説明

止水構造

【課題】覆工体と坑壁との間の隙間の大きさに沿うように現場で調整が可能で、かつ、掘進機が通過後、直ちに覆工体と坑壁との間に構築可能な止水構造を提供する。
【解決手段】トンネル2と立坑3との接続部4において、トンネル2内に敷設されたセグメント5と立坑3の坑壁6との間に相対変位が生じた後もセグメント5と坑壁6との間の隙間9から立坑3内への水の流入を防止する止水構造1は、所定の値以上の荷重が作用すると破断する高剛性シーリング材7と、当該高剛性シーリング材7よりも剛性が低くて伸縮性が高い弾性シーリング材8とをセグメント5と坑壁6との間の隙間9に介在させてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内に敷設された覆工体と立坑の坑壁との接続部における止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内に敷設された覆工体と立坑の坑壁との接続部の止水構造として、例えば、特許文献1には、覆工体のセグメントと坑壁との間の隙間に充填された充填材と、その充填材の流出を防止するとともに、地下水の通過を防止するパッキンと、当該隙間を跨ぐようにセグメントの端面と坑壁の内周面とに取り付けられ、伸縮可能な蛇腹状の可撓性ゴムとを備えた止水構造が開示されている。
【0003】
これは、地震等によりセグメントと坑壁との間に相対変位が生じたときに、パッキン及び充填材でセグメントと坑壁との間を通過する地下水を止水するものである。
【特許文献1】特開平11−324564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の止水構造では、シールド機が到達立坑に到達する際には、既に到達立坑の坑壁に坑口が構築されているので、坑口の開口部とトンネル外周との間の隙間の大きさに誤差が生じる可能性がある。この誤差が大きい場合には、確実な止水性を確保するための継手部の施工には多大な時間と手間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、覆工体と坑壁との間の隙間の大きさに沿うように現場で調整が可能で、かつ、掘進機が通過後、直ちにその隙間内に構築可能な止水構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の止水構造は、トンネル内に敷設された覆工体と立坑の坑壁との接続部に相対変位が生じた後も当該覆工体と当該坑壁との間を通過して当該立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、所定の値以上の荷重が作用すると破断する高剛性シーリング材と、当該高剛性シーリング材よりも剛性が低く、かつ、伸縮性が高い弾性シーリング材とを、前記覆工体と前記坑壁との間に介在させてなることを特徴とする。
【0007】
本発明の止水構造によれば、所定の値以上の荷重が作用すると破断する高剛性シーリング材と、この高剛性シーリング材よりも剛性が低く、かつ、伸縮性が高い弾性シーリング材とを、覆工体と坑壁との間に備えているので、日常的に発生する比較的小さい地震の際には、高剛性シーリング材が、覆工体と坑壁との間の相対変位による変形を抑制する。これにより、覆工体と坑壁との相対変位量が小さくなるので、止水性を保持できる。したがって、地下水が立坑内に流入しない。さらに、発生確率の低い大きな地震の際には、高剛性シーリング材は、覆工体や坑壁に過大な荷重が作用しないように、所定の値以上の荷重が作用すると破断する。そのため、接続部の相対変位量は増加するが、弾性シーリング材が、その相対変位に追随して変形するので、止水性を保持できる。したがって、地下水が立坑内に流入しない。
【0008】
本発明において、前記高剛性シーリング材は、前記弾性シーリング材よりも前記立坑の内方側に設けられることとしてもよい。
本発明の止水構造によれば、高剛性シーリング材は、弾性シーリング材よりも立坑の内方側に配置されているので、高剛性シーリング材が破損した場合には、立坑内から容易に補修することができる。
【0009】
本発明において、前記高剛性シーリング材は、エポキシ樹脂とシリコン樹脂とを含むこととしてもよい。
本発明の止水構造によれば、高剛性シーリング材の材質のエポキシ樹脂及びシリコン樹脂は、一般的な材料なので、入手性に優れている。
【0010】
本発明において、前記弾性シーリング材は、ポリウレタン樹脂を含むこととしてもよい。
