説明

樽状容器用吊り下げ搬送装置

【課題】 たとえ飲料などが入れられた樽状容器でも、溶接箇所に過度の負担を掛けることなく吊り下げ搬送することができ、しかも、たとえ上端カール部が変形していても、その上端カール部から係合爪を確実に外すことの可能な樽状容器用吊り下げ搬送装置。
【解決手段】 上面視において樽状容器1の上端カール部6aの内側でその上端カール部6aに対して遠近方向に移動する係合爪9を備え、その係合爪9が、上端カール部6aに近接する係合方向Xへ移動し上端カール部6aの内側に係合して樽状容器1を吊り下げ搬送し、上端カール部6aから遠ざかる解除方向Yへ移動して上端カール部6aへの係合を解除するように構成されている樽状容器用吊り下げ搬送装置で、上端カール部6aの内側に当接する当接部材10aが、係合爪9の解除方向Yへの移動時に、その係合爪9の移動に対して相対的に係合方向Xへ移動するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上面視において樽状容器の上端カール部の内側でその上端カール部に対して遠近方向に移動する係合爪を備え、その係合爪が、前記上端カール部に近接する係合方向へ移動し前記上端カール部の内側に係合して前記樽状容器を吊り下げ搬送し、前記上端カール部から遠ざかる解除方向へ移動して前記上端カール部への係合を解除するように構成されている樽状容器用吊り下げ搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この吊り下げ搬送装置の対象となる樽状容器としては、例えば、図1に示すようなステンレス製の樽1があり、従来、この種の樽1を吊り下げて搬送する搬送装置では、鏡板2の中央に位置する口部5を外側から挟持して吊り下げ搬送するものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
しかし、口部5を挟持して吊り下げ搬送する構成では、樽1内にビールなどの飲料が入れられた実樽1の場合、かなりの重量が口部5に作用するため、口部5を正確に挟持して搬送しないと、口部5の変形や口部5に被せられたキャップシールの破損などのトラブルの発生が懸念される。
それに加えて、図1においてAで示す溶接箇所、つまり、後に詳しく説明する3ピース構造の樽1では、かなりの重量が鏡板2と側板4との溶接箇所Aに作用するため、繰り返し使用する間に溶接部分に亀裂などが入り、液漏れ発生の原因となるおそれがある。
【0003】
そこで、これらの考え得るトラブルの発生を回避するため、上述したように、樽1の上方スカート部6の上端に設けられた上端カール部6aにその内側から係合爪を係合させて吊り下げ搬送するように構成したものが考えられた。
【0004】
【特許文献1】特開平8−90473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樽1の上方スカート部6は、口部5が他物に当接して変形するのを保護するためのものであるから、市場における使用によって、口部5の代わりに上方スカート部6が他物に当接して変形することがあり、上方スカート部6が変形すると、当然、上端カール部6aも変形することになる。
上端カール部6aが変形すると、その変形した上端カール部6aの内側に係合爪を係合させて吊り下げ搬送した後、係合爪を上端カール部6aから外す際に、係合爪が上端カール部6aに引っ掛かって外れず、樽1が所定の載置位置からズレたり、転倒することがあり、極端な場合には、上端カール部6aに引っ掛かったまま係合爪が移動することによって、樽1が放り投げられる事態の発生も考えられる。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目したもので、その目的は、樽状容器の上端カール部に係合爪を係合させて吊り下げ搬送することにより、たとえ飲料などが入れられた樽状容器であっても、溶接箇所に過度の負担を掛けることなく吊り下げ搬送することができ、しかも、たとえ上端カール部が変形していても、その上端カール部から係合爪を確実に外すことの可能な樽状容器用吊り下げ搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴構成は、上面視において樽状容器の上端カール部の内側でその上端カール部に対して遠近方向に移動する係合爪を備え、その係合爪が、前記上端カール部に近接する係合方向へ移動し前記上端カール部の内側に係合して前記樽状容器を吊り下げ搬送し、前記上端カール部から遠ざかる解除方向へ移動して前記上端カール部への係合を解除するように構成されている樽状容器用吊り下げ搬送装置であって、前記上端カール部の内側に当接する当接部材が、前記係合爪の前記解除方向への移動時に、その係合爪の移動に対して相対的に前記係合方向へ移動するように設けられているところにある。
