説明

機器劣化評価支援方法及び機器劣化評価支援装置

【課題】機器の異常を早期に発見する。
【解決手段】機器劣化評価支援装置1は、初期音響データを測定し、記憶する(S401)。定期的に現在音響データを測定し、記憶する(S402)。初期音響データと、現在音響データとを比較し、異なっているパターンを抽出し、予兆パターンの候補として記憶する(S403)。候補が抽出されなければ(S404のNO)、現在音響データを測定し直す(S402)。候補が抽出されれば(S404のYES)、サポートベクトルマシンを使い、正常パターン及び候補を識別する識別関数を設定する(S405)。識別関数を用いて候補と同一パターンの発生頻度の、現在音響データにおける変化傾向を把握する(S406)。発生頻度が増加傾向であれば(S407のYES)、候補を予兆パターンとして記憶する(S408)。予兆パターンの発生頻度を詳細に把握し(S409)、監視対象機器の劣化状況を評価する(S410)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器が発する音響に基づいて、機器の劣化評価を支援する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音響診断は、診断の基となる音情報が「点(スポット)」ではなく、「面(ゾーン)」情報であるため、全体的・立体的・網羅的に機器の状態を把握できること、また、音情報が非接触で収集可能であるため、機器を停止する必要がなく、安全性及び効率性に優れていることから、様々な機器のメンテナンスに利用されている。一方、上記に述べた利点の裏を返せば、音響診断には、機器・設備の劣化や変調から発生する音以外の雑音も取り込んでしまうという欠点がある。そこで、音響診断の際に雑音を排除するための様々な方法が開発されている。例えば、監視対象となる機器の正常音を基にフィルタを作製し、その正常音と、診断時の機器の音との差分から異常を判断する方法がある(図5及び非特許文献1の38ページ「3.2 逆フィルタ法」を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】堀田洋、“音響診断技術とその活用事例”、[online]、2004年2月、株式会社山武アドバンスオートメーションカンパニー、[平成22年1月12日検索]、インターネット<http://jp.yamatake.com/corp/rd/tech/review/pdf/2004_2/2004_2_06.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機器劣化の初期段階に発生する予兆のレベルはそれほど大きいものではなく、また、その予兆の発生頻度も非常に低いことが多い。そのため、従来の方法による診断では、雑音に混じってわずかなレベルで低頻度に発生する予兆を見落とす可能性があった(例えば、図2(b)経過時間t2の識別イメージを参照)。
【0005】
逆に言えば、音響診断を用いて機器の異常を確実に検知できるのは、予兆パターンが断続的に発生するか、又は、正常音とは明確に異なる異常パターンが発生する段階に入ってからであった。しかし、そのような段階では、既に機器の損傷が大きくなっているため、修理不可により機器の取替が必要だったり、修理可能であっても多大なコストがかかったりすることが多かった(例えば、図2(b)経過時間t5の周波数スペクトルを参照)。従って、初期段階の予兆を検知することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、機器の異常を早期に発見することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、記憶部と、処理部とを備えるコンピュータにより、機器の劣化評価を支援する機器劣化評価支援方法であって、前記記憶部が、過去における稼動開始から劣化までの前記機器の音響を測定した過去音響データと、直近の稼動開始時に前記機器の音響を測定した初期音響データと、直近の稼動開始から所定時間後に前記機器の音響を測定した現在音響データと、を記憶し、前記処理部が、前記初期音響データと、前記現在音響データとを比較し、前記初期音響データと異なるパターンを前記現在音響データから抽出し、抽出したパターンを予兆パターン候補として前記記憶部に記憶するステップと、前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数し、当該予兆パターン候補の発生頻度が時間の経過とともに増加する傾向であるか否かを判定するステップと、前記予兆パターン候補の発生頻度が増加する傾向である場合に、前記予兆パターン候補を予兆パターンとして前記記憶部に記憶するステップと、前記過去音響データにおける前記予兆パターンの発生頻度を計数し、当該予兆パターンの発生頻度の時間的変化に基づいて、前記機器の劣化度合いの時間的変化を示す機器劣化曲線データを作成するステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、機器が異常に至る前の予兆の時間的変化を把握して、機器劣化曲線を作成することにより、機器の劣化状況を評価できるので、機器の異常を早期に発見し、重大な故障を予防することができる。