歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシ
【課題】細部清掃性に優れると同時に、毛腰が強く刷掃力があり、また先端部の裂けを防止して耐久性を高め、汚れの付着も防止できる歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシを提供せんとする。
【解決手段】芯部2とこれを囲む鞘部3とよりなる芯鞘構造を有し、芯部2及び鞘部3がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、芯部2の合成樹脂が鞘部3の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、先端側であるフィラメント先端部10に、薬液溶解処理によって鞘部3から露出した芯部2よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成した。芯部2の断面形状は多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって鞘部3から露出する先端側が各葉部ごとに分岐して分岐部4を形成する。
【解決手段】芯部2とこれを囲む鞘部3とよりなる芯鞘構造を有し、芯部2及び鞘部3がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、芯部2の合成樹脂が鞘部3の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、先端側であるフィラメント先端部10に、薬液溶解処理によって鞘部3から露出した芯部2よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成した。芯部2の断面形状は多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって鞘部3から露出する先端側が各葉部ごとに分岐して分岐部4を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシ用フィラメントに係わり、更に詳しくは、細部清掃性に優れ、汚れ等が付着しにくく、耐久性にも優れる歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシのブラシ部に植設するフィラメントの歯間への進入性をよくする方法として、薬液溶解処理により先端側に先鋭テーパーを付けるものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、テーパーの先細り効果により毛腰が弱くなり、歯牙表面の刷掃効果が低下して刷掃実感も乏しくなり、耐久性も低下するといった問題があった。これを解消するため、ポリエステル樹脂製の鞘部にポリアミド樹脂製の2〜5の芯部を散在させ、アルカリ性溶解液に漬けて鞘部を溶かすことによりフィラメント先端側に芯部のみ露出させて複数の分岐部を形成したものが提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
このような複数の分岐部をフィラメント先端部に設けたものでは、一定の毛腰の強さを維持しつつ上記歯間への進入性を高め、清掃性、耐久性を高めることが可能となる。しかしながら、特許文献2のものは芯部を溶かさずに残すことで分岐部を形成することから、ポリアミド樹脂製の芯部からなる各分岐部はテーパー状の先鋭形状のものではなく、細部清掃性に一定の限界があった。
【0004】
これに対し、フィラメント自体を薬液溶解性のポリエステル樹脂等で構成し、その断面形状を多葉形等の異型断面形状に設定することにより、薬液溶解処理によりフィラメント先端側が各葉部ごとに分岐した複数のテーパー状分岐部が形成される構造の歯ブラシ用フィラメントが提案されている(例えば、特許文献3〜7参照。)。しかし、このような溶解処理により分繊される異型断面形状のフィラメントは、葉部同士の接合部分が幅狭になり、使用中に分岐部に力が作用することで分岐部の基端側で上記接合部分から裂けてしまい、分岐が進行してしまう結果、使用できなくなるといった耐久性の問題があった。また、このような異型断面形状のフィラメントの場合、フィラメントの側面には上記葉部同士の接合部分に長手方向に沿った凹溝(凹部)が存在することとなり、特に汚れが溜まりやすいフィラメント基端側で当該凹溝内に汚れが溜まることが避けられないという衛生上の問題もある。更に、異型断面形状であるため方向によっては毛腰が弱くなるという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−141923号公報
【特許文献2】特開平9−322821号公報
【特許文献3】特開2001−169827号公報
【特許文献4】特開2002−58538号公報
【特許文献5】特開2003−144229号公報
【特許文献6】特開2003−199626号公報
【特許文献7】特開2003−339445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、細部清掃性に優れると同時に、毛腰が強く刷掃力があり、また先端部の裂けを防止して耐久性を高め、汚れの付着も防止できる歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、単又は複数の芯部とこれを囲む鞘部とよりなる芯鞘構造を有し、前記芯部及び鞘部がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、前記芯部の合成樹脂が前記鞘部の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、少なくとも一方の端部に、薬液溶解処理によって前記鞘部から露出した前記芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を形成してなることを特徴とする歯ブラシ用フィラメントを構成した。
【0008】
ここで、前記芯部の断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成したものが好ましい。
【0009】
特に、前記芯部の断面形状が二以上の略同形葉部からなる多葉形であるものが好ましい。
【0010】
また、より具体的には、前記芯部の断面形状が、特定の葉部の周りに複数の側設葉部が連結してなる多葉形であるものが好ましい実施例である。
【0011】
また、前記芯部の合成樹脂と前記鞘部の合成樹脂が互いに同種系の樹脂であることが好ましい。
【0012】
