説明

歩行者保護エアバッグ装置

【課題】歩行者を受け止めたときにエアバッグが車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制する。
【解決手段】フロントサイドドア110内にはエアバッグモジュールが配置されている。また、フロントサイドドア110の上部前端側には、ドアミラー装置138が配置されている。このドアミラー装置138は、軸が垂直ではなく車両幅方向外側へ傾斜しており、使用時にはドアミラー本体部142が車両幅方向外側へ張出すが、格納時にはフロントピラー108に添うように畳まれる。プリクラッシュセンサで歩行者との衝突を予測すると、エアバッグECUによって駆動モータが駆動され、ドアミラー本体部142が格納位置に強制的に移動される。これにより、エアバッグ130で歩行者を受け止めた際にエアバッグ130が車両幅方向外側へ移動しようとすると、ドアミラー本体部142によって外側から支えられ、ずれないようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者との衝突時又は衝突予測時に車外にエアバッグが膨張展開される歩行者保護エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、歩行者との衝突時にフロントピラーの前面にエアバッグを膨張展開させる技術が開示されている。簡単に説明すると、この先行技術では、ドアフレームの前縁部又はドアミラーベース部にエアバッグモジュールが格納されている。歩行者と衝突すると、インフレータが作動して折り畳み状態のエアバッグ内へガスが供給される。その結果、フロントピラーの前面にエアバッグが膨張展開されるようになっている。
【0003】
さらに、上記先行技術では、膨張本体部の車両幅方向外側に小さめの支持膨張部を設け、エアバッグの膨張展開時に支持膨張部の一部をドアミラー本体の車両幅方向の内側面に当接支持させるようになっている。これにより、展開後のエアバッグがフロントピラーの前面に対して車両幅方向外側にずれることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−006957号公報
【特許文献2】特開2009−023600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術に開示された構成による場合、以下に説明する点で改善の余地がある。
【0006】
すなわち、上記エアバッグはフロントピラーの車両幅方向外側からフロントピラーの前面に膨張展開する構造であるため、本来的にエアバッグは車両幅方向外側へずれやすい(逃げやすい)。このため、上記先行技術のようにサイドドアから車両幅方向外側に張出されたドアミラー本体における車両幅方向の内側面に、支持膨張部の一部を当接させただけでは、エアバッグが車両幅方向外側へずれるのを抑制するのに不十分である。従って、上記先行技術は、この点において改善の余地がある。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、歩行者を受け止めたときにエアバッグが車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制することができる歩行者保護エアバッグ装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、使用時にはドアミラー本体部がサイドドアの上部前端側から車両幅方向外側へ張出されると共に格納時にはドアミラー本体部が軸回りに回動してフロントピラーの長手方向に添うように畳まれるドアミラー装置を備えた車両に適用され、サイドドア内又はドアミラー装置内に設けられ、衝突時又は衝突予測時に作動してガスを発生するインフレータと、折り畳み状態で格納されると共にインフレータからガスが供給されることによりサイドドア外又はドアミラー装置外へ膨出してフロントピラーの前面の少なくとも下部を覆うように展開されるエアバッグと、を含んで構成されたエアバッグモジュールと、衝突時又は衝突予測時に、ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させるドアミラー姿勢変更手段と、を有している。
【0009】
請求項2記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、請求項1記載の発明において、前記ドアミラー装置は、ドアミラー本体部内に設けられ駆動することによりドアミラー本体部を前記軸回りに回動させる駆動モータを含んで構成されており、前記ドアミラー姿勢変更手段は、前記衝突予測時に当該駆動モータを駆動させて前記ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させる制御装置である、ことを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、請求項1記載の発明において、前記ドアミラー姿勢変更手段は、サイドドア又はドアミラー装置の非可動部分に固定されたシリンダと、前記インフレータとシリンダとを連通し、インフレータで発生したガスの一部をシリンダ内へ供給する連通部材と、インフレータ内に軸方向移動可能に収容され、シリンダ内の室を連通部材が接続された側の第1室と、連通部材が接続されない側の第2室とに区画するピストンと、一端部が前記ピストンに固定されると共に、前記ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させる押圧力をドアミラー本体部に付与可能な位置に他端部が配置された押し上げ部と、を含んで構成されている、ことを特徴としている。
