説明

正極の製造方法

【課題】高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池および正極の製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質は、リチウム含有層状酸化物からなる。リチウム含有層状酸化物は、空間群P6mcに属するLiNaMnCo2±αおよび空間群Cmcaに属するLiNaMnCo2±αのいずれか一方または両方を含む。リチウム含有層状酸化物は、上記LiNaMnCo2±αを固溶体もしくは混合物またはその両方として含む。上記LiNaMnCo2±αにおいては、0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、0≦α≦0.3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を含む正極、負極および非水電解質を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水リチウムイオン二次電池が利用されている。
【0003】
このような非水リチウムイオン二次電池では、正極として層状構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられるとともに、負極としてリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料等が用いられ、非水電解質としてエチレンカーボネートまたはジエチルカーボネート等の有機溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)または六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウム塩を溶解させたものが使用されている。
【0004】
近年、このような非水リチウムイオン二次電池が様々な携帯用機器の電源等として使用されているが、携帯用機器の多機能化による消費電力の増加に伴って、さらに高いエネルギー密度を有する非水リチウムイオン二次電池が要望されている。
【0005】
高いエネルギー密度を有する非水リチウムイオン二次電池を得るためには、正極材料を高容量化することが必要であり、特に層状化合物への期待は大きい。現在までに多くのリチウム含有層状化合物が研究され、LiCoO、LiNiOおよびLiNi1/3Co1/3Mn1/3等の材料が開発されている。
【0006】
また、新規なリチウム含有層状化合物の合成法として、ナトリウム含有層状化合物を経由してリチウム含有層状化合物を合成する方法が研究されている。この方法によれば、合成が困難なリチウム含有層状化合物を容易に得ることができる。例えば、NaCo0.5Mn0.5においては、ナトリウムをリチウムでイオン交換することによりリチウムイオン二次電池の正極活物質として利用することができる。
【特許文献1】特開2002-220231号公報
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc,149(10)(2002)A1310
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc,147(2)(2000)508
【非特許文献3】J.Electrochem.Soc,148(3)(2001)237
【非特許文献4】Solid State Ionics 149 (2002) P39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非水リチウムイオン二次電池の正極に現在使用されているLiCoOにおいて、リチウムを組成比0.5以上引き抜くと(Li1−xCoOにおいてx=0.5以上)、結晶構造が崩れ始め、可逆性が低下するという問題がある。そのため、LiCoOを正極材料として用いた従来の非水リチウムイオン二次電池においては、充電終止電位を4.3V(vs.Li/Li)程度に制限しなければならず、放電容量密度は160mAh/g程度である。
【0008】
また、上記従来の非水リチウムイオン二次電池では、5.0V(vsLi/Li)まで充放電を繰り返すと放電容量密度の低下が大きい。
【0009】
また、NaCo0.5Mn0.5のナトリウムをリチウムでイオン交換することにより得られるO3構造のLiCo0.5Mn0.5の放電容量密度は130mAh/g程度と低い。
【0010】
そこで、高電位まで充電を行うことにより正極活物質から多量のリチウムを引き抜いても結晶構造が安定で放電容量密度が高くサイクル特性の良好な正極材料が求められている。
【0011】
本発明の目的は、高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池および正極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)第1の発明に係る非水電解質二次電池は、リチウム含有酸化物からなる正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、リチウム含有酸化物は、空間群P6mcおよび/または空間群Cmcaに属するLiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を含むものである。
【0013】
この非水電解質二次電池においては、空間群P6mcおよび/または空間群Cmcaに属するLiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を含むリチウム含有酸化物が正極活物質として用いられる。
【0014】
この場合、高電位まで充電を行うことにより多量のリチウムが引き抜かれても、正極活物質の結晶構造が崩れにくい。それにより、高い充放電容量密度が得られる。また、高電位までの充電と放電とを繰り返しても、充放電容量密度が低下しない。したがって、高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池が実現される。
【0015】
(2)リチウム含有酸化物は、X線源としてCuKαを用いたX線粉末結晶回折スペクトルにおいて回折角2θが18.0度から19.5度の範囲にピークを有し空間群C2/mまたは空間群C2/cに属する物質を固溶体もしくは混合物またはその両方として含んでもよい。この場合、高い充放電容量密度を得ることができる。
【0016】
(3)回折角2θが18.0度から19.5度の範囲にピークを有する上記の物質は、Li1+x[MnCo1−y]1−x(0≦x≦1/3および0<y≦1)であってもよい。この場合、リチウム含有酸化物の基本骨格を十分に維持しつつ高い充放電容量密度を得ることができる。
【0017】
(4)リチウム含有酸化物の真密度が4.4g/cm以上であってもよい。この場合、十分に高い充放電容量密度を得ることができる。
【0018】
