説明

歩行情報抽出装置、歩行情報抽出方法、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】歩行者の日常の歩行情報を容易に抽出する。
【解決手段】データ記憶部22には、歩行判定の基準となる参照パラメータが記憶される。データ入出力部21は、ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得する。変換部23は、加速度データを重力成分と主成分分析を利用して座標変換して変換データを生成する。基本周波数パラメータ算出部24、絶対値パラメータ算出部25、あるいは規則性パラメータ算出部26は、変換データから加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出する。歩行判定部27は、加速度パラメータと参照パラメータを比較して加速度データがユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行情報抽出装置、方向情報検出方法、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者の歩行の形態を示す歩容情報を取得して、生活改善やリハビリテーションに利用する技術が提案されている。
例えば非特許文献1には、加速度センサによって検知された体幹加速度信号に対してパワースペクトラム分析、二乗平均平方根(root mean square)の算出、自己相関分析、相互相関分析等の波形解析を行い、歩容の滑らかさ、動揺性、対称性や規則性等の歩容指標を作成して、歩容異常の客観的評価を行なう技術が記載されている。この技術では、専用の加速度センサを作成し、歩行者の重心位置近くに当該加速度センサを装着している。
【0003】
また特許文献1には、被験者の歩容パターンを分類し、分類結果をグラフィック表示する歩容パターン分類表示装置が記載されている。この歩容パターン分類表示装置は、被験者の歩行動作を圧力センサにより計測して歩行パラメータを算出し、データベースの歩行パラメータと照合して歩容パターンを分類する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−204953号公報(段落0011〜0012)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山田,平田,小野,安藤,“体幹加速度由来歩容指標による歩容異常の評価 −歩容指標の変形性股関節患者と健常者との比較,および基準関連妥当性−”,理学療法学,第33巻第1号,14〜21頁(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、加速度センサを歩行者の重心位置近くに装着する必要があるため、利用が簡単ではない。また、特許文献1に記載の歩容パターン分類表示装置は、圧力センサを利用しているため、圧力センサが設置された場所でしか歩容パターンを検出できない。このように、これらの技術では、歩行者の歩容情報の検知に特別の装置が必要とされ、歩行者の日常生活における歩容の情報を検知するには制限がある。
【0007】
本発明は、前記のような問題に鑑みなされたもので、歩行者の日常の歩行情報を容易に抽出できる歩行情報抽出装置、歩行情報抽出方法、及び歩行情報抽出プログラムを記録した媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歩行情報抽出装置は以下のような態様の構成とする。
(1)歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶する参照データ記憶手段と、ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得するデータ取得手段と、前記加速度データを座標変換して変換データを生成する座標変換手段と、前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出するパラメータ算出手段と、前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定する判定手段を具備する態様とする。
この態様によれば、ユーザの日常生活において測定された加速度データが歩行時のデータであるか否かを容易に判定することができる。
【0009】
(2)(1)の構成において、前記座標変換手段は、重力方向と主成分分析によって前記加速度データを前後方向、左右方向、上下方向の加速度データに変換する態様とする。
この態様によれば、重力方向と主成分分析によって前記加速度データを前後方向、左右方向、上下方向の3次元の加速度データに変換することができる。
【0010】
(3)(1)の構成において、前記加速度パラメータは、前記加速度データの基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期の少なくともいずれか1つを含む態様とする。
この態様によれば、基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期等のパラメータに基づいて、加速度データが歩行時のデータであるか否かを判定することができる。
【0011】
(4)(1)の構成において、前記判定手段によって歩行時のデータであると判定されたデータを外部に提示する提示手段を更に具備する態様とする。
この態様によれば、歩行時のデータを外部に提示し応用することができる。
また本発明に係る歩行情報抽出方法は以下のような態様の構成とする。