【0008】
本発明の第1の特徴構成によれば、上面視において樽状容器の上端カール部の内側でその上端カール部に対して遠近方向に移動する係合爪を備え、その係合爪が、上端カール部に近接する係合方向へ移動し上端カール部の内側に係合して樽状容器を吊り下げ搬送し、上端カール部から遠ざかる解除方向へ移動して上端カール部への係合を解除するように構成されているので、例えば、樽状容器の口部を外側から挟持して吊り下げ搬送する装置のように、口部の変形によるトラブルの発生を抑制し、樽状容器の溶接箇所に過度の負担を掛けることがなく、したがって、たとえ樽状容器内に飲料などが入れられていても、溶接部分への亀裂の発生を抑制して液漏れ発生を防止することができる。
そして、その上端カール部の内側に当接する当接部材が、係合爪の解除方向への移動時に、その係合爪の移動に対して相対的に係合方向へ移動するように設けられているので、例えば、上端カール部の変形によって、係合爪が上端カール部から外れ難い場合であっても、係合爪に対して相対的に係合方向へ移動する当接部材の作用により、係合爪は上端カール部から確実に外され、したがって、樽状容器が所定の載置位置からズレたり、転倒したり、あるいは、放り投げられるような事態の発生が防止される。
【0009】
本発明の第2の特徴構成は、前記係合爪が、複数個設けられ、前記当接部材が、それら複数個の係合爪のそれぞれと協働するように各係合爪の近傍に各別に設けられているところにある。
【0010】
本発明の第2の特徴構成によれば、係合爪が、複数個設けられているので、その複数個の係合爪を樽状容器の上端カール部に係合することによって樽状容器の吊り下げや搬送を安定良く確実に行うことができ、しかも、当接部材が、それら複数個の係合爪のそれぞれと協働するように各係合爪の近傍に各別に設けられているので、上端カール部に対する各係合爪の係合解除も確実に行うことができる。
【0011】
本発明の第3の特徴構成は、前記係合爪が、上面視において前記樽状容器の中心部を挟んで互いに対をなす状態で偶数個設けられ、その対をなす2個の係合爪において、一方の係合爪と協働する前記当接部材が他方の係合爪から延出され、前記他方の係合爪と協働する前記当接部材が前記一方の係合爪から延出されているところにある。
【0012】
本発明の第3の特徴構成によれば、係合爪が、上面視において樽状容器の中心部を挟んで互いに対をなす状態で偶数個設けられ、その対をなす2個の係合爪において、一方の係合爪と協働する当接部材が他方の係合爪から延出され、他方の係合爪と協働する当接部材が一方の係合爪から延出されているので、互いに対をなすように配置された2個の係合爪間において、各係合爪の本来の動きを有効に利用して、上端カール部からの係合爪の係合解除を合理的に行うことができる。
【0013】
本発明の第4の特徴構成は、前記係合爪が、上面視において前記樽状容器の周部にほぼ等間隔に設けられているところにある。
【0014】
本発明の第4の特徴構成によれば、係合爪が、上面視において樽状容器の周部にほぼ等間隔に設けられているので、係合爪による樽状容器の吊り下げや搬送をより一層安定良く確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による樽状容器用吊り下げ搬送装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
この吊り下げ搬送装置は、ビールなどを収納するための樽状容器を対象とするもので、その一例である3ピース構造の樽1は、図1に示すように、主としてステンレス製の板材により形成されていて、通常、上方の鏡板2、下方の底板3、周囲の側板4からなる3つの部品により構成され、鏡板2の中央には口部5が溶接により取り付けられている。
