説明

樹脂組成物

【課題】耐熱性などの特性を維持しつつ、高温領域における剛性および耐クリープ性を兼ね備えた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、樹脂成分とガラス繊維とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分はポリアリレート樹脂50〜90質量%とポリカーボネート樹脂50〜10質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分60〜90質量%に対してガラス繊維40〜10質量%を含むものであり、前記ガラス繊維の扁平率が1.5〜10であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及びこれを用いてなる記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品(以下、単に「ディスク固定用部品」と称する場合がある)に関する。特に、ディスク固定用部品のなかでも、一体型センタリングアジャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オーディオCD、CD−ROM、CD−RW、DVDなどや、その他の記録ディスクを読み取るため、またはこれら記録ディスクへの書き込みをするために駆動装置(ディスクドライブ)が用いられている。駆動装置のターンテーブル上の定位置へ、これらの記録ディスクを固定する際には、ターンテーブルの高速な回転に起因して、安定した装着力で定位置に固定することが困難な場合があった。したがって、読み取りや書き込みの誤差を低減させることを目的として、高い位置精度で記録ディスクをターンテーブルに固定することが要求されている。
【0003】
駆動装置においては、高い位置精度で記録ディスクをターンテーブルに固定することを目的として、記録ディスクをターンテーブルの定位置へ固定するための部品であるセンタリングアジャスタが配されている。センタリングアジャスタは、記録ディスクの位置を決定するセンタリング部品と、弾性を有することにより、ターンテーブル上の記録ディスクの位置を固定するためのチャッキングバネ部品とから構成されている。
【0004】
センタリング部品は、精密な位置決めが必要な部品であるため、優れた剛性が要求されるものであり、一方、チャッキングバネ部品は、長期使用時の耐久性が必要であるため、耐クリープ性が要求されるものである。このような要求される性能を満足するため、通常、センタリング部品には合成樹脂が使用され、チャッキングバネ部品にはステンレススチール等の金属材料が使用されている。
【0005】
しかしながら、近年、駆動装置においては、軽量化および低コスト化を目的として、センタリング部品とチャッキングバネ部品とが一体化された、一体型センタリングアジャスタが検討されている。例えば、ポリカーボネート樹脂に強化材が配合された樹脂組成物、あるいはポリアリレート樹脂に板状充填材が配合された樹脂組成物からなる、一体型センタリングアジャスタが検討されている(例えば、特許文献1参照)。このような樹脂組成物には、剛性、耐クリープ性が要求される。
【0006】
一方、近年の情報量の増大に対応するため、記録ディスクの読み取りまたは記録ディスクへの書き込みの高速度化や、読み取り光の照射の長時間化等により、記録ディスクを読み取ったり記録ディスクへ書き込んだりする際の作動環境温度が高くなってきている。しかしながら、特許文献1にて提案された樹脂組成物は、高温領域における剛性および耐クリープ性が不十分となる場合があった。従って、特許文献1に記載された樹脂組成物からなる一体型センタリングアジャスタを用いた場合には、上記の作動環境温度が高くなる場合には、記録ディスクを安定した装着力でターンテーブルの定位置に固定できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−288351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの問題点に鑑み、本発明は、耐熱性などの特性を維持しつつ、高温領域における剛性および耐クリープ性を兼ね備えた均一流動性の高い樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、該樹脂組成物からなる、ディスク固定用部品を提供することを目的とする。なかでもセンタリング部品とチャッキングバネ部品が組み合わされた一体型センタリングアジャスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂を含む樹脂成分に、断面が扁平形状を有するガラス繊維を含有することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明に達した。
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)樹脂成分とガラス繊維とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分はポリアリレート樹脂50〜90質量%とポリカーボネート樹脂50〜10質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分60〜90質量%に対してガラス繊維40〜10質量%を含むものであり、前記ガラス繊維の扁平率が1.5〜10であることを特徴とする樹脂組成物。
(2)(1)の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品。