また、機器劣化曲線により、低コストで修理が可能なぎりぎりの時期を特定できるので、機器のメンテナンスを効率よく行うことができ、ひいては、機器の運用コストを低減することができる。
【0009】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記パターンが、前記過去音響データ、前記初期音響データ及び前記現在音響データに含まれる、所定の周波数帯域における入力音響レベルの波形データであることとしてもよい。
【0010】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記記憶部が、パターン識別手法を実現するプログラムをさらに記憶し、前記処理部が、前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数する際に、前記プログラムに対して、前記初期音響データに含まれる正常パターンと、前記現在音響データに含まれる前記予兆パターン候補とを入力することにより、前記正常パターンと、前記予兆パターン候補とを識別する識別関数を生成するステップと、前記識別関数を用いて、前記現在音響データにおいて前記予兆パターン候補と同一であると認識されたパターンの発生頻度を所定時間帯ごとに計数するステップと、をさらに実行することとしてもよい。
【0011】
この方法によれば、抽出した予兆パターン候補と全く同じパターンでなくても、識別関数により「予兆」と認識されたパターンをカウントするので、わずかな予兆を逃すことなく検出できる。これによれば、精度よく機器の劣化を評価することができる。
【0012】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記プログラムが、サポートベクトルマシンであることとしてもよい。
【0013】
なお、本発明は、機器劣化評価支援装置を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機器の異常を早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】機器劣化評価支援装置1のハードウェア構成を示す図である。
【図2】機器の劣化について説明するための図であり、(a)は機器劣化曲線を示し、(b)は機器劣化に伴って発生する、機器異常に至る兆候である予兆パターンを示す。
【図3】機器劣化評価支援装置1の記憶部15に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は事前データ15Aの構成を示し、(b)は処理データ15Bの構成を示す。
【図4】機器劣化評価支援装置1の処理を示すフローチャートである。
【図5】正常音と、診断時の機器の音との差分から異常を判断する従来の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る機器劣化評価支援装置は、まず、監視対象の機器から測定した音響データから予兆パターン候補を抽出し、次に、予兆パターン候補の発生頻度の変化傾向を把握し、その発生頻度が増加傾向であれば、当該予兆パターン候補を予兆パターンとして決定し、そして、過去の稼動開始から劣化に至るまでの音響データから予兆パターンの発生頻度を計数し、その発生頻度の時間的変化から機器の劣化状況を把握するものである。
【0017】
予兆パターン候補を抽出する際には、サポートベクトルマシン等のパターン認識手法を使うことにより、正常パターンと、予兆パターン候補とを識別する関数(識別関数)を導き出し、その識別関数により、機器劣化の初期段階に低頻度で発生している予兆パターン候補を発見する。一般に、サポートベクトルマシンを使うと、識別関数及びその識別関数により識別された離散値が得られる。
【0018】
