説明

止水構造及び止水方法

【課題】充填材を短時間で効率良く固化及び溶融させることが可能で、かつ、止水性を確保することが可能な止水構造及びその構築方法を提供する。
【解決手段】止水構造1は、坑口2から所定の間隔を隔てて立坑3内に設置された隔壁4と、シールド機5の外径よりも大きい内径を有し、一端が隔壁4に、他端が坑口2にそれぞれ接続された筒体6と、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に介在する溶融可能な充填材7と、シールド機5の外径よりも小さい内径を有し、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に設けられたリング状の弾性シーリング材8と、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に設けられ、中央部が筒体6に回動可能に、坑口側端部が弾性シーリング材8に接続された調整手段9と、充填材7を溶融する溶融剤を供給するための溶融手段10と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入した際に、坑口から立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造及び止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、シールド機が立坑内に進入した際に、坑口から立坑内へ水が流入するのを防止する止水方法として、立坑内に設置した隔壁と坑口との間にソイルモルタル等の充填材を充填して硬化させ、しかる後に、立坑の坑口及び硬化した充填材をシールド機で掘削して、立坑内にシールド機を到達させている。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、坑口と隔壁との間に充填した充填材を冷却して凍結させて止水構造を構築する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−270252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した隔壁と坑口との間に充填材を充填する方法では、シールド機が充填材を掘削して隔壁の直前に到達したらその隔壁及び充填材を撤去し、シールド機の外周にパッキンを取り付けなければならないが、隔壁及び充填材を撤去してそのパッキンを取り付けるまでのわずかの間、止水性が確保されないので、水が流入するおそれがあった。
また、上述した特許文献1に記載の方法では、充填材を冷却及び解凍するための設備が大がかりで設備投資費が膨大となるうえ、充填材の凍結・解凍には時間がかかり、施工期間が長くなるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、充填材を短時間で効率良く固化及び溶融させることが可能で、かつ、止水性を確保することが可能な止水構造及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入した際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、
前記坑口から所定の間隔を隔てて前記立坑内に設置された隔壁と、
前記シールド機の外径よりも大きい内径を有し、一端が前記隔壁に、他端が前記坑口にそれぞれ接続された筒体と、
前記筒体の内周面と前記シールド機の外周面との間に介在する溶融可能な充填材と、
外周縁部が前記筒体に接続されるとともに、前記シールド機の外周面の全周にわたって接触可能に設けられたリング状のシーリング材と、
前記充填材を溶融するための溶融手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明は、シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入した際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、
前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に介在する溶融可能な充填材と、
外周縁部が前記坑口に接続されるとともに、前記シールド機の外周面の全周にわたって接触可能に設けられたリング状のシーリング材と、
前記充填材を溶融するための溶融手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
上述した2つの発明によれば、溶融手段により充填材を溶融することで、シーリング材の周囲に隙間を形成することができるとともに、シールド機の外周面を露出させることができる。かかる状態において、シーリング材がシールド機の外周面に当接することにより、シールド機の外周面と筒体又は坑口の内周面との間を止水することができる。
したがって、シールド機が立坑内に進入した後、常に、シールド機の外周面と筒体又は坑口の内周面との間は止水されているので、安全に立坑内での作業を実施することができる。
