説明

歯ブラシ用毛材および歯ブラシ

【課題】無平線歯ブラシに使用した場合に歯ブラシ用毛材を高密度に植毛することができ、優れたと触感性と清掃性を有する歯ブラシを与え得る歯ブラシ用毛材およびその歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した歯ブラシの提供。
【解決手段】合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記カットブリッスルの長さ方向に対して垂直な断面が円形以外の異形断面形状であり、前記カットブリッスルの長さが10mm〜25mmの範囲にあることを特徴とする歯ブラシ用毛材およびこれを使用した無平線歯ブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属片からなる毛材固定部材、つまり平線を使用しない歯ブラシ(以下、無平線歯ブラシと言う)に使用した場合に歯ブラシ用毛材を高密度に植毛することができ、優れたと触感性と清掃性を有する歯ブラシを与え得る歯ブラシ用毛材およびその歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の歯ブラシは、図6(a)〜(c)に示すように、使用する歯ブラシ用毛材1を二つに折り曲げ、折り曲げた歯ブラシ用毛材1の谷となる部分に金属片の平線16を挟み、歯ブラシ本体14のヘッド部15に設けられた植毛孔11に打ち込んで植毛された平線歯ブラシが主流である。
【0003】
この平線歯ブラシは、平線16がヘッド部15の部材に刺さった状態となっているため、歯ブラシ用毛材1をヘッド部15にしっかりと固定でき、さらに簡易に植毛できるという特徴がある。
【0004】
しかし、近年、歯ブラシに新しい性能が要求されつつあり、使用する歯ブラシ用毛材は勿論のこと、歯ブラシ自体、特に歯ブラシのヘッド部の植毛形態に特徴を持たせ、従来にない新しい性能を発揮させようとする技術が進んでいる。
【0005】
その技術の中でも、平線を使用しない無平線歯ブラシが特に注目されている。この無平線歯ブラシは、図7(a)〜(c)に示すように、従来のように歯ブラシ用毛材を二つに折り曲げずに植毛され、歯ブラシ用毛材1の一端をヘッドインサート12に設けられた植毛孔11に挿通させた後、ヘッドインサート12の反対側に突出した歯ブラシ用毛材1の一端を熱溶着することによって歯ブラシ用毛材1とヘッドインサート部12とを固定し、さらにこのヘッドインサート12を歯ブラシ本体14に固定することによって歯ブラシ用毛材1と歯ブラシ本体14とを一体成型することを特徴としている。
【0006】
そのため、この無平線歯ブラシは、円形以外の形状や様々な大きさの植毛孔を設けることができること、幾つかの形の異なるヘッドインサートを組み合わせて歯ブラシ本体に固定できること、植毛孔毎またはヘッドインサート毎に異なる素材や毛丈の歯ブラシ用毛材を植毛することができること、歯ブラシ本体のヘッド部をコンパクトに設計できることなどバリエーションに富んだ歯ブラシを作ることができるなどの利点がある。
【0007】
また具体的な製造方法としては、例えば、歯ブラシ用毛材を挿通するための植毛孔を射出成形用金型の表裏を貫いて形成し、植毛孔に所定長さからなる歯ブラシ用毛材を挿通した後、金型のキャビティ内に合成樹脂の融液を充填して歯ブラシ用毛材支持体を射出成形し、植毛孔に挿通された歯ブラシ用毛材を毛材支持体の表裏両面から所定の長さだけ外部へ突出させた状態で固定する歯ブラシの製造方法(例えば、特許文献1参照)が既に知られている。
【0008】
しかし、無平線歯ブラシは上述の通り、歯ブラシ用毛材の植毛形態を様々変えることができる特徴があるが、ヘッド部の大きさや使用する歯ブラシ用毛材の太さによって、植毛孔やヘッドインサートの形状・大きさも決まり、そのバリエーションは無限ではない。
【0009】
例えば、植毛孔やヘッドインサートを大きくして多くの歯ブラシ用毛材を植毛した場合には、ヘッド部自体を大きくしなければバリエーションに富んだ歯ブラシが得られにくくなる。逆に、植毛孔やヘッドインサートを小さくした場合には、バリエーションに富んだ歯ブラシが得られやすいが、植毛孔に植毛できる歯ブラシ用毛材の数が少なくなり、触感が物足りなくなるばかりか清掃性の低い歯ブラシが得られやすくなる。したがって、歯ブラシ用毛材の植毛本数を増やすために歯ブラシ用毛材の太さを細くすると、歯ブラシ用毛材の毛腰が弱いために、かえって触感が物足りなくなり、さらには清掃性の低い歯ブラシが得られやすくなる。
