説明

機能性バイオプロダクトの生産方法およびそのための装置

【課題】適切、簡便に活性酸素ストレスを細胞へ負荷して細胞の生理状態を制御し、これにより機能性バイオプロダクトの生産性を向上する方法、およびそのための装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞の培養系に酸化物半導体粒子を添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含む有用物質の生産方法を提供する。この方法は、たとえば、細胞と酸化物半導体粒子とを含む培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させるストレス負荷部3を備えた装置構成によって実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物により生産される有用物質である機能性バイオプロダクトの生産方法およびそのための装置に関し、より詳細には、活性酸素ストレスにより細胞の生理状態を制御して機能性バイオプロダクトを効率よく生産する方法およびそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドやポリフェノール等の有用代謝産物は、細胞の生理的変化に伴ってその細胞内での生産・蓄積が増進することが知られている。たとえば、カロテノイドの一種であるアスタキサンチンは、近年、健康食品、化粧品などに広く利用されている抗酸化物質であるが、このアスタキサンチンは、微細藻類のヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)に活性酸素ストレスを負荷すると、その細胞内での生産・蓄積が増進する。すなわち、ヘマトコッカス・プルビアリスは、活性酸素ストレスレベルの低い生育環境では増殖活動を行い、このときアスタキサンチンを殆ど生産しないが、活性酸素ストレスによって細胞の生理状態が変化し休止細胞になると増殖活動を休止して、アスタキサンチンを産生・蓄積するようになる(図4)。そして、さらに強い活性酸素ストレスを負荷すると、細胞は死滅してしまう。
【0003】
そこで、アスタキサンチン等の有用物質、つまり細胞がその生理的変化に伴って産生する機能性バイオプロダクトを効率よく生産するため、適切なレベルの活性酸素ストレスを細胞へ負荷して、細胞の生理的変化を誘導し制御する方法の開発が求められている。その1つの方法として、細胞の培養液に二酸化チタン等の光触媒を添加し、この培養液に光照射して活性酸素種を生成させる方法が考えられる。しかし、この方法では、培養液は通常不透明で光の透過性が低いため、培養液中の細胞全体に均一に光照射することがむずかしく、特に装置を大型化する場合には、細胞全体に適切なレベルの活性酸素ストレスを負荷できないという問題が生じうる。
【0004】
ところで、下記の特許文献1には、二酸化チタン触媒等の酸化物半導体粒子の存在する水中に超音波を照射することによって、水中で、簡単にヒドロキシラジカルを生成させるヒドロキシラジカルの製造方法が開示されている。しかし、この方法は、水中の有害物質を酸化して分解又は変質させ無害化すること等を目的としており、細胞の生理的変化を誘導して機能性バイオプロダクトの生産性を向上する方法ではない。この方法で使用される超音波は従来、細胞破砕用、あるいは有害微生物の殺菌用などの用途に利用されており、培養液中の細胞に超音波照射すると、細胞に強い負荷を与えることになり、かえって生存細胞数を減少させ、機能性バイオプロダクト生産への利用には不向きと考えられていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−26406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的および課題は、活性酸素ストレスにより誘導される細胞の生理的変化に伴い産生されるカロテノイドやポリフェノール等、機能性バイオプロダクトの工業的スケールにおける効率的生産を可能にすべく、適切、簡便に活性酸素ストレスを細胞へ負荷して細胞の生理状態を制御し、これにより機能性バイオプロダクトの生産性を向上する方法、およびそのための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のように、超音波は従来、超音波細胞破砕機などに利用されており、細胞にダメージを与えるリスクが高いため、アスタキサンチン等の機能性バイオプロダクト生産への利用は困難と考えられていた。しかし、本発明者らは、機能性バイオプロダクト生産における超音波の利用可能性について検討した結果、超音波照射によっても機能性バイオプロダクトの生産性を向上することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記(1)〜(9)の発明を包含するものである。
