説明

機能性食材

【課題】 アントシアニンの流亡をなくし、得られる色素米にアントシアニンとGABAを豊富に含む色素米を製造する方法を提供すること
【解決手段】 色素米を処理した処理水を、濾過又は遠心分離処理して微生物および懸濁物を除去し、これを前記色素米の処理水として繰り返し使用する。処理工程は洗浄工程とGABAの蓄積工程を含む。濾過はメンブレンフィルター又は濾過助剤をコーティングした濾過装置を用いて行うことが好ましい。得られる色素米は、アントシアニンとGABAを多く含んでいるので、健康食品として、あるいは健康食品の材料として適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアントシアニンとγ−アミノ酪酸を多く含有する色素米の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国で栽培されている色素米である紫黒米は、糯米で、その色素は糠部分にだけ含まれている。糠部分にあるアントシアニン色素は強い抗酸化能を持ち、現代人の健康機能によい効果を有することで、各種のアントシアニン色素が抽出され、健康食品などとして利用されている。一方、γ‐アミノ酪酸(GABA)は血圧上昇抑制効果、脳血流増加作用、脳への酸素供給量増加作用のあることが最近の研究で解ってきた。
【0003】
現在、GABAを強化した米として、発芽玄米が販売されている。発芽玄米は、玄米を嫌気的な状況下において40℃前後の温水に浸漬して3〜7日間保持して玄米の胚芽部分のグルタミン酸脱炭酸酵素によりグルタミン酸をGABAに変えている。しかし、玄米の表面には多量に土壌微生物が付着しており、そのためにGABAの生成よりも速い速度で微生物の増殖が進み、好ましくない物質の産生が起き、異味、異臭を発生させることになり、発芽玄米の味を悪くしている。本発明者の検討によると、発芽玄米を製造するに際し、玄米を洗浄しないで温水を加えて発芽処理を行うと24時間後には異臭がし、2日後には処理水中の微生物数は1×10個以上となり食用に適さなくなる。そのために発芽玄米を製造する際には多量の水で玄米を洗浄して付着する微生物や異物を除去する必要がある。
【0004】
ところが、色素米の場合は、その中に含まれる色素が水に溶けやすく、米に付着する異物や微生物などを除くために洗浄すると米の色素が洗浄水に溶け出してくる。赤飯など普通に使用する場合には十分な洗浄を行わないままに米を研いだ後に、それほど長い時間を置くことなく炊飯している。このように水洗後短時間のうちに加熱殺菌操作が加わるような場合には、米に付着する微生物の増殖による色素米の汚染の心配はそれほど重大ではない。しかし、色素米を利用してGABAを有する食品を調製する際には、玄米の表面に多量に付着する土壌微生物の影響を無視することはできず、洗浄することで有用な色素の琉亡が起きることは避けなければならない。これら微生物の悪影響をなくし、米の持つ酵素作用を利用するには、色素米の色素を流亡させることなく、微生物を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−45135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで多くのGABA含有食品及び健康食品が上梓されている。しかし、そのいずれも微生物管理が不十分であるために微生物による腐敗が起きて異臭があり、さらに炊飯したときに異味を感じさせる。植物素材の保有する酵素を利用する際には、微生物の繁殖を少なくするためには、加温流水中で酵素作用を促進させることで問題はなくなるが、洗浄水の加温と水量が多くなり、コストが掛かる。
色素米の1種である紫黒米に含まれるアントシアニン量は約3%程度あるが、糠部分に含まれる色素は水に溶けやすく、洗浄すると洗浄水に溶出してくる。紫黒米の特徴はアントシアニン色素にあるのでこれを流亡することは避けなければならない。しかし、玄米の表面の異物や微生物を除かなければ紫黒米の酵素を利用した自然の形のGABAの生成は不可能である。
従って、本発明の目的は、アントシアニンの流亡をなくし、得られる色素米にアントシアニンとGABAを豊富に含む色素米を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者はGABAの生成条件下で微生物の影響を除くために、色素米の処理水中の微生物を除き、アントシアニン色素を回収する方法を検討した。その結果、色素米の洗浄水を繰り返し遠心分離及び又は濾過して菌体と懸濁物を除き、回収した処理水を反復使用することにより、懸濁物および微生物を除去してGABAを富化した色素米をつくることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1.色素米を水で処理してGABAを含む色素米を製造する方法であって、色素米を処理した処理水を、濾過又は遠心分離処理して微生物および懸濁物を除去し、前記色素米の処理水として繰り返し使用して色素の流亡をなくすことを特徴とする、アントシアニンとGABAを含む色素米の製造法。