(3)一体型センタリングアジャスタであることを特徴とする(2)の記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、耐熱性などの特性を維持しつつ、高温での剛性および耐クリープ性に優れるという効果を奏する。従って、本発明の樹脂組成物を用いることにより、高い作動環境温度においても安定した装着力で光ディスク等の記録ディスクをターンテーブル定位置へ固定されうる(すなわち、位置精度の高い)ディスク固定用部品、特に一体型センタリングアジャスタを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分とガラス繊維とを含む樹脂組成物である。前記樹脂成分はポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを含有するものである。
【0012】
ポリアリレート樹脂とは、芳香族ジカルボン酸残基単位と、ビスフェノール類残基単位とからなる芳香族ポリエステル重合体である。ポリアリレート樹脂は、溶融重合、界面重合などの公知慣用の方法により製造することができる。
【0013】
ポリアリレート樹脂の原料であるビスフェノール類として、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。なかでも、コストパフォーマンスおよび重合性に優れる観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)を使用することが好ましく、これらを単独で使用することが好ましい。
【0014】
ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸残基単位の原料の好ましい例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。
【0015】
上記のなかでも、芳香族ジカルボン酸残基単位の原料としては、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、両者を併用すると、溶融加工性および機械的特性(例えば、耐熱性など)に優れたポリアリート樹脂を得ることができるため好ましい。
【0016】
テレフタル酸とイソフタル酸を併用する場合には、その混合比率は任意に選択することができるが、モル分率で、(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=70/30〜30/70であり、特に好ましくは(テレフタル酸)/(イソフタル酸)=50/50である。テレフタル酸とイソフタル酸の混合比率が、上記の範囲を外れると、ポリアリレート樹脂の重合度が不十分となる場合があり、また、得られるポリアリレート樹脂の耐食変色性が発現する場合がある。
【0017】
ポリアリレート樹脂の極限粘度は、0.50〜0.74の範囲であることが好ましく、0.55〜0.70の範囲であることがより好ましい。ポリアリレート樹脂の極限粘度が0.74を超えると、溶融粘度が高くなり流動性が低下するため、混練押出し及び射出成形が困難となる場合がある。また、溶融加工時に変色が起こる場合がある。一方、0.50未満であると、得られる樹脂組成物の分子量が低くなるため、成形体とした場合に衝撃強度、耐熱性などの機械的特性が低下する傾向にある。なお、本発明において、極限粘度の求め方は、実施例において後述する。
【0018】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール類残基単位とカーボネート残基単位とからなるものである。ポリカーボネート樹脂は、上記のポリアリレート樹脂と類似のビスフェノール類残基を有するため、ポリアリレート樹脂と良好な相溶性を示し、さらに、ポリアリレート樹脂の耐熱性を向上させるという利点がある。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の原料となるビスフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
その他にも、ポリカーボネート樹脂の原料となるビスフェノール類としては、米国特許第2,999,835号明細書、米国特許第3,028,365号明細書、米国特許第3,334,154号明細書および米国特許第4,131,575号明細書に記載されているジフェノールなどが使用できる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの化合物のなかでも、コストパフォーマンスの観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを使用することが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを単独で使用することが好ましい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の原料であるカーボネート残基単位を導入する為の成分としては、例えばホスゲン、あるいはジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0022】
本発明の樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂の極限粘度は、0.40〜0.64の範囲にあることが好ましく、0.40〜0.55の範囲にあることがより好ましい。ポリカーボネート樹脂の極限粘度が0.64を超えると溶融粘度が高くなるため流動性の低下が起こり、混練押出し及び射出成形が困難になる場合がある。また、溶融加工時に変色が起こる場合がある。一方、ポリカーボネートの極限粘度が0.40未満であると、得られる樹脂組成物を成形してなる成形体の衝撃強度などの機械的特性や耐熱性が不足する場合がある。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、上述のように、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを含む樹脂成分を含有するものである。該樹脂成分中、ポリアリレート樹脂の含有量は、50〜90質量%であることが必要であり、60〜90質量%であることが好ましい。樹脂成分中の、ポリアリレート樹脂の含有割合が50質量%未満であると、得られる樹脂組成物は高温領域における耐クリープ性向上において効果が乏しいものとなり、さらに、位置精度や耐熱性に劣るものとなる。一方、ポリアリレート樹脂の含有割合が90質量%を超えると、溶融時の流動性が低下することにより、得られる樹脂組成物の成形性に不都合が生じる。