(1) 活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞の培養系に酸化物半導体粒子を添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含むことを特徴とする有用物質の生産方法。
(2) 活性酸素ストレスによりアスタキサンチンの生産を増進するヘマトコッカス藻の培養系に二酸化チタンを添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含むことを特徴とするアスタキサンチンの生産方法。
(3) 周波数16kHz以上1MHz以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の生産方法。
(4) 音圧0.2kPa以上12kPa以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の生産方法。
(5) 活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞を培養して、有用物質を生産するための装置であって、前記細胞と酸化物半導体粒子とを含む培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させるストレス負荷部を備えたことを特徴とする有用物質生産用装置。
(6) 活性酸素ストレスによりアスタキサンチンの生産を増進するヘマトコッカス藻を培養して、アスタキサンチンを生産するための装置であって、前記ヘマトコッカス藻と二酸化チタンとを含む培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させるストレス負荷部を備えたことを特徴とするアスタキサンチン生産用装置。
(7) 前記ストレス負荷部は、周波数16kHz以上1MHz以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする上記(5)又は(6)記載の装置。
(8) 前記ストレス負荷部は、音圧0.2kPa以上12kPa以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれかに記載の装置。
(9) 培養器、および、この培養器と前記ストレス負荷部とを連結する連結部を備えたことを特徴とする上記(5)〜(8)のいずれかに記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、超音波を照射することで、細胞の培養系に簡便に活性酸素種を生成させ、その活性酸素ストレスにより細胞の生理的変化を誘導することができる。このとき、超音波の周波数、強度(音圧)、照射時間などを調節することによって、細胞の培養系に適切な量の活性酸素種を生成させることができ、これにより適切なレベルの活性酸素ストレスを負荷して細胞の生理状態を制御することができる。このように、本発明によれば、簡便かつ適切に細胞の生理的変化を誘導して、有用物質の生産性を向上することができる。
【0010】
また、超音波は光と比べ細胞培養液中における透過性が優れるため、光照射法の場合と比較して、本発明に係る超音波照射法のほうが培養液中の細胞全体に均一に活性酸素ストレスを負荷することができる(図5参照)。したがって、本発明に係る超音波照射法は、光照射法と比較して、装置の実機レベルへの大型化が容易であるという利点がある。
【0011】
さらに、本発明は、超音波照射のみによって細胞の生理的変化を誘導できるので、所望の生合成経路の発現に適した生育条件下で生理的変化を促進することができ、温度変化など生育条件の改変により誘導する既存の方法で問題であった生合成経路の発現抑制を防止しつつ、すみやかに細胞生理の遷移過程を完了することができる。したがって、本発明によれば、アスタキサンチン等の有用物質の生産所要時間を短縮化し、生産効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[1]本発明の方法
本発明の有用物質生産法は、前述のように、活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞の培養系に酸化物半導体粒子を添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明における「細胞」とは、活性酸素ストレスに応答して有用代謝産物の生産性を高める細胞であれば特に限定されるものではないが、好ましくは光合成生物またはこれに由来する細胞を挙げることができ、特に好ましくはヘマトコッカス藻などの微細藻類を挙げることができる。ここで、「光合成生物」とは光合成を行うことが可能な生物を意味し、光合成細菌(シアノバクテリアを含む)、藻類(紅藻、褐藻、緑藻、ケイ藻など)、および高等植物が含まれ(特開2004−147641号公報参照)、たとえば高等植物由来の細胞を培養して有用物質を生産する場合に本発明を適用してもよい。また、「細胞」は、単細胞の状態で生育するものに限定されず、たとえば多細胞の群体を形成するようなものであってもよい。