上記によれば、予兆パターンを決定し、過去の音響データにおける予兆パターンの発生頻度の時間的変化から、機器の劣化状況を把握することにより、機器の異常を早期に発見することができる。対象機器の例としては、タービン、回転機、発電機等に適用することができ、例えば、ブレードの摩耗の評価にも適用できる。
【0019】
≪装置の構成と概要≫
図1は、機器劣化評価支援装置1のハードウェア構成を示す図である。機器劣化評価支援装置1は、音響測定部11、表示部12、入力部13、処理部14及び記憶部15を備え、各部がバス16を介してデータを送受信可能なように接続されている。音響測定部11は、監視対象の機器から発する音響を測定する部分であり、例えば、マイクロフォン等によって実現される。表示部12は、処理部14からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部13は、オペレータがデータ(例えば、音響データの測定間隔等)を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。処理部14は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、機器劣化評価支援装置1全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部15は、処理部14からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0020】
≪機器の劣化について≫
図2は、機器の劣化について説明するための図である。図2(a)には、横軸を経過時間とし、縦軸を劣化度合いとする座標平面に機器劣化曲線が描かれている。そして、機器の稼動開始からの経過時間がt1からt5へ進むにつれて、機器劣化曲線の傾きが徐々に急になっている。例えば、経過時間がt3の時に点検を行うと、頻繁に機器を停止しなければならないので、運用コストがかかってしまう。また、経過時間t5の時に点検を行ったのでは、劣化度合いが低コストで修理可能な範囲である修理限界を超えるので、大幅な修理が必要になり、このタイミングでも運用コストがかかってしまう。そこで、修理限界前のぎりぎりのところである、経過時間t4を過ぎたあたりに機器の修理を行うことが望ましい。なお、修理限界を決める際には、機器劣化曲線は予兆パターン(詳細は後記)の発生頻度曲線に対応するので、実際に修理限界の状態に至った予兆パターンの発生頻度に対応する劣化度合いを修理限界とする。
【0021】
図2(b)は、機器劣化に伴って発生する、機器異常に至る兆候である予兆パターンを示し、詳細には、経過時間t1〜t5ごとに周波数スペクトル及び識別関数による識別イメージを示す。周波数スペクトルは、横軸を周波数とし、縦軸を入力音響レベルとするグラフにより示される。なお、必ずしも周波数スペクトルでなくてもよく、測定した波長データそのものでもよい。識別関数による識別イメージでは、予兆パターンを表す●(黒丸)と、正常パターンを表す○(白丸)とが、識別関数を表す線分により区分けされている。この識別イメージでは、簡略のため二次元のグラフが示されているが、実際にはn次元の空間が識別関数(識別面)によって二分されることになる。
【0022】
なお、パターンとは、所定の周波数帯域における入力音響レベル[dB]の波形パターンをいい、例えば、入力音響レベルが所定値以上(又は、所定の範囲)の部分をいう。また、パターンの発生頻度とは、所定期間(例えば、1日)に定期的に(例えば、5分おきに)機器の音響を測定したときに、その測定データの中にパターンが出現する回数をいう。
【0023】
経過時間t1の時には、各周波数帯域の入力音響レベル[dB]がほぼ同じであり、特に変わった兆候は見られない。経過時間t2の時には、特定の周波数帯域に非常に低い頻度で予兆パターンが現れる。経過時間t3及びt4の時には、機器劣化の進展に伴って、正常パターンの発生頻度が低くなり、予兆パターンの発生頻度が徐々に高くなってくる。経過時間t5の時には、機器劣化がかなり進展して異常に至り、予兆パターンの発生頻度が高くなる。また、予兆パターンとは異なる異常パターン(例えば、異なる周波数帯域で入力音響レベルが高い状態)が現れることがある。
【0024】
上記のような予兆パターンの出現状況を把握し、機器の劣化状況を評価する方法について、以下に説明する。
【0025】
≪データの構成≫