また、本発明では、常温(立坑内での一般的な温度であり20℃〜25℃程度)で固体状態を維持することが可能な充填材を用いることにより、充填した後、凍結させる等の固化作業が不要となる。したがって、充填材を凍結する場合よりも作業時間を短縮することができる。さらに、充填材を固化したり、溶融したりする設備も不要なので、設備投資費を削減することができる。
【0010】
また、本発明において、前記筒体又は前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に設けられ、一端部又は中央部が前記筒体又は前記坑口に回動可能に接続され、他端部が前記シーリング材に接続された調整手段を更に備えることとしてもよい。
【0011】
このようにすれば、調整手段を回動させることにより、シーリング材をシールド機の外周面に強く当接させたり、シールド機の外周面から離間させたりすることができる。したがって、水が浸入するおそれの無い場合には、シーリング材を離間させてシーリング材の摩耗を低減し、水が浸入するおそれの有る場合には、シーリング材を強く当接させて、止水性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明において、前記調整手段は、
前記筒体又は前記坑口に取り付けられた支持具と、
一端部又は中央部が前記支持具に回動可能に接続され、他端部が前記シーリング材に接続された板状部材と、
前記板状部材の前記一端部に挿通された索状体と、
を備えることとしてもよい。
【0013】
また、本発明において、前記充填材は、発泡スチロールであり、
前記溶融手段は、前記充填材を溶融するための溶融剤を備えることとしてもよい。
【0014】
本発明によれば、充填材を再利用することができる。また、溶融剤を使用するので短時間で大量の充填材を溶融することができる。
【0015】
また、本発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであり、
前記溶融手段は、前記充填材を加熱するための加熱装置を備えることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、高級アルコール、高級脂肪酸及び脂肪酸エステルは、生分解性を有しており、時間が経過すると水と空気に分解されるために、環境に悪影響を与えない。
【0017】
また、本発明は、シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入する際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水方法であって、
前記坑口から所定の間隔を隔てた前記立坑内に隔壁を設置する隔壁設置工程と、
前記シールド機の外径よりも大きい内径を有する筒体の一端を前記隔壁に、他端を前記坑口の構築予定箇所の前記立坑にそれぞれ接続する筒体設置工程と、
リング状のシーリング材の外周縁部を前記筒体に接続するとともに、内周縁部を前記筒体の内周面と前記シールド機の外周面との間に配置するシーリング材設置工程と、
前記筒体内に溶融可能な充填材を充填して硬化させる充填工程と、
前記シールド機で前記坑口の構築予定箇所を掘削しながら前記筒体内に進入し、所定の位置に到達したら停止する進入工程と、
前記硬化した充填材の一部を溶融することにより除去して前記充填材中に隙間を形成する溶融工程と、
前記シーリング材の内周縁部を前記シールド機の外周面に当接させる当接工程と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入する際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水方法であって、
前記立坑の土留め壁内に、当該土留め壁の内周面から所定の深さ位置まで、前記坑口の外径よりも大きい内径を有する拡幅部を前記坑口の構築予定箇所に形成する拡幅部形成工程と、
リング状のシーリング材の外周縁部を前記坑口に接続するとともに、内周縁部を前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に配置するシーリング材設置工程と、
前記拡幅部内に溶融可能な充填材を充填して硬化させる充填工程と、
前記シールド機で前記坑口の構築予定箇所を掘削しながら前記立坑内に進入し、所定の位置に到達したら停止する進入工程と、
前記硬化した充填材の一部を溶融することにより除去して前記充填材中に隙間を形成する溶融工程と、
前記シーリング材の内周縁部を前記シールド機の外周面に当接させる当接工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充填材を短時間で効率良く固化及び溶融させることが可能で、かつ、止水性を確保することが可能な止水構造及びその構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る止水構造を示す側面図で、シールド機の先端が立坑の土留め壁を貫通して筒体内に到達した状態を示している。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図2のB矢視図である。