本発明の止水構造によれば、弾性シーリング材の材質のポリウレタン樹脂は、一般的な材料なので、入手性に優れている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の可撓性ジョイント構造によれば、覆工体と坑壁との間の隙間の大きさに沿うように現場で調整が可能なので、掘進機が通過後、直ちに覆工体と坑壁との間に止水構造を構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る止水構造1の鉛直断面図であり、図2は、図1のa部拡大図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、止水構造1は、トンネル2と当該トンネル2を掘削するシールド機を発進又は到達させるための立坑3との接続部4において、トンネル2内に敷設されたセグメント5と立坑3の坑壁6との間に相対変位が生じた後もセグメント5と坑壁6との間の隙間9から立坑3内への水の流入を防止するものである。具体的には、所定の値以上の荷重が作用すると破断する高剛性シーリング材7とこの高剛性シーリング材7よりも剛性が低くて伸縮性が高い弾性シーリング材8とを、セグメント5と坑壁6との間の隙間9に介在させてなるものである。
【0014】
高剛性シーリング材7は、弾性シーリング材8よりも立坑3の内方側に設けられている。
高剛性シーリング材7及び弾性シーリング材8は、セグメント5及び坑壁6に固着しているので、セグメント5と坑壁6との間に相対変位が生ずると、その相対変位量に応じてそれぞれ変形する。
【0015】
弾性シーリング材8は、例えば、ポリウレタン樹脂を含む材料からなり、本実施形態においては、ボンドUPシール(製品名、コニシ株式会社製)を用いた。この弾性シーリング材8は、トンネル2内の通常温度である23℃前後では、伸縮性が高い(例えば、最大荷重時の伸びが700%。なお、この数値は製品カタログに記載の値である。)ため、例えば、レベル2の地震(後述する)によりセグメント5と坑壁6との間に相対変位が生じてもこれに追随して変形し、地山内の地下水がセグメント5と坑壁6との間の隙間9内を通過して立坑3内に流入することを防止する。この弾性シーリング材8は、セグメント5と坑壁6との間にコーキングガンにて充填され、所定の厚さで環状に形成される。
【0016】
高剛性シーリング材7は、例えば、エポキシ樹脂とシリコン樹脂とを含む材料からなり、本実施形態においては、ボンドEMSセグメントシール(製品名、コニシ株式会社製)を用いた。この高剛性シーリング材7は、トンネル2内の通常温度である23℃前後では、弾性シーリング材8よりも高い剛性(例えば、引張り応力が2.2N/mmのときの伸びが180%。なお、この数値は製品カタログに記載の値である。)を有しているため、例えば、レベル1(後述する)の地震によるセグメント5と坑壁6との間に生ずる相対変位を抑制し、相対変位量を小さくする。
【0017】
また、高剛性シーリング材7は、レベル2の地震によりセグメント5と坑壁6との間に相対変位が生じて、高剛性シーリング材7に所定の値以上の荷重が作用すると破断するように形成されている。本実施形態においては、荷重の所定の値を2.3N/mmとしたが、この値に限定されるものではなく、適宜設計等により決定される。
【0018】
高剛性シーリング材7は、弾性シーリング材8と接触しないように、所定の間隔10を隔てて充填され、所定の厚さで環状に形成される。
【0019】
なお、本実施形態においては、所定の間隔10を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、高剛性シーリング材7が、弾性シーリング材8と密着しないように形成されればよく、例えば、バックアップ材を設けてもよい。
【0020】
なお、レベル1の地震とは、多くの土木構造物に対して従来から設定されていた地震外力にあたり、過去の地震発生の時間的経過に基づいて、構造物の使用期間中に1〜2回発生すると考えられる強さの地震動とし、レベル2の地震動とは、陸地近傍で発生する大規模なプレート境界地震に加えて、兵庫県南部地震のような内陸の直下の地震による地震動も対象とした発生確率の極めて低い地震動とする。
【0021】
以上の構成からなる止水構造1によれば、レベル1の地震に対して、図3に示すように、高剛性シーリング材7が、接続部4に生ずる相対変位を抑制するので、相対変位量が小さくなるとともに、伸縮性が高い弾性シーリング材8が、その相対変位に追随して変形するので、高剛性シーリング材7及び弾性シーリング材8により、止水性を保持できる。したがって、発生確率が高いレベル1の地震が発生しても、地下水は立坑3内に流入しない。