図3は、機器劣化評価支援装置1の記憶部15に記憶されるデータの構成を示す図である。図3(a)は、事前データ15Aの構成を示す。事前データ15Aは、実際に機器の劣化状態を監視する前に予め準備されるデータであり、サポートベクトルマシン15A1及び過去音響データ15A2を含む。サポートベクトルマシン15A1は、パターン識別手法を実現するプログラムの1つであり、予兆パターンと、正常パターンとの組合せデータを多数入力すると、予兆パターンと、正常パターンとを識別するための関数(識別関数)を生成する。過去音響データ15A2は、過去において機器ごとに稼動開始から劣化までの音響データを記録したものであり、決定した予兆パターンの発生頻度曲線を求めるために用いられる。
【0026】
図3(b)は、処理データ15Bの構成を示す。処理データ15Bは、機器の劣化状態を監視する処理において生成及び参照されるデータであり、初期音響データ15B1、現在音響データ15B2、正常パターン15B3、予兆パターン候補15B4、識別関数データ15B5、状態値データ15B6、発生頻度データ15B7、予兆パターン15B8、発生頻度曲線データ15B9及び機器劣化曲線データ15B10を含む。初期音響データ15B1は、監視対象の機器が稼動開始してからすぐの時の、機器の通常音及び雑音を含むが、予兆音や異常音を含まない音響データであり、例えば、図2の経過時間t1における音響を測定したデータである。現在音響データ15B2は、監視対象の機器から発する音響を随時測定した、予兆音や異常音を含む可能性のあるデータであり、機器劣化の予兆が現れることで予兆パターンを決定できるまで取得し続ける。正常パターン15B3は、初期音響データ15B1のうち、予兆パターン候補15B4と同じ周波数帯域における波形パターンである。予兆パターン候補15B4は、初期音響データ15B1と、現在音響データ15B2とを比較することにより検出された、現在音響データ15B2に固有の波形パターンであり、予兆パターンになる可能性のある候補データである。
【0027】
識別関数データ15B5は、正常パターン15B3と、予兆パターン候補15B4との多数の組合せをサポートベクトルマシン15A1に入力したときに生成される識別関数のデータであり、当該識別関数に新たなパターンを入力すると、当該パターンが正常、予兆のいずれであるかが出力される。状態値データ15B6は、サポートベクトルマシン15A1により識別関数データ15B5とともに生成される、正常パターン15B3及び予兆パターン候補15B4の各パターンに対応する離散値であり、識別関数により二分され、例えば、図2(b)の識別イメージに示される○及び●が該当する。なお、サポートベクトルマシン及び識別関数の詳細については、例えば、特開2005−352997号公報の段落[0036]〜[0055]を参照のこと。
【0028】
発生頻度データ15B7は、予兆パターン候補15B4の発生頻度の時間的変化を示すデータであり、その予兆パターン候補15B4が増加する傾向か否かを判定するのに用いられる。予兆パターン15B8は、機器の劣化状況を評価するために用いられるパターンであり、予兆パターン候補15B4のうち、増加する傾向にあるパターンが設定される。発生頻度曲線データ15B9は、過去音響データ15A2における予兆パターン15B8の発生頻度の時間的変化を示すデータである。機器劣化曲線データ15B10は、機器の劣化状況の時間的変化を示すデータ(例えば、図2(a)参照)であり、発生頻度曲線データ15B9から導き出される。
【0029】
≪装置の処理≫
図4は、機器劣化評価支援装置1の処理を示すフローチャートである。本処理は、機器劣化評価支援装置1において、主として処理部14が記憶部15のデータを参照、更新しながら、音響データに基づいて機器劣化の評価を行うものである。なお、本処理が実施される前に、事前データ15Aとしてサポートベクトルマシン15A1及び過去音響データ15A2が予め記憶部15に記憶されているものとする。
【0030】
まず、機器劣化評価支援装置1は、機器が稼動開始したときに、初期段階の音響データを測定し、その音響データを初期音響データ15B1として記憶部15に記憶する(S401)。機器の音響データを測定、記憶する際には、音響測定部11が、例えば、1日かけて、5分間隔で1秒間の音を採取し、その採取した音の波形データを処理部14が記憶部15に逐次記憶する(以下、同様)。なお、初期段階の音響データの測定は、対象機器が初めて稼動開始した時だけでなく、修理や部品交換の後に再稼動する時にも行われる。
【0031】
次に、機器劣化評価支援装置1は、定期的に(例えば、1週間ごとに)、現時点の音響データを測定し、その音響データを現在音響データ15B2として記憶部15に記憶する(S402)。そして、初期音響データ15B1と、現在音響データ15B2とを比較し、初期音響データ15B1と異なる波形パターンを現在音響データ15B2から抽出し、予兆パターン候補15B4として記憶部15に記憶する(S403)。このとき、予兆パターン候補15B4に対応する正常データ15B3も記憶部15に記憶する。音響データを比較する際には、測定した音響データの生データ、又は、フーリエ解析等の数値処理を施したデータを用いる。