【0014】
本発明における「有用物質」とは、活性酸素ストレスにより誘導される生理的変化に伴い上記細胞において産生が上昇する有用代謝産物のことであり、カロテノイドやポリフェノールなどの二次代謝産物が含まれる。具体的には、βカロチン、アスタキサンチン、ルテイン、フィコシアニン、アントシアニン、キサントフィルなど、植物や藻類等に由来する機能性バイオプロダクトを挙げることができ、好ましくはアスタキサンチン等の天然抗酸化物質を挙げることができる。もちろん抗酸化物質以外の有用物質、たとえば、カロテノイド系色素およびクロロフィル系色素等の有用色素、エイコサペンタエン酸、ビタミンC等の生理活性物質の培養生産プロセスに本発明を適用してもよい。
【0015】
本発明における「酸化物半導体粒子」とは、ZnO、TiO2、SnO2、Ta23、NiO、FeO、Cr23またはMoO2であり、特に、ルチル型の二酸化チタン触媒粒子又はアナターゼ型の二酸化チタン触媒粒子が好ましい(特開2003−26406号公報参照)。粒子の形状等は特に限定されるものではない。
【0016】
超音波を照射する方法および条件は特に限定されるものではないが、細胞に過度の負荷を与えないように留意しつつ、培養系に適切な量の活性酸素種を生成させるため、照射する超音波の周波数、強度(音圧)、照射時期および時間などを適切に制御することが好ましい。特に、周波数、強度(音圧)および照射時間の3つの要素を適切に設定することが好ましい。周波数は、本発明者らによる解析・検討の結果、低周波のものが好ましいと考えられる。周波数の上限値は特に限定されないが、たとえば1MHz、700kHz、500kHz、300kHzである。また、周波数の下限値は特に限定されないが、たとえば16kHz、20kHz、25kHz、30kHzである。したがって、たとえば16kHz以上1MHz以下、20kHz以上700kHz以下、25kHz以上500kHz以下、あるいは30kHz以上300kHz以下の範囲を好ましい周波数の範囲として設定することができる。
【0017】
超音波の強度(音圧)は、強くすると過度の物理的影響を与えるため、低度のものが好ましい。音圧の上限値は特に限定されないが、たとえば12kPa、11kPa、9.4kPa、8.2kPaである。また、音圧の下限値は特に限定されないが、たとえば0.2kPa、1.2kPa、2.3kPa、3.5kPaである。したがって、たとえば0.2kPa以上12kPa以下、1.2kPa以上11kPa以下、2.3kPa以上9.4kPa以下、あるいは3.5kPa以上8.2kPa以下の範囲を好ましい音圧の範囲として設定することができる。
【0018】
照射時間は、長くすると過度の負荷を与えるおそれがあるため、短時間に設定することが好ましい。照射時間の上限値は特に限定されないが、たとえば35分、30分、25分、20分である。また、照射時間の下限値は特に限定されないが、たとえば7分、8分、9分、10分である。したがって、たとえば7分以上35分以下、8分以上30分以下、9分以上25分以下、あるいは10分以上20分以下の範囲を好ましい照射時間の範囲として設定することができる。
【0019】
上記の周波数、強度(音圧)および照射時間は、それぞれ独立に設定値を決定するのではなく、他の要素との関係で相対的に決定することが望ましい。また、各設定値を決定する際には、照射時期、照射回数などの他の照射条件、装置の規模、使用する細胞の種類、および使用する酸化物半導体粒子の種類などをも考慮して決定することが望ましい。
【0020】
本発明の実施の一形態として、以下、微細藻類のヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)から、有用物質であるアスタキサンチンを生産する工程において、本発明を適用する場合について説明する。
【0021】
まず、ヘマトコッカス・プルビアリスを数日間培養して、増殖させる。培養液(培地)の組成は特に限定されるものではない。そして、この細胞培養液に、二酸化チタン等の酸化物半導体粒子を添加する。酸化物半導体粒子の粒度および添加量は特に限定されるものではない。
【0022】
次いで、この細胞培養液に超音波を照射して、酸化物半導体粒子の存在する水中に活性酸素種を生成させる。超音波は、たとえば周波数42kHz、音圧4.7kPaで15分間照射する。その後、培養液(培地)を新鮮なものに交換して培養を継続し、所定期間経過後に細胞から目的物質のアスタキサンチンを常法にしたがって抽出・精製すればよい。なお、超音波照射後に培地交換するかどうかは任意であり、特に限定されるものではない。
【0023】