【0012】
(5)歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶手段に記憶することと、ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得することと、前記加速度データを座標変換して変換データを生成することと、前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出することと、前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定することを備える態様とする。
この態様によれば、ユーザの日常生活において測定された加速度データが歩行時のデータであるか否かを容易に判定することができる。
【0013】
(6)(5)の構成において、前記加速度パラメータは、前記加速度データの基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期の少なくともいずれか1つを含む態様とする。
この態様によれば、基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期等のパラメータに基づいて、加速度データが歩行時のデータであるか否かを判定することができる。
【0014】
(7)(5)の構成において、前記ユーザの歩行時のデータであると判定されたデータを外部に提示することを更に備える態様とする。
この態様によれば、歩行時のデータを外部に提示し応用することができる。
また本発明に係るコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は以下のような態様の構成とする。
【0015】
(8)歩行情報抽出装置において用いられるコンピュータに、歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶手段に記憶することと、ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得することと、前記加速度データを座標変換して変換データを生成することと、前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出することと、前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定することと、を実行させるための歩行情報抽出プログラムを記憶した態様とする。
この態様によれば、ユーザの日常生活において測定された加速度データが歩行時のデータであるか否かを容易に判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データから、当該加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出し、当該加速度データが歩行を表すデータであるか否かが判定される。このため、歩行者の日常の歩行情報を容易に抽出できる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る歩行情報抽出装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示すデータ記憶部に設けられる加速度データの記憶テーブルの一例を示す図。
【図3】図1に示すデータ記憶部に設けられる加速度データの記憶テーブルの他の一例を示す図。
【図4】歩行情報抽出装置において実行されるテンプレート歩容ベクトル算出処理を示すフローチャート。
【図5】第1〜第3のテンプレート歩容ベクトルデータを記憶する記憶テーブルの一例を示す図。
【図6】歩行情報抽出装置において実行される歩行情報抽出処理を示すフローチャート。
【図7】データ記憶部の記憶テーブルに格納される歩行データの一例を示す図。
【図8】図1に示す表示装置に表示される歩行情報の一例を示す図。
【図9】図1に示す表示装置に表示される歩行情報の他の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明による歩行情報抽出装置の実施形態を説明する。
近年のハードウェアの実装技術の高度化によって、センサや携帯端末の小型化がなされ、これらのデバイスが様々なシーンで利用されるようになってきた。特に加速度センサの小型化も進んでおり、加速度センサを具備した携帯端末も普及し始めている。本実施形態では、このような加速度センサ付きの携帯端末をユーザが所持しながら日常生活を送り、日常生活の中で加速度データを取得する。
【0019】
日常生活の中で取得される加速度データは、例えば電車やバス等の乗り物に乗っている場合、会議中、あるいは階段の上り下り中等、日常の様々なシーンでの加速度データが含まれる。このような加速度センサのデータから、特に歩行中の加速度データが抽出できれば、日常生活での歩容を分析することが可能となる。このように日常生活での歩容を抽出して分析した結果は、生活改善や在宅でのリハビリテーション等、様々な分野で利用されることが期待される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る歩行情報抽出装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態にかかる歩行情報抽出装置20は、図1に示すように、加速度センサ10、及び出力装置30に接続されている。
