機能性成分含量を高めた麦類加工品及びその加工方法
本発明の目的は、任意の機能性成分をバランス良く高めるとともに、不要な酵素の活性を抑制することによって本来求められる物性および品質を保持した麦類加工品及びその加工方法を提供することを目的とする。
目的とするギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分条件に応じて、麦類の種子の浸水処理、浸水後発芽日数の制御、乾燥温度の制御、浸水後のジベレリン処理の制御を行うことによって、麦類中にギャバやその他遊離アミノ酸および食物繊維などの機能性成分含有量を増加させた麦類を得ることができ、麦類の種子からの抽出工程を制御し、ギャバやβ−グルカンなどの目的とする機能性成分に適合した抽出方法を用いることにより、機能性成分含有量を増加させる方法とその方法による加工物を提供することができる。それによって、機能性成分含有量を増加させた麦類や該加工物を食品に原料又は素材として含有することで、ギャバやβ−グルカンなどの機能性成分含有量が高い食品を提供することができる。
目的とするギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分条件に応じて、麦類の種子の浸水処理、浸水後発芽日数の制御、乾燥温度の制御、浸水後のジベレリン処理の制御を行うことによって、麦類中にギャバやその他遊離アミノ酸および食物繊維などの機能性成分含有量を増加させた麦類を得ることができ、麦類の種子からの抽出工程を制御し、ギャバやβ−グルカンなどの目的とする機能性成分に適合した抽出方法を用いることにより、機能性成分含有量を増加させる方法とその方法による加工物を提供することができる。それによって、機能性成分含有量を増加させた麦類や該加工物を食品に原料又は素材として含有することで、ギャバやβ−グルカンなどの機能性成分含有量が高い食品を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦類加工品及びその加工方法に関し、より詳細には、麦類の種子中の機能性成分を高めるための麦類加工方法及び機能性を増加させた麦類加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸や食物繊維等は機能性成分と呼ばれ、食品添加物として広く食品に利用されている。アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、食品添加物として食品に使用することにより、食品における機能性や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年ギャバ(GABA)と呼ばれるγ―アミノ酪酸は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0003】
食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0004】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から周知である(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0005】
一方、穀類の中で麦類については、小麦、ライ麦はパン、蕎麦、うどん、パスタ等の食品原料として広く使用されており、また、大麦についてはこれを発芽させて、いわゆる麦芽に加工してビール、発泡酒、ウィスキー等の醸造用原料として用いられている他、麦芽を粉砕した麦芽粉はパン製造時の発酵促進に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
また、機能性成分を含む食品素材としても、発芽小麦は機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦は食物繊維としてβ−グルカンを含有すること、また、大麦は遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0007】
しかしながら、本願発明者の研究によると、例えば大麦では、機能性成分の豊富な食品原料あるいは食品添加物に加工する場合、その加工状態に応じて機能性成分の含有量に大幅な増減を生じることが確認された。また、同一の加工処理を施したとしても個々の機能性成分によって変化の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、含有量を高めたい機能性成分に応じて最適な加工方法あるいは加工の程度を設定する必要のあることが確認された。なお、ここで言う加工状態とは、大麦種子の水あるいは温水の浸漬時間、大麦の発芽日数、乾燥(焙燥)温度及び時間、大麦種子や発芽大麦から機能性成分を抽出する場合にはその抽出温度及び時間を言う。また、大麦中には各種の酵素が存在し、使用される食品によってはそれら酵素の活性が食品本来の物性および品質を変化させてしまうことがあるため、それら酵素の活性を抑制する必要があった。
【0008】
これらの問題は、大麦のみに限らず、麦類(小麦、ライ麦、えん麦、ライ小麦)に共通する問題点である。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs,Malts and Malting, 1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、任意の機能性成分をバランス良く高めるとともに、不要な酵素の活性を抑制することによって本来求められる物性および品質を保持した麦類加工品及びその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することを特徴とする麦類加工品の製造方法より達成される。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0012】
請求項2にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理期間を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理期間を制御することによって、麦類種子中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整できるだけでなく、さらにたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性を制御でき、かかる機能性成分量が増加されてたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性が制御された麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0014】
請求項3にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することによって、麦類種子中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を調整できる麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0016】
請求項4にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0018】
請求項5にかかる発明は、麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定濃度で浸漬されることを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定濃度で浸漬されることによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0020】
請求項6にかかる発明は、麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法において、抽出溶媒の温度を制御することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である目的とする機能性成分の抽出量を調整する麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0022】
