説明

橋梁除錆方法及び担持体固定具

【課題】作業環境が悪化しにくく、処理に伴う生成物の処分が比較的容易であり、また、除錆作業が比較的容易であり、錆を確実に除去できる橋梁除錆方法を提供すること。
【解決手段】
鋼製部材1に磁力で固着部30を固着し、鋼製部材1の表面を覆うように不織布5を設置し、固着部30に連結されたネジ棒31にネジ挿通孔41を挿通するように押えプレート4を配置し、ネジ棒31に螺着したナット32で押えプレート4を押圧して、不織布5を鋼製部材1と押えプレート4の間に挟持する。この後、9.5wt%の塩化水素を含むpH1の除錆液を、押えプレート4の供給孔42を通して不織布5に供給し、不織布5に除錆液を担持させて鋼製部材1の表面に安定して付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼製の橋梁に生じた錆を除去する橋梁除錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製橋梁では、部材の表面に塗膜を設けて腐食を防止しているが、気候や経時に伴う塗膜の劣化によって錆が生じる。そこで、鋼製橋梁の機能を保全するため、部材に生じた錆を除去する除錆を行い、この除錆の後に、部材を再塗装する補修方法が一般的に行われている。
【0003】
このような橋梁の補修作業における除錆の方法としては、従来、ケイ砂等で形成された研掃粒子を部材に吹き付けるブラストにより錆を除去する方法や、ディスクサンダーのような電動の砥石を部材に直接接触させて錆を除去する方法がある。
【0004】
ブラストによる除錆方法では、コンプレッサ及び研掃粒子タンクを搭載した作業車両を橋梁の近傍に設置し、この作業車両に接続したブラストホースを引き回して先端のノズルを対象の部材に対向させる。作業車両から圧送された研掃粒子をノズルから部材に向かって噴射し、研掃粒子の衝撃に伴う破壊作用により、錆を除去している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、電動砥石による除錆方法では、回転する円盤状の砥石を部材の錆に接触させ、砥石の研削作用により、錆を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−109029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ブラストや電動砥石による除錆方法では、錆の除去に伴って錆の粉末が生じるので、錆の粉末が飛散して作業環境が悪化する不都合や、周辺住民への環境対策が必要となる不都合や、作業領域の周辺に飛散した粉末を収集するのに手間がかかる不都合がある。また、収集した錆の粉末は、産業廃棄物として処分する必要があり、産業廃棄物としての金属酸化物の粉末の処分は、手間と費用がかかる不都合がある。
【0008】
また、上記ブラストによる除錆方法では、作業者が、ブラストホースに連なるノズルを把持して錆の発生位置に接近し、錆に研掃粒子を噴き付けるようにノズルを操作する必要がある。したがって、橋梁の桁端部や、桁と桁を連結する構造部のように多くの部材が密集する位置では、ブラストホースを牽きまわし難く、また、ノズルを錆に対して適切な方向に向ける作業を行い難い。すなわち、多くの部材が密集する位置における作業性が悪く、したがって、錆の除去が不十分になりやすい問題がある。
【0009】
また、上記電動砥石による除錆方法では、例えば複数の部材が突き合わされて形成された隅部や角部の奥のように、砥石が達しない箇所が存在するので、錆を確実に除去できない不都合がある。
【0010】
そこで、本発明の課題は、作業者の環境や周辺住民の環境が悪化しにくく、処理に伴う生成物の処分が比較的容易であり、また、除錆作業が比較的容易であり、錆を確実に除去できる橋梁除錆方法を提供することにある。また、橋梁の除錆に好適な担持体固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の橋梁除錆方法は、錆を化学的に分解する除錆液を、金属製の橋梁部材に付着させることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、錆を化学的に分解する除錆液を、金属製の橋梁部材に付着させることにより、この橋梁部材に存在する錆が分解されて除去される。