加速度センサ10は、例えば携帯電話等の携帯端末に内蔵され、携帯者の移動に基づく加速度データを所定の時間間隔(例えば0.01秒ごと)で計測する。携帯者は、この加速度センサ10を内蔵する携帯端末を日常的に携帯して生活を送るものとする。
【0021】
歩行情報抽出装置20は、図示しないプロセッサ、プログラムメモリ、ワークメモリを具備し、歩行情報抽出動作を制御する。プログラムメモリに記憶された所定のプログラムをプロセッサが実行することで、歩行情報抽出装置20の各機能が実現される。歩行情報抽出装置20は、加速度センサ10と同様に上記携帯端末に内蔵されるか、あるいは携帯端末には内蔵されずに加速度センサ10に外部から接続可能な構成を有する。
【0022】
歩行情報抽出装置20は、データ入出力部21、データ記憶部22、変換部23、基本周波数パラメータ算出部24、絶対値パラメータ算出部25、規則性パラメータ算出部26、歩行判定部27、及び歩行データ提示部28を具備している。
データ入出力部21は、加速度センサ10と歩行情報抽出装置20を接続するインタフェースとして機能する。データ入出力部21は、加速度センサ10が加速度データを計測する都度、あるいは歩行情報抽出装置20が加速度センサ10に接続される都度、加速度センサ10の計測結果を取得して、データ記憶部22に記憶する。
【0023】
データ記憶部22は、データ入出力部21から入力されたデータを記憶するための、例えばフラッシュメモリ等の記憶装置である。図2及び図3は、データ記憶部22に設けられる加速度データの記憶テーブルの例を示す図である。
図2に示す記憶テーブルT222には、例えばユーザに携帯端末を保持しながら歩行させる等して予め取得した歩行時の加速度データが、参照用のテンプレート加速度データとして記憶される。また、図3に示す記憶テーブルT223には、ユーザの日常生活において取得された日常加速度データが記憶される。
【0024】
これらの記憶テーブルT222及びT223には、加速度センサ10によって取得された、「タイムスタンプ」、「X軸方向加速度」、「Y軸方向加速度」、及び「Z軸方向加速度」を含むデータ項目のセットが格納される。加速度データのセットには、「グループID」が付与される。グループIDとは、一定期間(例えば1分間)にわたって連続的に取得されたデータセットごとに付与されるユニークなIDである。本実施形態では予め測定されたテンプレート加速度データを日常加速度データから区別するために、テンプレート加速度データにはグループID=0を付与している。タイムスタンプは、加速度センサ10が計測を行なった時刻を表す。X軸方向加速度、Y軸方向加速度、及びZ軸方向加速度は、加速度センサ10がタイムスタンプによって表される時刻に計測したそれぞれの軸方向の加速度のデータである。
【0025】
変換部23は、テンプレート加速度データ及び日常加速度データに主成分分析を施し、これらの加速度データの座標変換を行なう。
基本周波数パラメータ算出部24は、座標変換されたテンプレート加速度データに対して周波数分析を行い、基本周波数の分布に基づいて第1のテンプレート歩容ベクトルを算出する。また基本周波数パラメータ算出部24は、座標変換された日常加速度データに対して周波数分析を行い、基本周波数の分布に基づいて第1の日常歩容ベクトルを算出する。
【0026】
絶対値パラメータ算出部25は、座標変換されたテンプレート加速度データの絶対値から、第2のテンプレート歩容ベクトルを算出する。また絶対値パラメータ算出部25は、座標変換された日常加速度データの絶対値から、第2の日常歩容ベクトルを算出する。
【0027】
規則性パラメータ算出部26は、座標変換されたテンプレート加速度データに対して自己相関分析を行い、第3のテンプレート歩容ベクトルを算出する。また規則性パラメータ算出部26は、座標変換された日常加速度データに対して自己相関分析を行い、第3の日常歩容ベクトルを算出する。
【0028】
歩行判定部27は、基本周波数パラメータ算出部24、絶対値パラメータ算出部25、及び規則性パラメータ算出部26で算出された第1〜第3のテンプレート歩容ベクトルと第1〜第3の日常歩容ベクトルを比較して類似度を算出する。歩行判定部27は、算出された類似度が予め定めた閾値以上になる加速度データを、歩行時の加速度データであると判定する。
【0029】
歩行データ提示部28は、出力装置30に接続されており、歩行判定部27によって歩行状態であると判定されたデータを出力装置30に適した形式に変換して、当該出力装置30に提供する。
出力装置30は、例えばLCD等の表示装置を含む。また出力装置20は、表示装置に代わって、あるいは表示装置に加えてスピーカ等の音声出力装置を具備してもよい。歩行情報抽出装置20が携帯端末に内蔵されている場合は、出力装置30は当該携帯端末の表示装置を兼ねてもよい。また、歩行情報抽出装置20が携帯端末に内蔵されていない場合には、出力装置30も携帯端末の外部に設けられてもよい。
【0030】
次に、以上のように構成された歩行情報抽出装置20の動作について更に詳細に説明する。
(テンプレート歩容ベクトル算出処理)
まず、予めユーザの歩行時に参照用として取得されたテンプレート加速度データから、テンプレート歩容ベクトルを生成する処理について説明する。
図4は、歩行情報抽出装置20において実行されるテンプレート歩容ベクトル算出処理を示すフローチャートである。
【0031】
変換部23は、データ記憶部22の記憶テーブルT222からテンプレート加速度データを取得する(ステップS401)。テンプレート加速度データの各データセットa_ref_orgmは、以下の式(1)で表される。
【0032】
【数1】

