説明

機能性分子が導入された有機磁性ナノ複合体

【課題】 生体内に投与した後、目的部位に特異的且つ効率的に集積し、各種癌および疾病を含む部位を特異的且つ安全に検出・診断することができるMRI造影剤として又は磁場療法に利用することができる安定な有機磁性ナノ複合体を提供すること。
【解決手段】 水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された、10〜100nmの範囲内の全体直径を有する磁性金属酸化物ナノ粒子と、該多糖にリンカーを介して共有結合された部位特異的機能性分子とからなる有機磁性ナノ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴イメージング(以下、MRIと略記する)により、各種の疾病、癌などの病巣部位を特異的に検出することができる造影剤として、或いは高周波磁場を照射することにより病巣部位の温度を上昇させおよび/または細胞攪乱して病巣部位のみを選択的且つ特異的に死滅させる処置において有用な機能性分子が導入された有機磁性ナノ複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
適切な形態に処方された磁性粒子、例えばデキストランマグネタイトは、それを生体に投与し、それが集中する特定部位の生体内組織や体液をMRIにより検出する画像診断や、生体に投与した後外部から電磁波を照射して特定部位に集中したデキストランマグネタイトの温度を局所的に上昇させる温熱療法において利用しうることが知られており、磁性粒子の一部は既に製品化されており、例えばMRI造影剤として臨床での診断に使用されている。しかし、デキストランマグネタイトは、生体内に投与された後、その大部分が血管循環を経て、肝臓などの細網内皮系(RES)に取り込まれるため、肝臓癌の検診などにその用途が限られており、また、最近、血管造影剤やリンパ節造影剤としての使用も試みられているが、依然として対象疾病がごく狭い範囲に限られているという問題がある。
【0003】
一方、デキストランマグネタイトに代表される磁性ナノ粒子の表面に、生体内組織や病変部位を特異的に認識する物質である部位特異的機能性分子を導入することにより、MRIなどによる画像診断や温熱治療をより広範な疾病に適用できるようにする試みがいくつかなされている。例えば、非特許文献1には、デキストラン被覆した超常磁性の単結晶性酸化鉄ナノ粒子(MION)に過ヨウ素酸ナトリウムを作用させた後、脳腫瘍特異的モノクローナル抗体と結合させてなる複合体のMRIによる脳腫瘍特異的診断への応用可能性について開示されている。また、非特許文献2には、デキストラン被覆した単結晶性酸化鉄ナノ粒子(MION)をコレサイトカイニン(CCK)と共に超音波処理することにより得られるCCKで標識したMIONの膵臓特異的MRI造影剤としての応用について開示されている。さらに、非特許文献3には、デキストラン被覆した超常磁性酸化鉄ナノ粒子(MION)にエピクロルヒドリンおよびアンモニアを作用させてアミノ基を導入した後、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−スクシニミジルと反応させ、次いでHIV−tatタンパク質由来のペプチドを結合させてなる複合体の標的細胞の細胞内磁性標識への応用について開示されている。
【0004】
特許文献1には、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド又は多糖と磁性ナノ粒子との複合体が標的分子に結合すると凝集し、NMR緩和能力が変化することを利用して標的分子を検出することが開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、場合によりリン脂質によってリポソーム状に包囲した磁性鉄系酸化物微粒子を主成分とする感熱発熱体を用いた生体内部加熱装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の複合体は、生体内における安定性、生体に対する安全性、標的部位への到達効率などに問題があり、製品化はもとより、臨床応用できる水準にも達していない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0092029号明細書
【特許文献2】特開平11−57031号公報
【非特許文献1】L.G.Remsenet.al.,American J. Neuroradiology, 17, 411 (1996)
【非特許文献2】P.Reimeret.al.,Radiology, 193, 527 (1994)
【非特許文献3】L.Josephson et.al.,Bioconjugate Chem., 10, 186 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主たる目的は、生体に投与可能で且つ病巣などの標的部位に的確且つ効率的に到達させることができる、部位特異的なMRI診断および/または高周波磁場照射による磁場治療を可能とする、機能性分子が導入された有機磁性ナノ複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、今回、磁性ナノ粒子として水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された磁性金属酸化物ナノ粒子を使用し且つそれに該多糖にリンカーを介して機能性分子を導入することにより、安定性や安全性のみならず、標的部位への特異的到達効率が格段に向上した有機磁性ナノ複合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された、10〜100nmの範囲内の全体直径を有する磁性金属酸化物ナノ粒子と、該多糖にリンカーを介して共有結合された部位特異的機能性分子とからなる有機磁性ナノ複合体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機磁性ナノ複合体は、各種疾病ないし癌の病巣部位のMRI診断用造影剤、局所磁場治療剤などとして有用である。
【0011】
以下、本発明の部位特異的機能性分子が導入された有機磁性ナノ粒子複合体(以下、導入磁性ナノ複合体と略記することがある)についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の導入磁性ナノ複合体は、原料である水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された磁性ナノ粒子(以下、原料磁性ナノ粒子と略記することがある)にリンカーを介して部位特異的機能性分子を共有結合させることにより製造することができる。