【図4】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図5】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図6】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図7】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図8】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図9】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図10】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図11】シールド機が筒体内を通過した状態を示す側面図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係る止水構造を示す側面図であり、坑口の立坑側上部を拡大したものである。
【図13】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図14】本実施形態に係る止水構造の構築方法を示す図である。
【図15】シールド機のスキンプレートの内周面に加熱装置を取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る止水構造1の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の第一実施形態に係る止水構造1を示す側面図で、シールド機5の先端が立坑3の土留め壁3aを貫通して筒体6内に到達した状態を示している。また、図2は、図1のA部拡大図であり、図3は、図2のB矢視図である。
【0023】
図1〜図3に示すように、坑口2から立坑3内へ水が流入するのを防止する止水構造1は、坑口2から所定の間隔を隔てて立坑3内に設置された隔壁4と、シールド機5の外径よりも大きい内径を有し、一端が隔壁4に、他端が坑口2にそれぞれ接続された筒体6と、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に介在する溶融可能な充填材7と、シールド機5の外径よりも小さい内径を有し、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に設けられたリング状の弾性シーリング材8と、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に設けられ、弾性シーリング材8に接続された調整手段9と、充填材7を溶融する溶融剤を供給するための溶融手段10と、を備える。
【0024】
立坑3は、筒状の土留め壁3aによって囲まれており、この内部の底盤3bにはコンクリートが打設されている。
【0025】
シールド機5が立坑3内に進入する前の状況で、筒体6の隔壁側端部6aにおいては、流動化処理土11が全体的に充填され、中央部6b及び坑口側端部6cにおいては、外周部に充填材7が充填され、その内側に流動化処理土11が充填されている。中央部6b及び坑口側端部6cは、まず、筒体6内の外周部に充填材7を充填して硬化させ、その後、硬化した筒状の充填材7の内側に流動化処理土11を充填することにより構築される(図示しない)。
そして、シールド機5による掘削によって中央部6b及び坑口側端部6cの流動化処理土11は除去されて、図1に示すように、外周部の充填材7のみがシールド機5の周囲に残置される。本実施形態においては、隔壁側端部6aの流動化処理土11は掘削せずに残置する。
【0026】
なお、本実施形態においては、充填材7として、発泡スチロールを用いた。発泡スチロールは、所定の溶融剤(例えば、石油系のSRP溶剤(株式会社西濱商事販売))によって溶融させることができる。
【0027】
立坑3内には、シールド機5が筒体6内を掘進する際に、シールド機5の推進力に対して充填材7及び隔壁4を支持するための支持装置12が設けられている。
【0028】
支持装置12は、シールド機5の推進力に対して隔壁4が移動しないように支持する支保工材20と、隔壁4と土留め壁3aとの間に設けられ、シールド機5の推進力を支保工材20に伝達するためのジャッキ13と、から構成されている。
【0029】
弾性シーリング材8は、伸縮性を有し、かつ、耐摩耗性に優れた天然ゴム又は樹脂からなり、その内径はシールド機5の外径よりもやや小さくなるように形成されている。
【0030】
また、弾性シーリング材8は、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に、鉛直断面形状が略L字型となるように折り曲げられて、坑口側端部8cが坑口2側に向かって徐々にシールド機5に近接するように配置されている。すなわち、弾性シーリング材8の坑口側端部8cには、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に押し付ける向きに弾性力が常時、作用しているため、坑口側端部8cをシールド機5の外周面に当接させることができる。
