説明

樹脂製巻芯およびその製造方法

【課題】 外周面に段差部を有する樹脂製巻芯の製造方法として、様々な長さの巻芯を製造してもコストが嵩まず、優れた生産性が得られ、段差部の精度にバラツキが生じ難く、しかも被巻回物への切削屑の付着の問題が生じ難い方法を提供する。
【解決手段】 外周面2に、巻芯1の軸線方向に沿ってのびかつフィルム5の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部21が設けられている樹脂製巻芯1を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより巻芯1の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材10を形成した後、該巻芯素材10を所定長さに切断するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、シート、箔、紙、布等のシート状物を巻回するのに用いられる樹脂製巻芯およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の巻芯としては、従来、断面円形の外周面を有する円筒状のものが用いられていた。
しかしながら、断面円形の外周面を有する巻芯の場合、シート状被巻回物の巻き始め端部とその上に巻かれる部分との間に段差が生じ、それによって被巻回物に、段差の痕、皺、ブロッキング等が生じ、品質の低下を来すという問題があった。
【0003】
そこで、上記の問題点を解決する手段として、外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部が設けられている巻芯が提案されている(下記特許文献1、2参照)。
また、前記段差部に加えて、段差部に隣接しかつシート状被巻回物の巻き始め端部を固定するための粘着テープを収容し得る深さを有する凹溝部が外周面に設けられている巻芯も提案されている(下記特許文献3参照)。
上記の巻芯によれば、シート状被巻回物を、その巻き始め端部の端面が巻芯外周面の段差部に当接または近接するように配置した状態で巻回することによって、シート状物の巻き始め端部とその上に巻かれる部分との間に段差が生じるのを回避することができるので、シート状被巻回物の品質の低下を来すおそれがない。
【0004】
ここで、外周面に段差部を備えた巻芯を樹脂によって形成する方法としては、射出成形によるものと、円筒状に形成された巻芯素材の外周面に切削加工を施すことによるものとがあった。
しかしながら、射出成形による場合には、巻芯の長さが異なれば、それに応じた金型が別に必要となるため、製造コストが高くつくという問題があった。
また、円筒状の巻芯素材に切削加工を施す方法の場合、その分だけ工程数が多くなって生産性が低下する上、段差部の寸法精度にバラツキが生じ易く、しかも、切削する部分が多いため、発生した多量の切削屑が巻芯に残る可能性があり、それらが被巻回物に付着するという問題があった。
【特許文献1】実開昭57−53459号公報
【特許文献2】実開平2−49966号公報
【特許文献3】実開平5−65963号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明の目的は、外周面に段差部を有する樹脂製巻芯の製造方法として、様々な長さの巻芯を製造してもコストが嵩まず、優れた生産性が得られ、段差部の寸法精度にバラツキが生じ難く、しかも被巻回物への切削屑の付着の問題が生じ難い方法を提供することにある。
【0006】
本発明による第1の樹脂製巻芯の製造方法は、外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部が設けられている樹脂製巻芯を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより前記巻芯の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材を形成した後、該巻芯素材を所定長さに切断することを特徴とする。
【0007】
また、本発明による第2の樹脂製巻芯の製造方法は、外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部と、段差部に隣接しかつシート状被巻回物の巻き始め端部を固定するための粘着テープを収容し得る深さを有する凹溝部とが設けられている樹脂製巻芯を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより前記巻芯の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材を形成した後、該巻芯素材を所定長さに切断することを特徴とする。
