説明

機械的伝達による細胞産生の強化

細胞および細胞培養物へのテンセグリティー力の適用によるタンパク質産生の調節方法が本明細書に開示される。本発明の方法は、細胞および細胞培養物のタンパク質産生を増加させる。テンセグリティー力は、細胞に適用される応力であり、下記の1以上を含み得る:機械的応力、剪断応力、伸縮効果、および圧力誘起応力。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞は、生物医薬産業において組み換えタンパク質を産生するために最も一般的に使用される哺乳動物宿主細胞株である。CHO細胞を含む哺乳動物細胞を用いた細胞培養方法は、生物治療を創出するため、圧縮された製品開発予定、細胞株の増殖および生産性の能力不足および限界を含む、幾つかの課題に直面する。
【0002】
本発明は、CHO細胞などの哺乳動物細胞にテンセグリティーモデルを適用することにより、これらの問題に対処する。当該細胞にテンセグリティー力を適用することにより、該細胞により産生される組み換えタンパク質のレベルが調節できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年7月15日に出願され、参照により全体として本明細書に組み入れられる米国仮出願第61/225,694号の利益を主張する。
【0004】
本発明は、宿主細胞および細胞培養物へのテンセグリティー力の適用によるタンパク質産生の調節方法を対象にする。ある実施形態において、本方法は細胞および/または細胞培養物の標的タンパク質の増産を対象にする。テンセグリティー力は、細胞に適用される応力であり、下記の1以上を含み得る:機械的応力、剪断応力、応力効果、例えば音波により誘起される圧力などの圧力誘起応力。ある実施形態において、当該テンセグリティー力は標的タンパク質に適応され、このタンパク質は調節産生され、抗体である。ある実施形態において、抗体はIgGである。ある実施形態において、細胞はチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0005】
ある実施形態において、細胞は培養の浮遊物である。代替実施形態において、細胞は基質に付着できる付着細胞である。
【0006】
ある実施形態において、本発明は、細胞に応力を適用することにより、細胞培養細胞の組み換えタンパク質の産生を調節する方法を対象とする。ある実施形態において、組み換えタンパク質は抗体である。ある実施形態において、抗体はIgGである。ある実施形態において、細胞はチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0007】
本発明のある実施形態において、応力を受ける細胞は市販のバイオリアクターで培養される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一方法は、対象のタンパク質を発現する細胞を制御された機械的剪断応力に曝す工程を含む。ある実施形態において、剪断応力(トルク)は、細胞の細胞骨格に付着できる抗体で被覆された膜結合強磁性ビーズを用いて、細胞の表面に適用され得る。ビーズは、弱いねじれ磁場の適用により、一方向に磁化され得る。
【0009】
本発明の代替方法は、付着細胞を多様な二軸応力/歪みの培養条件に曝すことのできる生物力学培養系に、対象のタンパク質を発現する細胞を曝す工程を含む。ある実施形態において、生物力学培養系はけん引顕微鏡である。本発明のある実施形態において、生物力学培養系は細胞の実況顕微鏡画像を可能にする。
【0010】
ある実施形態において、応力を受ける細胞の生存率が測定できる。当該細胞の生死判別検定の非限定例は、染料取り込み検定(例えば、カルセインAM検定)、XTT細胞生死判別検定、および染料排除検定(例えば、トリパンブルー、エオシン、またはプロピジウムの染料排除検定)を含むがこれらに限定されない。
【0011】
ある実施形態において、応力を受ける細胞により分泌されるタンパク質量が測定できる。ある実施形態において、タンパク質はIgGであり、IgGは細胞の微環境を形成する培地に放出される。
【0012】
ある実施形態において、応力を受ける細胞の挙動が分析できる。このような細胞の挙動には、細胞の遊走および形態が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、走査電子顕微鏡法、位相差顕微鏡法、および/または透過電子顕微鏡法などだが、これらに限定されない顕微鏡技術が細胞挙動の経時的な変化を評価するために用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、CHO細胞のテンセグリティーモデルを研究するための一連の実験手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、細胞および細胞培養物へのテンセグリティー力の適用によるタンパク質産生の調節方法を対象にする。ある実施形態において、本発明の方法は細胞および細胞培養物からのタンパク質の産生を増大させる。テンセグリティー力は、細胞に適用される応力であり、下記の1以上を含み得る:機械的応力、剪断応力、伸縮効果、および圧力誘起応力、例えば超音波により誘起される応力。
【0015】
明確にするため、ならびに限定する目的でなく、この詳細な説明は下記の下位部分に分けられる:
1.テンセグリティー力の適用方法;
2.テンセグリティー力の適用による標的タンパク質の産生調節;ならびに
3.テンセグリティー力の最適化を取り入れた大規模産生
1.テンセグリティー力の適用方法
【0016】
ある実施形態において、本発明は、細胞または細胞培養物にテンセグリティー力を適用することにより、タンパク質産生の調節方法を対象とする。細胞テンセグリティーモデルにおいて、張力は細胞骨格マイクロフィラメントおよび中間径フィラメントにより担われ、これらの力は、圧縮に屈しない相互連結された構造要素により、とりわけ内部微小管支柱および細胞外基質(ECM)接着により平衡を保つ(例えば、Ingber,D.E.,Tensegrity:the architectural basis of cellular mechanotransduction.Annu Rev Physiol,1997.59:p.575−99;Ingber,D.E.,Tensegrity II.How structural networks influence cellular information processing networks.J Cell Sci,2003.116(Pt 8):p.1397−408;Ingber,D.E.,Tensegrity I.Cell structure and hierarchical systems biology.J Cell Sci.2003 Apr 1;116(Pt 7):1157−73;and Wang,N.,J.D.Tytell,and D.Ingber,Mechanotransduction at a distance:mechanically coupling the extracellular matrix with nucleus.Molecular cell biology,January 2009.10:p.75−82を参照)。このようなテンセグリティー力は、標的細胞または細胞培養物に応力、例えば機械的応力を加える力を含み得る。