【0011】
請求項4記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、請求項1記載の発明において、前記エアバッグは、フロントピラーの前面の少なくとも下部を覆うように膨張展開されるエアバッグ本体部と、当該エアバッグ本体部から枝分かれして前記ドアミラー本体部の下側で膨張展開されるエアバッグ分岐部と、を含んで構成されており、前記ドアミラー姿勢変更手段は、当該エアバッグ分岐部として構成されている、ことを特徴としている。
【0012】
請求項1記載の本発明の作用は、以下の通りである。本発明の適用対象となる車両は、使用時にはドアミラー本体部がサイドドアの上部前端側から車両幅方向外側へ張出されると共に格納時にはドアミラー本体部が軸回りに回動してフロントピラーの長手方向に添うように畳まれるドアミラー装置を備えている。
【0013】
ここで、車両走行時において、衝突時又は衝突予測時以外の場合には、ドアミラー本体部は使用位置に保持される。このため、ドアミラー本体部は、サイドドアの上部前端側から車両幅方向外側へ張出されている。この状態から、衝突時又は衝突予測時になると、サイドドア内又はドアミラー装置内に設けられたエアバッグモジュールのインフレータが作動してガスを発生する。このガスは折り畳み状態で格納されたエアバッグ内へ供給される。このため、エアバッグがサイド外又はドアミラー装置外へ膨出されて、フロントピラーの前面の少なくとも下部が覆われる。その結果、歩行者が保護される。
【0014】
さらに本発明では、衝突時又は衝突予測時になると、ドアミラー姿勢変更手段が作動される。これにより、ドアミラー本体部は使用位置から格納位置に強制的に移動される。その結果、エアバッグは、ドアミラー本体部によって車両幅方向外側から支持される。換言すれば、ドアミラー本体部がエアバッグの車両幅方向外側に「壁」として存在する。これにより、エアバッグは安定した状態でフロントピラーの前面に保持される。その結果、エアバッグが歩行者を受け止めた際に、当該エアバッグが車両幅方向外側へずれようとしても、ミラー本体部が壁となってエアバッグの車両幅方向外側への移動を抑制する。
【0015】
請求項2載の本発明によれば、ドアミラー装置は、駆動モータを含んで構成された所謂電動格納式ドアミラー装置として構成されている。また、ドアミラー姿勢変更手段は、この駆動モータの駆動を制御する制御装置として構成されている。衝突予測時になると、制御装置によって駆動モータが自動的に駆動され、ドアミラー本体部は使用位置から格納位置に強制的に移動される。
【0016】
このように本発明によれば、衝突予測時に制御装置によってドアミラー本体部が使用位置から格納位置へ強制的に移動される構成としたので、ドアミラー姿勢変更手段として新たな部材等を追加する必要がなく、エアバッグモジュールを設計変更する必要もない。このため、部品点数が増加せず、車両搭載スペースを拡大する必要もない。
【0017】
請求項3載の本発明によれば、インフレータが作動すると、ガスの一部が連通部材を介してシリンダの第1室に供給される。このため、第1室の圧力が高まり、第1室と第2室とを区画しているピストンが第2室を圧縮する方向へシリンダ内を移動する。ピストンには押し上げ部の一端部が固定されているため、ピストンがシリンダ内を軸方向移動すると、それに伴って押し上げ部材も同一方向へ移動する。押し上げ部材の他端部はドアミラー本体部における所定位置(即ち、ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ移動させる押圧力をドアミラー本体部に付与可能な位置)に配置されているため、押し上げ部材が移動すると、他端部によってドアミラー本体部が押圧される。これにより、ドアミラー本体部が使用位置から格納位置へ強制的に移動される。
【0018】
このように本発明によれば、部品点数が増加するものの、完全に又はほぼ完全に機械的に連結された状態でドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させることができるので、信頼性が高い。
【0019】
請求項4載の本発明によれば、インフレータが作動すると、エアバッグ内にガスが供給される。ここで、本発明では、エアバッグが歩行者を保護するためのエアバッグ本体部とドアミラー姿勢変更手段として機能するエアバッグ分岐部とを含んで構成されている。このため、エアバッグが膨張展開するときには、エアバッグ本体部とエアバッグ分岐部の両方が膨張展開される。すなわち、エアバッグ分岐部にあってはドアミラー本体部の下側で膨張展開され、エアバッグ本体部にあってはフロントピラーの前面の少なくとも下部を覆うように膨張展開される。そして、エアバッグ本体部がフロントピラーの前面側へ向けて膨出していく際に、エアバッグ分岐部によってドアミラー本体部が使用位置から格納位置側へ強制的に押し上げられる。これにより。ドアミラー本体部は格納位置に保持されて、エアバッグ本体部を車両幅方向外側から支える。
