説明

歯ブラシ及びその製造方法

【課題】口腔内での操作性に優れた厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシでありながら、ハンドルを透明に構成して意匠性を高めつつ、しかも成形性及び耐久性を十分に確保可能な歯ブラシ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数本のフィラメントを束ねてなる毛束2の基端部に溶融塊4を形成して、この溶融塊4をヘッド部11に埋設した状態で毛束2を固定し、前記ヘッド部11の厚さが1.5mm以上4mm以下である歯ブラシであって、ハンドルの材料として、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂材料からなる透明なハンドルのヘッド部に平線を用いずに毛束を植設してなる歯ブラシ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシの製造方法として、複数の毛束を植設したヘッド部と、持ち手としての柄部と、ヘッド部と柄部とを連結する首部とを有するハンドルを成形するための成形空間を備えた1対の金型を用い、複数本のフィラメントを束ねてなる毛束を、一方の金型のヘッド部に対応する位置に複数装着し、これら複数の毛束の基端部を加熱して基端部に溶融塊を形成してから、金型を型閉じして、溶融塊を成形空間内に配置させた状態で、合成樹脂材料を成形空間内に射出して、成形空間内においてハンドルを成形するとともに、複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設する、いわゆる無平線歯ブラシの製造方法が実施されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
また、上記無平線歯ブラシとして、ヘッド部の厚さを1.5mm以上4mm以下に設定することで、口腔内におけるブラシの操作性を向上してなるものも提案されている(特許文献3参照。)。更に、この特許文献3には、ハンドルの材料として、引張降伏応力が45MPa以上で、曲げ弾性率が1900MPa以上の熱可塑性樹脂を用いたものが記載され、熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、PCTA樹脂、PCTG樹脂などのポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ホモポリマー、コポリマー)、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂の中から選ばれた樹脂を主成分とする樹脂を採用できる点が開示されている。また、歯ブラシのハンドルを透明に構成する場合には、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル系樹脂や、メタクリルスチレン樹脂やABS樹脂やAS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが一般に採用されている。
【0004】
一方、平線を用いた歯ブラシでは、ハンドルを射出成形した後、ヘッド部の植毛孔に毛束とともに平線を打ち込んで、毛束をヘッド部に植設する関係上、ハンドルの材料としては、平線の打ち込み部分における割れ防止可能な靭性を有し、さらにブラッシング時の繰り返し荷重に対する十分な機械的強度(耐久性)を有し、人体に無害な合成樹脂材料が採用されている。また、湯煎で歯ブラシを洗浄又は消毒した場合でも毛束が抜けやすくならないように十分な耐熱性を有し、さらに、歯磨剤に含まれる薬品等の影響を受けて、ハンドルの変質や割れを生じさせないように耐薬品性を有することに考慮して、ハンドルの合成樹脂材料が選定されている。特に、ヘッド部の厚さを薄くする場合には、抜毛強度が低下して毛束が抜け易くなるので、ハンドルを構成する合成樹脂材料の選定に注意を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−9947号公報
【特許文献2】特開2003−102552号公報
【特許文献3】特開2006−238928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無平線歯ブラシに係る技術は、平線歯ブラシよりも比較的新しいため、主に平線歯ブラシの製造技術が利用されており、例えばハンドルやフィラメントの材料は、一般に平線歯ブラシで使用可能な材料の中から選定されている。しかし、平線歯ブラシと無平線歯ブラシとでは、ハンドルに要求される機械的特性やハンドルの成形条件などが多少異なることから、平線歯ブラシでは利用できるが、無平線歯ブラシでは利用できない材料も少なからず存在する。
【0007】