【0017】
ある実施形態において、テンセグリティー力を受け、生細胞において緊張マイクロフィラメント、圧縮微小管および膜貫通インテグリン受容体間の相補的な力平衡を通じて、シグナルが細胞内に伝達される。力がインテグリンに適用される場合、熱力学パラメータおよび動的パラメータは、機械的負荷を物理的に経験する細胞骨格関連分子について局所的に変化し得る。細胞骨格に関連しない非接着受容体に力が適用される場合、応力は細胞表面で局所的に消散し、生化学的応答が弱まる。非限定的な一例において、張力がインテグリンに適用される場合、新しいチューブリン単量体が微小管の末端上に添加され、微小管はチューブリンの臨界濃度変化の結果として伸長する。ある実施形態において、インテグリンから細胞骨格に転移された応力により物理的に変形した分子は、動態が変化し、例えば基質から産物への化学変換の速度定数が増加し得る。この様式において、細胞骨格構造(アーキテクチャ)および細胞骨格のプレ応力(張力)は、細胞応答を機会的応力に調節し得る。
【0018】
ある実施形態において、細胞骨格中に力を適用すると、細胞の核孔に伝達され、孔を伸長し、内核孔複合体のバスケットおよび他の構成要素を開口し、孔の開口動態を改変し、またはこの分子組成を調節することにより、核輸送を増加させる。このような結果は遺伝子発現の転写後制御に影響を及ぼし得る。
【0019】
ある実施形態において、テンセグリティー力は制御された機械的剪断応力であり得る。ある実施形態において、剪断応力は直接細胞表面に適用できる。剪断応力(トルク)は、細胞の細胞骨格に付着する抗体で被覆された膜結合磁気ビーズ、例えば強磁性ビーズを用いて、表面に適用できる。ビーズは、ねじれ磁場の適用により、一方向に磁化され得る。電子顕微鏡画像が撮影され、どのように強磁性ビーズが細胞表面に付着するかを示し得る。ある実施形態において、剪断応力は、細胞のタンパク質産生レベルを増大させるのに有効な量で細胞に適用される。
【0020】
ある実施形態において、強磁性ビーズは、直径約0.25から0.5μm、直径約0.5から0.75μm、直径約0.75から1μm、直径約1から2μm、直径約2から3μm、直径約3から4μm、直径約4から5μm、直径約5から6μm、直径約6から7μm、直径約7から8μm、直径約8から9μm、または直径約9から10μmである。ある実施形態において、強磁性ビーズは直径約1から6μmである。
【0021】
ある実施形態において、細胞はCHO細胞であり、強磁性ビーズは抗CHO抗体で被覆される。
【0022】
応力適用に対する応答をもたらす細胞変形は、磁気ねじりサイトメトリー(MTC)を用いて測定でき、MTCは、まず細胞表面に結合した強磁性ビーズを磁化した後に回転させることにより、生細胞に機械的応力を及ぼすために用いる技術である。ある実施形態において、MTC装置は、7つの主構成要素から構成され得る:(i)ビーズを磁化するための電流を供給する高電圧発生器;(ii)ビーズをねじるための1つの[一次元(1D)MTC]双極電流源;(iii)ねじり装置を制御するためのコンピュータ;(iv)試料を観察するための倒立顕微鏡;(v)画像取り込みを階段関数または振動波磁場に同期できるソフトウェアを用いる電荷結合素子(CCD)カメラ;(vi)培養細胞の適温を維持する装置;ならびに(vii)試料を保持し、ビーズを磁化しねじるために用いられる交流電場を発生する2対の1D MTC用コイルを含む顕微鏡挿入物。
【0023】
ある実施形態において、テンセグリティー力は、細胞を多様な二軸応力/歪みに曝すことができる生物力学培養系により生じ得る。非限定的な一例において、生物力学培養系はけん引顕微鏡である。例えば、細胞は、例えばシリコーン、ヒドロゲル、ポリアクリルアミド、ラミニンまたはエラスチンなどだが、これらに限定されない基質に付着できる。基質はさらにコラーゲンで被覆され得る。マイクロビーズ、例えば蛍光マイクロビーズは、顕微鏡下で細胞骨格ネットワークの動態をたどるために基質の頂端表面近くに埋め込まれ得る。ある実施形態において、マイクロビーズは、少なくとも直径0.001μm、少なくとも直径0.005μm、少なくとも直径0.01μm、少なくとも直径0.05μm、少なくとも直径0.1μm、少なくとも直径0.15μm、少なくとも直径0.2μm、少なくとも直径0.25μm、少なくとも直径0.3μm、少なくとも直径0.35μm、少なくとも直径0.4μm、少なくとも直径0.45μmまたは少なくとも直径0.5μmである。ある実施形態において、マイクロビーズは直径0.2μmである。
【0024】
剛性および伸縮性は該系で制御できる2変数である。例えば、剛性は、基質、例えばヒドロゲル基質の濃度調整により制御でき、伸縮力は基質に適用される力の大きさにより制御できる。基質は軸に沿って伸縮し得る。例えば、基質は、コンピュータ制御のステッピングモーターを用いて2つの直交軸に沿って対照的に伸縮し得る。ある実施形態において、伸縮性および剛性は、細胞のタンパク質産生レベルを増大させるのに有効な量で細胞に適用される。
【0025】
ある実施形態において、細胞は、細胞培養プレート、例えばマルチウェル細胞培養プレートにおいて、基質上で培養される。
【0026】
ある実施形態において、テンセグリティー力は、細胞または細胞培養物に、音圧、例えば超音波、または他の任意の高周波もしくは低周波の音波を適用することにより生じ、該音波は場合により周期的様式で供給され得る。このような音圧は細胞の性質を変化し得る。例えば、低可聴周波数で、周期的な音応力に曝されたCHO細胞は、発現および/または分泌経路を変更し、タンパク質産生レベルを増大させ得る。ある実施形態において、細胞のタンパク質産生レベルを増大させるのに有効な量で、周期的な音応力が細胞に適用される。
【0027】
