説明

樹脂除去剤

【課題】硬化性環状シリコーン化合物のプリベーク前は勿論、プリベークした後であってもこれらを良好に除去することのできる樹脂除去剤を提供する。
【解決手段】一般式、(R−N−R・Xで表される四級アンモニウム化合物と、一般式、(R−N・Xで表される四級アンモニウム化合物と、シリコーン部分とポリエーテル部分とから少なくとも構成されるブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物と、溶媒と、を含有する溶液である樹脂除去剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂除去剤に関する。詳しくは、プリベークした硬化性シリコーン樹脂、特には4個以上のケイ素原子を有する環状シロキサン構造を有する化合物を少なくとも1つの単量体とする樹脂を除去するための樹脂除去剤に関する。より詳しくは、Si−H基またはSH基を含有する硬化性環状シリコーン化合物で、特にヒドロシリル化反応を利用したSi−H基含有硬化性環状シリコーン化合物を、プリベークした樹脂状態からでも除去することのできる樹脂除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より硬化性シリコーン化合物は種々の用途に用いられており、種々の硬化性シリコーン化合物が提案されている。例えば、特許文献1〜3にはヒドロシリル化反応を利用したSi−H基含有硬化性シリコーン化合物が記載されている。その他、メルカプタン基(SH基)を持つ硬化性シリコーン化合物も一般に知られている。
【特許文献1】特開2002−241614号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2002−241501号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2002−194215号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらのシリコーン化合物は硬化させた後は勿論、タックフリーとしてハンドリング性を向上させるためのプリベーク後でも、安定な物性を示すものであるため、例えば、コーティングとして硬化性シリコーン化合物を適用した場合に、適用不良、適用ミスなどのためにこれを除去(剥離、溶解を含む)しようとしても、容易に除去することができないという問題点があった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、上記のような硬化性環状シリコーン化合物のプリべ−ク前は勿論、プリベーク後であってもこれらを良好に除去することのできる樹脂除去剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の2種類の四級アンモニウム化合物と特定のブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物とを溶媒に溶解した溶液により上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の樹脂除去剤は、
下記一般式(1)、
(R−N−R・X (1)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Rは直鎖でも分岐鎖でもよい炭素原子数6〜20の炭化水素基、Xは1価のアニオンである)で表される四級アンモニウム化合物と、
下記一般式(2)、
(R−N・Y (2)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Yは1価のアニオンである)で表される四級アンモニウム化合物と、
下記一般式(3)、