【0008】
上記第1または第2の製造方法によれば、異形押出成形によって得られた巻芯素材に対する2次加工が不要であるため、それだけ生産性が向上する。また、上記方法によれば、切削加工による場合と比べて、巻芯の段差部の寸法精度にバラツキが生じ難い。さらに、上記方法によれば、巻芯素材を適宜長さに切断するだけで、余分なコストをかけることなく、用途やニーズに応じた様々な長さの巻芯を容易に製造することが可能となる。
【0009】
本発明による第1または第2の樹脂製巻芯の製造方法において、形成された巻芯素材を所定長さに切断する前または切断した後で、段差部に、該段差部が巻芯の径方向に沿って立ち上がるように二次加工を施す場合がある。この二次加工は、切削加工の他、成形加工の場合もある。
【0010】
上記の場合、二次加工により、巻芯外周面の段差部が巻芯の径方向に沿って立ち上がるように整形されるため、シート状被巻回物の巻き始め端部の端面を段差部に当接させることが可能となり、それによってシート状被巻回物への段差の発生がより確実に回避される。しかも、二次加工されるのは、巻芯外周面の段差部のみであるため、例えば該二次加工が切削加工の場合であっても切削屑の発生量がごく僅かであり、被巻回物への切削屑の付着も問題も生じ難い。
【0011】
次に、本発明による第1の樹脂製巻芯は、外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部が設けられているものであって、本発明による上記第1の方法により製造されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による第2の樹脂製巻芯は、外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部と、段差部に隣接しかつシート状被巻回物の巻き始め端部を固定するための粘着テープを収容し得る深さを有する凹溝部とが設けられている樹脂製巻芯であって、本発明による上記第2の方法により製造されていることを特徴とする。
【0013】
上記第1または第2の樹脂製巻芯は、生産効率に優れた方法によって製造されるため、その分コストを抑えることが可能である。また、巻芯外周面に形成された段差部の寸法精度が高く、該段差部によってシート状被巻回物への段差の発生を回避する効果が確実に得られる。さらに、用途や需要者のニーズに応じて、様々な長さの巻芯を、低コストで提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1〜図4には、本発明の第1の実施形態が示されている。図1は樹脂製巻芯の全体斜視図、図2は巻芯の部分断面図、図3はシート状被巻回物が巻回された状態を示す巻芯の部分断面図である。
【0016】
この実施形態の樹脂製巻芯(1)は、例えば片面に粘着層(図示略)を有するフィルム(5)を巻回するのに用いられるものであって(図3参照)、図1に示すように、略円筒状をなし、その外周面(2)には、フィルム(5)の厚みとほぼ等しい高さを有する段差部(21)が巻芯(1)の軸線方向に沿って設けられている。段差部(21)は、巻芯(1)の全長に亘ってのびている。
【0017】
巻芯(1)の内周面(3)は、円形の断面を有している。
【0018】
巻芯(1)の外周面(2)は、図2に示すように、所定の角度(A)(図面ではA=30°)をなす領域(2a)が、段差部(21)を形成すべき箇所に近づくにつれて次第に半径が小さくなるようなものとなされ、最も半径が小さい箇所の径方向外側に前記段差部(21)が形成されている。
なお、巻芯外周面(2)のうち半径が漸次変化させられる領域(2a)の割合は、巻芯(1)の外径や被巻回物(5)の厚みにもよるが、通常、角度(A)=約15〜90°の範囲内で適宜に設定される。
また、図2では、巻芯外周面(2)の一部の領域(2a)が段差部(21)に向かって次第に半径が小さくなる構成、換言すれば、断面円形の外周面の一部が削り取られたような構成となっているが、これとは逆に、外周面の一部の領域が段差部に向かって次第に半径が大きくなる構成、即ち、断面円形の外周面の一部に肉盛りが施されるような構成とすることも可能である。
【0019】
段差部(21)は、図2に示すように、巻芯(1)の径方向に沿って立ち上がるようなものとなされている。但し、段差部(21)の向きは、巻芯(1)の径方向に対して90°よりも小さい角度に傾斜したものであってもよい。
段差部(21)の高さは、フィルム(5)の厚みとほぼ同じであって、通常0.1〜1.0mm程度となされる。
【0020】
なお、図示は省略したが、巻芯(1)の外周面(2)に、段差部(21)の位置を示す表示を、印刷、刻印、転写等によって形成するようにしてもよい。表示の形態は特に限定されないが、例えば、巻芯外周面(21)の色と異なる色で段差部(21)付近に直線、記号、図形、文字等を描くようにすればよい。