ある実施形態において、テンセグリティー力に曝された細胞の生存率および形態が観測できる。細胞の生存率は、細胞膜に浸透できる染料を用いて測定され得る。例えば、カルセインAM、緑色蛍光細胞マーカーなどの膜浸透性蛍光細胞マーカーは、細胞生存率を観測するために使用できる。カルセインAMは膜浸透性であり、インキュベーションにより細胞内に導入され得る。一旦細胞内へ入ると、カルセインAMは内因性エステラーゼにより強く負に帯電した緑色蛍光カルセインに加水分解される。蛍光カルセインは生細胞の細胞質に留まる。
【0028】
染色排除試験も、細胞懸濁液または細胞培養物に存在する生細胞の数を測定するために用いられ得る。生細胞は、ある染料、例えばトリパンブルー、エオシン、およびプロピジウムなどだが、これらに限定されない染料を排除する無傷細胞膜を保有するのに対して、死細胞は保有しない。染料排除試験において、細胞懸濁液または培養物は染料と混合し、細胞が染料を取り込むかまたは排除するかを決定するために可視的に調べられる。細胞は、例えば倒立光学顕微鏡に搭載された血球計を用いて計数される。生細胞は透明な細胞質を有するのに対して、非生細胞は染料により印される細胞質を有する。
【0029】
ある実施形態において、細胞生存率は生細胞の酵素活性を測定することにより決定できる。細胞生存率の測定方法は、細胞増殖速度を測定するためにも用いられ得る。例えば、細胞死の直後に不活性化するミトコンドリア酵素の活性が測定され、細胞生存率を決定できる。ある実施形態において、ミトコンドリア酵素の活性はXTT細胞生存検定キットで測定できる。XTTはテトラゾリウム誘導体である。生細胞のミトコンドリア酵素はXTTをオレンジ色の高水溶性産物に還元する。XTTから生成する水溶性産物の量は、試料中の生細胞数に比例し、475nmの波長で吸光度を測定することにより定量できる。
【0030】
細胞遊走および形態は、内在する細胞骨格の形成および動態の変化の結果である。テンセグリティー力に曝された細胞の遊走および形態は、細胞遊走および形態の経時的変化を評価するために顕微鏡技術を用いて観測できる。このような顕微鏡技術には、走査電子顕微鏡法、位相差顕微鏡法、および透過電子顕微鏡法を含むがこれらに限定されない。
【0031】
ある実施形態ある実施形態において、テンセグリティー力に曝される細胞または細胞培養物により分泌されるタンパク質のレベルが測定され、タンパク質産生の増加を判断できる。例において、タンパク質は、細胞により微環境に分泌される抗体である。分泌される抗分泌される抗体量は、例えば抗体を含む溶液を基質表面と結合した抗体結合物質と接触させることにより、測定できる。結合した抗体量は定量できる。例えば、分泌されるIgG抗体は、マクロ多孔性ポリマー樹脂の表面に共有結合したプロテインAと抗体とを接触させることにより、測定できる。細胞は遠心分離し、回収上清はプロテインAカラムに注入できることにより、試料中のIgGは捕捉される。結合IgGは次いでpHを下げることにより溶出し、280nmで直接溶出物質を検出できる。
【0032】
ある実施形態において、抗体を含む溶液または混合物が一旦得られると、細胞により産生される他のタンパク質からの抗体の分離は、イオン交換分離段階および疎水性相互作用分離段階を含む異なる精製技術の組み合わせを用いて実施できる。分離段階は、電荷、疎水性の程度、または大きさに基づいてタンパク質の混合物を分離する。ある実施形態において、分離は、陽イオン、陰イオン、および疎水性の相互作用を含むクロマトグラフィーを用いて実施する。これらの技術のそれぞれについて、幾つかの異なるクロマトグラフィー樹脂が入手でき、関与する特定タンパク質に対する精製スキームの正確な調整を可能にする。分離方法のそれぞれの本質は、タンパク質が異なる速度でカラムを横断し、さらにカラムを通過するにつれ増加する理的分離を達成し得ること、または選択的に分離媒体に付着した後、異なる溶媒により別個に溶出され得ることである。ある場合には、不純物がカラムに特異的に付着し、抗体は付着しない場合、即ち抗体が流入物に存在する場合、抗体は不純物から分離される。
【0033】
ある実施形態において、分離段階は、1以上の宿主細胞タンパク質から抗体を分離するために用いられる。ある実施形態において、例えば、IgG抗体の精製ではIgG抗体がプロテインAに非効率的に結合するため、精製戦略はプロテインA親和性クロマトグラフィーの使用を排除する。精製スキームの個別調整を可能にする他の因子は、プロテインAがFc領域に結合するためFc領域の有無(例えばFab断片と比較した全長抗体に照らして);対象抗体の生成に用いる特定の生殖系配列;および抗体のアミノ酸組成(例えば抗体の一次配列および分子の総電荷/疎水性)を含むがこれらに限定されない。保有する抗体は、この特徴を利用して調整された精製戦略を用いて精製できる。
【0034】
2.テンセグリティー力の適用による標的タンパク質の産生調節
ある実施形態において、本発明の細胞または細胞培養物は対象の標的タンパク質を発現する。ある実施形態において、標的タンパク質は組み換え発現タンパク質である。ある実施形態において、標的タンパク質は抗体である。ある実施形態において、細胞または細胞培養物へのテンセグリティー力の適用は、細胞または細胞培養物による標的タンパク質、例えば組み換え発現抗体の産生を増加させる。
【0035】
この節で用いられる「抗体」という用語は、無傷抗体またはこの抗原結合断片を指す。
【0036】
ある実施形態において、細胞および細胞培養物は抗体ABT−874を発現し分泌する。
【0037】
本開示の抗体本開示の抗体は、対象の抗原を動物に免疫後、例えばKohler and Milstein(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術など、従来のモノクローナル抗体方法を含む様々な技術により作製できる。体細胞ハイブリダイゼーション手法が好ましいが、原則として、モノクローナル抗体を産生する他の技術、例えばBリンパ球のウイルスまたは発癌性形質転換が用いられ得る。
【0038】
ハイブリドーマを調製するための一つの好ましい動物系はマウス系である。ハイブリドーマの産生は十分に確立された手法である。免疫プロトコルおよび融合用の免疫脾細胞の単離技術は当分野で知られている。融合パートナー(例えばマウス・ミエローマ細胞)および融合手法も知られている。
【0039】