したがって、ブラストや電動砥石による物理的な除錆方法のように錆の粉末が飛散することが無いので、錆の粉末による作業環境の悪化を防止できると共に、錆の粉末を収集及び処分する手間と費用を削除できる。また、橋梁部材に除錆液を付着させることができれば、錆を除去できるので、ブラストによる除錆方法のように、ブラストホースに連なるノズルを錆の位置まで牽きまわす作業や、ノズルを錆に向けて適切な方向に向ける作業が不要である。すなわち、例えば刷毛やローラ等を用いた除錆液の塗布により、比較的容易な作業で錆を除去できるので、作業性を向上できると共に、錆の取り残しを少なくできる。また、除錆液は液体であるから、橋梁部材の端部まで容易に付着可能であり、橋梁部材に付着すれば錆を分解できる。したがって、電動砥石による除錆方法のように、砥石が達しない箇所が生じて錆の除去が不十分となる不都合を防止でき、その結果、錆を確実に除去できる。
【0013】
ここで、上記錆を化学的に分解する除錆液は、金属酸化物を分解するのであれば、酸化還元反応や、溶解反応等種々の機序によるものを用いることができる。
【0014】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記除錆液が、pHが0.1以上3以下の酸性である。
【0015】
上記実施形態によれば、pHが0.1以上3以下の酸性の除錆液を用いることにより、例えば鋼製の橋梁部材に生じた錆である酸化鉄を、比較的短時間で効果的に除去できる。ここで、pHが0.1よりも少ないと、酸化作用が過剰となって母材を溶解する不都合が生じる。一方、pHが3よりも大きいと、除錆作用が弱くて錆が残留する不都合が生じる。さらに好ましくは、除錆液のpHは、母材への影響が少なく、かつ、効果的に錆を除去できる点で、1以上2以下である。
【0016】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記除錆液は、5wt%以上15wt%以下の塩化水素を含む。
【0017】
上記実施形態によれば、5wt%以上15wt%以下の塩化水素を含む除錆液により、橋梁に生じる比較的大量の錆を効果的に溶解して除去できる。なお、塩化水素の濃度が5wt%よりも小さい場合、除錆作用が弱くて錆が残留する不都合が生じる。一方、塩化水素の濃度が15wt%よりも大きい場合、酸化作用が過剰となって母材を溶解する不都合が生じる。
【0018】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記除錆液は、界面活性剤を含む。
【0019】
上記実施形態によれば、界面活性剤により、錆の溶解成分を橋梁部材の表面から効果的に離脱させることができるので、橋梁部材から錆を効果的に除去できる。
【0020】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記除錆液は、洗浄助剤を含む。
【0021】
上記実施形態によれば、洗浄助剤により、錆の溶解成分の再付着を防止できる。また、洗浄助剤と共に界面活性剤を含む場合には、界面活性剤の効果を促進できる。したがって、橋梁部材から錆を効果的に除去できる。
【0022】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記橋梁部材に担持体を配置し、この担持体に上記除錆液を担持させて上記橋梁部材に除錆液を付着させる。
【0023】
上記実施形態によれば、担持体を橋梁部材に配置し、この担持体に除錆液を担持させることにより、除錆液を橋梁部材に安定して付着させることができる。特に、橋梁部材が傾斜面や鉛直面や下向きの水平面を有する場合、除錆液を担持させた担持体を用いることにより、除錆液を安定して上記面に付着させることができる。ここで、上記担持体としては、織物や不織布等の繊維や、スポンジ等の多孔体を用いることができる。
【0024】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記橋梁部材に磁力で固着される固着部と、この固着部に連結され、上記橋梁部材の表面との間に担持体を挟持する挟持隙間を形成する挟持部材と、この挟持部材で挟持される担持体に除錆液を供給するための供給部とを有する固定具により、上記橋梁部材に担持体を固定する。