図2および図3は、上記方法により、実際にアスタキサンチンの生産性(収量、あるいは生産速度)が向上するかどうかを検討した結果を示すグラフである。図2は、培養細胞1個あたりのアスタキサンチン生産(蓄積)量の経時変化、図3は、培養液1mLあたりのアスタキサンチン生産(蓄積)量の経時変化を示す。これらのグラフからわかるように、超音波照射なしの場合(曲線B)に比べ、超音波を照射した場合(曲線A)に、アスタキサンチンの生合成・蓄積が顕著に早くなった。
【0024】
このように、超音波を照射する方法によっても、機能性バイオプロダクトの生産性(収量、あるいは生産速度)の大幅な向上を図ることができる。
【0025】
[2]本発明の装置
次に、本発明の実施の一形態に係る装置について、図1に基づいて説明する。この装置は、たとえば図1に示されるような培養生産システム1であり、大略、培養槽(培養器)2、活性酸素ストレス負荷モジュール(ストレス負荷部)3、培養槽2とモジュール3とを連結する連絡部(往路4、復路5)、および物質出し入れ用の蓋6を備えて構成されている。
【0026】
上記モジュール3は、たとえば内部7が空洞の円筒形であり、壁面には所定の間隔で超音波発生器8が配置されている。この超音波発生器8は、電源からの入力9を受けて駆動され、入力電圧の強さおよび電圧周期などを調節することによって内部7に照射する超音波の周波数、および強度(音圧)などを変更できるようになっている。
【0027】
そして、使用時には内部7に二酸化チタン等の酸化物半導体粒子が添加され、細胞を含む培養液が動力装置などによって培養槽2から往路4を通って内部7に流入された後、超音波が照射され、ヒドロキシルラジカル等の活性酸素種を内部7に生成させる。このとき、超音波は細胞培養液中における透過性が光よりも優れるため、培養液中の細胞全体により均一に活性酸素ストレスを負荷することができる(図5)。活性酸素ストレスを負荷された細胞は、動力装置などによってモジュール3から復路5を通って培養槽2に戻される。その後、必要に応じて培養液(培地)を適宜交換しながら培養槽2にて所定期間細胞を培養した後、この培養細胞から目的物質を抽出・精製する。
【0028】
このように、培養槽2とは別体に、活性酸素ストレス負荷モジュール3を設けることにより、二酸化チタン等の酸化物半導体粒子はこのモジュール3にのみ添加すれば足り、培養槽2には添加しなくてもよいなどの利点がある。また、使用時において、細胞をモジュール3の内部7に流入させる前に、超音波照射を予め開始し、酸化物半導体粒子の存在する水中に活性酸素種を生成させた後に、細胞を内部7に流入させるような方法を採ることも可能である。これにより、超音波照射による細胞への負荷を軽減することができる。
【0029】
もちろん装置構成は種々の変更が可能であり、上記構成に限定されるものではない。たとえば、培養槽(培養器)2とモジュール(ストレス負荷部)3とを別体とはせずに一体化し、培養槽2に超音波発生器8を配置して超音波照射する構成としてもよい。また、培養槽(培養器)2は、細胞を生育できる構造であればよく、屋外の貯水槽のような人工の建造物でもよいし、天然の池のような自然物であってもよい。本発明は、このような培養槽2にモジュール3を連結することにより、簡易に細胞に対して活性酸素ストレスを負荷することができる。本発明において「培養系に超音波を照射」するとは、このような培養生産システム1において、超音波を照射する工程を組み込むことを意味する。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
[方法]
まず、ヘマトコッカス・プルビアリスNIES-144株を0.3×105cells・mL-1となるよう、以下に示した成分を含む液体培地に播種し、入射光強度4.0μmol-photons・m-2・s-1に調節した白色蛍光灯下、20℃にて4日間培養し、4×105cells・ml-1となるまで増殖させた。培地には酢酸ナトリウム1.2g・L-1、酵母エキス2.0g・L-1、アスパラギン酸0.4g・L-1、塩化マグネシウム六水和物0.2g・L-1、硫酸第一鉄七水和物0.01g・L-1、塩化カルシウム二水和物0.02g・L-1を含む。そして、この細胞培養液に二酸化チタン触媒を200g・L-1となるよう添加した後、培養液温度を20℃に保持しつつ、周波数42kHz、音圧4.7kPaで15分間、超音波を照射して、培養液中に活性酸素種を生成させた。その後、培地を新鮮なものに交換し、先と同じ条件にて培養を継続し、超音波照射時(0時)から所定時間経過した後、経時的に培養液を回収し、各時間における細胞密度、ならびにアスタキサンチンの生産量を測定した。細胞密度の測定は、トーマ型血球計算板を用い、顕微鏡下で所定量の培養液に含まれる細胞数を計数することによって行った。また、アスタキサンチンの生産量は、破砕した細胞からのメタノール抽出物を鹸化した後、逆相カラムを備えた高速液体クロマトグラフィーにて連続的に測定された470nmの吸光度より決定した。