抗体は好ましくはヒト、キメラ、またはヒト化抗体であり得る。本開示のキメラまたはヒト化抗体は、上述の通りに調製した非ヒト・モノクローナル抗体の配列に基づいて調製できる。重鎖および軽鎖の免疫グロブリンをコードするDNAは、標準的な分子生物学技術を用いて対象の非ヒト・ハイブリドーマから得られ、非マウス(例えばヒト)免疫グロブリン配列を含むよう操作され得る。例えば、キメ例えば、キメラ抗体を創出するため、マウス可変領域は当分野で知られる方法を用いてヒト定常領域と連結できる(例えば、CabillyらのU.S.Patent No.4,816,567を参照。)。ヒト化抗体を創出するため、マウスCDR領域は、当分野で知られる方法を用いてヒト・フレームワークに挿入できる(例えば、WinterのU.S.Patent No.5,225,539、およびQueenらのU.S.Patent Nos.5,530,101;5,585,089;5,693,762および6,180,370)。
【0040】
本発明の抗体を発現するために、一部または全長の軽鎖および重鎖をコードするDNAは、遺伝子が転写および翻訳の制御配列と操作可能に連結されるような1以上の発現ベクターに挿入される(例えばU.S.Patent No.6,914,128を参照のこと、この全教示は参照により本明細書に組み入れられる)。この文脈において、「操作可能に連結される」という用語は、ベクター内の転写および翻訳の制御配列が抗体遺伝子の転写および翻訳を調節する目的の機能に役立つように抗体遺伝子がベクターと連結されることを意味する。および発現制御配列は、使用される発現宿主細胞、例えばCHO細胞と適合するよう選択される。抗体の軽鎖遺伝子および抗体の重鎖遺伝子は、別個のベクター内に挿入でき、またはより典型的には、両遺伝子は同一の発現ベクター内に挿入される。抗体遺伝子は標準方法(例えば、抗体の遺伝子断片およびベクターの相補的な制限部位の連結、または制限部位が存在しない場合は平滑末端連結)により発現ベクター内に挿入される。抗体または抗体関連の軽鎖または重鎖配列の挿入前に、発現ベクターは既に抗体定常領域配列を有し得る。例えば、抗体または抗体関連のVHおよびVL配列を全長の抗体遺伝子に変換する一つのアプローチは、VH分節がベクター内のCH分節と操作可能に連結され、VL分節がベクター内のCL分節と操作可能に連結されるように、既に重鎖定常領域および軽鎖定常領域をそれぞれコードする発現ベクターに該配列を挿入することである。さらに、または代わりに、組み換え発現ベクターは宿主細胞から抗体鎖の産生を促進するシグナルペプチドをコードし得る。抗体鎖遺伝子は、シグナルペプチドが抗体鎖遺伝子のアミノ末端にインフレームで連結されるようにベクターにクローニングされ得る。シグナルペプチドは免疫グロブリン・シグナルペプチドまたは異種シグナルペプチド(即ち、非免疫グロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)であり得る。
【0041】
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞における抗体鎖遺伝子の発現を制御する1以上の調節配列を有し得る。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、および抗体鎖遺伝子の転写または翻訳を制御する他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図する。このような調節配列は、例えばGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されており、この全教示は参照により本明細書に組み入れられる。調節配列の選調節配列の選択を含む発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望するタンパク質の発現レベルなどの因子に依存し得ることは当業者に理解されるであろう。細胞の発現に適切な調節配列は、サイトメガウイルス(CMV)に由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー(CMVプロモーター/エンハンサーなど)、シミアンウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーなど)、アデノウイルス(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP)ならびにポリオーマなどの哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指令するウイルス要素を含む。ウイルス調節要素およびこの配列のさらなる記載については、例えばStinskiのU.S.Patent No.5,168,062、BellらのU.S.Patent No.4,510,245、およびSchaffnerらのU.S.Patent No.4,968,615を参照し、これらの全教示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0042】
抗体の鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)、および/または選択可能なマーカー遺伝子などの1以上の追加配列を有してもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を促進する(例えば、AxelらのU.S.Patent Nos.4,399,216、4,634,665および5,179,017を参照のこと。これらの全教示は参照により本明細書に組み入れられる。)。例えば、通常例えば、通常選択可能なマーカー遺伝子は、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性をベクターが導入された宿主細胞に付与する。マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅でdhfr宿主細胞用)およびネオ遺伝子(G418選別用)を含む。
【0043】
本発明の抗体または抗体部分は、宿主細胞、例えばCHO細胞における免疫グロブリンの遺伝子の組み換え発現により調製できる。抗体を組み換抗体を組み換え発現するために、軽鎖および重鎖が宿主細胞で発現し、宿主細胞が培養される培地中に分泌され、この培地から抗体が回収できるように、宿主細胞は抗体の免疫グロブリンの軽鎖および重鎖をコードするDNA断片を有する1以上の組み換え発現ベクターを用いてトランスフェクションされる。抗体の重鎖および軽鎖遺伝子を得て、これらの遺伝子を組み換え発現ベクターに組み込み、ならびに該ベクターを宿主細胞に導入するために標準的な組み換えDNA法が用いられる。これらは、Sambrook,Fritsch and Maniatis(eds),Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989),Ausubel et al.(eds.)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates,(1989)、およびU.S.Patent Nos.4,816,397および6,914,128に記載されており、これらの全教示は本明細書に組み入れられる。