【0025】
上記実施形態によれば、固定具の固着部が、橋梁部材に磁力で固着されることにより、上記橋梁部材の所望の位置に固定具が固定される。上記固着部が橋梁部材に固着されるに伴い、固定具の挟持部材と橋梁部材との間に形成される挟持隙間に担持体が挟持されることにより、担持体が橋梁部材の表面に容易に固定される。さらに、供給部を通して担持体に除錆液が供給されることにより、橋梁部材の表面に固定された担持体に除錆液を担持させて、安定して橋梁部材の表面に除錆液が付着する。このように、上記固定具を用いることにより、橋梁部材に容易に担持体を固定でき、しかも、除錆液を橋梁部材に安定して付着させることができる。その結果、比較的簡易な作業により、効果的に橋梁部材の除錆を行うことができる。
【0026】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記橋梁の支承を取り囲む除錆槽を設置し、この除錆槽内に上記除錆液を投入して上記支承を構成する部材に除錆液を付着させる。
【0027】
上記実施形態によれば、橋梁の支承を取り囲む除錆槽を設置し、この除錆槽内に除錆液を投入することにより、支承は複数の鋼製の部材が組み合わされて構成されているにもかかわらず、支承の全体に除錆液を付着させることができる。したがって、ブラストや電動砥石で除錆を行う場合のように、支承の部材間の狭隘部に対して錆の除去が不十分になる不都合を防止できる。
【0028】
一実施形態の橋梁除錆方法は、上記除錆液を付着させた橋梁部材を、摺擦手段で摺擦する。
【0029】
上記実施形態によれば、除錆液を付着させた橋梁部材を摺擦手段で摺擦することにより、上記橋梁部材の錆を効果的かつ確実に除去することができる。
【0030】
本発明の担持体固定具は、金属製の橋梁部材に、除錆液を担持するための担持体を固定する固定具であって、
上記橋梁部材に磁力で固着される固着部と、
上記固着部に連結され、上記橋梁部材の表面との間に担持体を挟持する挟持隙間を形成する挟持部材と、
上記挟持部材で挟持される担持体に除錆液を供給するための供給部と
を備える。
【0031】
上記構成によれば、固着部が橋梁部材に磁力で固着されることにより、上記橋梁部材の所望の位置に担持体固定具が固定される。上記固着部が橋梁部材に固着されるに伴い、挟持部材と橋梁部材との間に形成される挟持隙間に担持体が挟持されることにより、担持体が橋梁部材の表面に容易に固定される。さらに、供給部を通して担持体に除錆液が供給されることにより、橋梁部材の表面に固定された担持体に除錆液を担持させて、安定して橋梁部材の表面に除錆液が付着する。上記担持体としては、織物や不織布等の繊維や、スポンジ等の多孔体を用いることができる。このように、上記担持体固定具によれば、橋梁部材に容易に担持体を固定でき、しかも、除錆液を橋梁部材に安定して付着させることができる。その結果、比較的簡易な作業により、効果的に橋梁部材の除錆を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の橋梁除錆方法により橋梁部材の除錆を行う様子を示す断面図である。
【図2】担持体固定具の固着具を示す正面図である。
【図3】担持体固定具の挟持部材を示す平面図である。
【図4A】橋梁の主桁を構成する鋼製箱桁の端部の除錆を行う様子を示す横断面図である。
【図4B】鋼製箱桁の端部の除錆を行う様子を示す縦断面図である。
【図4C】鋼製箱桁の端部の除錆を行う様子を示す平断面図である。
【図5】角部に固定される担持体固定具を示す断面図である。
【図6】角部に固定される担持体固定具の挟持部材を示す斜視図である。
【図7A】他の鋼製箱桁の主桁接合部を示す横断面図である。
【図7B】他の鋼製箱桁の主桁接合部を示す縦断面図である。
【図7C】鋼製部材の添接部を示す断面図である。
【図8】添接部に担持体固定具が設置された様子を示す断面図である。
【図9A】支承に除錆槽を設置した様子を示す平面図である。
【図9B】支承に除錆槽を設置した様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の橋梁除錆方法の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
