説明

歪み応答性粘性液状ポリマーを備えた布帛

面密度が1.5 lb/ft(7323.6g/m)未満であり、マイナス40〜約0℃の範囲のガラス転移温度、および20℃で2×10〜約1013ポアズのゼロ剪断溶融粘度を有する約1〜8重量パーセントのポリマーが適用された複数の繊維状布帛層から作製された貫通抵抗性物品が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低ガラス転移温度の粘性ポリマー接着剤が適用された繊維構造を有する布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
織布から作製された現在の軟質防護服システムは、NIJ規格0101.04 Rev.Aで必要とされる44mm未満の背面変形(BFD)を達成するよう、単位面積当たりの重量密度を高くする必要がある。BFDは、鈍的外傷の指標であり、BFDが低いほど、鈍的外傷からの防護が良好である。多くの軟質防護服構造は、弾道発射物を適切に止めることができるものの、鈍的外傷に伴う衝撃によって、重傷や死を招く可能性が尚ある。従って、高性能軽量チョッキは、典型的に、ハネウェル(Honeywell)のゴールドフレックス(Goldflex)(登録商標)やスペクトラシールド(Spectrashield)(登録商標)等の大量の不織積層構造体を有する織布の複合体を利用している。
【0003】
特許文献1には、防弾繊維および布帛への、カーボンブラック、フュームドシリカ(ナノ−シリカ)および少量の接着剤「グルー」からなる典型的な組成の膨張性乾燥粉末の適用が開示されている。
【0004】
特許文献2では、接着力修正剤で塗膜され、マトリックス樹脂中に埋め込まれたアラミド織布の剛性複合体が検討された。摩擦が減じ、界面が脆弱化することによって、防弾性能の改善につながった。布帛での摩擦が大きすぎたり、マトリックスの剛性が大きすぎる場合には、弾道抵抗性は大幅に妥協される。
【0005】
リー・Y.S.ら(Lee,Y.S. et al.)による非特許文献1では、防弾繊維と組み合わせた粒子のずり粘稠化サスペンションが検討されている。
【0006】
特許文献3には、サーリン(Surlyn)(登録商標)の層と共にケブラー(Kevlar)(登録商標)布帛の層を、熱および圧力をかけてボンディングして、サーリン(Surlyn)(登録商標)をケブラー(Kevlar)(登録商標)布帛のヤーンに流し、封入することにより形成された防護性積層体が開示されている。
【0007】
モノリシックシステムにおいて、ポリエチレンフィルム等の固形接着剤で含浸した布帛だと、貫通抵抗性が大幅に失われる可能性がある。これは、高剛性、含浸に必要な処理条件、およびデラウェア州、ウィルミントンのイー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. du Pont de Nemours and Co, Wilmington,DE(デュポン(DuPont)))より入手可能なポリアラミドであるケブラー(Kevlar)(登録商標)等の防弾的に重要な材料が欠如していることが重なって生じている。
【0008】
織布系の軟質防護服は、典型的に大きなBFDを示すため、NIJ規格0101.04 Rev.Aに準拠するためには大きな坪量を必要とする。例えば、100%織布ケブラー(Kevlar)(登録商標)から作製された現在のチョッキは、NIJ規格でレベルIIの防護とするためには1.0psfを超える重量となる。フィルム含浸布帛(ポリエチレンフィルムによるもの等)の中には、典型的に、未処理布帛層と組み合わせて用いられるものがあり、含浸層は身体近くに配置されてBFDを制御する。フィルム積層に関連する増量を補い、かつ、組み立て品の全体の剛性を最小にするために、かかる複合システムが必要である。かかる解決策でも、弾道抵抗性を大幅に妥協することが多い。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,776,839号明細書
【特許文献2】米国特許第5,229,199号明細書
【特許文献3】米国特許第4,678,702号明細書