(3)
(式中、nは1〜1500の数である)で表されるシリコーン部分と下記一般式(4)、

(4)
(式中、aは3〜150の数であり、bは0又は1〜100の数である)で表されるポリエーテル部分とから少なくとも構成されるブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物と、
溶媒と、
を含有する溶液であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の樹脂除去剤においては、プリベークした環状シリコーン樹脂、特にはSi−H基またはSH基を含有する環状シリコーン樹脂を良好に除去することができる。
【0008】
また、本発明の樹脂除去方法は、上記本発明の樹脂除去剤を用いて樹脂を除去する樹脂除去方法であって、除去対象樹脂に予め上記ブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を含有させておき、上記2種類の四級アンモニウム化合物と溶媒とを含有する組成物を用いて、該樹脂を除去することを特徴とするものである。
【0009】
尚、プリベークとは、当業界で慣用される語であるが、本発明の樹脂除去剤は、プリベーク前でも後でも除去可能であり、詳細には単量体中のSi−H基、或いはSH基、またはSi−H基とSH基の合計が、除去しようとする対象樹脂1g中で1ミリ当量以上である場合、良好に除去できるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリベークした硬化性シリコーン樹脂、特には4個以上のケイ素原子を有する環状シロキサン構造を有する化合物を少なくとも1つの単量体とする樹脂をプリベークした後においてもこれを良好に除去することでき、更には、Si−H基またはSH基を含有する硬化性環状シリコーン化合物で、特にヒドロシリル化反応を利用したSi−H基含有硬化性環状シリコーン化合物を、プリベークした樹脂状態からでも除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明に使用される四級アンモニウム化合物の1種は、下記一般式(1)、
(R−N−R・X (1)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Rは直鎖でも分岐鎖でもよい炭素原子数6〜20の炭化水素基、Xは1価のアニオンである)で表されるものである。
【0012】
かかる四級アンモニウム化合物は上記一般式(1)で表されるものであればいずれのものも使用することができるが、具体的には、例えば、n−へキシルトリメチルアンモニウム、イソヘキシルトリメチルアンモニウム、n−へプチルトリメチルアンモニウム、n−オクチルトリメチルアンモニウム、2−エチルへキシルトリメチルアンモニウム、n−デシルトリメチルアンモニウム、n−ドデシルトリメチルアンモニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、n−ヘキサデシルトリエチルアンモニウム、n−ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、n−ヘキサデシルメチルジエチルアンモニウムなどのアンモニウムをカチオンとし、アニオンとして水酸化物イオン、塩化物イオンなどから構成される化合物など、及びこれらの1種以上の混合物などを例示することができる。これらのなかでも、n−ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどが好ましい。
【0013】
本発明に使用される上記一般式(1)で表される四級アンモニウム化合物の使用量は特に限定されないが、樹脂除去剤の溶液中の濃度の下限として概ね0.1質量%以上であれば好ましく、本発明の効果を発揮することができ、より好ましくは0.3質量%以上であればよい。
【0014】
上記一般式(1)で表される四級アンモニウム化合物の使用量の上限は特にないが、除去剤溶液中の濃度として概ね10質量%以下であれば種々の用途におけるSi−H基含有もしくはSH基含有の硬化性シリコーン化合物のプリベーク樹脂に対してであっても周囲への悪影響を生じることなく使用することができるので好ましく、より好ましくは5質量%以下がよい。
【0015】
本発明に使用される四級アンモニウム化合物の他の1種は、下記一般式(2)、
(R−N・Y (2)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Yは1価のアニオンである)で表されるものである。
【0016】
かかる四級アンモニウム化合物は上記一般式(2)で表されるものであればいずれのものも使用することができるが、具体的には、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトライソプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのアンモニウムをカチオンとし、アニオンとして水酸化物イオン、塩化物イオンなどから構成される化合物など、及びこれらの1種以上の混合物などを例示することができる。これらのなかでも、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)が好ましい。
【0017】
上記一般式(2)で表される四級アンモニウム化合物の使用量は特に限定されないが、樹脂除去剤の溶液中の濃度の下限としては概ね1質量%以上であればよく、本発明の効果を発揮することができ、より好ましくは2質量%以上であればよい。
【0018】
上記一般式(2)で表される四級アンモニウム化合物の使用量の上限は特にないが、除去剤溶液中の濃度として概ね10質量%以下であれば種々の用途における硬化性シリコーン化合物であっても周囲への悪影響を生じることなく使用することができるので好ましく、より好ましくは5質量%以下がよい。
【0019】
次に、本発明に使用されるブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物は、下記一般式(3)、

(3)
(式中、nは1〜1500の数である)で表されるシリコーン部分と下記一般式(4)、

(4)
(式中、aは3〜150の数であり、bは0又は1〜100の数である)で表されるポリエーテル部分とから少なくとも構成されるものである。
【0020】
かかるブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を用いることにより、これを用いない場合に比べ大幅に樹脂の除去が可能となる。本発明において使用し得る具体的なブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物としては、アズマックス(株)製のポリアルキレンオキシド変性シリコンDBE−712、DBE−814、DBE−821(商品名)などが挙げられる。
【0021】
ブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物の使用量は特に限定されないが、樹脂除去剤の溶液中の濃度の下限としては概ね0.5質量%以上であればよく、本発明の効果を発揮することができ、より好ましくは1質量%以上であればよい。
【0022】
またブロック型ポリエーテル変性シリコーンの使用量に上限は特にないが、樹脂除去剤の溶液中の濃度として概ね10質量%以下であれば種々の用途における硬化性シリコーン化合物であっても周囲への悪影響を生じることなく使用することができるので好ましく、より好ましくは5質量%以下がよい。
【0023】
ブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を樹脂に配合させておき、上記2種類の四級アンモニウム化合物と溶媒とを含有する組成物で該樹脂を除去する方法においては、ブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物の使用量は特に限定されないが、対象化合物である硬化性シリコーン化合物への添加量として、概ね1質量%以上であればよく、本発明の効果を発揮することができ、より好ましくは2質量%以上であればよい。
【0024】
また、ブロック型ポリエーテル変性シリコーンの使用量の上限は特にないが、対象化合物である硬化性シリコーン化合物での添加量として概ね10質量%以下であれば種々の用途における硬化性シリコーン化合物であっても周囲への悪影響を生じることなく使用することができるので好ましく、より好ましくは5質量%以下がよい。
【0025】
次に、本発明に使用される溶媒は特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、あるいはこれらの 1種以上の混合物であればよいが、好ましくは水、またはメタノール、エタノ−ル若しくはイソプロパノールなどのアルコールの水溶液を溶媒とする。
【0026】
本発明のプリベーク樹脂除去剤が効果的に除去機能を発揮する対象化合物は、分子内にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を持つ硬化性環状シリコーン化合物及びメルカプタン基(SH基)を持つ硬化性環状シリコーン化合物をプリベークして得られる樹脂である。
【0027】
これらの硬化性環状シリコーン化合物の例を挙げると、ケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有する化合物としては、前記の特許文献1〜3に記載された化合物が挙げられる。例えば、以下の化合物(5)〜(11)が挙げられる。