【0022】
さらに、接続部4に生ずる相対変位量が小さいので、トンネル2や立坑3の内部に設置されている道路や管路等の施設構造物に影響を及ぼさず、地震後、直ちにこの施設構造物を供用することができる。
【0023】
また、レベル2の地震に対して、図4に示すように、高剛性シーリング材7は、所定の値以上の荷重が作用すると破断するので、セグメント5や坑壁6に過大な荷重が作用することを防止できる。また、高剛性シーリング材7が破断すると、接続部4の相対変位量は増加するが、伸縮性の高い弾性シーリング材8が、その相対変位量に追随して変形するので、この弾性シーリング材8により、止水性を保持できる。したがって、レベル2の地震が発生しても、トンネル2や立坑3等の構造物は、損傷することなく、また、地下水は立坑3内に流入しない。一方、高剛性シーリング材7は、損傷するものの、立坑3の内方側に設けられているので、立坑3内から容易に補修可能である。
【0024】
そして、高剛性シーリング材7の材質のエポキシ樹脂及びシリコン樹脂や弾性シーリング材8の材質のポリウレタン樹脂は、一般的な材料なので、入手性に優れている。
【0025】
なお、本実施形態においては、覆工体としてセグメント5を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、推進管を用いてもよい。すなわち、本発明はシールド機による掘削にて構築されたトンネル2だけでなく、推進機による掘削にて構築されたトンネル2にも適用可能である。
【0026】
なお、本実施形態においては、セグメント5と坑壁6との間に、シーリング材である高剛性シーリング材7や弾性シーリング材8のみを介在させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図5に示すように、セグメント5と坑壁6との間に鋼管や鋼板等の剛性部材11を配置するとともに、セグメント5と坑壁6との間にシーリング材である高剛性シーリング材7や弾性シーリング8を充填して、剛性部材11とシーリング材とが一体となって継手の性能を発揮するような構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る止水構造の鉛直断面図である。
【図2】図1のa部拡大図である。
【図3】レベル1の地震時の接続部の変位状態を示す図である。
【図4】レベル2の地震時の接続部の変位状態を示す図である。
【図5】止水構造の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 止水構造
2 トンネル
3 立坑
4 接続部
5 セグメント
6 坑壁
7 高剛性シーリング材
8 弾性シーリング材
9 隙間
10 所定の間隔
11 剛性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内に敷設された覆工体と立坑の坑壁との接続部に相対変位が生じた後も当該覆工体と当該坑壁との間を通過して当該立坑内へ水が流入するのを防止する止水構造であって、
所定の値以上の荷重が作用すると破断する高剛性シーリング材と、当該高剛性シーリング材よりも剛性が低く、かつ、伸縮性が高い弾性シーリング材とを、前記覆工体と前記坑壁との間に介在させてなることを特徴とする止水構造。
【請求項2】
前記高剛性シーリング材は、前記弾性シーリング材よりも前記立坑の内方側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の止水構造。
【請求項3】
前記高剛性シーリング材は、エポキシ樹脂とシリコン樹脂とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の止水構造。
【請求項4】
前記弾性シーリング材は、ポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の止水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−121293(P2010−121293A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293680(P2008−293680)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】