【0032】
異なる波形パターンを抽出する際には、例えば、初期音響データ15B1と、現在音響データ15B2との、各周波数帯域におけるパターンの類似度を計算し、その類似度が所定値を越えた場合に違いがあると判定し、現在音響データ15B2に含まれる、初期音響データ15B1とパターンが異なる該当部分(ひとまとまり)を予兆パターン候補15B4として抽出する。これにより、わずかな違いであっても候補として挙げることができる。なお、予兆パターンは、機器の稼動開始後から増加傾向を継続して示すものであり、機器の劣化がかなり進展してから急に出現する異常パターンとは別のものとして認識する。ここで、予兆パターン候補が抽出されなかった場合(S404のNO)、機器の音響が初期段階から変わらず、機器の劣化が進展していないと考えられるので、S402に戻り、所定の期間を空けてから、音響データを測定し直す。
【0033】
予兆パターン候補が抽出された場合(S404のYES)、機器劣化評価支援装置1は、パターン識別手法の1つであるサポートベクトルマシン15A1を使い、正常パターンと、1の予兆パターン候補とから、それらを識別する識別関数を設定する(S405)。詳細には、処理部14が、記憶部15からサポートベクトルマシン15A1のプログラムをメモリ上にロードし、正常パターンと、予兆パターン候補との多数の組合せを入力データとして設定した後、プログラムを実行すると、正常と、予兆とを区別する識別関数が生成される。そして、その各パターンに対応する離散値として、予兆を示す状態値(図2(b)の●)と、正常を示す状態値(図2(b)の○)とが出力される。そして、機器劣化評価支援装置1は、生成された識別関数を識別関数データ15B5として、出力された各状態値を状態値データ15B6として、それぞれ記憶部15に記憶する。
【0034】
続いて、機器劣化評価支援装置1は、識別関数データ15B5により1の予兆パターン候補15B4と同一であると認識されたパターンの発生頻度が、現在音響データ15B2において時間経過とともにどのように変化するか、その傾向を把握する(S406)。例えば、1日の間に、5分に1度、1秒間の音を採取した現在音響データ15B2の中には、正常音(予兆を含まない音)及び予兆を含む音が含まれている。そこで、識別関数データ15B5により、1時間ごとに予兆パターン候補15B4と同一パターンの発生頻度を集計する。例えば、最初の1時間に20回だったのが、次の1時間に22回になり、さらに次の1時間に25回になり、・・・というように、発生頻度が増加し続けるパターンは、予兆パターンと言える。機器の劣化による予兆や異常は、必ず時間経過とともに増加し、減ることはない。従って、発生頻度が変わらなかったり、減ったりするパターンは、機器の劣化を示すものではない。
【0035】
予兆パターン候補の発生頻度が増加傾向でなければ(S407のNO)、その予兆パターン候補は予兆を示すものではないので、機器劣化評価支援装置1は、S404に戻って、別の予兆パターン候補15B4があるか否かを判定する。別の予兆パターン候補15B4があれば(S404のYES)、再度S405及び406の処理を行い、S407の判定を行う。別の予兆パターン候補15B4がなければ(S404のNO)、抽出された予兆パターン候補の中に増加傾向のもの(すなわち、予兆を示すもの)がなかったということであり、機器の劣化があまり進んでいないと考えられるので、S402に戻り、所定の期間を空けてから、音響データを測定し直す。
【0036】
予兆パターン候補の発生頻度が増加傾向であれば(S407のYES)、機器劣化評価支援装置1は、その増加傾向を有する1の予兆パターン候補15B4を予兆パターン15B8として記憶部15に記憶する(S408)。次に、予兆パターン15B8の発生頻度を詳細に把握する(S409)。具体的には、過去音響データ15A2における所定時間帯ごとのパターンに対して、識別関数データ15B5による判定や、予兆パターン15B8との比較を行うことにより、予兆パターン15B8と同一と認識されるパターンを計数して、予兆パターン15B8の発生頻度を把握する。過去音響データ15A2は、監視対象と同じ機器のものを用いる。その発生頻度の時間的変化を発生頻度曲線データ15B9として記憶部15に記憶する。
【0037】