(5)負極は、リチウム金属、珪素、炭素、錫、ゲルマニウム、アルミニウム、鉛、インジウム、ガリウム、リチウム含有合金、予めリチウムを吸蔵させた炭素材料、および予めリチウムを吸蔵させた珪素材料からなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0019】
このような材料からなる負極を用いることにより、非水電解質二次電池において十分に充放電を行うことができる。
【0020】
なお、上記において、リチウム含有酸化物は、回折角2θが18.0度から19.5度の範囲にピークを有する上記の物質を35mol%未満含むことが好ましい。この場合、リチウム含有酸化物の基本骨格を十分に維持しつつ高い充放電容量密度を得ることができる。
【0021】
(6)第2の発明に係る正極の製造方法は、ナトリウム含有酸化物に含まれるナトリウムの一部をリチウムによりイオン交換することによりナトリウムを含むリチウム含有酸化物からなる正極活物質を作製し、ナトリウム含有酸化物は、NaLiMO2±α(0.5≦A≦1.1、0<B≦0.3および0≦α≦0.3)を含み、Mはマンガンおよびコバルトの少なくとも1種を含み、ナトリウム含有酸化物は、X線源としてCuKαを用いたX線粉末結晶回折スペクトルにおいて回折角2θが18.0度から19.5度の範囲にピークを有し空間群C2/mまたは空間群C2/cに属する物質を含むものである。
【0022】
この製造方法によれば、ナトリウム含有酸化物NaLiMO2±α(0.5≦A≦1.1、0<B≦0.3および0≦α≦0.3)のナトリウムの一部がリチウムによりイオン交換されることにより、ナトリウムを含むリチウム含有酸化物からなる正極活物質が作製される。
【0023】
この正極活物質を含む正極においては、高電位まで充電を行うことにより多量のリチウムが引き抜かれても、結晶構造が崩れにくい。それにより、高い充放電容量密度が得られる。また、高電位までの充電と放電とを繰り返しても、充放電容量密度が低下しない。したがって、高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池が実現される。
【0024】
また、この方法によれば、正極活物質の高い充放電容量密度を得ることができる。
【0025】
なお、ナトリウム含有酸化物は、Li1+x[MnCo1−y]1−x(0≦x≦1/3および0<y≦1)を35mol%未満含むことが好ましい。この場合、正極活物質の基本骨格を十分に維持しつつ高い充放電容量密度を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高電位まで充電を行うことにより多量のリチウムが引き抜かれても、正極活物質の結晶構造が崩れにくいので、高い充放電容量密度が得られる。また、高電位までの充電と放電とを繰り返しても、充放電容量密度が低下しない。したがって、高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極および非水電解質により構成され、正極と負極との間におけるリチウムイオンの移動により充放電を行う。
【0029】
(1)正極
(1−1)正極活物質
正極活物質は、リチウム含有層状酸化物からなる。リチウム含有層状酸化物は、空間群P6mcに属するO2構造を有するLiNaMnCo2±αおよび空間群Cmcaに属するT2(T2)構造を有するLiNaMnCo2±αのいずれか一方または両方を含む。リチウム含有層状酸化物は、上記LiNaMnCo2±αを固溶体もしくは混合物またはその両方として含む。
【0030】
上記LiNaMnCo2±αにおいては、0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、0≦α≦0.3であり、0.7≦A≦1.2、0<B≦0.005、0.40≦x≦0.525、0.40≦y≦0.525、0.80≦x+y≦1.05、0≦α≦0.3であることが好ましい。
【0031】
上記リチウム含有層状酸化物は、CuKαを用いたX線粉末結晶回折測定において回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にメインピークを有する物質を固溶体もしくは混合物またはその両方として含むことが好ましい。このような物質としては、空間群C2/mまたはC2/cに属するLi1+x[MnCo1−y]1−xが考えられる。
【0032】
上記Li1+x[MnCo1−y]1−xにおいては、0≦x≦1/3、0<y≦1である。Li1+x[MnCo1−y]1−xとしては、例えば、LiMnOが挙げられる(x=1/3、y=1の場合)。この場合、リチウム含有層状酸化物の基本骨格を維持しつつ高い充放電容量密度を得ることができる。
【0033】
なお、上記固溶体としては侵入型および置換型が考えられる。また、上記混合物としては粒子レベルの混合だけでなく結晶子レベルでの混合または結合も考えられる。
【0034】
リチウム含有層状酸化物中に含有される上記空間群C2/mまたはC2/cに属する物質の割合は35mol%未満であることが好ましく、30mol%未満であることがより好ましく、25mol%未満であることがさらに好ましい。この場合、リチウム含有層状酸化物の基本骨格を十分に維持しつつ高い充放電容量密度を得ることができる。
【0035】
上記の特徴を有するリチウム含有層状酸化物においては、初期充電容量を初期放電容量で除した値(初期充放電効率)が、例えば、100%以上200%以下となる。
【0036】
(1−2)正極活物質の作製
上記のリチウム含有層状酸化物は、水溶液、非水溶液または溶媒塩を用いて、ナトリウム含有層状酸化物のナトリウムをリチウムでイオン交換することにより得られる。上記ナトリウム含有層状酸化物は、NaLiMO2±αを含む。上記Mは、マンガン(Mn)およびコバルト(Co)の少なくとも1種を含む。また、上記NaLiMO2±αにおいては、0.5≦A≦1.1、0<B≦0.3、0≦α≦0.3である。上記ナトリウム含有層状酸化物NaLiMO2±αとしては、例えば、Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5が挙げられる。
【0037】
本実施の形態においては、硝酸リチウムと塩化リチウムとの混合物に上記ナトリウム含有層状酸化物を添加し、320℃未満の温度で所定時間保持することによりイオン交換を行う。
【0038】
ナトリウム含有層状酸化物は、CuKαを用いたX線粉末結晶回折測定において回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にメインピークを有する物質を固溶体もしくは混合物またはその両方として含むことが好ましい。このような物質としては、空間群C2/mまたはC2/cに属するLi1+x[MnCo1−y]1−xが考えられる。
【0039】