【0013】
原料磁性ナノ粒子
原料磁性ナノ粒子は、安定性、生体安全性及び細網内皮系に取込まれにくい性質を有することに加えて、粒子表面上に部位特異的な機能性分子をリンカーを介して結合させるための官能基が存在することが必要であり、かかる要件を満たす原料磁性ナノ粒子として、本発明では、水溶性のカルボキシルアルキルエーテル化多糖で被覆された磁性金属酸化物超微粒子、例えば、特許第2726520号公報に記載された多糖類のカルボキシルアルキルエーテルと磁性金属酸化物との複合体を使用するものである。
【0014】
本発明で使用する原料磁性ナノ粒子については、特許第2726520号公報の引用を以てその詳細な記述に代え、ここではその概要をのべるにとどめる。
【0015】
原料磁性ナノ粒子を構成する一方の成分である磁性金属酸化物コア粒子としては、下記式(1)
(MIIO)・M2III3 ・・・(1)
式中、MIIは2価の金属原子を表し、MIIIは3価の金属原子を表し、lは0〜1の範
囲内の数である、
で示されるものを挙げることができる。上記式(1)において、2価の金属原子MIIとしては、例えば、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、ストロンチウム、バリウム等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用することができ又は2種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することもできる。また、3価の金属原子MIIIとしては、例えば、アルミニウム、鉄、イットリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリウム等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用することができ又は2種もしくはそれ以上組み合わせて用いることもできる。
【0016】
磁性金属酸化物コア粒子としては、中でも、上記式(1)においてMIIIが3価の鉄である磁性金属酸化物、すなわち下記式(2)
(MIIO)・Fe23 ・・・(2)
式中、MIIは上記と同義であり、mは0〜1の範囲内の数である、
で示されるフェライトが好適である。ここで、MIIとしては前記式(1)で例示したのと同じ金属原子を挙げることができる。特に、MIIが2価の鉄である場合の上記式(2)の磁性金属酸化物、すなわち下記式(3)
(FeO)・Fe23 ・・・(3)
式中、nは0〜1の範囲内の数である、
で示される磁性酸化鉄は、本発明において更に好適な磁性金属酸化物として挙げることができる。なお、上記式(3)において、n=0の場合はγ−酸化鉄(γ−Fe23)であり、また、n=1の場合はマグネタイト(Fe34)である。なお、本発明において、磁性金属酸化物には、結晶水を有する磁性金属酸化物も包含される。
【0017】
原料磁性ナノ粒子を構成する他の成分、すなわち、上記磁性金属酸化物コア粒子を被覆するための水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖(還元多糖を含む、以下同様)としては、例えば、グルコースポリマーであるデキストラン、デンプン、グリコーゲン、セルロース、プルラン、カードラン、シゾフィラン、レンチナン、ペスタロチアン等;フルクトースポリマーであるイヌリン、レバン等;マンノースポリマーであるマンナン等;ガラクト−スポリマーであるアガロース、ガラクタン等;キシロースポリマーであるキシラン;L−アラビノースポリマーであるアラビナン等の多糖類のカルボキシアルキルエーテル化物が挙げられ、中でも、グルコースポリマーのカルボキシアルキルエーテル化物、特にデキストラン、デンプン又はプルランのカルボキシアルキルエーテル化物が好ましく、さらに特に、カルボキシアルキルエーテル化デキストランが好適である。
【0018】
カルボキシアルキルエーテル化多糖のアルキル部分は低級アルキルであることができ、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等が挙げられるが、好ましくはメチルである。また、そのカルボキシル基は塩の形態をとることができ、塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩やアミン塩などが挙げられるが、好ましくはナトリウム塩である。更に、カルボキシアルキルエーテル化多糖の置換度は、一般に、単糖単位当り0.05〜0.5、好ましくは0.1〜0.3の範囲内である。
【0019】
カルボキシアルキルエーテル化多糖は、分子量が低すぎると複合体の安定性が低下したり、生体内での異物反応が強くなり、逆に分子量が高すぎると、複合体の多糖含量が大きくなりすぎるので、一般に、1,000〜100,000、好ましくは3,000〜50,000、更に好ましくは5,000〜20,000の範囲内の数平均分子量を有するものが適している。
【0020】
原料磁性ナノ粒子は、特許第2726520号公報に記載の方法に従い、例えば、磁性金属酸化物コア粒子を予め調製し、次いでそれにカルボキシアルキルエーテル化多糖を反応させる2ステップ法、又はカルボキシアルキルエーテル化多糖の存在下に磁性ナノ粒子を合成する1ステップ法により製造することができるが、本発明においては、幅広い性質
を有する原料磁性ナノ粒子を製造することができる1ステップ法がより好ましい。具体的には、まず、カルボキシアルキルエーテル化多糖の水溶液中に、予め2価の金属鉱酸塩および3価の金属鉱酸塩の混合溶液を加えた後、室温ないし加温下でNaOH、KOH、NH4OH等の塩基を中性ないし弱アルカリ性になるまで加え、1時間程度の加熱還流を行うことにより金属酸化物コアとそれを被覆するカルボキシアルキルエーテル化多糖との複合体を形成せしめることができる。金属酸化物コアに結合されなかった遊離のポリマーは、部位特異的機能性分子の導入効率を低下させる可能性があるので、冷却後、例えば、有機溶媒による分別沈殿、限外濾過、ゲル濾過などの方法により、副生する塩類とともに可能な限り除去することが好ましい。
【0021】
かくして得られる原料磁性ナノ粒子において、磁性金属酸化物コア粒子は、通常、1〜20nm、好ましくは2〜10nm、更に好ましくは3〜8nmの範囲内の平均直径を有することができる。本明細書において、原料磁性ナノ粒子のコアの粒子直径は透過型電子顕微鏡で測定され、平均直径は200個の粒子直径の平均値である。
【0022】
原料磁性ナノ粒子を構成するカルボキシアルキルエーテル化多糖と磁性金属酸化物コアの割合は、カルボキシアルキルエーテル化多糖/磁性金属酸化物コア中の金属の重量比で、通常1/10〜4/1、好ましくは2/10〜2/1、更に好ましくは3/10〜1/1の範囲内が適している。