【0020】
このように本発明によれば、エアバッグの形状を変更すると共に、インフレータの出力を当該エアバッグの容量に見合ったものにするのみで、ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、歩行者を受け止めたときにエアバッグが車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項2記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、コストの増加及び車両搭載スペースの拡大を招くことなく所期の目的を達成することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項3記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、確実に所期の目的を達成することができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項4記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置は、エアバッグモジュールの最小限の設計変更で所期の目的を達成することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る歩行者保護エアバッグ装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される歩行者保護エアバッグ装置が作動してエアバッグが膨張展開した状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示されるドアミラー装置の概略構造を一部切欠いて示す拡大斜視図である。
【図4】第2実施形態に係る歩行者保護エアバッグ装置の要部を示す図3に対応する拡大斜視図である。
【図5】第3実施形態に係り、(A)はエアバッグの膨張初期の状態を示す斜視図であり、(B)はエアバッグの展開完了状態を示す斜視図である。
【図6】第1の参考例に係り、歩行者保護エアバッグ装置が作動してエアバッグが膨張展開した状態を示す斜視図である。
【図7】第2の参考例に係り、歩行者保護エアバッグ装置が作動してエアバッグが膨張展開した状態を示す斜視図である。
【図8】第3の参考例に係り、歩行者保護エアバッグ装置が作動してエアバッグが膨張展開した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図3を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0027】
図1に示されるように、車両100の前部上面には、エンジンフード102がフードヒンジ回りに開閉可能に配設されている。また、車両100の前部両側面には、左右一対のフロントフェンダパネル104が配設されている。さらに、エンジンフード102の後端側にはウインドシールドガラス106が傾斜した状態で配設されている。ウインドシールドガラス106の両側部には、車体骨格部材である左右一対のフロントピラー108が配設されている。また、車両100のキャビンの両側部には、左右一対のフロントサイドドア110及び図示しないリヤサイドドアが配設されている。
【0028】
フロントサイドドア110は、ドア下部を構成するドア本体部112と、ドア上部を構成する枠状のドアフレーム114と、ドアフレーム114の内側に昇降可能に配設されたドアガラス116と、ドア本体部112の車両幅方向内側に内張りされた図示しないドアトリムと、を含んで構成されている。さらに、ドア本体部112は、車両幅方向外側に配置されてドア外板を構成するドアアウタパネル118と、車両幅方向内側に配置されてドア内板を構成する図示しないドアインナパネルと、を含んで構成されている。
【0029】
上述したドア本体部112の上部前端側には、歩行者保護エアバッグ装置120が配設されている。歩行者保護エアバッグ装置120は、ドア本体部112内に配設されたエアバッグモジュール122と、ドアアウタパネル118における上縁側(ベルトライン側)の前端部に配置されたエアバッグドア124と、によって構成されている。ドアアウタパネル118における上縁側の前端部には、平面視で矩形状の開口部126が形成されており、この開口部126が平面視で矩形状に形成されたエアバッグドア124によって展開可能に閉止されている。
【0030】