上記Li1+x[MnCo1−y]1−xにおいては、0≦x≦1/3、0<y≦1である。Li1+x[MnCo1−y]1−xとしては、例えば、LiMnOが挙げられる(x=1/3、y=1の場合)。ナトリウム含有層状酸化物に含有される上記空間群C2/mまたはC2/cに属する酸化物の割合は、35mol%未満であることが好ましい。
【0040】
なお、上記固溶体としては侵入型および置換型が考えられる。また、上記混合物としては粒子レベルの混合だけでなく結晶子レベルでの混合または結合も考えられる。
【0041】
以上のようにしてリチウム含有層状酸化物を作製する場合、リチウム含有層状酸化物の真密度を4.40g/cm〜5.00g/cmにすることができる。この場合、上記リチウム含有層状酸化物の真密度を、イオン交換前のナトリウム含有層状酸化物の真密度(約4.3g/cm)に比べて大きくすることができる。
【0042】
なお、上記ナトリウム含有層状酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5から上記リチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±αを作製する場合、Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5の組成比に基づいて計算すると、リチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±α中のLiMnOの量は29mol%となる。
【0043】
ここで、ナトリウム含有層状酸化物NaLiMO2±αは、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸リチウム(LiCO)等の複数の出発原料を混合および焼成(約800〜1000℃の雰囲気において)することにより合成されるが、焼成時に、ナトリウム(沸点881℃)が昇華する場合がある。
【0044】
そのため、例えば、ナトリウム含有層状酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5が得られる理論上のモル比で出発原料を混合しても、実際には、上記昇華によるナトリウムの減少により、得られるナトリウム含有層状酸化物のナトリウムの組成比が0.65程度になる場合がある。このことは、発明者らによる実験により、実際に確認されている。
【0045】
また、上記出発原料において、炭酸リチウム(LiCO)等の無機リチウム塩の量は少ない。そのため、他の出発原料と上記無機リチウム塩とを混合する際に、秤量誤差により無機リチウム塩の量が理論値より多くなる場合がある。リチウムは軽金属であり沸点(1347℃)が高いため、上記焼成時においても昇華しにくい。そのため、例えば、ナトリウム含有層状酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5を得るために各出発原料を混合する場合に、上記リチウム塩の秤量誤差により、得られるナトリウム含有層状酸化物のリチウムの組成比が0.23程度になることがある。
【0046】
ナトリウム含有層状酸化物NaLiMO2±αからリチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±αを作製する際には、上記のようなナトリウムおよびリチウムの組成比の増減が要因となり、得られるリチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±αに含有されるLiMnOの量が理論値より多くなる場合がある。
【0047】
そこで、本発明者らは、リチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±αに含有される上記空間群C2/mまたはC2/cに属する物質(例えば、LiMnO)の割合は、35mol%未満であることが好ましいと考えた。
【0048】
(1−3)導電剤および結着剤
正極活物質を含む正極を作製する際に、導電剤を添加してもよい。正極活物質が導電性を有する場合には、導電剤を添加することによりさらに導電性を向上させ、良好な充放電特性を得ることができる。また、正極活物質の導電性が低い場合には、導電剤を用いることにより正極として確実に機能させることができる。
【0049】
導電剤としては、導電性を有する材料であればよく、特に導電性が優れている酸化物、炭化物、窒化物および炭素材料の少なくとも1種を用いることができる。酸化物としては、酸化スズ、酸化インジウム等が挙げられる。炭化物としては、炭化タングステン、炭化ジルコニウム等が挙げられる。窒化物としては、窒化チタン、窒化タンタル等が挙げられる。
【0050】
なお、このように導電剤を添加する場合、その添加量が少ないと、正極における導電性を充分に向上させることが困難となる一方、添加量が多いと、正極に含まれる正極活物質の割合が少なくなるため、高いエネルギー密度が得られなくなる。したがって、導電剤の添加量は、正極の全体の0重量%以上30重量%以下、好ましくは、0重量%以上20重量%以下、より好ましくは、0重量%以上10重量%以下の範囲になるようにする。
【0051】
正極に添加する結着剤は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、スチレンーブタジエンラバーおよびカルボキシメチルセルロースから選択される1種以上を用いることができる。
【0052】
正極に添加する結着剤の量が多いと、正極に含まれる正極活物質の割合が小さくなるため、高いエネルギー密度が得られなくなる。そのため、結着剤の量が全体の0重量%以上30重量%以下、好ましくは、0重量%以上20重量%以下、より好ましくは、0重量%以上10重量%以下の範囲になるようにする。
【0053】
(2)非水電解質
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0054】
非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組み合わせからなるものが挙げられる。
【0055】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0056】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0057】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0058】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0059】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0060】
電解質塩としては、非水リチウムイオン二次電池において電解質塩として一般に使用されているものを用いることができる。例えば、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、またはジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム等を用いることができる。
