説明

正帯電型電子写真感光体、及び画像形成装置

【課題】直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる正帯電型電子写真感光体を提供する。
【解決手段】直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備える画像形成装置に備えられる像担持体として用いられる正帯電型電子写真感光体10の感光層14に含まれる正孔輸送剤として、ヒドラゾン成分、スチリル成分とが、異なったフェニル基に存在するトリフェニルアミン系化合物を含む正帯電型電子写真感光体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電型電子写真感光体、及び前記正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ、及びこれらの複合機等の電子写真方式を利用した画像形成装置は、像担持体、前記像担持体の表面を帯電するための帯電装置、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置、及び前記トナー像を用紙等に転写するための転写装置等を備える。このような画像形成装置は、上記各装置によって、上述のように、像担持体上にトナー像を形成させ、形成させたトナー像を用紙上に転写することによって、画像を用紙上に形成するものである。
【0003】
このような画像形成装置は、一般的に、像担持体として、感光層を備えた電子写真感光体を備える。そして、このような電子写真感光体としては、セレン、アモルファスシリコン等の無機材料からなる感光層を備える無機感光体以外に、結着樹脂、電荷発生剤、及び電荷輸送剤等の有機材料を主成分として含む感光層を備える有機感光体が好ましく用いられる。このような有機感光体は、無機感光体と比較して、製造が容易であるとともに、感光層を構成する有機材料の選択肢が多様で構造設計の自由度が高いことが知られている。
【0004】
また、前記有機感光体としては、例えば、電荷発生剤と電荷輸送剤とが同一層に含有された感光層を備える感光体が挙げられる。このような感光体は、この電荷発生剤と、正孔輸送剤や電子輸送剤等の電荷輸送剤とが同一層に含まれて構成される層が、感光体としての機能を発揮するので、これ以外の層を有していても、単層型有機感光体と呼ばれる。このような単層型有機感光体は、有機感光体の中でも、例えば、電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した感光層を備える積層型有機感光体と比較して、構造が簡単で製造が容易である。
【0005】
また、画像形成装置に備えられる帯電装置としては、接触帯電方式の帯電装置と非接触帯電方式の帯電装置とが挙げられる。そして、接触帯電方式の帯電装置は、チャージャー等を用いた非接触帯電方式の帯電装置と比較して、オゾンの発生を抑制することができることが知られている。
【0006】
このような非接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置に適用する単層型有機感光体としては、具体的には、例えば、特許文献1に記載の正帯電単層型電子写真感光体が挙げられる。
【0007】
特許文献1には、接触帯電方式の帯電手段を備えた画像形成装置に適用する正帯電単層型電子写真感光体であって、基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、結着樹脂とを含み、前記正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルをIP1(eV)とし、前記電荷発生剤のイオン化ポテンシャルをIP2(eV)としたときに、IP1−IP2で表される数値を0.1〜0.4(eV)の範囲内の値とするとともに、前記正帯電単層型電子写真感光体における接触帯電の際の、直流電圧と交流電圧の重畳時における表面電位を300V以上の値とする正帯電単層型電子写真感光体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−232904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によれば、帯電むらの発生を効率的に抑制でき、安定的に帯電可能な正帯電単層型電子写真感光体を得ることができる旨が開示されている。よって、この感光体を、接触帯電方式の帯電手段を備えた画像形成装置に備えることによって、安定的な画像形成が可能となる旨が開示されている。また、特許文献1に記載の正帯電単層型電子写真感光体は、上述したように、接触帯電方式の帯電手段を備えた画像形成装置に備えられるものであるので、オゾン等の有害物質の発生も少ない旨が開示されている。
【0010】
一般的に、接触帯電方式の帯電装置は、放電領域が狭いため、非接触帯電方式の帯電装置よりも帯電能力が乏しいことが知られている。
【0011】
また、非接触帯電方式の帯電装置では、帯電均一性を高めるために、印加電圧として、交流電圧や、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧等の交流成分を有する電圧を用いることが多い。しかしながら、交流成分を有する電圧を印加電圧として用いると、その交流成分におけるマイナス成分により、帯電電位が低下する。このマイナス成分による帯電電位の低下がないという点において、印加電圧として、直流電圧のみを用いることが好ましいと考えられる。
【0012】
また、特許文献1は、上述したように、接触帯電方式の帯電装置を用い、帯電時に直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を用いた画像形成装置において、メモリー現象による帯電むらの発生を効率的に抑制する方法である。このような、重畳電圧を用いることを前提とした方法において、接触帯電方式の帯電装置による帯電時に印加する電圧として、直流電圧のみを適用するようにしても、帯電むらの効率的な抑制という効果を充分に発揮できる構成にはならず、充分に高画質な画像を形成できない場合があった。