【0023】
原料磁性ナノ粒子の全体粒子径は、生体内における細網内皮系の発達した臓器である肝臓等による取り込みを避けるなど観点から、小粒子径のものが好ましく、具体的には、通常10〜100nm、特に15〜50nm、更に特に15〜40nmの範囲内が好適である。本明細書において、原料磁性ナノ粒子の全体粒子径は、動的光散乱法に従いレーザー光散乱測定装置によって測定した時の値である。
【0024】
また、原料磁性ナノ粒子のT1及びT2緩和能力は、MRIによる検出感度向上などの観点から、高いことが好ましく、T1緩和能力は一般に5〜50(mM・sec)-1、特に10〜50(mM・sec)-1の範囲内にあり、T2緩和能力は一般に10〜300(mM・sec)-1、特に50〜200(mM・sec)-1の範囲内にあることが好ましい。本明細書において、T1およびT2緩和能力は20MHz(0.47テスラ)のパルスNMRでT1またはT2緩和時間を測定し、得られる緩和時間の逆数、即ち1/T1または1/T2(sec-1)と測定試料中の金属濃度(mM)との関係をグラフにプロットし、最小自乗法で求めた直線の傾きから算出される値である。なお、本明細書において測定法の記載がない物性値は、特許第2726520号公報に記載の方法に従って測定されたものである。
【0025】
部位特異的機能性分子
本発明に従い上記原料磁性ナノ粒子に導入することができる部位特異的機能性分子(以下、機能性分子と略記することがある)は、生体内の標的部位の種類などに応じて任意に選ぶことができ、標的部位を特異的に認識し、そこに結合ないし集積するような機能ないし性質を有する分子であれば、高分子のものでも低分子のものでの使用することができる。
【0026】
そのような機能性分子として、具体的には、例えば、各種癌もしくは疾病の原因病巣などの標的部位を特異的に認識し結合ないし集積することができる抗体、ペプチド、ホルモン、糖類、病変特異的に代謝・分解される基質等が挙げられる。これら中、導入磁性ナノ複合体の安定性や安全性、製造の容易さなどの観点から、比較的低分子の機能性分子、特に分子量が10,000以下のペプチド、ホルモン、糖類などの部位特異的機能性をもつ有機分子が好ましい。化学合成が容易で、その組成を自由に変換することが可能であり、エンドトキシンの可能性が低く且つ原料磁性ナノ粒子との結合量を正確かつ容易に調節することができる等の実用上多くの利点を有することから、ペプチドが殊に適している。
【0027】
本発明において使用することができるペプチドとしては、例えば、特開2003−018994号公報に開示されているRET発現細胞に特異的に結合するペプチド(以下、RBP−1という)、米国特許出願公開第2005/154187号明細書に開示されているVEGFのKDR受容体に結合するペプチド(以下、KDR−BPという)、NATURE MEDICINE, 9(9), 1173-1179 (2003) に記載されている膵臓β細胞上に発現する受容体に結合するペプチド(以下、GLP−1という)、Biochem. Biophys. Res. Comm., 320, 18-26 (2004) に記載されている細胞核内移行機能を有するペプチド(以下、C45D18という)などが挙げられる。
【0028】
導入磁性ナノ複合体の製造
本発明の導入磁性ナノ複合体は、以上に述べた原料磁性ナノ粒子と部位特異的機能性分子とをリンカーを介し共有結合させることにより製造することができる。
【0029】
リンカーとしては、例えば、一端に、原料磁性ナノ粒子表面のカルボキシアルキルエーテル多糖中の官能基、特にカルボキシル基や水酸基と共有結合することができる官能基(a)を有し、且つ他端に、機能性分子中の官能基、例えば、アミノ基、SH基、カルボキシル基、水酸基などと共有結合することができる官能基(b)を有する直鎖状もしくは分岐鎖状の有機化合物、例えば、脂肪族炭化水素や、アビジン、ストレプトアビジンなどが挙げられる。上記官能基(a)としては、例えば、カルボキシル基と共有結合可能な求核性基、特に、強固なアミド結合を形成しうるアミノ基、水酸基と共有結合可能な活性エステル基などが挙げられ、また、上記官能基(b)としては、例えば、ピリジニルジスルフィド基、マレイミド基、オレフィン基、活性エステル基、アミノ基などが挙げられ、これら官能基(b)のうち、ピリジニルジスルフィド基、マレイミド基、オレフィン基はSH基と結合し、活性エステル基はアミノ基や水酸基などの求核性基と結合し、そしてアミノ基は活性エステル基のような求電子性基と結合することができる。
【0030】
官能基(b)としては、機能性分子の大多数が抗体、ホルモン、ペプチドなどのアミノ酸単位から構成される物質であることから、これらの物質がもつ機能に実質的に影響を与えないことを考慮し、特に、アミノ酸中の存在量が少ない官能基、例えばSH基に対して結合する基を選ぶことが好ましく、例えば、SH基と強固なC−S結合を特異的かつ容易に形成しうる基であるマレイミド基が好適である〔Walker,TetrahedronLetters, 35(5), 665-668 (1994)参照〕。
【0031】
原料磁性ナノ粒子への部位特異的機能性分子の導入に際してSH基を利用することができる場合に使用可能なリンカーとして、具体的には、例えば、下記式(4)
2N−(CH2)n−X ・・・(4)
式中、Xはマレイミド基、ピリジニルジスルフィド基、オレフィン基及び活性エステル
基から選ばれる基であり、nは1〜15、好ましくは2〜10、特に2である、
で示される化合物が好適である。
【0032】
上記式(4)の中でも、Xがマレイミド基である下記式(5)で示されるリンカーは、アミノ基がカルボキシアルキルデキストランのカルボキシル基とアミド結合を形成して強固に結合するとともに、マレイミド基が機能性分子中のSH基と特異的かつ強固なC−S結合を形成するので、導入磁性ナノ複合体の化学的安定性や機能性分子の機能発現などの観点から特に好適に使用することができる。
【0033】
【化1】

したがって、上記式(5)のリンカーを用いて機能性分子と原料磁性ナノ粒子とを結合する場合において、原料の機能性分子中にSH基が存在しないとき、例えばKDR−BP、RBP−1、GLP−1のようなペプチドについては、機能性分子の化学構造中に、例えば、ペプチドのC末端側にグリシル−グリシル−システインを結合せしめることにより、予めSH基を導入することができる。これにより、上記のマレイミド系リンカーを利用して原料磁性ナノ粒子に機能性分子を容易に導入することができる。
【0034】