エアバッグモジュール122は、作動することによりガスを発生する円柱形状のインフレータ128と、このインフレータ128の上方に折り畳み状態で格納されたエアバッグ130と、このエアバッグ130が収納されたモジュールケース132と、を含んで構成されている。インフレータ128は車両上下方向を長手方向として配置されており、ドアインナパネルの前壁部等にブラケットを介して固定されている。インフレータ128の上端部の軸芯位置にはパイプ状のガス噴出部134が同軸上に形成されており、更にガス噴出部134の上端部とエアバッグ130とがチューブ状の接続部材136によって相互に連通されている。また、図1では、エアバッグ130を蛇腹折りによって折り畳んでいるが、これに限らず、ロール折りで折り畳んでもよいし、蛇腹折りとロール折りを組み合わせて折り畳んでもよい。モジュールケース132は、箱体形状を成しており、図示しないブラケットを介してドアインナパネルに固定されている。なお、図1では、インフレータ128をモジュールケース132の外部に配置しているが、これに限らず、モジュールケース132内にインフレータ128とエアバッグ130の両方を収納するようにしてもよい。
【0031】
上述したドア本体部112の上端部には、電動格納式のドアミラー装置138が配設されている。ドアミラー装置138は、ドア本体部112におけるエアバッグドア124の車両後方側に立設されている。ドアミラー装置138は、ドア本体部112に固定されたドアミラー装置の非可動部分としての支持部140と、この支持部140に回動可能に支持されたドアミラー本体部142と、を含んで構成されている。
【0032】
図1及び図3に示されるように、本実施形態の電動格納式のドアミラー装置138は、フロントサイドドア110からドアミラー本体部142が車両幅方向外側へ張出された使用位置(図1及び図3の実線図示位置)と、フロントピラー108の下部上面に添ってドアミラー本体部142が延在された格納位置(図1及び図3の二点鎖線図示位置)との間を移動可能に構成されている。具体的には、図3に示されるように、ドアミラー装置138の支持部140側には、円板状の基部144A及び基部144Aの軸芯部から立設された筒状の軸144Bによって構成されたスタンド144が固定されている。スタンド144の軸144Bは車両上下方向を軸方向として立設されているのではなく、車両前方側から見て軸線が車両幅方向外側へ所定角度傾斜した状態で立設されている。また、スタンド144の軸144Bの外周部には、クラッチギヤ146が回転不能に固定されている。クラッチギヤ146は、軸144Bに巻装された図示しない圧縮コイルスプリングによって軸方向下側に押圧付勢されている。このため、クラッチギヤ146は軸144B回りに回転不能であるが、過負荷が加わったときには軸方向移動して後述する駆動モータ148からの駆動力伝達経路を遮断するようになっている。
【0033】
一方、電動格納ユニット内には駆動モータ148が配設されている。駆動モータ148の出力軸には出力ギヤ150が固定されている。そして、この出力ギヤ150とクラッチギヤ146とが図示しない減速機構を介して連結されている。これにより、駆動モータ148が駆動回転すると、出力ギヤ150及び図示しない減速機構を介してクラッチギヤ146に駆動力が伝達され、電動格納ユニットひいてはドアミラー本体部142が軸144B周りに回動するようになっている。
【0034】
さらに、図1に示されるように、上述した車両100の図示しないフロントバンパの中央部には、衝突予測センサとしてのプリクラッシュセンサ152が配設されている。プリクラッシュセンサ152は、ミリ波レーダを車両前方側へ照射することにより衝突体との衝突を検知するようになっている。プリクラッシュセンサ152は、車両100のコンソールボックス下方等に配設された制御装置としてのエアバッグECU154に接続されている。さらに、エアバッグECU154はインフレータ128の軸芯部に配設された図示しない点火装置と接続されている。また、エアバッグECU154はドアミラー装置138の駆動モータ148とも接続されており、その作動を制御している。
【0035】
(本実施形態の作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
本実施形態が適用される車両100のドアミラー装置138は、使用時には図1に実線で図示されるようにドアミラー本体部142がフロントサイドドア110の上部前端側から車両幅方向外側へ張出されると共に、格納時には図1に二点鎖線で図示されるようにドアミラー本体部142が軸144B回りに回動してフロントピラー108の長手方向に添うように畳まれる。
【0036】
ここで、車両走行時において、衝突予測時以外の場合には、プリクラッシュセンサ152で衝突体との衝突が検知されることはないので、ドアミラー本体部142は使用位置に保持される。このため、ドアミラー本体部142は、フロントサイドドア110の上部前端側から車両幅方向外側へ張出されている。この状態から、歩行者との衝突予測時になると、即ちプリクラッシュセンサ152によって衝突体として歩行者が検知された場合には、その検出信号がエアバッグECU154に出力される。エアバッグECU154では、歩行者との衝突が不可避であるか否かを判断し、不可避であると判断した場合には、インフレータ128の点火装置に点火電流を通電する。これにより、エアバッグモジュール122のインフレータ128が作動してガスを発生する。このガスは折り畳み状態で格納されたエアバッグ130内へ供給される。このため、エアバッグ130が膨張し、その膨張圧によって図2に示されるようにエアバッグドア124が車両幅方向外側へ展開される。その結果、エアバッグ130がフロントサイドドア110外へ膨出されて、フロントピラー108の前面108Aの大半(上端部を除いた範囲)が覆われる。その結果、歩行者が保護される。