【0021】
図3は、巻芯(1)にフィルム(5)を巻回した状態を示すものである。フィルム(5)の巻き始め端部(51)は、その端面が段差部(21)に当接または近接するように巻芯外周面(2)に配置され、同フィルム(5)の粘着層によって巻芯外周面(2)に固定されている。図3から明らかなように、フィルム(5)の厚みとほぼ同じ高さを有する段差部(21)の存在によって、フィルム(5)の巻き始め端部(51)とその上に巻かれた部分(52)との間には段差が生じていない。従って、この巻芯(1)に巻かれたフィルム(5)は、段差の痕、皺、ブロッキング等のない良好な状態で、輸送または保管に供されることになる。
【0022】
上記の巻芯(1)は、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより巻芯(1)の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材(10)(図4参照)を形成した後、該巻芯素材(10)を所定長さに切断することによって製造される。
【0023】
巻芯(1)を形成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えばABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を使用することができる。
【0024】
図4は、樹脂製巻芯(1)の製造装置の概略を示すものである。この装置(7)を用いて巻芯(1)を製造する工程を説明すると、まず、溶融状態の熱可塑性樹脂を押出機(71)に投入してダイス(72)を通すことにより円筒状に賦形する。次いで、得られた円筒状体をウエットバキューム式サイジング装置(73)に通して冷却しながらサイジングする。このサイジング装置(73)に使用されているスリーブ(金型)の内周面は、巻芯外周面(21)の断面形状に対応する断面形状、即ち、段差部を備えた断面形状を有している。従って、円筒状体は、サイジング装置(73)を通過することによって、巻芯(1)と同じ断面形状を有する巻芯素材(10)となされる。巻芯素材(10)は、続く冷却水槽(74)を通過して更に冷却された後、引取り機(75)によって引き取られて切断機(76)に送られ、ここで所定長さに切断される。こうして、図1〜3に示す巻芯(1)が得られる。
【0025】
巻芯(1)を上記方法によって製造すれば、巻芯素材(10)に対する切削等の2次加工が不要であってその分だけ工数が減るため、生産性の向上につながり、ひいては巻芯(1)の製造コストの低減を図ることができる。また、巻芯素材(10)は、異形押出成形によって形成されるため、段差部(21)の寸法精度が高く、寸法精度のバラツキも生じ難い。さらに、上記の方法を採用した場合、巻芯素材(10)の切断長さを適宜変更するだけで、用途や需要者のニーズに応じた様々な長さの巻芯(1)を低コストで製造することが可能である。
【0026】
なお、必要に応じて、巻芯外周面(2)の段差部(21)に、巻芯(1)の径方向に沿って立ち上がるように切削加工(二次加工)を施すことも可能である。この切削加工は、形成された巻芯素材(10)を切断機(76)によって所定長さに切断する前の工程でも良いし、また、切断した後の工程でも良い。前者の場合、巻芯製造装置(7)における切断機(76)の上流側に配置したカッタ等の切削装置(図示略)によって連続的に行うことが可能である。後者の場合、例えば、所定寸法に切断された巻芯(1)の段差部(21)に対して、個別に、カッタ等を用いて切削作業を行えばよい。上記の切削工程は、巻芯外周面のうちごく僅かな面積しかない段差部(21)に対して行われるものであるから、作業負担が少なく、切削屑の発生もごく少量であるから、巻芯外周面(21)に残存した切削屑がフィルム(5)に付着するという問題も発生し難い。なお、上述した段差部(21)への二次加工は、切削加工に代えて成形加工によることも可能である。成形加工の場合、例えば、加熱条件下で、巻芯を金型に入れたり通過させたりすることによって行われる。
【0027】
また、段差部(21)の位置を示すための表示を巻芯外周面(2)に設ける場合には、例えば、図4の巻芯製造装置(7)の引取り機(75)と切断機(76)との間に、印刷機を配置し、巻芯素材(10)の所要箇所に印刷を施すようにすればよい。
【0028】
(第2の実施形態)
図5および図6には、本発明の第2の実施形態が示されている。図5は樹脂製巻芯の部分断面図であり、図6はシート状被巻回物が巻回された状態を示す巻芯の部分断面図である。
【0029】