【0032】
[結果]
図2に示すように、測定した各時間において、超音波を照射した場合(曲線A)のほうが、超音波照射なしの場合(曲線B)よりも、細胞1個あたりのアスタキサンチン生産量は増大した。また、図3に示すように、測定した各時間において、超音波を照射した場合(曲線A)のほうが、超音波照射なしの場合(曲線B)よりも、培養液1mLあたりのアスタキサンチン生産量は増大した。
【0033】
このように、細胞1個あたりのアスタキサンチン量および培養液全体のアスタキサンチン量のいずれもが、超音波を照射した場合に高くなる結果となり、超音波を照射することによって、実際にアスタキサンチンの生産性が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明は、超音波を照射して、細胞の培養系に活性酸素種を生成させ、その活性酸素ストレスにより細胞の生理的変化を誘導して、機能性バイオプロダクトの生産性を向上する方法およびそのための装置に関するものであり、カロテノイドやポリフェノール等の機能性バイオプロダクトの生産に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の一形態に係る装置構成を概略的に示す図である。図中、「US」は超音波を表す。
【図2】本発明の一実施例に係る生産方法の結果(細胞1個あたりのアスタキサンチン生産量の経時変化)を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施例に係る生産方法の結果(培養液1mLあたりのアスタキサンチン生産量の経時変化)を示すグラフである。
【図4】活性酸素ストレスの負荷により細胞の生理状態が変化し、微細藻類のヘマトコッカス・プルビアリスにおいてアスタキサンチンが産生・蓄積されることを説明する図である。
【図5】(a)(b)は、光照射法(a)の場合と比較して、本発明に係る超音波照射法(b)のほうが培養液中の細胞全体に均一に活性酸素ストレスを負荷することができることを説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞の培養系に酸化物半導体粒子を添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含むことを特徴とする有用物質の生産方法。
【請求項2】
活性酸素ストレスによりアスタキサンチンの生産を増進するヘマトコッカス藻の培養系に二酸化チタンを添加し、この培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させる工程を含むことを特徴とするアスタキサンチンの生産方法。
【請求項3】
周波数16kHz以上1MHz以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする請求項1又は2記載の生産方法。
【請求項4】
音圧0.2kPa以上12kPa以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項5】
活性酸素ストレスにより有用物質の生産を増進する細胞を培養して、有用物質を生産するための装置であって、
前記細胞と酸化物半導体粒子とを含む培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させるストレス負荷部を備えたことを特徴とする有用物質生産用装置。
【請求項6】
活性酸素ストレスによりアスタキサンチンの生産を増進するヘマトコッカス藻を培養して、アスタキサンチンを生産するための装置であって、
前記ヘマトコッカス藻と二酸化チタンとを含む培養系に超音波を照射して活性酸素種を生成させるストレス負荷部を備えたことを特徴とするアスタキサンチン生産用装置。
【請求項7】
前記ストレス負荷部は、周波数16kHz以上1MHz以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする請求項5又は6記載の装置。
【請求項8】
前記ストレス負荷部は、音圧0.2kPa以上12kPa以下の範囲の超音波を照射することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
培養器、および、この培養器と前記ストレス負荷部とを連結する連結部を備えたことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−193986(P2008−193986A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34358(P2007−34358)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術研究助成事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】