2.濾過はメンブレンフィルター又は濾過助剤をコーティングした濾過装置を用いて行うことを特徴とする前記1の製造法。
3.前記1又は2の製造法により得られるアントシアニンとGABAを含む色素米。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により製造した色素米は、色素の流亡がなく、アントシアニンとGABAを豊富に含有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における色素米とは、例えば、紫黒米である。色素米は外皮の糠の中にアントシアニン色素を保有しており、搗精した精米部分には色素は含まれていない。多くの場合、色素米のアントシアニンを利用するに際しては精米して糠部分を取りだして利用している。色素米全体を利用するためには洗浄して玄米表面の微生物や異物を取り除く必要がある。しかし色素米を洗浄すると表皮に含まれるアントシアニン色素が溶出してくるために、色素米の洗浄を充分に行うことは不都合である。本発明においては、色素米を水で処理するが、処理後の水を濾過又は遠心分離処理し、色素米の処理水として繰り返し使用することにより、色素米の表面に付着する異物や微生物を除去しつつ必要なGABAを色素米に生成させてアントシアニン色素を減少させることなくGABAを保有する色素米とするものである。
【0011】
色素米の水による処理は、バッチ式でも連続式でも差支えない。例えば、攪拌機のついたタンクを利用し攪拌する方法、カラムを利用し、アップフローで通水する方法等が例示できる。
処理水は、色素米と分離した後、濾過及び又は遠心分離により微生物や懸濁物と分離する。透過水と微生物や懸濁物が濃縮された非透過水に分離し、透過水は再び色素米の処理に回し、非透過水は色素を回収した後、残渣を廃棄する。
【0012】
色素米の処理をすることで、色素米表面に付着した微生物や異物の洗浄・除去とGABAの富化が行われる。処理温度が低いと、例えば30℃未満では富化はあまり進行せず、主として洗浄が行われる。処理温度が高く、例えば30℃〜50℃にすると、2〜5日間程度で富化が進む。従って、最初は低温で処理することにより色素米を洗浄して微生物や異物を除去し、次いで処理温度を上げてGABAを富化すると効率が良い。この場合、低温での処理操作は5回以上繰り返すのが好ましい。
また、洗浄とGABA富化を同時に進行させても差し支えない。例えば、カラム等に色素米を充填し、連続的に通水してもよい。通水温度が低ければ、富化はゆっくり進行する。通水温度が高ければ富化が早く進行する。ただし、微生物の増殖速度も速くなるので、この場合は通水量を多くするのが好ましい。
【0013】
処理水はその都度、濾過、遠心分離または両者を組み合わせた装置に通して清澄となるようにする。この処理操作により色素米表面の異物と微生物を完全に除去することができる。非透過水中に色素の残留が認められるときは、非透過水を集めて少量の水を加え再度濾過、除去して色素を透過水に移行させる。色素を含む透過水は洗浄水に戻す。色素を含まない懸濁水は廃棄する。
【0014】
濾過は、好ましくはメンブレンフィルターまたは濾過助剤をコーティングした濾過装置を使用するのが好ましい。メンブレンフィルター口径は0.22〜0.45μmが好ましい。濾過助剤としては、例えば珪藻土が使用できる。濾過装置は、例えば濾布やセラミックフィルターを使用できる。遠心分離は高速遠心分離機を使用するのが好ましい。
処理水の懸濁物除去操作により色素米に付着していた異物や微生物はなくなり、米の酵素を利用したGABAの富化操作中の微生物による腐敗をなくすことができる。
充分にGABAを富化した色素米は、濾過して加温水と分ける。加温水は公知の手段で濃縮した後に、色素米と混ぜて乾燥工程に送ってもよい。乾燥操作は熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、流動層乾燥または常温通風乾燥でもよい。
【実施例1】
【0015】