【0037】
さらに本実施形態では、衝突予測時になると、エアバッグECU154によってドアミラー装置138の駆動モータ148が逆転駆動される。これにより、ドアミラー本体部142が軸144B回りに使用位置(実線図示位置)から格納位置(二点鎖線図示位置)へ強制的に回動される。すなわち、ドアミラー本体部142は使用位置から格納位置に強制的に移動される。その結果、図2に示されるように、エアバッグ130は、その車両幅方向外側の側部の後部側130A(の全体)が、ドアミラー本体部142によって車両幅方向外側から支持される。換言すれば、ドアミラー本体部142がエアバッグ130の車両幅方向外側に「壁」として存在する。これにより、エアバッグ130は安定した状態でフロントピラー108の前面108Aに保持される。その結果、エアバッグ130が歩行者を受け止めた際に、当該エアバッグ130が車両幅方向外側へずれようとしても、ドアミラー本体部142が壁となってエアバッグ130の車両幅方向外側への移動を抑制する。よって、上記構成の本実施形態に係る歩行者保護エアバッグ装置120によれば、歩行者を受け止めたときにエアバッグ130が車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、ドアミラー装置138は、駆動モータ148を含んで構成された所謂電動格納式ドアミラー装置として構成されている。また、ドアミラー姿勢変更手段は、この駆動モータ148の駆動を制御するエアバッグECU154として構成されている。そして、衝突予測時になると、エアバッグECU154によって駆動モータ148が自動的に駆動され、ドアミラー本体部142は使用位置から格納位置に強制的に移動される。このように本実施形態によれば、エアバッグECU154によってドアミラー本体部142が使用位置から格納位置へ強制的に移動される構成としたので、ドアミラー姿勢変更手段として新たな部材等を追加する必要がなく、エアバッグモジュール122を設計変更する必要もない。このため、部品点数が増加せず、車両搭載スペースを拡大する必要もない。その結果、本実施形態によれば、コストの増加及び車両搭載スペースの拡大を招くことなく所期の目的を達成することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、プリクラッシュセンサ152で衝突を予測した場合に、ドアミラー本体部142を使用位置から格納位置へ強制的に移動させると共にインフレータ128を作動させるように制御したが、これに限らず、衝突予測センサで衝突体との衝突を予測した場合(前面衝突予測時)にドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させ、衝突予測センサとは別に設けた衝突検知センサによって歩行者との衝突を検知した場合(前面衝突時)にインフレータを作動させ、衝突検知センサによって歩行者との衝突を検知しなかった場合(前面衝突回避時)にはインフレータを作動させることなく、ドアミラー本体部を格納位置から使用位置に自動的に復帰させるように制御してもよい。
【0040】
〔第2実施形態〕
以下、図4を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一の構成部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0041】
図4に示されるように、この第2実施形態では、第1実施形態で説明したドアミラー装置138にシリンダ160及びピストン162等によって構成された押し上げ機構164を設けた点に特徴がある。
【0042】
具体的に説明すると、ドアミラー装置138の支持部140内には、軸方向の両端部が円盤状のキャップ166で封止された円筒状のシリンダ160が配設されている。シリンダ160の下端部には連通部材としてのチューブ168の一端部が接続されている。チューブ168の他端部は、インフレータ128又はエアバッグ130の根元等、インフレータ128で発生したガスを取り込み可能な部位に接続されている。また、シリンダ160内には、ピストン162がシリンダ160の軸方向に移動可能に配設されている。シリンダ160内にピストン162が配設されたことにより、シリンダ160内の室はチューブ168と接続された方の第1室170とチューブ168が接続されていない方の第2室172とに隔成されている。
【0043】