円筒状の側板4は、上下に分割されていて、その上方の側板4は、円筒状の上方スカート部6を一体的に備え、その上端に上端カール部6aが形成され、同様に、下方の側板4は、円筒状の下方スカート部7を一体的に備えて、その下端に下端カール部7aが形成されている。そして、上方スカート部6を備えた上方の側板4と鏡板2が溶接箇所Aで、下方スカート部7を備えた下方の側板4と底板3が溶接箇所Bで、さらに、上下の側板4が溶接箇所Cでそれぞれ溶接されて接続されている。
【0016】
本発明による吊り下げ搬送装置は、図2〜図4および図5に示すように、その搬送装置の装置本体8が、上述した樽1の上端カール部6aに係合する合計4個の係合爪9を備えていて、各係合爪9を上端カール部6aに係合させて樽1を吊り下げ、例えば、市場から回収した空樽1の場合には、パレットPからコンベヤC上へ、また、市場へ出荷するビールの入った実樽1の場合には、コンベヤCからパレットP上へ搬送するように構成されている。
合計4個の係合爪9は、図6に示すように、上面視において円形の樽1の中心部を挟んで互いに対向する2個ずつが対をなす状態で、かつ、上端カール部6aの内側において樽1の周部にほぼ等間隔に位置して、上端カール部6aに対して遠近方向に移動可能に構成されている。
【0017】
この係合爪9を移動させるための機構は、従来から知られている種々の移動機構を採用することができ、また、本発明の要旨でもないので、その移動機構に関する詳しい説明は省略するが、要するに、装置本体8に設けられた合計4個の係合爪9が、上端カール部6aの内側から上端カール部6aに近接する係合方向Xへ移動して上端カール部6aの内側に係合し、その状態で樽1を吊り下げて搬送し、その後、上端カール部6aから遠ざかる解除方向Yへ移動して上端カール部6aへの係合を解除するように構成されている。
そして、各係合爪9の横側方の近傍には、各係合爪9の解除方向Yへの移動時に、各係合爪9と協働するべく各係合爪9の移動に対して相対的に係合方向Xへ移動して、上端カール部6aの内側に当接する当接部材10aが各別に設けられ、さらに、各係合爪9の上方には、シリンダ11により上下昇降する押え部材12が設けられている。
【0018】
各当接部材10aは、長尺状の金属板10の先端を彎曲して形成され、その金属板10の基端部が、対向する係合爪9に溶接やボルトなどにより固定されている。
すなわち、互いに対をなす2個の係合爪9において、一方の係合爪9と協働する当接部材10aは、その金属板10の基端部が他方の係合爪9の上方部位に固定され、その他方の係合爪9と協働する当接部材10aは、その金属板10の基端部が一方の係合爪9の上方部位に固定されている。
要するに、各係合爪9の上方部位に固定された金属板10が、対をなす係合爪9側に向けて斜め下方に延出して、その先端の当接部材10aが、対をなす係合爪9の横側方の近傍に位置するように構成されている。
【0019】
つぎに、この吊り下げ搬送装置の作動について説明する。
例えば、ビールの入った実樽1をコンベヤC上からパレットP上へ吊り下げ搬送する場合であれば、図2および図5の(イ)に示すように、各係合爪9が中心側へ寄った状態、つまり、解除方向Yへ移動した状態で装置本体8が上方から下降し、各係合爪9が、上面視において円形の上端カール部6aの内側に位置して停止する。
つぎに、図5の(ロ)に示すように、各係合爪9が係合方向Xへ移動して、各係合爪9が上端カール部6aの内側下方に係合するとともに、図3に示すように、各押え部材12が下降して上端カール部6aを上方から押えつける。
【0020】
その後、装置本体8が上昇して樽1を吊り下げ、そのままパレットP上にまで搬送し、装置本体8が下降して、樽1をパレットP上に載置する。
つぎに、図4および図5の(ハ)に示すように、各押え部材12が上昇し、さらに、各係合爪9が解除方向Yへ移動して上端カール部6aへの係合を解除する。この係合爪9の解除方向Yへの移動時において、その係合爪9と協働する当接部材10aは、その金属板10の基端部が対向する係合爪9に固定されているので、図6の(ロ)から明らかなように、解除方向Yとは逆の係合方向Xへ移動することになる。