続いて、機器劣化評価支援装置1は、監視対象機器の劣化状況を評価する(S410)。詳細には、発生頻度曲線データ15B9を機器劣化曲線とみなし、機器劣化曲線データ15B10として記憶部15に記憶する。次に、機器劣化曲線データ15B10から、機器の劣化状況を把握するとともに、メンテナンスの実績データと照合して修理限界(図2(a)参照)を設定する。そして、劣化度合いが修理限界に達する前の時期(例えば、図2(a)では、経過時間t4と、t5との中間時期)を、その機器の次の点検時期及び交換時期とする。
【0038】
監視対象機器の運用者は、突然の異常になる前に検知したいが、早い時期に修理や交換をしたくないわけであり、上記のような機器劣化の評価支援方法を用いることにより、ぎりぎりの交換時期まで待つことができる。これによれば、最も効率的なコストで機器を運用することができる。
【0039】
なお、上記実施の形態では、図1に示す機器劣化評価支援装置1内の各部を機能させるために、処理部14で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る機器劣化評価支援装置1が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0040】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、機器が異常に至る前の予兆の時間的変化を把握して発生頻度曲線データ15B9を作成し、それに基づいて機器劣化曲線データ15B10を作成することにより、機器の劣化状況を評価できるので、機器の異常を早期に発見し、重大な故障を予防することができる。これによれば、機器の延命に大きく寄与し、環境問題の改善を図ることができる。
【0041】
次に、機器の稼動開始から予兆を監視し続けることにより、適切な点検時期及び交換時期を判断することができる。すなわち、機器劣化曲線データ15B10に修理限界を設定することにより、低コストで修理が可能なぎりぎりの時期を特定することができる。これによれば、機器のメンテナンスを効率よく行うことができ、ひいては、機器の運用コストを低減することができる。
【0042】
そして、抽出した予兆パターン候補15B4と全く同じパターンでなくても、識別関数データ15B5により「予兆」と認識されたパターンを計数するので、わずかな予兆を逃すことなく検出できる。これによれば、精度よく機器の劣化を評価することができる。
【0043】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0044】
(1)上記実施の形態では、パターン識別手法としてサポートベクトルマシン及び識別関数を用いる例を説明したが、他のパターン識別手法を用いるようにしてもよい。例えば、サポートベクトルマシン以外のアルゴリズムで生成した識別関数を用いてもよいし、予め用意したテンプレートデータを測定データの中から探索するテンプレートマッチング法等を用いてもよい。
【0045】
(2)上記の機器劣化評価支援方法は、音響による診断だけでなく、振動による診断等の様々な機器診断に適用することができる。これにより、様々な業種において、設備保全業務の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 機器劣化評価支援装置
14 処理部
15 記憶部
15A1 サポートベクトルマシン
15A2 過去音響データ
15B1 初期音響データ
15B2 現在音響データ
15B3 正常パターン
15B4 予兆パターン候補
15B5 識別関数データ
15B8 予兆パターン
15B10 機器劣化曲線データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶部と、処理部とを備えるコンピュータにより、機器の劣化評価を支援する機器劣化評価支援方法であって、
前記記憶部は、過去における稼動開始から劣化までの前記機器の音響を測定した過去音響データと、直近の稼動開始時に前記機器の音響を測定した初期音響データと、直近の稼動開始から所定時間後に前記機器の音響を測定した現在音響データと、を記憶し、
前記処理部は、
前記初期音響データと、前記現在音響データとを比較し、前記初期音響データと異なるパターンを前記現在音響データから抽出し、抽出したパターンを予兆パターン候補として前記記憶部に記憶するステップと、
前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数し、当該予兆パターン候補の発生頻度が時間の経過とともに増加する傾向であるか否かを判定するステップと、
前記予兆パターン候補の発生頻度が増加する傾向である場合に、前記予兆パターン候補を予兆パターンとして前記記憶部に記憶するステップと、