上記ピストン162の軸芯部には、押し上げ部としてのピストンロッド174の下端部が接続されている。これにより、ピストンロッド174はピストン162と一体化されており、ピストン162が移動するとそれに伴ってピストンロッド174が同一方向へ同一ストロークだけ移動するようになっている。ピストンロッド174の上端部はシリンダ160の端部に固定されたキャップ166を貫通しており、かつ貫通端部には半球形状の押圧部176が一体に形成されている。従って、押圧部176も押し上げ部の一部である。押圧部176は、通常時はキャップ166側に保持されており、かつ使用位置にあるドアミラー本体部142のドアミラーバイザー178に形成された半球状の凹部179の内周面に近接した状態で対向配置されている。
【0044】
なお、上記構成において、シリンダ160、チューブ168、ピストン162及びピストンロッド174(押し上げ部176を含む。)が、本発明におけるドアミラー姿勢変更手段に相当する。
【0045】
(作用・効果)
前面衝突時又は前面衝突予測時に、インフレータ128が作動すると、ガスの一部がチューブ168を介してシリンダ160の第1室170に供給される。このため、第1室170の圧力が高まり、第1室170と第2室172とを区画しているピストン162が第2室172を圧縮する方向(図4の矢印A方向)へシリンダ160内を軸方向移動する。ピストン162が上昇すると、ピストン162と一体化されたピストンロッド174も同一方向へ同一ストロークだけ上昇する。ピストンロッド174の押圧部176はドアミラー本体部142のドアミラーバイザー178に形成された凹部179の内周面に近接した状態で対向配置されているので、ピストンロッド174が移動すると、押圧部176によってドアミラー本体部142が図4の矢印A方向へ押圧される。これにより、ドアミラー本体部142が使用位置(図4の実線図示位置)から格納位置(図4の二点鎖線図示位置)へ強制的に移動される。
【0046】
そして、エアバッグ130は、ドアミラー本体部142によって車両幅方向外側から支持される。換言すれば、ドアミラー本体部142がエアバッグ130の車両幅方向外側に「壁」として存在する。これにより、エアバッグ130は安定した状態でフロントピラー108の前面108Aに保持される。その結果、エアバッグ130が歩行者を受け止めた際に、当該エアバッグ130が車両幅方向外側へずれようとしても、ドアミラー本体部142が壁となってエアバッグ130の車両幅方向外側への移動を抑制することができる。よって、上記構成の本実施形態に係る歩行者保護エアバッグ装置120によれば、歩行者を受け止めたときにエアバッグ130が車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制することができる。
【0047】
このように本実施形態によれば、部品点数が増加するものの、ほぼ完全に機械的に連結された状態でドアミラー本体部142を使用位置から格納位置へ強制的に移動させるので、信頼性が高い。その結果、本実施形態によれば、確実に所期の目的を達成することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、押圧部176をドアミラーバイザー178に形成された凹部179の内周面に近接した状態で対向配置させたが、これに限らず、凹部179の内周面に当接した状態で配置してもよい。
【0049】
〔第3実施形態〕
以下、図5を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一の構成部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0050】
図5(A)、(B)に示されるように、この第3実施形態では、エアバッグ180の形状を二股形状に変更した点に特徴がある。
【0051】
具体的に説明すると、エアバッグ180は、膨張展開したときにフロントピラー108の前面108Aの大半を覆うエアバッグ本体部182と、このエアバッグ本体部182の下部(根元部分)から枝分かれして車両後方側へ延びるエアバッグ姿勢変更手段としてのエアバッグ分岐部184と、を含んで構成された二股形状に形成されている。エアバッグ本体部182の容量はエアバッグ分岐部184の容量よりも大きく、したがってエアバッグ本体部182の方がエアバッグ分岐部184よりも大きく形成されている。また、エアバッグ分岐部184は、エアバッグ180が膨張展開する初期に、ドアミラー本体部142の下側へ潜り込むように形成されている。
【0052】
(作用・効果)
前面衝突時又は前面衝突予測時に、インフレータ128が作動すると、エアバッグ180内にガスが供給される。ここで、本実施形態では、エアバッグ180が歩行者を保護するためのエアバッグ本体部182とドアミラー姿勢変更手段として機能するエアバッグ分岐部184とを含んで構成されている。このため、エアバッグ180が膨張展開するときには、エアバッグ本体部182とエアバッグ分岐部184の両方が膨張展開される。すなわち、エアバッグ分岐部184にあってはドアミラー本体部142の下側で膨張展開され、エアバッグ本体部182にあってはフロントピラー108の前面108Aの大半を覆うように膨張展開される。そして、エアバッグ本体部182がフロントピラー108の前面108A側へ向けて膨出していく際に、エアバッグ分岐部184によってドアミラー本体部142が使用位置から格納位置側へ強制的に押し上げられる。