【0013】
また、電子写真感光体を備えた画像形成装置としては、オゾンの発生を抑制できる接触帯電方式の帯電装置を備えたものであって、長期間にわたって、より高画質な画像を形成できることが求められている。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる正帯電型電子写真感光体を提供することを目的とする。また、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置であって、前記正帯電型電子写真感光体が像担持体として備えられた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様に係る正帯電型電子写真感光体は、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置と、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備える画像形成装置に備えられる像担持体として用いられる正帯電型電子写真感光体であって、少なくとも導電性基体と感光層とを備え、前記感光層が、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層であって、前記正孔輸送剤が、下記式(1)又は下記式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする正帯電型電子写真感光体である。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
[式(1)及び式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のフェノキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は、未置換若しくは置換のアリール基を示し、Arは、未置換若しくは置換のアリール基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、未置換若しくは置換のヘテロアリール基、又は、未置換若しくは置換の縮合複素環を有する基を示し、nは、0又は1を示す。]
このような構成によれば、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる正帯電型電子写真感光体を提供することができる。
【0019】
本発明の他の一態様に係る画像形成装置は、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための帯電装置と、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備え、前記帯電装置が、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置であり、前記像担持体が、前記正帯電型電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置である。
【0020】
このような構成によれば、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる画像形成装置を提供することができる。
【0021】
また、前記画像形成装置において、前記帯電装置が、前記像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加することが好ましい。
【0022】
このような構成によれば、より長期間にわたって、より高画質な画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる正帯電型電子写真感光体を提供することができる。また、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置であって、前記正帯電型電子写真感光体が像担持体として備えられた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る正帯電型電子写真感光体の構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体は、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置と、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備える画像形成装置に備えられる像担持体として用いられる正帯電型電子写真感光体であって、少なくとも導電性基体と感光層とを備え、前記感光層が、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層であって、前記正孔輸送剤が、下記式(1)又は下記式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする正帯電型電子写真感光体である。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
式(1)及び式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のフェノキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は、未置換若しくは置換のアリール基を示す。また、Arは、未置換若しくは置換のアリール基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、未置換若しくは置換のヘテロアリール基、又は、未置換若しくは置換の縮合複素環を有する基を示す。nは、0又は1を示す。
【0030】