【非特許文献1】ずり粘稠化流体を利用するN.J.最新防護服、23回米陸軍科学会議、2002年(N.J. Advanced Body Armor Utilizing Shear Thickening Fluids,23rd Army Science Conference,2002)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の布帛層から作製された貫通抵抗性物品であって、布帛層が繊維とポリマーとを有し、ポリマーが、−40〜約0℃の範囲のガラス転移温度、および20℃で約2×10〜約1013ポアズのゼロ剪断溶融粘度を有し、物品の面密度が1.5 lb/ft(90.5g/m)未満であり、ポリマーが布帛の1〜約8重量パーセントである物品に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、デュポン(DuPont)に譲渡された同時継続米国特許出願にKB−4800として記載されているような歪み応答性粘性液状ポリマーを組み込むことにより、軟質防護服システムのための織布システムの面密度を大幅に減少することを提供する。かかるシステムは、V50とBFDの釣り合いが優れている。
【0012】
1平方フィート当たり(psf)約1ポンド(60.3g/m)から約0.84psf(50.7g/m)の坪量における約20%の減少が、本発明では実証されている。44mmを大幅に下回る減少されたBFDに加えて、防弾的に重要なケブラー(Kevlar)(登録商標)層の使用が少ないにも係らず、V50は比較的影響を受けないままで、坪量の減少が可能になる。V50は、銃弾の半分がパネルにより完全に止められ、半分がパネルを貫通する際のメートル毎秒(m/s)の臨界速度である。
【0013】
さらに、塗膜された布帛の歪み応答特性のために、防護システム、例えば、チョッキは、通常の使用中、可撓性があって快適なままである。弾道歪み速度での衝撃に際してのみ、局所的に剛性となる。特定の理論に拘束されるものではないが、ヤーン交差部に存在する接着ポリマー「靭帯」が壊れて、再形成されるものと考えられる。粘性ポリマーが流動して、かかる「靭帯」を再現できるためである。しかしながら、クラトン(Kraton)(登録商標)等の固形接着剤は、この自己回復性を示さない。恐らく、本発明のポリマーのように、歪み硬化を示さないためと思われる。表1の診断伸縮データが、この差を示している。防弾試験からの回収発射物の分析によれば、エチレン/メチルアクリレートコポリマー、ポリ(ビニルプロピオネート)およびポリ(ヘキシルメタクリレート)等の対象の歪み応答性ポリマーで塗膜された布帛は、弾道衝撃の際に、大幅に硬化することがさらに分かっている。さらに、捕捉された発射物の断面画像によれば、本発明のシステムを用いると、大幅な発射物鈍化および損傷を示しており、さらに良好なBFD性能を証明している。
【0014】
本発明では、KB−4800で記載したように、適切な分子量およびTgを有する少量の歪み応答性粘性液状ポリマーを利用している。かかるポリマーは、本発明に従って少量で適用すると、現在可能なものよりもさらに低い坪量で、BFDとV50の優れた釣り合いを有する柔軟なシステムを提供する。上述した通り、これらのシステムは、ゴールドフレックス(Goldflex)(登録商標)またはスペクトラシールド(Spectrashield)(登録商標)等の不織システムの特徴であることが多い著しく高い程度の発射物損傷や鈍化)を示すが、改良された快適性を伴っている。
【0015】
繊維布帛の弾道抵抗性は、多数の変数の相互作用や、事象が非常に短時間である(約100マイクロ秒)ために、非常に複雑な問題である。多数の基準を満足させる適切な歪み応答性ポリマーを選択することは、非常に困難である。特に、かかる材料特性は、かかる高歪み速度では、典型的には得られないからである。貫通抵抗性と鈍的外傷からの防御との必要な釣り合いをとりながら、布帛を含浸し、最終的に低坪量のチョッキを設計するにはさらに困難が生じる。
【実施例】
【0016】
以下の実施例で利点をさらに示す。デュポン(DuPont)よりケブラー(KEVLAR)(登録商標)という商品名で入手可能な840デニール(930dtex)のポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)ヤーンの平織布帛片を、基本布帛として用いるために、1インチ当たり26×26の端部数(1センチメートル当たり10.2×10.2の端部数)で織った。
【0017】
