機能性成分含量を高めた麦類の麦芽根及びその製造方法
本発明は、遊離アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦類の麦芽根及びその製造方法を目的とし、より詳細には、麦芽根を加工処理することにより、あるいは麦芽根より機能性成分を抽出し、当該加工品あるいは抽出物を食品、医療品あるいは化粧品の原料の一部として利用することにより、機能性を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供することを目的とする。
麦芽の製麦工程における製麦段階で適切な発芽時間、適切な乾燥又は焙燥温度、並びに適切な発芽時間及び乾燥又は焙燥温度の両者を制御することにより、麦芽根中のギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維等の機能性成分含量を増加させることが可能となり、さらに抽出溶媒での麦芽根の抽出温度を最適化することにより、抽出液中のギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維等の機能性成分の抽出量を増加させることが可能となり、したがって、それら制御を実施することによって得られる麦芽根およびその抽出物を原料として利用し、機能性を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供できる。
麦芽の製麦工程における製麦段階で適切な発芽時間、適切な乾燥又は焙燥温度、並びに適切な発芽時間及び乾燥又は焙燥温度の両者を制御することにより、麦芽根中のギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維等の機能性成分含量を増加させることが可能となり、さらに抽出溶媒での麦芽根の抽出温度を最適化することにより、抽出液中のギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維等の機能性成分の抽出量を増加させることが可能となり、したがって、それら制御を実施することによって得られる麦芽根およびその抽出物を原料として利用し、機能性を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦芽根及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸や食物繊維等は機能性成分と呼ばれ、食品添加物として広く食品に利用されている。アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、食品添加物として食品に使用することにより、食品における機能性や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年ギャバと呼ばれるγ―アミノ酪酸は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0003】
また、化粧品の分野では、天然保湿因子やコラーゲンを含む商品が注目されている。天然保湿因子は皮膚の角質層に存在し、肌の潤いを保つ重要な機能を有し、当該因子の40%が、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グルタミン酸、トレオニン、セリン、チロシン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン、リシン、グリシン、ベタインといったアミノ酸で構成されている。さらにこれらのアミノ酸は親和性が高く、素早く浸透し、皮膚細胞の代謝を促進し、潤いを与え、コラーゲンの再合成を助ける機能も有する。
【0004】
食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0005】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から知られている(特許文献1,2を参照)。
【0006】
また、穀類の中で麦類については、機能性成分を含む食品素材として、発芽小麦が機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦が食物繊維としてβ−グルカンを含有すること、大麦が遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0007】
一方、麦芽根は、麦芽の製造過程で、これまでビールおよび発泡酒に雑味を与える等の理由で取り除かれていた。
【0008】
しかしながら、本発明者の調査の結果、麦芽根の方が麦芽よりもアミノ酸含量、食物繊維等機能性成分の含量に関して豊富であることがわかった。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs,Malts and Malting, 1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、麦芽根を加工処理することにより、あるいは麦芽根より機能性成分を抽出し、当該加工品あるいは抽出物を食品、医療品あるいは化粧品の原料の一部として利用することにより、機能性を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、麦類の種子を浸麦処理後、発芽処理を行なって麦芽を製造し、発芽処理時間を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、麦類の種子の発芽処理時間を制御することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0012】
請求項2にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0014】
請求項3にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0016】
請求項4にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行って製造した麦芽根を抽出溶媒に浸漬して該麦芽根中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦芽根からの抽出液の抽出方法を提供する。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、麦芽根の抽出溶媒の温度を制御することによって、麦芽根からの、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の抽出量を調整した麦芽根からの抽出物の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の抽出量を高めた麦芽根からの抽出物を得ることができる。