【0044】
軽鎖および重鎖の発現では、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターは標準的技術により宿主細胞にトランスフェクションされる。「トランスフェクション」という用語の様々な種類は、外因性DNAを原核性または真核性の宿主細胞内に導入するために一般に用いられる多種多様な技術を包含することを意図し、例えば電気穿孔法、リン酸カルシウム沈降法、DEAE−デキストラントランスフェクションなどである。原核性または原核または真核のいずれかの宿主細胞において本発明の抗体を発現することは理論上可能であるが、真核細胞、とりわけ哺乳動物細胞が原核細胞より適切に折り畳まれ免疫学的に活性な抗体を組み立て分泌する可能性が高いため、哺乳動物宿主細胞などの真核細胞における抗体の発現が適切である。原核発現は、活性抗体の高収率な産生に効果がないことが報告されている(Boss and Wood(1985)Immunology Today 6:12−13、この全教示は参照により本明細書に組み入れられる。)。
【0045】
本明細書のベクターにおけるDNAのクローニングまたは発現に適切な宿主細胞は、原核生物、酵母、または高等真核細胞である。この目的に適した原核生物は、グラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えばエスチェリキア(Escherichia)属、例えば大腸菌、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、例えばサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属、例えばセラチア・マルセスカンス(Serratia marcescans)、およびセラチア(Serratia)、例えばセラチア・マルセスカンス(Serratia marcescans)、およびシゲラ(Shigella)などの腸内細菌科、ならびに枯草菌(B.subtilis)およびバチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)などのバチルス属(例えばビー・リケニフォルミス41Pは1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示される。)、ピー・エルギノザ(P.aeruginosa)などのシュードモナス属、ならびにストレプトマイセス属を含む。大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC 31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC 31,537)、および大腸菌W3110(ATCC 27,325)などの他の株も適する。これらの例は限定よりむしろ説明である。
【0046】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物はポリペプチドをコードするベクターに適切なクローニングまたは発現宿主である。oli B,サッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、即ちありふれたパン酵母は下等真核宿主微生物の中で最も一般的に用いられる。しかしながら、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);例えばケイ・ラクティス(K.lactis)、ケイ・フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12,424)、ケイ・ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC 16,045)、ケイ・ヴィケラミ(K.wickeramii)(ATCC 24,178)、ケイ・ヴァルティ(K.waltii)(ATCC 56,500)、ケイ・ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36,906)、ケイ・サーモトレランス(K.thermotolerans)、およびケイ・マルキサヌス(K.marxianus)などのクルルベロマイセス(Kluyveromyces)宿主;ヤロヴィア(yarrowia)(EP 402,226);ピチア・パストリス(Pichia pastoris)(EP 183,070);カンジダ(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュヴァンニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュヴァンニオマイセス(Schwanniomyces);ならびに例えばニューロスポラ(Neurospora)、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)、およびエイ・ニデュランス(A.nidulans)およびエイ・ニゲル(A.niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)宿主などの糸状菌など、幾つかの他の属、種および株は、一般に入手可能であり、本発明で有用である。
