説明

歩行補助装置

【課題】瞬時に旋回することができる歩行補助装置を提供する。
【解決手段】歩行補助装置1は、ハンドル部2aを有するフレーム体2と、フレーム体2の左右両側に配置された車輪3a〜3dと、各車輪3a〜3dをそれぞれ回転駆動させるインホイールモータ4a〜4dと、ハンドル部2aに設けられた左右2つのコントローラーバー5a,5bと、制御ユニット6とから構成されている。制御ユニット6は、コントローラーバー5a,5bが逆方向に回転操作又は押し操作された場合、その操作された方向に応じて、右の車輪3a,3bと左の車輪3c,3dとを逆方向に回転させるようにインホイールモータ4a〜4dを制御するECUを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回動作可能な手押し車型の歩行補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の手押し車型の歩行補助装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、ハンドル・グリップが中立の位置から回転している場合に、その回転量に対応した電気量に応じて左車輪用モータと右車輪用モータとの間に回転数差を生じさせることにより、旋回動作を容易に行うようにしたものが知られている。
【特許文献1】特開平4−143172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術の手押し車型の歩行補助装置では、前に進みながら旋回するので、ある程度の旋回半径が必要となり、瞬時に旋回することができなかった。このため、急な障害物回避に対して十分対応できるものではなかったり、使用者にストレスを感じさせるという問題があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、瞬時に旋回することができる歩行補助装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、フレーム体の両側に配置された左右の車輪と、各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動部と、ハンドル部に設けられた左右2つの操作部と、2つの操作部が互いに逆方向に操作されたかどうかを判断する判断手段と、判断手段により2つの操作部が互いに逆方向に操作されたと判断されると、2つの操作部の操作方向に応じて、左右の車輪を逆方向に回転させるように、各駆動部を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係わる歩行補助装置においては、左右2つの操作部が互いに逆方向に操作された場合に、各操作部の操作方向に応じて、左右の車輪を逆方向に回転させるように、各駆動部を制御する。これにより、左右の車輪は互いに逆方向に回転するので、大きな旋回半径を必要とせず、その場で瞬時に旋回することが可能となる。
【0007】
また、好ましくは、判断手段は、2つの操作部の前後回転角度を検出する回転検出手段と、回転検出手段の検出信号に基づいて、2つの操作部が互いに逆方向に回転操作されたかどうかを判断する手段とを有する。例えば右側の操作部を前側に回転操作し、左側の操作部を後側に回転操作をした場合には、右側の車輪を前側に回転させ、左側の車輪を後側に回転させることで、その場で瞬時に左旋回するようになる。
【0008】
また、好ましくは、判断手段は、2つの操作部の前後押し力を検出する押し力検出手段と、押し力検出手段の検出信号に基づいて、2つの操作部が互いに逆方向に押し操作されたかどうかを判断する手段とを有する。例えば右側の操作部を前側に押し操作し、左側の操作部を後側に押し操作をした場合には、右側の車輪を前側に回転させ、左側の車輪を後側に回転させることで、その場で瞬時に左旋回するようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歩行補助装置によれば、瞬時に旋回することができる。これにより、例えば急な障害物回避に十分に対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係わる歩行補助装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係わる歩行補助装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。同図において、歩行補助装置1は、歩行者の歩行を補助する電動手押し車である。歩行補助装置1は、ハンドル部2aを有するフレーム体2と、フレーム体2の左右両側に配置された車輪3a〜3dと、各車輪3a〜3dをそれぞれ独立に回転駆動させるインホイールモータ4a〜4dと、ハンドル部2aに設けられた左右2つのコントローラーバー5a,5bと、制御ユニット6とから構成されている。
【0012】
フレーム体2は、歩行者が握る上記のハンドル部2aと、ハンドル部2aの両端から前側斜め下方に延びる一対のメインフレーム2bと、各メインフレーム2bの略中央部から後側斜め下方にそれぞれ延びる一対のサブフレーム2cと、各メインフレーム2bに対して各サブフレーム2cを回動自在に連結する一対のジョイント2dとにより構成されている。各メインフレーム2bの下端部には、上記の車輪(前輪)3a,3cが取り付けられ、各サブフレーム2cの下端部には、上記の車輪(後輪)3b,3dが取り付けられている。
【0013】
ハンドル部2aは、歩行者が把持可能な高さに設けられている。ハンドル部2aには、歩行補助装置1の旋回動作を指示操作するための上記2つのコントローラーバー5a,5bが設けられている。
【0014】
インホイールモータ4a〜4dは、車輪3a〜3dの回転駆動力を各々発生する電動モータである。
【0015】