【0018】
請求項5にかかる発明は、請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる麦芽根を提供する。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至3に記載の製造方法を使用することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根を得ることができる。
【0020】
請求項6にかかる発明は、請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の方法によって得られた抽出物を原料として利用した加工品を提供する。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の方法によって得られた抽出物を原料として使用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を高めた食品、医療品あるいは化粧品を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、麦芽根を加工処理することにより、あるいは麦芽根より機能性成分を抽出し、当該加工品あるいは抽出物を食品、医療品あるいは化粧品の原料の一部として利用することにより、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維など機能性成分含有量を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】発芽工程における麦芽根中のギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図1B】発芽工程における麦芽根中のギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図2】発芽工程における麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す図である。
【図3】焙燥温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】焙燥温度の違いにおける麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す図である。
【図5】麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図6】麦芽根からの抽出温度の違いにおけるギャバ含有量の変化を示す図である。
【図7】30分間における麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図8】60分間における麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図9】麦芽根粉を強力粉に0%配合して製造したパンの製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図10】麦芽根粉を強力粉に10%配合して製造したパンの製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図11】実施例4で製造したパン中のβ−グルカン含有量を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者らは、上述のように麦芽根中に含まれるギャバやその他の遊離アミノ酸、β―グルカン等の食物繊維等の機能性成分の含有量が、麦芽中に含有されている機能性成分よりも多いこと、麦芽の製造工程において、発芽処理時間(発芽日数)及び/又は発芽処理後の乾燥あるいは焙燥の温度に応じて増減すること、また、個々の機能性成分によって変化の傾向が異なり(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)、高めたい機能性成分に応じて最適な処理方法あるいは処理の程度を設定する必要があることを確認し、本発明を確立するに至った。
【0025】
本発明は、下記の段階から構成され、それらはビール、発泡酒の原料として使用される大麦麦芽の製造によって生じる麦芽根について、麦芽の製造工程における製造条件を制御することにより麦芽根中の機能性成分含有量を増加させることと、麦芽根からの効果的な機能性成分の抽出と、麦芽根およびその抽出物を含む様々な食品の製造と、麦芽根およびその抽出物を原料として使用し、食品の製造工程における製造方法あるいは製造条件を制御することで食品中の機能性成分含有量を高めた食品の製造にある。以下各段階について詳述する。なお、以下の説明では、大麦種子(品種:はるな二条)を使用した場合について説明する。
【0026】
まず、ビールや発泡酒の原料となる大麦麦芽の製造工程(以下「製麦工程」という)における麦芽加工処理の処理方法、処理条件を制御し、麦芽根中の機能性成分含有量を増加させた。
【0027】
一般に、製麦工程とは、浸麦、発芽、焙燥工程からなり、具体的には、大麦を水又は温水に浸漬し水分を吸収させ(浸麦)、次に大麦の胚芽を穀粒全長の2/3程度まで伸張させ(発芽)、その過程で酵素の生合成と貯蔵物質の一部の分解を行わせた後、乾燥加熱(焙燥)して麦芽にするまでの工程をいう。麦芽根は、かかる工程において種子から生ずる根である。
【0028】
麦芽根中に含有される機能性成分含有量を増加させる目的のため、製麦工程中における種子及び麦芽根中のこれら成分の含有量を継時的に測定した。麦芽根のサンプリングは浸麦後、発芽1日乃至6日ごとに実施し、得られたサンプルは凍結乾燥させた。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0029】
測定の結果、プロリンなどの遊離アミノ酸は、発芽工程以降、急激に含有量が増加した。多くの遊離アミノ酸の含有量は、麦芽根のほうが、麦芽の5乃至10倍程度高いことが明らかになった。また、ギャバを含む多くの遊離アミノ酸含有量は、発芽1日のサンプルが最も高かった。したがって、麦芽根の製造工程における発芽工程を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できることが分かった。
【0030】