(5) (6)

(7) (8)

(9) (10)

(11)
【0028】
また、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンと二重結合を有する化合物とのヒドロシリル化反応で得られる付加反応物が挙げられる。具体的には次に挙げる化合物(12)〜(14)などが好適である。

(12)

(13) (14)
【0029】
さらに、メルカプタン基(SH基)を持つ硬化性シリコーン化合物の例としては、具体的には次に挙げるメルカプタン化合物(15)〜(17)を含有する硬化性組成物などが好適である。

(15) (16)

(17)
【実施例】
【0030】
次に、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」とは「質量部」を、また「%」は「質量%」を夫々意味するものとする。
〔硬化性シリコーン化合物(1)の製造〕
1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン100部、ジビニルベンゼン50部、1−メトキシー2−プロパノールアセテート70部及び白金−カルボニルビニルメチル錯体(OSSKO触媒)0.0001部を加えて撹拌しながら、6時間環流処理した。反応を50℃で溶媒を減圧留去し、プレポリマー(1)を得た。
【0031】
別途、1,4−ジオキサン300部及び塩酸300部を加えて撹拌した混合液に、メチルビニルジクロロシラン210部とフェニルメチルジクロロシラン90部の混合物を滴下した。加水分解反応により発生した塩酸を回収しつつ、室温下で30分間反応させた後、70℃で3時間反応させた。反応後、2相に分離した液相の内、上相について真空ポンプによる減圧下、120〜140℃の条件で蒸留精製し、ビニル基含有環状シロキサン化合物を得た。
【0032】
上記プレポリマー(1)50部、上記のビニル基含有環状シロキサン化合物33部及び−白金−カルボニルビニルメチル錯体0.0001部及び溶媒として1−メトキシ−2−プロパノールアセテート200部を配合して、下記の化合物を主成分とする硬化性シリコーン化合物(1)を得た。
硬化性シリコーン化合物(1)の主成分

及びオリゴマー
(14) (8)
【0033】
実施例1〜3、比較例1〜5
試験方法:
(試験片)
2.5cm四方のガラス板上に、上記で得られた硬化性シリコーン化合物をスピンコート(厚さ3μm)し、これをプリベーク前の試験片とした。
さらにこの試験片を140℃で3分間プリベークした。これをプリベーク後の試験片とした。
(除去剤溶液)
下記の表1及び表2に示す供試樹脂除去剤の水溶液を調製した。
(浸漬試験)
試験片を樹脂除去剤溶液に室温で5分間浸漬し、その後、水洗し、風乾後に除去効果を判定した。その結果を、下記の表1及び表2に示す。
(除去効果の判定)
◎ : 完全に除去され、ガラス板表面は清浄であった。
○ : ほとんど除去されているが、若干の塗布膜の痕跡が認められた。
× : 大部分の塗布膜が残留していた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
実施例4
また、実施例1で使用した硬化性シリコーン化合物(1)に、実施例1で使用したブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を1質量%添加し、樹脂除去剤としては、このブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を含まないほかは実施例1と同様の樹脂除去剤を用い、実施例1と同様に試験を行った結果、除去効果は「◎」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、
(R−N−R・X (1)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Rは直鎖でも分岐鎖でもよい炭素原子数6〜20の炭化水素基、Xは1価のアニオンである)で表される四級アンモニウム化合物と、
下記一般式(2)、
(R−N・Y(2)
(式中、Rは直鎖でも分岐鎖でもよく、同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜4の炭化水素基、Yは1価のアニオンである)で表される四級アンモニウム化合物と、
下記一般式(3)、

(3)
(式中、nは1〜1500の数である)で表されるシリコーン部分と下記一般式(4)、

(4)
(式中、aは3〜150の数であり、bは0又は1〜100の数である)で表されるポリエーテル部分とから少なくとも構成されるブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物と、
溶媒と、
を含有する溶液であることを特徴とする樹脂除去剤。
【請求項2】
プリベーク前の又はプリベークした環状シリコーン樹脂を除去するための請求項1記載の樹脂除去剤。
【請求項3】
プリベーク前の又はプリベークした環状シリコーン樹脂がSi−H基またはSH基を含有する環状シリコーン樹脂である請求項2記載の樹脂除去剤。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項記載の樹脂除去剤を用いて樹脂を除去する樹脂除去方法であって、除去対象樹脂に予め上記ブロック型ポリエーテル変性シリコーン化合物を含有させておき、上記2種類の四級アンモニウム化合物と溶媒とを含有する組成物を用いて、該樹脂を除去することを特徴とする樹脂除去方法。

【公開番号】特開2008−169336(P2008−169336A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5223(P2007−5223)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】