請求項7にかかる発明は、麦類の種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記種子の加工処理条件を変化させて加工種子を得、該加工種子より抽出溶液を製造することにより任意の機能性成分の抽出量を調整するようにしたことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0023】
請求項8にかかる発明は、請求項1乃至7に記載の製造方法によって得られる麦類加工品を提供する。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、請求項1乃至7に記載の製造方法を活用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品を提供できる。
【0025】
請求項9にかかる発明は、請求項8に記載の麦類加工品を利用した食品を提供する。
【0026】
請求項8に記載の麦類加工品を利用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸含有量や食物繊維含有量である機能性成分を増加させた食品を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、任意の機能性成分をバランス良く高めるとともに、不要な酵素の活性を抑制することによって本来求められる物性および品質を保持した麦類加工品及びその加工方法を提供することができ、それによってかかる機能性成分含有量を増加させた麦類加工品およびその加工方法によって製造した食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】浸水・発芽工程におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図1B】浸水・発芽工程におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図2】浸水・発芽工程中におけるたんぱく質分解酵素活性の変化を示す図である。
【図3】浸水加工処理時の水温によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】はるな二条の浸漬方法及び浸漬時間によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図5】北米産ビール大麦の浸漬方法及び浸漬時間によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図6】発芽大麦中の食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図7】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図8】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図9】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図10】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図11】発芽3日の麦芽に対する乾燥温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図12A】ジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図12B】ジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図13A】異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図13B】異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図14】30分処理の抽出温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図15】60分処理の抽出温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図16】抽出液中のβ−グルカン含有量を示す図である。
【図17】国産食用大麦と農林61号の浸水処理48時間後のギャバ含有量を示す図である。
【図18】麦芽粉配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す図である。
【図19】そば風麺の外観特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明者らは、麦類種子中に含まれるギャバやその他の遊離アミノ酸、β―グルカン等の食物繊維等の機能性成分の含有量が、加工処理方法及び加工の程度に応じて大幅に増減すること、また、同一の加工処理を施したとしても個々の機能性成分によって変化の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、増加させたい機能性成分に応じて最適な加工方法あるいは加工の程度を設定する必要があることを確認し、本発明を確立するに至った。
【0030】
本発明は、麦類の種子を以下の加工方法で処理し、さらに、その加工処理に係る処理条件を変化させて種子中の機能性成分の含有量の変化を確認することにより、任意の機能性成分の含有量を増加させる加工処理方法及びその処理条件を確立するものである。
(1)麦の種子を水又は温水に所定時間浸漬し、当該浸漬物そのもの、あるいは当該浸漬物を乾燥加工させたものあるいは乾燥加工後、粉砕した粉状物。
(2)(1)で得た浸漬物を発芽処理し、当該発芽処理の処理時間を変化させて得た発芽処理物。
(3)(2)で得た浸漬物を所定温度で乾燥処理し、かつ当該乾燥処理の処理温度を変化させて得た乾燥加工物。
(4)(1)で得た浸漬物をジベレリン処理した加工物。
(5)麦の種子を、ジベレリンを含む水又は温水に所定時間浸漬した加工物。
(6)麦の種子あるいは種子を加工処理(例えば、水又は温水に浸漬処理したもの、該浸漬処理した種子を発芽させたものあるいは更に乾燥処理したもの)して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して種子中の機能性成分を抽出し、抽出溶媒の温度を変化させて得た抽出加工物。
(7)(6)の加工処理した種子より得た抽出加工物で、該加工処理の条件を変化させて作製した加工種子を用いて得た抽出加工物。
【0031】
以下上記各項目について実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【0032】
なお、以下の説明では、大麦種子(品種:はるな二条)を使用した場合について説明する。
【実施例1】
【0033】
大麦種子の浸水加工処理及び発芽加工処理により形成された大麦加工品の機能性成分の継時的測定
大麦種子(品種:はるな二条)の浸水加工処理は、15℃の水に5時間(浸水)浸漬した後、水から揚げて15℃の雰囲気中に7時間放置(水切り)する一連の工程(計12時間)を4工程(計48時間)繰り返した。こうして得られた含水種子は凍結乾燥してから粉砕して測定用サンプルとし、当該サンプルを50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0034】
次に、浸水加工処理を施した種子を発芽加工処理する。15℃の雰囲気中で発芽を行なわせ、アミノ酸分析の時期は発芽1日−6日の1日毎測定を行なった。
【0035】
なお、各発芽サンプルは凍結乾燥した後粉砕し、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0036】
ところで、前述の浸水加工処理は、基本的に大麦から醸造用麦芽を製造する場合に実施される浸麦処理と同等である。
即ち、本発明のかかる水切り処理は種子の吸水量を増加させるために行われる。
【0037】
測定の結果を図1に示す。図中横軸の「浸水処理」、つまり種子の浸水から発芽処理における各遊離アミノ酸の含有量を見ると、全ての遊離アミノ酸が浸水加工処理前の種子に比べて増加していることがわかる。特にギャバについては、むしろその後発芽加工処理をしてしまうと逆に減少してしまう。
【0038】