特に、前記同種系の樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記歯ブラシ用フィラメントを植設したことを特徴とする歯ブラシをも提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本願発明に係る歯ブラシ用フィラメント及びこれを備えた歯ブラシによれば、フィラメントの少なくとも一方の端部に芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を有しているため細部清掃性に優れるとともに、当該分岐部を構成している芯部が薬液溶解速度の早い合成樹脂よりなる鞘部によって外側から包み込むように保護されているため、先端部の裂けが防止され、耐久性が向上することとなる。また、フィラメント側面となる鞘部の側面には凹部が不要であり、汚れの付着が防止されるとともに、先端部以外は当該鞘部により保護された非分岐部であり、どの方向にも毛腰が強く、優れた刷掃力を発揮する。
【0015】
また、芯部断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成したので、当該多葉形又は多葉状の芯部の葉部間の凹部に鞘部が嵌り込むように設けられることとなり、芯部と鞘部の接合強度が向上し、分岐部の裂けや鞘部の剥がれがより生じにくい耐久性に優れたフィラメントとなる。
【0016】
また、芯部の合成樹脂と鞘部の合成樹脂が互いに同種系の樹脂であるので、相溶性により互いの接合強度が向上し、同じく分岐部の裂けや鞘部の剥がれがより生じにくい耐久性に優れたフィラメントとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るフィラメント1を植設した歯ブラシ5の全体構成を示す説明図であり、図3〜5は本発明のフィラメントの第1実施形態、図6、7は第2実施形態、図8〜11は第3実施形態を示し、図中符号1はフィラメント、2は芯部、3は鞘部、4は分岐部をそれぞれ示している。
【0019】
本発明の歯ブラシ用フィラメント1は、図3、4に示すように、芯部2とこれを囲む鞘部3とよりなる芯鞘構造を有し、芯部2及び鞘部3がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、芯部2の合成樹脂が鞘部3の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、先端側であるフィラメント先端部10に、薬液溶解処理によって鞘部3から露出した芯部2よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成したものであり、分岐部4の存在により細部清掃性に優れると同時に、鞘部3で外層を保護していることから汚れ等が付着しにくく、分岐部4が裂けてしまうことも防止でき、耐久性にも優れたフィラメントである。
【0020】
図1、2は、本発明に係るフィラメント1を植設した歯ブラシ5を示しており、柄50の先端植毛部51にフィラメント1,…が群立して植毛されている。フィラメント1は、図3に示すように植毛状態における毛丈Hの約二倍より若干長い寸法Lに切断した後、その両端部にそれぞれ複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成したものであり、フィラメント1の長さLは好ましくは約25mm〜約35mmであるが、この範囲に限定するものではない。このように両端に分岐部4を形成したフィラメント1を、複数本ずつ束にして略中央で折り曲げ、その折り曲げ部を植毛部51に植毛することで図1に示す歯ブラシ5が形成される。なお、本実施形態ではフィラメント両端に分岐部4を形成しているが、一端のみ分岐部を設けて他端側を植毛部に埋設させるように植毛するものでもよい。また、一端のみ分岐部を設けて、他端側はそのまま或いは機械的研磨によりテーパー形状としたものを略中央で折り曲げて植毛するものでもよい。さらに、本実施形態では分岐部4を形成した後にフィラメントを植毛しているが、植毛後に溶解液に浸漬して先鋭テーパー状の分岐部4を形成するものでもよい。
【0021】
尚、フィラメントの植毛方法については、従来からの方法を広く用いることができ、例えばフィラメントを10〜40本束ねて中央位置に平線を押し当て、フィラメント束をU字変形させながら植毛穴に打ち込む方法や、このような平線を用いず、フィラメント基端側を溶融して植毛穴に埋設接合させる方法などを用いることができる。また、歯ブラシ5の柄50は一例を示すものであり、これに限定するものではなく様々な形でよい。また、植毛部51のフィラメント1の植毛孔の配置についても様々な配置形態を採用できる。また、植毛部51には、すべてのフィラメントを本発明に係るフィラメント1としてもよいし、そのなかで形態の異なるものを混在させてもよい。また一部のみ本発明に係るフィラメント1を採用し、他を従来からのフィラメントとしてもよく、目的に応じて使い分けできる。
【0022】
まず、図3〜5に基づき、本発明の歯ブラシ用フィラメント1の第1実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態のフィラメント1は、図4(f)のV−V断面図に示すように芯部2の断面
形状が葉部20を複数有する多葉形であり、その周囲を囲むように鞘部3が設けられ、全体として略円形の断面形状を有している。より詳しくは、芯部2の断面形状は二以上の略同形葉部20からなる多葉形であって本例では同じ大きさ(断面積)の3つの葉部20が集合一体化した形である。このような同じ形状大きさの複数の葉部20よりなる多葉形断面の芯部2は、図4(a),(b)に示すように薬液溶解処理により鞘部3から露出する先端側が各葉部20ごとに分岐し、これによりほぼ同一長さの複数の分岐部4がフィラメント先端部10に形成されることとなる。
【0024】
すなわち、フィラメント先端側の分岐部4の作製は、まず図4(f)の芯鞘構造を有する多数のフィラメントを所定長さに切断し、耐薬液溶解性のフィルムを巻いて束ね、それを溶解液(薬液)に浸漬する。芯部2及び鞘部3はいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、同一薬液に対する溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため、フィルム端部から浸入した溶解液によって芯部2と鞘部3が同時に溶け出すものの徐々に芯部2が露出し、露出した芯部2は各葉部20ごとに複数に分岐して分岐部4(分岐毛)が形成される。分岐部4は先鋭なテーパー状に形成され、芯部2が露出している鞘部3の端部もテーパー状に形成されることとなる。
【0025】
芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂は、互いに同種系の樹脂であれば、相溶性による相互の密着性に優れ、鞘部3の先端側からの剥がれや分岐部4の使用による裂けを防止できる。たとえば、アルカリ性溶解液を用いる場合には、芯部2と鞘部3としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエステルエラストマー、またはこれらの混合樹脂を、薬液溶解性に応じて適宜組み合わせて用いることができる。アルカリ性溶解液としてはポリエステル樹脂の場合、カセイソーダ水溶液を用いることが好ましい。また、芯部2と鞘部3をポリアミド樹脂の組み合わせとし、酸性溶解液を用いて分岐部を作製することもできる。その他の薬液溶解性樹脂の組み合わせを用いることも勿論可能である。
【0026】
ほぼ同一長さの複数の分岐部4を形成する芯部2の構成としては、本例のように3つの葉部20からなるものに何ら限定されず、例えば図5(a),(b)に示すように葉部20が4つ以上又は2つのものでも同様に分岐させることができ、図5(c)に示すように多葉断面の芯部2を2つ以上組み合わせて、各芯部2の分岐部を合わせた複数(図示したものでは各芯部2で2つの分岐部が形成され、合計4つの分岐部となる)の分岐部をフィラメント先端部に形成するものも好ましい実施例である。また、図5(d)に示すように単葉断面の芯部2Aと、これとほぼ同一形状の葉部20、20を有する多葉断面の芯部2Bを組み合わせ、芯部2Aによる先端露出した部分と芯部2Bにより形成される各分岐部を合わせた複数(図示したものでは芯部2Bで2つの分岐部が形成され、合計3つの分岐部となる)の分岐部をフィラメント先端部に形成するものも好ましい実施例である。なお、本例ではいずれも多葉断面形状は複数の葉部20がいずれも略円形で、互いに円同士が一部重なるように連結されているが、中間の連結部を介して円同士が繋がるように構成してもよい。また、葉部20の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。
【0027】
鞘部3は、芯部2と中心軸が共通する同心円状の外形を有し、芯部2の周りを隙間なく包み込んだ形状であり、該鞘部3の存在によりフィラメントの断面形状としては略円形断面形状とされている。芯部2は多葉断面形状であり、鞘部3が無いと芯部2の外周面には葉部20、20間に凹部23が現れるが、この凹部23がフィラメント側面に露出していると歯ブラシに植毛して使用した際、汚れがたまり易い基端側では当該側面の凹部23に汚れが溜まりやすく、衛生上好ましくない。本発明では鞘部3の存在により該芯部2の凹部23がフィラメント先端部10を除いて隠れているため、汚れの付着の心配がなく衛生上も好ましいものとなる。
【0028】
本例では鞘部3の外形が円形とされているがこれに何ら限定されず、多角形形状など汚れが付着する可能性のある凹部がない形状であれば種々の形状を採用することができる。鞘部3のうち芯部2の葉部20、20間の凹部23を囲む部分の肉厚は厚くなり、したがって鞘部3先端のテーパー部はこの部分が長く且つ細くなるが、あまりに細長いと剥がれやすくなるため、この部分の肉厚が厚くなりすぎない形状が好ましい。図10の(a)は三角形状にしたもの、(b)は四角形状にしたもの、(c)は六角形状にしたもの、(d)は三角形状の角部を芯部2の葉部外形に平行なR形状を付したものをそれぞれ例示しているが、いずれも図示しているとおり、上記した凹部23を囲む部分の肉厚が厚くなりすぎないように多角形の角部がこの部分に位置しないように形成することが好ましい。
【0029】
フィラメント先端部10の分岐部4の高さは、図4(a)に示すように略同じ長さとなり、約1〜5mm程度が好ましい。鞘部3から露出した芯部2のすべてが分岐するのではなく、露出基端側の鞘部3との境界部分には分岐していない未分岐部24が残存していることが毛腰強度及び裂け防止の点で好ましいが、本発明はこれに何ら限定されず、境界部分から分岐しているものでも勿論よい。これらは芯部2と鞘部3の合成樹脂の選定、溶解液の選定、浸漬時間、溶解液濃度、温度、またはフィラメント断面の直径や歯ブラシにおける毛丈(植毛長さ)等により各部の溶解速度を調整することにより適宜設定することが可能である。
【0030】
次に、図6、7に基づき、本発明の第2実施形態について説明する。
【0031】
本実施形態のフィラメント1は、図6(e)のIX−IX断面図に示すように、鞘部3中に
先端が分岐しない単葉断面の芯部2を複数互いに間隔を空けて配置させた芯鞘構造を有し、本例では同じ大きさ(断面積)の3つの円形断面の芯部2が均等配置され、鞘部3がこれらを隙間なく包み込み、全体として略円形の断面形状を有している。各芯部2は薬液溶解処理により先端側がテーパー状になるが分岐しない。しかしこれら芯部2が複数先端側に露出することで各芯部2自体がほぼ同一高さの分岐部4として機能することとなる。分岐部4を形成する方法は、第1実施形態と同様であり、薬液溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため徐々に芯部2が先端側に露出して分岐部4(分岐毛)となる。芯部2よりなる分岐部4は同じく先鋭なテーパー状に形成され、鞘部3の端部も同じくテーパー状に形成される。芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂についても、第1実施形態と同様、各種の組み合わせが採用できる。
【0032】
ほぼ同一長さの複数の分岐部4を形成する芯部2は、本例のように3つからなるものに何ら限定されず、例えば図7(a)〜(c)に示すように芯部2が2つ又は3つ以上のものでもよく、特に(c)に示すように断面形状が異なる大きさ(断面積)の芯部2を組み合わせ、比較的大きな断面形状の芯部2から太く長い分岐部4を形成し、かつ比較的小さな断面形状の芯部2により細く短い分岐部4を形成してなるものも好ましい実施例である。各芯部2の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。また、鞘部3の外形も円形に限らず、多角形形状など種々の形状を採用することができる。その他の構成については上記第1実施形態と基本的に同じであり、同一構造については同一符号を付してその説明を省略する。
【0033】
次に、図8〜11に基づき、本発明の第3実施形態について説明する。
【0034】
本実施形態のフィラメント1は、図8(d)のXII−XII断面図に示すように、芯部2
の断面形状が特定の葉部21の周りに断面形状の大きさ(断面積)の異なる複数の側設葉部22が連結した多葉形であり、その周囲を囲むように鞘部3が設けられ、全体として略円形の断面形状を有している。より詳しくは、芯部2の断面形状は中心部に比較的断面形状の大きい特定葉部21を有し、その周りに比較的小さい断面形状の側設葉部22が均等に4つ配置された形である。分岐部4を形成する方法は、第1実施形態と同様であり、薬液溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため徐々に芯部2が先端側に露出して分岐部4(分岐毛)となる。芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂についても、第1実施形態と同様、各種の組み合わせが採用できる。本実施形態においても鞘部3から露出した芯部2のすべてが分岐しているのではなく、露出基端側の鞘部3との境界部分には分岐していない未分岐部24が残存していることが毛腰強度及び裂け防止の点で好ましい。