【0053】
これにより、ドアミラー本体部142は格納位置に保持されて、エアバッグ本体部182を車両幅方向外側から支える。換言すれば、ドアミラー本体部142がエアバッグ本体部182の車両幅方向外側に「壁」として存在する。これにより、エアバッグ本体部182は安定した状態でフロントピラー108の前面108Aに保持される。その結果、エアバッグ本体部182が歩行者を受け止めた際に、当該エアバッグ本体部182が車両幅方向外側へずれようとしても、ドアミラー本体部142が壁となってエアバッグ本体部182の車両幅方向外側への移動を抑制することができる。よって、上記構成の本実施形態に係る歩行者保護エアバッグ装置120によれば、歩行者を受け止めたときにエアバッグ本体部182が車両幅方向外側へずれる(逃げる)ことを抑制することができる。
【0054】
このように本実施形態によれば、エアバッグ180の形状を変更すると共に、インフレータ128の出力を当該エアバッグ180の容量に見合ったものにするのみで、ドアミラー本体部142を使用位置から格納位置へ強制的に移動させることができる。よって、本実施形態によれば、エアバッグモジュール122の最小限の設計変更で所期の目的を達成することができる。
【0055】
〔参考例〕
以下、図6〜図8を用いて、第1の参考例〜第3の参考例に係る歩行者保護エアバッグ装置について説明する。なお、これらの第1の参考例〜第3の参考例は、本発明の実施形態ではないことを付記しておく。また、前述した第1実施形態等と同一の構成部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0056】
図6に示されるように、この第1の参考例に係る歩行者保護エアバッグ装置190では、エアバッグ130の下部に二股に分かれたY字状のチューブ192が設けられている。チューブ192はエアバッグ130と連通されており、チューブ192及びエアバッグ130の展開が完了した状態を側面視で見ると、エアバッグ130の下縁とチューブ192とで三角形が形成されるように構成されている。
【0057】
上記構成によれば、インフレータ128が作動すると、ガスがチューブ192及びエアバッグ130にこの順に供給される。そして、チューブ192及びエアバッグ130の展開が完了した状態では、エアバッグ130の下縁とで三角形状を形成するY字状のチューブ192によってエアバッグ130が下から支えられる。このため、エアバッグ130の支持状態が安定する。従って、エアバッグ130で歩行者を受け止めた際に、エアバッグ130が車両幅方向外側へずれることを抑制することができる。
【0058】
図7に示されるように、第2の参考例に係る歩行者保護エアバッグ装置190では、左右のエアバッグ130がストラップ194で連結されている。具体的には、ストラップ194の長手方向の両端部が、左右のエアバッグ130の後端部にそれぞれ縫製されている。ストラップ194の長手方向の寸法は、左右のエアバッグ130が左右のフロントピラー108の前面108A上に膨張展開したときに、所定のテンションがかかるような寸法に設定されている。また、このストラップ194は、歩行者保護エアバッグ装置190の非作動時には、エンジンフード102の後端部の下面側に格納されている。従って、歩行者保護エアバッグ装置190の非作動時にストラップ194が外部に露見されることはない。また、エアバッグモジュール122内に折り畳み状態で格納されたエアバッグ130とストラップ194の長手方向の端部との接続が円滑に行われ、かつストラップ194の矢印B方向への円滑な移動が担保されるように、エアバッグドア124の周縁部からストラップ194が引き出され、エンジンフード102の後端部の下面側へ配索されている。
【0059】
上記構成によれば、インフレータ128が作動すると、折り畳み状態の左右のエアバッグ130内へガスが供給される。このため、左右のエアバッグ130は、フロントピラー108の前面108Aを下端部から上端部へ向って膨張展開していく。このときに、エンジンフード102の後端部の下面側に格納されていたストラップ194がウインドシールドガラス106上を下縁から上縁に向って引き上げられていく。そして、左右のエアバッグ130の展開が完了した状態では、ストラップ194に適度なテンションがかかっているので、エアバッグ130に歩行者が当接し、エアバッグ130が車両幅方向外側へずれようとしても、ストラップ194によって引っ張られているので、エアバッグ130が車両幅方向外側へずれることが抑制される。
【0060】
図8に示されるように、この第3の参考例に係る歩行者保護エアバッグ装置190では、前述した第2の参考例のストラップ194の長手方向の中間部とエンジンフード102の後端部の下面側に配置された図示しないカウル等の車体構成部材とが、別の短いストラップ196で車両前後方向に連結されている。このストラップ196の長手方向の寸法は、第2の参考例におけるストラップ194の長手方向の中間部とカウルの長手方向の中間部とを結んだ距離よりも短く設定されている。
【0061】