【0047】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例は植物および昆虫の細胞を含む。多数のバキュロウイルス株および変異体、ならびにスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(毛虫)、エーデス・エギプティ(Aedes aegypti)(蚊)、エーデス・アルボピクツス(Aedes albopictus)(蚊)、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)、およびボムビックス・モリ(Bombyx mori)などの宿主由来の対応する許容昆虫宿主細胞が同定されてきた。例えば、オートグラファ・カルフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異体およびボムビックス・モリ(Bombyx mori)NPVのBm−5変異体などのトランスフェクション用の様々なウイルス株が公的に入手可能であり、このようなウイルスは、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクション用に、本発明に従って本明細書でウイルスとして使用され得る。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物も宿主として利用できる。
【0048】
組み換え抗体の発現に適した哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO細胞)(dhfr− CHO細胞を含む、Urlaub and Chasin,(1980)PNAS USA 77:4216−4220に記載され、例えばKaufman and Sharp(1982)Mol.Biol.159:601−621に記載されているようにDHFR選択可能マーカーとともに使用され、この全教示は参照により本明細書に組み入れられる。)、NS0ミエローマ細胞、COS細胞およびSP2細胞を含む。コードする組み換え発現ベクターが哺乳動物宿主細胞に導入される場合、抗体は、宿主細胞における抗体発現または宿主細胞が増殖する培養培地への抗体産生を可能にするのに十分な時間宿主細胞を培養することにより、産生される。有用な哺乳動有用な哺乳動物宿主細胞系株の他の例は、SV40(COS−7,ATCC CRL 1651)により形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(293または懸濁培養で増殖用にサブクローニングされた293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977));乳児ハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO,Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980));マウス・セルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.23:243−251(1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト頸部癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファロー・ラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44−68(1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝癌株(Hep G2)であり、これらの全教示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0049】
抗体産生用に上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、必要に応じてプロモーターの誘導、形質転換体の選別、または所望する配列をコードする遺伝子の増幅用に改変された従来の栄養培地で培養される。抗体を産生するために用いられる宿主細胞は様々な培地で培養され得る。
【0050】
Ham’s Ham’s F10(商標)(Sigma)、最小必須培地(商標)((MEM),(Sigma),RPMI−1640(Sigma))、およびDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(商標)((DMEM),Sigma)などの市販培地は、宿主細胞の培養に適する。さらに、Ham et al.,Meth.Enz.58:44(1979),Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980)、U.S.Patent Nos.4,767,704;4,657,866;4,927,762;4,560,655;または5,122,469;WO 90/03430;WO 87/00195;またはU.S.Patent No.30,985に記載される培地はいずれも、宿主細胞用の培養培地として使用してもよく、これらの全教示は参照により本明細書に組み入れられる。これらはいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン、もしくは上皮増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン薬など)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物として定義される。)、およびグルコースまたは同等のエネルギー源で補足してもよい。任意の他の必要補給物も当業者に知られる適切な濃度で含まれ得る。温度、pHなどの培養条件は、発現用に選択される宿主細胞とともにこれまで用いられたものであり、当業者に明白であろう。
【0051】
宿主細胞も、Fab断片またはscFv分子など、無傷抗体の一部を産生するために使用できる。上記手法の変形は本発明の範囲内であることが理解される。例えば、ある実施形態において、本発明の抗体の軽鎖または重鎖のいずれか(両鎖ではない。)をコードするDNAを用いて宿主細胞を形質導入することが望ましい。組み換えDNA技術は、標的抗原への結合に必要でない軽鎖および重鎖のいずれかまたは両鎖をコードするDNAの幾つかまたは全てを除去するためにも用いられ得る。このような切断DNA分子から発現した分子も本発明の抗体に包含される。さらに、1つの重鎖および1つの軽鎖が第一抗体に由来し、他の重鎖および軽鎖が異なる抗原に特異的な二価抗体は、標準的な化学架橋法により第一抗体を第二抗体に架橋することによって、産生されてもよい。
【0052】