かかるリンカーを介しての機能性分子と原料磁性ナノ粒子との結合は、それ自体既知の方法に従って行うことができ、例えば、まず、原料磁性ナノ粒子にリンカーを結合させ、次いでそのリンカーに機能性分子を結合させてもよく、または逆に、機能性分子にリンカーを結合させ、次いでそのリンカーに原料磁性ナノ粒子を結合させるようにしてもよい。
【0035】
また、アビジン及びストレプトアビジンはビオチン4分子と特異的且つ強固に結合する。したがって、部位特異的機能性分子の導入にSH基を利用することができないような場合には、リンカーとしてアビジンまたはストレプトアビジンを使用し、それを原料磁性ナノ粒子上のカルボキシル基に例えばアミド結合により結合せしめ、一方、機能性分子の末端にはビオチンを導入しておき、アビジン−ビオチン結合により強固に結合せしめることにより、原料磁性ナノ粒子に機能性分子を導入することができる。
【0036】
原料磁性ナノ粒子に導入することができる機能性分子は、1種のみに限られるものではなく、導入磁性ナノ粒子の用途などに応じて2種もしくはそれ以上の機能性分子を導入することもでき、それによって検出診断することができる疾病の範囲を広くすることができる。
【0037】
原料磁性ナノ粒子へのリンカーの結合量は、粒子1個あたり1〜30個、好ましくは5〜25個、更に好ましくは5〜20個の範囲内であることができる。導入されるリンカーの結合量の測定方法は、その構造や導入方法によって異なるが、上記式(5)のマレイミド系リンカーの結合量は、例えば、次のようにして測定することができる。
【0038】
マレイミド系リンカーの結合量の測定法
まず、リンカーを結合せしめた原料磁性ナノ粒子のバッファー溶液を適当に希釈して試料液とする。この試料液に対し過剰の既知量のグルタチオンを添加し、リンカーと結合させる。次に、その溶液を限外濾過して未結合のグルタチオンを回収する。この未結合グルタチオンの量を、Ellman試薬〔Ellman, G. L., Arch. Biochem. Biophysic. 74, 443 (1958)参照〕として知られるSH基検出試薬を用いて定量し、結合グルタチオンの量、即ち、リンカー量を算出する。
【0039】
また、原料磁性ナノ粒子に対する機能性分子の導入量は、導入磁性ナノ粒子の用途などに応じて変えることができるが、一般には、粒子1個あたり1〜30個、好ましくは5〜25個、更に好ましくは5〜20個の範囲内であることができる。機能性分子の導入量の測定方法は、その構造や導入方法によって異なるが、本発明において最も好ましく用いられるSH基を有するペプチドの場合には、例えば、次のようにしてその導入量を測定することができる。
【0040】
SH基を有するペプチドの導入量の測定法
原料磁性ナノ粒子にリンカーを介して結合したペプチドの量は、SH基の一般的な定量法を応用することによって測定することができる。即ち、リンカーを結合させた原料磁性ナノ粒子に既知量のペプチドを反応させた後、限外濾過により回収・精製した未反応ペプチドを、前述のEllman試薬を用いて定量し、結合ペプチド量を逆算することによりペプチドの導入量を求めることができる。
【0041】
原料磁性ナノ複合体への機能性分子の導入は、さらに、例えば、米国特許第4452773号明細書、欧州特許第0452342号明細書、米国特許第5492814号明細書、Weissleder et.al.,Bioconjugate Chem, ,10, 186-191 (1999)などの文献に記載の方法によって行うこともできる。
【0042】
導入磁性ナノ複合体
かくして得られる導入磁性ナノ複合体は、原料磁性ナノ粒子がもつ物理的及び/又は化学的性質を実質的に維持しており、好ましい態様において、磁性金属酸化物コアの粒子径、カルボキシアルキルエーテル化多糖/磁性金属酸化コア中の金属の重量比、全体粒子径及びT1及びT2緩和能力はほとんど変動せず、それぞれ30%以内の変動幅内で維持されていることが望ましい。ここで、全体粒子径は、例えばCMDM等の原料磁性ナノ粒子単体では溶液のPH変動によってその数値が大きく変化することはないが、導入磁性ナノ複合体については、溶液のPH変動によりその数値が大きく変化することがある。これは、タンパクなどのコロイド粒子において一般的に多く見られる現象であるが、最適PHを選択することにより、前述のごとく原料磁性粒子単体の時の数値に対しほぼ同値となり、30%以内の変動に留めることができる。本明細書において、本発明の導入磁性ナノ複合体の全体粒子径はこれを意味する。
【0043】
有用性
本発明により提供される導入磁性ナノ複合体は、生理学的に許容される水性磁性ゾルの状態で静脈内に投与された時に、実質的に凝集したりすることがなく、標的部位に特異的に集積するという顕著な特性を有しており、各種疾病ないし癌などの病巣部位のMRI診断用造影剤や高周波磁場照射による局所磁場治療剤などとして極めて有用である。
【0044】
本発明の導入磁性ナノ複合体をMRI造影剤又は磁場治療剤として用いる場合、導入磁性ナノ複合体は水性ゾルの形で使用することが好ましい。水性ゾル中の導入磁性ナノ複合体の濃度は、その用途などに応じて広範囲にわたって変えることができるが、通常、金属換算で約0.1〜約2mol/L、特に0.3〜2mol/Lの範囲内が適している。また、該水性ゾルには、必要に応じて、例えば、塩化ナトリウム等の無機塩;ブドウ糖等の単糖類;マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール類;乳酸、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩;リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤等の生理学的に許容される種々の助剤を添加することもできる。
【0045】
本発明の導入磁性ナノ複合体をMRI造影剤として使用する場合、その投与量は、診断部位などによって異なるが、通常、金属換算で約1μmol/kg(体重)〜約10mmol/kg(体重)、好ましくは約2μmol/kg(体重)〜約1mmol/kg(体重)、更に好ましくは約5μmol/kg(体重)〜約100μmol/kg(体重)の範囲内である。投与は、例えば、静脈内、動脈内などへの注射、注入などにより行うことできるが、場合によっては、経口投与、腸内直接投与、膀胱内投与なども可能である。
【0046】
本発明の好ましい形態の導入磁性ナノ複合体は、保存安定性に優れており、例えば、静脈投与すると、導入機能性分子の性質に従って、特異的且つ効率的に数分ないし24時間
後には目的部位に集積し、MRI撮像により病変部位の診断が好適に行われる。
【0047】