紫黒米1kgを、攪拌機の付いた、米粒よりも細かい金網の目皿の下部に排出弁のあるタンクに入れ、5倍量の常温の水を加えて約5分間攪拌洗浄する。5分後、排出弁を開けて洗浄水を排出する。洗浄水は0.22μmのメンブレンフィルター濾過装置に通して米に付着した異物や微生物を除き、新たな洗浄水としてタンクに戻し、不足分の水を追加して再度米の洗浄を行う。色素米の洗浄操作はバッチ式で6回繰り返し、付着する異物と微生物をできるだけ完全に取除く。
次に、40℃に加温した洗浄透過水を、洗浄した色素米の入ったタンクに戻し、米の破砕が起きないで米が均一に加温されるように攪拌機の速度を低速にして攪拌する。
タンクの下部の排出弁は適度に開けて、1〜5L/hrの流速で加温水を排出させ、メンブレンフィルター濾過装置に送り濾過を続ける。メンブレンフィルター濾過装置の透過水は加温装置を通してタンクに戻す。少量の色素が残留する非透過水はバッチ式のメンブレン濾過装置に通して固形物と色業を含む透過水とに分け、透過水はタンクの加温水に加える。この操作により色素米の色素の流亡をなくし、GABA生成中の微生物による汚染を防ぎ、異味、異臭のないGABAを24.4mg/100g含んだ良質のGABA富化色素米を得た。
【実施例2】
【0016】
紫黒米lkgを撓拌機と金網目皿付きタンクに入れ、水道水5倍量で10分間攪拌洗浄した。洗浄水は高速遠心分離機(遠心式セパレーター)に通して微生物菌体や懸濁物を除き、清澄な洗浄水は再び紫黒米の洗浄に使用した。紫黒米の洗浄操作は6回繰り返した。
紫黒米を洗浄した後、清澄処理をした洗浄水を冷却して16℃とし、目皿付きタンクの洗浄後の紫黒米に加えて静置した。24時間後、タンクの水を抜き、遠心式セパレーターにより菌体や懸濁物を除き、温度を16℃に調整した後再び色素米のタンクに戻して静置した。1日1回この操作を繰返して色素米の酵素によるGABAの生成を促した。サンコリー般細菌用試験紙による微生物の増殖試験では、3日目の一般細菌数は10個以下と目立った菌の増殖はなかった。GABAは24時間頃から生成が明確となり、72時間後に6.8mg/100gの濃度の紫黒米を得た。このとき紫黒米及び加温水には異味、異臭は感じられなかった。
【実施例3】
【0017】
紫黒米1kgを10cm×100cmの目皿付きカラムに充鎮し、上部から米粒が流出しない程度の流速でアップフロー方式にて38℃の温水を通し、流出した温水を珪藻土コーティングしたセラミックフィルターの濾過装置に通し、懸濁物および微生物を除去する。清澄となった濾過水は加温してカラムの下から通液し、循環させる。色素米にGABAが充分富化されたときに温水の循環は終了し、GABA富化色素米とする。紫黒米のGABA含有量は24.8mg/100gであった。
【実施例4】
【0018】
紫黒米1kgを攪拌機と金網目皿付きタンクに入れ、初めから3〜5倍量の40℃に加温した水道水を加えて攪拌しながら、洗浄とGABAの生成を並行して行うために下部の排水弁を開けて3〜5L/hrの流速で洗浄水を0.22μmメンブレンフィルター装置に通して色素米に付着する異物や微生物を連続的に濾過除去する。メンブレンフィルター透過水は加温装置を通して40℃に加温した後色索米のタンクに戻す。循環量を増やすことで微生物の繁殖は大幅に抑えることができるが、メンブレン装置の容量が大きくなり、洗浄水量も増大する。微生物の増殖速度の試験からこの循環量が適していると判断した。GABAの生成は6時間後から始まり、48時間で最大生成量を示しその後は漸減した。この方式では密閉式にし、且つ嫌気状態をつくるために空気を排出して炭酸ガスの多い雰囲気状態で操作を行った。48時間後、装置を解放し、色索米と加温水を濾別し、加温水は真空薄膜式濃縮装置で濃縮後、色素米と混ぜて乾燥して、26.4mg/100gのGABAを含む色素米をつくることができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により得られる色素米は、アントシアニンとGABAを多く含んでいるので、それ自体健康食品として、あるいは健康食品の材料として適したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素米を水で処理してGABAを含む色素米を製造する方法であって、色素米を処理した処理水を、濾過又は遠心分離処理して微生物および懸濁物を除去し、前記色素米の処理水として繰り返し使用して色素の流亡をなくすことを特徴とする、アントシアニンとGABAを含む色素米の製造法。
【請求項2】
濾過はメンブレンフィルター又は濾過助剤をコーティングした濾過装置を用いて行うことを特徴とする請求項1の製造法。
【請求項3】
請求項1又は2の製造法により得られるアントシアニンとGABAを含む色素米。