抗体、またはこの抗原結合部分の組み換え発現に適切な系において、抗体重鎖および抗体軽鎖の両鎖をコードする組み換え発現ベクターは、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクションによりdhfr−CHO細胞内に導入される。組み換え発現組み換え発現ベクター内で、抗体の重鎖および軽鎖の遺伝子はそれぞれ高レベルの遺伝子転写を促すためにCMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素に操作可能に連結される。組み換え発現ベクターはDHFR遺伝子も有し、該遺伝子は、メトトレキサート選別/増幅を用いるベクターでトランスフェクションされたCHO細胞の選別を可能にする。質転換体宿主細胞は培養され、抗体の重鎖および軽鎖の発現を可能にし、無傷抗体が培養培地から回収される。標準的な分子生物学技術は、組み換え発現ベクターを調製し、宿主細胞をトランスフェクションし、形質転換体を選別し、宿主細胞を培養し、ならびに培養培地から抗体を回収するために用いられる。
【0053】
組み換え技術を用いる場合、抗体は、細胞内、ペリプラズム空間で産生され、または直接培地に分泌され得る。ある実施形態において、抗体が細胞内で産生される場合、第一段階として、微粒子デブリ、宿主細胞または溶解細胞(例えば、均質化に起因する。)は、例えば遠心分離または限外濾過により除去できる。抗体が培地に分泌される場合、このような発現系の上清はまず、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon(商標)またはMillipore Pellicon(商標)限外濾過ユニットを用いて、濃縮され得る。
【0054】
3.テンセグリティー力最適化を組み込む大規模タンパク質産生
ある実施形態において、テンセグリティー力が、市販の関連タンパク質を産生する細胞、例えば市販のバイオリアクターで培養される細胞に適用できるように、テンセグリティーモデルは拡大され得る。
【0055】
ある実施形態において、機械的剪断応力がバイオリアクターで培養される細胞に適用され得る。例えば、このような応力は、例えば細胞膜の伸縮などの機械的応力を誘起するのに効果的な速度で細胞をボルテックスまたは混合することにより、細胞に適用できる。ある実施形態において、このような機械的応力は培養細胞のタンパク質産生を増加させるのに有効である。
【0056】
ある実施形態において、バイオリアクターで培養される細胞は、磁気ビーズ、例えば上述した強磁性マイクロビーズと接触させ、ここで剪断応力(トルク)は、細胞のタンパク質産生を増加させるのに効果的な量の膜結合磁気ビーズを用いて、表面に適用され得る。
【0057】
ある実施形態において、テンセグリティー力は、例えば、細胞を多様な二軸応力/歪みに曝せる生物力学系により、バイオリアクターで培養される細胞に適用できる。例えば、バイオリアクターは培養細胞が付着する基質を含み得る。このような基質は細胞が付着する複数の表面積を含み得る。ある実施形態において、基質は細胞が付着するハニカム様基質を含み得る。ある実施形態において、バイオリアクターは細胞が付着するビーズまたは他の基質を含む。ある実施形態において、基質は、該基質に付着した細胞の形態または形状を変化させるのに有効な量で1以上の軸に沿って伸縮または操作され得る。ある実施形態において、細胞の形態または形状は、細胞からのタンパク質産生を増加させるのに有効な量で改変される。
【0058】
ある実施形態において、バイオリアクターで培養する細胞は、周期的な音圧を細胞に適用することによりテンセグリティー力に曝される。例えば、超音波、または任意の他の高周波もしくは低周波の音波は、細胞のタンパク質産生を増加させるのに有効な量で細胞に適用できる。ある実施形態において、細胞は浮遊細胞である。
【0059】
ある実施形態において、テンセグリティー力は、細胞または細胞培養物の性質において長期または永続的な変化を生じ、例えば細胞によるタンパク質産生の増加を生じ得る。細胞性状の当該変化は遺伝子発現の改変により惹起され得る。例えば、限定の目的でなく、プレート培養上に付着したCHO細胞の周期的伸縮は、タンパク質発現および/または分泌、例えば細胞による抗体の発現および/または分泌の永続的増加をもたらし得る。タンパク質の発現および/または分泌が増加したこれらの細胞は、次いで、細胞が懸濁液で増殖するバイオリアクターにおいて規模拡大され得る。
【実施例】
【0060】
1.細胞培養
組み換えグリコシル化抗体(例えばABT−874)を産生するCHO細胞が用いられる。ABT−874を産生する浮遊CHO細胞は血清中で増殖するように適応させる。細胞は流加回分反応器で用いる僅かな増殖条件で細胞培養プレートで培養される。
【0061】
2.細胞でのテンセグリティー力の創出
細胞は、節2.1および2.2において、下記に記載する2つの異なる技術を用いてテンセグリティーモデルに導入される。これらの力により誘起される機械的伝達の変化は細胞に基づく検定を用いて最適化および評価される。
【0062】
2.1光磁気ねじりサイトメトリー
様々な時点で、細胞は、直接細胞表面に適用される制御された機械的剪断応力に曝される。剪断応力(トルク)は、細胞の細胞骨格に付着する抗CHO抗体で被覆された膜結合性強磁性ビーズ(直径1から6μm)を用いて、表面に適用される。ビーズは、弱いねじれ磁場の適用により、一方向に磁化される。電子顕微鏡画像が撮影され、CHO細胞表面への強磁性ビーズの付着を示す。
【0063】
応力適用に対する応答をもたらす細胞の変形は、磁気ねじりサイトメトリー(MTC)を用いて測定される。MTCは、細胞表面に結合した強磁性ビーズをまず磁化した後、回転させることにより、生細胞に機械的応力を及ぼすために用いられる技術である。磁場を適用するための実験手法およびパラメータは、Na.S and Wang.N(2008)Science Signaling 1(34):p11によるプロトコルに記載されている通りである。簡潔には、MTC装置は、7つの主要構成要素から構成される:(i)ビーズを磁化するための電流を供給する高電圧発生器;(ii)ビーズをねじるための1つの[一次元(1D)MTC]双極電流源;(iii)ねじり装置を制御するためのコンピュータ;(iv)試料を観察するための倒立顕微鏡;(v)画像取り込みを階段関数または振動波磁場に同期できるソフトウェアを使用する電荷結合素子(CCD)カメラ;(vi)培養細胞の適温を維持する装置;ならびに(vii)試料を保持し、ビーズを磁化しねじるために用いられる交流電場を発生する2対の1D MTC用コイルを含む顕微鏡挿入物(スイスのEberhard EOL Inc.から市販されている。)。Na.S and Wang.N(2008)Science Signaling 1(34):pl1。
【0064】
2.2けん引顕微鏡