本実施形態の橋梁除錆方法は、酸性を呈する除錆液を用いて、鋼製の橋梁部材に生じた錆を除去する。除錆液は、9.5wt%の塩化水素を含み、pH1の酸性を呈する。また、除錆液は、界面活性剤及び洗浄助剤を含む。界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩を用いることができる。洗浄助剤としては、アルミノケイ酸塩等の金属封鎖及び分散助剤や、硫酸ナトリウム等の界面活性助剤を添加することができる。
【0035】
上記除錆液を、錆が生成された橋梁部材に付着させ、錆を溶解して除去する。橋梁部材への除錆液の付着は、刷毛やローラ等を用いた塗布や、担持体を用いた接触や、液槽を用いた浸漬により行うことができる。
【0036】
図1は、担持体を用いて、橋梁部材に除錆液を付着させる様子を示した断面図である。図1に示すように、橋梁の鋼製部材1の表面に担持体としての合成繊維の不織布5を配置し、この不織布5に除錆液を担持させている。
【0037】
不織布5の合成繊維は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及び、アクリル等で形成されたものを用いることができる。また、セルロース等の植物由来の繊維を混合してもよい。さらに、担持体は、不織布に限られず、原綿状の繊維塊であってもよく、また、合成繊維や天然繊維の織物でもよい。また、担持体は、繊維の他に、スポンジ等の多孔体を用いてもよい。
【0038】
不織布5は、担持体固定具3により鋼製部材1に固定されている。担持体固定具3は、鋼製部材1に固着される固着部30と、固着部30に連結されたネジ棒31と、ネジ棒31に螺合するナット32と、ナット32により固定される挟持部材としての押えプレート4で構成されている。
【0039】
固着部30は磁石が内蔵され、図2に示すように、鋼製部材1に磁力で固着される。固着部30を鋼製部材1に固着させる際の磁石機能の発揮と、固着部30を鋼製部材1から離脱させる際の磁石機能の消滅は、スイッチにより、機械的又は電気的に切り替え自在に形成するのが好ましい。この場合、磁石機能の発揮と消滅は、磁石と鋼製部材1との間に、スイッチに連結された遮蔽体を配置し、或いは、スイッチで磁石を鋼製部材1に対して接離駆動して実現することができる。また、固着部30に電磁石を内蔵し、電磁石の励磁をスイッチで電気的に切り替えてもよい。
【0040】
押えプレート4は樹脂製の板状体で形成され、図3に示すように、ネジ棒31が挿通されるネジ挿通孔41,41と、不織布5に除錆液を供給する供給部としての供給孔42,42,・・・が設けられている。
【0041】
この担持体固定具3の固着部30を、鋼製部材1の錆の生成位置に配列して固着させ、鋼製部材1の表面を覆うように不織布5を設置する。この後、不織布5の表面に、ネジ棒31が押えプレート4のネジ挿通孔41,41を挿通するように、押えプレート4を設置する。次いで、押えプレート4の挿通孔41,41から突出するネジ棒31にナット32を螺合し、ナット32で押えプレート4を押圧して、不織布5を鋼製部材1と押えプレート4の間に挟持する。この後、押えプレート4の供給孔42を通して、除錆液を不織布5に供給する。これにより、不織布5に除錆液が担持され、この除錆液が鋼製部材1の表面に安定して付着する。こうして、鋼製部材1の表面に除錆液が安定して付着するので、鋼製部材1の表面の錆が効果的に溶解する。錆が溶解した後、担持体固定具3を鋼製部材1から離脱し、不織布5を鋼製部材1の表面から除去する。ここで、担持体固定具3は固着部30の磁力で鋼製部材1に固着しているが、切り替えスイッチにより磁石機能を消滅させれば、鋼製部材1の表面から容易に離脱する。不織布5を除去した後に鋼製部材1の表面に残留した除錆液を洗浄除去すると、除錆作業が完了する。なお、不織布5を除去した後に、鋼製部材1の表面に除錆液が残留した状態で、摺擦手段としてのブラシで摺擦してもよい。除錆液が残留した鋼製部材1の表面をブラシで摺擦することにより、鋼製部材1の表面の錆を効果的に除去することができる。
【0042】