【0031】
溶融剤により溶融される前の充填材7中における弾性シーリング材8は、弾性シーリング材8の坑口側端部8cを径外方向へ向かって屈曲させた状態で充填材7中に埋設されているが、溶融剤によって弾性シーリング材8の周囲の充填材7が溶融したことにより、その弾性力にて坑口側端部8cがシールド機5の外周面に近接する向きへ復元する。
【0032】
調整手段9は、筒体6の内周面に設けられている補強用リブ6dに接続された支持具14と、中央部15bが支持具14の下端に回動可能に接続され、坑口側端部15cが弾性シーリング材8に接続された板状部材15と、板状部材15の隔壁側端部15aを挿通する索状体16と、を備える。この調整手段9は、筒体6の周方向に沿って所定の間隔で複数台設けられている。
【0033】
支持具14と補強用リブ6dとの間には、弾性シーリング材8の隔壁側端部8aが挟持されており、これらを貫通するボルトとナットにて、着脱可能に補強用リブ6dに接続されている。これにより、筒体6を解体する際は、支持具14及び弾性シーリング材8を筒体6から取り外すことができる。
【0034】
板状部材15は、その長手方向が筒体6の軸方向と略並行になるように配置され、その中央部15bが支持具14に回動可能に接続されているので、板状部材15の中央部15bを中心に筒体6の径方向に回動することができる。
【0035】
板状部材15の坑口側端部15cは、弾性シーリング材8に接着剤等で密着するように取り付けられているため、坑口側端部15cをシールド機5に近接する方向へ回動させることにより、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に強く当接させることができる。
なお、坑口2側から水が流入すると、その水圧は弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に押し付ける向きに作用するため、確実に止水することができる。
【0036】
各板状部材15の隔壁側端部15aには、貫通穴17が設けられており、各貫通穴17内を一本の索状体16が掛け渡されている。なお、本実施形態においては、索状体16として、ワイヤーロープを用いたが、これに限定されるものではなく、紐状のものであればよい。
【0037】
索状体16の両端を締め付けることにより、各板状部材15の隔壁側端部15aがシールド機5に近接する向きへ回動する。これにともない、坑口側端部15cがシールド機5から離間する向きへ回動するため、弾性シーリング材8はシールド機5の外周面から離れることとなる。
【0038】
溶融手段10は、充填材7を溶融するための溶融剤を貯留する貯留槽18と、一端が貯留槽18に接続され、溶融剤を送給するための送給管19と、を備える。
【0039】
送給管19の他端は、弾性シーリング材8の坑口側端部8c付近の筒体6の外周に接続されている。したがって、溶融剤が筒体6内に供給されると、坑口側端部8cの周囲の充填材7が集中的に溶融されて隙間が形成され、この隙間内を板状部材15が回動可能となる。すなわち、板状部材15の坑口側端部15cに取り付けられている弾性シーリング材8がシールド機5に近接する方向へその弾性力にて復元し、シールド機5の外周面に当接可能となるものである。かかる場合に、板状部材15の隔壁側端部15aをシールド機5から離間する方向へ回動させることにより、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に強く当接させることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る止水構造1の構築方法について、施工手順にしたがって説明する。
図4〜図10は、本実施形態にかかる止水構造1の構築方法を示す図である。
【0041】
まず、図4に示すように、土留め壁3aの内周面から所定の間隔を隔てて隔壁4を立坑3内に設置する(隔壁設置工程)。
また、この隔壁4が倒れないように支持装置12にて支持する。
【0042】
そして、一端が隔壁4に、他端が坑口構築予定箇所2aの土留め壁3aの内周面に当接するように筒体6を設置する(筒体設置工程)。
また、隔壁4の設置作業や筒体6の設置作業と並行して、坑口構築予定箇所2a付近の地山E内に薬材を注入して地盤改良体25を形成する等の止水対策を実施する。
【0043】
次に、弾性シーリング材8の坑口側端部8cを径外方向へ向かって屈曲させた状態で、筒体6内の隔壁側端部6aと中央部6bとの境界よりもやや中央部6b側に弾性シーリング材8及び調整手段9を設置する(弾性シーリング材設置工程)。
【0044】
そして、筒体6内の坑口側端部6cに充填材7及び流動化処理土11をそれぞれ充填し、次に、隔壁側端部6aに流動化処理土11を充填する(充填工程)。
【0045】