また例えば、ロイシンやグルタミンは、発芽2日目あたりで最大となり、含有量だけを基準にすれば、発芽2日で発芽を止めることが適切である。その他の遊離アミノ酸も、発芽1日目以降、含有量が増加する傾向であるが、最も含有量が高まる発芽時期は個々の遊離アミノ酸によって異なっていることがわかる(図1)。したがって、適切な発芽日数で発芽を止めることにより、麦芽中における目的の遊離アミノ酸含有量を高めることが可能である。
【0039】
また同様に、加工処理した大麦種子中のたんぱく質分解酵素活性の変化を継時的に測定した。その結果、たんぱく質分解酵素活性は浸水工程以降の発芽1日目より顕著に増加し、発芽3日目にピークに達することが認められた(図2)。図2は浸水加工処理及び発芽加工処理におけるたんぱく質分解酵素活性の変化を示す。食物繊維分解酵素活性も同様に、発芽1日目より顕著に増加した。以上の結果から、例えばギャバの含有量が高く、かつたんぱく質分解酵素の活性も高い大麦加工品を得るためには、発芽加工1日−3日程度のものが良いことが確認された。あるいはギャバの含有量を高め、かつたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性の低いものを得るためには、浸水加工処理した大麦種子が適切であることがわかる。
【0040】
また、浸水処理した発芽小麦でも同様の結果が得られており、本知見は大麦のみならず、麦類全般に利用可能と考えられる。
【0041】
さらに、浸水加工処理時の水温が種子中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を調査した。5℃〜60℃の水温に12時間(浸水)浸漬した後、得られた含水種子は凍結乾燥してから粉砕して測定用サンプルとし、当該サンプルを80mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0042】
加工種子中におけるギャバやAla、Gluなどは40℃浸漬条件化で含有量が最大となった。Leu、Ileu、Argなどは温度の上昇に伴い含有量が増加し、60℃で最大値となった。またAsnやTrpは40℃で含有量が最大となったが、低温条件化(5℃)でも含有量が高い傾向が認められた。(図3)
次に、麦類種子の浸漬方法及び浸漬時間による、遊離アミノ酸含有量の影響を調べた。
【0043】
はるな二条について、本実施例で示した浸水加工処理(5時間浸水/7時間水切り)と浸水のみの2つの浸漬方法を比較検討した。両方法とも浸漬時間を24時間と48時間とした。その測定結果を図4に示す。
【0044】
5時間浸水/7時間水切り浸漬処理の場合、浸水のみの処理場合、いずれも長時間処理(48時間)ほどギャバは増加するが、一部のアミノ酸(Asn)では、浸水のみの場合、24時間処理において含有量が高くなることが分かった。また、ギャバ含有量は、24時間では浸水のみの場合の方が5時間浸水/7時間水切りより高く、48時間では5時間浸水/7時間水切りの方が浸水のみの場合よりも高くなることが分かる。
【0045】
はるな二条に換えて、北米産ビール大麦(皮性)という大麦品種をサンプルとして上記と同様の調査を行った。その結果を図5に示す。
【0046】
はるな二条同様、5時間浸水/7時間水切り浸漬処理の場合、浸水のみの処理場合、いずれも長時間処理(48時間)ほどギャバは増加するが、一部のアミノ酸(Asn)では、浸水のみの場合、24時間処理における含有量が高くなる。
【0047】
一方、ギャバ含有量は、24時間では浸水のみの場合よりも5時間浸水/7時間水切りの方が高く、48時間では5時間浸水/7時間水切りの場合よりも、浸水のみの場合の方が高くなり、上記はるな二条とは逆の傾向であった。
【0048】
即ち、いずれにしても、種子の浸漬方法あるいはその浸漬時間を調整することにより遊離アミノ酸の含有量を任意に変化させることが確認できた。
【実施例2】
【0049】
発芽大麦の製造工程における食物繊維含有量の継時的測定
発芽大麦の製造工程における食物繊維(β―グルカン)含有量を継時的に測定した。工程は麦芽製造方法と同様大麦種子を吸水させた後、15℃で発芽を行わせ、サンプリングは各段階(発芽1−6日)毎に実施した。更に、サンブルは凍結乾燥した後、粉砕し、25mg/750μlにて1時間煮沸湯浴中に入れ、定時的に攪拌した。得られたサンプルを遠心分離後、上清をFIA法にて分析し、分子量100kD以上のβ―グルカン含有量を測定した。その測定結果を図6に示す。
【0050】
図6に示されるように、β―グルカン含有量は発芽1日目以降顕著に減少することが明らかであり、発芽させない種子の状態が最も含有量が高いことがわかった。
【0051】
次に発芽大麦製造時の吸水、即ち大麦を水に浸漬し、その浸漬条件を変化させた場合にβ―グルカン含有量がどのように変化するかを測定した。本測定に使用するサンプルは実施例1で用いたものと同様、15℃の水に5時間浸漬した後、水から揚げて15℃の雰囲気中に7時間放置(水切り)する一連の工程を2工程(24時間)及び4工程(48時間)実施し、夫々を凍結乾燥したものを用いた。その測定結果を図7に示す。また、凍結乾燥でなく、熱風乾燥したサンプルについても測定を行った。当該結果を図8に示す。
【0052】
その結果、未処理大麦よりもむしろ浸漬処理を施したものの方がβ―グルカンの含有量が高いことがわかった。また、浸漬時間(工程繰返し回数)を変化させると含有量も変化することが解った。また、浸漬処理の後の乾燥方法の違いによる差は殆ど無かった。
【0053】
次に、図9、10は発芽大麦製造時の吸水方法を水の浸漬のみ(浸漬後、水切りを行わない)に変更し、かつ浸漬時間及び乾燥方法を変えて大麦中のβ―グルカンの含有量について比較検討した結果を示す。即ち、基本的な傾向は特に変化無く、吸水処理を行うことにより、処理前の種子のよりも増加することが確認された。更に浸漬処理時間(浸漬時間)を調整することによりその含有量を任意に変化させることが可能であることが確認された。また、吸水処理後、凍結乾燥を施したサンプルについては、浸漬時間を増加させると、β―グルカンの含有量はより増加する傾向が見られた。
【0054】
実施例1および2の結果から、浸水工程のみの麦芽を食品の原料として使用することにより、食品の製造工程におけるたんぱく質や食物繊維の低分子化を抑制し、かつギャバおよび遊離アミノ酸含有量や食物繊維含有量を増加させた食品を製造することが可能となる。
【実施例3】
【0055】
乾燥温度が遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
発芽後の乾燥を行う乾燥工程を異なる温度で実施し、麦芽中の遊離アミノ含有量を測定した。ところで、かかる乾燥処理は、基本的に大麦から醸造用麦芽を製造する場合に実施される焙燥処理と同等である。熱処理をせず凍結乾燥を実施したものと、37℃、42℃、55℃、85℃の条件で熱処理したものを比較した。その結果、遊離アミノ酸含有量は温度に大きな影響を受けることが明かとなった。また各種アミノ酸ごとに含有量が最大値となる温度が異なっており、ギャバ、ロイシンやグルタミンは熱処理を施さない凍結乾燥処理が最も高い含有量を示し、熱処理区では55℃が最大となった。またグルタミン酸やプロリンなどでは、37℃で最大となった(図11)。図11は、発芽3日の麦芽に対する乾燥温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す。この結果から、乾燥工程を制御することにより、目的となる麦芽中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できるが、特にギャバでは、熱処理による乾燥を実施する場合においては、最大値を示した55℃の条件で乾燥処理することが適切である。
【実施例4】
【0056】
ジベレリン処理が遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
麦芽を分解するための処理として、植物ホルモンであるジベレリンを浸水・発芽工程中に使用することにより、種子貯蔵物質の低分子化が促進されることが報告されている。そこで、浸水工程直後の発芽種子(品種:はるな二条)にジベレリンを処理し、麦芽(6日発芽:乾燥工程有)を製造後、遊離アミノ酸含有量を測定した。
【0057】
その結果、ジベレリン処理により遊離アミノ酸全てにおいて含有量が増加傾向にあったが、最大値となる処理濃度はアミノ酸ごとに異なった(図12)。また、ギャバについては処理濃度1ppmで顕著に含有量が上昇した。図12はジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す。この結果から、浸水・発芽工程において適切な濃度のジベレリン処理を実施することにより、目的となる遊離アミノ酸含有量を増加できる。