このように、担持体固定具3で固定した不織布5に除錆液を担持させて鋼製部材1に付着させるので、鋼製部材1が、傾斜面や鉛直面や下向きの水平面を有する場合であっても、除錆液を安定して鋼製部材1に付着させることができ、鋼製部材1の錆を効果的に除去することができる。なお、担持体固定具3で不織布5を固定する面が、傾斜面や鉛直面や下向きの水平面である場合、不織布5から除錆液がある程度流下するので、押えプレート4の供給孔42を通して除錆液を補充するのが好ましい。
【0043】
また、担持体固定具3は、固着具30の磁力で鋼製部材1に固定されるので、鋼製部材1に容易に着脱できる。したがって、除錆作業の容易化を図ることができる。また、鋼製部材1に担持体固定具3で不織布5を固定し、この不織布5に除錆液を供給して除錆を行うことができるので、ブラストによる除錆方法のように、比較的大きな機器を搬入してブラストホースに連なるノズルを錆に向けて研掃粒子を吹き付けるよりも、簡易な作業で除錆を行うことができる。したがって、除錆作業の容易化を図ることができる。さらに、除錆液により錆を分解して除去するので、ブラストや電動砥石を用いる場合のように錆の粉塵が生じることが無い。したがって、周辺住民の環境や作業員の環境を従来よりも向上できる。
【0044】
図4A乃至4Cは、本実施形態の橋梁除錆方法を、橋梁の主桁を構成する鋼製箱桁の端部に適用した様子を示す図である。主桁端部は、床版の相互間を接続するジョイントから漏れた雨水や凍結防止剤が付着するため、橋梁の防食対策上、重要な箇所である。
【0045】
図4Aは鋼製箱桁の端部の横断面図であり、図4Bは図4AのA−A線に沿う鋼製箱桁の端部の縦断面図であり、図4Cは図4BのB−B線に沿う鋼製箱桁の端部の平断面図である。
【0046】
この鋼製箱桁10は、道路橋の床版を支持する構成の桁であり、鉛直方向に延在する2つの腹材11と、腹材11の上端に固定された上フランジ12と、腹材の下端に固定された下フランジ13で主要部が構成されている。鋼製箱桁10の端部には、橋軸直角方向に延在する端ダイヤフラム14が配置され、端ダイヤフラム14には、検査や補修等の目的で係員が出入するためのマンホール14aが設けられている。上フランジ12と下フランジ13には、桁の内部に望む側に、橋軸方向に延びる補強用の縦リブ15,16が夫々設けられている。鋼製箱桁10の橋軸方向の端部であって、幅方向の両側には、下フランジ13の底面に、ソールプレート23,23が設けられている。ソールプレート23,23は、支承による支持位置に配置され、下フランジ13の幅方向の両側に溶接されて配置され、支承と下フランジ13の中間の応力分散保持材として配置されている。下フランジ13とソールプレート23及び支承とが、ボルト24,24,・・・によって一体化されている。鋼製箱桁10の内側には、ソールプレート23,23の上方に位置して端ダイヤフラム14に沿って鉛直方向に延在する内側支点上補剛材17,17が設けられている。また、鋼製箱桁10の内側には、腹材11に沿って水平方向に延在する水平補剛材18,18と、腹材11に沿って鉛直方向に延在する垂直補剛材19,19が設けられている。更に、鋼製箱桁10の内側には、鋼製箱桁10の断面形状を箱型に保持することを主目的とする中間ダイヤフラム20が設けられている。一方、鋼製箱桁10の外側には、ソールプレート23,23の上方に位置して端ダイヤフラム14に沿って鉛直方向に延在する外側支点上補剛材21,21と、ソールプレート23,23の上方に位置して腹材11に沿って鉛直方向に延在する支点上補強リブ22,22が設けられている。
【0047】
この鋼製箱桁10は、他の鋼製箱桁10と連続して橋脚に支持され、あるいは、橋台に支持される。鋼製箱桁10が支持する床版の端部には、他の床版や橋台と接続する継手が設けられるので、この継手から流れ落ちる雨水や凍結防止剤により、鋼製箱桁10の端部に錆が生成されやすい。この鋼製箱桁10の端部は、他の鋼製箱桁10の端部や橋台に近接して配置されるので、除錆作業を行うスペースが狭い。このように、錆が生成されやすく、しかも、作業スペースの狭い鋼製箱桁10の端部においても、本実施形態の除錆方法によれば、担持体固定具3で不織布5を鋼製箱桁10に固定し、不織布5に除錆液を担持させることにより、比較的容易かつ効果的に除錆を行うことができる。
【0048】