次に、図5に示すように、地山E内から立坑3へ向かってシールド機5を掘進させて、土留め壁3aの坑口構築予定箇所2aを掘削して、シールド機5を筒体6内に進入させる。
【0046】
次に、図6に示すように、シールド機5のスキンプレート22の先端が弾性シーリング材8内を通過して、弾性シーリング材8がスキンプレート22の先端部に接触可能となる位置までシールド機5が進行したら掘進を停止する(進入工程)。
【0047】
図7は、図6のC部拡大図である。図7に示すように、筒体6に接続された送給管19を介して弾性シーリング材8の坑口側端部8c付近に溶融剤を供給する。溶融剤が充填材7に接触すると、充填材7が溶融し始める(溶融工程)。充填材7が溶融することにより、弾性シーリング材8の坑口側端部8c付近に隙間が形成される。かかる場合に、溶融した充填材7は、シールド機5の外周面に沿って筒体6の底部へ流れて、集水管(図示しない)を通って回収槽に送給される。回収槽に貯留された充填材7はリサイクル工場へ搬送され、再利用される。
【0048】
このまま溶融剤の供給を続けると、図8に示すように、隙間が徐々に広くなるとともに、弾性シーリング材8の坑口側端部8cがシールド機5に近接する方向へ復元し始める。
【0049】
さらに、溶融剤の供給を続けると、図9に示すように、筒体6内の充填材7の溶融が進行して、シールド機5の外周面が露出し、弾性シーリング材8の弾性力にて坑口側端部8cがその外周面に当接する(当接工程)。また、板状部材15の坑口側端部15cをシールド機5に近接する方向へ回動させて、弾性シーリング材8の坑口側端部8cをシールド機5の外周面に強く当接し、密着させる。
【0050】
かかる状態において、シールド機5の外周と筒体6の内周面との間に地山E内から水が流入しても、その土水圧が弾性シーリング材8の坑口側端部8cをシールド機5の外周面に押し付ける方向に作用するので、弾性シーリング材8による止水効果を高めることができる。これにより、水が立坑3内に流入することを効率的に防止できる。
【0051】
なお、本実施形態においては、弾性シーリング材8の復元力を利用してシールド機5の外周面に当接させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の材質からなるシーリング材を弾性シーリング材8と同様に板状部材15の坑口側端部15cに取り付けて、板状部材15の隔壁側端部15aをシールド機5から離間する向きに回動させて、坑口側端部15cをシールド機5に近接する向きに回動させることにより、シーリング材をシールド機5の外周面に当接させて止水機能を発揮させることができる。
【0052】
その後、図10に示すように、シールド機5の前方に存在する支持装置12及び流動化処理土11を撤去し、シールド機5を進行可能な状態にする。なお、筒体6は残置しておく。
【0053】
次に、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に当接させた状態のまま、シールド機5を立坑3内へ移動させる。かかる状態において、筒体6とシールド機5の間に水が流入しても、弾性シーリング材8がシールド機5の外周面に当接しているので、止水できる。また、筒体6内への水の流入が確認された場合には、シールド機5の進行を停止し、再度、上記止水対策を実施する。
【0054】
なお、止水対策により坑口2から水が流入するおそれが無くなった場合には、索状体16の両端を締め付けて各板状部材15の隔壁側端部15aをシールド機5に近接する向きへ回動させた状態でシールド機5を進行させてもよい。これは、板状部材15の隔壁側端部15aをシールド機5に近接する向きへ回動させることにより、坑口側端部15cがシールド機5から離間する向きへ回動するため、弾性シーリング材8の坑口側端部8cもシールド機5の外周面から離間することとなる。すなわち、索状体16の両端を締め付けることにより、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面から離間させることができる。これにより、弾性シーリング材8の摩耗を防止することができる。
【0055】
図11は、シールド機5が筒体6内を通過した状態を示す側面図である。
図11に示すように、シールド機5は、シールド機5の後方にセグメント26を構築しながら進行するので、シールド機5が筒体6内を通過した後も、弾性シーリング材8の坑口側端部8cがセグメント26の外周面に当接するので、止水機能を維持できる。
【0056】
シールド機5が通過した後は、予め設計等により決定された方法にて坑口2を処理するとともに、調整手段9を回収する。
【0057】
以上説明した本実施形態における止水構造1によれば、溶融手段10を備えているので、シールド機5の外周面と筒体6の内周面との間に充填された充填材7を溶融することができる。また、溶融手段10での溶融作業は、短時間で行うことができるので、作業効率に優れている。
【0058】