【実施例5】
【0058】
麦芽からの抽出条件が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
大麦を発芽させた麦芽からのアミノ酸抽出条件を検討し、抽出温度が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は、大麦を発芽させた麦芽を粉砕して水に所定温度で浸水することで行った。温度条件として15℃、25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃で30分間の抽出を行なった。抽出効率が最大となる温度は各アミノ酸ごとに異なっており、45℃、30分の抽出条件でギャバやプロリンなど殆どの遊離アミノ酸は最大値を示したが、旨味成分であるグルタミン酸は、低温、もしくは高温条件化で含有量が高く、45℃で最小となった(図13)。ギャバはグルタミン酸から合成されるので、45℃におけるギャバとグルタミン酸の含有量の関係は、理論的に合致する。図13は異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す。この結果から、抽出工程を制御することにより、抽出液中の目的となる遊離アミノ酸含有量を増加することができる。
【0059】
また麦類加工品のみならず、麦類種子そのものからのアミノ酸抽出条件を検討し、抽出温度、抽出時間が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は大麦種子を粉砕して水に所定温度で浸水することで行った。温度条件として25℃、35℃、45℃、55℃、65℃で30分間の抽出を行い、35℃、45℃、55℃については60分間の抽出処理を行った。
【0060】
その結果、麦類加工品同様、ギャバ含有量については30分処理、60分処理いずれにおいても45℃で最大値となった。また、処理時間が60分の方が30分と比較して、ギャバ含有量は高くなった。その他の遊離アミノ酸については、たとえばGluは60℃で最大値となったが、抽出時間は60分より30分における含有量が高くなった。一方、Trp含有量は25℃処理で最大値となった。(図14、15)
以上の結果から、麦類加工品同様、未加工の麦類種子においても抽出工程を制御することにより、抽出液中の目的となる遊離アミノ酸含有量を増加することができることが明らかとなった。
【0061】
さらにまた、発芽大麦からの抽出条件が抽出液中のβ−グルカン含有量に及ぼす影響を検討した。
【0062】
具体的には、発芽大麦からのβ−グルカン抽出条件を検討し、種子の加工処理条件が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は、発芽日数の異なる大麦を粉砕して水(45℃から70℃まで昇温、115分)で攪拌することで行った。実験の結果から、浸水のみの発芽大麦では、原麦同様、高濃度でβ−グルカン抽出液を製造できることが明かとなった(図16)。図16は抽出液中のβ−グルカン含有量を示す。
【実施例6】
【0063】
その他の大麦および小麦の浸水処理におけるギャバ含有量の継時的測定
本実施例では、実施例1の考察をふまえ、上述の実施例1〜5で使用したはるな二条以外の国産食用大麦(裸性)と農林61号(小麦)において、浸水および乾燥工程中におけるギャバ含有量の継時的変化を詳細に測定した。浸水処理は15℃で実施し、1サイクルが5時間(浸水)、7時間(水切り)からなる工程(計12時間)を4サイクル(計48時間)繰り返した後、29時間の乾燥段階(55℃から83℃へ昇温)を行なった。サンプルは粉砕後、実施例1と同様の方法でアミノ酸分析を実施した。
【0064】
測定の結果、はるな二条(大麦、皮)は浸水処理5時間でギャバ含有量は急激に増加した。その後、ギャバ含有量は浸水処理の工程で増減するが、29時間の乾燥後にサンプル中のギャバ含有量が最大となった。また国産食用大麦(裸性)や農林61号(小麦)と比較した結果(図17)、いずれのサンプルも浸水処理の工程でギャバは増加したが、国産食用大麦(裸性)は浸水処理48時間後にギャバ含有量は最大となり、乾燥後に減少した。小麦は大麦と比較して、検討調査した全ての工程において、ギャバ含有量は低かった。またギャバ以外の遊離アミノ酸については、実施例1と同様、各アミノ酸ごとに増減のパターンが異なっていた。
【0065】
実施例1および当該実施例6の結果は、本発明は大麦に限定されることなく、麦類であれば、麦類の種子を適切な浸水段階で止めることにより、種子中の目的の遊離アミノ酸含有量を高めることが可能であることを示している。
【実施例7】
【0066】
麦類の種子を制御して得た麦類加工品又はその方法を利用した食品
本発明により、浸水工程のみの麦芽を粉砕した麦芽粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対する麦芽粉配合比を0%、20%とし、比較実験を行なった。麦芽粉を20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、また茹で上がり後も、うどんとしての特性を保持していた(図18)。さらに麦芽粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。図18は、麦芽粉配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す。左上は麦芽粉0%のうどん(麺切り後)、左下は麦芽粉20%のうどん(麺切り後)、右上は麦芽粉0%のうどん(茹で上げ後)、右下は麦芽粉20%のうどん(茹で上げ後)である。したがって、たんぱく質分解酵素活性が低い、浸水工程のみの麦芽をうどんの原料として使用することで、うどんの製造工程において小麦粉のたんぱく質であるグルテンの低分子化を抑制し、程よくやわらかいコシのあるうどんが製造できるだけでなく、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。さらに、うどんだけでなく、パンの原料として使用した場合にも、同様の効果が得られることが確認された。
【0067】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、麦芽粉20%配合したものを用いて従来の製法で製造したそばを比較したが、生地特性に差はみられず、麦芽粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。
【0068】
さらに新規な麺として、中力粉50%と麦芽粉50%を原料として、従来のそばの製法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有せず、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した(図19)。図19はそば風麺の外観特性を示す。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【0069】
またその他の麺類として、パスタや中華麺にも麦芽粉を20〜50%配合したものを製造した結果、各種麺類の特性を保持していた。さらにクッキーなどのお菓子類においても、麦芽粉を20〜50%配合したものはお菓子の特性を保持していた。
【0070】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離アミノ酸や食物繊維等の機能性成分を豊富に含む麦類加工品及びその加工方法に関し、より詳細には、麦類の種子中の機能性成分を高めるための麦類加工方法及び機能性を増加させた麦類加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸や食物繊維等は機能性成分と呼ばれ、食品添加物として広く食品に利用されている。アミノ酸は様々な機能を有することが報告されており、食品添加物として食品に使用することにより、食品における機能性や品質の向上が可能となる。例えば、バリンは各種食品の風味改善を目的として利用されている。また、近年ギャバ(GABA)と呼ばれるγ―アミノ酪酸は自然界に広く分布しているアミノ酸の一種で分子式はNH2CH2CH2CH2COOHである。ギャバは、生体内において、抑制系の神経伝達物質として作用することが知られている。また、血圧降下作用、精神安定作用、腎、肝機能改善作用、アルコール代謝促進作用などが知られている。