このような正帯電型電子写真感光体は、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる。すなわち、前記正帯電型電子写真感光体は、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、画像形成直後に形成された画像(初期画像)だけではなく、画像形成を長期間行った後に形成された画像(耐久画像)であっても、高画質な画像を形成できる。
【0031】
このことは、本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう。)が、転写メモリー現象の発生しにくい感光体であることによると考えられる。
【0032】
転写メモリー現象とは、画像を形成した際、先の画像形成にかかる画像が残像として残る現象、いわゆるメモリー現象の1つである。そして、転写メモリー現象とは、メモリー現象の中でも、感光体ドラム等の像担持体の表面上に形成したトナー像を、中間転写ベルト等の被転写体に転写する転写工程後の、像担持体の表面電位の状態に起因して発生するメモリー現象である。具体的には、以下のような理由により発生すると考えられている。
【0033】
まず、転写メモリー現象について説明する前に、電子写真方式を利用した画像形成方法について説明する。電子写真方式を利用した画像形成方法は、一般的に、以下の工程により行われる。なお、ここでの説明は、像担持体として、正帯電型電子写真感光体を用いた場合を中心に説明する。
【0034】
まず、帯電装置によって、像担持体の表面を正に帯電する帯電工程が行われる。この帯電工程によって、像担持体の表面が正の電位を帯びた状態になる。
【0035】
次に、露光装置によって、その帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成する露光工程が行われる。この露光工程は、画像データ等に基づいて、後の現像工程でトナー像が形成されるべきところを露光する。この露光によって、帯電された像担持体の表面電位を低下させた露光部が形成される。また、後の現像工程でトナー像が形成されないところは、露光せず、非露光部が形成される。この露光部の表面電位が、非露光部の表面電位より低くなるので、この露光部と非露光部との電位差が生じる。この電位差によって、露光部には、後の現像工程で、トナーが優先的に付着する。すなわち、この露光部が画像部に相当し、非露光部が非画像部に相当する。すなわち、露光工程によって、露光部(画像部)と非露光部(非画像部)とを含む静電潜像が形成される。なお、露光部は、後に形成される画像の濃淡に応じて、露光される程度を調整し、表面電位を調整する。
【0036】
次に、現像装置によって、前記静電潜像をトナー像として現像する現像工程が行われる。具体的には、前記露光部には、トナーが付着し、前記非露光部には、トナーが付着されないことにより、画像データ等に基づいたトナー像が形成される。
【0037】
次に、転写装置によって、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写工程が行われる。この転写は、例えば、被転写体が中間転写ベルトの場合、中間転写ベルトに対して、像担持体の表面電位とは逆の電荷の転写バイアス電圧を印加させて行う。そうすることによって、像担持体上のトナー像が、中間転写ベルトに移行する。
【0038】
この中間転写ベルトに移行されたトナー像を、さらに用紙等に転写させることにより、画像が形成される。
【0039】
そして、中間転写ベルトにトナー像を転写した後の像担持体に対しては、新たな画像形成が行われる。
【0040】
このような画像形成方法において、以下の理由により、転写メモリー現象が発生すると考えられる。
【0041】
上記のような画像形成方法における転写工程において、中間転写ベルトに対して、転写バイアス電圧を印加したら、転写バイアス電圧が像担持体の表面電位とは逆の電荷を有するものであるので、像担持体の表面電位を低下させる。その際、露光部には、トナー像が形成されているため、露光部の表面電位の低下が抑制されると考えられる。よって、非露光部の表面電位は、大きく低下するのに対して、露光部の表面電位は、低下しにくいことになると考えられる。このことから、トナー像を中間転写ベルトに好適に転写させることができる程度、高い転写バイアス電圧を印加すると、例えば、非露光部の表面電位は、逆極性(正帯電型電子写真感光体の場合は負)にまで低下するのに対して、露光部の表面電位は、極性が変わらないまま(正帯電型電子写真感光体の場合は、正に帯電されたまま維持される)ということにもなりえると考えられる。
【0042】
また、転写工程後、次の画像形成が開始されるまでの間に、除電装置によって、像担持体を除電する除電工程が行われることもある。具体的には、除電装置から除電光を像担持体に照射して除電する。この除電の作用により、上述の露光部と非露光部との電位差は緩和される。
【0043】
しかしながら、このような除電工程を行わない場合、上記電位差を維持したまま、次の画像形成が行われることになる。
【0044】
また、非露光部が逆極性(正帯電型電子写真感光体の場合は負)にまで低下した場合、除電工程が行われても、逆極性に帯電された場合、感光体の光感度が乏しくなるため、その電位差が解消されにくいと考えられる。よって、除電工程を行った場合であっても、露光部と非露光部との電位差が発生した状態のまま、次の画像形成が行われることもあると考えられる。
【0045】
よって、このように発生した電位差が、次の画像形成に残像として発現すると考えられる。
【0046】
転写メモリー現象は、このような理由により発生すると考えられる。
【0047】
そして、本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体は、転写バイアス電圧を印加することによる、表面電位の低下が小さいものである。すなわち、転写バイアス電圧を印加する前の非露光部の表面電位と、転写バイアス電圧を印加した後の非露光部の表面電位との差の絶対値が小さいものである。また、非露光部の表面電位の、転写バイアス電圧の印加前後の電位差(転写メモリー電位)の絶対値が、小さいものである。なお、転写メモリー電位は、像担持体が正帯電型電子写真感光体の場合、負となるので、大きいものである。
