説明

樹脂複合体、およびそれを用いた水処理方法、ならびにその樹脂複合体の製造法

【課題】水処理において、不純物を効率よく吸着し、磁気で高速分離でき、作業性の良い樹脂複合体の提供。
【解決手段】ポリマーにより表面が被覆された磁性粉が凝集した2次凝集体を含んでなることを特徴とする樹脂複合体。この樹脂複合体は、好ましくは多孔質構造を有し、効率よく油類などの不純物を吸着し、吸着後の樹脂複合体は磁気により高速で分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉とポリマーとを含んでなる樹脂複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から他の物質を分離することが必要である。液体からほかの物質を分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油類を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなりやすいという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。このため重油等の油類が含まれている水からそれらを除去する手法としては、例えば重油の浮上牲を利用し、水上の設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させて回収する方法等が挙げられる。
【0003】
水中の油を吸着させる方法としては、親水性ブロックと親油性ブロックとを有する吸着ポリマーを用いて油を吸着させ、その後その吸着ポリマーを水から除去する方法が挙げられる。このようなポリマーは例えば特許文献1などに開示されている。しかし、この方法では吸着ポリマーと水の分離に労力がかかるだけでなく、油が吸着したポリマーが軟化して作業性が悪いという問題もある。
【0004】
一方で、磁性化された吸着性粒子を用いて、油類を吸着した後の吸着性粒子を磁気を用いて分離する方法も知られている。例えば特許文献2には、磁性体表面をステアリン酸で修飾し、その磁性体に水中の油を吸着させ、回収する方法が開示されている。しかし、この方法では磁性体の表面修飾に低分子化合物であるステアリン酸やカップリング剤を使用するため、それらの低分子化合物が逆に水を汚染してしまう可能性が高いという問題がある。
【特許文献1】特開平07−102238号公報
【特許文献2】特開2000−176306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を鑑み、水中の有機物、無機物、またはイオンなどの不純物を効率よく吸着し、水を汚染することがなく、かつ優れた作業性で水処理を実施することを可能にする樹脂複合体、ならびにそれを用いた水処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による樹脂複合体は、ポリマーにより表面が被覆された磁性粉が凝集した2次凝集体を含んでなることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明による水処理方法は、不純物を含んでなる水に、前記の樹脂複合体を分散させ、前記樹脂複合体の表面に前記不純物を吸着させ、吸着後の前記樹脂複合体を磁力を利用して前記水から分離することを含んでなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明による樹脂複合体の製造法は、磁性粉と、ポリマーと、前記ポリマーを溶解し得る有機溶媒とを含んでなる組成物を噴霧して、前記有機溶媒を除去する工程を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水処理において有用な吸着性粒子である樹脂複合体、すなわち水中の不純物を効率よく吸着し、吸着後には磁気を用いて高速分離できる、作業性の良い樹脂複合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
樹脂複合体
本発明による樹脂複合体は、ポリマーにより表面が被覆された磁性粉が凝集した2次凝集体を含んでなる。すなわち、磁性粉をコア、その表面を被覆するポリマーの層がシェルを構成するコア/シェル構造の1次粒子が凝集して2次凝集体を構成している。
【0011】