【0035】
本例のような大きさの異なる特定葉部21と側設葉部22よりなる多葉形断面の芯部2は、図8(a),(b)に示すように薬液溶解処理により鞘部3から露出する先端側が各葉部21、22ごとに分岐し、特定葉部21よりなる比較的長く太い1つの分岐部4を中心としてその周囲に側設葉部22よりなる比較的短く細い4つの分岐部4がフィラメント先端部10に形成されることとなる。このようにフィラメント先端部10のテーパー状先端分岐部4の長さが異なると、歯ブラシとして使用した際、毛先が歯牙表面に留まることなく、長い分岐部4が歯間や臼歯頂部の深い窪みや歯周ポケットなどへ進入して刷掃する一方、短い分岐部4は歯牙表面とその凹凸部などを刷掃し、複雑な凹凸や隙間が混在する歯列と歯牙表面をすべて余すところ無く刷掃することができる。
【0036】
芯部2の多葉形断面を構成する特定葉部21と側設葉部22の形態については、本例のように4つの側設葉部22を均等配置するものに何ら限定されず、例えば図9(a)、(b)に示すように側設葉部22を3つ又は2つ均等配置したものや5つ以上設けることもでき、(c)に示すように側設葉部22を偏った位置に配置してもよい。また、(d)に示すように側設葉部22を複数設けるのではなく1つのみ設けるものでもよい。更に、図9(e)〜(g)に示すように、特定葉部21を比較的小さい断面形状(断面積)とし、その周りに比較的大きい断面形状の側設葉部22を接合部6を介して独立に配置したものでもよい。これによれば、フィラメント先端部10に特定葉部21よりなる比較的短く細い分岐部4とその周囲に比較的長く太い分岐部4を形成することができる。ここでも芯部2は多葉断面形状であり、鞘部3が無いと芯部2の外周面には特定葉部21と側設葉部22の間、または側設葉部22同士の間に凹部23が現れるが、鞘部3の存在によりこれら凹部23がフィラメント先端部10を除いて隠れているため、汚れの付着の心配がなく衛生上も好ましいものとなる。
【0037】
本例ではいずれも特定葉部21、側設葉部22がいずれも略円形で、互いに円同士が一部重なるように連結されているが、第1実施形態と同様、中間の連結部を介して円同士が繋がるように構成してもよい。また、特定葉部21、側設葉部22の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。更には、各側設葉部22の断面形状も互いに異なる大きさ(断面積)とし、当該側設葉部22よりなる各分岐部4の長さを互いに異なるものとすることもできる。
【0038】
また、鞘部3の外形も円形に限らず、第1実施形態と同様、多角形形状など種々の形状を採用することができる。図10(e)は長方形状にしたもの、(f)はひし形状にしたもの、図11は扇形状にしたものをそれぞれ例示しているが、いずれも凹部23を囲む部分の肉厚が厚くなりすぎないように多角形の角部がこの部分に位置しないように形成することが好ましい。上記各例のとおり鞘部3の肉厚ができるだけ同じ程度になるように鞘部外形形状が設定されているのである。例えば図11のように扇形状にして芯部2の周囲の肉厚を同じ程度にすれば、図中(a)のとおり凹部23に対応する鞘部3先端のテーパー部は特別長くなることなく剥がれ等の心配も殆どない安定したものとなることが分かる。また、鞘部3の外形は芯部2と略同一形状とすることもできる。このとき、鞘部3の外形に形成される凹部は汚れが付着しない程度であることが好ましい。その他の構成については上記第1実施形態と基本的に同じであり、同一構造については同一符号を付してその説明を省略する。
【0039】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフィラメントを植設した歯ブラシを示す説明図。
【図2】同じく歯ブラシの先端植毛部の拡大説明図。
【図3】同じく歯ブラシ用フィラメントの説明図。
【図4】(a)は同じく歯ブラシ用フィラメントの先端部を示す説明図であり、(b)はそのI−I断面図、(c)はII−II断面図、(d)はIII−III断面図、(e)はIV−IV断面図、(f)はV−V断面図。
【図5】(a)〜(d)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図6】(a)は本発明の第2実施形態に係る歯ブラシ用フィラメントを示す説明図であり、(b)はそのVI−VI断面図、(c)はVII−VII断面図、(d)はVIII−VIII断面図、(e)はIX−IX断面図。
【図7】(a)〜(c)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係る歯ブラシ用フィラメントを示す説明図であり、(b)はそのX−X断面図、(c)はXI−XI断面図、(d)はXII−XII断面図。
【図9】(a)〜(g)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図10】(a)〜(f)は同じく歯ブラシ用フィラメントの他の変形例を示す断面図。
【図11】(a)は同じく歯ブラシ用フィラメントの更に他の変形例を示す説明図であり、(b)はそのXIII−XIII断面図、(c)はXIV−XIV断面図。
【符号の説明】
【0041】
H 毛丈
L 寸法
1 フィラメント
2,2A,2B 芯部
3 鞘部
4 分岐部
5 歯ブラシ
6 接合部
10 先端部
20 葉部
21 特定葉部
22 側設葉部
23 凹部
24 未分岐部
50 柄
51 植毛部
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシ用フィラメントに係わり、更に詳しくは、細部清掃性に優れ、汚れ等が付着しにくく、耐久性にも優れる歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシのブラシ部に植設するフィラメントの歯間への進入性をよくする方法として、薬液溶解処理により先端側に先鋭テーパーを付けるものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、テーパーの先細り効果により毛腰が弱くなり、歯牙表面の刷掃効果が低下して刷掃実感も乏しくなり、耐久性も低下するといった問題があった。これを解消するため、ポリエステル樹脂製の鞘部にポリアミド樹脂製の2〜5の芯部を散在させ、アルカリ性溶解液に漬けて鞘部を溶かすことによりフィラメント先端側に芯部のみ露出させて複数の分岐部を形成したものが提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