【0010】
また、使用する歯ブラシ用毛材に特徴がある無平線歯ブラシについても既に知られており、例えば、ポリエステル系樹脂からなり、テーパー化されていない状態の直径が0.1〜0.2mm、テーパーの長さが4〜8mm、テーパーの先端直径が0.01〜0.08mm、全長が13〜18mmである一端の毛先のみがテーパー状に先鋭化された歯ブラシ用毛材を使用し、テーパー化された部分が歯ブラシ本体のヘッド部において外部に向かうように植毛され、歯ブラシ用毛材のテーパー化されていない部分は熱融着されて歯ブラシヘッド部の内部に固定され、植毛された歯ブラシ用毛材の毛丈が7〜13mmの歯ブラシ(例えば、特許文献2参照)がある。
【0011】
しかし、テーパー化された歯ブラシ用毛材を使用した上記無平線歯ブラシは、図8の(a)に示すように、歯ブラシ用毛材1のうちヘッドインサート12から現れる部分の殆どがテーパー部7であるために毛腰が弱く、触感が物足りないばかりか清掃性が低いなどの問題があった。
【0012】
このように、無平線歯ブラシには性能面やデザイン面で無限の可能を秘めているため、年々期待が高まりつつあるが、その可能性を最大限に引き出すためには上記問題を解決する必要がある。そのため、無平線歯ブラシの技術的な改良が大いに求められている。
【特許文献1】特開2000−287755号公報
【特許文献2】特開2007−289725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち本発明の目的は、平線を使用しない歯ブラシ(以下、無平線歯ブラシと言う)に使用した場合に歯ブラシ用毛材を高密度に植毛することができ、優れたと触感性と清掃性を有する歯ブラシを与え得る歯ブラシ用毛材およびその歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記カットブリッスルの長さ方向に対して垂直な断面が円形以外の異形断面形状であり、前記カットブリッスルの長さが10mm〜25mmの範囲にあることを特徴とする歯ブラシ用毛材が提供される。
【0015】
なお、本発明においては、
カットブリッスルの断面形状が3〜8つの頂点を有する多角形であること、またはカットブリッスルの断面形状が3〜10つの凸部を有する多葉形であること、
カットブリッスルの一端にテーパー部を有することがさらに好ましい条件として挙げられる。
【0016】
また、本発明の歯ブラシは、前記本発明の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した歯ブラシであって、前記歯ブラシ用毛材と歯ブラシ本体とが平線を使用せずに一体成型されていること、さらには歯ブラシ用毛材と歯ブラシ本体とがヘッドインサートを介して一体成型され、歯ブラシ用毛材の一端またはテーパー部ではない一端をヘッドインサートに設けられた植毛孔に挿通させた後、前記ヘッドインサートの反対側に突出した歯ブラシ用毛材の一端および/またはヘッドインサートの一部を熱溶着することによって歯ブラシ用毛材とヘッドインサートとを固定した後、さらにこのヘッドインサートが歯ブラシ本体に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歯ブラシ用毛材は、その断面が多角形や多葉形などの異形断面形状であるため、歯ブラシ用毛材同士が側面で面接触し、植毛した際には高密度で植毛することができる。その結果、この歯ブラシ用毛材を使用した場合は、植毛孔により多くの歯ブラシ用毛材が植毛されるため、毛腰があり触感性に優れた歯ブラシが得られ、さらには多角形断面の頂点となる部分や多葉断面の凸部となる部分が歯ブラシ用毛材側面に現れるため、清掃性に優れた歯ブラシが得られる。
【0018】
また、歯ブラシ用毛材の一端にテーパー部を設けた場合にも、歯ブラシ用毛材が高密度植毛されているために毛束全体として十分な毛腰が得られ、触感性および清掃性に優れた歯ブラシが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の歯ブラシ用毛材および歯ブラシを図に従って具体的に説明する。
【0020】
図1の(a)、(b)は、ともに本発明の歯ブラシ用毛材の一例を示した斜視図である。図1に示すように、本発明の歯ブラシ用毛材の特徴は、歯ブラシ用毛材1の断面が円形以外の異形断面形状であることを特徴とするものである。