1次粒子のコアとなる磁性粉は、磁性体からなるものであれば特に限定されるものではない。用いられる磁性体は,室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかし、本発明の実施に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、などが挙げられる。これらのうち水中での安定性に優れたフェライト系化合物であればより効果的に本発明を達成することができる。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。また、磁性粉は、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。用いるに当って望ましい磁性担体の粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。鋭角な角を持つ粒子であると、表面を被覆するポリマー層を傷つけ、樹脂複合体の形状を維持しにくくなってしまうことがあるためである。これらの磁性粉は、必要であればCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理が施しされていてもよい。
【0012】
なお、本発明において磁性粉とは、その粒子がすべて磁性体で構成される必要はない。すなわち、非常に細かい磁性体粉末が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。また、磁性粉が磁性体粒子からなるものであって、その表面が腐食防止などの目的で表面処理されていてもよい。すなわち、後述するように、最終的に得られる樹脂複合体が、水処理において磁力によって回収される際に、磁力が及ぶだけの磁性体を含有することだけが必要である。
【0013】
また、磁性粉の大きさは、磁性粉の密度、用いられるポリマーの種類や密度、樹脂複合体の密度など種々の条件によって変化する。しかし本発明における磁性粉の平均粒子径は、一般に0.05〜100μm、好ましくは0.2〜5μm、である。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。磁性粉の平均粒子径が100μmよりも大きいと、凝集する粒子が大きくなりすぎて、水への分散が悪くなる傾向があり、また粒子の実効的な表面積が減少して、油類などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、樹脂複合体の表面積が小さくなる傾向があるので好ましくない。
【0014】
また、樹脂複合体に取り込まれた磁性粉は、樹脂複合体が形状を維持するための骨格としても機能する。特に水中に分散する油を回収する場合には、もし樹脂複合体のコアが磁性粉ではないと、油を吸着した時に樹脂が軟化し、形状を維持しにくくなる。場合によっては他の樹脂複合体の粒子と凝集して、回収が困難になってしまうことがある。これに対して本発明による樹脂複合体は磁性粉をコアとして含んでいるため、吸着粒子としての形状を維持できるので回収しやすい。さらに、磁性粉を組み込むことにより、相対的に樹脂複合体の比重が高くなるため、重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力による分離を、磁気による分離と併用することが可能となるため、不純物を吸着させた樹脂複合体を水から迅速に分離することができる。
【0015】
本発明において、磁性粉の表面を被覆するポリマーは、目的に応じて任意のものを選択することができる。すなわち、樹脂複合体を水処理に用いる際に、水から除去しようとする有機物、無機物またはイオンなどの不純物を効率よく吸着するものが好ましく用いられる。
【0016】
ここで、磁性体の表面を被覆するポリマーは、水に対する溶解性が低いものが好ましい。具体的には、水に対する溶解度が10mg/L以下であることが好ましく、10μg/Lであることがより好ましい。これは樹脂複合体が水処理に用いられた時に、水中でポリマーが水中に溶出するのを防ぐためである。
【0017】
一方で、ポリマーは、特定の有機溶媒に対して溶解度が低いものが好ましい。すなわち、不純物を吸着させた後で回収された樹脂複合体は、再利用される場合がある。再利用をする場合には、適当な溶媒で樹脂複合体を洗浄することによって、表面に吸着した不純物を除去することにより吸着効率を改善することができる。したがって、その洗浄時に、不純物を溶解することができて、かつポリマーを溶解しない特定の溶媒が用いられる。このような溶媒は、不純物やポリマーの種類に応じて任意に選択される。しかしながら、一般には樹脂複合体を洗浄するための溶媒は、安価でかつ安全性の高いものが選択される。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサンまたはそれらの混合物などが用いられる。すなわち、磁性粉の表面を被覆するポリマーは、上記の有機溶媒に不溶性であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明による樹脂複合体を製造する場合には、ポリマーは有機溶媒に溶解された溶液として磁性粉の表面に塗布等されてポリマー層が形成される。したがって、前記の特定の有機溶媒とは別の有機溶媒に対する溶解性が一定以上であることが好ましい。