【0061】
なお、上記電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(3)負極
負極材料としては、リチウム金属(Li)、珪素(Si)、炭素(C)、錫(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、リチウム含有合金、予めリチウムを吸蔵させた炭素材料、および予めリチウムを吸蔵させた珪素材料の1種または2種以上を用いることができる。
【0063】
(4)非水電解質二次電池の作製
上記の正極、負極および非水電解質を用いて、以下に示すように、非水電解質二次電池を作製する。
【0064】
図1は、本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【0065】
図1に示すように、不活性雰囲気下において上記正極にリード6を取り付けることにより作用極1とするとともに、例えばリチウム金属からなる負極にリード6を取り付けることにより対極2とする。
【0066】
次に、作用極1と対極2との間にセパレータ4を挿入し、ラミネート容器10内に作用極1、対極2および例えばリチウム金属からなる参照極3を配置する。そして、ラミネート容器10内に上記非水電解質5を注入することにより試験セルとしての非水電解質二次電池を作製する。なお、作用極2と参照極3との間にもセパレータ4を挿入する。
【0067】
なお、上記の正極活物質を用いた図1の試験セルにおいては、充放電範囲2.5−5.0V(vs.Li/Li)の充放電試験を行った場合に、5サイクル後の容量維持率を90%以上にすることができる。
【0068】
(5)本実施の形態における効果
本実施の形態に係る非水電解質二次電池では、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させることにより、充電および放電が行われる。正極活物質が空間群P6mcに属するLiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0≦B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、0≦α≦0.3)および空間群Cmcaに属するLiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0≦B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、0≦α≦0.3)のいずれか一方または両方を含む。
【0069】
この場合、高電位まで充電を行うことにより多量のリチウムが引き抜かれても、結晶構造が崩れにくい。例えば、LiNaMnCo2±αにおいてリチウムの組成比Aが十分に大きい場合には、リチウムを組成比0.85以上引き抜いても、結晶構造が崩れることを十分に防止することができる。それにより、高い充放電容量密度を得ることができる。また、高電位までの充電と放電とを繰り返しても、充放電容量密度が低下しない。したがって、高い容量および良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池が実現される。
【実施例】
【0070】
実施例および比較例において、種々の正極活物質を生成した。そして、各正極活物質について調べた。
【0071】
(1)実施例
(a)実施例1〜4
実施例1〜4においては、まず、リチウム含有層状酸化物(以下、リチウム酸化物と略記する。)からなる正極活物質を得るための前駆体としてナトリウム含有層状酸化物(以下、ナトリウム酸化物と略記する。)を生成した。
【0072】
具体的には、実施例1および実施例2では、ナトリウム酸化物の出発原料として、シュウ酸ナトリウム(Na)、硝酸ナトリウム(NaNO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸リチウム(LiCO)、酸化コバルト(II III)(Co)、酸化マンガン(III)(Mn)および二酸化マンガン(MnO)を用いた。こ
れらの化合物を異なるモル数の比で混合した。
【0073】
また、実施例3および実施例4では、実施例1および実施例2の上記出発原料のうち炭酸リチウム(LiCO)を除く化合物をナトリウム酸化物の出発原料として用い、これらの化合物を異なるモル数の比で混合した。
【0074】
混合により得られた粉末をペレット(小粒)に成型した。その後、ペレットに対して700℃の空気中で10時間仮焼成を行い、800℃の空気中で20時間の本焼成を行った。このようにして、表1に示す組成式を有するナトリウム酸化物を得た。なお、実施例1〜4のナトリウム酸化物は、空間群P6/mmcに属するO2構造を有する。
【0075】
【表1】

【0076】
上記のようにして得られたナトリウム酸化物を、硝酸リチウム(LiNO)と塩化リチウム(LiCl)とを体積比88:12の割合で混合した混合物を用いてイオン交換した。詳細には、約3gのナトリウム酸化物をそれぞれ10gの上記混合物に溶融させ、280℃の温度で10時間保持することによりイオン交換を行った。
【0077】
その後、上記混合物および未反応の出発原料を水洗し、100℃で真空乾燥した。このようにして、上記表1に示す組成式を有する空間群P6mcまたは空間群Cmcaに属するリチウム酸化物LiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を正極活物質として作製した。なお、表1において、実施例1〜4の正極活物質中のNaの組成比Bは0より大きく0.01以下である。特に、実施例2の正極活物質においては、Naの組成比Bは0.002以下である。また、表1に示される正極活物質の組成比は、上記の作製条件から見積もられる値である。
【0078】
上記のようにして作製した各正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラックおよび結着剤としてのポリフッ化ビニリデンをそれぞれ80重量%、10重量%および10重量%の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに溶解させることにより正極合剤としてのスラリーを作製した。
【0079】
続いて、ドクターブレード法により、作製したスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体上に塗布した後、乾燥させ、圧延ローラにより圧延することによって正極活物質層を形成した。そして、正極活物質層を形成しなかった正極集電体の領域上にアルミニウムの集電タブを取り付けた。その後、110℃の真空中で乾燥させ、成型を施すことにより作用極1(正極)を得た。
【0080】