【0048】
このことから、本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体を像担持体として用いれば、トナー像を中間転写ベルトに好適に転写させることができる程度、高い転写バイアス電圧を印加しても、転写メモリー現象の発生が抑制されると考えられる。
【0049】
また、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置、例えば、像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加する帯電装置は、交流電圧も印加したほうが均一に帯電できる傾向があるが、本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体を用いれば、上述したように、転写メモリー電位の絶対値が小さいので、充分に均一に帯電できると考えられる。そして、直流電圧のみを印加した場合のほうが、像担持体である正帯電型電子写真感光体の感光層の損傷を抑制できると考えられる。
【0050】
以上のことから、本実施形態に係る正帯電型電子写真感光体を用いることによって、転写メモリー現象の発生を抑制し、高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、正帯電型電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
【0051】
また、前記感光体は、上記構成を満たしていれば、すなわち、感光層に含有される正孔輸送剤として、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を含む電子写真感光体であれば、その他は特に限定されない。
【0052】
具体的には、例えば、図1に示すような、感光層が、電荷発生剤、正孔輸送剤や電子輸送剤等の電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層である単層型感光体10であればよく、感光層及び導電性基体以外の層をさらに備えていてもよい。
【0053】
前記単層型感光体10は、図1に示すように、導電性基体12と、前記導電性基体12上に、感光層14として、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層とが備えられたものである。そして、前記単層型感光体10は、前記導電性基体12と前記感光層14とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、図1(a)に示すように、前記導電性基体12上に前記感光層14を直接備えていてもよいし、図1(b)に示すように、前記導電性基体12と前記感光層14との間に中間層16を備えていてもよい。また、図1(a)や図1(b)に示すように、前記感光層14が最外層となって露出していてもよいし、図1(c)に示すように、前記感光層14上に保護層18を備えていてもよい。
【0054】
[導電性基体]
前記導電性基体は、電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆されたものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドニウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、前記導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。また、前記導電性基体としては、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。そうすることによって、より長期間にわたって、より好適な画像を形成することができる感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることによると考えられる。
【0055】
また、前記導電性基体の形状は、特に限定されない。具体的には、例えば、シート状であっても、ドラム状であってもよい。すなわち、適用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状であっても、ドラム状であってもよく、特に限定されない。
【0056】
[感光層]
前記感光層としては、単層型の電子写真感光体の感光層として用いることができ、上述したように、感光層に含有される正孔輸送剤として、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を含むものであれば、特に限定されない。また、感光層の層構造としては、具体的には、例えば、上述したような、図1に示す感光層の構造等が挙げられる。
【0057】
また、前記感光層に含有される、電荷発生剤、正孔輸送剤や電子輸送剤等の電荷輸送剤、及び結着樹脂等としては、正孔輸送剤が上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を含むものであること以外、特に限定されない。具体的には、例えば、以下に示すものを用いることができる。
【0058】
(電荷発生剤)
前記電荷発生剤としては、単層型の電子写真感光体の電荷発生剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(3)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、Y型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0059】
【化5】