例えば、平線歯ブラシの透明なハンドルの材料として、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が採用されているが、前述のように、湯煎で歯ブラシを洗浄又は消毒した場合でも十分な抜毛強度を確保できるように、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の中でも耐熱性の高いグレードのものが使用されている。しかし、このような耐熱性の高いグレードのポリエチレンテレフタレート系樹脂は固有粘度も高いため、これをヘッド部の厚さが4mm以下である無平線歯ブラシに用いた場合には、ヘッド部の先端まで樹脂材料が円滑に流入せず、成形不良が発生しやすくなる。これを強制的にヘッド部の先端まで流入させるために、製造時の成形温度を高く設定したり、射出圧力を高く設定してしまうと、無平線歯ブラシにおける毛束の溶融塊が溶融して変形したり、毛束が倒れたりするなどの製造不良が発生しやすくなる。たとえ毛束が倒れなかったとしても、上記溶融塊が変形して不整然となった状態が目視により認識されるため、意匠性としても劣ったものとなる。このため、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、平線歯ブラシの透明なハンドルの材料として利用できるが、無平線歯ブラシの透明なハンドルの材料としては利用できないと考えられていた。
【0008】
また、その他の合成樹脂材料として、樹脂流動性の高いメタクリルスチレン樹脂やABS樹脂等が知られており、このような流動性の高い樹脂を用いると、厚さ4mm以下のヘッド部を有する透明なハンドルを成形することは容易に実施できるが、これらの樹脂は伸度が低いために、ハンドルの機械的強度(耐久性)も低く、さらに耐薬品性についても、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合よりも劣ったものとなる。それ故、厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシでは、透明なハンドルを採用することができず、不透明ではあるが、成形性が良く、機械的強度の高いポリプロピレン樹脂しか主に用いられていないのが実状である。
【0009】
本発明の目的は、口腔内での操作性に優れた厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシでありながら、ハンドルを透明に構成して意匠性を高めつつ、しかも成形性及び耐久性を十分に確保可能な歯ブラシ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来採用困難であると考えられていた、薄型ヘッドで且つ透明ハンドルの無平線歯ブラシを実現すべく鋭意研究した結果、平線歯ブラシのハンドルの材料として適していないことから従来着目されていなかった、特定のポリエチレンテレフタレート系樹脂が、無平線歯ブラシのハンドルの材料として採用できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係る歯ブラシは、複数の毛束を植設したヘッド部と、持ち手としての柄部と、ヘッド部と柄部とを連結する首部とからなるハンドルを有し、毛束の基端部に溶融塊を形成して、この溶融塊をヘッド部に埋設した状態で毛束を固定し、前記ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下である歯ブラシであって、前記ハンドルの材料として、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いており、透明なハンドルを有するものである。尚、本明細書において、透明なハンドルとは、透過率80%以上であることを意味するものとする。
【0012】
この歯ブラシでは、毛束の基端部に形成した溶融塊をヘッド部に埋設した状態で、複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設するので、平線を用いて毛束を植設する場合のように、平線によるヘッド部の割れや、ヘッド部の薄肉化による抜毛強度の低下などの問題を防止でき、ヘッド部を厚さ1.5mm以上4mm以下の薄型ヘッドに構成して、口腔内におけるブラシの操作性を向上することができる。
【0013】
また、固有粘度が0.7dl/g以下のポリエチレンテレフタレート系樹脂でハンドルを構成しているので、ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下であっても、成形温度を高く設定することなく、ヘッド部の成形空間の先端部まで樹脂材料を充填させることができる。しかも、成形温度を高く設定することなくハンドルを成形できるので、成形空間内へ射出した樹脂の熱により溶融塊が溶融することを防止でき、溶融塊が溶融することによる製造不良も確実に防止することができる。
中でも、前記ハンドルの材料として、固有粘度が0.65dl/g以下のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
さらに、成形されたハンドルは透明であるため、意匠性としても優れた歯ブラシを得ることができ、毛束の基端部に形成された溶融塊も変形していない整然とした状態であることを目視により確認することができる。
【0015】
しかも、このポリエチレンテレフタレート系樹脂は、伸度が200%以上なので、歯ブラシとしての耐久性、即ちブラッシング時における繰り返し荷重に対する耐久性を十分に確保できる。中でも、前記ハンドルの材料として、伸度が300%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
上記ポリエチレンテレフタレート系樹脂を従来の平線歯ブラシに用いると、湯煎等の加熱により樹脂が微細に変形して、植毛孔に固定された平線が毛束と共に抜けやすくなるが、無平線歯ブラシではこの平線を用いていないため、たとえ微細な変形を生じたとしても毛束が抜けやすくなることもない。
【0017】