また、焙燥温度を変化させてこれら成分の含有量を測定した。発芽後の焙燥を、それぞれ37℃、45℃、55℃および85℃で焙燥したサンプルを準備し、ギャバやその他遊離アミノ酸含有量と焙燥温度との関連を測定した。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、上と同様にサンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0031】
測定の結果、凍結乾燥したものが最も高く、また、通常焙燥よりも低温の42℃乃至55℃で焙燥することで、多くの遊離アミノ酸が増加された。ギャバについても、同様で、焙燥温度を制御することで、含有量を調節することができる。したがって、麦芽根の製造工程(焙燥温度)をも制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できる。その結果、製麦工程を制御することにより、これらの成分の含有量は大きく変化することが明かとなった。
【0032】
次いで、ギャバを含むアミノ酸含有量を高めるため、麦芽根からの効果的なアミノ酸抽出条件を検討した。みょうぎ二条の麦芽および麦芽根50mg/400μlを、異なる温度条件下(25℃乃至55℃)で30分間インキュベートし、抽出液中の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、アルギニンを除く全ての遊離アミノ酸が45℃乃至55℃での抽出が好ましく、また、ギャバでは、45℃での抽出が最も好ましいことが明らかとなった。したがって、麦芽根からのアミノ酸抽出温度を制御することにより、目的に応じて抽出物中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節でき、食品に添加する麦芽根からの抽出物の効果的な条件が明らかとなった。
【0033】
次いで、上に記載の手法で製造した麦芽根の粉砕物およびその抽出物を原料に配合し、パン、パスタ、うどん、そば、クッキーなどをそれぞれの食品の従来の手法で製造した。パンでは、従来の麦芽配合比率(0.09乃至0.36%)を大きく上回るまで配合比率を高めた。またその他の食品では、粉砕した麦芽根20乃至50%の配合比率で食品を製造した。いずれの試作品においても、それぞれ食品としての特性を保持した試作品を製造することができ、麦芽根を原料として含有する食品が可能であることが明らかになった。
【0034】
また、麦芽根およびその抽出物を上述の食品の原料に配合して製造することにより、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、麦芽根の配合比率を高めるほど、これらの成分の含有量が高くなることが明らかとなった。
【0035】
さらに、麦芽根およびその抽出物を原料に配合することにより、食品の製造工程でギャバやその他の遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。麦芽根の配合比率を高めるほど、ギャバや一部の遊離アミノ酸は、例えば、発酵食品であれば発酵段階の温度制御によって、食品の製造工程で明らかにその含有量が増加した。
【0036】
したがって、麦芽の製麦工程における適切な製麦段階での発芽時間、適切な乾燥又は焙燥温度を制御することにより、麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を増加させることが可能となり、さらには、麦芽根の抽出条件を最適化することにより、抽出液中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を増加させることが可能となる。
【0037】
本発明にしたがって、上に記載の制御を実施することによって得られる麦芽根およびその抽出物を食品の原料として利用することにより、ギャバや目的の遊離アミノ酸含有量を増加させた食品を製造することができる。
【0038】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
麦芽の製麦工程の発芽段階におけるギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量の継時的測定
麦芽根を原料とした食品中のギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量をより高めるため、製麦工程中における種子、麦芽および麦芽根(品種:はるな二条)のこれら成分の含有量を継時的に測定した。パイロット製麦工程はサッポロビール標準法にしたがった。サンプリングは浸麦後、発芽1日から6日まで日毎に実施し、得られたサンプルは凍結乾燥を行った。ギャバおよびその他遊離アミノ酸含有量の測定は、サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0040】
測定の結果、プロリンなどの遊離アミノ酸は、発芽工程以降、急激に含有量が増加した。多くの遊離アミノ酸の含有量は、麦芽根のほうが、麦芽の5乃至10倍程度高かった。ギャバを含む多くの遊離アミノ酸含有量は、発芽1日のサンプルが最も高いことが測定によって明らかになった(図1および図2)。図1は、発芽工程における麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量の変化を示し、図2は、発芽工程における麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す。したがって、麦芽の発芽工程で発芽日数を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できる。
【実施例2】
【0041】
製麦工程の焙燥温度におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定
麦芽根を原料とした食品中のギャバおよびその他遊離アミノ酸含有量をより高めるため、発芽後の焙燥を、それぞれ37℃、45℃、55℃および85℃で焙燥したサンプルを準備し、ギャバやその他遊離アミノ酸含有量と焙燥温度との関連を検討した。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
【0042】
測定の結果、凍結乾燥したものが最も高く、また、通常焙燥よりも低温の42℃乃至55℃で焙燥することで、多くの遊離アミノ酸が増加した(図3)。図3は、培燥温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す。ギャバについても、同様で、焙燥温度を制御することで、含有量を調節することができた(図4)。図4は、培燥温度の違いにおける麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す。したがって、麦芽根の製造工程(焙燥温度)を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量を調節できるが、特にギャバでは、工業的手法において、大麦を浸麦させて発芽後の大量の麦芽を凍結乾燥することは、現実的ではなく、熱処理で最大値を示した55℃の条件で乾燥処理することが適切である。