このようなポリマーを溶解するための有機溶媒としては、イソブタノール、イソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、キシレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、ジオキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、ジメチルアニリン、テトラヒドロフラン、トルエン、ブタノール、フロン、ヘキシルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。なお、前記したポリマーを溶解しにくい溶媒、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、またはシクロヘキサンなどは、ポリマーの種類によってはそのポリマーに対する溶解性が高い場合があり、そのような場合には、ポリマーを溶解するための有機溶媒として用いることができる。
【0019】
このような条件を満たし、本発明の樹脂複合体に好ましく用いられるポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、水添加ポリスチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、またはシクロオレフィン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、が挙げられる。より具体的には、ポリスチレン、ポリビニリピリジン、ポリシクロオレフィン(たとえばゼオネックス480(商品名、日本ゼオン株式会社製))、ポリビニルブチラール、ポリスチレン/ポリブタジエンブロック共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体、ポリスチレン/ポリイソプレン共重合体、水添加ポリスチレン/ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0020】
本発明による樹脂複合体は、前記の磁性粉が前記のポリマーで被覆された1次粒子が凝集した2次凝集体を含んでなる。この2次凝集体は特徴的な形状を有することが好ましい。すなわち、本発明による樹脂複合体において、磁性粉の比表面積をC[m/g]、磁性粉の樹脂複合体を基準とした含有率をD[%]、磁性粉の平均粒子径をX[μm]、ポリマーの密度をE[g/cm]、ポリマーの樹脂複合体を基準とした含有率をF[%]とした時、0.001≦F/(C×D×E)≦Xの範囲にあることが好ましく、0.005≦F/(C×D×E)≦X/10の範囲にあることがより好ましい。なお、ここでF/(C×D×E)は磁性粉を被覆するポリマー層の厚さに相当するパラメーターである。
【0021】
ポリマーの被覆量の計算は光学顕微鏡やSEMなどによる観察で測定しても良いが、好ましくは無酸素状態で高温に上げ、樹脂複合体を熱分解させて重量減少量、すなわちポリマー被覆量を求め、粒子の比表面積からポリマー層の平均厚さを計算すると正確に求めることができる。
【0022】
ここで、F/(C×D×E)の値がX/10より大きくなる(被覆厚さが厚くなる)と樹脂複合体の表面積が小さくなり、油吸着能力が低下する傾向がある。また、F/(C×D×E)の値が0.001より小さくなる(被覆厚さが薄くなる)と、2次凝集粒子が脆くなり、形状が崩れやすくなる傾向がある。
【0023】
さらに、本発明による樹脂複合体は、多孔質構造を有することが好ましい。本発明による樹脂複合体は、1次粒子が凝集して2次凝集体を形成しているため、一般に表面は平滑ではなく、比較的表面積が広い。このため、水中において不純物を吸着する場合に有利である。しかしながら、樹脂複合体が多孔質構造を有することで、その吸着効率がより高くなる。このため、前記のパラメーターF/(C×D×E)が低いと、多孔質構造をとりやすく、より好ましい。パラメーターF/(C×D×E)は樹脂複合体の多孔質構造を直接示すものではなく、樹脂の種類により異なるが、0.005≦F/(C×D×E)≦X/10の範囲でほとんどの樹脂複合体が多孔質構造となる。
【0024】
このような多孔質構造を有する、本発明による樹脂複合体の電子顕微鏡写真は図1および2に示すとおりである。図1は樹脂複合体である2次凝集体の全体を撮影したものであり、図2は、その表面をより高い倍率で撮影したものである。この電子顕微鏡写真より、2次凝集体が1次粒子が凝集したものであり、また2次粒子が多孔質構造を有することが明確にわかる。
【0025】