このように、本発明によれば、ハンドルを透明に構成して意匠性を高めつつ、しかも成形性及び耐久性を十分に確保可能な、厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシを実現できる。
【0018】
ここで、前記ハンドルの材料として、結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いることが好ましい実施の形態である。このような結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、厳密には結晶部分と非晶部分とからなっており、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂と比較して、この非晶部分の割合が非常に少ないことを特徴としている。この非晶部分は、樹脂の繰り返し荷重による疲労破壊の起点になりやすいことから、同等の伸度であれば結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂の方が優れた耐久性を有することになる。
【0019】
本発明に係る歯ブラシの製造方法は、複数の毛束を植設したヘッド部と、持ち手としての柄部と、ヘッド部と柄部とを連結する首部とを有するハンドルを成形するための成形空間を備えた1対の金型を用い、前記ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下であって、複数本のフィラメントを束ねてなる毛束を、一方の金型のヘッド部に対応する位置に複数装着し、これら複数の毛束の基端部を加熱して基端部に溶融塊を形成してから、金型を型閉じして、溶融塊を成形空間内に配置させた状態で、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を成形空間内に射出して、成形空間内において透明なハンドルを成形するとともに、複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設するものである。
【0020】
この製造方法では、ポリエチレンテレフタレート系樹脂として、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のものを用い、220℃以上250℃以下の成形温度で射出して、成形空間内においてハンドルを成形するとともに、複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設しているので、本発明に係る歯ブラシと同様に、ハンドルを透明に構成して意匠性を高めつつ、しかも成形性及び耐久性を十分に確保可能な、厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る歯ブラシ及びその製造方法によれば、毛束の基端部に形成した溶融塊を成形空間内に配置させた状態で、成形空間内へ合成樹脂材料を射出して、ハンドルを成形するとともに複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設するので、平線を用いて毛束を植設する場合のように、平線によるヘッド部の割れや、ヘッド部の薄肉化による抜毛強度の低下などの問題を防止でき、ヘッド部を厚さ1.5mm以上4mm以下に構成して、口腔内におけるブラシの操作性を向上することができる。
【0022】
また、固有粘度が0.7dl/g以下のポリエチレンテレフタレート系樹脂でハンドルを構成しているので、ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下であっても、成形温度を高く設定することなく、ヘッド部の成形空間の先端部まで樹脂材料を充填させることができる。しかも、成形温度を高く設定することなくハンドルを成形できるので、成形空間内へ射出した樹脂の熱により溶融塊が溶融することを防止でき、溶融塊が溶融することによる製造不良も確実に防止することができる。
【0023】
しかも、このポリエチレンテレフタレート系樹脂は、伸度が200%以上なので、歯ブラシとしての耐久性、即ちブラッシング時における繰り返し荷重に対する耐久性を十分に確保できる。
【0024】
このように、本発明によれば、ハンドルを透明に構成して意匠性を高めつつ、しかも成形性及び耐久性を十分に確保可能な、厚さ4mm以下のヘッド部を有する無平線歯ブラシを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】歯ブラシの正面図
【図2】歯ブラシの平面図
【図3】歯ブラシのヘッド部から首部にかけての要部の拡大正面図
【図4】歯ブラシのヘッド部から首部にかけての要部の拡大平面図
【図5】図4のV−V線断面図
【図6】図4のVI−VI線断面図
【図7】図4のVII−VII線断面図
【図8】(a)〜(d)は歯ブラシの製造方法の説明図
【図9】他の構成の歯ブラシの斜視図
【図10】(a)〜(f)は同歯ブラシの製造方法の説明図
【図11】(a)、(b)は他の構成の歯ブラシの製造方法の説明図