このような複数の分岐部をフィラメント先端部に設けたものでは、一定の毛腰の強さを維持しつつ上記歯間への進入性を高め、清掃性、耐久性を高めることが可能となる。しかしながら、特許文献2のものは芯部を溶かさずに残すことで分岐部を形成することから、ポリアミド樹脂製の芯部からなる各分岐部はテーパー状の先鋭形状のものではなく、細部清掃性に一定の限界があった。
【0004】
これに対し、フィラメント自体を薬液溶解性のポリエステル樹脂等で構成し、その断面形状を多葉形等の異型断面形状に設定することにより、薬液溶解処理によりフィラメント先端側が各葉部ごとに分岐した複数のテーパー状分岐部が形成される構造の歯ブラシ用フィラメントが提案されている(例えば、特許文献3〜7参照。)。しかし、このような溶解処理により分繊される異型断面形状のフィラメントは、葉部同士の接合部分が幅狭になり、使用中に分岐部に力が作用することで分岐部の基端側で上記接合部分から裂けてしまい、分岐が進行してしまう結果、使用できなくなるといった耐久性の問題があった。また、このような異型断面形状のフィラメントの場合、フィラメントの側面には上記葉部同士の接合部分に長手方向に沿った凹溝(凹部)が存在することとなり、特に汚れが溜まりやすいフィラメント基端側で当該凹溝内に汚れが溜まることが避けられないという衛生上の問題もある。更に、異型断面形状であるため方向によっては毛腰が弱くなるという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−141923号公報
【特許文献2】特開平9−322821号公報
【特許文献3】特開2001−169827号公報
【特許文献4】特開2002−58538号公報
【特許文献5】特開2003−144229号公報
【特許文献6】特開2003−199626号公報
【特許文献7】特開2003−339445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、細部清掃性に優れると同時に、毛腰が強く刷掃力があり、また先端部の裂けを防止して耐久性を高め、汚れの付着も防止できる歯ブラシ用フィラメント及びこれを植設した歯ブラシを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、単又は複数の芯部とこれを囲む鞘部とよりなる芯鞘構造を有し、前記芯部及び鞘部がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、前記芯部の合成樹脂が前記鞘部の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、少なくとも一方の端部に、薬液溶解処理によって前記鞘部から露出した前記芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を形成してなることを特徴とする歯ブラシ用フィラメントを構成した。
【0008】
ここで、前記芯部の断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成したものが好ましい。
【0009】
特に、前記芯部の断面形状が二以上の略同形葉部からなる多葉形であるものが好ましい。
【0010】
また、より具体的には、前記芯部の断面形状が、特定の葉部の周りに複数の側設葉部が連結してなる多葉形であるものが好ましい実施例である。
【0011】
また、前記芯部の合成樹脂と前記鞘部の合成樹脂が互いに同種系の樹脂であることが好ましい。
【0012】
特に、前記同種系の樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記歯ブラシ用フィラメントを植設したことを特徴とする歯ブラシをも提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本願発明に係る歯ブラシ用フィラメント及びこれを備えた歯ブラシによれば、フィラメントの少なくとも一方の端部に芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を有しているため細部清掃性に優れるとともに、当該分岐部を構成している芯部が薬液溶解速度の早い合成樹脂よりなる鞘部によって外側から包み込むように保護されているため、先端部の裂けが防止され、耐久性が向上することとなる。また、フィラメント側面となる鞘部の側面には凹部が不要であり、汚れの付着が防止されるとともに、先端部以外は当該鞘部により保護された非分岐部であり、どの方向にも毛腰が強く、優れた刷掃力を発揮する。
【0015】
また、芯部断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成したので、当該多葉形又は多葉状の芯部の葉部間の凹部に鞘部が嵌り込むように設けられることとなり、芯部と鞘部の接合強度が向上し、分岐部の裂けや鞘部の剥がれがより生じにくい耐久性に優れたフィラメントとなる。
【0016】
また、芯部の合成樹脂と鞘部の合成樹脂が互いに同種系の樹脂であるので、相溶性により互いの接合強度が向上し、同じく分岐部の裂けや鞘部の剥がれがより生じにくい耐久性に優れたフィラメントとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るフィラメント1を植設した歯ブラシ5の全体構成を示す説明図であり、図3〜5は本発明のフィラメントの第1実施形態、図6、7は第2実施形態、図8〜11は第3実施形態を示し、図中符号1はフィラメント、2は芯部、3は鞘部、4は分岐部をそれぞれ示している。
【0019】
本発明の歯ブラシ用フィラメント1は、図3、4に示すように、芯部2とこれを囲む鞘部3とよりなる芯鞘構造を有し、芯部2及び鞘部3がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、芯部2の合成樹脂が鞘部3の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、先端側であるフィラメント先端部10に、薬液溶解処理によって鞘部3から露出した芯部2よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成したものであり、分岐部4の存在により細部清掃性に優れると同時に、鞘部3で外層を保護していることから汚れ等が付着しにくく、分岐部4が裂けてしまうことも防止でき、耐久性にも優れたフィラメントである。
【0020】