【0003】
食物繊維は整腸作用や血糖値の上昇抑制作用など様々な機能性を有し、食物繊維を配合した飲料水等が製品化されている。
【0004】
これら機能性成分を豊富に含む食品素材としては、発芽玄米等穀類を発芽させた穀類加工品が従来から周知である(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0005】
一方、穀類の中で麦類については、小麦、ライ麦はパン、蕎麦、うどん、パスタ等の食品原料として広く使用されており、また、大麦についてはこれを発芽させて、いわゆる麦芽に加工してビール、発泡酒、ウィスキー等の醸造用原料として用いられている他、麦芽を粉砕した麦芽粉はパン製造時の発酵促進に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
また、機能性成分を含む食品素材としても、発芽小麦は機能性成分としてアミノ酸を含有すること、えん麦は食物繊維としてβ−グルカンを含有すること、また、大麦は遊離アミノ酸、食物繊維(β−グルカン)の機能性成分を含有することが知られている。
【0007】
しかしながら、本願発明者の研究によると、例えば大麦では、機能性成分の豊富な食品原料あるいは食品添加物に加工する場合、その加工状態に応じて機能性成分の含有量に大幅な増減を生じることが確認された。また、同一の加工処理を施したとしても個々の機能性成分によって変化の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、含有量を高めたい機能性成分に応じて最適な加工方法あるいは加工の程度を設定する必要のあることが確認された。なお、ここで言う加工状態とは、大麦種子の水あるいは温水の浸漬時間、大麦の発芽日数、乾燥(焙燥)温度及び時間、大麦種子や発芽大麦から機能性成分を抽出する場合にはその抽出温度及び時間を言う。また、大麦中には各種の酵素が存在し、使用される食品によってはそれら酵素の活性が食品本来の物性および品質を変化させてしまうことがあるため、それら酵素の活性を抑制する必要があった。
【0008】
これらの問題は、大麦のみに限らず、麦類(小麦、ライ麦、えん麦、ライ小麦)に共通する問題点である。
【特許文献1】特開2003−250512号公報
【特許文献2】特開2003−159017号公報
【非特許文献1】Briggs,Malts and Malting, 1998, p.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、任意の機能性成分をバランス良く高めるとともに、不要な酵素の活性を抑制することによって本来求められる物性および品質を保持した麦類加工品及びその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することを特徴とする麦類加工品の製造方法より達成される。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整した麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0012】
請求項2にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理期間を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理期間を制御することによって、麦類種子中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を調整できるだけでなく、さらにたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性を制御でき、かかる機能性成分量が増加されてたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性が制御された麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0014】
請求項3にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することによって、麦類種子中の、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を調整できる麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0016】
請求項4にかかる発明は、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品の製造方法を提供することができる。
【0018】
請求項5にかかる発明は、麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定濃度で浸漬されることを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定濃度で浸漬されることによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0020】
請求項6にかかる発明は、麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法において、抽出溶媒の温度を制御することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である目的とする機能性成分の抽出量を調整する麦類加工品の製造方法を提供できる。
【0022】
請求項7にかかる発明は、麦類の種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記種子の加工処理条件を変化させて加工種子を得、該加工種子より抽出溶液を製造することにより任意の機能性成分の抽出量を調整するようにしたことを特徴とする麦類加工品の製造方法を提供する。
【0023】
請求項8にかかる発明は、請求項1乃至7に記載の製造方法によって得られる麦類加工品を提供する。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、請求項1乃至7に記載の製造方法を活用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸や食物繊維である機能性成分の含有量を増加させた麦類加工品を提供できる。
【0025】
請求項9にかかる発明は、請求項8に記載の麦類加工品を利用した食品を提供する。
【0026】
請求項8に記載の麦類加工品を利用することによって、例えば、ギャバなどの遊離アミノ酸含有量や食物繊維含有量である機能性成分を増加させた食品を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、任意の機能性成分をバランス良く高めるとともに、不要な酵素の活性を抑制することによって本来求められる物性および品質を保持した麦類加工品及びその加工方法を提供することができ、それによってかかる機能性成分含有量を増加させた麦類加工品およびその加工方法によって製造した食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】浸水・発芽工程におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図1B】浸水・発芽工程におけるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図2】浸水・発芽工程中におけるたんぱく質分解酵素活性の変化を示す図である。
【図3】浸水加工処理時の水温によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量の変化を示す図である。
【図4】はるな二条の浸漬方法及び浸漬時間によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図5】北米産ビール大麦の浸漬方法及び浸漬時間によるギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図6】発芽大麦中の食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図7】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図8】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図9】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図10】浸水工程における食物繊維(β−グルカン)含有量の変化を示す図である。