【0021】
そのため、本発明の歯ブラシ用毛材1は、図3の(a)および(b)に示すように、無平線歯ブラシに植毛した際に、植毛孔11に高密度に植毛することができ、非常に清掃性の高い歯ブラシが得られるのである。
【0022】
つまり、図3の(a)および(b)に示すように、歯ブラシ用毛材1に図1の(a)の六角形断面のものを使用した場合は、歯ブラシ用毛材1同士が互いに側面で接触し合って一つの束になっているために高密度の状態で植毛され、また、図1の(b)の八葉形断面のものを使用した場合は、歯ブラシ用毛材1同士が、ギアの歯のように噛み合って一つの束になっているために高密の状態で植毛されるのである。
【0023】
これに対して、図4に示すように、従来の円形断面の歯ブラシ用毛材1を使用した場合は、歯ブラシ用毛材1同士が点接触し合って一つの束となっているため、図3の(a)や(b)と同じ直径の歯ブラシ用毛材1を使用しても、高密度に植毛されにくく、その結果、清掃性の低い歯ブラシが得られやすくなる。
【0024】
また、本発明の歯ブラシ用毛材1は、その断面が異形断面形状であるため、歯ブラシ用毛材1の側面に異形断面形状の頂点または凸部が毛材の長さ方向に沿って現れる。その結果、この頂点または凸部が歯の表面の汚れを掻き落とす働きをするために、より一層優れた清掃性効果が得られるのである。
【0025】
なお、ここで本発明の歯ブラシ用毛材1の断面の形状については、円形以外の異形断面形状であれば特に限定はされないが、例えば、図2の(a)〜(k)に示すように、三角形、四角形、菱形、五角形、八角形などの3〜8つの頂点を有する多角形や三葉形、六葉形、八葉形などの3〜10つの凸部を有する多葉形は特に植毛の際に高密度植毛が得られやすいことから特に好ましい。
【0026】
また、断面が多葉形の場合は、図5に示すように、凸部2に接する外接円4と凹部3に接する内接円5の直径をそれぞれDおよびdとしたd/Dの値が0.4〜0.9、特に0.5〜0.8の範囲にあることが好ましい。
【0027】
さらに、直径Dと直径dの中間直径、つまり直径(D+d)/2となる中間円6と多葉断面との交点をa1、a2、a3とした場合に、凸部2の幅A(a1〜a2間)と凹部3の幅B(a2〜a3間)の比A/Bの値が0.5〜2.0、特に0.7〜1.4の範囲にあることが好ましい。
【0028】
つまり、多葉形の凸部2と凹部3の大きさを上述のとおり規定することでブラシ用毛材1同士が上手く噛み合い、より一層高密度で植毛することができる。
【0029】
ここで、本名発明の歯ブラシ用毛材1は合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるものであるが、使用する合成樹脂は特に限定はされず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610(以下、N610と言う)、ナイロン612、ナイロン46、ナイロンMDX6、ナイロン11、ナイロン12またはこれら2種類以上の共重合体からなるポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと言う)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートまたはこれら2種類以上の共重合体からなるポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロライド・テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロビニルエーテルなどのフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を挙げることができ、さらにこれらの樹脂を2種類以上ブレンドしたものも使用することもできる。
【0030】
特に、本発明の歯ブラシ用毛材には、上記合成樹脂の中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂の使用が好ましく、さらには、優れた化学的・物理的特性を有することからN610またはPBTの使用がより好ましい。
【0031】
なお、上記の合成樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜任意に添加させることも可能である。