【実施例3】
【0043】
麦芽根からの効果的な遊離アミノ酸抽出条件の検討
麦芽根抽出物を食品原料として用い、ギャバを含む食品中のアミノ酸含有量を高めるため、麦芽根からの効果的なアミノ酸抽出条件を検討した。みょうぎ二条の麦芽および麦芽根50mg/400μlを、異なる温度条件下(25℃乃至55℃)で30分間インキュベートして抽出を行い、抽出液中の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、アルギニンを除く全ての遊離アミノ酸が45℃乃至55℃での抽出が好ましいことが分かった(図5)。図5は、麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す。また、ギャバでは、45℃での抽出が最も好ましいことが分かった(図6)。図6は、麦芽根からの抽出温度の違いにおけるギャバ含有量の変化を示す。また異なる品種(りょうふう)の麦芽根を用いて、同様に抽出温度と抽出時間を検討した(図7及び8)。その結果、ギャバやアスパラギン酸などでは35℃の抽出条件下で最大となり、アスパラギンやグルタミンでは65℃で最大となった。抽出時間の影響については、抽出時間を長くすると、ほとんどの遊離アミノ酸で変化しない、あるいは若干増加する傾向がある一方、アスパラギンやグルタミンでは減少する傾向が認められた。したがって、麦芽根からのアミノ酸抽出温度を制御することにより、目的に応じて抽出物中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できることが明らかとなった。
【実施例4】
【0044】
麦芽根粉を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化
実施例1と同様の麦芽(品種:はるな二条)の発芽工程で、発芽日数6日目の麦芽根を粉砕して製造した麦芽根粉を強力粉に0%、10%の割合で配合し、従来の製パン工程によって、ロールパンを製造した。これらの原料をもとにパンを製造し、パン製造工程におけるギャバやその他のアミノ酸含有量の変化を測定した(図9、10)。
【0045】
測定の結果、麦芽根粉を配合すると、遊離アミノ酸含有量が高くなったが、ギャバなど一部の遊離アミノ酸は発酵過程において含有量が増加することが明らかとなった。
【0046】
さらに上記パン中のβ‐グルカン含有量を測定した(図11参照)。遊離アミノ酸同様、麦芽根粉の配合によリ、パン中のβ‐グルカン含有量が増加することが確認された。
【実施例5】
【0047】
パスタ製造におけるギャバ含有量の変化
実施例1と同様に、麦芽(品種:はるな二条)の発芽工程を実施し、発芽日数6日目での麦芽根を粉砕した麦芽根粉を配合後、従来の製法でパスタを製造し、生地の「寝かせ工程」、つまり発酵段階におけるギャバ含有量の変化を測定した。また、パスタの原料の一部として利用する麦芽根粉に代わって、実施例1で製造した麦芽根の抽出物を添加して利用してもよい。寝かせ工程における温度は通常の製法では常温であるが、本実施例では45℃とし、例えば、原料配合比は強力粉40%、薄力粉40%、麦芽根粉20%とした。実験の結果、麦芽粉を配合し、「寝かせ工程」を経ることにより、パスタ生地中のギャバ含有量が増加することが明かとなった。
【実施例6】
【0048】
麦芽根およびその抽出物を原料に配合したうどん、そばの製造
浸麦工程のみの製麦工程を経て製造した麦芽根を粉砕した麦芽根粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対する麦芽根粉配合比を0%、20%として製造したが、麦芽根粉を20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、うどんとしての特性を保持していた。さらに麦芽粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。
【0049】
したがって、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。
【0050】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、麦芽根粉20%配合したものを比較したが、生地特性に差はみられず、麦芽根粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。
【0051】
さらに新規な麺として、中力粉50%と麦芽根粉50%を原料として、従来のそばの製造法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有しないが、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【実施例7】
【0052】
麦芽根粉を利用した揚げ物食品の製造
発芽日数を制御した麦芽または浸麦工程のみの麦芽から成る麦芽根粉をから揚げ粉に50%配合後、従来通りの手法で鶏のから揚げを調理し、から揚げ粉100%使用のから揚げと比較した。試食の結果、麦芽根粉を使用したから揚げは、旨味成分となるアミノ酸を豊富に含有しているため、旨味がより一層感じられた。また、一部の麦芽根はたんぱく質分解酵素活性を有しており、麦芽粉をから揚げ粉に配合することにより、ギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有するだけでなく、たんぱく質分解酵素が作用し、食感のジューシーなから揚げとなることが期待される。
【0053】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦芽根及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸や食物繊維等は機能性成分と呼ばれ、食品添加物として広く食品に利用されている。アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、食品添加物として食品に使用することにより、食品における機能性や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年ギャバと呼ばれるγ―アミノ酪酸は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0003】