【0060】
また、前記電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、前記各電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前記各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。また、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0061】
(電荷輸送剤)
前記電荷輸送剤としては、単層型の電子写真感光体の感光層に含まれる電荷輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、電荷輸送剤としては、一般的に、正孔輸送剤と電子輸送剤とが挙げられる。
【0062】
(正孔輸送剤)
前記正孔輸送剤としては、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を含む。
【0063】
上記式(1)及び上記式(2)中、各置換基は、以下に示すものである。
【0064】
〜Rは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。すなわち、R〜Rは、それぞれ独立している。
【0065】
また、R〜Rは、水素原子、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のフェノキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は、未置換若しくは置換のアリール基を示す。この中でも、水素原子、メトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。また、R〜Rが、全て水素原子であることがより好ましい。
【0066】
また、Arは、未置換若しくは置換のアリール基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、未置換若しくは置換のヘテロアリール基、又は、未置換若しくは置換の縮合複素環を有する基を示す。この中でも、未置換若しくは置換のアリール基、未置換の縮合多環炭化水素基が好ましい。また、置換のアリール基としては、置換基として、メチル基やエチル基等の、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、メトキシ基等の、炭素数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基を有する置換のアリール基等が好ましい。また、未置換の縮合多環炭化水素基としては、テトラヒドロナフチル基やジオキサインダニル基等が好ましい。
【0067】
また、nは、0又は1を示す。
【0068】
また、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物の製造方法としては、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を合成できれば、特に限定されない。具体的には、例えば、上記式(1)で表される化合物は、下記式(4)〜(8)に示すように合成される。
【0069】
【化6】