【0032】
無平線歯ブラシとは従来の歯ブラシのように金属片からなる毛材固定部材、つまり平線を使用しない歯ブラシであり、本発明の歯ブラシ用毛材1はこの無平線歯ブラシに使用される。したがって、図7に示すように、無平線歯ブラシに使用する歯ブラシ用毛材は、従来の歯ブラシ(図6)とは異なり、二つに折り曲げて植毛されるものではないため、本発明の歯ブラシ用毛材1の長さは従来の歯ブラシ用毛材より短い。
【0033】
しかし、その長さが短すぎると熱融着してヘッドインサート12に溶着固定しにくくなるため、歯ブラシ用毛材1が抜けやすくなるなどの問題が生じやすく、逆に長すぎるとカットして所望の長さに揃えなければならないため、歯ブラシ製造の工程上、手間がかかりやすいなどの問題が生じる。
【0034】
しかがって、本発明の歯ブラシ用毛材1はその長さが10〜25mmの範囲にあることが必要であり、さらには10〜20mmの範囲にあることがより好ましい。
【0035】
また、本発明の歯ブラシ用毛材1の直径は、歯ブラシの種類やその機能に応じて適宜選ぶことができ、特に限定はされない。しかし、細すぎると高密度植毛がしやすくなるが、毛腰が柔らかくなりすぎて触感が物足りなくなるばかりか清掃性の低い歯ブラシとなりやすく、逆に太すぎると高密度植毛がしにくくなり、清掃性が低くなるばかりか毛腰が硬くなるために触感性に劣る歯ブラシとなりやすい。そのため、本発明の歯ブラシ用毛材1の直径は0.05〜0.25mmの範囲が好ましく、さらには0.10〜0.22mmの範囲が好ましい。
【0036】
さらに、本発明の歯ブラシ用毛材は、その一端にテーパー部を有すると歯と歯の間の汚れを落とす清掃性に優れた歯ブラシが得られるためにより好ましい。
【0037】
一端にテーパー部を有する円形断面の歯ブラシ用毛材を無平線歯ブラシに使用した場合は、図8の(a)に示すように、ヘッドインサート12から現れる歯ブラシ用毛材1の殆どが柔らかなテーパー部7となる。そのため、図8の(a)に示す歯ブラシは毛腰が弱く、触感性が物足りないばかりか、清掃性の低い歯ブラシとなりやすい。
【0038】
しかし、図8の(b)に示すように、本発明の歯ブラシ用毛材を使用した場合は高密度植毛ができるために、歯ブラシ用毛材同士が根本でしっかりと密着し合い、その結果、歯ブラシ全体に適度な硬さが保たれる。
【0039】
そのため、本発明の歯ブラシ用毛材を使用した場合は、十分な触感性が得られるばかりか、図8の(a)に比べて先端部8が数多く表面に現れるため、歯と歯の間の汚れを効率よく落とすことができるのである。
【0040】
なお、本発明のブラシ用毛材1の表面および/または内部に、銀イオンを担持させたリン酸塩系、ゼオライト系、ヒドロキシアパタイト系抗菌剤のほか、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、クエン酸亜鉛、フマル産亜鉛、ギ酸亜鉛などの亜鉛化合物、ベンゼトニウム、ベンザルコニウム、セチルピリジウム、クロルヘキシジンなどのカチオン系抗菌剤、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートなどの茶カテキン、アナターゼ型またはルチル型二酸化チタンなどの光触媒を付着および/または含有させて抗菌効果を付与することもできる。
【0041】
次に、本発明の歯ブラシ用毛材の製造方法について説明する。
【0042】
まず、本発明の歯ブラシ用毛材となるモノフィラメントの製造方法については何ら特別な方法を用いる必要はなく、例えば、公知の溶融紡糸方法を用いて製造することができる。
【0043】
具体的に、合成樹脂にPBTを使用した場合には、予め乾燥したPBTペレットを1軸エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内でPBTを溶融・混練させながら溶融パックへ押出し、溶融パックに取り付けられた口金の孔から溶けたPBTを紡出する。この際、口金の孔の形状は、本発明の歯ブラシ用毛材の形状に合ったものを使用する。
【0044】
次に、紡出されたPBTは冷却浴内で冷却固化され、引き続き高温媒体中で延伸および熱セットされた後、油剤を付与して巻き取られる。そして、巻き取られたPBTモノフィラメントは所望の長さにカットされてカットブリッスルとなる。
【0045】