ここで、mは正の整数で、0<m≦Mが成り立つとする。Mは、テンプレート加速度データの総数、すなわち、グループID=0であるデータセットの総数を示す。tは一つのタイムスタンプを表す。
式(1)に示すように、データセットの各々は、タイムスタンプtによって指定される加速度データで表される。そして、各データセットは、センサに固定されたセンサ座標系のx軸方向の加速度、センサ座標系のy軸方向の加速度、及びセンサ座標系のz軸方向の加速度を、それぞれx成分acc_ref_org_xm、y成分acc_ref_org_ym、及びz成分acc_ref_org_zmとするベクトル(加速度ベクトル)で表される。
【0033】
そして変換部23は、各データセットの加速度ベクトルに以下のような座標変換を施す(ステップS402)。
(暫定的な上下方向の決定)
変換部23は、各データセットの加速度ベクトルの成分を用いて、式(2)より第1重心ベクトルacc_ref_gc1を導出する。
【0034】
【数2】

変換部23は、式(3)を解くことにより、加速度センサ10に固定されたセンサ座標系における重心の方向(θ,θ,θ)を算出する。
【0035】
【数3】

ただし、g=[0,0,1]であり、z成分のみをもつ基底ベクトルである。またR(θ,θ,θ)は3×3の回転行列である。このように、本実施形態では、回転行列R(θ,θ,θ)と第1重心ベクトルの方向の単位ベクトルの内積が基底ベクトルgとなるように、数値計算によって重心の方向(θ,θ,θ)を算出する。
【0036】
そして、変換部23は、各データセットの加速度ベクトルについて式(4)によりR(θ,θ,θ)を乗算して、第1暫定テンプレート加速度ベクトルacc_ref_temp1mを算出する。
これにより、z軸方向が上下方向となる第1暫定テンプレート加速度ベクトルを算出する。
【0037】
【数4】

(水平面における暫定的前後左右方向の決定)
変換部23は、第1暫定テンプレート加速度ベクトルのX及びY方向の加速度成分に対して主成分分析を行って主成分スコアを算出し、式(5)で表される第2暫定テンプレート加速度ベクトルacc_ref_temp2mを生成する。
【0038】
これにより、X軸方向が前後方向、Y軸方向が左右方向となる第2暫定テンプレート加速度ベクトルを算出する。
【0039】
【数5】

(上下方向の補正)
変換部23は、第2暫定テンプレート加速度ベクトルに基づいて式(6)より、第2重心ベクトルacc_ref_gc2を算出する。
【0040】
【数6】

変換部23は、次に、式(7)に基づいて角度θを算出する。
【0041】
【数7】

そして変換部23は、式(8)に基づいて第2暫定テンプレート加速度ベクトルacc_refmの各成分を変換する。
【0042】
【数8】

ただしR(−θ)は、3×3のY軸方向の回転行列である。
このようにして、第2暫定テンプレート加速度ベクトルacc_refmが座標変換され、式(9)で表される座標変換後のテンプレート加速度データセットが得られる。
これにより、X軸方向が前後方向、Y軸方向が左右方向、Z軸方向が上下方向となる座標変換後のテンプレート加速度データセットが得られる。
【0043】
【数9】

以上のように各データセットの加速度ベクトルの座標変換が行なわれたら、基本周波数パラメータ算出部24が、基本周波数パラメータ(すなわち、後述する第1テンプレート歩容ベクトル)を算出する(ステップS403)。
(基本周波数パラメータの算出)
基本周波数パラメータ算出部24は、座標変換されたテンプレート加速度データセットに対してスペクトル解析を行い、基本周波数を算出する。基本周波数パラメータ算出部24は、式(10)に基づいて基本周波数パラメータ、すなわち第1テンプレート歩容ベクトルp1_refを求める。
【0044】
【数10】