また、化粧品の分野では、天然保湿因子やコラーゲンを含む商品が注目されている。天然保湿因子は皮膚の角質層に存在し、肌の潤いを保つ重要な機能を有し、当該因子の40%が、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グルタミン酸、トレオニン、セリン、チロシン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン、リシン、グリシン、ベタインといったアミノ酸で構成されている。さらにこれらのアミノ酸は親和性が高く、素早く浸透し、皮膚細胞の代謝を促進し、潤いを与え、コラーゲンの再合成を助ける機能も有する。
【0004】
食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0005】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から知られている(特許文献1,2を参照)。
【0006】
また、穀類の中で麦類については、機能性成分を含む食品素材として、発芽小麦が機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦が食物繊維としてβ−グルカンを含有すること、大麦が遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0007】
一方、麦芽根は、麦芽の製造過程で、これまでビールおよび発泡酒に雑味を与える等の理由で取り除かれていた。
【0008】
しかしながら、本発明者の調査の結果、麦芽根の方が麦芽よりもアミノ酸含量、食物繊維等機能性成分の含量に関して豊富であることがわかった。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs,Malts and Malting, 1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、麦芽根を加工処理することにより、あるいは麦芽根より機能性成分を抽出し、当該加工品あるいは抽出物を食品、医療品あるいは化粧品の原料の一部として利用することにより、機能性を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、麦類の種子を浸麦処理後、発芽処理を行なって麦芽を製造し、発芽処理時間を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、麦類の種子の発芽処理時間を制御することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0012】
請求項2にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0014】
請求項3にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法を提供する。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の含有量を高めた麦芽根を得ることができる。
【0016】
請求項4にかかる発明は、麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行って製造した麦芽根を抽出溶媒に浸漬して該麦芽根中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦芽根からの抽出液の抽出方法を提供する。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、麦芽根の抽出溶媒の温度を制御することによって、麦芽根からの、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の抽出量を調整した麦芽根からの抽出物の製造方法を提供することができ、その結果として、かかる機能性成分の抽出量を高めた麦芽根からの抽出物を得ることができる。
【0018】
請求項5にかかる発明は、請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる麦芽根を提供する。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至3に記載の製造方法を使用することによって、麦芽根中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦芽根を得ることができる。
【0020】
請求項6にかかる発明は、請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の方法によって得られた抽出物を原料として利用した加工品を提供する。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の方法によって得られた抽出物を原料として使用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を高めた食品、医療品あるいは化粧品を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、麦芽根を加工処理することにより、あるいは麦芽根より機能性成分を抽出し、当該加工品あるいは抽出物を食品、医療品あるいは化粧品の原料の一部として利用することにより、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸やβ−グルカンなどの食物繊維など機能性成分含有量を高めた食品、医療品、化粧品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】発芽工程における麦芽根中のギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図1B】発芽工程における麦芽根中のギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図2】発芽工程における麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す図である。
【図3】焙燥温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】焙燥温度の違いにおける麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す図である。