【0070】
【化7】

【0071】
【化8】

【0072】
【化9】

【0073】
【化10】

【0074】
また、例えば、上記式(2)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び下記式(9)に示すように合成される。
【0075】
【化11】

【0076】
上記式(4)〜(9)中、R〜R、Ar、及びnは、上記式(1)及び式(2)と同様のものを示す。具体的には、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のフェノキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は、未置換若しくは置換のアリール基を示す。また、Arは、未置換若しくは置換のアリール基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、未置換若しくは置換のヘテロアリール基、又は、未置換若しくは置換の縮合複素環を有する基を示す。nは、0又は1を示す。また、X〜Xは、ハロゲン原子を示す。
【0077】
また、前記正孔輸送剤としては、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を含んでいればよく、単層型の電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送剤として用いることができるものをさらに含有してもよい。このような正孔輸送剤としては、具体的には、例えば、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。
【0078】
また、前記正孔輸送剤としては、前記例示した各正孔輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(電子輸送剤)
前記電子輸送剤としては、単層型の電子写真感光体の感光層に含まれる電子輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。
【0080】
また、前記電子輸送剤としては、前記例示した各電子輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
(結着樹脂)
前記結着樹脂としては、電子写真感光体の感光層に含まれる結着樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、さらにエポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、前記結着樹脂としては、前記例示した各結着樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
(添加剤)
前記感光体には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び結着樹脂以外の各種添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、具体的には、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0083】
[電子写真感光体の製造方法]
次に、電子写真感光体(単層型感光体)の製造方法について説明する。
【0084】
前記単層型感光体の製造方法としては、導電性基材上に、上記構成の感光層を形成することができる方法であれば、特に限定されない。具体的には、単層型感光体は、前記電荷発生剤、前記正孔輸送剤、前記電子輸送剤、前記結着樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を、塗布等によって、前記導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、製造することができる。前記塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、デッィプコーター、ドクターブレードを用いて塗布する方法等が挙げられる。また、前記乾燥方法としては、例えば、80〜150℃で15〜120分間の条件で熱風乾燥する方法等が挙げられる。
【0085】
前記単層型感光体において、前記電荷発生剤、前記正孔輸送剤、前記電子輸送剤、及び前記結着樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、前記電荷発生剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましい。また、前記電子輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。また、前記正孔輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましい。さらに、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量、すなわち、前記電荷輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、20〜500質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。
【0086】
また、前記単層型感光体の感光層の厚さは、感光層として充分に作用することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
【0087】
また、前記塗布液に含有される溶剤としては、前記感光層を構成する各成分を溶解又は分散させることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。これらの溶剤は、前記例示した溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
前記感光体は、例えば、後述の、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備える画像形成装置の像担持体として用いることが好ましい。そうすることによって、転写メモリー現象の発生を抑制し、高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、正帯電型電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
【0089】
[画像形成装置]
前記電子写真感光体を備えるための画像形成装置としては、電子写真方式の画像形成装置であって、帯電装置として直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えたものであれば、特に限定されない。
【0090】
また、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
【0091】
なお、本実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、前記各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備えた複数の現像装置とを備え、前記像担持体として、前記感光体を用いる。
【0092】
図2は、本発明の実施形態に係る正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、前記画像形成装置1としては、カラープリンタ1を例に挙げて説明する。
【0093】
このカラープリンタ1は、図2に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、前記機器本体1aの上面には、前記定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0094】
前記給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の図2に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0095】
また、給紙部2は、機器本体1aの図2に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0096】
前記画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピュータ等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0097】
前記画像形成ユニット7は、上流側(図2では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての感光体ドラム37が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体ドラム37の周囲には、帯電装置39、露光装置38、現像装置71、不図示のクリーニング装置及び除電手段としての除電器等が、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、前記感光体ドラム37としては、前記感光体を用いる。
【0098】
帯電装置39は、矢符方向に回転されている感光体ドラム37の周面を均一に帯電させる。前記帯電装置39としては、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加するローラー帯電装置や、像担持体の表面に接触する帯電ブラシを備え、前記帯電ブラシに直流電圧を印加するブラシ帯電装置等が挙げられ、ローラー帯電装置が好ましく用いられる。
【0099】
このローラー帯電装置は、帯電ローラーが感光体ドラム37と接触したまま、帯電ローラーに直流電圧のみを印加させて、前記感光体ドラム37の周面(表面)を帯電させる装置であれば、特に限定されない。前記帯電ローラーとしては、例えば、感光体ドラム37と接触したまま、前記感光体ドラム37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、前記帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、前記芯金上に形成された樹脂層と、前記芯金に電圧を印加する電圧印加手段とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電装置は、前記電圧印加手段によって、前記芯金に直流電圧を印加することによって、前記樹脂層を介して接触する感光体ドラム37の表面を帯電させることができる。
【0100】
また、前記樹脂層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、前記樹脂層には、無機充填材を含有していてもよい。
【0101】
露光装置38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電装置39によって均一に帯電された感光体ドラム37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピュータ(PC)から入力された画像データに基づくレーザー光を照射し、感光体ドラム37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像装置71は、静電潜像が形成された感光体ドラム37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング装置は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電器は、1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面を除電する。クリーニング装置及び除電器によって清浄化処理された感光体ドラム37の周面は、新たな帯電処理のために帯電装置へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0102】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体ドラム37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体ドラム37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体ドラム37に押圧された状態で、前記複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモータ等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0103】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体ドラム37上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。
【0104】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0105】
前記定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
【0106】
そして、前記画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンタ1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
【0107】
排紙部5は、カラープリンタ1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0108】
前記画像形成装置1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、前記像担持体として、前記感光体が備えられているので、転写メモリー現象の発生を抑制し、高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、正帯電型電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0110】
[実施例1]
(感光体の製造)
電荷発生剤として、下記式(3)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)を5質量部と、正孔輸送剤として、下記式(1−1)で表される化合物を50質量部、電子輸送剤として、下記式(10)で表される化合物を35質量部、結着樹脂として、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量50,000)を100質量部とを、テトラヒドロフラン800質量部の中に添加した。そして、ボールミルを用いて、50時間、混合・分散処理を行った。そうすることによって、感光層用の塗布液が得られた。なお、下記式(1−1)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0111】
得られた塗布液を、アルマイト素管からなる導電性基体の上に、ディップコート法で塗布し、100℃40分間熱風乾燥させた。そうすることによって、層厚30μmの感光層が導電性基体上に形成された単層型感光体(直径30mm)が得られた。
【0112】
【化12】

【0113】
【化13】

【0114】
【化14】

【0115】
[実施例2]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−2)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−2)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0116】
【化15】

【0117】
[実施例3]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−3)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−3)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0118】
【化16】

【0119】
[実施例4]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−4)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−4)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0120】
【化17】

【0121】
[実施例5]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−5)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−5)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0122】
【化18】