【0021】
したがって、例えば、4個のうちのひとつの係合爪9が上端カール部6aに引っ掛かり、解除方向Yへの移動に伴って樽1を解除方向Yへ引っ張ろうとしても、横側方に位置する当接部材10aが上端カール部6aの内側に当接して引っ張りを阻止するので、係合爪9は確実に上端カール部6aから外れる。
その後、装置本体8は上昇し、再びコンベヤC上の樽1の上方にまで戻って、同じ吊り下げ搬送を繰り返すことになる。
【0022】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、ひとつの装置本体8に対して4個の係合爪9を設けた例を示したが、装置本体8に設ける係合爪9の個数は任意であり、対象とする樽1の大きさや重さなどに応じて自由に変更することができる。
例えば、2個の係合爪9が互いに対をなすように配置して、装置本体8に係合爪9を2個または6個設けることもできる。さらに、必ずしも2個の係合爪9が互いに対をなすように配置する必要はなく、したがって、係合爪9は偶数個である必要はなく、5個あるいは3個設けることも、また、1個だけ設けて実施することもできる。
【0023】
(2)先の実施形態では、係合爪9が解除方向Yへ移動する際、その係合爪9と協働する当接部材10aが係合方向Xへ移動するように構成した例を示したが、当接部材10aについては、必ずしも積極的に係合方向Xへ移動させる必要はない。
例えば、当接部材10aを装置本体8に対して固定し、係合爪9の解除方向Yへの移動に伴って、当接部材10aがその係合爪9に対し相対的に係合方向Xへ移動するように構成して実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】樽の一部切欠き断面図
【図2】樽状容器用吊り下げ搬送装置の一部切欠き正面図
【図3】樽状容器用吊り下げ搬送装置の一部切欠き正面図
【図4】樽状容器用吊り下げ搬送装置の一部切欠き正面図
【図5】樽状容器用吊り下げ搬送装置の斜視図
【図6】樽状容器用吊り下げ搬送装置の要部を示す上面図
【符号の説明】
【0025】
1 樽状容器
6a 上端カール部
9 係合爪
10a 当接部材
X 係合方向
Y 解除方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面視において樽状容器の上端カール部の内側でその上端カール部に対して遠近方向に移動する係合爪を備え、その係合爪が、前記上端カール部に近接する係合方向へ移動し前記上端カール部の内側に係合して前記樽状容器を吊り下げ搬送し、前記上端カール部から遠ざかる解除方向へ移動して前記上端カール部への係合を解除するように構成されている樽状容器用吊り下げ搬送装置であって、
前記上端カール部の内側に当接する当接部材が、前記係合爪の前記解除方向への移動時に、その係合爪の移動に対して相対的に前記係合方向へ移動するように設けられている樽状容器用吊り下げ搬送装置。
【請求項2】
前記係合爪が、複数個設けられ、前記当接部材が、それら複数個の係合爪のそれぞれと協働するように各係合爪の近傍に各別に設けられている請求項1に記載の樽状容器用吊り下げ搬送装置。
【請求項3】
前記係合爪が、上面視において前記樽状容器の中心部を挟んで互いに対をなす状態で偶数個設けられ、その対をなす2個の係合爪において、一方の係合爪と協働する前記当接部材が他方の係合爪から延出され、前記他方の係合爪と協働する前記当接部材が前記一方の係合爪から延出されている請求項2に記載の樽状容器用吊り下げ搬送装置。
【請求項4】
前記係合爪が、上面視において前記樽状容器の周部にほぼ等間隔に設けられている請求項2または3に記載の樽状容器用吊り下げ搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−137505(P2006−137505A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326369(P2004−326369)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】