【図5】麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図6】麦芽根からの抽出温度の違いにおけるギャバ含有量の変化を示す図である。
【図7】30分間における麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図8】60分間における麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図9】麦芽根粉を強力粉に0%配合して製造したパンの製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図10】麦芽根粉を強力粉に10%配合して製造したパンの製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図11】実施例4で製造したパン中のβ−グルカン含有量を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者らは、上述のように麦芽根中に含まれるギャバやその他の遊離アミノ酸、β―グルカン等の食物繊維等の機能性成分の含有量が、麦芽中に含有されている機能性成分よりも多いこと、麦芽の製造工程において、発芽処理時間(発芽日数)及び/又は発芽処理後の乾燥あるいは焙燥の温度に応じて増減すること、また、個々の機能性成分によって変化の傾向が異なり(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)、高めたい機能性成分に応じて最適な処理方法あるいは処理の程度を設定する必要があることを確認し、本発明を確立するに至った。
【0025】
本発明は、下記の段階から構成され、それらはビール、発泡酒の原料として使用される大麦麦芽の製造によって生じる麦芽根について、麦芽の製造工程における製造条件を制御することにより麦芽根中の機能性成分含有量を増加させることと、麦芽根からの効果的な機能性成分の抽出と、麦芽根およびその抽出物を含む様々な食品の製造と、麦芽根およびその抽出物を原料として使用し、食品の製造工程における製造方法あるいは製造条件を制御することで食品中の機能性成分含有量を高めた食品の製造にある。以下各段階について詳述する。なお、以下の説明では、大麦種子(品種:はるな二条)を使用した場合について説明する。
【0026】
まず、ビールや発泡酒の原料となる大麦麦芽の製造工程(以下「製麦工程」という)における麦芽加工処理の処理方法、処理条件を制御し、麦芽根中の機能性成分含有量を増加させた。
【0027】
一般に、製麦工程とは、浸麦、発芽、焙燥工程からなり、具体的には、大麦を水又は温水に浸漬し水分を吸収させ(浸麦)、次に大麦の胚芽を穀粒全長の2/3程度まで伸張させ(発芽)、その過程で酵素の生合成と貯蔵物質の一部の分解を行わせた後、乾燥加熱(焙燥)して麦芽にするまでの工程をいう。麦芽根は、かかる工程において種子から生ずる根である。
【0028】
麦芽根中に含有される機能性成分含有量を増加させる目的のため、製麦工程中における種子及び麦芽根中のこれら成分の含有量を継時的に測定した。麦芽根のサンプリングは浸麦後、発芽1日乃至6日ごとに実施し、得られたサンプルは凍結乾燥させた。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0029】
測定の結果、プロリンなどの遊離アミノ酸は、発芽工程以降、急激に含有量が増加した。多くの遊離アミノ酸の含有量は、麦芽根のほうが、麦芽の5乃至10倍程度高いことが明らかになった。また、ギャバを含む多くの遊離アミノ酸含有量は、発芽1日のサンプルが最も高かった。したがって、麦芽根の製造工程における発芽工程を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できることが分かった。
【0030】
また、焙燥温度を変化させてこれら成分の含有量を測定した。発芽後の焙燥を、それぞれ37℃、45℃、55℃および85℃で焙燥したサンプルを準備し、ギャバやその他遊離アミノ酸含有量と焙燥温度との関連を測定した。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、上と同様にサンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0031】
測定の結果、凍結乾燥したものが最も高く、また、通常焙燥よりも低温の42℃乃至55℃で焙燥することで、多くの遊離アミノ酸が増加された。ギャバについても、同様で、焙燥温度を制御することで、含有量を調節することができる。したがって、麦芽根の製造工程(焙燥温度)をも制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できる。その結果、製麦工程を制御することにより、これらの成分の含有量は大きく変化することが明かとなった。
【0032】
次いで、ギャバを含むアミノ酸含有量を高めるため、麦芽根からの効果的なアミノ酸抽出条件を検討した。みょうぎ二条の麦芽および麦芽根50mg/400μlを、異なる温度条件下(25℃乃至55℃)で30分間インキュベートし、抽出液中の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、アルギニンを除く全ての遊離アミノ酸が45℃乃至55℃での抽出が好ましく、また、ギャバでは、45℃での抽出が最も好ましいことが明らかとなった。したがって、麦芽根からのアミノ酸抽出温度を制御することにより、目的に応じて抽出物中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節でき、食品に添加する麦芽根からの抽出物の効果的な条件が明らかとなった。
【0033】
次いで、上に記載の手法で製造した麦芽根の粉砕物およびその抽出物を原料に配合し、パン、パスタ、うどん、そば、クッキーなどをそれぞれの食品の従来の手法で製造した。パンでは、従来の麦芽配合比率(0.09乃至0.36%)を大きく上回るまで配合比率を高めた。またその他の食品では、粉砕した麦芽根20乃至50%の配合比率で食品を製造した。いずれの試作品においても、それぞれ食品としての特性を保持した試作品を製造することができ、麦芽根を原料として含有する食品が可能であることが明らかになった。
【0034】
また、麦芽根およびその抽出物を上述の食品の原料に配合して製造することにより、食品中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、麦芽根の配合比率を高めるほど、これらの成分の含有量が高くなることが明らかとなった。