制御ユニット6は、フレーム体2のジョイント2dから吊り下げられている。制御ユニット6の内部には、ECU20及び電源部21(図2参照)が設けられている。また、制御ユニット6は、荷物を収容するための荷室を兼ね備えている。
【0016】
図2は、インホイールモータ4a〜4dを制御する制御系を示すブロック図である。図2において、歩行補助装置1は、右回転角度センサ11aと、左回転角度センサ11bと、右押し力センサ12aと、左押し力センサ12bと、ECU(Electronic Control Unit)20と、電源部21とを備えている。
【0017】
右回転角度センサ11a及び左回転角度センサ11bは、歩行者によって回転(捻り)操作されたコントローラーバー5a,5bの前後回転角度をそれぞれ検出するセンサである。右回転角度センサ11a及び左回転角度センサ11bの検出信号(回転角度信号)はECU20に送出される。
【0018】
右押し力センサ12a及び左押し力センサ12bは、歩行者によって押し操作されたコントローラーバー5a,5bの前後押し力をそれぞれ検出するセンサである。右押し力センサ12a及び左押し力センサ12bの検出信号(押し力信号)はECU20に送出される。
【0019】
ECU20は、回転角度センサ11a,11bから送出された回転角度信号と押し力センサ12a,12bから送出された信号とに基づいて、コントローラーバー5a,5bの操作状態を判断し、その判断結果に応じてインホイールモータ4a〜4dを制御する。
【0020】
図3は、ECU20により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【0021】
図3において、まず回転角度センサ11a,11bからの回転角度信号及び押し力センサ12a,12bからの押し力信号が入力される(手順S01)。続いて、手順S01において回転角度センサ11a,11bからの回転角度信号に基づいて、コントローラーバー5a,5bが回転されたかどうかを判断し(手順S02)、コントローラーバー5a,5bが回転されたと判断された場合には、手順S03に進む。一方、コントローラーバー5a,5bが回転されていないと判断された場合には、手順S06に進む。
【0022】
手順S02においてコントローラーバー5a,5bが回転されたと判断された場合には、回転角度センサ11a,11bからの回転角度信号が互いに逆位相であるかどうかを判断することにより、コントローラーバー5a,5bの回転方向が逆方向であるかどうかを判断し(手順S03)、コントローラーバー5a,5bの回転方向が逆方向であると判断された場合には、手順S04に進む。一方、コントローラーバー5a,5bの回転方向が逆方向ではないと判断された場合には、手順S05に進む。
【0023】
手順S03においてコントローラーバー5a,5bの回転方向が逆回転であると判断されたときは、歩行補助装置1をその場で旋回させるような回転トルク指令値を求め、手順S11に進む(手順S04)。具体的には、右の車輪3a,3bと左の車輪3c,3dとの回転方向が逆方向となるような回転トルク指令値が求められる。
【0024】
一方、手順S03においてコントローラーバー5a,5bの回転方向が逆回転ではないと判断されたときは、歩行補助装置1を通常旋回させるような回転トルク指令値を求め、手順11に進む(手順S05)。具体的には、右の車輪3a,3bと左の車輪3c,3dとの回転力が異なるような回転トルク指令値が求められる。
【0025】
また、手順S02においてコントローラーバー5a,5bが回転されていないと判断された場合には、押し力センサ12a,12bからの押し力信号に基づいて、コントローラーバー5a,5bの前後押し力の左右差が所定の力以上であるかを判断し(手順S06)、前後押し力の左右差が所定の力以上であると判断された場合には、手順S07に進む。一方、前後押し力の左右差が所定の力以上でないと判断された場合には、歩行者に旋回する意思がないものとして、手順S01の処理に戻る。
【0026】
続いて、押し力センサ12a,12bからの押し力信号に基づいて、コントローラーバー5a,5bの前後押し力の左右差の持続時間が所定の時間以上であるかを判断し(手順S07)、前後押し力の左右差が所定の時間以上持続していると判断された場合には、手順S08に進む。一方、前後押し力の左右差が所定の時間以上持続していないと判断された場合には、歩行者に旋回する意思がないものとして、手順S01の処理に戻る。
【0027】
次に、押し力センサ12a,12bからの押し力信号が互いに逆位相であるかどうかを判断することにより、コントローラーバー5a,5bの前後押し方向が逆方向であるかを判断し(手順S08)、コントローラーバー5a,5bの前後押し方向が逆方向であると判断された場合には、歩行補助装置1をその場で旋回させるような回転トルク指令値を求め、手順S11に進む(手順S09)。このときの回転トルク指令値については、手順S04と同様である。
【0028】
一方、コントローラーバー5a,5bの前後押し方向が逆方向ではないと判断された場合には、歩行補助装置1を通常回転させるような回転トルク指令値を求め、手順S11に進む(手順S10)。このときの回転トルク指令値については、手順S05と同様である。
【0029】
手順S11では、それぞれに求められた回転トルク指令値に応じたインホイールモータ駆動信号をインホイールモータ4a〜4dに送出し、インホイールモータ4a〜4dの駆動を制御する。
【0030】
ここで、図4〜6に、歩行補助装置1が旋回する例を示す。
【0031】
図4は、手順S05において求められた回転トルク指令値に応じて、歩行補助装置1が通常旋回する一例を示す図である。同図に示すように、右のコントローラーバー5aが前側に回転(捻り)操作され、左のコントローラーバー5bが前側に押されると、右の車輪3a,3bは前側に回転し、左の車輪3c,3dは右の車輪3a,3bよりも小さい回転トルク(回転トルク0でもよい)で前側に回転する。これにより、歩行補助装置1が左旋回する。このとき、例えばコントローラーバー5aを捻るときの角速度を速くすることで、歩行補助装置1を速く旋回させることができる。