【0024】
上記の樹脂成分中、ポリカーボネート樹脂の含有割合は、質量比10〜50質量%であることが必要であり、10〜40質量%であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有割合が10質量%未満であると、溶融時の流動性が低下することにより、得られる樹脂組成物を用いて特に精密成形品を成形した場合に、流動性不足のため不都合が生じる。一方、ポリカーボネート樹脂の含有割合が50質量%を超えると、得られる樹脂組成物は高温領域における耐クリープ性向上において効果が乏しいものとなり、さらに位置精度や耐熱性に劣るものとなる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、上述のポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを含有してなる樹脂成分に加えて、断面が扁平形状であるガラス繊維を含有するものである。
【0026】
ガラス繊維の原料としては、アルカリ含有ガラス、アルカリ含有量が低いガラス、アルカリを含有していないガラス等などが挙げられ、いずれも好適に用いられることができる。
【0027】
ガラス繊維は、その断面が扁平形状(すなわち、楕円形状や略長方形状)を有するものである。本発明において、扁平形状とは、断面の長径と短径との比[すなわち、(断面の長径)/(断面の短径)]で表される扁平率が1.5〜10の範囲であることを意味するものであり、前記扁平率が1.5〜6であることが好ましく、2.5〜5がより好ましい。特に前記扁平率が2.5〜5である場合、特に均一流動性が向上し真円度などの特性が向上するため好ましい。
【0028】
扁平率が1.5以上であると、本発明の樹脂組成物とした場合に十分な流動性、強度、耐熱性、位置精度を得ることができる。一方、扁平率が10以下であると、扁平形状を有するガラス繊維を容易に製造することができるという利点がある。
【0029】
上記の利点に加えて、本発明においては、樹脂組成物中のガラス繊維の断面における扁平率を上記の範囲に規定することにより、高温領域での剛性や耐クリープ性や真円度が向上するという顕著な効果を奏する。このような効果が奏される理由は定かではないが、特定の扁平率を有するガラス繊維が成形品に含有されると、該成形品表面において、ガラス繊維の扁平面が該表面に対向するように板状に並ぶため(つまり、ガラス繊維の長さ方向が成形体表面に対向するように板状に並ぶため)、高温領域での剛性や耐クリープ性や真円度が向上するという効果に直結するものであると推測される。
【0030】
ガラス繊維の形態は、特に制限はなく、例えば、ロービング、ミルドファイバー及びチョップドストランド等いずれの形態のものも用いることができる。中でも、機械的強度と弾性率のバランスの観点から、ロービング又はチョップドストランドの形態のものを好適に用いることができる。
【0031】
ガラス繊維の断面における長径の平均繊維径は、20〜40μmであることが好ましく、20〜30μmであることがより好ましい。ガラス繊維の断面における短径の平均繊維径は、4〜15μmであることが好ましく、7〜10μmであることがより好ましい。
【0032】
ガラス繊維の平均繊維長としては、用いるガラス繊維の形態により相違するが、例えばチョップストランド形態を有するガラス繊維を用いる場合は、樹脂組成物のチップ作製する際に押出機に投入するガラス繊維の平均繊維長は、1〜5mmであることが好ましく、2〜4mmであることがより好ましい。また、得られる樹脂組成物チップ中でのガラス繊維の繊維長は、0.2〜1mmであることが好ましく、0.25〜0.5mmであることがより好ましい。
【0033】
ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物全体の10〜40質量%であることが必要であり、20〜35質量%の範囲であることがより好ましい。ガラス繊維の含有量が10質量%未満であると、得られる樹脂組成物の剛性が不十分となり、この樹脂組成物からディスク固定用備品を形成した場合に記録ディスクがターンテーブルに安定して固定されることができず、位置精度が低いものとなる。一方、40質量%を超えると混練押出しによるペレット化が困難になり製造における不都合が生じる。
【0034】
なお、本発明においては、位置精度を示す指標として真円度を用いる。真円度とは、円における幾何学的に正しい円(本来、円でなければならない部分)からの狂いの大きさをいう。具体的には、円を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、これらの2つの同心の幾何学的円の間隔が最小となる場合の、該2つの円の半径の差(μm)で表示する。真円度の測定方法については、実施例において詳述する。
【0035】