【図11】発芽3日の麦芽に対する乾燥温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図12A】ジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図12B】ジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図13A】異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図13B】異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す図である。
【図14】30分処理の抽出温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図15】60分処理の抽出温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す図である。
【図16】抽出液中のβ−グルカン含有量を示す図である。
【図17】国産食用大麦と農林61号の浸水処理48時間後のギャバ含有量を示す図である。
【図18】麦芽粉配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す図である。
【図19】そば風麺の外観特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明者らは、麦類種子中に含まれるギャバやその他の遊離アミノ酸、β―グルカン等の食物繊維等の機能性成分の含有量が、加工処理方法及び加工の程度に応じて大幅に増減すること、また、同一の加工処理を施したとしても個々の機能性成分によって変化の傾向が異なる(即ち、機能性成分Aは含有量が増加するが、機能性成分Bは減少している)場合があり、増加させたい機能性成分に応じて最適な加工方法あるいは加工の程度を設定する必要があることを確認し、本発明を確立するに至った。
【0030】
本発明は、麦類の種子を以下の加工方法で処理し、さらに、その加工処理に係る処理条件を変化させて種子中の機能性成分の含有量の変化を確認することにより、任意の機能性成分の含有量を増加させる加工処理方法及びその処理条件を確立するものである。
(1)麦の種子を水又は温水に所定時間浸漬し、当該浸漬物そのもの、あるいは当該浸漬物を乾燥加工させたものあるいは乾燥加工後、粉砕した粉状物。
(2)(1)で得た浸漬物を発芽処理し、当該発芽処理の処理時間を変化させて得た発芽処理物。
(3)(2)で得た浸漬物を所定温度で乾燥処理し、かつ当該乾燥処理の処理温度を変化させて得た乾燥加工物。
(4)(1)で得た浸漬物をジベレリン処理した加工物。
(5)麦の種子を、ジベレリンを含む水又は温水に所定時間浸漬した加工物。
(6)麦の種子あるいは種子を加工処理(例えば、水又は温水に浸漬処理したもの、該浸漬処理した種子を発芽させたものあるいは更に乾燥処理したもの)して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して種子中の機能性成分を抽出し、抽出溶媒の温度を変化させて得た抽出加工物。
(7)(6)の加工処理した種子より得た抽出加工物で、該加工処理の条件を変化させて作製した加工種子を用いて得た抽出加工物。
【0031】
以下上記各項目について実施例を示して本発明を詳細に説明する。
【0032】
なお、以下の説明では、大麦種子(品種:はるな二条)を使用した場合について説明する。
【実施例1】
【0033】
大麦種子の浸水加工処理及び発芽加工処理により形成された大麦加工品の機能性成分の継時的測定
大麦種子(品種:はるな二条)の浸水加工処理は、15℃の水に5時間(浸水)浸漬した後、水から揚げて15℃の雰囲気中に7時間放置(水切り)する一連の工程(計12時間)を4工程(計48時間)繰り返した。こうして得られた含水種子は凍結乾燥してから粉砕して測定用サンプルとし、当該サンプルを50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0034】
次に、浸水加工処理を施した種子を発芽加工処理する。15℃の雰囲気中で発芽を行なわせ、アミノ酸分析の時期は発芽1日−6日の1日毎測定を行なった。
【0035】
なお、各発芽サンプルは凍結乾燥した後粉砕し、50mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0036】
ところで、前述の浸水加工処理は、基本的に大麦から醸造用麦芽を製造する場合に実施される浸麦処理と同等である。
即ち、本発明のかかる水切り処理は種子の吸水量を増加させるために行われる。
【0037】
測定の結果を図1に示す。図中横軸の「浸水処理」、つまり種子の浸水から発芽処理における各遊離アミノ酸の含有量を見ると、全ての遊離アミノ酸が浸水加工処理前の種子に比べて増加していることがわかる。特にギャバについては、むしろその後発芽加工処理をしてしまうと逆に減少してしまう。
【0038】
また例えば、ロイシンやグルタミンは、発芽2日目あたりで最大となり、含有量だけを基準にすれば、発芽2日で発芽を止めることが適切である。その他の遊離アミノ酸も、発芽1日目以降、含有量が増加する傾向であるが、最も含有量が高まる発芽時期は個々の遊離アミノ酸によって異なっていることがわかる(図1)。したがって、適切な発芽日数で発芽を止めることにより、麦芽中における目的の遊離アミノ酸含有量を高めることが可能である。
【0039】
また同様に、加工処理した大麦種子中のたんぱく質分解酵素活性の変化を継時的に測定した。その結果、たんぱく質分解酵素活性は浸水工程以降の発芽1日目より顕著に増加し、発芽3日目にピークに達することが認められた(図2)。図2は浸水加工処理及び発芽加工処理におけるたんぱく質分解酵素活性の変化を示す。食物繊維分解酵素活性も同様に、発芽1日目より顕著に増加した。以上の結果から、例えばギャバの含有量が高く、かつたんぱく質分解酵素の活性も高い大麦加工品を得るためには、発芽加工1日−3日程度のものが良いことが確認された。あるいはギャバの含有量を高め、かつたんぱく質分解酵素活性や食物繊維分解酵素活性の低いものを得るためには、浸水加工処理した大麦種子が適切であることがわかる。
【0040】
また、浸水処理した発芽小麦でも同様の結果が得られており、本知見は大麦のみならず、麦類全般に利用可能と考えられる。
【0041】
さらに、浸水加工処理時の水温が種子中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を調査した。5℃〜60℃の水温に12時間(浸水)浸漬した後、得られた含水種子は凍結乾燥してから粉砕して測定用サンプルとし、当該サンプルを80mg/800μlにて一晩(5℃)振とうし、アミノ酸分析装置(日本電子製)を用いて含有量を測定した。
【0042】
加工種子中におけるギャバやAla、Gluなどは40℃浸漬条件化で含有量が最大となった。Leu、Ileu、Argなどは温度の上昇に伴い含有量が増加し、60℃で最大値となった。またAsnやTrpは40℃で含有量が最大となったが、低温条件化(5℃)でも含有量が高い傾向が認められた。(図3)
次に、麦類種子の浸漬方法及び浸漬時間による、遊離アミノ酸含有量の影響を調べた。
【0043】
はるな二条について、本実施例で示した浸水加工処理(5時間浸水/7時間水切り)と浸水のみの2つの浸漬方法を比較検討した。両方法とも浸漬時間を24時間と48時間とした。その測定結果を図4に示す。
【0044】
5時間浸水/7時間水切り浸漬処理の場合、浸水のみの処理場合、いずれも長時間処理(48時間)ほどギャバは増加するが、一部のアミノ酸(Asn)では、浸水のみの場合、24時間処理において含有量が高くなることが分かった。また、ギャバ含有量は、24時間では浸水のみの場合の方が5時間浸水/7時間水切りより高く、48時間では5時間浸水/7時間水切りの方が浸水のみの場合よりも高くなることが分かる。
【0045】