なお、本発明による樹脂複合体、すなわち2次凝集体の粒子径は特に限定されないが、取り扱い性や水への分散性の観点から、2次凝集体の平均粒子径粒子径Zと磁性粉の平均粒子径Xの比Z/Xが、10〜10000の範囲にあることが好ましく、20〜500であることがより好ましい。比Z/Xがこの範囲より小さい(凝集体径が小さい)と取り扱い性が悪くなる傾向があり、10000より大きい(凝集体径が大きい)と2次凝集体が大きいため水への分散性が悪くなる傾向がある。ここで、2次凝集体の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いて観察することで測定する。具体的には、市販の画像解析ソフトで自動計算ができるが、例えば写真中に任意の直線(例えば対角線)を引き、その線上にある粒子の平均粒子径を算出することにより2次凝集体の平均粒子径を測定することができる。
【0026】
本発明による樹脂複合体の比重は特に制限されないが、一般に2g/cm以上、好ましくは3g/cm以上であり、かつ10g/cm以下であることが好ましい。本発明の樹脂複合体は表面が平滑ではなく、好ましくは多孔質であるため、水中に分散させた時に表面に気泡が付着したり、内部に空気が入ったりすることがある。このため、樹脂複合体そのものの比重が高すぎると、水上に浮上してしまい、撹拌して水中に分散させるのにエネルギーを要する場含がある。逆に比重が高すぎると樹脂複合体が沈降してしまい、撹拌して水中に分散させるのにエネルギーを要する場合がある。
【0027】
樹脂複合体の製造法
本発明による樹脂複合体は、前記したような本発明による樹脂複合体の構造を実現できるものであれば任意の方法により製造することができる。このような方法の一例として、ポリマーを溶解し得る有機溶媒にポリマーを溶解させ、その溶液中に磁性粉を分散させた組成物を調整し、その組成物を噴霧することにより有機溶媒を除去するスプレードライ法が挙げられる。この方法によれば、スプレードライの環境温度や噴出速度などを調整することにより1次粒子が凝集した2次凝集体の平均粒子径が調整できる上、凝集した1次粒子の間から有機溶媒が除去される際に孔が形成され、好適な多孔質構造を容易に形成させることもできる。
【0028】
一方、工業的には、ポリマーを溶解し得る有機溶媒にポリマーを溶解させたポリマー溶液を調製し、型などに入れられた磁性粉の表面にポリマー溶液を流し込み、さらに有機溶媒を除去して固化させたものを破砕したり、あるいはポリマー溶液に磁性粉を分散させた組成物から有機溶媒を除去して固化させたもの破砕したりすることによっても、本発明による樹脂複合体を形成させることができる。この場合においても、組成物等から有機溶媒を除去する際に、固化物に孔が形成され、それが樹脂複合体においても残存して多孔質構造が実現できる。また、ヘンシェルミキサー、ボールミル、または造粒機などに、ポリマーを溶媒に溶解した組成物を滴下し、乾燥させることで樹脂複合体を製造することができる。この時、磁性粉の表面を覆うような製造条件と、その磁性粉を凝集させるような条件の2工程を経ると、好ましい樹脂複合体を製造することができる。
【0029】
水処理方法
本発明による水処理方法は、不純物を含んでなる水から、不純物を分離するものである。ここで、不純物とは、処理しようとする水に含まれており、その水を利用するに当たって除去すべきものを意味する。したがって、本発明における不純物とは、有機物、無機物、またはイオンのいずれの形態であってもよい。しかしながら、本発明による樹脂複合体は、吸着性、吸着後の形態保存性、吸着後の回収方法などの観点から、不純物として有機物、特に油類を含む水を処理するのに用いることが好ましい。ここで油類とは、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が低いものをいう。より具体的には、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。これらは、脂肪酸グリセリド、石油、高級アルコールなどに代表される。これらの油類はそれぞれ有する官能基などに特徴があるので、それに応じて樹脂複合体を構成するポリマーを選択することがこのましい。
【0030】
本発明による水処理方法は、まず、前記の不純物を含んでなる水に、前記の樹脂複合体を分散させる。樹脂複合体の表面はポリマーで被覆されており、そのポリマーと不純物との親和性により、不純物がポリマーに吸着される。このとき、本発明による樹脂複合体の表面は平滑ではなく、好ましくは多孔質構造をとるために、相対的に表面積が大きく、不純物の吸着効率が高い。本発明による樹脂複合体の吸着率は、不純物濃度や分散させる樹脂複合体の添加量にも依存するが、非常に高いものである。具体的には、十分な量の樹脂複合体を添加した場合には、一般に80%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の不純物が樹脂複合体の表面に吸着される。
【0031】