前記過去音響データにおける前記予兆パターンの発生頻度を計数し、当該予兆パターンの発生頻度の時間的変化に基づいて、前記機器の劣化度合いの時間的変化を示す機器劣化曲線データを作成するステップと、
を実行する
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記パターンは、前記過去音響データ、前記初期音響データ及び前記現在音響データに含まれる、所定の周波数帯域における入力音響レベルの波形データである
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記記憶部は、パターン識別手法を実現するプログラムをさらに記憶し、
前記処理部は、
前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数する際に、
前記プログラムに対して、前記初期音響データに含まれる正常パターンと、前記現在音響データに含まれる前記予兆パターン候補とを入力することにより、前記正常パターンと、前記予兆パターン候補とを識別する識別関数を生成するステップと、
前記識別関数を用いて、前記現在音響データにおいて前記予兆パターン候補と同一であると認識されたパターンの発生頻度を所定時間帯ごとに計数するステップと、
をさらに実行する
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項4】
請求項3に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記プログラムは、サポートベクトルマシンである
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項5】
機器の劣化評価を支援する機器劣化評価支援装置であって、
記憶部と、処理部とを備え、
前記記憶部は、過去における稼動開始から劣化までの前記機器の音響を測定した過去音響データと、直近の稼動開始時に前記機器の音響を測定した初期音響データと、直近の稼動開始から所定時間後に前記機器の音響を測定した現在音響データと、を記憶し、
前記処理部は、
前記初期音響データと、前記現在音響データとを比較し、前記初期音響データと異なるパターンを前記現在音響データから抽出し、抽出したパターンを予兆パターン候補として前記記憶部に記憶する手段と、
前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数し、当該予兆パターン候補の発生頻度が時間の経過とともに増加する傾向であるか否かを判定する手段と、
前記予兆パターン候補の発生頻度が増加する傾向である場合に、前記予兆パターン候補を予兆パターンとして前記記憶部に記憶する手段と、
前記過去音響データにおける前記予兆パターンの発生頻度を計数し、当該予兆パターンの発生頻度の時間的変化に基づいて、前記機器の劣化度合いの時間的変化を示す機器劣化曲線データを作成する手段と、
を備える
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記パターンは、前記過去音響データ、前記初期音響データ及び前記現在音響データに含まれる、所定の周波数帯域における入力音響レベルの波形データである
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記記憶部は、パターン識別手法を実現するプログラムをさらに記憶し、
前記処理部は、
前記現在音響データにおける前記予兆パターン候補の発生頻度を計数する際に、
前記プログラムに対して、前記初期音響データに含まれる正常パターンと、前記現在音響データに含まれる前記予兆パターン候補とを入力することにより、前記正常パターンと、前記予兆パターン候補とを識別する識別関数を生成する手段と、
前記識別関数を用いて、前記現在音響データにおいて前記予兆パターン候補と同一であると認識されたパターンの発生頻度を所定時間帯ごとに計数する手段と、
をさらに備える
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項8】
請求項7に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記プログラムは、サポートベクトルマシンである
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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