約100,000g/モルの高MW、および毛管粘度測定法により測定された20℃で1×10ポイズ(Po)のゼロ剪断溶融粘度を有するコポリマーは、「高E/MA」と呼ばれる。デュポン(DuPont)よりベイマック(Vamac)(登録商標)VCD6200として入手可能である。ガラス転移温度が−32℃で、約40,000g/モルの中Mwおよび20℃で6×10Poのゼロ剪断速度溶融粘度を有するエチレン/メチルアクリレート(38/62w/w%)は、「中E/MA」と呼ばれる。デュポン(DuPont)により作成された実験等級である。
【0018】
NIJ規格−0101.04「個人用防護服弾道抵抗性(Ballistic Resistance of Personal Body Armor)」に記載されたNIJレベルIIの試験プロトコルに基づいて、.357マグナム銃弾に対して、防弾試験を行った。性能要件に適合するためには、44mm以下の背面変形が必要である。V50および背面変形の両方を含む防弾試験の結果を表1に示した。
【0019】
実施例1〜4
実施例1〜4について以下の各布帛層の20枚の層を、面密度約4.1kg/sqmの約15”×15”(38cm×38cm)サイズパネルの様々な複合体構造へと作製した。
【0020】
実施例1は、洗い流す、すなわち、水で複数回濯ぐことにより、仕上げ油を除去してから(同じくデュポン(DuPont)に譲渡された同時継続特許出願に開示されており、その中ではKB−4805として記されている)、基本の布帛を、トルエン中7%溶液から約4.7wt%の中E/MAで塗膜することにより作製した。
【0021】
実施例2は、洗い流してから、基本の布帛を、トルエン中20%溶液から約4.9wt%の中E/MAで塗膜することにより作製した。
【0022】
実施例3は、洗い流してから、基本の布帛を、トルエン中20%溶液から約4.7wt%の高E/MAで塗膜することにより作製した。
【0023】
実施例4は、洗い流してから、基本の布帛を、トルエン中15%溶液から約4.5wt%の中E/MAで塗膜することにより作製した。
【0024】
1平方メートル当たり約4.1kgの面密度では、実施例1〜4は全て良好な弾道V50および低背面変形を示す、すなわち、44mm未満のNIJ背面変形要件に対して31〜39mmであったことが分かった。
【0025】
比較実施例A
この比較実施例では、基本の布帛層の21枚の層を、面密度約4.1kg/sqmの約15−インチ×15−インチ(38cm×38cm)パネルの複合体構造へと作製した。実施例1〜4で用いたのと同じNIJレベルIIの試験プロトコルに基づいて、防弾試験を行った。
【0026】
表1に示す結果によれば、弾道V50は許容できるものの、背面変形は、NIJ背面変形要件には不十分なものであった。
【0027】
比較実施例B
この比較実施例は、洗い流してから、基本の布帛を、トルエン中7%溶液から約8.5wt%の中E/MAで塗膜することにより作製した。塗膜布帛の19枚の層を、面密度約4.1kg/sqmの約15”×15”(38cm×38cm)パネルの複合体構造へと作製した。実施例1〜4で用いたのと同じNIJレベルIIの試験プロトコルに基づいて、防弾試験を行った。
【0028】
このパネルでは、弾道V50値が低く、436±10m/秒で試験したとき、.357マグナム弾丸により貫通したということが示されたことが分かった。
【0029】
比較実施例C
この比較実施例は、基本の布帛層に、厚さ約23マイクロメートルのサーリン(Surlyn)(登録商標)フィルムを、約127℃および100psiのプレス条件下で、約20分間、積層することにより作製した。サーリン(Surlyn)(登録商標)は、デュポン(DuPont)より入手可能である。17枚の層を、面密度約4.1kg/sqmの約15”×15”サイズパネルの複合体構造へと作製した。実施例1〜4で用いたのと同じNIJレベルIIの試験プロトコルに基づいて、防弾試験を行った。
【0030】
表1に示す結果によれば、サーリン(Surlyn)(登録商標)フィルムを積層した布帛層では、弾道V50値が低く、436±10m/秒で試験したとき、.357マグナム弾丸により貫通したことが分かった。
【0031】
【表1】

【0032】
BFDは、436±10m/秒での0.357マグナム弾丸に基づいてmmで測定した。
【0033】
実施例5〜9