本発明の樹脂組成物中には、上記の成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料、耐候剤、酸化劣化防止剤、難燃剤、離型剤、超高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂等の摺動剤等の添加剤を添加することもできる。これらの添加剤は、樹脂組成物を製造する任意の段階で添加することができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物において、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびガラス繊維を配合する方法は特に限定されるものではなく、樹脂組成物中に各成分が均一に分散されている状態になればよい。
【0037】
具体的には、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂およびガラス繊維をタンブラーあるいはヘンシェルミキサーを用いて均一にブレンドした後に、溶融混練押出して、冷却・カッティング・乾燥工程に付して、ペレット化する方法が挙げられる。
【0038】
溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができるが、分散性向上の観点からは、二軸押出機を使用することが好ましい。
【0039】
本発明において用いられるガラス繊維は、その断面が扁平形状を有するものであるため、混練工程において、折損しやすい場合がある。従って、本発明の樹脂組成物を製造する際には、混練工程におけるガラス繊維の折損を低減するために、サイドフィーダーを備えた押出機を用いて溶融混練することが好ましい。すなわち、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを主供給口から投入し、ガラス繊維をサイドフィーダーから投入すると、ガラス繊維の折損を低減することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物を、公知慣用の機械を用いてペレット化し、該ペレットを従来公知の方法で成形体とすることができる。成形方法は特に制限されず、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法などが適用できる。本発明の樹脂組成物より得られた成形体は、十分な剛性と高温領域における耐クリープ性を備えている。
【0041】
本発明においては、上記の成形体のなかでも、記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品とすることが好ましい。このようなディスク固定用部品は、高温下においても、剛性および耐クリープ性に優れる。したがって、記録ディスクをターンテーブル上の定位置に安定した装着力で固定することができ、すなわち、記録ディスクの位置精度を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例に用いた原料および物性測定方法は次の通りである。
【0043】
1.原料
(A)ポリアリレート樹脂
ユニチカ社製、商品名「U−powder」(極限粘度0.64)(組成:ビスフェノールA/フタル酸共重合体=50/50(モル比))(以下、「PRA」と称する場合がある)
(B)ポリカーボネート樹脂
住友ダウ社製、商品名「カリバーK200−30」(極限粘度0.44)(以下、「PC」と称する場合がある)
【0044】
(C)ガラス繊維
・(C−1)扁平形状ガラス繊維
(日東紡績社製、商品名「CGS 3PA−820」)(扁平率:4、短径の平均繊維径:7μm、長径の平均繊維径:28μm、平均繊維長:3mm)
・(C−2)扁平形状ガラス繊維
(日東紡績社製、商品名「CGH3PA−870」)(扁平率:2、短径の平均繊維径:10μm、長径の平均繊維径:20μm、平均繊維長:3mm)
・(C−3)丸断面形状ガラス繊維
(日本電気硝子社製、商品名「T−289」)(扁平率:1、繊維直径13μmφ、平均繊維長:3mm)
【0045】
2.評価方法
(1)極限粘度
ISO 1628−1に従って、1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒として用い、25℃における値を測定して極限粘度とした。
【0046】
(2)曲げ強度(剛性)
ASTM D790に従って測定した。
本発明においては曲げ強度が110MPa以上であるものが、実用に耐えうるものであるとした。
【0047】
(3)曲げ弾性率(剛性)
ASTM D790に従って測定した。
本発明においては、曲げ弾性率が4.0GPa以上であるものが実用に耐えうるものであるとした。
【0048】
(4)荷重たわみ温度(耐熱性)
ASTM D648に従って、荷重0.46MPaにて測定した。
本発明においては、荷重たわみ温度が160℃以上であるものを実用に耐えうるものであるとした。
【0049】
(5)耐クリープ性
実施例および比較例で得られた樹脂組成物からASTMに準拠した試験片(幅12.7mm×長さ40.0mm×厚み3.2mm)を作製した。該試験片を用いて、歪率1.0%、雰囲気温度80℃における100時間後の緩和弾性率と、瞬間弾性率を測定した。瞬間弾性率に対する緩和弾性率の比を以下の式にて得た。
(瞬間弾性率に対する緩和弾性率の比)=(緩和弾性率/瞬間弾性率)×100
上記の値が大きいほど耐クリープ性は優れている。本発明においては、瞬間弾性率に対する緩和弾性率の比が70%以上であるものを実用に耐えうるものであるとした。
【0050】
(6)真円度
真円度測定機(キーエンス社製、商品名「VM―8040」)を用いて、実施例および比較例で得られた円筒形状成形体の反ゲート側(流動末端)の内接面の真円度を測定した。測定を10回行い、測定値の平均値を真円度とした。
本発明においては、真円度が40μm未満であるものが、実用に耐えうるものであるとした。
【0051】
(7)樹脂組成物、成形品中のガラス繊維長
得られた成形品をルツボに入れ500℃で6時間焼却処理した後、残った灰分を水に分散させ、光学顕微鏡にてランダムに選択した200点のガラス繊維の平均繊維長を測定した。