対極2(負極)には、所定の大きさにカットしたリチウム金属を用いた。また、リチウム金属を所定の大きさにカットし、参照極3を用意した。
【0081】
非水電解質5としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比30:70の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0M(モル濃度)の濃度になるように添加したものを用いた。
【0082】
以上の作用極1(正極)、対極2(負極)、参照極3および非水電解質5を用いて、図1の非水電解質二次電池の試験セルを作製した。
【0083】
なお、実施例2においては、ナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5の真密度は4.33g/cmであり、イオン交換後のLi0.9NaMn0.5Co0.5の真密度は4.44g/cmであった。
【0084】
(b)実施例5〜9
実施例5〜9においては、実施例1〜4と同様に、まず、前駆体としてのナトリウム酸化物を生成した。
【0085】
具体的には、実施例5および実施例6では、ナトリウム酸化物の出発原料として、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸リチウム(LiCO)、酸化マンガン(III)(Mn)、酸化コバルト(II III)(Co)を用いた。
【0086】
また、実施例7、実施例8および実施例9では、実施例5および実施例6の上記出発原料のうちの炭酸ナトリウム(NaCO)を硝酸ナトリウム(NaNO)に代えたものを出発原料として用いた。
【0087】
上記の出発原料を、仕込み組成がNa0.7Li0.07Mn0.5Co0.5(実施例5)、Na0.7Li0.1Mn0.5Co0.5(実施例6)、Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5(実施例7)、Na1.0Li0.1Mn0.5Co0.5(実施例8)およびNa1.0Li0.2Mn0.5Co0.5(実施例9)になるようにメノウ乳鉢で粉砕混合し、700℃の空気中で10時間焼成した。焼成後の粉末を再びメノウ乳鉢で粉砕混合し、800℃の空気中で20時間焼成した。このようにして、前駆体としてのナトリウム酸化物を生成した。
【0088】
なお、実施例5〜実施例9のナトリウム酸化物は、空間群P6/mmcに属するO2構造を有する。表2に実施例5〜9のナトリウム酸化物の組成比を示す。
【0089】
【表2】

【0090】
上記のようにして生成したナトリウム酸化物を、硝酸リチウム(LiNO)と塩化リチウム(LiCl)とをモル比88:12の割合で混合した混合物を用いてイオン交換した。詳細には、実施例5〜9のナトリウム酸化物をそれぞれ上記混合物に溶融させ、電気炉において300℃の温度で10時間保持することによりイオン交換を行った。ナトリウム酸化物と上記混合物とのモル比は1:5とした。
【0091】
このようにして、上記表2に示す組成式を有する空間群P6mcまたは空間群Cmcaに属するリチウム酸化物LiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を正極活物質として生成した。なお、表2に示す実施例5〜9の正極活物質の組成比のうち、ナトリウム(Na)およびリチウム(Li)の組成比は原子発光分析により測定し、マンガン(Mn)およびコバルト(Co)の組成比は誘導結合プラズマ(ICP)法により測定した。また、上記の組成比の測定においては、マンガンおよびコバルトの物質量の和が1になるように、ナトリウムおよびリチウムの物質量を定量した。
【0092】
上記のようにして生成した各正極活物質を用いて、実施例1〜4と同様の方法により作用極1(正極)を得た。また、それらの各作用極1、実施例1〜4と同様の対極2(負極)、参照極3および非水電解質5を用いて、図1の非水電解質二次電池の試験セルを作製した。
【0093】
(2)比較例
(a)比較例1
比較例1においては、コバルト酸リチウム(LiCoO)を正極活物質として上記と同様に図1の非水電解質二次電池の試験セルを作製した。
【0094】
(b)比較例2
比較例2においては、0.3M(モル濃度)の過マンガン酸ナトリウム(NaMnO)水溶液および0.3Mの塩化リチウム(LiCl)水溶液をリチウムとナトリウムとの原子比が1:4になるように混合した。その混合液を石英の内筒を有するオートクレーブ内で200℃の水熱条件下で3日間反応させ、容器内の沈殿物をろ過および水洗した。そして、その沈殿物を200℃で4時間加熱脱水することにより水和水を除去し、Li0.2Na0.8MnOを生成した。
【0095】
このようにして生成したLi0.2Na0.8MnOを正極活物質として、上記と同様に図1の非水電解質二次電池の試験セルを作製した。
【0096】
(c)比較例3
比較例3においては、まず、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)および二酸化マンガン(MnO)をナトリウム、リチウムおよびマンガンのモル比が0.67:0.17:0.83となるように秤量した。その後、秤量したそれらの化合物を水酸化ナトリウムおよび水酸化リチウム一水和物が完全に溶解する量の純水中に添加した。そして、その水溶液を加熱しつつ攪拌し、水分を蒸発させた。それにより、Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oの乾燥粉末を得た。この乾燥粉末を800℃の酸素気流中で20時間焼成した。その後、その焼成物を炉外に速やかに取り出し、急冷した。このようにして、前駆体としてのナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oを生成した。
【0097】
次いで、上記前駆体としてのナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oを、臭化リチウム(LiBr)が1Mの濃度で溶解したヘキサノールに添加し、180℃で8時間加熱攪拌することによりスラリーを生成した。そして、そのスラリーをろ紙でろ過し、ろ紙上に残留した固体をメタノールで洗浄した。その後、その洗浄後の固体を80℃で乾燥することにより、正極活物質を生成した。このようにして生成した正極活物質を用いて、上記と同様に図1の非水電解質二次電池の試験セルを作製した。
【0098】
なお、以下の説明においては、上記の前駆体としてのナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oを比較例3(I)とし、比較例3において生成した正極活物質を比較例3(II)とする。
【0099】
(d)比較例4
比較例4においては、比較例3(I)のナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oを、実施例5〜9と同様の方法でイオン交換することにより正極活物質を生成した。
