説明

樹脂製シールリング

【課題】合口部に複合ステップ形状を有する樹脂製シールリングにおいて、前記合口部の折損を防止し、シール漏れの減少を図ること。
【解決手段】合口を有する樹脂性シールリングであって、一方の合口には内径側に対向面と、外径側にシールリングの外周に沿って一部が突き出した凸部と、前記凸部と軸方向に並列に凹部とを有し、他方の合口には対向する合口端部が互いに嵌合可能なように、対向面と凹部と、凸部が配置されたものにおいて、前記対向面を所定の角度で傾斜させ、前記凸部の根元の形状は、前記傾斜した対向面とシールリングの内周面との交点で前記対向面に内接し、かつ前記凸部の内周面にも内接する円弧形状で接続することにより、外力による前記凸部の根元部に作用する応力の集中を緩和する形状を有した樹脂性シールリングを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂製シールリングの合口の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のオートマチックトランスミッション内で多板クラッチを作動させる為に油圧回路に装着される回転シールリングや、多板クラッチを作動させる為に装備されているピストンに装着される往復動シールリング、さらには、金属ベルトを用いたオートマチックトランスミッションのVプーリーを作動させるピストンに装着される往復動シールリングは、合成樹脂材、具体的には、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)やポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)に、炭素繊維、黒鉛粉末等を混合した樹脂材を用いて常用手段により成形される。
【0003】
これらのシールリング合口には、ストレート形状、斜め形状、ダブルアングル形状やトリプルステップ形状等の合口があり、シール部の流体の漏れ許容量に応じて合口形状が選定されている。(特許文献1参照)
【0004】
近年、車輌の性能向上と環境保護の観点から燃費向上が望まれており、シールリングにもリングとリング溝壁面との間のフリクション低減及びリング溝の加工精度にとらわれずに良好なシール性が望まれている。
【0005】
さらに近年では、漏れ許容量をより低くさせる傾向にあり、ストレート形状、斜め形状の合口を持ったリングでは近年要求される漏れ許容量を満足させることができなくなっている。このため、ダブルアングル形状やトリプルステップ形状の合口のシールリングは漏れ許容量を満足させるので多用されている。
【0006】
樹脂製シールリングにおいて、リークを少なくできる特殊な合口として、複合ステップ形状が知られている。(特許文献2参照)一方、この形態の合口のリップ部、すなわち勘合する凸部において、製造工程時或いは使用時の折損が懸念され、ひとつの対応法が知られている。(特許文献3参照)
【0007】