【0052】
(実施例1)
35質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、50質量%)のPAR、35質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、50質量%)のPCを、連続定流供給装置(クボタ社製)を用いて、サイドフィーダー付同方向2軸押出機(東芝機械社製、「TEM−37BST」)の主供給口に供給した。次いで、サイドフィーダーより30質量部(樹脂組成物中、30質量%)の(C−1)を供給した。樹脂温度320℃、吐出量14kg/hで溶融混練を行い、ノズルからストランド状に引取った樹脂組成物を水浴にくぐらせて冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、120℃で12時間熱風乾燥することによって樹脂組成物のペレットを得た。
【0053】
次いで、得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製、「IS100E−3S」)を用いて樹脂温度350℃で成形し、試験片及び長さ30mm、内径50mm、肉厚1mmの円筒形状成形体を作製した。
【0054】
上記の試験片を1日以上室温にて放置した後に、剛性、耐熱性、耐クリープ性を評価した。また、上記の円筒形状成形体を1日以上室温にて放置した後に、真円度を評価した。
【0055】
(実施例2)
PARの配合量を42質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、60質量%)、PCの配合量を28質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、40質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0056】
(実施例3)
PARの配合量を49質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を21質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。なお、得られたペレット中のガラス繊維の平均繊維長は320μmであり、試験片中のガラス繊維の平均繊維長は300μmであった。
【0057】
(実施例4)
PARの配合量を59.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、85質量%)、PCの配合量を10.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、15質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0058】
(実施例5)
PARの配合量を63質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、90質量%)、PCの配合量を7質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、10質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0059】
(実施例6)
PARの配合量を63質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を27質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)、(C−1)の配合量を10質量部(樹脂組成物中、10質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0060】
(実施例7)
PARの配合量を59.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を25.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)、(C−1)の配合量を15質量部(樹脂組成物中、15質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0061】
(実施例8)
PARの配合量を42質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を18質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)、(C−1)の配合量を40質量部(樹脂組成物中、15質量%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0062】
(実施例9)
(C−1)に代えて、(C−2)を用いた以外は、実施例3と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0063】
表1に実施例1〜9の評価結果をまとめて示す。
【0064】
【表1】

(比較例1)
PARの配合量を66.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、95質量%)とし、PCの配合量を3.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、5質量%)とした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。これを実施例1と同様にして試験片の作製をしようとしたが、樹脂組成物の流動性が低く、所定サイズの試験片を得ることができなかったため、評価に付することができなかった。
【0065】
(比較例2)