【0035】
さらに、麦芽根およびその抽出物を原料に配合することにより、食品の製造工程でギャバやその他の遊離アミノ酸含有量の変化を測定した。麦芽根の配合比率を高めるほど、ギャバや一部の遊離アミノ酸は、例えば、発酵食品であれば発酵段階の温度制御によって、食品の製造工程で明らかにその含有量が増加した。
【0036】
したがって、麦芽の製麦工程における適切な製麦段階での発芽時間、適切な乾燥又は焙燥温度を制御することにより、麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を増加させることが可能となり、さらには、麦芽根の抽出条件を最適化することにより、抽出液中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を増加させることが可能となる。
【0037】
本発明にしたがって、上に記載の制御を実施することによって得られる麦芽根およびその抽出物を食品の原料として利用することにより、ギャバや目的の遊離アミノ酸含有量を増加させた食品を製造することができる。
【0038】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
麦芽の製麦工程の発芽段階におけるギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量の継時的測定
麦芽根を原料とした食品中のギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量をより高めるため、製麦工程中における種子、麦芽および麦芽根(品種:はるな二条)のこれら成分の含有量を継時的に測定した。パイロット製麦工程はサッポロビール標準法にしたがった。サンプリングは浸麦後、発芽1日から6日まで日毎に実施し、得られたサンプルは凍結乾燥を行った。ギャバおよびその他遊離アミノ酸含有量の測定は、サンプルを粉砕後、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子社製)を用いて各含有量を測定した。
【0040】
測定の結果、プロリンなどの遊離アミノ酸は、発芽工程以降、急激に含有量が増加した。多くの遊離アミノ酸の含有量は、麦芽根のほうが、麦芽の5乃至10倍程度高かった。ギャバを含む多くの遊離アミノ酸含有量は、発芽1日のサンプルが最も高いことが測定によって明らかになった(図1および図2)。図1は、発芽工程における麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量の変化を示し、図2は、発芽工程における麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す。したがって、麦芽の発芽工程で発芽日数を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できる。
【実施例2】
【0041】
製麦工程の焙燥温度におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定
麦芽根を原料とした食品中のギャバおよびその他遊離アミノ酸含有量をより高めるため、発芽後の焙燥を、それぞれ37℃、45℃、55℃および85℃で焙燥したサンプルを準備し、ギャバやその他遊離アミノ酸含有量と焙燥温度との関連を検討した。ギャバやその他遊離アミノ酸含有量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。
【0042】
測定の結果、凍結乾燥したものが最も高く、また、通常焙燥よりも低温の42℃乃至55℃で焙燥することで、多くの遊離アミノ酸が増加した(図3)。図3は、培燥温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す。ギャバについても、同様で、焙燥温度を制御することで、含有量を調節することができた(図4)。図4は、培燥温度の違いにおける麦芽根および麦芽中のギャバ含有量の変化を示す。したがって、麦芽根の製造工程(焙燥温度)を制御することにより、目的に応じて麦芽根中のギャバおよびその他の遊離アミノ酸含有量を調節できるが、特にギャバでは、工業的手法において、大麦を浸麦させて発芽後の大量の麦芽を凍結乾燥することは、現実的ではなく、熱処理で最大値を示した55℃の条件で乾燥処理することが適切である。
【実施例3】
【0043】
麦芽根からの効果的な遊離アミノ酸抽出条件の検討
麦芽根抽出物を食品原料として用い、ギャバを含む食品中のアミノ酸含有量を高めるため、麦芽根からの効果的なアミノ酸抽出条件を検討した。みょうぎ二条の麦芽および麦芽根50mg/400μlを、異なる温度条件下(25℃乃至55℃)で30分間インキュベートして抽出を行い、抽出液中の遊離アミノ酸含有量を測定した。その結果、アルギニンを除く全ての遊離アミノ酸が45℃乃至55℃での抽出が好ましいことが分かった(図5)。図5は、麦芽根からの抽出温度の違いにおける遊離アミノ酸含有量の変化を示す。また、ギャバでは、45℃での抽出が最も好ましいことが分かった(図6)。図6は、麦芽根からの抽出温度の違いにおけるギャバ含有量の変化を示す。また異なる品種(りょうふう)の麦芽根を用いて、同様に抽出温度と抽出時間を検討した(図7及び8)。その結果、ギャバやアスパラギン酸などでは35℃の抽出条件下で最大となり、アスパラギンやグルタミンでは65℃で最大となった。抽出時間の影響については、抽出時間を長くすると、ほとんどの遊離アミノ酸で変化しない、あるいは若干増加する傾向がある一方、アスパラギンやグルタミンでは減少する傾向が認められた。したがって、麦芽根からのアミノ酸抽出温度を制御することにより、目的に応じて抽出物中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できることが明らかとなった。
【実施例4】
【0044】
麦芽根粉を原料としたパン製造工程における遊離アミノ酸含有量の変化
実施例1と同様の麦芽(品種:はるな二条)の発芽工程で、発芽日数6日目の麦芽根を粉砕して製造した麦芽根粉を強力粉に0%、10%の割合で配合し、従来の製パン工程によって、ロールパンを製造した。これらの原料をもとにパンを製造し、パン製造工程におけるギャバやその他のアミノ酸含有量の変化を測定した(図9、10)。
【0045】
測定の結果、麦芽根粉を配合すると、遊離アミノ酸含有量が高くなったが、ギャバなど一部の遊離アミノ酸は発酵過程において含有量が増加することが明らかとなった。
【0046】
さらに上記パン中のβ‐グルカン含有量を測定した(図11参照)。遊離アミノ酸同様、麦芽根粉の配合によリ、パン中のβ‐グルカン含有量が増加することが確認された。