また、担持体固定具3は、固着部30の磁力により鋼製箱桁10に容易に固着することができ、担持体固定具3の押えプレート4は、不織布5の設置領域に応じて所望の寸法に設定できる。したがって、本実施形態によれば、鋼製箱桁10の所望の範囲に容易に除錆液を付着させ、除錆を行うことができる。
【0049】
また、本実施形態の橋梁除錆方法によれば、不織布5に除錆液を担持させて鋼製箱桁10の鋼製部材に付着させるので、端ダイヤフラム14と下フランジ13との隅部や、下フランジ13の表面に突出する複数のボルト24,24,・・・の周辺部等のように、ブラストや電動砥石では十分に錆を除去できなかった部位の錆を、効果的に除去することができる。
【0050】
特に、本実施形態の橋梁除錆方法は、角部に不織布5を固定する角部用プレート6を用いることにより、例えば腹材11と下フランジ13と端ダイヤフラム14との間等に形成される角部に、効果的に除錆液を付着させることができる。図5は、角部に固定される担持体固定具としての角部用プレート6を示す断面図であり、図6は、角部用プレート6を示す斜視図である。図5及び6に示すように、角部用プレート6は、3つの平面が互いに略直角をなすように連結された形状を有し、各平面に固着部30のネジ棒31が挿通されてナット32で固定されるネジ挿通孔61,61,・・・と、各平面の境界に沿って除錆材の供給孔62,62,・・・が設けられている。この角部用プレート6を、この角部用プレート6の平面が、角部を形成する橋梁の鋼製部材の平面に沿うように配置することにより、この角部用プレート6と橋梁の鋼製部材との間に不織布5を安定して固定することができる。この不織布5に角部用プレート6の供給孔62,62,を通して除錆液を供給することにより、橋梁の角部に安定して除錆液を付着することができる。したがって、ブラストや電動砥石では錆の除去が不十分になりやすい角部においても、効果的に錆を除去することができる。
【0051】
また、本実施形態の橋梁除錆方法に用いる担持体固定具3は、固着部30及びネジ棒31と、ナット32と、押えプレート4に容易に分解及び組み立てができ、また、不織布5は比較的軽量である。したがって、鋼製箱桁10の内部に、マンホール14aを通して担持体固定具3の部品及び不織布5を容易に搬入し、鋼製箱桁10の内側に形成された錆の生成箇所に、不織布5を担持体固定具3で容易に固定することができる。その結果、ブラストや電動砥石による除錆方法では機器の搬入及び作業が困難であった鋼製箱桁10の内側においても、比較的容易に除錆作業を行うことができる。
【0052】
図7Aは、本実施形態の橋梁除錆方法を適用する他の鋼製箱桁の主桁接合部を示す横断面図であり、図7Bは、図7AのC−C線に沿う鋼製箱桁の主桁接合部を示す縦断面図である。
【0053】
この鋼製箱桁の主桁接合部110は、主要な構成部材である母材としての腹材111,111と上フランジ112と下フランジ113が、添接板116,117,118,119,120によって橋軸方向に接続されている。この添接板による接続部である添接部には、図7Cに示すように多数のボルトが固定されているが、母材と添接板116,117,118,119,120との間の隙間や、母材相互間の隙間や、各部材のボルト穴を通した漏水があり、更に、ボルトで表面に凹凸が多く形成され、この凹凸の周辺に漏水や内部結露水が滞留して錆が形成されやすい。
【0054】
なお、図7A及び7Bにおいて、114は上フランジ112の縦リブであり、115は下フランジ113の縦リブであり、116と117は上フランジ112の外側と内側に配置されて上フランジ112,112を接続する添接板であり、118と119は下フランジ113の外側と内側に配置されて下フランジ113,113を接続する添接板であり、120は腹材111の外側と内側に配置されて腹材111,111を接続する添接板である。また、121はボルトの中心軸を示し、中心軸のみを記載してボルトの図示は省略している。
【0055】
この鋼製箱桁の主桁接合部110に設けられた添接部の除錆を行う場合、図8に示すように、鋼製箱桁の主桁接合部110の内側と外側の添接板120,120を覆うように、担持体固定具3で不織布5を挟持する。ここで、担持体固定具3を固着部30の磁力で添接板120に固定し、また、ネジ棒31のナット32で押えプレート4を不織布5に押圧するので、添接板120を固定するボルト122や座金123やナット124で凹凸が形成されているにもかかわらず、担持体固定具3を容易に固定して不織布5を添接部に密着させることができる。したがって、不織布5に除錆液を供給することにより、除錆液を添接部に十分に付着させて効果的に除錆を行うことができる。