ただし、N_ref_xは、x成分(第1成分)acc_ref_xmの基本周波数が所定の閾値以上となる座標変換されたテンプレート加速度データセットの数を表す。またM_ref_xは、テンプレート加速度データセットの第1成分acc_ref_xmの基本周波数の総数である。
【0045】
同様に、N_ref_yは、y成分(第2成分)acc_ref_ymの基本周波数が、所定の閾値以上となる変換済みテンプレート加速度データセットの数を表す。またM_ref_yは、テンプレート加速度データセットの第2成分acc_ref_ymの基本周波数の総数である。
【0046】
同様に、N_ref_zは、z成分(第3成分)acc_ref_zmの基本周波数が、所定の閾値以上となる変換済みテンプレート加速度データセットの数を表す。またM_ref_zは、テンプレート加速度データセットの第3成分acc_ref_zmの基本周波数の総数である。
【0047】
以上のように、基本周波数の分布を表す第1テンプレート歩容ベクトルの各成分が算出される。
また、絶対値パラメータ算出部25は、絶対値パラメータ(すなわち、後述する第2テンプレート歩容ベクトル)を算出する(ステップS404)。
(絶対値パラメータの算出)
絶対値パラメータ算出部25は、変換部23によって座標変換された変換済みテンプレート加速度データセットから加速度の絶対値を算出し、式(11)に基づいて第2テンプレート歩容ベクトルp2_refを求める。
【0048】
【数11】

以上のように、第2テンプレート歩容ベクトルの各成分が算出される。
また、規則性パラメータ算出部26は、規則性パラメータ(すなわち、後述する第3テンプレート歩容ベクトル)を算出する(ステップS405)。
(規則性パラメータの算出)
規則性パラメータ算出部26は、変換部23によって座標変換された変換済みテンプレート加速度データセットから、式(12)による自己相関分析を行い、第3テンプレート歩容ベクトルp3_refを求める。
【0049】
【数12】

式(12)における関数max(F(k))は、kを変数として、F(k)の最大値を返す関数である。
また、式(12)において、m_ref_xmはacc_ref_xmの平均値を表す。またSD_ref_xmは、acc_ref_xmの標準偏差である。
【0050】
同様に、m_ref_ymはacc_ref_ymの平均値を表す。またSD_ref_ymは、acc_ref_ymの標準偏差である。
更に、m_ref_zmはacc_ref_zmの平均値を表す。またSD_ref_zmは、acc_ref_zmの標準偏差である。
【0051】
算出された第3テンプレート歩容ベクトルの各成分は、テンプレート加速度データセットの規則周期性を表す。
以上のように算出された第1〜第3のテンプレート歩容ベクトルのデータは、データ記憶部22に格納される(ステップS406)。データ記憶部22には、例えば図5に示すようなデータ記憶テーブルT225が設けられる。データ記憶テーブルT225には、第1〜第3テンプレート歩容ベクトルそれぞれのx、y、及びz成分が格納され、テンプレート歩容ベクトル算出処理が終了する。
【0052】
このテンプレート歩容ベクトル算出処理によって算出されたテンプレート歩容ベクトルは、以下に述べる歩行情報抽出処理において、日常加速度データが歩行状態を示すか否かを判断するための基準値として用いられる。
(歩行情報抽出処理)
次に、ユーザが携帯端末を携帯して日常生活を送っている間に計測された日常加速度データから、歩行状態のデータを検出する処理について説明する。図6は、歩行情報抽出装置20において実行される歩行情報抽出処理を示すフローチャートである。
【0053】
変換部23は、データ記憶部22の記憶テーブルT223から、グループID=iの日常加速度データを取得する(ステップS601)。グループID=iの日常加速度データの各データセットa_orgijは、式(13)で表される。
【0054】
【数13】

ここで、jは正の整数で、0<j≦Jiが成り立つとする。Jiは、グループIDがiであるデータセットの総数を示す。
式(13)に示すように、各データセットは、x軸方向の加速度、y軸方向の加速度、及びz軸方向の加速度を、それぞれx成分acc_orgi_xj、y成分acc_orgi_yj、及びz成分acc_orgi_zjとするベクトル(加速度ベクトル)で表される。
【0055】
そして変換部23は、各データセットの加速度ベクトルに以下のような座標変換を施す(ステップS602)。
(暫定的な上下方向の決定)
変換部23は、各データセットの加速度ベクトルの成分値を用いて、式(14)よりグループID=iのデータの第1重心ベクトルacc_org_gc1を導出する。
【0056】
【数14】