図1、2は、本発明に係るフィラメント1を植設した歯ブラシ5を示しており、柄50の先端植毛部51にフィラメント1,…が群立して植毛されている。フィラメント1は、図3に示すように植毛状態における毛丈Hの約二倍より若干長い寸法Lに切断した後、その両端部にそれぞれ複数の先鋭テーパー状の分岐部4を形成したものであり、フィラメント1の長さLは好ましくは約25mm〜約35mmであるが、この範囲に限定するものではない。このように両端に分岐部4を形成したフィラメント1を、複数本ずつ束にして略中央で折り曲げ、その折り曲げ部を植毛部51に植毛することで図1に示す歯ブラシ5が形成される。なお、本実施形態ではフィラメント両端に分岐部4を形成しているが、一端のみ分岐部を設けて他端側を植毛部に埋設させるように植毛するものでもよい。また、一端のみ分岐部を設けて、他端側はそのまま或いは機械的研磨によりテーパー形状としたものを略中央で折り曲げて植毛するものでもよい。さらに、本実施形態では分岐部4を形成した後にフィラメントを植毛しているが、植毛後に溶解液に浸漬して先鋭テーパー状の分岐部4を形成するものでもよい。
【0021】
尚、フィラメントの植毛方法については、従来からの方法を広く用いることができ、例えばフィラメントを10〜40本束ねて中央位置に平線を押し当て、フィラメント束をU字変形させながら植毛穴に打ち込む方法や、このような平線を用いず、フィラメント基端側を溶融して植毛穴に埋設接合させる方法などを用いることができる。また、歯ブラシ5の柄50は一例を示すものであり、これに限定するものではなく様々な形でよい。また、植毛部51のフィラメント1の植毛孔の配置についても様々な配置形態を採用できる。また、植毛部51には、すべてのフィラメントを本発明に係るフィラメント1としてもよいし、そのなかで形態の異なるものを混在させてもよい。また一部のみ本発明に係るフィラメント1を採用し、他を従来からのフィラメントとしてもよく、目的に応じて使い分けできる。
【0022】
まず、図3〜5に基づき、本発明の歯ブラシ用フィラメント1の第1実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態のフィラメント1は、図4(f)のV−V断面図に示すように芯部2の断面
形状が葉部20を複数有する多葉形であり、その周囲を囲むように鞘部3が設けられ、全体として略円形の断面形状を有している。より詳しくは、芯部2の断面形状は二以上の略同形葉部20からなる多葉形であって本例では同じ大きさ(断面積)の3つの葉部20が集合一体化した形である。このような同じ形状大きさの複数の葉部20よりなる多葉形断面の芯部2は、図4(a),(b)に示すように薬液溶解処理により鞘部3から露出する先端側が各葉部20ごとに分岐し、これによりほぼ同一長さの複数の分岐部4がフィラメント先端部10に形成されることとなる。
【0024】
すなわち、フィラメント先端側の分岐部4の作製は、まず図4(f)の芯鞘構造を有する多数のフィラメントを所定長さに切断し、耐薬液溶解性のフィルムを巻いて束ね、それを溶解液(薬液)に浸漬する。芯部2及び鞘部3はいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、同一薬液に対する溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため、フィルム端部から浸入した溶解液によって芯部2と鞘部3が同時に溶け出すものの徐々に芯部2が露出し、露出した芯部2は各葉部20ごとに複数に分岐して分岐部4(分岐毛)が形成される。分岐部4は先鋭なテーパー状に形成され、芯部2が露出している鞘部3の端部もテーパー状に形成されることとなる。
【0025】
芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂は、互いに同種系の樹脂であれば、相溶性による相互の密着性に優れ、鞘部3の先端側からの剥がれや分岐部4の使用による裂けを防止できる。たとえば、アルカリ性溶解液を用いる場合には、芯部2と鞘部3としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエステルエラストマー、またはこれらの混合樹脂を、薬液溶解性に応じて適宜組み合わせて用いることができる。アルカリ性溶解液としてはポリエステル樹脂の場合、カセイソーダ水溶液を用いることが好ましい。また、芯部2と鞘部3をポリアミド樹脂の組み合わせとし、酸性溶解液を用いて分岐部を作製することもできる。その他の薬液溶解性樹脂の組み合わせを用いることも勿論可能である。
【0026】
ほぼ同一長さの複数の分岐部4を形成する芯部2の構成としては、本例のように3つの葉部20からなるものに何ら限定されず、例えば図5(a),(b)に示すように葉部20が4つ以上又は2つのものでも同様に分岐させることができ、図5(c)に示すように多葉断面の芯部2を2つ以上組み合わせて、各芯部2の分岐部を合わせた複数(図示したものでは各芯部2で2つの分岐部が形成され、合計4つの分岐部となる)の分岐部をフィラメント先端部に形成するものも好ましい実施例である。また、図5(d)に示すように単葉断面の芯部2Aと、これとほぼ同一形状の葉部20、20を有する多葉断面の芯部2Bを組み合わせ、芯部2Aによる先端露出した部分と芯部2Bにより形成される各分岐部を合わせた複数(図示したものでは芯部2Bで2つの分岐部が形成され、合計3つの分岐部となる)の分岐部をフィラメント先端部に形成するものも好ましい実施例である。なお、本例ではいずれも多葉断面形状は複数の葉部20がいずれも略円形で、互いに円同士が一部重なるように連結されているが、中間の連結部を介して円同士が繋がるように構成してもよい。また、葉部20の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。
【0027】
鞘部3は、芯部2と中心軸が共通する同心円状の外形を有し、芯部2の周りを隙間なく包み込んだ形状であり、該鞘部3の存在によりフィラメントの断面形状としては略円形断面形状とされている。芯部2は多葉断面形状であり、鞘部3が無いと芯部2の外周面には葉部20、20間に凹部23が現れるが、この凹部23がフィラメント側面に露出していると歯ブラシに植毛して使用した際、汚れがたまり易い基端側では当該側面の凹部23に汚れが溜まりやすく、衛生上好ましくない。本発明では鞘部3の存在により該芯部2の凹部23がフィラメント先端部10を除いて隠れているため、汚れの付着の心配がなく衛生上も好ましいものとなる。
【0028】
本例では鞘部3の外形が円形とされているがこれに何ら限定されず、多角形形状など汚れが付着する可能性のある凹部がない形状であれば種々の形状を採用することができる。鞘部3のうち芯部2の葉部20、20間の凹部23を囲む部分の肉厚は厚くなり、したがって鞘部3先端のテーパー部はこの部分が長く且つ細くなるが、あまりに細長いと剥がれやすくなるため、この部分の肉厚が厚くなりすぎない形状が好ましい。図10の(a)は三角形状にしたもの、(b)は四角形状にしたもの、(c)は六角形状にしたもの、(d)は三角形状の角部を芯部2の葉部外形に平行なR形状を付したものをそれぞれ例示しているが、いずれも図示しているとおり、上記した凹部23を囲む部分の肉厚が厚くなりすぎないように多角形の角部がこの部分に位置しないように形成することが好ましい。