【0056】
次に、本実施形態の橋梁除錆方法により、橋梁の支承を除錆する場合を説明する。橋梁の支承は、橋脚や橋台に設置されて桁を支持するものであり、支承版やローラ等の複数の鋼製部材で構成されると共に、橋脚又は橋台と桁との間の比較的狭い空間に設置される。本実施形態の橋梁除錆方法では、図9Aの平面図に示すように、橋脚又は橋台の上に、支承15を取り囲む液槽7を形成する。
【0057】
液槽7は、図9Aの平面図及び図9Bの断面図に示すように、平面における四隅に立設されて山形鋼で形成された支柱72,72,72,72と、支柱72,72,72,72の間に固定された側板71,71,71,71と、側板71と支柱72と橋脚又は橋台の表面との間の隙間を充填する充填材73で形成される。この液槽7は、橋脚又は橋台の表面に、支柱72,72,・・・を立設して側板71,71,・・・を固定し、充填材73を設置することにより容易に作製することができる。
【0058】
この液槽7内に除錆液を投入し、支承15を除錆液に浸漬して、支承15に除錆液を付着させる。支承15を除錆液に浸漬して所定時間が経過すると、除錆液を液槽7から排出し、支承15を洗浄して除錆液を除去した後、液槽7を解体して撤去する。なお、支承15が除錆液に浸漬した状態や、支承15に除錆液が残留した状態で、支承15の表面をブラシ等の摺擦手段で摺擦してもよい。
【0059】
このように、支承15は構成部品が比較的多く、また、桁や橋脚や橋台に近接して設置されて作業空間が狭いにもかかわらず、液槽7を作製して支承15を除錆液に浸漬することにより、支承15の全体に除錆液を付着させることができる。したがって、ブラストや電動砥石を用いた従来の除錆方法よりも、容易かつ効果的に除錆を行うことができる。
【0060】
上記実施形態では、橋梁の構成部品としての鋼製箱桁10、鋼製箱桁の主桁接合部110及び支承15の除錆を行ったが、本発明の橋梁除錆方法は、床版やトラス部材等の他の橋梁部材についても適用可能である。
【0061】
また、上記実施形態において、担持体固定具3で不織布5を鋼製部材1、鋼製箱桁10及び鋼製箱桁の主桁接合部110に担持体固定具3を用いて固定したが、他の固定具で不織布5を固定してもよい。また、水平な橋梁部材に除錆液を接触させる場合や、除錆液の接触が短時間でよい場合等には、不織布5を橋梁部材の表面に単に配置するのみでもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、除錆液として、9.5wt%の塩化水素を含んでpH1の酸性を呈するものを用いたが、塩化水素の濃度は5wt%以上15wt%以下の範囲で適宜設定可能である。また、除錆液のpHは、0.1以上3以下の範囲で適宜設定可能であり、1以上2以下が特に好ましい。また、塩化水素水溶液以外に、硫酸、硝酸、リン酸を含んでもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、塩化水素を含む酸性の除錆液を用いたが、例えばチオグリコール酸又はチオグリコール酸塩を含む中性の除錆液を用いてもよい。中性の除錆液を用いることにより、橋梁部材の鋼部分の劣化や、コンクリート部材の劣化を防止しながら、錆を分解して除去することができる。ここで、上記中性の除錆液としては、チオグリコール酸アンモニウム30.5wt%、希釈材としてメチルメトキシブタノール14.5wt%、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル0.7wt%、金属イオン封鎖剤0.3wt%、及び、水54wt%で形成されたものを用いることができる。なお、除錆液は、チオグリコール酸アンモニウムを25wt%以上35wt%以下、メチルメトキシブタノールを10wt%以上20wt%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを0.1wt%以上5wt%、金属イオン封鎖剤を0.3wt%以上1wt%、水を64.6wt%以上39wt%以下の所望の割合で混合して形成することができる。また、チオグリコール酸アンモニウム以外に、ジチオジグリコール酸ジアンモニウムやチオグリコール酸を用いてもよい。また、希釈材及び界面活性剤は、他の物質を用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 鋼製部材