上記構成によれば、ストラップ194が左右のエアバッグ130間で一直線上に張ろうとすると、短い方のストラップ196によってストラップ194の長手方向の中間部が車両前方側へ引き込まれる。このため、ストラップ194に、より強いテンションがかかる。従って、ストラップ194のテンションが不足する可能性がある場合には、この第3の参考例を適用することにより、左右のエアバッグ130を適切な位置で膨張展開させかつ車両幅方向外側へずれないようにすることができる。
【0062】
〔上記実施形態の補足説明〕
上述した実施形態では、歩行者保護エアバッグ装置120がフロントサイドドア110のドア本体部112に配設されていたが、これに限らず、歩行者保護エアバッグ装置がドアミラー装置に配設されるものに対して本発明を適用してもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では、エアバッグ130、180がフロントピラー108の前面108Aの少なくとも下部を覆うように構成したが、これに限らず、エアバッグがフロントピラーの前面の全部を覆うように構成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
100 車両
108 フロントピラー
108A 前面
110 フロントサイドドア
120 歩行者保護エアバッグ装置
122 エアバッグモジュール
128 インフレータ
130 エアバッグ
138 ドアミラー装置
140 支持部(ドアミラー装置の非可動部分)
142 ドアミラー本体部
144B 軸
148 駆動モータ
152 プリクラッシュセンサ
154 エアバッグECU(制御装置)
160 シリンダ
162 ピストン
168 チューブ(連通部材)
170 第1室
172 第2室
174 ピストンロッド(押し上げ部)
176 押圧部(押し上げ部)
180 エアバッグ
182 エアバッグ本体部
184 エアバッグ分岐部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時にはドアミラー本体部がサイドドアの上部前端側から車両幅方向外側へ張出されると共に格納時にはドアミラー本体部が軸回りに回動してフロントピラーの長手方向に添うように畳まれるドアミラー装置を備えた車両に適用され、
サイドドア内又はドアミラー装置内に設けられ、衝突時又は衝突予測時に作動してガスを発生するインフレータと、折り畳み状態で格納されると共にインフレータからガスが供給されることによりサイドドア外又はドアミラー装置外へ膨出してフロントピラーの前面の少なくとも下部を覆うように展開されるエアバッグと、を含んで構成されたエアバッグモジュールと、
衝突時又は衝突予測時に、ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させるドアミラー姿勢変更手段と、
を有する歩行者保護エアバッグ装置。
【請求項2】
前記ドアミラー装置は、ドアミラー本体部内に設けられ駆動することによりドアミラー本体部を前記軸回りに回動させる駆動モータを含んで構成されており、
前記ドアミラー姿勢変更手段は、前記衝突予測時に当該駆動モータを駆動させて前記ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させる制御装置である、
ことを特徴とする請求項1記載の歩行者保護エアバッグ装置。
【請求項3】
前記ドアミラー姿勢変更手段は、
サイドドア又はドアミラー装置の非可動部分に固定されたシリンダと、
前記インフレータとシリンダとを連通し、インフレータで発生したガスの一部をシリンダ内へ供給する連通部材と、
インフレータ内に軸方向移動可能に収容され、シリンダ内の室を連通部材が接続された側の第1室と、連通部材が接続されない側の第2室とに区画するピストンと、
一端部が前記ピストンに固定されると共に、前記ドアミラー本体部を使用位置から格納位置へ強制的に移動させる押圧力をドアミラー本体部に付与可能な位置に他端部が配置された押し上げ部と、
を含んで構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の歩行者保護エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグは、フロントピラーの前面の少なくとも下部を覆うように膨張展開されるエアバッグ本体部と、当該エアバッグ本体部から枝分かれして前記ドアミラー本体部の下側で膨張展開されるエアバッグ分岐部と、を含んで構成されており、
前記ドアミラー姿勢変更手段は、当該エアバッグ分岐部として構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の歩行者保護エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−148456(P2011−148456A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12591(P2010−12591)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)