変換部23は、式(15)を解くことにより、グループID=iのデータについて、加速度センサ10に固定されたセンサ座標系における重心の方向(θi,θi,θi)を算出する。
【0057】
【数15】

テンプレート加速度データの座標変換の際と同様に、g=[0,0,1]であり、z成分のみをもつ基底ベクトルである。またR(θi,θi,θi)は3×3の回転行列である。
そして、変換部23は、式(16)により各データセットの加速度ベクトルについてR(θi,θi,θi)を乗算して、グループID=iのデータの第1暫定日常加速度ベクトルacc_temp1ijを算出する。
【0058】
これにより、z軸方向が上下方向となる第1暫定日常加速度ベクトルを算出する。
【0059】
【数16】

(水平面における暫定的前後左右方向の決定)
変換部23は、第1暫定日常加速度ベクトルのX及びY方向の加速度成分に対して主成分分析を行なって主成分スコアを算出し、式(17)で表されるグループID=iの第2暫定日常加速度ベクトルacc_temp2ijを生成する。
【0060】
これにより、X軸方向が前後方向、Y軸方向が左右方向となる第2暫定日常加速度ベクトルを算出する。
【0061】
【数17】

(上下方向の補正)
変換部23は、第2暫定日常加速度ベクトルに基づいて式(18)より、グループID=iのグループの第2重心ベクトルacc_gc2iを算出する。
【0062】
【数18】

変換部23は次に、式(19)に基づいて、グループID=iのデータについて角度θiを算出する。
【0063】
【数19】

そして変換部23は、式(20)に基づいて、グループID=iのデータについて第2暫定日常加速度ベクトルacc_temp2ijの各成分を座標変換する。
【0064】
【数20】

ただし、R(−θi)は、3×3のY軸方向の回転行列である。
このようにして、第2暫定日常加速度ベクトルacc_temp2ijが座標変換され、式(21)で表されるグループID=iの座標変換後の日常加速度データセットacc_ijが得られる。
【0065】
これにより、X軸方向が前後方向、Y軸方向が左右方向、Z軸方向が上下方向となるグループID=iの座標変換後の日常加速度データセットが得られる。
【0066】
【数21】

以上のように各データセットの加速度ベクトルの座標変換が行なわれたら、基本周波数パラメータ算出部24が、基本周波数パラメータ(すなわち、後述する第1日常歩容ベクトル)を算出する(ステップS603)。
(基本周波数パラメータの算出)
基本周波数パラメータ算出部24は、座標変換されたグループID=iの日常加速度データセットに対して、スペクトル解析を行い、基本周波数を算出する。基本周波数パラメータ算出部24は、式(22)に基づいて第1日常歩容ベクトルp1iを求める。
【0067】
【数22】

ただし、Ni_xは、x成分(第1成分)acci__xjの基本周波数が所定の閾値以上となる座標変換された日常加速度データセットの数を表す。またMi_xは、グループID=iの第1成分acci_xjの基本周波数の総数を表す。
【0068】
同様に、Ni_yは、y成分(第2成分)acci__yjの基本周波数が所定の閾値以上となる座標変換された日常加速度データセットの数を表す。またMi_yは、グループID=iの第2成分acci_yjの基本周波数の総数を表す。
同様に、Ni_zは、z成分(第3成分)acci__zjの基本周波数が所定の閾値以上となる座標変換された日常加速度データセットの数を表す。またMi_zは、グループID=iの第2成分acci_zjの基本周波数の総数を表す。
【0069】
以上のように、基本周波数の分布を表す第1日常歩容ベクトルの各成分が算出される。
また、絶対値パラメータ算出部25は、絶対値パラメータ(すなわち、後述する第2テ日常歩容ベクトル)を算出する(ステップS604)。
(絶対値パラメータの算出)
絶対値パラメータ算出部25は、変換部23によって座標変換されたグループID=iの変換済み日常加速度データセットから加速度の絶対値を算出し、式(23)に基づいて第2日常歩容ベクトルp2iを求める。
【0070】
【数23】