【図12】(a)、(b)は他の構成の歯ブラシの製造方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1、図2に示すように、歯ブラシ1は、ヘッド部11と、持ち手としての柄部12と、ヘッド部11と柄部12とを連結する首部13とからなるハンドル10と、ハンドル10のヘッド部11に植設した複数の毛束2からなるブラシ部3とを有し、ハンドル10の成形時に、図8(d)に示すように、複数本のフィラメントを束ねてなる毛束2の基端部に溶融塊4を形成し、この溶融塊4を金型20、21の成形空間22内に配置させた状態で成形空間22内へ合成樹脂材料を射出してハンドル10を成形するとともに、複数の毛束2をヘッド部11に脱落不能に一体的に植設して、ハンドル10にブラシ部3を一体的に設けたものである。
【0027】
前記ハンドル10の材料としては、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上の結晶性又は非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂が用いられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂とは、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を主成分とした樹脂であり、その配合比率を変えたり、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)等の添加剤を加えたりすることで、樹脂の物性を様々に調整したもので、ポリエチレンテレフタレート樹脂、PCTG樹脂、PETG樹脂、PCTA樹脂の中から選ばれた樹脂を主成分とする樹脂が用いられる。特に、添加剤を加えて固有粘度を低くしたポリエステル系樹脂や、重合度を抑えて固有粘度を低くしたポリエステル系樹脂は、成形空間22への充填性がよいので好ましい。前記PCTG及びPETG樹脂は、EGとTPAのエステル化合物と、CHDMとTPAのエステル化合物との共重合体であり、また前記PCTA樹脂は、CHDMとTPAとのエステル化合物と、CHDMとイソフタル酸(IPA)との共重合体である。なお、ここで主成分とは、他の樹脂とブレンド若しくはアロイとして混合して用いられているものの中に当該樹脂が50重量%以上の割合で含まれているもの、又は他の樹脂との共重合体中に当該樹脂のポリマーの繰り返しユニットが50重量%以上の割合で含まれているものをいう。また、このようなポリエチレンテレフタレート系樹脂をそのまま用いてハンドル10を成形することも可能であるが、歯ブラシ1の識別性を高めるために着色剤を添加してハンドル10を成形することもできる。本発明の好適な樹脂としては、TPAとEGを主成分としたものにアルコール類を添加したものなどがあり、ベルポリエステルプロダクツ製ベルペットIS121B、IP120B、IP121A、IP121B、IP140B、IP142B、東洋紡製バイロペットEMC−1563A、EMC−1232、ユニチカ製ポリエステル樹脂MA−1304Pなどが望ましい。尚、本発明ではポリエチレンテレフタレート系樹脂でハンドル10を構成したが、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチルテレフタレート樹脂などの飽和ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂や芳香族ポリアミド樹脂などのポリアミド系樹脂、メタクリルスチレン樹脂やABS樹脂などのスチレン系樹脂なども、成形性、耐久性、耐薬品性の全て或いは一部に関してその性能は多少劣るものの、ハンドル10の材料として使用することは可能である。
【0028】
歯ブラシ1のヘッド部11の形状は特に限定されるものではないが、図示した実施の形態では、 図3〜図6に示すように、四隅を切り落としたほぼ矩形状で、首部13側から先端部に向かって略同一の厚さtを有する平板状であり、このヘッド部11における毛束2が植設された植毛面aの裏面側bは首部13の下面側に略面一に連なる一方、植毛面a側は、植毛面aから段差なく滑らかに連続し、首部13側に向かって内向きに湾曲した弧状の傾斜面cを介して首部13に連結されている。
【0029】
ヘッド部11の厚さtは、1.5mm以上4mm以下、好ましくは1.5mm以上3mm以下である。また、弧状の傾斜面cは、その曲率半径Rがヘッド部11の厚さtよりやや大きいか、ヘッド部11の厚さtと略同一であることが好ましく、1.5mm以上4mm以下が好ましく、更に好ましくは1.5mm以上3mm以下である。
【0030】
前記のように歯ブラシ1における、ヘッド部11と首部13との間に形成された弧状の傾斜面cの曲率半径Rが、ヘッド部11の厚さtよりもやや大きいか、ヘッド部11の厚さtと略同一であり、首部13におけるヘッド部11に連なる連設部分dの厚さTとヘッド部11の厚さの差とほぼ同じである場合には、傾斜面cは、そのヘッド部11側においては、水平な植毛面aに段差無く滑らかに連続する一方、首部13側は略垂直に切り立った形状をしている。ヘッド部11と首部13との間が、前記のような形状の傾斜面cを介して連結されていることで、ヘッド部11の全体を均一に薄く形成する一方で、ブラシ部3と首部13との間がブラッシング時に繰り返し屈曲されても変形せず、腰があり、充分な刷掃性を備える。
【0031】