一方、本発明の導入磁性ナノ複合体を磁場治療剤として使用する場合、その投与量は、処置すべき患者の症状の軽重、年齢、治療部位などによって異なるが、通常、金属換算で約10μmol/kg(体重)〜約10mmol/kg(体重)、好ましくは約20μmol/kg(体重)〜約1mmol/kg(体重)の範囲内である。投与は、前述のMRI造影剤の場合と同様、例えば、静脈内、動脈内などへの注射、注入などにより行うことができるが、場合によっては、治療部位への直接投与も可能である。
【0048】
本発明の好ましい形態の導入磁性ナノ複合体は、保存安定性に優れており、例えば、静脈投与すると、導入機能性分子の性質に従い、特異的且つ効率的に数分ないし24時間後には目的部位に集積し、高周波磁場照射を実施することにより病変部位の治療が好適に行われる。照射する高周波磁場の周波数としては、一般に20KHz〜10MHz、好ましくは50KHz〜1MHz、更に好ましくは100〜500KHzの範囲内が適当である。また、磁場強度としては、一般に1mT以上、好ましくは5mT以上、更に好ましくは10mT以上が適切である。
【0049】
本発明の導入磁性ナノ複合体の臨床的意義
近年、MRI診断下での高周波焦点照射が可能になり、病変に対するピンポイント温熱療法が施行されている。本発明の導入磁性ナノ複合体を用いるMRIによる微少病変の画像化は、このピンポイント療法を行う際のナビゲーターとなり、より精度の高い治療法の実現が可能になるものと期待される。
【0050】
原料磁性ナノ粒子に標的機能性分子を結合させ、MRIによる画像化を試みることは、幾つかの分子種について試みられてきた。例えば、モノクローナル抗体を用いることにより特異性の高い標的化が可能になる。しかし、抗体を臨床に応用する際、ヒト型抗体に変換させることが必須であることや、使用できるモノクローナル抗体の数が限られていること、また、1分子当たりの分子量が大きいために原料磁性ナノ粒子に対して再現性よく結合させるためのシステムが煩雑なこと、さらには、抗体を調製する際にエンドトキシンの混在を完全に防ぐことが困難なこと等、解決しなければならない問題が多く残されている。
【0051】
本発明は、標的機能性分子としてペプチドを使用することを可能とし、それによって上記の如き問題を一挙に解決し、MRIによる標的画像化を一般化することに成功したものである。ペプチドは化学合成によりエンドトキシンが混在しない状態で大量に取得することができ、また、アミノ酸配列を自由に変化させることにより結合性や特性性の異なるペプチドを探索することも可能であり、本発明の導入磁性ナノ複合体は潜在的に大きな可能性を有している。
【0052】
以下、本発明に従い原料磁性ナノ粒子に導入される4種のペプチド、即ち、KDR−BP、RBP−1、GLP−1及びC45D18について、それぞれのペプチドに関する概略及び期待される臨床応用性について説明する。
【0053】
KDR−BP
癌細胞の増殖には栄養血管を必要とし、例えば、転移巣が直径1〜2mmを越えて増殖するためには新生血管の増殖を伴うことが知られている(Folkman Nat. Med., 1, 27-31, 1995)。新生血管は血管内皮細胞が増殖することで形成されるが、血管内皮細胞の増殖には血管内皮細胞増殖因子(VEGF−2)とそのレセプターであるVEGF−2レセプター(KDR)が必須因子として関与している。したがて、KDRを標的機能性分子とすることにより、癌転移巣を標的化することが考えられる。実際、KDRを標的としたDNAワクチンの有効性も報告された(Niethammer et al., Nat. Med. 12, 1369-1375, 2002)。
【0054】
本発明は、KDRに結合性を示すペプチド(KDR−BP)(Hetian et al., J. Biol. Chem. 277, 43137-43142, 2002)を原料磁性ナノ粒子に結合させ、転移巣をMRIで画像化することを1つの目的としており、、KDR−BPが導入された磁性ナノ複合体を用いれば、臨床的に転移巣を検出することが可能となり、癌転移患者のQOLを最大限温存させながら治療を行うことが可能になる。
【0055】
RBP−1
小児癌の中で最も予後の悪い癌として神経芽腫が上げられる。神経芽腫ではレセプター型チロシンキナーゼRETが高頻度に発現している。29例の腫瘍組織中全例でRET遺伝子の発現が認められる(Nagao et at., Jpn. J. Cancer Res. 81, 309-312, 1990)一方、11例の同細胞株中10例で発現が認められた(Ikeda I, Oncogene, 9, 1291-1296,
1990)。また、RETに結合するモノクローナル抗体を用いることにより、神経芽腫細胞選択的な遺伝子導入も可能になっている(Yano et al., Human Gene Therapy 11, 995-1004, 2000.)。このように特異性の高い分子標的を可能にするためにRET細胞外ドメインに結合するペプチド(RBP−1)が同定されている(特開2003−018994号公報)。RBP−1は8個のアミノ酸(KAGRGRDR、アミノ酸を一文字で表記)からなるペプチドであり、中心のアルギニンをアラニンに置換したペプチド(KAGAGADR)はRETに対する結合性を示さない。即ち、中心部に位置する正荷電にチャージしたアミノ酸がRETに対する結合に必須であることが分かっている。
【0056】
かくして、本発明に従いRBP−1が導入された磁性ナノ複合体を用いれば、MRIの画像化により、例えば小骨盤腔に局在し、外科的な治療が行うことができないような神経芽腫を正確に診断した後、加療することが可能になるものと期待される。
【0057】
GLP−1
膵臓癌は症状が認められる時点ではすでに後腹壁に浸潤し、外科的手術が困難である例が多く、究めて予後の悪い悪性腫瘍として位置づけられている。GLP−1(Glucagon like peptide-1)は、消化管ペプチドホルモンであり、膵臓細胞にその受容体が発現している(Thorens, Proc. Natl. acad. Sci. USA 89, 8641-8645, 1992)。
【0058】
本発明に従いGLP−1が導入された磁性ナノ複合体を用いることによりMRI診断が可能になれば、膵臓癌の早期診断が可能になることが期待される。また、糖尿病症例において膵臓組織の変化を検出することが可能になることも期待される。
【0059】
C45D18