以上のように、絶対値パラメータである第2日常歩容ベクトルの各成分が算出される。
また、規則性パラメータ算出部26は、規則性パラメータ(すなわち、後述する第3日常歩容ベクトル)を算出する(ステップS605)。
(規則性パラメータの算出)
規則性パラメータ算出部26は、変換部23によって座標変換されたグループID=iの変換済み日常加速度データセットから、式(24)による自己相関分析を行い、第3日常歩容ベクトルp3iを求める。
【0071】
【数24】

式(24)における関数max(F(k))は、kを変数として、F(k)の最大値を返す関数である。
また、式(24)において、m_acci_xはacci_xjの平均値を表し、SD_acci_xはacci_xjの標準偏差を表す。
【0072】
同様に、m_acci_yはacci_yjの平均値を表し、SD_acci_yはacci_yjの標準偏差を表す。
更に、m_acci_zはacci_zjの平均値を表し、SD_acci_zはacci_zjの標準偏差を表す。
算出された第3日常歩容ベクトルは、日常加速度データセットの規則周期性を表す。
【0073】
算出されたグループID=iの第1〜第3の日常歩容ベクトルのデータは、歩行判定部27に送られ、歩行を表すか否かが判定される(ステップS607)。
歩行判定部27は、第1〜第3テンプレート歩容ベクトルをデータ記憶部22の記憶テーブルT225から読み出す。そして、グループID=iの第1〜第3日常歩容ベクトルと第1〜第3テンプレート歩容ベクトルの類似度Siを式(25)から算出する。
【0074】
【数25】