けん引顕微鏡は、実況顕微鏡画像化を可能にすると同時に、付着細胞を多様な二軸応力/歪み培養条件および試験に曝せる生物力学培養系である。細胞はポリアクリルアミドのようなハイドロゲル基質に付着し、さらにコラーゲンで被覆される。直径0.2μmの蛍光マイクロビーズは、顕微鏡下の細胞骨格ネットワークの動態をたどるため、ゲル頂端表面の近くに埋め込まれる。An,S.S.,et al.,(2006)Am J Respir Cell Mol Biol 35(1):p.55−64。剛性および伸縮性は該系の2つの制御変数である。剛性はハイドロゲル基質の濃度調整により制御され、伸縮力は適用力の大きさにより制御される。ハイドロゲルはコンピュータ制御ステッピングモーターを用いて2つの直交軸に沿って対称的に伸縮する。この配置は、歪みの大きさおよび歪み速度を含む複数のパラメータの制御を可能にする。Artmann,G.M.and S.Chien,(2008),Bioengineering in cell and tissue research.Springer。
【0065】
ハイドロゲル基質は約30分間で約20秒の間隔で伸縮する。形態の変化は蛍光画像により記録される。細胞はさらにインキュベートし、機械的伝達による変化は遂行細胞に基づく検定により様々な時点で測定される。
【0066】
3.細胞生存率の定量分析
カルセインAMは広く用いられる緑色蛍光細胞マーカーである。カルセインAMは膜透過性であり、インキュベーションにより細胞内に導入できる。一旦細胞内へ入ると、カルセインAM(非蛍光性分子)は内因性エステラーゼにより強く負に帯電した緑色蛍光カルセインに加水分解される。蛍光カルセインは生細胞の細胞質に留まる。カルセインAMは、細胞毒性の欠如により、細胞膜完全性の研究および長期細胞追跡に優れた手段として役立つ。細胞は位相差顕微鏡を用いて蛍光顕微鏡画像を得ることによりさらに定量される。
【0067】
4.細胞生存率の定量分析
4.1XTT検定
XTT細胞生死判別検定キットは、標準的なマイクロプレート吸光度読み取り器を用いて生細胞数の簡易測定法を提供する。生細胞数の測定は、細胞の増殖速度を算定し、細胞毒性剤をスクリーニングするためにしばしば用いられる。XTTはテトラゾリウム誘導体である。XTTを還元し細胞死の直後に不活性化する生細胞のミトコンドリア酵素の活性に基づいて細胞生存率を測定する。インキュベーションで、オレンジ色の高水溶性産物に容易に還元される。XTTから生成する水溶性産物の量は、試料中の生細胞数に比例し、475nmの波長で吸光度を測定することにより定量する。
【0068】
4.2細胞生存率のトリパンブルー排除試験
染料排除試験は、細胞懸濁液に存在する生細胞の数を測定するために用いられる。生細胞は、トリパンブルー、エオシン、またはプロピジウムなどの染料を排除する無傷細胞膜を保有するのに対して、死細胞は保有しないという原理に基づく。この試験において、細胞懸濁液は染料と混合した後、細胞が染料を取り込むかまたは排除するかを決定するために可視的に調べられる。細胞は倒立光学顕微鏡に搭載された血球計を用いて計数される。生細胞は透明な細胞質により識別されるのに対して、非生細胞は青色の細胞質を有する。
【0069】
5.IgGの産生
本研究で使用する細胞はIgGを分泌する。IgGは細胞の微環境を形成する培地内に直接放出される。適用するバイオシステムズ・イムノデテクション・センサー・カートリッジは、様々な動物種からIgG(免疫グロブリン)の大半のサブクラスを測定する検定装置である。これはマクロ多孔性ポリマー樹脂の表面に共有結合したプロテインAリガンドを含む。細胞は遠心分離し、回収上清はプロテインAカラムに注入される。試料中のIgGは捕捉され、センサー・カートリッジで濃縮される。次いで、結合IgGは、移動相のpHを下げ、280nmで直接溶出物質を検出することによりセンサー・カートリッジから溶出する。この手法は、哺乳動物細胞培養に基づく発酵試料における対象IgGの濃度測定に適用できる。
【0070】
6.細胞形態
細胞の遊走および形態の変化は、内在する細胞骨格の形成および動態の変化の結果である。外力の適用による細胞構造の変化を理解することは有用である。細胞の生活環の進行は原因として細胞事象が関連する連続体に基づく。走査電子顕微鏡法、位相差顕微鏡法、透過電子顕微鏡法のような当分野の顕微鏡技術は、細胞挙動の経時的な変化を評価するために用いられる。
【0071】
様々な刊行物が本明細書で引用され、これらの内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞をテンセグリティー力に曝す工程を含む宿主細胞のタンパク質産生を増加させる方法であって、テンセグリティー力が細胞のタンパク質産生を増加させるのに有効な量で細胞に適用される方法。
【請求項2】
テンセグリティー力が機械的剪断応力である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が基質に付着し、テンセグリティー力が二軸応力である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞がチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗体がABT−874である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞がバイオリアクターで培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞が基質に付着する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
テンセグリティー力が周期的な音圧である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
周期的な音圧が超音波である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が強磁性マイクロビーズと接触し、磁力が強磁性マイクロビーズに適用される、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−533306(P2012−533306A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520783(P2012−520783)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/042143
【国際公開番号】WO2011/008959
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】