本ペプチドはHIV−1の遺伝子産物の一つであるVpr(Viral protein R)に由来する27個のアミノ酸からなる。Vprは96個のアミノ酸からなり、細胞の培養液に添加されると、数時間以内に細胞の中に取り込まれ、核内にまで運搬されることが知られている。この現象を司る領域としてC末側45個のアミノ酸のうち、C末端18個のアミノ酸を欠失させた部分(C45D18)が同定されている(Taguchi et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 320, 18-26, 2004)。さらにこの機能を用いて、静止マクロファージに対する遺伝子導入が可能になったことが報告されている(Mizoguchi et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 338, 1499-1506, 2005)。このように細胞に容易に取り込まれる性質を用いることにより、体内で血液が貯留する部分の画像化が可能になると期待される。具体的な応用例として癌病変の画像化が上げられる。癌部の血管は、透過性が亢進しており、血管内から低分子化合物やナノ粒子が血管外に漏出することが知られている。このような現象はEPR(Enhanced permeation and retension)と呼ばれ、癌部の血管
が正常組織の血管とは異なる性質を有していることが示唆されている。このEPR効果を利用して、近年ナノ粒子によるDDSが試みられ、有効な治療成績が報告されている。
【0060】
したがて、本発明に従ってC45D18が導入された磁性ナノ複合体を用いれば、それが血管外に漏出し、その後速やかに細胞内に取り込まれ、腫瘍病変をMRIにより描出することが可能になると期待される。また、該C45D18が導入された磁性ナノ複合体を用いれば、癌部だけではなく、解離性動脈瘤等の血管病変で、血液が停留している病変をMRIによって画像化でき、早期の診断が可能になって症状の進行を未然に防止することが可能になり、患者予後が改善されるものと期待される。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を参考例、実施例、試験例等によりさらに具体的に説明する。
【0062】
参考例1: 原料磁性ナノ粒子の合成
カルボキメチル置換度0.20及び平均分子量約10,000のカルボキメチルデキストラン(以下CMD)517gを水1400mlに溶解し、これに1M−塩化第二鉄水溶液1010mlに塩化第一鉄・四水和物97.6gを窒素気流下で溶解した水溶液を加え、さらに約80℃に加温しながら、攪拌下に3規定水酸化ナトリウム水溶液1944mlを添加する。次いで、6規定塩酸を加えpHを7.0に調整した後、1時間30分加熱還流する。冷却後、1880Gで30分間遠心分離し、上清を限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行って、目的とするカルボキシメチルデキストランマグネタイト(以下CMDM)水性ゾル 1800mlを得た。
鉄濃度:44.2mg/ml(鉄収率83%)、磁性酸化鉄の粒子径:5.1nm、全
体の粒子径:40nm、CMD/鉄重量比:0.7、T1緩和能力:32(mM・sec)-1
2緩和能力:121(mM・sec)-1
【0063】
参考例2: デキストラン被覆磁性ナノ粒子の合成
極限粘度0.053dl/gおよび数平均分子量約2,700のカルボキシデキストラン(以下CDx)517gを水1400mlに溶解し、これに1M−塩化第二鉄水溶液570mlに塩化第一鉄・四水和物55.7gを窒素気流下で溶解した水溶液を加え、さらに約80℃に加温しながら、攪拌下に3規定水酸化ナトリウム水溶液985mlを添加する。次いで、6規定塩酸を加えpHを7.1に調整した後、1時間30分加熱還流する。冷却後、1880Gで30分間遠心分離し、上清を限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行って、目的とするカルボキシデキストランマグネタイト(以下ATDM)水性ゾル736mlを得た。
鉄濃度:59mg/ml(鉄収率90%)、磁性酸化鉄の粒子径:5.0nm、全体の
粒子径:68nm、CDx/鉄重量比:0.27、T1緩和能力:27(mM・sec)-1、T
2緩和能力:203(mM・sec)-1
【0064】
実施例1: KDR−BPの導入
(1) 参考例1で得られたCMDM 8ml(鉄濃度20mg/ml)に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下EDC) 623mg、N−ヒドロキシコハク酸イミド(以下NHS) 187mg及びN−エチルアミノマレイミド・トリフルオロ酢酸塩22mgの0.2M−ホウ酸ナトリウムバッファー溶液8mlを順次添加し、室温にて反応を行う。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行い、不要な試薬類を除去し、リンカー結合CMDMを得た。
(2) (1)で得られたリンカー結合CMDMの水溶液に、KDR−BP 9.1mgを添加し、室温にて反応させる。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルト
ン)を行い、未結合のペプチドを回収し、定量する。上清を水で希釈した後、システイン1.0mgを添加し、室温にて反応させる。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行い、上清を0.1M−リン酸ナトリウムバッファーで8mlに希釈し、KDR−BP−CMDM水性ゾルを得た(複合体番号1)。
鉄濃度:7.3mg/ml、CMD/鉄重量比:0.59、全体粒子径:36nm(p
H4)、97nm(pH7)、73nm(pH9)、T1緩和能力:28(mM・sec)-1
2緩和能力:111(mM・sec)-1、磁性ナノ粒子1個あたりのペプチド導入数:11
個。
【0065】
実施例2: RBP−1の導入
実施例1において、添加するペプチドをRBP−1 9.1mg、リンカー結合CMDMを0.1M−リン酸ナトリウムバッファー溶液とする以外は実施例1と同様に処理し、RBP−1−CMDM水性ゾルを得た(複合体番号2)。
鉄濃度:6.5mg/ml、CMD/鉄重量比:0.54、全体粒子径:45nm(p
H7)、T1緩和能力:27(mM・sec)-1、T2緩和能力:104(mM・sec)-1、磁性ナノ
粒子1個あたりのペプチド導入数:13個。
【0066】
実施例3: GLP−1の導入
実施例1において、添加するペプチドをGLP−1 5.8mgとする以外は実施例1と同様に処理し、GLP−1−CMDM水性ゾルを得た(複合体番号3)。
鉄濃度:7.7mg/ml、CMD/鉄重量比:0.53、全体粒子径:39nm(p
H4)、43nm(pH7)、43nm(pH9)、T1緩和能力:31(mM・sec)-1
2緩和能力:110(mM・sec)-1、磁性ナノ粒子1個あたりのペプチド導入数:5.2
個。
【0067】
実施例4: C45D18の導入
実施例1において、添加するペプチドをC45D18 7.6mgとする以外は実施例1と同様に処理し、C45D18−CMDM水性ゾルを得た(複合体番号4)。