【0100】
(e)比較例5
比較例5においては、空間群P6mcおよび/または空間群Cmcaに属するナトリウム酸化物NaMn0.5Co0.25Ni0.25を、実施例5〜9と同様の方法でイオン交換することにより正極活物質を生成した。
【0101】
(3)XRD測定
(a)
上記の実施例1〜3および実施例5〜9において作製した正極活物質をXRD(X線回折装置)により測定した。XRD測定においては、X線源としてCuKαを用い、回折角2θ=10°〜80°の範囲で測定を行った。実施例1〜3および実施例5〜9の正極活物質のXRD測定結果を図2〜図9の上段にそれぞれ示す。図2〜図9の下段には、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にメインピークを有し、空間群C2/m(空間群C2/c)に属するLiMnOのX線回折データが示されている。なお、後述する図10〜図14においても、図2〜図9と同様に実施例および比較例の酸化物のX線解析データが上段に示され、LiMnOのX線回折データが下段に示される。
【0102】
(b)
実施例7の前駆体としてのナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5(表2参照)をXRDにより測定した。なお、以下の説明においては、実施例7の前駆体としてのナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5を実施例7(I)とし、実施例7の正極活物質Li0.83Na0.0017Mn0.5Co0.5を実施例7(II)とする。図10に測定結果を示す。図10には、比較のために、実施例7(II)の正極活物質Li0.83Na0.0017Mn0.5Co0.5のX線回析データが示されている。図10の上段においては、実施例7(II)の正極活物質Li0.83Na0.0017Mn0.5Co0.5のX線回析データが実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5のX線回析データよりも上方に示されている。
【0103】
(c)
比較例2のナトリウム酸化物Li0.2Na0.8MnOをXRDにより測定した。その結果を図11に示す。なお、図11には、比較のために、図10に示した実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5のX線回析データが示されている。図11の上段においては、比較例2のナトリウム酸化物のX線回析データが実施例7のナトリウム酸化物のX線回析データよりも上方に示されている。
【0104】
(d)
比較例3(I)のナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]OをXRDにより測定した。その結果を図12に示す。なお、図12には、比較のために、図10に示した実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5のX線回析データが示されている。図12の上段においては、比較例3(I)のナトリウム酸化物のX線回析データが実施例7(I)のナトリウム酸化物のX線回析データよりも上方に示されている。
【0105】
(e)
比較例3(II)の正極活物質および比較例4の正極活物質をXRDにより測定した。その結果を図13に示す。なお、図13の上段においては、比較例3(II)の正極活物質のX線回析データが比較例4の正極活物質のX線回析データよりも上方に示されている。
【0106】
(f)
比較例5のイオン交換前のナトリウム酸化物NaMn0.5Co0.25Ni0.25およびイオン交換後のナトリウム酸化物をXRDにより測定した。その結果を図14に示す。なお、図14の上段においては、イオン交換後のナトリウム酸化物の測定結果がイオン交換前のナトリウム酸化物の測定結果よりも上方に示されている。
【0107】
(g)回析データの評価
図2、図3および図5〜図9の上段の正極活物質のX線回折データでは、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にピークが現れている。図2、図3および図5〜図9の上段のX線回析データと下段のX線回析データとの比較から、実施例1、実施例2および実施例5〜9の正極活物質には、LiMnOが固容体もしくは混合物またはその両方として含有されていると考えられる。なお、XRD測定の結果、実施例2の正極活物質に含まれるLiMnOの量は29mol%未満であった。
【0108】
また、図10に示されるように、実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5のX線回析データにも、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にピークが現れている。このことから、前駆体であるナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5にも、LiMnOが固容体もしくは混合物またはその両方として含有されていると考えられる。なお、図示していないが、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9のナトリウム酸化物(表2参照)のX線回析データにも、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にピークが現れた。
【0109】
また、図10に示されるように、前駆体としてのナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが約16°でメインピークが現れ、正極活物質としてのリチウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが約18°でメインピークが現れている。そして、ナトリウム酸化物およびリチウム酸化物のメインピークの波形は、どちらも大きく乱れていない。これは、実施例7においては、ナトリウム酸化物のイオン交換が定量的で均一に進行したためであると考えられる。なお、同様の結果が実施例1〜3、5、6、8および9のXRD測定結果において見られた。
【0110】
また、図11のX線回析データから、比較例2のナトリウム酸化物Li0.2Na0.8MnOと実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5とは大きく異なる構造を有することがわかる。詳細には、実施例7(I)のナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが約16°でメインピークが現れ、回折角2θが約32°から34°の範囲に2番目に大きいピークが現れている。一方、比較例2のナトリウム酸化物のX線回析データでは、上記の回折角2θにおいてメインピークおよび2番目に大きいピークが現れていない。また、比較例2のナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にピークが現れていない。