樹脂複合体の表面に不純物を吸着させた後、樹脂複合体が分離され、水から不純物が除去される。ここで、樹脂複合体を分離する際には、磁力が利用される。すなわち、コアに用いられている磁性粉が磁石により吸引されるので、樹脂複合体を簡便に回収することができる。ここで、重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力による分離を、磁気による分離と併用することも可能であり、それらの併用により、作業性を改善し、さらに陣族に回収をすることが可能となる。
【0032】
水処理の対象とされる水は特に限定されない。具体的には工業排水、下水、生活排水などに用いることができる。処理しようとする水に含まれる不純物濃度も特に限定されないが、過度に不純物濃度が高い場合には、樹脂複合体が多量に必要となるため、別の手段により不純物濃度を下げてから本発明による水処理方法に付すほうが効率的である。具体的には、本発明による水処理方法は、不純物濃度が1%以下の水に用いることが好ましく、0.1%以下の水に用いることがより好ましい。
【0033】
処理後に回収された樹脂複合体は、再生して再利用することも可能であり。再生するためには吸着された不純物を樹脂表面から除去することが必要である。このような不純物除去を行うためには、溶媒による洗浄を用いることが好ましい。この場合に用いられる溶媒は、ポリマーを溶解せず、不純物を溶解しえる溶媒、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサンおよびそれらの混合物を用いることが好ましい。また、それ以外の溶媒であっても、不純物の種類、ポリマーの種類に応じて利用が可能である。
【0034】
本発明を実施例を用いて、より詳細に説明すると以下のとおりである。
【0035】
(実施例1)
ポリスチレン(密度1.05g/cm)3重量部を、300mlのテトラヒドロフラン中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径800nmの球状マグネタイト粒子20重量部(比表面積5.7m/g)を分散させて組成物を得た。この組成物を、ミニスプレードライヤー(柴田科学株式会社製、B−290型)を用いて噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が約10μm(Z/X=12.5)の樹脂複合体を作成した。熱重量分析装置(以下、TG)を用いて実際の被覆ポリマー量を求めたところ、全体の14.1%であり、F/(C×D×E)の値は0.027であった。
【0036】
得られた樹脂複合体0.1gを50mlの比色管中に測り取り、直鎖脂肪族の油100μlを含む水20mlを加え、よく撹拌して樹脂複合体に油を吸着させた。その後、磁石を用いて樹脂複合体を比色管外に取り出した後、ヘキサン10mlを添加してよく撹拌し、水中の油を抽出した。このヘキサンをガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析し、樹脂複合体の油の吸着量を求めたところ98.7μlの油を吸着していた。また、このとりだした樹脂複合体を10mlのヘキサン中に投入しよく撹拌した。このヘキサン中から磁石を用いて樹脂複合体を取り出し、ヘキサンを分析したとこと、全量の油を脱離していた。
【0037】
(実施例2〜7)
実施例1と同じ組成の組成物を用い、スプレードライヤーの噴霧条件を変化させ、平均2次粒子径が異なる樹脂複合体を作成し、油吸着量を測定した。結果は表1に示すとおりであった。
【0038】
【表1】

【0039】
ただし、実施例2は凝集体径が小さいため、樹脂複合体を水から分離するのに、実施例1に対して約2倍の時間がかかった。また、実施例7は平均2次粒子径が大きいため水への分散性が悪く、水中の油を吸着するのに実施例1に対して約3倍の時間を有した。しかし、平均2次粒子径の大きさに関わらず、油吸着は良好であり、磁気分離の際にも比色管壁面に付着するなどの現象は見られなかった。
【0040】
(実施例8〜14)
実施例1とポリスチレンの配合量を変えたこと以外は同様にして樹脂複合体を作成した。実施例8〜14の樹脂複合体に関しては、実施例1と同様に水中の油を吸着させ、容易に磁気分離することが可能であった。実施例13の樹脂量を減らしたものは、比色管で撹拌中に水が黒くにごる現象が観察された。SEMで分析したところ、多孔質構造の2次凝集体が壊れていることが確認された。しかしながら、80%以上の油を吸着させることができ、十分な吸着性があることは確認された。また実施例14は、SEMで観察したところ多孔質構造は見られなかった。また油を吸着した後は、2次凝集粒子同士がさらに凝集し、回収後には大きな塊となってしまい、比色管の壁面に付着し、分離が困難であった。しかし、この場合であっても97.5%という、非常に高い効率で油を吸着させることができた。
【0041】
【表2】

【0042】
(実施例15〜18)
平均粒子径の異なるマグネタイトを用いたこと以外は実施例1と同様に樹脂複合体を作成した。マグネタイトの平均粒子径が50nm〜4.9μmの範囲で作製したものは、実施例1と同様に水中の油を吸着し、容易に磁気分離可能であった。