【実施例5】
【0047】
パスタ製造におけるギャバ含有量の変化
実施例1と同様に、麦芽(品種:はるな二条)の発芽工程を実施し、発芽日数6日目での麦芽根を粉砕した麦芽根粉を配合後、従来の製法でパスタを製造し、生地の「寝かせ工程」、つまり発酵段階におけるギャバ含有量の変化を測定した。また、パスタの原料の一部として利用する麦芽根粉に代わって、実施例1で製造した麦芽根の抽出物を添加して利用してもよい。寝かせ工程における温度は通常の製法では常温であるが、本実施例では45℃とし、例えば、原料配合比は強力粉40%、薄力粉40%、麦芽根粉20%とした。実験の結果、麦芽粉を配合し、「寝かせ工程」を経ることにより、パスタ生地中のギャバ含有量が増加することが明かとなった。
【実施例6】
【0048】
麦芽根およびその抽出物を原料に配合したうどん、そばの製造
浸麦工程のみの製麦工程を経て製造した麦芽根を粉砕した麦芽根粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対する麦芽根粉配合比を0%、20%として製造したが、麦芽根粉を20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、うどんとしての特性を保持していた。さらに麦芽粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。
【0049】
したがって、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。
【0050】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、麦芽根粉20%配合したものを比較したが、生地特性に差はみられず、麦芽根粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。
【0051】
さらに新規な麺として、中力粉50%と麦芽根粉50%を原料として、従来のそばの製造法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有しないが、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【実施例7】
【0052】
麦芽根粉を利用した揚げ物食品の製造
発芽日数を制御した麦芽または浸麦工程のみの麦芽から成る麦芽根粉をから揚げ粉に50%配合後、従来通りの手法で鶏のから揚げを調理し、から揚げ粉100%使用のから揚げと比較した。試食の結果、麦芽根粉を使用したから揚げは、旨味成分となるアミノ酸を豊富に含有しているため、旨味がより一層感じられた。また、一部の麦芽根はたんぱく質分解酵素活性を有しており、麦芽粉をから揚げ粉に配合することにより、ギャバやその他遊離アミノ酸を豊富に含有するだけでなく、たんぱく質分解酵素が作用し、食感のジューシーなから揚げとなることが期待される。
【0053】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦類の種子を浸麦処理後、発芽処理を行なって麦芽を製造し、発芽処理時間を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項2】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項3】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行い、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項4】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行って製造した麦芽根を抽出溶媒に浸漬して該麦芽根中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦芽根からの抽出液の抽出方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる麦芽根。
【請求項6】
請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の抽出方法によって得られた抽出物を原料として利用した加工品。
【請求項1】
麦類の種子を浸麦処理後、発芽処理を行なって麦芽を製造し、発芽処理時間を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項2】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行ない、当該乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項3】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行なった後、所定温度で乾燥又は焙燥処理を行い、当該発芽芽処理時間及び乾燥又は焙燥処理の処理温度を制御することにより麦芽根中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦芽根の製造方法。
【請求項4】
麦類の種子を浸麦処理し、発芽処理を行って製造した麦芽根を抽出溶媒に浸漬して該麦芽根中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦芽根からの抽出液の抽出方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の製造方法によって得られる麦芽根。
【請求項6】
請求項5に記載の麦芽根又は請求項4に記載の抽出方法によって得られた抽出物を原料として利用した加工品。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【国際公開番号】WO2005/065465
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516830(P2005−516830)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019069
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019069
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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