアクリレートと共重合可能な他のビニル単量体の若干量が共重合されてもよい。
上記メチルメタクリレートとアクリレートとの共重合体の市販品としては、例えば「パラペット」(クラレ株式会社製、商品名)がある。
【0011】
〔相溶化剤〕
本発明の組成物には、スチレン系水添ブロック共重合体とポリエステルエラストマーとの相溶性を向上せしめるために、酸変性スチレン系水添ブロック共重合体を相溶化剤として添加することが望ましい。上記酸変性スチレン系水添ブロック共重合体としては、例えばマレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アクリル酸等の有機酸で変性したスチレン系水添ブロック共重合体が例示される。市販品としては、例えばマレイン酸変性SEBSである「クレイトンG」(クレイトンジャパン社製、商品名)がある。
【0012】
〔第三成分〕
上記以外、本発明では硬度調節のためにポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリメチルスチレン等のスチレン系樹脂、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、植物油等の軟化剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、ドロマイト、石膏、タルク、クレー、ガラス繊維、カーボン繊維、ケイ酸カルシウム、ベンナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等が添加されてもよい。
【0013】
〔配合〕
本発明の組成物にあっては、スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対してポリエステルエラストマー300〜450質量部、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体80〜300質量部が配合されていることが望ましい。
上記組成物において、ポリエステルエラストマーが300質量部以下の場合には組成物はゴム弾性に欠けるが、450質量部以上の場合にはPMMAに対する融着性が低下し、かつ射出成形時に加水分解が起りガスが発生するおそれがある。
上記組成物において、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体が80質量部以下の場合には、組成物はPMMAに対する融着性が充分でなく、また300質量部以上の場合には、組成物はゴム弾性に欠けるようになる。
組成物の望ましい柔軟性を維持するためには、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体の配合量は、上記範囲においてポリエステルエラストマーの配合量を上回らないことが望ましい。即ちメチメタクリレートとアクリレート共重合体:ポリエステルエラストマーの質量比が1以下望ましくは0.2〜0.8の範囲であることが望ましい。
硬度調節のためのポリオレフィンおよび/またはスチレン系樹脂は、上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して15〜150質量部添加され、また軟化剤は通常上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して50〜200質量部添加される。
【0014】
通常本発明の組成物は、軟化剤以外の成分をドライブレンドし、得られた混合物に軟化剤を添加し含浸させる。そして上記軟化剤含浸混合物を押出機により通常180〜220℃の温度に加熱溶融混練して押出しペレット化する。
【0015】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例を記載する。
〔実施例〕
使用原料は表1の通りである。
【0016】
【表1】

【0017】
上記原料を使用して表2に記載の樹脂組成物を調製した。
上記樹脂組成物は下記の条件でそれぞれペレット化された。
<組成物のペレット化条件>
・押出機・・・株式会社テクノベル製 KZW32TW−60MG−NH
・シリンダー温度・・・180〜220℃
・スクリュー回転数・・・300rpm
【0018】
上記ペレットを使用して下記の条件によって厚さ6mmの試験片を作成し、JIS K 6253に準拠して硬さ測定を行なった(HsA(point))。結果を表2に示す。
<組成物の成形条件>
・射出成形機・・・三菱重工業株式会社製 100MSIII −10E
・射出成形温度・・・230℃
・射出速度・・・90%
・射出圧力・・・60%
・射出保圧・・・30%
・射出時間・・・10sec
・冷却時間・・・90sec
・金型温度・・・40℃
【0019】
【表2】

【0020】
更に下記の条件で、ABS,PC,PMMAの試験片(厚さ2mm、幅25mm、長さ125mm)を作製した。
<成形条件>
・射出成形機・・・三菱重工業株式会社製 100MSIII −10E
・射出成形温度・・・220〜230℃
・射出速度・・・60%
・射出圧力・・・80%
・射出保圧・・・50%
・射出時間・・・10sec
・冷却時間・・・30sec
・金型温度・・・40℃
【0021】
上記試験片を金型内にインサートして上記に示す硬さ測定用試験片成形条件と同一の条件でペレットを成形し、上記試験片表面に厚さ4mmの表面層を成形した。
上記表面層を成形した試験片について、それぞれ、下記の試験方法で融着強度を測定した。あわせて半透明性、ゴム弾性、離型性も評価した。
<融着強度試験方法>
融着強度(180°剥離試験)・・・上記試験片を用い、雰囲気温度23℃で表面層(熱可塑性エラストマー組成物)と基材層(硬質樹脂)とを180°方向に引張速度50mm/minで引張試験を行い、表面層と基材層の融着面の剥離強度(単位:N/25mm)を測定した(JIS K 6854に準拠)。50N/25mm以上であれば十分な融着強度があると判断した。
<ゴム弾性評価>
触感により判断した。
<離型性評価>
成形時に金型からの離型性を判断した。
<全光線透過率評価>
全光線透過率が70%以上であれば十分な半透明性があると判断した。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
表3に示すように本発明の樹脂組成物(実施例1〜実施例5)は、ABS,PC,PMMAのいずれにも良好な融着性を示し、かつ全光線透過率が70%以上であり、充分な半透明性を有し、かつゴム弾性および離型性も良好である。
SEBSにTPUを配合した比較例1はPMMAに対する融着性に劣り、また透明性および離型性が悪化する。更にPMMAを使用してもTPEEに代えてTPUを使用した比較例2,3はPMMAとの融着性は良いが透明性が悪化し、またTPUを346質量部添加した比較例2は離型性が若干劣り、PMMAをTPUより多量に配合した比較例3はゴム弾性に劣る。
TPEEを使用し軟質PMMAを省いた比較例4は、PMMAに対する融着性が劣る。更に軟質PMMAを使用しTPEEを省いた比較例5は、ゴム弾性に劣る。また軟質PMMAとTPEEとの両者を使用しても、軟質PMMAの量がTPEEの量よりも多いと(300質量部以上)、ゴム弾性が若干悪くなる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の樹脂組成物は、ABS,PC,ASおよびPMMAのいずれにも融着性が良好でかつ望ましいゴム弾性を有する表面層を与えるので、産業上利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系水添ブロック共重合体と、ポリエステルエラストマーと、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体との混合物からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して上記ポリエステルエラストマー300〜450質量部、上記メチルメタクリレート−アクリレート共重合体80〜300質量部が配合されている請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記樹脂組成物には酸変性スチレン系水添ブロック共重合体が相溶化剤として含有されている請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記酸変性スチレン系水添ブロック共重合体は、上記スチレン系水添ブロック共重合体100質量部に対して30〜50質量部添加されている請求項3に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−99904(P2007−99904A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291844(P2005−291844)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】