3 担持体固定具
4 押えプレート
5 不織布
30 固着部
31 ネジ棒
32 ナット
41 ネジ挿通孔
42 供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錆を化学的に分解する除錆液を、金属製の橋梁部材に付着させることを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項2】
上記除錆液が、pHが0.1以上3以下の酸性であることを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項3】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記除錆液は、5wt%以上15wt%以下の塩化水素を含むことを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項4】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記除錆液は、界面活性剤を含むことを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項5】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記除錆液は、洗浄助剤を含むことを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項6】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記橋梁部材に担持体を配置し、この担持体に上記除錆液を担持させて上記橋梁部材に除錆液を付着させることを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項7】
請求項6に記載の橋梁除錆方法において、
上記橋梁部材に磁力で固着される固着部と、この固着部に連結され、上記橋梁部材の表面との間に担持体を挟持する挟持隙間を形成する挟持部材と、この挟持部材で挟持される担持体に除錆液を供給するための供給部とを有する固定具により、上記橋梁部材に担持体を固定することを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項8】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記橋梁の支承を取り囲む除錆槽を設置し、この除錆槽内に上記除錆液を投入して上記支承を構成する部材に除錆液を付着させることを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項9】
請求項1に記載の橋梁除錆方法において、
上記除錆液を付着させた橋梁部材を、摺擦手段で摺擦することを特徴とする橋梁除錆方法。
【請求項10】
金属製の橋梁部材に、除錆液を担持する担持体を固定するための固定具であって、
上記橋梁部材に磁力で固着される固着部と、
上記固着部に連結され、上記橋梁部材の表面との間に担持体を挟持する挟持隙間を形成する挟持部材と、
上記挟持部材で挟持される担持体に除錆液を供給するための供給部と
を備える担持体固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2013−19162(P2013−19162A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153082(P2011−153082)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(508061549)阪神高速技術株式会社 (20)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】