はるな二条に換えて、北米産ビール大麦(皮性)という大麦品種をサンプルとして上記と同様の調査を行った。その結果を図5に示す。
【0046】
はるな二条同様、5時間浸水/7時間水切り浸漬処理の場合、浸水のみの処理場合、いずれも長時間処理(48時間)ほどギャバは増加するが、一部のアミノ酸(Asn)では、浸水のみの場合、24時間処理における含有量が高くなる。
【0047】
一方、ギャバ含有量は、24時間では浸水のみの場合よりも5時間浸水/7時間水切りの方が高く、48時間では5時間浸水/7時間水切りの場合よりも、浸水のみの場合の方が高くなり、上記はるな二条とは逆の傾向であった。
【0048】
即ち、いずれにしても、種子の浸漬方法あるいはその浸漬時間を調整することにより遊離アミノ酸の含有量を任意に変化させることが確認できた。
【実施例2】
【0049】
発芽大麦の製造工程における食物繊維含有量の継時的測定
発芽大麦の製造工程における食物繊維(β―グルカン)含有量を継時的に測定した。工程は麦芽製造方法と同様大麦種子を吸水させた後、15℃で発芽を行わせ、サンプリングは各段階(発芽1−6日)毎に実施した。更に、サンブルは凍結乾燥した後、粉砕し、25mg/750μlにて1時間煮沸湯浴中に入れ、定時的に攪拌した。得られたサンプルを遠心分離後、上清をFIA法にて分析し、分子量100kD以上のβ―グルカン含有量を測定した。その測定結果を図6に示す。
【0050】
図6に示されるように、β―グルカン含有量は発芽1日目以降顕著に減少することが明らかであり、発芽させない種子の状態が最も含有量が高いことがわかった。
【0051】
次に発芽大麦製造時の吸水、即ち大麦を水に浸漬し、その浸漬条件を変化させた場合にβ―グルカン含有量がどのように変化するかを測定した。本測定に使用するサンプルは実施例1で用いたものと同様、15℃の水に5時間浸漬した後、水から揚げて15℃の雰囲気中に7時間放置(水切り)する一連の工程を2工程(24時間)及び4工程(48時間)実施し、夫々を凍結乾燥したものを用いた。その測定結果を図7に示す。また、凍結乾燥でなく、熱風乾燥したサンプルについても測定を行った。当該結果を図8に示す。
【0052】
その結果、未処理大麦よりもむしろ浸漬処理を施したものの方がβ―グルカンの含有量が高いことがわかった。また、浸漬時間(工程繰返し回数)を変化させると含有量も変化することが解った。また、浸漬処理の後の乾燥方法の違いによる差は殆ど無かった。
【0053】
次に、図9、10は発芽大麦製造時の吸水方法を水の浸漬のみ(浸漬後、水切りを行わない)に変更し、かつ浸漬時間及び乾燥方法を変えて大麦中のβ―グルカンの含有量について比較検討した結果を示す。即ち、基本的な傾向は特に変化無く、吸水処理を行うことにより、処理前の種子のよりも増加することが確認された。更に浸漬処理時間(浸漬時間)を調整することによりその含有量を任意に変化させることが可能であることが確認された。また、吸水処理後、凍結乾燥を施したサンプルについては、浸漬時間を増加させると、β―グルカンの含有量はより増加する傾向が見られた。
【0054】
実施例1および2の結果から、浸水工程のみの麦芽を食品の原料として使用することにより、食品の製造工程におけるたんぱく質や食物繊維の低分子化を抑制し、かつギャバおよび遊離アミノ酸含有量や食物繊維含有量を増加させた食品を製造することが可能となる。
【実施例3】
【0055】
乾燥温度が遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
発芽後の乾燥を行う乾燥工程を異なる温度で実施し、麦芽中の遊離アミノ含有量を測定した。ところで、かかる乾燥処理は、基本的に大麦から醸造用麦芽を製造する場合に実施される焙燥処理と同等である。熱処理をせず凍結乾燥を実施したものと、37℃、42℃、55℃、85℃の条件で熱処理したものを比較した。その結果、遊離アミノ酸含有量は温度に大きな影響を受けることが明かとなった。また各種アミノ酸ごとに含有量が最大値となる温度が異なっており、ギャバ、ロイシンやグルタミンは熱処理を施さない凍結乾燥処理が最も高い含有量を示し、熱処理区では55℃が最大となった。またグルタミン酸やプロリンなどでは、37℃で最大となった(図11)。図11は、発芽3日の麦芽に対する乾燥温度がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す。この結果から、乾燥工程を制御することにより、目的となる麦芽中のギャバやその他の遊離アミノ酸含有量を調節できるが、特にギャバでは、熱処理による乾燥を実施する場合においては、最大値を示した55℃の条件で乾燥処理することが適切である。
【実施例4】
【0056】
ジベレリン処理が遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
麦芽を分解するための処理として、植物ホルモンであるジベレリンを浸水・発芽工程中に使用することにより、種子貯蔵物質の低分子化が促進されることが報告されている。そこで、浸水工程直後の発芽種子(品種:はるな二条)にジベレリンを処理し、麦芽(6日発芽:乾燥工程有)を製造後、遊離アミノ酸含有量を測定した。
【0057】
その結果、ジベレリン処理により遊離アミノ酸全てにおいて含有量が増加傾向にあったが、最大値となる処理濃度はアミノ酸ごとに異なった(図12)。また、ギャバについては処理濃度1ppmで顕著に含有量が上昇した。図12はジベレリン処理がギャバやその他遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響を示す。この結果から、浸水・発芽工程において適切な濃度のジベレリン処理を実施することにより、目的となる遊離アミノ酸含有量を増加できる。
【実施例5】
【0058】
麦芽からの抽出条件が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に及ぼす影響
大麦を発芽させた麦芽からのアミノ酸抽出条件を検討し、抽出温度が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は、大麦を発芽させた麦芽を粉砕して水に所定温度で浸水することで行った。温度条件として15℃、25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃で30分間の抽出を行なった。抽出効率が最大となる温度は各アミノ酸ごとに異なっており、45℃、30分の抽出条件でギャバやプロリンなど殆どの遊離アミノ酸は最大値を示したが、旨味成分であるグルタミン酸は、低温、もしくは高温条件化で含有量が高く、45℃で最小となった(図13)。ギャバはグルタミン酸から合成されるので、45℃におけるギャバとグルタミン酸の含有量の関係は、理論的に合致する。図13は異なる抽出温度でのギャバやその他遊離アミノ酸含有量を示す。この結果から、抽出工程を制御することにより、抽出液中の目的となる遊離アミノ酸含有量を増加することができる。
【0059】
また麦類加工品のみならず、麦類種子そのものからのアミノ酸抽出条件を検討し、抽出温度、抽出時間が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は大麦種子を粉砕して水に所定温度で浸水することで行った。温度条件として25℃、35℃、45℃、55℃、65℃で30分間の抽出を行い、35℃、45℃、55℃については60分間の抽出処理を行った。
【0060】
その結果、麦類加工品同様、ギャバ含有量については30分処理、60分処理いずれにおいても45℃で最大値となった。また、処理時間が60分の方が30分と比較して、ギャバ含有量は高くなった。その他の遊離アミノ酸については、たとえばGluは60℃で最大値となったが、抽出時間は60分より30分における含有量が高くなった。一方、Trp含有量は25℃処理で最大値となった。(図14、15)
以上の結果から、麦類加工品同様、未加工の麦類種子においても抽出工程を制御することにより、抽出液中の目的となる遊離アミノ酸含有量を増加することができることが明らかとなった。
【0061】
さらにまた、発芽大麦からの抽出条件が抽出液中のβ−グルカン含有量に及ぼす影響を検討した。
【0062】
具体的には、発芽大麦からのβ−グルカン抽出条件を検討し、種子の加工処理条件が抽出液中の遊離アミノ酸含有量に与える影響を測定した。抽出は、発芽日数の異なる大麦を粉砕して水(45℃から70℃まで昇温、115分)で攪拌することで行った。実験の結果から、浸水のみの発芽大麦では、原麦同様、高濃度でβ−グルカン抽出液を製造できることが明かとなった(図16)。図16は抽出液中のβ−グルカン含有量を示す。