ここでさらに、カットブリッスルの一端にテーパー部を設ける場合は、得られたカットブリッスルの一端に機械研磨加工、あるいは酸やアルカリ溶液による化学処理を施して形成する方法が採用される。
【0046】
こうして製造された歯ブラシ用毛材は無平線歯ブラシの毛材の少なくとも一部に使用されるが、その植毛方法は、従来の歯ブラシのように平線を使用せずに歯ブラシ用毛材の一部および/または歯ブラシ本体の一部を加熱して溶着固定し、歯ブラシ用毛材と歯ブラシ本体とを一体成型する方法が採用される。
【0047】
さらに、ヘッドインサートを使用した場合には、図7に示すように、歯ブラシ用毛材1の一端またはテーパー部ではない一端をヘッドインサート12に設けられた植毛孔11に挿通させた後、ヘッドインサート12の反対側に突出した歯ブラシ用毛材1の一端および/またはヘッドインサート12の一部を熱溶着することによって歯ブラシ用毛材1とヘッドインサート12とを固定した後、さらにこのヘッドインサート12を歯ブラシ本体14に固定して一体成型する方法が採用される。
【0048】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材を無平線歯ブラシに使用した場合の植毛密度は20本/mm以上が好ましく、さらには25本以上がより好ましい。これは、植毛密度が上記範囲を下まわると触感が物足りなくなるばかりか、清掃性に欠けた歯ブラシが得られやすくなるからである。
【0049】
本発明の歯ブラシ用毛材を使用し、上記のように製造された無平線歯ブラシは、歯ブラシ用毛材が高密度に植毛されているために、従来の無平線歯ブラシに比べて触感性に優れた歯ブラシとなる。また、本発明の歯ブラシ用毛材は、その断面が異形断面形状であるため、歯ブラシ用毛材の側面に異形断面形状の頂点または凸部が毛材の長さ方向に沿って現れる。その結果、この頂点または凸部が歯の表面の汚れを掻き落とす働きをするために、高密度植毛による清掃性をさらに向上させるという際立った効果が得られる。
【0050】
また、この効果は特に一端にテーパー部を有する歯ブラシ用毛材を使用した場合に顕著に現れる。無平線歯ブラシに使用される歯ブラシ用毛材はその長さが短いために、植毛すると植毛孔から現れる歯ブラシ用毛材の殆どがテーパー部となる。テーパー部を有する歯ブラシ用毛材はテーパー部を持たない歯ブラシ用毛材に比べて毛腰が柔らかい。そのため無平線歯ブラシに使用した場合は、毛腰の柔らかさが顕著に現れ、触感性が物足りないばかりか清掃性の低い歯ブラシとなりやすい。
【0051】
しかし、本発明の歯ブラシ用毛材を使用した場合は、高密度植毛ができるため、歯ブラシ用毛材一本一本は毛腰が柔らかいものの、植毛された束全体としては十分な硬さを有し、その結果、十分な触感性が得られる。
【0052】
また、高密度植毛された結果、テーパー部の先端部が表面に多く現れ、歯と歯の間の汚れを効率良く落とす効果も得られる。この効果は、従来の円形断面の歯ブラシ用毛材では得られなかった優位な効果である。
【0053】
さらに、異形断面形状の歯ブラシ用毛材はその形状によって曲げにくい方向がある。例えば、図2の(b)の四角形の場合、歯ブラシ用毛材を向かい合う対角方向には曲げにくいが、向かい合う対辺方向には曲がりやすい。
【0054】
このように、平線を使用する従来の歯ブラシでは、歯ブラシ用毛材を二つに折り曲げて植毛するため、歯ブラシ用毛材が異形断面形状の場合は、折れ曲がる方向が決まってしまい、歯ブラシ用毛材同士が上手く接触せずに植毛密度の高い歯ブラシが得られにくくなる。また、従来の歯ブラシは平線を使用しているため、歯ブラシ用毛材が平線のスペース分少なくなり植毛密度が得られにくくなる。
【0055】
これに対して、本発明の歯ブラシ用毛材は、無平線歯ブラシに使用されるためにこれらの問題を考慮する必要がないことから、至って無平線歯ブラシに適したものであると言える。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の歯ブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明の歯ブラシ用毛材はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
なお、実施例および比較例における歯ブラシ用毛材の諸物性および歯ブラシの実用評価については以下の通り行った。
【0058】