ヘッド部11の幅wの長さには特に制限はないが、余り広すぎると口腔内での操作性を損ねることから、5mm以上15mm以下程度とすることが好ましく、更に好ましくは5mm以上11.5mm以下である。また、首部13におけるヘッド部11に連なる部分dの厚さTは、ヘッド部11の厚さtよりも少なくとも1.5mm以上厚く、ヘッド部11の厚さtの略2倍であることが好ましい。従って、首部13におけるヘッド部11に連なる部分dの厚さTは、好ましくは3mm以上8mm以下であり、更に好ましくは3mm以上6mm以下である。ヘッド部11の厚さt、幅w及び首部13におけるヘッド部11に連なる部分dの厚さTが前記の範囲より大きくなるほど、歯ブラシ1におけるブラシ部3周辺が大型化して、口腔内での操作性を低下させる。一方、前記の範囲以上の小型化は、ブラシ部3が小さくなりすぎて、刷掃効率の低下に繋がるので好ましくないし、ヘッド部11が1.5mm以下となると毛束2の抜毛強度が不足する場合がでてくる。
【0032】
また、ブラシ部3を構成する、ヘッド部11に植設される毛束2の材料としては特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン、アラミド樹脂等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂、その他、従来公知の熱可塑性樹脂フィラメントを用いることができ、さらに、0.18mm以下の直径を有するフィラメントや、異形フィラメント、軟質フィラメント、複合材質フィラメント等も用いることができる。
【0033】
毛束2の植毛面aからの長さ、即ち毛丈(図5に示すH)は特に限定されず、通常の歯ブラシ1と同等でよい。毛束2の毛丈Hが長すぎると毛束2の腰が弱くなり、刷掃性が低下する傾向にあり、その反対に毛丈Hが短すぎると腰が強く成りすぎて硬くなり、歯茎などに対する刺激が強く成りすぎるおそれがある。従って、フィラメントの材質や太さにもよるが、5mm以上13mm以下である。しかし、本実施の形態の歯ブラシ1では、毛束2が植設されたヘッド部11の厚さtが首部13側から先端部に向かって略同一で、その厚さtが首部13の厚さTの約2分の1である1.5mm以上4mm以下と極めて薄肉であるうえに、植毛面aの裏面側bが首部13の下面側に略面一に連なっている。即ち、植毛面aは首部13の上面側から首部13の厚さTの約2分の1、即ちヘッド部11の厚さtと同じだけ下がった段落ち状態にある。このため、首部13の上面側から突出する毛束2の長さ(図5に示すh)は、毛束の毛丈Hが同じであっても、植毛面が首部13の上面と同じ高さである従来の歯ブラシ1に比べて、前記段落ちしている分だけ短くなり、口腔内でのブラシ部3の操作性に優れている。なお、図例の歯ブラシ1では、ブラシ部3を構成する毛束2の数は20個であるが、特に限定はない。また、各毛束2を構成するフィラメントの本数に特に限定はなく、フィラメントの材料や太さ等により適宜決定される。
【0034】
更に、首部13の横断面形状も特に限定されるものではないが、図7に示すように、ハンドル10の軸方向に直交する断面の形状は略円形であることが、口腔内における操作性の観点から好ましく、特に、図7に示す、ヘッド部11に連なる部分dの断面形状が円形の場合には、ヘッド部11と首部13との連結部の機械的強度や耐久性、ひいては歯ブラシ1の機械的強度や耐久性の点からも好ましい。従って 図4に示す、首部13におけるヘッド部11側の幅Wも、特に限定されるものではないが、その厚さTと同様に、3mm以上8mm以下、更には3mm以上6mm以下が好ましい。
【0035】
また、図例の歯ブラシ1では、首部13から柄部12に向かって、その断面形状が次第に角張るように形成されており、例えば四隅を丸くした四角形状に形成されている。ところで、歯科医が勧める歯磨き法として、スクラビング法、バス法などがある。スクラビング法は、歯ブラシ1の毛先を歯の面に垂直に当てて小刻みに振動させるようにして歯磨きを行う方法である。また、バス法は、歯ブラシ1を斜めに当てて小刻みに振動させるようにして歯磨きを行う方法である。これらの歯磨き方法は、ペングリップにより歯ブラシ1を握って行われるのであるが、これらの方法で正しく歯を磨くには、歯ブラシ1の後側、即ち、柄部12のうちでも、ブラシ部3があるヘッド部11から離れた側を握って、歯の面にブラシ部3を軽く当てて歯磨きを行うことがよいとされている。本実施の形態の歯ブラシ1においては、前記のように、首部13の上面側から突出する毛束2の長さ(図5に示すh)が、植毛面が首部13の上面と同じ高さにある従来の歯ブラシ1に比べて段落ちしている分だけ短くなり、毛束2の毛先を歯の面に強く当てると首部13の上面が歯の面に当たりやすく、毛束2を必要以上に強く歯の面に当てることが抑制される。更に、図示した実施の形態における歯ブラシ1においては、 図1、図2に示すように、長さ方向の略中央部に環状の溝部14が形成されているので、ハンドル10における、ブラシ部3から離れた部分を正しくペングリップで握ることができ、歯の面に軽くブラシ部3を当てて、効果的なスクラビング法、バス法による歯磨きを行うことができる。
【0036】
次に、前記歯ブラシ1の製造装置を簡単に説明すると、図8に示すように、ハンドル10の厚さ方向の途中部を合せ面となした1組の金型20、21が設けられ、両金型20、21を型閉じして形成される成形空間22内においてハンドル10を射出成形できるように構成されている。ハンドル10のブラシ部3を成形する第1金型20のヘッド部11に対応する位置には、毛束2を装填可能な複数の毛束保持孔23が歯ブラシ1における毛束2の配設位置に対応させて形成され、第1金型20の合せ面とは反対側には毛束保持孔23に装填した毛束2の端部を押える押さえ板24が設けられている。温度制御可能なヒータ等(図示外)を内蔵した熱板25が、第1金型20の合せ面側に毛束2の基端部に対面させて配置可能に設けられ、第1金型20に対面する熱板25の表面には、溶融したフィラメントに対する非粘着性を有する樹脂からなるコーティング層26が形成されている。