複合ステップ形状等の特殊な合口を有するシールリングにおける、合口凸部の根元部と内周面との接続面とは、直線部と円弧形状部で接合されており、凸部の根元部の強度向上を図るための円弧寸法には、その拡大に限度があった。
【0008】
【特許文献1】特開2003-1584号公報
【特許文献2】特開2001-4032号公報
【特許文献3】特開2005-9663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特殊な合口を有したシールリングにおいて、製造時、或いは使用時に凸部の根元部に発生する応力集中により凸部が折損することがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決するために、合口を有する樹脂性シールリングであって、対向する合口端部は外周側及び内周側に異なる対向面を有し、前記外周側合口端部には互いに周方向に嵌合可能な凸部と凹部が形成されたものにおいて、前記内周側合口端部は対向面が軸方向に平行かつ半径方向に対して20度以上、40度以下の角度で、対向面どうしの間隔が内周側に向けて大きくなるように傾斜したものとする。更に、前記凸部の根元の形状は、前記傾斜した対向面とシールリングの内周面との交点で前記傾斜した対向面と内接し、かつ前記凸部の内周面にも内接する円弧形状で接続したことにより、前記外力による凸部の根元部に作用する応力の集中を緩和する形状を有したシールリングを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、合口を有する樹脂性シールリングであって、一方の合口には内径側に対向面と、外径側に樹脂性シールリングの外周に沿って一部が突き出した凸部と、前記凸部と軸方向に並列に凹部とを有し、他方の合口には対向する合口端部が互いに嵌合可能なように、対向面と凹部と、凸部が配置された特殊な合口を有するものにおいて、前記合口の内周側対向面を所定の角度で傾斜させ、更に前記凸部の根元の形状は、前記傾斜した対向面とシールリングの内周面との交点で前記傾斜した対向面と内接し、かつ前記凸部の内周面にも内接する円弧形状で接続したので、外力による前記凸部の根元部に作用する応力の集中を緩和することができる。
前記対向面の角度は、シールリングを取付ける軸径とリング厚さによって選択的に設定されるものではあるが、過度に小さい値であると従来技術との差がみられず、応力集中の緩和が適わない。また、前記対向面の角度が過度に大きいと凸部の形状が不明確になり、合口部の嵌合機能を果たせなくなる。
従って、前記内周側合口端部は対向面が軸方向に平行かつ半径方向に対して20度以上、40度以下の角度が最適であり、更に望ましくは29度以上、31度以下の範囲で対向面どうしの間隔が内周側に向けて大きくしたものとするのが最も効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の1実施形態を、以下図1〜図3に基づいて説明する。
【0013】
特殊な合口である複合ステップ形状の合口を有するシールリングを用いて説明する。図1はシールリングの合口を閉じる前の状態であり、従来の特殊な合口形状の凸部Aの根元部Bを示す。凸部Aは、凸部の内周1に内接する円弧形状2を介して内径側対向面3に接続される。内径側対向面3とシールリングの内周面4との交点Cがある。
【0014】
次に、本発明では前記内径側対向面3を後述する所定の傾斜5で構成する。傾斜5の角度は、凸部の根元部Bを基準に30度の角度で対向面どうしの間隔が内周側に向けて大きくしたものとする(図2)。この傾斜した内周側対向面6とシールリングの内周面4の交点をDとする。凸部Aの根元は、傾斜した内周側対向面6とD点で内接し、かつ凸部Aの内周面1にも内接する円弧形状7で接続する(図3)。
【0015】
これにより、凸部Aの根元の円弧形状7の曲率半径を従来の円弧形状2より拡大することが可能となり、外力により凸部Aの根元部Bに作用する応力集中を大幅に緩和することが可能となり、凸部Aの根元部Bでの折損を抑制することが可能となる。
【0016】
以下に本発明による効果を具体的な例を挙げて説明する。φ60mm(リング外周部の直径)のシールリングに於いて、リング半径方向寸法(リング厚さ)1.6mm、凸部の半径方向寸法1.0mmの設定とする。このとき、従来の円弧形状の曲率半径は、リング内周面と合口の対向面の内径側の交点と、合口の対向面と凸部の内周面の双方に内接する円弧であるから、0.6mmとなる。
【0017】
しかし、本発明によりこのリングの合口の対向面を、リング外周における法線に対して30度傾斜させ、リング内周面と合口の内径側の対向面の交点で前記対向面と内接し、かつ凸部の内周面にも内接する円弧形状の曲率半径を求めると約1.2mmとなり、従来に比して約2倍の大きさの曲率半径を有する円弧形状で接続することが可能である。
上記実施例ではリング厚さが十分にあるので、合口部の嵌合機能を損なわないように注意して、内周側対向面の傾斜を40度に設定すると、円弧形状の曲率半径は約1.7mmとすることができ、従来に比して約2.8倍の大きさの曲率半径を有する円弧形状で接続できる。
以上、説明したように本発明によれば、合口の内径側の対向面に20度以上40度以下の傾斜を付与することにより、合口凸部の内周面と対向面を従来の約2倍以上の曲率半径を有する円弧形状で結ぶことが可能となり、製造工程中での折損の発生をほぼ無くすことができた

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によるシールリングは、自動車をはじめとする様々な機器の、軸部、ピストン部のシール部に良好に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の合口が特殊な形状を有するシールリング(要部)。
【図2】本発明を用いた合口が特殊な形状を有するシールリング(要部)。
【図3】本発明の傾斜接合部。
【符号の説明】
【0020】
1・・・・合口凸部の内周面
2・・・・従来の円弧形状
3・・・・対向面
4・・・・シールリング内周面
5・・・・対向面の角度
6・・・・傾斜対向面
7・・・・本発明による円弧形状
A・・・・合口凸部
B・・・・合口凸部の根元部
C・・・・交点
D・・・・交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合口を有する樹脂性シールリングであって、対向する合口端部は外周側及び内周側に異なる対向面を有し、前記外周側合口端部には互いに周方向に嵌合可能な凸部と凹部が形成されたものにおいて、前記内周側合口端部は対向面が軸方向に平行かつ半径方向に対して20度以上、40度以下の角度で、対向面どうしの間隔が内周側に向けて大きくなるように傾斜したことを特徴とする樹脂性シールリング。
【請求項2】
前記凸部の根元の形状は、前記傾斜した対向面とシールリングの内周面との交点で前記傾斜した対向面と内接し、かつ前記凸部の内周面にも内接する円弧形状で接続したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂製シールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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