また、実施例および比較例における合成樹脂モノフィラメントの原料には、N610樹脂(東レ(株)社製 M2001)、PBT樹脂(東レ(株)社製 M1200S)を使用した。
【0059】
[植毛密度]
植毛された歯ブラシ用毛材の本数(平線歯ブラシの場合は二つに折り曲げて植毛するため、2倍に換算)を数え、植毛孔の単位面積(mm)当たりの植毛本数に換算した。
【0060】
[清掃性]
10mm立方のアクリル板の上表面に歯垢染色液(プラークチェック液)を均一に付着させ、作成した歯ブラシを使用して、アクリル板上表面を、垂直荷重350g、振幅長30mm、且つ振幅速度180往復/分の条件で3分間ブラッシングを行い、除去された歯垢染色液の面積を測定した。そして、ブラッシング前の歯垢染色液の付着面積と除去された歯垢染色液の面積から除去率(%)を求めた。除去率(%)の値が高いほど清掃性に優れていることを示す。
【0061】
[触感性]
15名のモニターに歯ブラシの触感性について、次の4段階で評価してもらった。
1・・・毛先の当たりが極めて良好で、優れた感触であった、
2・・・毛先の当たりが良く、触感も良好であった、
3・・・毛先の当たりに問題はないが、あまり触感が良くなかった、
4・・・毛先の当たりが悪く、触感も悪かった。
【0062】
〔実施例1〜6〕
エクストルーダー型溶融紡糸機にN610樹脂またはPBT樹脂を供給し、溶融紡糸機内で合成樹脂を溶融・混練させながら溶融パックへ押出し、溶融パックに取り付けられた口金の孔から溶けた合成樹脂を紡出した。この際、口金の孔の形状は、所望の断面形状に合ったものを使用した。
【0063】
次に、紡出された合成樹脂を冷却浴内で冷却固化し、引き続き高温媒体中で延伸および熱セットした後、油剤を付与して直径0.19mmの合成樹脂モノフィラメントを巻き取った。そして、巻き取った合成樹脂モノフィラメントを所望の長さにカットしてカットブリッスルを作製し、これを歯ブラシ用毛材とした。
【0064】
そして、10mm×22mm植毛域に直径1.5mmの植毛孔を28箇所有するABS製のヘッドインサートを用意し、この植毛孔に歯ブラシ用毛材を挿通して毛丈が12mmとなるように溶着固定し、さらにこのヘッドインサートを歯ブラシ本体に固定して無平線歯ブラシを作製した。
【0065】
〔実施例7〜8〕
実施例2および6で得られたカットブリッスルの束をアルカリ溶液に浸漬して化学処理を施し、カットブリッスルの一端にテーパー部を有する歯ブラシ用毛材を作製した。
【0066】
そして、得られた歯ブラシ用毛材を使用し、実施例2および6と同じ方法で無平線歯ブラシを作製した。
【0067】
〔比較例1〜2〕
断面形状を円形断面にしたこと以外は、実施例1および2と同じ製造方法でカットブリッスルを作製し、これを歯ブラシ用毛材とした。
【0068】
そして、得られた歯ブラシ用毛材を使用し、実施例1および2と同じ方法で無平線歯ブラシを作製した。
【0069】
〔比較例3〕
比較例2で得られたカットブリッスルの束をアルカリ溶液に浸漬して化学処理を施し、カットブリッスルの一端にテーパー部を有する歯ブラシ用毛材を作製した。
【0070】
そして、得られた歯ブラシ用毛材を使用し、実施例1および2と同じ方法で無平線歯ブラシを作製した。
【0071】
〔比較例4〕
長さを30mmにしたこと以外は、実施例2と同じ方法で歯ブラシ用毛材を作製した。次に、10mm×22mmのヘッド部に直径1.5mmの植毛孔を28箇所有するABS製の歯ブラシ本体を用意し、二つに折り曲げた歯ブラシ用毛材に平線を挟んで植毛し、毛丈12mmの平線歯ブラシを作製した。
【0072】
以上、本発明の歯ブラシ用毛材およびそれを用いた歯ブラシの評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、本発明の歯ブラシ用毛材(実施例1〜8)は、無平線歯ブラシに使用した場合、歯ブラシ用毛材同士が密着して高密度で植毛されるため、触感性に優れた歯ブラシが得られる。
【0075】
また、本発明の歯ブラシ用毛材は、高密度植毛による清掃性効果に加え、異形断面形状の頂点または凸部が毛材側面の長さ方向に沿って現れるため、この頂点または凸部が歯の表面の汚れを掻き落とす働きをするため、際立った清掃性効果が発揮される。
【0076】