式(25)におけるα、β及びγの値は、ユーザの選択に応じて、あるいはデフォルトで定めることができる。これらの値の選び方によって、第1〜第3の歩容ベクトルに重み付けをすることができる。
歩行判定部27は、算出した類似度の値が所定の閾値以上であれば当該グループID=iのデータは歩行状態を表すと判定する(ステップS607で「歩行」)。このグループID=iのデータのうち必要なデータが抽出されて、データ記憶部22に備えられた記憶テーブルT227に記憶される(ステップS608)。記憶テーブルT227は、歩行状態を表すと判断されたグループの歩行データを記憶する。図7は、記憶テーブルT227に格納される歩行データの一例を示す図である。図7に示すように、歩行状態と判定されたグループID、そのセンシングの開始日時、算出された類似度等が、記憶テーブルT227に記憶される。また、当該グループIDに対応する加速度データのデータセットが、記憶テーブルT227に記憶されてもよい。
【0075】
一方、類似度が所定の閾値よりも小さい場合は、グループID=iのデータは歩行以外の状態を表すと判定する(ステップS607で「歩行」以外)。
以上のようにして、グループID=iのデータについて、歩行状態を表すか否かが判定される。
(データの提示)
次に、判定された歩行状態を表す情報のユーザへ提示する一例について説明する。以下では、出力装置30は表示装置を具備しているとする。
【0076】
歩行データ提示部28は、歩行判定部27による判定結果を受けて、あるいはユーザからの指示に応じて、歩行状態を表すデータを記憶テーブルT227から読み出す。歩行データ提示部28は、読み出したデータを出力装置30に送り、表示装置に表示させる。
【0077】
図8は表示装置に表示される歩行情報の一例を示す図である。図8に示す例では、歩行判定部27によって「歩行」と判定されたグループID、対応するセンシング開始日時と類似度が、類似度の値の順にリスト表示されている。
図9は表示装置に表示される歩行情報の他の一例を示す図である。図9に示す例では、歩行判定部27によって「歩行」と判定されたグループIDについて、測定された加速度データの時系列が、x、y、およびz軸についてそれぞれグラフ表示されている。例えば図8に示すリストからユーザが一つのグループIDを選択した場合に、当該IDに対応する加速度データが図9に示すようにグラフ表示されてもよい。
【0078】
以上述べたように、本実施形態に係る歩行情報抽出装置によれば、ユーザが日常的に携帯している加速度センサによって定期的に取得されたデータセットの中から、歩行状態に対応するデータセットを抽出することができる。また、歩行状態と判定されたデータを外部に出力することもできる。更に、抽出された歩行データから当該ユーザの歩行の経時変化を把握することができるようになる。
【0079】
なお、上述の実施形態では、歩行判定部27による類似度Siの算出(ステップS607)において、座標変換されたテンプレート加速度データセットと座標変換された日常加速度データセットの類似度を第1〜第3の歩容ベクトルに基づいて算出した。しかしながら、加速度ベクトルの絶対値を用いて、同様の処理によって算出してもよい。
【0080】
また、上述の実施形態では、第1〜第3の歩容ベクトルの要素として、基本周波数、絶対値、及び規則性パラメータのx、y及びz成分を用いたが、基本周波数、絶対値、及び規則性パラメータに限定されるものではない。加速度データの他の性質を現すパラメータが用いられてもよい。また、基本周波数、絶対値、及び規則性パラメータの全てを用いる必要は必ずしも無く、加速度データの性質を表すいずれか1以上のパラメータが用いられればよい。
【0081】
また、上述の実施形態では、予め取得した歩行時の加速度データをテンプレート加速度データとしたが、テンプレート加速度データの定め方は、これに限定されない。例えばユーザがデータ記憶部22に記憶された測定結果から、歩行時に相当するグループIDを選択してもよい。その他、歩行情報抽出装置20の製造時に標準的な歩行時の加速度データを予めテンプレート加速度データとして設定しておく等の構成も可能である。
【0082】
また、図4のテンプレート歩容ベクトルの算出処理は、歩行情報抽出装置20の使用開始時等に1回実行すればよく、以降は実行する必要がない。しかしながら、ユーザの指示等に応じて新たに歩行時の加速度データを取得し直し、その後に図4の処理を行ってテンプレート歩容ベクトルを更新してもよい。
【0083】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成を削除してもよい。さらに、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…加速度センサ、20…歩行情報抽出装置、21…データ入出力部、22…データ記憶部、23…変換部、24…基本周波数パラメータ算出部、25…絶対値パラメータ算出部、26…規則性パラメータ算出部、27…歩行判定部、28…歩行データ提示部、30…出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶する参照データ記憶手段と、
ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得するデータ取得手段と、
前記加速度データを座標変換して変換データを生成する座標変換手段と、
前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出するパラメータ算出手段と、
前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定する判定手段と、
を具備する歩行情報抽出装置。
【請求項2】
前記座標変換手段は、重力方向と主成分分析によって前記加速度データを前後方向、左右方向、上下方向の加速度データに変換する、請求項1に記載の歩行情報抽出装置。
【請求項3】
前記加速度パラメータは、前記加速度データの基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期の少なくともいずれか1つを含む、請求項1に記載の歩行情報抽出装置。
【請求項4】
前記判定手段によって歩行時のデータであると判定されたデータを外部に提示する提示手段を更に具備する請求項1に記載の歩行情報抽出装置。
【請求項5】
歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶手段に記憶することと、
ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得することと、
前記加速度データを座標変換して変換データを生成することと、
前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出することと、
前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定することと、
を備える歩行情報抽出方法。
【請求項6】
前記加速度パラメータは、前記加速度データの基本周波数の分布、絶対値、及び規則性周期の少なくともいずれか1つを含む、請求項5に記載の歩行情報抽出方法。
【請求項7】
前記ユーザの歩行時のデータであると判定されたデータを外部に提示することを更に備える請求項5に記載の歩行情報抽出方法。
【請求項8】
歩行情報抽出装置において用いられるコンピュータに、
歩行判定の基準となる参照パラメータを記憶手段に記憶することと、
ユーザが日常生活において携帯する携帯端末が具備する加速度センサによって測定された加速度データを取得することと、
前記加速度データを座標変換して変換データを生成することと、
前記変換データから、前記加速度データの性質を表す加速度パラメータを算出することと、
前記加速度パラメータと前記参照パラメータを比較して、前記加速度データが前記ユーザの歩行時に取得されたデータであるか否かを判定することと、
を実行させるための歩行情報抽出プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−152360(P2011−152360A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17303(P2010−17303)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】