さらに、充填材7を溶融することにより、筒体6の内周面とシールド機5の外周面との間に、弾性シーリング材8が復元可能な隙間を形成することができるとともに、シールド機5の外周面を露出させることができる。そして、弾性シーリング材8の弾性力を利用して弾性シーリング材8の坑口側端部8cをシールド機5の外周面に当接させることにより、シールド機5の外周面と筒体6の内周面との間を止水することができる。さらに、板状部材15を用いて坑口側端部8cをシールド機5の外周面に強く当接することにより、止水性を向上させることができる。
【0059】
したがって、シールド機5が立坑3内に進入した後、常に、シールド機5の外周面と筒体6の内周面との間は止水されているので、安全に立坑3内での作業を実施することができる。
【0060】
また、板状部材15を回動させることにより、弾性シーリング材8の坑口側端部8cを移動可能なので、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に当接させたり、シールド機5の外周面から離間させたりすることができる。したがって、水の浸入が無い場合には、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面から離間させて、水の浸入のおそれが有る場合には、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に当接させることができる。
【0061】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。以下の説明において、第一実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。第二実施形態の調整手段9は、回収すること無く、坑口2に残置されるものである。
【0062】
図12は、本発明の第二実施形態に係る止水構造21を示す側面図であり、坑口2の立坑3側上部を拡大したものである。
図12に示すように、止水構造21は、坑口2の内周面とシールド機5の外周面との間に介在する充填材7と、坑口2の内周面とシールド機5の外周面との間に設けられた弾性シーリング材8と、弾性シーリング材8に接続された調整手段9と、溶融手段10と、を備える。
【0063】
調整手段9は、土留め壁3aの内周面に取り付けられた支持具14と、板状部材15と、索状体16と、を備え、坑口2よりも大きい径を有する拡幅部23に設けられている。
【0064】
支持具14と土留め壁3aの内周面との間には、弾性シーリング材8の一端部8dが挟持されており、これらを貫通するボルトにて、着脱可能に土留め壁3aの内周面に接続されている。
【0065】
次に、本実施形態に係る止水構造21の構築方法について、施工手順にしたがって説明する。
図13及び図14は、本実施形態にかかる止水構造21の構築方法を示す図である。
【0066】
まず、図13に示すように、土留め壁3a内に、坑口2の外径よりも大きい外径を有するリング状の拡幅部23を形成する(拡幅部形成工程)。
次に、この拡幅部23の外周縁部に、弾性シーリング材8が接続された調整手段9を設置する(弾性シーリング材設置工程)。また、土留め壁3aが倒れないように支持装置12で支持する。
【0067】
次に、拡幅部23内に溶融可能な充填材7を充填して硬化させる(充填工程)。充填材7が硬化したら、地山E内から立坑3へ向かってシールド機5を掘進させて、土留め壁3aの坑口構築予定箇所2aを掘削する。また、図14に示すように、シールド機5が掘進して、シールド機5のスキンプレート22の先端が弾性シーリング材8内を通過して、弾性シーリング材8がスキンプレート22の先端部に接触可能となる位置までシールド機5が進入したら掘進を停止する(進入工程)。
【0068】
次に、送給管19を介して拡幅部23内に溶融剤を供給する。溶融剤の供給により、充填材7が溶融する(溶融工程)。
【0069】
弾性シーリング材8の周囲の充填材7が溶融する(図12参照)ことにより、弾性シーリング材8付近に隙間が形成され、シールド機5の外周面が露出して、弾性シーリング材8の他端部8eがシールド機5の外周面に当接した状態となる(当接工程)。
【0070】
次に、弾性シーリング材8をシールド機5の外周面に当接させた状態のままで、支持装置12を撤去して、シールド機5を立坑3内へ移動させる。かかる状態の際に、坑口2とシールド機5との間に水が流入しても、弾性シーリング材8の他端部8eがシールド機5の外周面に当接しているので、止水できる。
【0071】
さらに、シールド機5を進行させて、坑口2を通過させる。このとき、シールド機5は、シールド機5の後方にセグメント26を構築しながら進行するので、シールド機5が坑口2を通過しても、弾性シーリング材8がセグメント26の外周面に当接しているので、止水機能を維持できる。
シールド機5が通過した後は、弾性シーリング材8及び調整手段9を設置した状態のままで、拡幅部23の外周縁部にモルタル等を充填して弾性シーリング材8及び調整手段9を埋設する。
【0072】