ポリアラミド織布の実施例に、様々な量の中E/MAか高E/MAを塗膜した。比較実施例については、布帛を、テキサス州、ヒューストンのクラトンポリマーズ社(Kraton Polymers Co.,Houston TX)より入手可能なクラトン(Kraton)(登録商標)固形接着剤で塗膜した。6cm×6cmの試験試料を、反対の対角部を把持することにより伸張した。この試験は、縦糸および横糸方向に45度の角度で歪みを印加する、低歪み速度(0.2インチ/分(0.5cm/分))での面内剪断変形特性を実質的に求めるものである。ロードセルを保護し、かつ、布帛に対する繊維の損傷を防いで、多数回のサイクルを同じ試料に適用できるようにするために、布帛の強度に対して弱い力で試験を終了する。特定の理論に拘束されることは意図するところではないが、比較実施例と実証済みの実施例は元々は同様に挙動するものと考えられる。ロードが増加するにつれて、本発明の実施例のポリマー接着剤の「靭帯」が、捻られ、伸張されるにつれて大きな脱離が生じ、一方、比較実施例においては、繊維束の自由な捻りや滑りが生じる。最終的に、より高い伸張レベルで、布帛自身が、最高応力で実質的にロードされ始めるまで、「靭帯」は、過伸張され、次第に破壊される。診断伸張データを表2に示してある。
【0034】
【表2】

【0035】
エチレン/メチルアクリレートコポリマーで含浸した布帛は、伸張サイクル全体にわたってピーク力を維持することにより示されるように、大幅な自己回復を示している。一方、比較実施例Dに示される固形接着剤は、後のサイクルで、第1のサイクルピーク力を回復せず、自己回復がないことが分かる。これらの結果によれば、弾道衝撃の際に硬化し、自身を補修できる歪み硬化材料としての液状接着剤の実用的な利点が示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の布帛層を含んでなる貫通抵抗性物品であって、少なくとも1つの層が、
繊維とポリマーとを含んでなり、ポリマーが、
マイナス40〜0℃の範囲のガラス転移温度、および
20℃で2×10〜1013ポアズのゼロ剪断溶融粘度を有し、
物品の面密度が、1.5 lb/ft(90.5g/m)未満であり、ポリマーが、布帛の1〜8重量パーセントである物品。
【請求項2】
布帛層の繊維が芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリ{2,6−ジイミダゾ[4,5−b4’,5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}、ポリアレーンアゾール、ポリピリダゾール、ポリピリドビスイミダゾールおよびこれらの混合物よりなる群から選択される請求項1に記載の物品。
【請求項3】
ポリマーがエチレン/メチルアクリレート、ポリビニルプロピオネート、ポリ(ヘキシルメタクリレート)およびこれらの混合物よりなる群から選択される請求項1に記載の物品。
【請求項4】
10〜60枚の層を有する請求項1に記載の物品。
【請求項5】
ポリマーが布帛上に塗膜されている請求項1に記載の物品。
【請求項6】
ポリマーが布帛構造に少なくとも部分的に含浸されている請求項1に記載の物品。
【請求項7】
ポリマーがエチレン/メチルアクリレートである請求項5に記載の物品。
【請求項8】
少なくとも1枚の塗膜された層が自己回復性であり、布帛の面内歪みに関連するピーク力において少なくとも50%の回復を示す請求項5に記載の物品。
【請求項9】
NIJ規格0101.04に準拠して試験したとき、背面変形が44mm未満である請求項1に記載の物品。
【請求項10】
ポリマーが布帛の1〜8重量パーセントを構成する請求項7に記載の貫通抵抗性物品。
【請求項11】
複数の布帛層を含んでなる貫通抵抗性物品であって、少なくとも1枚の層が、繊維と、層の8重量%以下であるポリマーとを含んでなり、物品がNIJ規格0101.04に準拠して試験したときに、該ポリマーを含まない同一構造の物品に比べて背面変形において少なくとも10%の改善を有する物品。
【請求項12】
布帛が織布である請求項1に記載の貫通抵抗性物品。

【公表番号】特表2008−544208(P2008−544208A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518319(P2008−518319)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024004
【国際公開番号】WO2007/002105
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】