鉄濃度:7.8mg/ml、CMD/鉄重量比:0.55、全体粒子径:109nm
(pH4)、100nm(pH7)、46nm(pH9)、T1緩和能力:30(mM・
sec)-1、T2緩和能力:117(mM・sec)-1、磁性ナノ粒子1個あたりのペプチド導入
数:5.9個。
【0068】
実施例5: マウス投与前処理
実施例1により得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1)0.55mlを、リン酸緩衝生理食塩水で希釈し10mlとする。これをメンブランフィルター(ポアーサイズ:0.2μm)にてろ過滅菌しながらバイアル瓶に充填した(鉄濃度:0.4mg/mL)。
【0069】
実施例6: 製剤例
実施例1により得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1) 6.0mlを、遠心限外ろ過(分画分子量50,000ダルトン)により1.5mlに濃縮し、これにD−マンニトール64mg及び1M−L−乳酸16μlを添加し、更に1M−塩酸にてpHを6.5に調整した。これをメンブランフィルター(ポアーサイズ:0.2μm)にてろ過滅菌しながらバイアル瓶に充填し、更に窒素充填した(鉄濃度:28.7mg/mL)。
【0070】
比較例1: KDR−BPの導入
(1) 参考例2で得られたATDM 8ml(鉄濃度20mg/ml)に、EDC 91mg、NHS 27mg及びN−エチルアミノマレイミド・トリフルオロ酢酸塩 6.3mgの0.2M−ホウ酸ナトリウムバッファー溶液8mlを順次添加し、室温にて反応
を行う。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行い、不要な試薬類を除去し、リンカー基結合ATDMを得た。
(2) (1)で得られたリンカー結合ATDMの水溶液に、KDR−BP 4.2mgを添加し、室温にて反応させる。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行い、未結合のペプチドを回収し、定量する。上清を水で希釈した後、システイン1.0mgを添加し、室温にて反応させる。20時間後、限外濾過(分画分子量50,000ダルトン)を行い、上清を0.1M−リン酸ナトリウムバッファーで8mlに希釈し、KDR−BP−ATDM水性ゾルを得た(複合体番号5)。
鉄濃度:7.3mg/ml、CDx/鉄重量比:0.25、全体粒子径:67nm(p
H7)、T1緩和能力:27(mM・sec)-1、T2緩和能力:189(mM・sec)-1、磁性ナノ
粒子1個あたりのペプチド導入数:5.1個。
【0071】
比較例2: RBP−1の導入
比較例1において、添加するペプチドをRBP−1 5.2mg、リンカー結合ATDMを0.1M−リン酸ナトリウムバッファー溶液とする以外は比較例1と同様に処理し、RBP−1−ATDM水性ゾルを得た(複合体番号6)。
鉄濃度:7.7mg/ml、CDx/鉄重量比:0.22、全体粒子径:67nm(p
H7)、T1緩和能力:25(mM・sec)-1、T2緩和能力:205(mM・sec)-1、磁性ナノ
粒子1個あたりのペプチド導入数:8.5個。
【0072】
上記実施例1〜4及び比較例1、2で得られた複合体番号1〜6の特性をまとめて示せば、下記表1のとおりである。
【0073】
【表1】

試験例1: 安定性試験
実施例1及び比較例1において、添加するペプチドをグルタチオンとする以外は実施例1及び比較例1と同様に処理することにより、グルタチオン−磁性ナノ複合体を得た(複合体番号7、8)。これら複合体5ml(鉄濃度0.5mg/ml)に、50mM塩化カルシウム水溶液を5ml添加した後、オートクレーブで加熱処理し、溶液の凝集の程度を目視により判定した。なお、溶液が透明な場合を○、凝集している場合を△、沈殿している場合を×とした。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

試験例2: KDR−BP in vitro
実施例1により得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1)および参考例1の原料CMDMを、KDR陽性培養細胞と陰性培養細胞に、それぞれFeとして 800μg/ml添加した。12時間後、培養液でリンスし、次いで細胞をプレートから剥がし、アクリルアミドゲルに包埋し、1.5テスラのMRI装置(SIEMENS社製)にて、T2強調画像を撮影した。その結果を図1に示す。図中、A:水のみ、B:CMDMのみ、C:陰性細胞+CMDM、D:陽性細胞+CMDM、E:陰性細胞+KDR−BP−CMDM、F:陽性細胞+KDR−BP−CMDMである。
【0075】
この結果、KDR陽性細胞にKDR−BP−CMDMを作用させた検体(図1のF)に、磁性体の集積が確認された。
【0076】
試験例3: RBP−1 in vitro
実施例2により得られたRBP−1−CMDM(複合体番号2)と、参考例1の原料CMDMを、RET陽性培養細胞と陰性培養細胞に、Feとして800μg/mlを添加した。12時間後、培養液でリンスし、次いで細胞をプレートから剥がし、アクリルアミドゲルに包埋し、1.5テスラのMRI装置(SIEMENS社製)にて、T2強調画像を撮影した。その結果を図2に示す。図中、A:水のみ、B:CMDMのみ、C:陰性細胞+CMDM、D:陽性細胞+CMDM、E:陰性細胞+KDR−BP−CMDM、F:陽性細胞+KDR−BP−CMDMである。
【0077】
この結果、RET陽性細胞にRBP−1−CMDMを作用させた検体(図2のF)に、磁性体の集積が確認された。
【0078】
試験例4: KDR−BP in vivo
実施例1により得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1)を、KDR陽性腫瘍と陰性腫瘍を移植したマウスに、Feとして体重1gあたり5μg静注し、4時間20分後に1.5テスラのMRI装置(SIEMENS社製)でMRIを撮影した。その結果を図3に示す。図3はマウスホールボディのT2強調画像である。
【0079】
この結果、KDR陽性腫瘍(矢印)が陰性腫瘍に対して黒く写り、磁性体が集積していることが確認された。
【0080】
試験例5: C45D18 in vitro
実施例4で得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)と、参考例1の原料CMDMを、HeLa細胞に、Feとして800μg/ml添加し、12時間後のMRIを1.5テスラMRI装置(SIEMENS社製)で撮影した。その結果を図4A〜Fに示す。図中、A:水のみ、B:CMDMのみ、C:HeLa細胞+CMDM、D:HeLa細胞+C45D18(2個)−CMDM、E:HeLa細胞+C45D18(6個)−CMDM、F:HeLa細胞+C45D18(10個)−CMDMである。