【0037】
次に、前記製造装置を用いた歯ブラシ1を製造方法について説明する。
先ず、図8(a)に示すように、熱可塑性樹脂で作られた複数本のフィラメントを束ねてなる複数の毛束2を作製し、これら複数の毛束2を第1金型20の各毛束保持孔23に挿入するとともに一定長さに切断し、その後押さえ板24で毛束2の先端部を押えて、押さえ板24とは反対側へ毛束2を突出させる。
【0038】
次に、図8(b)に示すように、フィラメントの溶融温度以上の設定温度に加熱した熱板25を、毛束保持孔23に装填した毛束2に略直交するように、該毛束2の基端部に対面させて配置し、図8(c)に示すように、熱板25を毛束2の基端部に近づけて、毛束2の基端部に溶融塊4を形成する。例えば、450℃以上700℃以下の設定温度に温度調整した熱板25を、2秒以上8秒以下の設定の時間だけ毛束2の基端部にゆっくりと近づけて、厚さ0.2mm以上1mm以下の溶融塊4を形成することになる。
【0039】
次に、図8(d)に示すように、毛束2の基端部に溶融塊4を形成した後、熱板25を取り除き、第1金型20と第2金型21とを型閉じし、成形空間22内に溶融塊4を配置させた状態で、図示外の射出シリンダーから、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を、成形温度を220℃以上250℃以下に設定した状態で成形空間22内に射出して、成形空間22内において透明なハンドル10を成形するとともに、複数の毛束2をヘッド部11に脱落不能に一体的に植設する。
【0040】
こうして、成形空間22内においてハンドル10を射出成形した後、金型20、21を型開きして成形品を離型し、歯ブラシ1を得ることになる。
【0041】
この製造方法では、固有粘度が0.7dl/g以下のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いてハンドル10を成形しているので、ヘッド部11が厚さ1.5mm以上4mm以下の薄型ヘッドであっても、成形温度を高く設定することなく、ヘッド部11の成形空間22の先端部まで樹脂材料を充填させることができる。しかも、成形温度を高く設定することなくハンドル10を成形できるので、成形空間22内へ射出した樹脂の熱により溶融塊4が溶融することを防止でき、溶融塊4が溶融することによる製造不良も確実に防止することができる。しかも、伸度が200%以上なので、歯ブラシ1としての耐久性、即ちブラッシング時における繰り返し荷重に対する耐久性を十分に確保できる。
【0042】
次に、前記歯ブラシ1の構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
図9、図10(f)に示す歯ブラシ1Aのように、前記ヘッド部11に代えて、ハンドル10Aに一体成形されるヘッド本体部30と、ハンドル10Aとは別部材からなり、ヘッド本体部30の植毛面側に積層状に設けたカバー部材31とからなるヘッド部11Aを備えさせることもできる。この歯ブラシ1Aを成形する際には、図10(e)に示すように、ヘッド部11Aを成形する成形空間22A内にカバー部材31を配置させるとともに、カバー部材31の植毛孔32を挿通するように、複数のフィラメントを束ねてなる毛束2を配置させ、毛束2の基端部に溶融塊4を形成し、この溶融塊4を成形空間22A内に配置させた状態で、成形空間22A内へ合成樹脂材料を射出してハンドル10Aを成形するとともに、複数の毛束2をヘッド部11Aに脱落不能に一体的に植設することになる。
【0043】
この歯ブラシ1Aにおいて、ハンドル10Aやフィラメントを構成する合成樹脂材料は、前記実施の形態と同様のものを採用できる。また、カバー部材31の材料としては、合成樹脂や熱可塑性エラストマーを採用することができ、特にハンドル10Aの材料と相溶性を有する合成樹脂や熱可塑性エラストマーを好適に採用できる。カバー部材31の厚さは、薄すぎるとフィラメント間の隙間を通って溶融樹脂がカバー部材31外へ流出して、成形不良が発生し、厚すぎると口腔内におけるブラシ部3の操作性が低下するので、0.5以上3.5mm以下に設定することが好ましい。この歯ブラシ1Aでは、ハンドル10Aに一体成形するヘッド本体部30の厚さを、1.5mm以上4mm以下に設定することができ、前記実施の形態の歯ブラシ1Aのヘッド部11Aよりも、カバー部材31の厚さ分だけヘッド部11Aの厚さが厚くなるが、カバー部材31により、ヘッド部11Aに対する溶融塊4の植設深度を十分に確保して毛束2の直立性を維持しつつ、ハンドル10Aの成形時、金型20A、21Aに形成した毛束保持孔23A側へ、合成樹脂材料が漏れ出すことを防止できる。
【0044】
次に、前記歯ブラシ1Aの製造方法について説明する。
図10に示すように、歯ブラシ1Aを成形するための1組の金型20A、21Aが設けられ、ブラシ部3側を成形する第1金型20Aのヘッド部11Aに対応する位置には、カバー部材31を装着するための凹部40が形成されるとともに、毛束2を装填可能な複数の毛束保持孔23Aが歯ブラシ1Aにおける毛束2の配列に対応させて形成され、各毛束保持孔23Aの周囲にはカバー部材31の植毛孔32の環状凹部42に嵌合する筒状凸部41が形成されている。
【0045】