【0029】
フィラメント先端部10の分岐部4の高さは、図4(a)に示すように略同じ長さとなり、約1〜5mm程度が好ましい。鞘部3から露出した芯部2のすべてが分岐するのではなく、露出基端側の鞘部3との境界部分には分岐していない未分岐部24が残存していることが毛腰強度及び裂け防止の点で好ましいが、本発明はこれに何ら限定されず、境界部分から分岐しているものでも勿論よい。これらは芯部2と鞘部3の合成樹脂の選定、溶解液の選定、浸漬時間、溶解液濃度、温度、またはフィラメント断面の直径や歯ブラシにおける毛丈(植毛長さ)等により各部の溶解速度を調整することにより適宜設定することが可能である。
【0030】
次に、図6、7に基づき、本発明の第2実施形態について説明する。
【0031】
本実施形態のフィラメント1は、図6(e)のIX−IX断面図に示すように、鞘部3中に
先端が分岐しない単葉断面の芯部2を複数互いに間隔を空けて配置させた芯鞘構造を有し、本例では同じ大きさ(断面積)の3つの円形断面の芯部2が均等配置され、鞘部3がこれらを隙間なく包み込み、全体として略円形の断面形状を有している。各芯部2は薬液溶解処理により先端側がテーパー状になるが分岐しない。しかしこれら芯部2が複数先端側に露出することで各芯部2自体がほぼ同一高さの分岐部4として機能することとなる。分岐部4を形成する方法は、第1実施形態と同様であり、薬液溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため徐々に芯部2が先端側に露出して分岐部4(分岐毛)となる。芯部2よりなる分岐部4は同じく先鋭なテーパー状に形成され、鞘部3の端部も同じくテーパー状に形成される。芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂についても、第1実施形態と同様、各種の組み合わせが採用できる。
【0032】
ほぼ同一長さの複数の分岐部4を形成する芯部2は、本例のように3つからなるものに何ら限定されず、例えば図7(a)〜(c)に示すように芯部2が2つ又は3つ以上のものでもよく、特に(c)に示すように断面形状が異なる大きさ(断面積)の芯部2を組み合わせ、比較的大きな断面形状の芯部2から太く長い分岐部4を形成し、かつ比較的小さな断面形状の芯部2により細く短い分岐部4を形成してなるものも好ましい実施例である。各芯部2の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。また、鞘部3の外形も円形に限らず、多角形形状など種々の形状を採用することができる。その他の構成については上記第1実施形態と基本的に同じであり、同一構造については同一符号を付してその説明を省略する。
【0033】
次に、図8〜11に基づき、本発明の第3実施形態について説明する。
【0034】
本実施形態のフィラメント1は、図8(d)のXII−XII断面図に示すように、芯部2
の断面形状が特定の葉部21の周りに断面形状の大きさ(断面積)の異なる複数の側設葉部22が連結した多葉形であり、その周囲を囲むように鞘部3が設けられ、全体として略円形の断面形状を有している。より詳しくは、芯部2の断面形状は中心部に比較的断面形状の大きい特定葉部21を有し、その周りに比較的小さい断面形状の側設葉部22が均等に4つ配置された形である。分岐部4を形成する方法は、第1実施形態と同様であり、薬液溶解速度が芯部2よりも鞘部3の方が速いため徐々に芯部2が先端側に露出して分岐部4(分岐毛)となる。芯部2の合成樹脂と鞘部3の合成樹脂についても、第1実施形態と同様、各種の組み合わせが採用できる。本実施形態においても鞘部3から露出した芯部2のすべてが分岐しているのではなく、露出基端側の鞘部3との境界部分には分岐していない未分岐部24が残存していることが毛腰強度及び裂け防止の点で好ましい。
【0035】
本例のような大きさの異なる特定葉部21と側設葉部22よりなる多葉形断面の芯部2は、図8(a),(b)に示すように薬液溶解処理により鞘部3から露出する先端側が各葉部21、22ごとに分岐し、特定葉部21よりなる比較的長く太い1つの分岐部4を中心としてその周囲に側設葉部22よりなる比較的短く細い4つの分岐部4がフィラメント先端部10に形成されることとなる。このようにフィラメント先端部10のテーパー状先端分岐部4の長さが異なると、歯ブラシとして使用した際、毛先が歯牙表面に留まることなく、長い分岐部4が歯間や臼歯頂部の深い窪みや歯周ポケットなどへ進入して刷掃する一方、短い分岐部4は歯牙表面とその凹凸部などを刷掃し、複雑な凹凸や隙間が混在する歯列と歯牙表面をすべて余すところ無く刷掃することができる。
【0036】
芯部2の多葉形断面を構成する特定葉部21と側設葉部22の形態については、本例のように4つの側設葉部22を均等配置するものに何ら限定されず、例えば図9(a)、(b)に示すように側設葉部22を3つ又は2つ均等配置したものや5つ以上設けることもでき、(c)に示すように側設葉部22を偏った位置に配置してもよい。また、(d)に示すように側設葉部22を複数設けるのではなく1つのみ設けるものでもよい。更に、図9(e)〜(g)に示すように、特定葉部21を比較的小さい断面形状(断面積)とし、その周りに比較的大きい断面形状の側設葉部22を接合部6を介して独立に配置したものでもよい。これによれば、フィラメント先端部10に特定葉部21よりなる比較的短く細い分岐部4とその周囲に比較的長く太い分岐部4を形成することができる。ここでも芯部2は多葉断面形状であり、鞘部3が無いと芯部2の外周面には特定葉部21と側設葉部22の間、または側設葉部22同士の間に凹部23が現れるが、鞘部3の存在によりこれら凹部23がフィラメント先端部10を除いて隠れているため、汚れの付着の心配がなく衛生上も好ましいものとなる。
【0037】
本例ではいずれも特定葉部21、側設葉部22がいずれも略円形で、互いに円同士が一部重なるように連結されているが、第1実施形態と同様、中間の連結部を介して円同士が繋がるように構成してもよい。また、特定葉部21、側設葉部22の形状は略円形に限らず、楕円形、三角形状、四角形状、ひし形、多角形その他の異形のものでも勿論よい。更には、各側設葉部22の断面形状も互いに異なる大きさ(断面積)とし、当該側設葉部22よりなる各分岐部4の長さを互いに異なるものとすることもできる。
【0038】