【0032】
図5は、手順S04において求められた回転トルク指令値に応じて、歩行補助装置1がその場旋回する一例を示す。同図に示すように、右のコントローラーバー5aが前側に回転(捻り)操作され、左のコントローラーバー5bが後側に回転(捻り)操作されると、右の車輪3a,3bは前側に回転し、左の車輪3c,3dは後側に回転する。これにより、歩行補助装置1がその場で瞬時に左旋回する。このとき、例えばコントローラーバー5a,5bを捻るときの角速度を速くすることで、歩行補助装置1を速く旋回させることができる。
【0033】
また、図6は、手順S09において求められた回転トルク指令値に応じて、歩行補助装置1がその場旋回する他の例を示す図である。同図に示すように、右のコントローラーバー5aが前側に押し操作され、左のコントローラーバー5bが後側に押し操作されると、右の車輪3a,3bは前側に回転し、左の車輪3c,3dは後側に回転する。これにより、歩行補助装置1がその場で瞬時に左旋回する。このとき、例えばコントローラーバー5a,5bの押し力を大きくすることで、歩行補助装置1を速く旋回させることができる。
【0034】
以上において、インホイールモータ4a〜4dは、各車輪3a〜3dをそれぞれ回転駆動させる複数の駆動部を構成する。コントローラーバー5a,5bは、ハンドル部2aに設けられた左右2つの操作部を構成する。回転角度センサ11a,11b及び押し力センサ12a,12bと、EUC20の手順S01、S02、S03、S08とは、2つのコントローラーバー5a,5bが互いに逆方向に操作されたかどうかを判断する判断手段を構成する。ECU20の手順S04、S09、S11は、判断手段により2つのコントロールバー5a,5bが互いに逆方向に操作されたと判断されると、2つのコントローラーバー5a,5bの操作方向に応じて、左右の車輪3a〜3dを逆方向に回転させるように、インホイールモータ4a〜4dを制御する制御手段を構成する。
【0035】
以上のように本実施形態の歩行補助装置1にあっては、ハンドル部2aに設けられた左右のコントローラーバー5a,5bが互いに逆方向に回転操作又は押し操作された場合、その操作された方向に応じて、右の車輪3a,3bと左の車輪3c,3dとは互いに逆方向に回転するので、大きな旋回半径を必要とせず、その場で瞬時に旋回することが可能となる。これにより、コントローラーバー5a,5bに対するレスポンスが速くなるため、例えば急な障害物が存在しても迅速に回避することが可能となる。また、歩行者が感じるストレスを軽減することもできる。
【0036】
なお、上記実施形態では、全ての車輪3a〜3dに対して回転駆動力を与えるインホイールモータ4a〜4dを設けたが、前輪のみに回転駆動力を与えても良いし、後輪のみに回転駆動力を与えても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】歩行補助装置の外観を示す斜視図である。
【図2】歩行補助装置の制御系を示すブロック図である。
【図3】ECUにより実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】通常旋回の一例を示す図である。
【図5】回転操作によるその場旋回の一例を示す図である。
【図6】押し力操作によるその場旋回の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…歩行補助装置、2…フレーム体、2a…ハンドル部、3a〜3d…車輪、4a〜4d…インホイールモータ(駆動部)、5a,5b…コントローラーバー(操作部)、11a…右回転角度センサ(回転角度検出手段、判断手段)、11b…左回転角度センサ(回転角度検出手段、判断手段)、12a…右押し力センサ(押し力検出手段、判断手段)、12b…左押し力センサ(押し力検出手段、判断手段)、20…ECU(判断手段、制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、
前記フレーム体の両側に配置された左右の車輪と、
前記各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動部と、
前記ハンドル部に設けられた左右2つの操作部と、
前記2つの操作部が互いに逆方向に操作されたかどうかを判断する判断手段と、
前記判断手段により前記2つの操作部が互いに逆方向に操作されたと判断されると、前記2つの操作部の操作方向に応じて、前記左右の車輪を逆方向に回転させるように、前記各駆動部を制御する制御手段とを備えることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記2つの操作部の前後回転角度を検出する回転検出手段と、前記回転検出手段の検出信号に基づいて、前記2つの操作部が互いに逆方向に回転操作されたかどうかを判断する手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記2つの操作部の前後押し力を検出する押し力検出手段と、前記押し力検出手段の検出信号に基づいて、前記2つの操作部が互いに逆方向に押し操作されたかどうかを判断する手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−136489(P2009−136489A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315988(P2007−315988)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)