そして、歯ブラシ1Aを製造する際には、先ず、図10(a)に示すように、カバー部材31の植毛孔32と第1金型20Aの毛束保持孔23Aとを一致させ、植毛孔32周囲の環状凹部42と毛束保持孔23A周囲の筒状凸部41とを凹凸嵌合させて、第1金型20Aの植毛部カバー装着用凹部40内にカバー部材31をほぼ密接状態で装着し、カバー部材31の合せ面側に、カッティングプレート43を密接固定する。そして、図10(b)に示すように、複数のフィラメントを束ねてなる毛束2を、カッティングプレート43の毛束挿通孔44とカバー部材31の植毛孔32と第1金型20Aの毛束保持孔23Aに装填する。
【0046】
次に、図10(c)に示すように、カッティングプレート43の外面に沿ってカッター45を移動させて、カッター45により各毛束2を切断することで、成形空間22A内への毛束2の突出長さを揃える。
【0047】
次に、カッティングプレート43を取り外し、以降は前記実施の形態と同様に、熱板25を近づけるなどして、図10(d)に示すように、各毛束2の基端部に溶融塊4を形成し、図10(e)に示すように、第1金型20Aと第2金型21Aとを型閉じして、成形空間22A内に溶融塊4を配置させた状態で、図示外の射出シリンダーから、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を成形空間22A内に、成形温度を220℃以上250℃以下に設定した状態で射出し、成形空間22A内においてハンドル10Aを成形するとともに、複数の毛束2をヘッド部11Aに脱落不能に一体的に植設し、成形品の冷却後、図10(f)に示すように、金型20A、21Aを型開きして成形品を離型し、歯ブラシ1Aを得ることになる。
【0048】
この製造方法では、前記実施の形態と同様に、固有粘度が0.7dl/g以下のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いてハンドル10Aを成形するので、ヘッド本体部30の厚さが1.5mm以上4mm以下の薄型であっても、成形温度を高く設定することなく、ヘッド部11Aの成形空間22Aの先端部まで樹脂材料を充填させることができる。しかも、成形温度を高く設定することなくハンドル10Aを成形できるので、成形空間22A内へ射出した樹脂により溶融塊4が溶融することを防止でき、溶融塊4が溶融することによる製造不良も確実に防止することができる。しかも、伸度が200%以上なので、歯ブラシ1Aとしての耐久性、即ちブラッシング時における繰り返し荷重に対する耐久性を十分に確保できる。
【0049】
尚、図11(a)に示すように、毛束2の基端部に溶融塊4を形成した後、矢印の方向へ毛束2を押し込んで、溶融塊4をカバー部材31に当接させ、その後、図11(b)に示すように、成形空間22A内に合成樹脂材料を射出することもできる。この場合には、合成樹脂材料の射出成形時に、溶融塊4が栓になって、カバー部材31の植毛孔32側への溶融樹脂の流入を効果的に防止できるので、溶融樹脂が毛束2から外部へ食み出すことによる成形不良を一層効果的に防止できる。また、図12(a)に示すように、第1金型20Aに形成した植毛部カバー装着用凹部40をカバー部材31よりもやや大きな外形寸法に形成して、図12(b)に示す歯ブラシ1Bのヘッド部11Bのように、ヘッド本体部30Bにカバー部材31の外周部を囲繞する結合部33を一体的に設けると、カバー部材31とヘッド本体部30Bとの結合強度を向上できるので好ましい。
【実施例】
【0050】
(実施例1〜3、比較例1〜7)
ハンドル10の材料として、表1に示すポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET)7種類、メタクリルスチレン樹脂(MS)、ABS樹脂(ABS)、ポリプロピレン樹脂(PP)の計10種類の合成樹脂材料を用いた。これらの合成樹脂材料の物性は、表2に示す通りであった。また、毛束2として、直径が0.19mmのナイロン製のフィラメントを50本束ねてなる毛束2を用いた。そして、図8に示すように、毛束2の基端部に直径が1.7mm〜2mmで厚さが0.2mm〜1mmの溶融塊4を形成し、この溶融塊4を成形空間22内に配置させた状態で、表2に示す成形温度で、成形空間22内へ合成樹脂材料を射出してハンドル10を成形するとともに、複数の毛束2をヘッド部11に脱落不能に一体的に植設して、図1〜図8に示すような形状で、各部の寸法が図1、図3〜図5に括弧書きで示した寸法の10種類の歯ブラシ1を作製した。尚、成形温度は、ヘッド部11の先端部においても合成樹脂材料の充填不良が発生せず、しかもできるだけ低い成形温度となるように、予め異なる複数の成形温度で成形を行って設定した。
【0051】
【表1】

【0052】