また、鞘部3の外形も円形に限らず、第1実施形態と同様、多角形形状など種々の形状を採用することができる。図10(e)は長方形状にしたもの、(f)はひし形状にしたもの、図11は扇形状にしたものをそれぞれ例示しているが、いずれも凹部23を囲む部分の肉厚が厚くなりすぎないように多角形の角部がこの部分に位置しないように形成することが好ましい。上記各例のとおり鞘部3の肉厚ができるだけ同じ程度になるように鞘部外形形状が設定されているのである。例えば図11のように扇形状にして芯部2の周囲の肉厚を同じ程度にすれば、図中(a)のとおり凹部23に対応する鞘部3先端のテーパー部は特別長くなることなく剥がれ等の心配も殆どない安定したものとなることが分かる。また、鞘部3の外形は芯部2と略同一形状とすることもできる。このとき、鞘部3の外形に形成される凹部は汚れが付着しない程度であることが好ましい。その他の構成については上記第1実施形態と基本的に同じであり、同一構造については同一符号を付してその説明を省略する。
【0039】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフィラメントを植設した歯ブラシを示す説明図。
【図2】同じく歯ブラシの先端植毛部の拡大説明図。
【図3】同じく歯ブラシ用フィラメントの説明図。
【図4】(a)は同じく歯ブラシ用フィラメントの先端部を示す説明図であり、(b)はそのI−I断面図、(c)はII−II断面図、(d)はIII−III断面図、(e)はIV−IV断面図、(f)はV−V断面図。
【図5】(a)〜(d)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図6】(a)は本発明の第2実施形態に係る歯ブラシ用フィラメントを示す説明図であり、(b)はそのVI−VI断面図、(c)はVII−VII断面図、(d)はVIII−VIII断面図、(e)はIX−IX断面図。
【図7】(a)〜(c)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係る歯ブラシ用フィラメントを示す説明図であり、(b)はそのX−X断面図、(c)はXI−XI断面図、(d)はXII−XII断面図。
【図9】(a)〜(g)は同じく歯ブラシ用フィラメントの変形例を示す断面図。
【図10】(a)〜(f)は同じく歯ブラシ用フィラメントの他の変形例を示す断面図。
【図11】(a)は同じく歯ブラシ用フィラメントの更に他の変形例を示す説明図であり、(b)はそのXIII−XIII断面図、(c)はXIV−XIV断面図。
【符号の説明】
【0041】
H 毛丈
L 寸法
1 フィラメント
2,2A,2B 芯部
3 鞘部
4 分岐部
5 歯ブラシ
6 接合部
10 先端部
20 葉部
21 特定葉部
22 側設葉部
23 凹部
24 未分岐部
50 柄
51 植毛部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単又は複数の芯部とこれを囲む鞘部とよりなる芯鞘構造を有し、前記芯部及び鞘部がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、前記芯部の合成樹脂が前記鞘部の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、少なくとも一方の端部に、薬液溶解処理によって前記鞘部から露出した前記芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を形成してなることを特徴とする歯ブラシ用フィラメント。
【請求項2】
前記芯部の断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成してなる請求項1記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項3】
前記芯部の断面形状が、二以上の略同形葉部からなる多葉形である請求項2記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項4】
前記芯部の断面形状が、特定の葉部の周りに複数の側設葉部が連結してなる多葉形である請求項2又は3記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項5】
前記芯部の合成樹脂と前記鞘部の合成樹脂が、互いに同種系の樹脂である請求項1〜4の何れか1項に記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項6】
前記同種系の樹脂がポリエステル樹脂である請求項5記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の歯ブラシ用フィラメントを植設したことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項1】
単又は複数の芯部とこれを囲む鞘部とよりなる芯鞘構造を有し、前記芯部及び鞘部がいずれも薬液溶解性の合成樹脂よりなり、前記芯部の合成樹脂が前記鞘部の合成樹脂よりも薬液溶解速度の遅い樹脂であり、少なくとも一方の端部に、薬液溶解処理によって前記鞘部から露出した前記芯部よりなる複数の先鋭テーパー状の分岐部を形成してなることを特徴とする歯ブラシ用フィラメント。
【請求項2】
前記芯部の断面形状が多葉形又は多葉状であり、薬液溶解処理によって前記端部が各葉部ごとに分岐することにより前記分岐部を形成してなる請求項1記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項3】
前記芯部の断面形状が、二以上の略同形葉部からなる多葉形である請求項2記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項4】
前記芯部の断面形状が、特定の葉部の周りに複数の側設葉部が連結してなる多葉形である請求項2又は3記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項5】
前記芯部の合成樹脂と前記鞘部の合成樹脂が、互いに同種系の樹脂である請求項1〜4の何れか1項に記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項6】
前記同種系の樹脂がポリエステル樹脂である請求項5記載の歯ブラシ用フィラメント。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の歯ブラシ用フィラメントを植設したことを特徴とする歯ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−82094(P2010−82094A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253162(P2008−253162)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】
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