【0111】
なお、上記のように比較例2のナトリウム酸化物の構造と実施例7(I)のナトリウム酸化物の構造とが大きく異なるので、両酸化物を同様の方法によりイオン交換する場合、イオン交換後の両化合物の構造も全く異なるものになると考えられる。
【0112】
なお、比較例2においては、水熱合成によりナトリウム酸化物が生成されている。この場合、ナトリウム酸化物の結晶性は、ナトリウム塩の水への溶解度および水熱合成時の温度に依存すると考えられる。
【0113】
また、図12のX線回析データから、比較例3(I)のナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oと実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5とは異なる構造を有することがわかる。詳細には、比較例3(I)のナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが約22°から24°の範囲にピークが現れているが、実施例7(I)のナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが約22°から24°の範囲にピークが現れていない。また、比較例3(I)のナトリウム酸化物のX線回析データでは、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲に鋭いピークが現れていない。これは、マンガンの一部がリチウムにより置換されたためであると考えられる。
【0114】
また、図10および図13のX線回析データから、比較例3(I)のナトリウム酸化物Na0.67[Li0.17Mn0.83]Oをイオン交換することにより得られた比較例3(II)の正極活物質(図13参照)と実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5をイオン交換することにより得られた実施例7(II)の正極活物質Li0.83Na0.0017Mn0.5Co0.5(図10参照)とは大きく異なる構造を有することがわかる。特に、図12および図13からわかるように、実施例7(II)の正極活物質の作製条件と同様の条件で比較例3(I)のナトリウム酸化物をイオン交換した比較例4においては、イオン交換により得られた正極活物質のピーク強度が大きく低下し、半値幅が広くなった。
【0115】
また、図13に示すように、比較例3(II)の正極活物質のX線回析データの波形と比較例4の正極活物質のX線回析データの波形とは大きく異なる。したがって、比較例3(II)の正極活物質と比較例4の正極活物質とが同一構造であるとは考えられない。
【0116】
また、図13に示すX線回析データの波形は、本願発明に係る正極活物質(例えば、実施例7(II)の正極活物質)のX線回析データの波形とも異なる。ここで、一般に、複数のナトリウム酸化物(イオン交換前の前駆体)が互いに同じ空間群でかつ同様のX線回析データを有している場合、その複数のナトリウム酸化物をイオン交換することにより得られる正極活物質は互いに同様の性質を有するものと考えがちである。しかしながら、前駆体であるナトリウム酸化物中の遷移金属の構成および比率が異なる場合、イオン交換反応(ナトリウムとリチウムとの置換反応)の進行メカニズムも異なると考えられる。それにより、上記のように、本発明に係る正極活物質のX線回析データと比較例3(II)および比較例4の正極活物質のX線回析データとが大きく異なったと考えられる。
【0117】
一方、図2〜図9から、実施例1〜9においては、イオン交換が定量的に進行したと考えられる。このことから、コバルトおよびマンガンを含む複合酸化物である実施例1〜9のナトリウム酸化物(表1および表2参照)においては、イオン交換を定量的に進行させることができることがわかる。
【0118】
また、図10および図14のX線回析データから、比較例5のイオン交換前のナトリウム酸化物NaMn0.5Co0.25Ni0.25(図14参照)と実施例7(I)のナトリウム酸化物Na0.7Li0.2Mn0.5Co0.5(図10参照)とは、同じ空間群(空間群P6mcおよび/または空間群Cmca)に属すると考えられる。しかしながら、図10および図14のX線回析データから、比較例5のナトリウム酸化物をイオン交換することにより得られた酸化物(図14参照)と実施例7(I)のナトリウム酸化物をイオン交換することにより得られた実施例7(II)の正極活物質Li0.83Na0.0017Mn0.5Co0.5(図10参照)とは異なる構造を有することがわかる。
【0119】
詳細には、図14に示されるように、比較例5のナトリウム酸化物をイオン交換することにより得られた酸化物のX線回析データでは、回折角2θが18.5°付近に2つの大きなピークが現れている。これは、比較例5のナトリウム酸化物と本発明に係るナトリウム酸化物(例えば、実施例7(I)のナトリウム酸化物)とでは、イオン交換反応の進行メカニズムが異なるためであると考えられる。そのため、実施例5〜9と同一条件でイオン交換しても、比較例5において得られた正極活物質は均一相とはならず、複数相になってしまったと考えられる。
【0120】
(3)充放電試験
(a)試験の概要
実施例1〜9の試験セルにおいて、1/5Itの定電流で、充電終止電位4.5V(vs.Li/Li)まで充電を行った後、放電終止電位2.5V(vs.Li/Li)まで放電を行い、放電容量密度を測定した。同様に、実施例1〜9の試験セルにおいて、充電終止電位5.0V(vs.Li/Li+)まで充電を行った後、放電終止電位2.5
V(vs.Li/Li)まで放電を行い、放電容量密度を測定した。上記の表1および表2に放電容量密度の測定結果を示す。
【0121】
また、実施例2の試験セルにおいては、1/30Itの定電流で、充放電範囲2.0−5.0V(vs.Li/Li)の充放電試験を5回繰り返し、充放電容量密度を測定した。その結果を図15に示す。
【0122】
また、比較例1の試験セルにおいては、1/30Itの定電流で、上記と同様の充放電範囲2.5−5.0V(vs.Li/Li)の充放電試験を5回繰り返し、充放電容量密度を測定した。その結果を図16に示す。
【0123】
また、比較例2の試験セルにおいては、1/30Itの定電流で、充放電範囲2.0−5.0V(vs.Li/Li)の充放電試験を10回繰り返し、充放電容量密度を測定した。その結果を図17に示す。
【0124】
また、比較例3の試験セルにおいては、1/30Itの定電流で、上記と同様の充放電範囲2.0−5.0V(vs.Li/Li)の充放電試験を2回繰り返し、充放電容量密度を測定した。その結果を図18に示す。
【0125】