そして、これら10種類の歯ブラシ1Aに対して、成形可否の評価と、耐久性の評価を行った。成形成否の評価は、成形した歯ブラシ1を目視して、毛束2の倒れがなく、溶融塊4が溶融して変形していないものを「可」とし、毛束2が倒れていたり、溶融塊4が溶融して変形していたりしたものを「不可」とした。また、耐久性の評価は、次のような耐久性試験を行って評価した。即ち、ハンドル10の柄部12を固定保持して、ハンドル10を略水平な片持ち状に支持した状態で、ヘッド部11の中心に1kgの応力を1秒間に4回の周期で加えて、最終的に首部13が破断するまでに加えた応力の回数を測定し、破断するまでの回数が、30000回以下のものを「×」とし、30000回を超え且つ60000回以下のものを「○」とし、60000回を超えるものを「◎」とした。また、成形可否の評価が「不可」の場合には、製品として使用できないものなので、耐久性試験は行わなかった。成形可否と、耐久性試験の試験結果及び耐久性の評価を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、同じポリエチレンテレフタレート系樹脂であっても、固有粘度が0.7dl/gを越えるPET(E)、PET(F)及びPET(G)は、固有粘度が0.7dl/g以下であるPET(A)、PET(B)及びPET(C)と比較して、成形温度が高く250℃以上に設定する必要があることから、射出した溶融樹脂の温度で溶融塊4が溶融して変形するとともに毛束2に倒れが発生し、製品として成立しない歯ブラシしか成形できなかった。このため、成形温度は、250℃以下に設定するのが好ましく、250℃以下220℃以上に設定できることが判る。
【0055】
また、PET(D)は成形は可能であったものの、伸度が100%未満であるため、伸度が200%以上のPET(A)、PET(B)及びPET(C)と比較して、耐久性試験の評価は著しく劣るものとなった。
【0056】
更に、ポリエチレンテレフタレートとしては、固有粘度と伸度を適宜調整することで、顕著に優れた効果が奏されるが、結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂からなるPET(A)は、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂からなるPET(C)と比較して、耐久性に優れているので、最も好ましい実施の形態であることが判る。
【0057】
(試験例)
次に、実施例1で得られた無平線歯ブラシ、及びPET(A)とPET(E)を用いて作製された平線歯ブラシを用いて、耐熱性試験を行った。
試験は、JIS S 3016-1995に準じて行い、70℃で熱処理を行った後でブラシ部の外観変化による観察を行った。その評価は、外観異常のないものを「◎」として、異常のあったものを「×」とした。得られた結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表3の結果より、PET(A)は平線歯ブラシとした場合には、耐熱性が低いことがわかる。一方、PET(A)は無平線歯ブラシとすることで、もともと優れた耐熱性を示すPET(E)を用いた平線歯ブラシと比べても、優れた耐熱性が奏されていることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1 歯ブラシ 2 毛束
3 ブラシ部 4 溶融塊
10 ハンドル 11 ヘッド部
12 柄部 13 首部
20 第1金型 21 第2金型
22 成形空間 23 毛束保持孔
24 押さえ板 25 熱板
26 コーティング層
a 植毛面 b 裏面側
c 傾斜面 d 連設部分
1A 歯ブラシ 10A ハンドル
11A ヘッド部 21A 第1金型
22A 成形空間 23A 毛束保持孔
30 ヘッド本体部 31 カバー部材
32 植毛孔
1B 歯ブラシ 11B ヘッド部
30B ヘッド本体部 33 結合部
40 凹部 41 筒状凸部
42 環状凹部 43 カッティングプレート
44 毛束挿通孔 45 カッター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の毛束を植設したヘッド部と、持ち手としての柄部と、ヘッド部と柄部とを連結する首部とからなるハンドルを有し、毛束の基端部に溶融塊を形成して、この溶融塊をヘッド部に埋設した状態で毛束を固定し、前記ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下である歯ブラシであって、
前記ハンドルの材料として、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた、
ことを特徴とする透明なハンドルの歯ブラシ。
【請求項2】
前記ハンドルの材料として、結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
複数の毛束を植設したヘッド部と、持ち手としての柄部と、ヘッド部と柄部とを連結する首部とを有するハンドルを成形するための成形空間を備えた1対の金型を用い、前記ヘッド部の厚さが1.5mm以上4mm以下であって、複数本のフィラメントを束ねてなる毛束を、一方の金型のヘッド部に対応する位置に複数装着し、これら複数の毛束の基端部を加熱して基端部に溶融塊を形成してから、金型を型閉じして、溶融塊を成形空間内に配置させた状態で、固有粘度が0.7dl/g以下で、伸度が200%以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を成形空間内に射出して、成形空間内において透明なハンドルを成形するとともに、複数の毛束をヘッド部に脱落不能に一体的に植設することを特徴とする歯ブラシの製造方法。
【請求項4】
前記ハンドルの材料として、結晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた請求項3記載の歯ブラシの製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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