以上説明した本実施形態における止水構造21によれば、溶融手段10を備えているので、シールド機5の外周面と坑口2の内周面との間に充填された充填材7を溶融することができる。また、溶融手段10での溶融作業は、短時間で行うことができるので、作業効率に優れている。そして、充填材7を溶融することにより、シールド機5の外周面を露出させることができる。
【0073】
そして、弾性シーリング材8をその弾性力にて復元させてシールド機5の外周面に当接させることにより、シールド機5の外周面と坑口2の内周面との間を止水することができる。
【0074】
したがって、シールド機5が坑口2から立坑3内に進入した後、常に、シールド機5の外周面と坑口2の内周面との間は止水されているので、安全に立坑3内での作業を実施することができる。
【0075】
また、上述した各実施形態においては、充填材7として発泡スチロールを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、高級アルコールのラウリルアルコールを含む添加材(例えば、カルコール2098(製品名、カルコール:登録商標、花王株式会社製))や高級脂肪酸のラウリン酸(例えば、ルナックL−70(製品名、ルナック:登録商標、花王株式会社製))や脂肪酸エステルのステアリン酸エステル等を用いてもよく、これらは、立坑3内の通常温度である20℃前後では、固体状態となり、地山Eと同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有するともに、立坑3内が通常温度よりも高くなり融点(例えば、カルコール2098の場合は24℃〜27℃、ルナックL−70の場合は32℃〜36℃)以上になると、それぞれ溶融して流動状態となるので、発泡スチロールと同様に取り扱うことができる。また、高級アルコールのラウリルアルコール、高級脂肪酸のラウリン酸及び脂肪酸エステルのステアリン酸エステルは生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、環境に悪影響を与えない。
【0076】
高級アルコールのラウリルアルコールや高級脂肪酸のラウリン酸や脂肪酸エステルのステアリン酸エステルは、一般的な原材料であるために、原材料の入手が容易である。
【0077】
図15は、シールド機5のスキンプレート22の内周面に加熱装置を取り付けた状態を示す図である。
図15に示すように、上記高級アルコール等を充填材7として利用する場合には、シールド機5のスキンプレート22の内周面に溶融手段24として加熱装置であるペルチェ素子が取り付けられている。ペルチェ素子は、ペルチェ素子に流れる電流の向きを変えることにより、スキンプレート22を加熱し、スキンプレート22を介して充填材7を加熱するものである。なお、立坑3内の通常の温度では、充填材7は個体状態となっており、シールド機5による掘削が可能である。
【0078】
そして、地山E内から立坑3へシールド機5を掘進させて、シールド機5のスキンプレート22の先端が弾性シーリング材8内を通過して、弾性シーリング材8がスキンプレート22の先端部に接触可能となる位置までシールド機5が進行したら掘進を停止する。
【0079】
次に、ペルチェ素子に接しているスキンプレート22を加熱するように通電し、スキンプレート22を介して充填材7を加熱する。加熱すると充填材7が徐々に溶融するので、溶融した充填材7を予め設計等により決定された方法にて回収して、再利用する。充填材7が溶融することにより、シールド機5の外周面と筒体6との間に隙間が形成されて、弾性シーリング材8がシールド機5の外周面に当接することとなる。
【0080】
かかる場合に、溶融手段24は充填材7を加熱するための加熱装置を備えるために、充填材7を短時間で流動状態にすることが可能となる。
【0081】
なお、上述した各実施形態においては、土留め壁3aを貫通する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、構築された構造物の躯体を貫通する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 止水構造
2 坑口
2a 坑口構築予定箇所
3 立坑
3a 土留め壁
3b 底盤
4 隔壁
5 シールド機
6 筒体
6a 隔壁側端部
6b 中央部
6c 坑口側端部
6d 補強用リブ
7 充填材
8 弾性シーリング材
8a 隔壁側端部
8c 坑口側端部
8d 一端部
8e 他端部
9 調整手段
10 溶融手段
11 流動化処理土
12 支持装置
13 ジャッキ
14 支持具
15 板状部材
15a 隔壁側端部
15b 中央部
15c 坑口側端部
16 索状体
17 貫通穴
18 貯留槽
19 送給管
20 支保工材
21 止水構造
22 スキンプレート
23 拡幅部
24 溶融手段
25 地盤改良体
26 セグメント
E 地山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入した際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、
前記坑口から所定の間隔を隔てて前記立坑内に設置された隔壁と、
前記シールド機の外径よりも大きい内径を有し、一端が前記隔壁に、他端が前記坑口にそれぞれ接続された筒体と、