この実施形態の樹脂製巻芯(1)は、例えば粘着層を有しないフィルム(5)を巻回するのに用いられるものであって、以下の点を除いて、第1の実施形態の巻芯(1)と同一の構成を有し、また、同巻芯(1)と同一の方法で製造される。
即ち、図5の巻芯(1)は、その外周面(2)に、段差部(21)に加えて、段差部(21)に隣接しかつフィルム(5)の巻き始め端部(51)を固定するための両面粘着テープ(6)を収容し得る凹溝部(22)が設けられているものである。
【0030】
凹溝部(22)は、巻芯(1)の全長にわたって形成されている。凹溝部(22)の深さおよび幅は、両面粘着テープ(6)を収容し得るだけの寸法があればよく、特に限定はされないが、例えば、深さ0.05mm前後、幅6mm前後となされる。
【0031】
図6に示すように、フィルム(5)の巻き始め端部(51)は、その端面が段差部(21)に当接または近接するように巻芯外周面(2)に配置されるるともに、凹溝部(22)に収容された両面粘着テープ(6)によって巻芯外周面(2)に固定されている。図6から明らかなように、フィルム(5)の厚みとほぼ同じ高さを有する段差部(21)および両面粘着テープ(6)を収容する凹溝部(22)の存在によって、フィルム(5)の巻き始め端部(51)とその上に巻かれた部分(52)との間には段差が生じておらず、フィルム(5)は段差の痕、皺、ブロッキング等のない良好な状態で輸送または保管に供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すものであって、樹脂製巻芯の全体斜視図である。
【図2】図1の巻芯の部分断面図である。
【図3】シート状被巻回物が巻回された状態を示す巻芯の部分断面図である。
【図4】巻芯の製造装置の概略を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を示すものであって、樹脂製巻芯の部分断面図である。
【図6】シート状被巻回物が巻回された状態を示す巻芯の部分断面図である。
【符号の説明】
【0033】
(1):樹脂製巻芯
(2):外周面
(21):段差部
(22):凹溝部
(5):フィルム(シート状被巻回物)
(51):巻き始め端部
(52):巻き始め端部の上に巻かれる部分
(6):両面粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部が設けられている樹脂製巻芯を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより前記巻芯の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材を形成した後、該巻芯素材を所定長さに切断することを特徴とする、樹脂製巻芯の製造方法。
【請求項2】
外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部と、段差部に隣接しかつシート状被巻回物の巻き始め端部を固定するための粘着テープを収容し得る凹溝部とが設けられている樹脂製巻芯を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を異形押出成形することにより前記巻芯の断面形状に合致する断面形状を有する巻芯素材を形成した後、該巻芯素材を所定長さに切断することを特徴とする、樹脂製巻芯の製造方法。
【請求項3】
形成された巻芯素材を所定長さに切断する前または切断した後で、段差部に、巻芯の径方向に沿って立ち上がるように二次加工を施すことを特徴とする、請求項1または2記載の樹脂製巻芯の製造方法。
【請求項4】
外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部が設けられている樹脂製巻芯であって、請求項1または3記載の方法により製造されていることを特徴とする、樹脂製巻芯。
【請求項5】
外周面に、巻芯の軸線方向に沿ってのびかつシート状被巻回物の厚みにほぼ等しい高さを有する段差部と、段差部に隣接しかつシート状被巻回物の巻き始め端部を固定するための粘着テープを収容し得る凹溝部とが設けられている樹脂製巻芯であって、請求項2または3記載の方法により製造されていることを特徴とする、樹脂製巻芯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−119230(P2007−119230A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317015(P2005−317015)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000145987)株式会社昭和丸筒 (28)
【Fターム(参考)】