なお、定格容量が1時間で完全に放電されるときの電流値を定格電流と呼び、1.0Cで表記され、これをSI(System International)単位系で表すと、1.0Itとなる。また、充放電容量密度は、試験セルに流れる電流を正極活物質の重量で除した値である。
【0126】
(b)評価
表1および表2からわかるように、実施例1〜9の試験セルでは、充放電範囲2.5−5.0Vでの放電容量密度が176mAh/g以上と高くなった。この結果より、正極活物質が空間群P6mcまたは空間群Cmcaに属するリチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を含むことにより、高い容量を得ることができることがわかる。
【0127】
また、特に、実施例1、実施例2および実施例5〜9の試験セルでは、放電容量密度が197mAh/g以上と十分に高くなった。この結果より、正極活物質が、回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にメインピークを有し空間群C2/mまたはC2/cに属するLi1+x[MnCo1−y]1−x(0≦x≦1/3および0<y≦1)を含むことにより、さらに高い容量を得ることが可能となることがわかる。
【0128】
また、上記の結果および図10に示したX線回析データより、リチウムを含み回折角2θが18.0°から19.5°の範囲にメインピークを有するナトリウム含有層状酸化物NaLiMO2±α(0.5≦A≦1.1、0<B≦0.3、0≦α≦0.3)をリチウムでイオン交換することにより正極活物質を作製することが好ましいことがわかる。なお、上記Mは、マンガン(Mn)およびコバルト(Co)の少なくとも1種を含む。
【0129】
また、図15に示すように、実施例2の試験セルにおいては、初期放電容量密度は246mAh/gとなり、初期充放電効率(=初期放電容量密度/初期充電容量密度)は124%となった。また、実施例2の試験セルにおいては、5サイクル目の放電容量密度が224mAh/gであり、容量維持率(=5サイクル目の放電容量密度/初期放電容量密度)は91%であった。
【0130】
一方、比較例1の試験セルにおいては、図16に示すように、初期放電容量密度が242mAh/gであり、5サイクル目の放電容量密度が196mAh/gであった。比較例1の試験セルの容量維持率は81%であり、実施例2の試験セルに比べて低い。
【0131】
また、比較例2の試験セルにおいては、初期放電容量密度が116mAh/gであり、実施例2の試験セルに比べて低い。
【0132】
また、比較例3の試験セルにおいては、初期放電容量密度が115mAh/gであり、実施例2の試験セルに比べて低い。
【0133】
これらの結果より、正極活物質が空間群P6mcまたは空間群Cmcaに属するリチウム含有層状酸化物LiNaMnCo2±α(0.5≦A≦1.2、0<B≦0.01、0.40≦x≦0.55、0.40≦y≦0.55、0.80≦x+y≦1.10、および0≦α≦0.3)を含むことにより、高い初期充放電効率を有するとともに、高電位までの充電と放電とを繰り返しても、高い容量および良好なサイクル特性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源、自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【図2】実施例1の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図3】実施例2の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図4】実施例3の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図5】実施例5の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図6】実施例6の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図7】実施例7の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図8】実施例8の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図9】実施例9の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図10】実施例7(I)のナトリウム酸化物および実施例7(II)の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図11】比較例2および実施例7(I)のナトリウム酸化物のXRD測定の結果を示す図である。
【図12】比較例3(I)および実施例7(I)のナトリウム酸化物のXRD測定の結果を示す図である。
【図13】比較例3(II)および比較例4の正極活物質のXRD測定の結果を示す図である。
【図14】比較例5の化合物のXRD測定の結果を示す図である。
【図15】充放電試験の測定結果を示す図である。
【図16】充放電試験の測定結果を示す図である。
【図17】充放電試験の測定結果を示す図である。
【図18】充放電試験の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0136】
1 作用極(正極)
2 対極(負極)
3 参照極
4 セパレータ
5 非水電解質
6 リード
10 ラミネート容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム含有酸化物に含まれるナトリウムの一部をリチウムによりイオン交換することによりナトリウムを含むリチウム含有酸化物からなる正極活物質を作製し、
前記ナトリウム含有酸化物は、NaLiMO2±α(0.5≦A≦1.1、0<B≦0.3および0≦α≦0.3)を含み、前記Mはマンガンおよびコバルトの少なくとも1種を含み、
前記ナトリウム含有酸化物は、X線源としてCuKαを用いたX線粉末結晶回折スペクトルにおいて回折角2θが18.0度から19.5度の範囲にピークを有し空間群C2/mまたは空間群C2/cに属する物質を含むことを特徴とする正極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−216495(P2011−216495A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160554(P2011−160554)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【分割の表示】特願2008−164023(P2008−164023)の分割
【原出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】