前記筒体の内周面と前記シールド機の外周面との間に介在する溶融可能な充填材と、
外周縁部が前記筒体に接続されるとともに、前記シールド機の外周面の全周にわたって接触可能に設けられたリング状のシーリング材と、
前記充填材を溶融するための溶融手段と、
を備えることを特徴とする止水構造。
【請求項2】
シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入した際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、
前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に介在する溶融可能な充填材と、
外周縁部が前記坑口に接続されるとともに、前記シールド機の外周面の全周にわたって接触可能に設けられたリング状のシーリング材と、
前記充填材を溶融するための溶融手段と、
を備えることを特徴とする止水構造。
【請求項3】
前記筒体又は前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に設けられ、一端部又は中央部が前記筒体又は前記坑口に回動可能に接続され、他端部が前記シーリング材に接続された調整手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の止水構造。
【請求項4】
前記調整手段は、
前記筒体又は前記坑口に取り付けられた支持具と、
一端部又は中央部が前記支持具に回動可能に接続され、他端部が前記シーリング材に接続された板状部材と、
前記板状部材の前記一端部に挿通された索状体と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の止水構造。
【請求項5】
前記充填材は、発泡スチロールであり、
前記溶融手段は、前記充填材を溶融するための溶融剤を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の止水構造。
【請求項6】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであり、
前記溶融手段は、前記充填材を加熱するための加熱装置を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の止水構造。
【請求項7】
シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入する際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水方法であって、
前記坑口から所定の間隔を隔てた前記立坑内に隔壁を設置する隔壁設置工程と、
前記シールド機の外径よりも大きい内径を有する筒体の一端を前記隔壁に、他端を前記坑口の構築予定箇所の前記立坑にそれぞれ接続する筒体設置工程と、
リング状のシーリング材の外周縁部を前記筒体に接続するとともに、内周縁部を前記筒体の内周面と前記シールド機の外周面との間に配置するシーリング材設置工程と、
前記筒体内に溶融可能な充填材を充填して硬化させる充填工程と、
前記シールド機で前記坑口の構築予定箇所を掘削しながら前記筒体内に進入し、所定の位置に到達したら停止する進入工程と、
前記硬化した充填材の一部を溶融することにより除去して前記充填材中に隙間を形成する溶融工程と、
前記シーリング材の内周縁部を前記シールド機の外周面に当接させる当接工程と、
を備えることを特徴とする止水方法。
【請求項8】
シールド機が立坑に設けられた坑口を通過して当該立坑内へ進入する際に、前記坑口から前記立坑内へ水が流入するのを防止する止水方法であって、
前記立坑の土留め壁内に、当該土留め壁の内周面から所定の深さ位置まで、前記坑口の外径よりも大きい内径を有する拡幅部を前記坑口の構築予定箇所に形成する拡幅部形成工程と、
リング状のシーリング材の外周縁部を前記坑口に接続するとともに、内周縁部を前記坑口の内周面と前記シールド機の外周面との間に配置するシーリング材設置工程と、
前記拡幅部内に溶融可能な充填材を充填して硬化させる充填工程と、
前記シールド機で前記坑口の構築予定箇所を掘削しながら前記立坑内に進入し、所定の位置に到達したら停止する進入工程と、
前記硬化した充填材の一部を溶融することにより除去して前記充填材中に隙間を形成する溶融工程と、
前記シーリング材の内周縁部を前記シールド機の外周面に当接させる当接工程と、
を備えることを特徴とする止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−132692(P2011−132692A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291031(P2009−291031)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(509353702)株式会社トーソー (1)
【Fターム(参考)】