これに対し、従来の円形断面の歯ブラシ用毛材を使用した歯ブラシや、従来の平線を使用した歯ブラシ(比較例1〜4)は、実施例1〜8に比べて植毛密度が低く、触感性および清掃性に欠けた歯ブラシであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の歯ブラシ用毛材を使用した無平線歯ブラシは、歯ブラシ用毛材が高密度に植毛されているために、従来の無平線歯ブラシに比べて触感性に優れた歯ブラシとなり、また、その断面が異形断面形状であるため、歯ブラシ用毛材の側面に異形断面形状の頂点または凸部が毛材の長さ方向に沿って現れて歯の表面の汚れを掻き落とす働きをし、高密度植毛による清掃性をさらに向上させるという際立った効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)、(b)ともに本発明の歯ブラシ用毛材の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)〜(k)は本発明の歯ブラシ用毛材の他の断面例を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)ともに本発明の歯ブラシ用毛材を無平線歯ブラシに使用した際の植毛部分を上方から見た拡大図である。
【図4】従来の歯ブラシ用毛材(円形断面)を無平線歯ブラシに使用した際の植毛部分を上方から見た拡大図である。
【図5】本発明の歯ブラシ用毛材(多葉形断面)の一例を示す断面図である。
【図6】(a)は従来の平線を使用した歯ブラシへ歯ブラシ用毛材を植毛する方法を示す説明図、(b)は植毛部分を上方から見た拡大図、(c)は従来の歯ブラシの斜視図である。
【図7】(a)は無平線歯ブラシへ歯ブラシ用毛材を植毛する方法を示す説明図、(b)は植毛部分を上方から見た拡大図、(c)は無平線歯ブラシの斜視図である。
【図8】(a)はテーパー部を有する従来の円形断面歯ブラシ用毛材を植毛した場合の歯ブラシの一部を側面から見た拡大図、(b)はテーパー部を有する本発明の歯ブラシ用毛材を植毛した場合の歯ブラシの一部を側面から見た拡大図である。
【符号の説明】
【0079】
1 歯ブラシ用毛材
2 凸部
3 凹部
4 外接円
5 内接円
6 中間円
7 テーパー部
8 先端部
11 植毛孔
12 ヘッドインサート
13 溶着部
14 歯ブラシ本体
15 ヘッド部
16 平線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記カットブリッスルの長さ方向に対して垂直な断面が円形以外の異形断面形状であり、前記カットブリッスルの長さが10mm〜25mmの範囲にあることを特徴とする歯ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記カットブリッスルの断面形状が3〜8つの頂点を有する多角形であることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記カットブリッスルの断面形状が3〜10つの凸部を有する多葉形であることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項4】
前記カットブリッスルの一端にテーパー部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した歯ブラシであって、前記歯ブラシ用毛材と歯ブラシ本体とが平線を使用せずに一体成型されていることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項6】
歯ブラシ用毛材と歯ブラシ本体とがヘッドインサートを介して一体成型され、前記歯ブラシ用毛材の一端またはテーパー部ではない一端を前記ヘッドインサートに設けられた植毛孔に挿通させた後、ヘッドインサートの反対側に突出した歯ブラシ用毛材の一端および/またはヘッドインサートの一部を熱溶着することによって歯ブラシ用毛材とヘッドインサートとを固定した後、さらにこのヘッドインサートが歯ブラシ本体に固定されていることを特徴とする請求項5に記載の歯ブラシ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−219520(P2009−219520A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63949(P2008−63949)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】