【0081】
この結果、C45D18−CMDMが、CMDM単体と比較して細胞内に取り込まれることが示され、また、その結合数に応じて細胞内へ取り込まれる量が多くなることが示された。
【0082】
試験例6: C45D18 in vivo
実施例4により得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)を、KDR発現腫瘍を移植したマウスに、Feとして体重1gあたり15μg静注し、1時間40分後に1.5テスラのMRI装置(SIEMENS社製)でMRIを撮影した。その結果を図5に示す。図5はマウスホールボディのT2強調画像であり、左が投与前のマウス、右が投与後のマウスである。
【0083】
この結果、投与前のマウス腫瘍(左矢印)に対して投与後のマウス腫瘍(右矢印2箇所)が黒く写り、磁性体が集積していることが確認された。
【0084】
試験例7
実施例4で得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)と参考例1の原料CMDM、及びC45D18ペプチド単体を、HeLa細胞に、Feとして800μg/ml添加し、12時間インキュベートした後の細胞に、周波数および磁場強度を特定する高周波磁場を1時間照射した。これらの細胞増殖度を調べたところ、図6のとおりであった。このことから、複合体4が磁場照射により細胞に損傷を与える効果を持つことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1A〜Fは、実施例1で得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1)及び参考例1のCMDMを、KDR陽性細胞と陰性細胞に添加した後、12時間後のMRI(T2強調画像)写真である。A:水のみ、B:CMDMのみ、C:陰性細胞+CMDM、D:陽性細胞+CMDM、E:陰性細胞+KDR−BP−CMDM、F:陽性細胞+KDR−BP−CMDMである。
【図2】図2A〜Fは、実施例2で得られたRBP−1−CMDM(複合体番号2)及び参考例1のCMDMを、RET陽性細胞と陰性細胞に添加した後、12時間後のMRI(T2強調画像)写真である。A:水のみ、B:CMDMのみ、C:陰性細胞+CMDM、D:陽性細胞+CMDM、E:陰性細胞+RBP−1−CMDM、F:陽性細胞+RBP−1−CMDMである。
【図3】図3は、実施例1で得られたKDR−BP−CMDM(複合体番号1)を、KDR陽性腫瘍と陰性腫瘍を移植したマウスに尾静脈注射し、4時間20分後のMRI画像写真である。
【図4】図4A〜Fは、実施例4で得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)及び参考例1のCMDMを、培養細胞に添加した後、12時間後のMRI画像写真である。A:水のみ、B:CMDMのみ、C:細胞+CMDM、D:細胞+C45D18(2個)−CMDM、E:細胞+C45D18(6個)−CMDM、F:細胞+C45D18(10個)−CMDMである。
【図5】図5は、実施例4で得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)を、KDR発現腫瘍を移植したマウスに尾静脈注射し、1時間40分後のMRI画像写真である。左が投与前のマウス、右が投与後のマウスである。
【図6】図6は、実施例4で得られたC45D18−CMDM(複合体番号4)、参考例1の原料CMDM及びC45D18ペプチド単体を、HeLa細胞に、Feとして800μg/ml添加し、12時間インキュベートした後の細胞に、高周波磁場を1時間照射した後の細胞増殖度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のカルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された、10〜100nmの範囲内の全体直径を有する磁性金属酸化物ナノ粒子と、該多糖とリンカーを介して共有結合された部位特異的機能性分子とからなる有機磁性ナノ複合体。
【請求項2】
カルボキシアルキルエーテル化多糖がグルコースポリマーである請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
グルコースポリマーがデキストランである請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
磁性金属酸化物ナノ粒子が5〜50(mM・sec)-1の範囲内のT1緩和能力及び10〜300(mM・sec)-1の範囲内のT2緩和能力を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
磁性金属酸化物ナノ粒子のコアが磁性酸化鉄であり、その直径が1〜20nmの範囲内にある請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
カルボキシアルキルエーテル化多糖によって被覆された磁性金属酸化物ナノ粒子が15〜40nmの範囲内の全体直径を有する請求項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
部位特異的機能性分子がペプチドである請求項1〜6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
ペプチドがKDR−BP、RBP−1、C45D18及びGLP−1から選ばれる請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合体を有効成分として含んでなるMRI造影剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合体を有効成分として含んでなる磁場療法剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−114066(P2009−114066A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48576(P2006−48576)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(501372514)国立国際医療センター総長 (11)
【出願人】(000243962)名糖産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】