【0123】
[実施例6]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−6)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−6)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0124】
【化19】

【0125】
[実施例7]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(1−7)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(1−7)で表される化合物は、上記式(4)〜(8)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0126】
【化20】

【0127】
[実施例8]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−1)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−1)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0128】
【化21】

【0129】
[実施例9]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−2)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−2)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0130】
【化22】

【0131】
[実施例10]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−3)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−3)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0132】
【化23】

【0133】
[実施例11]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−4)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−4)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0134】
【化24】

【0135】
[実施例12]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−5)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−5)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0136】
【化25】

【0137】
[実施例13]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−6)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−6)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0138】
【化26】

【0139】
[実施例14]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(2−7)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。なお、下記式(2−7)で表される化合物は、上記式(4)〜(6)及び上記式(9)に示す反応式に基づいて合成することができる。
【0140】
【化27】

【0141】
[比較例1]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(11)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
【0142】
【化28】

【0143】
[比較例2]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(12)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
【0144】
【化29】

【0145】
[評価]
実施例1〜14、及び比較例1,2に係る電子写真感光体を、以下の方法により評価した。
【0146】
(転写メモリー電位)
まず、得られた電子写真感光体を、帯電ローラーを備えた接触帯電方式の帯電装置に改造したプリンタ(京セラミタ株式会社製のFS−5300DN)に搭載し、画像形成装置を得た。その際、前記帯電装置は、前記帯電ローラーに直流電圧を印加して、感光体の表面の電位が600Vになるように設定して、前記感光体を帯電させた。
【0147】
このような画像形成装置において、非露光部(非画像部、白紙部)の、転写バイアス電圧を印加する前の、前記感光体の表面電位(印加前電位)を測定した。また、非露光部(非画像部、白紙部)の、転写バイアス電圧を印加する後の、前記感光体の表面電位(印加後電位)を測定した。そして、これらの電位の差分、具体的には、(印加後電位)−(印加前電位)を算出し、この差分を、転写メモリー電位とした。
【0148】
(画質)
また、上記画像形成装置を用いて、10mm×10mmベタ画像部と、3mm程度の大きさのアルファベットと、ハーフトーン部とを有する画像を、1時間、耐久印刷した。その耐久印刷後に得られた画像を目視で確認した。
【0149】
画像不良が確認できなければ、「◎」と評価した。
【0150】
また、形成された画像のハーフトーン部に、アルファベットに由来するゴーストが確認されないが、ベタ画像部に由来するゴーストが確認される場合は、「○」と評価した。
【0151】
また、形成された画像のハーフトーン部に、アルファベットに由来するゴーストも、ベタ画像部に由来するゴーストも確認された場合は、「×」と評価した。
【0152】
この結果を、表1に示す。
【0153】
【表1】

【0154】
表1からわかるように、正孔輸送剤として、上記式(1)又は上記式(2)で表される化合物を用いれば、転写メモリー現象の発生が抑制され、高画質な画像が得られる。このことは、転写メモリー電位の絶対値が、小さいことによると考えられる。
【符号の説明】
【0155】
10 単層型感光体
12 導電性基体
14 感光層
16 中間層
18 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置と、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備える画像形成装置に備えられる像担持体として用いられる正帯電型電子写真感光体であって、
少なくとも導電性基体と感光層とを備え、
前記感光層が、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層であって、
前記正孔輸送剤が、下記式(1)又は下記式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする正帯電型電子写真感光体。
【化1】


【化2】


[式(1)及び式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のフェノキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は、未置換若しくは置換のアリール基を示し、Arは、未置換若しくは置換のアリール基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、未置換若しくは置換のヘテロアリール基、又は、未置換若しくは置換の縮合複素環を有する基を示し、nは、0又は1を示す。]
【請求項2】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電装置と、
帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備え、
前記帯電装置が、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置であり、
前記像担持体が、請求項1に記載の正帯電型電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
前記帯電装置が、前記像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加する請求項2に記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−234000(P2012−234000A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101517(P2011−101517)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】