【0043】
(比較例1)
マグネタイトを含まないこと以外は実施例1と同様の方法によって、コアのない樹脂粒子を作成した。得られた樹脂粒子は、平均粒子径約4μmの多孔質構造を有していない粒子であった。実施例1と同様に油の吸着試験を行ったところ、油を吸着することが確認できたが、油を吸着した後は粒子同士がさらに凝集し、回収後には粘着力のある大きな塊となってしまった。この塊は比色管の壁面に付着し、磁気による分離ができず、水からの分離が困難であった。
【0044】
(比較例2)
ポリスチレン樹脂を含まないこと以外は実施例1と同様の方法によって、ポリマー層のない磁性粉粒子を作成した。噴霧後に得られた粒子は、噴霧前と変わらない平均粒子径800nmのマグネタイト粒子であった。この粒子を用いて実施例1と同様に油の吸着試験を行ったが、ポリマー層を有していないために油は吸着されなかった。
【0045】
【表3】

【0046】
(実施例19〜27)
被覆するポリマーをポリスチレンから様々なポリマーに変えたこと以外は実施例1と同様に樹脂複合体を作成し、水中の油の吸着試験を行った。どの樹脂を用いた時も、良好に油を吸着し、比色管壁面に付着することなく磁気分離を行うことができた。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による樹脂複合体の2次凝集体の形状を示す電子顕微鏡写真。
【図2】本発明による樹脂複合体の表面を示す電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーにより表面が被覆された磁性粉が凝集した2次凝集体を含んでなることを特徴とする樹脂複合体。
【請求項2】
前記磁性粉の平均粒子径Xが0.05μm〜100μmである、請求項1に記載の樹脂複合体。
【請求項3】
前記磁性粉の比表面積をC[m/g]、磁性粉の樹脂複合体を基準とした含有率をD[g]、磁性粉の粒子径をX[μm]、ポリマーの密度をE[g/cm]、ポリマーの樹脂複合体を基準とした含有率をF[%]とした時、0.001≦F/(C×D×E)≦Xの関係を満たす、請求項1または2に記載の樹脂複合体。
【請求項4】
前記2次凝集体の平均粒子径Zと、前記磁性粉の平均粒子径Xとの比Z/Xが、10〜10000の範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
【請求項5】
前期2次凝集体が多孔質構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
【請求項6】
前記ポリマーが水不溶性であり、かつメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、およびそれらの混合物から選ばれるいずれか1種類の有機溶媒に不溶性である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂複合体。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリスチレン樹脂、水添加ポリスチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、およびそれらの混合物から選ばれるものである、請求項6に記載の樹脂複合体。
【請求項8】
不純物を含んでなる水に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂複合体を分散させ、前記樹脂複合体の表面に前記不純物を吸着させ、吸着後の前記樹脂複合体を磁力を利用して前記水から分離することを含んでなることを特徴とする、水処理方法。
【請求項9】
前記の不純物を含んでなる水が工業排水である、請求項8に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記の吸着後の樹脂複合体を、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、、およびそれらの混合物から選ばれるいずれか1種類の有機溶媒により洗浄して再生し、さらなる水処理に利用する請求項8または9に記載の水処理方法。
【請求項11】
磁性粉と、ポリマーと、前記ポリマーを溶解し得る有機溶媒とを含んでなる組成物を噴霧して、前記有機溶媒を除去する工程を含んでなることを特徴とする、樹脂複合体の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−268976(P2009−268976A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122105(P2008−122105)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】