【実施例6】
【0063】
その他の大麦および小麦の浸水処理におけるギャバ含有量の継時的測定
本実施例では、実施例1の考察をふまえ、上述の実施例1〜5で使用したはるな二条以外の国産食用大麦(裸性)と農林61号(小麦)において、浸水および乾燥工程中におけるギャバ含有量の継時的変化を詳細に測定した。浸水処理は15℃で実施し、1サイクルが5時間(浸水)、7時間(水切り)からなる工程(計12時間)を4サイクル(計48時間)繰り返した後、29時間の乾燥段階(55℃から83℃へ昇温)を行なった。サンプルは粉砕後、実施例1と同様の方法でアミノ酸分析を実施した。
【0064】
測定の結果、はるな二条(大麦、皮)は浸水処理5時間でギャバ含有量は急激に増加した。その後、ギャバ含有量は浸水処理の工程で増減するが、29時間の乾燥後にサンプル中のギャバ含有量が最大となった。また国産食用大麦(裸性)や農林61号(小麦)と比較した結果(図17)、いずれのサンプルも浸水処理の工程でギャバは増加したが、国産食用大麦(裸性)は浸水処理48時間後にギャバ含有量は最大となり、乾燥後に減少した。小麦は大麦と比較して、検討調査した全ての工程において、ギャバ含有量は低かった。またギャバ以外の遊離アミノ酸については、実施例1と同様、各アミノ酸ごとに増減のパターンが異なっていた。
【0065】
実施例1および当該実施例6の結果は、本発明は大麦に限定されることなく、麦類であれば、麦類の種子を適切な浸水段階で止めることにより、種子中の目的の遊離アミノ酸含有量を高めることが可能であることを示している。
【実施例7】
【0066】
麦類の種子を制御して得た麦類加工品又はその方法を利用した食品
本発明により、浸水工程のみの麦芽を粉砕した麦芽粉を用いて、従来の製法でうどんを製造した。中力粉に対する麦芽粉配合比を0%、20%とし、比較実験を行なった。麦芽粉を20%配合した場合、色合い以外の生地特性に大きな差異は見られず、また茹で上がり後も、うどんとしての特性を保持していた(図18)。さらに麦芽粉の配合比率を50%とし、うどんを製造したが、20%配合比と同様、うどんとしての特性を有していた。図18は、麦芽粉配合比0%と20%のうどんにおける外観特性を示す。左上は麦芽粉0%のうどん(麺切り後)、左下は麦芽粉20%のうどん(麺切り後)、右上は麦芽粉0%のうどん(茹で上げ後)、右下は麦芽粉20%のうどん(茹で上げ後)である。したがって、たんぱく質分解酵素活性が低い、浸水工程のみの麦芽をうどんの原料として使用することで、うどんの製造工程において小麦粉のたんぱく質であるグルテンの低分子化を抑制し、程よくやわらかいコシのあるうどんが製造できるだけでなく、ギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有するうどんが製造できる。さらに、うどんだけでなく、パンの原料として使用した場合にも、同様の効果が得られることが確認された。
【0067】
また、そばについても、そば粉60%に中力粉40%を配合したものと、そば粉60%に中力粉20%、麦芽粉20%配合したものを用いて従来の製法で製造したそばを比較したが、生地特性に差はみられず、麦芽粉20%配合比においても、そばとしての特性を保持していた。
【0068】
さらに新規な麺として、中力粉50%と麦芽粉50%を原料として、従来のそばの製法でそば風麺を製造した。その結果、そば粉を有せず、色合いなどの外観はそばと同一の特性を有する、そば風麺を製造することに成功した(図19)。図19はそば風麺の外観特性を示す。そば風麺は、そば粉を全く使用していないので、そばアレルギーの心配がなく、さらにギャバやその他の遊離アミノ酸を豊富に含有することを特徴とする。
【0069】
またその他の麺類として、パスタや中華麺にも麦芽粉を20〜50%配合したものを製造した結果、各種麺類の特性を保持していた。さらにクッキーなどのお菓子類においても、麦芽粉を20〜50%配合したものはお菓子の特性を保持していた。
【0070】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項2】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項3】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項4】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項5】
麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定時間浸漬されることを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項6】
麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項7】
麦類の種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記種子の加工処理条件を変化させて加工種子を得、該加工種子より抽出溶液を製造することにより任意の機能性成分の抽出量を調整するようにしたことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の製造方法によって得られる麦類加工品。
【請求項9】
請求項8に記載の麦類加工品を利用した食品。
【請求項1】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項2】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行ない、当該発芽処理の処理を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項3】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行ない、当該乾燥処理の処理温度を制御することにより麦類種子中の任意の機能性成分の含有量を調整したことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項4】
麦類の種子を水又は温水に所定時間浸漬後、ジベレリン処理することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項5】
麦類の種子はジベレリンを含む水又は温水にて所定時間浸漬されることを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項6】
麦類の種子あるいは種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、抽出溶媒の温度を制御することにより任意の機能性成分の抽出量を調整することを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項7】
麦類の種子を加工処理して得た加工種子を抽出溶媒に浸漬して麦類種子中の機能性成分を抽出した抽出溶液を製造する方法であって、前記種子の加工処理条件を変化させて加工種子を得、該加工種子より抽出溶液を製造することにより任意の機能性成分の抽出量を調整するようにしたことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の製造方法によって得られる麦類加工品。
【請求項9】
請求項8に記載の麦類加工品を利用した食品。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【国際公開番号】WO2005/055742
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516176(P2005−516176)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018407
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/018407
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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