PCを用いず、70質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、100質量%)のPARを直接押出機に供給し、サイドフィーダーから30質量部(樹脂組成物中、30質量%)の(C−1)を供給し、温度360℃で混練を実施した以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを温度360℃で成形した以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、評価を実施した。
【0066】
(比較例3)
PARを用いず、70質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、100質量%)のPCを直接押出機に供給し、サイドフィーダーから30質量部(樹脂組成物中、30質量%)の(C−1)を供給し、温度300℃で混練を実施した以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを温度300℃で成形した以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、評価を実施した。
【0067】
(比較例4)
PARの配合量を21質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)とし、PCの配合量を49質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)とした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0068】
(比較例5)
PARの配合量を66.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を28.5質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)、(C−1)の配合量を5質量部(樹脂組成物中、5%)とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0069】
(比較例6)
PARの配合量を35質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、70質量%)、PCの配合量を15質量部(PARとPCとを含む樹脂成分中、30質量%)、(C−1)の配合量を50質量部(樹脂組成物中、50質量%)とした以外は、実施例1と同様にして溶融混練を行ったが、押出機から吐出される樹脂組成物が途切れてしまいストランド状に引取ることが困難であり、成形評価に必要なペレットを得ることができなかった。
【0070】
(比較例7)
(C−1)の代わりに(C−3)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレット、試験片、円筒形状成形体を得、評価を行った。
【0071】
比較例1〜7の結果を表2にまとめて示す。
【表2】

【0072】
表1から明らかなように、実施例1〜9の樹脂組成物は、耐熱性を維持しつつ、高温領域での耐クリープ性および剛性に優れていた。かつ、成形体としたときの真円度においても優れていた。
【0073】
比較例1の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂の配合量が過多であったため、流動性が低く、射出成形が困難であった。
【0074】
比較例2の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂の配合量が過多であったため、流動性が低く、射出成形能が低下し、剛性に劣るものであった。
【0075】
比較例3及び4の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂の配合量が過少であったため、耐熱性、高温領域での耐クリープ性に劣るものであった。さらに成形体としたときの真円度が低いものであった。
【0076】
比較例5の樹脂組成物は、断面に扁平形状を有するガラス繊維の配合量が過少であったため、高温領域においての耐クリープ性は優れていたが、剛性に劣るものであり、かつ成形体としたときの真円度においても劣るものであった。
【0077】
比較例6の樹脂組成物は、断面に扁平形状を有するガラス繊維の配合量が過多であったため、溶融混練工程において安定した操業ができず、特性評価に必要なペレットが得られなかった。
【0078】
比較例7の樹脂組成物は、断面に丸型形状を有するガラス繊維を用いたため、高温領域での耐クリープ性、耐熱性に劣るものであり、さらに成形体としたときの真円度が低いものであった。さらに、実施例1と比較すると、剛性が低下していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分とガラス繊維とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂成分はポリアリレート樹脂50〜90質量%とポリカーボネート樹脂50〜10質量%とを含有し、かつ前記樹脂成分60〜90質量%に対してガラス繊維40〜10質量%を含むものであり、前記ガラス繊維の扁平率が1.5〜10であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品。
【請求項3】
一体型センタリングアジャスタであることを特徴とする請求項2記載の記録ディスク駆動装置におけるディスク固定用部品。

【公開番号】特開2012−67233(P2012−67233A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214630(P2010−214630)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】