説明

歯ブラシ

【課題】本発明は、口腔疾患好発部位における歯垢除去機能に優れるとともに、口腔内軟組織に対する刺激も柔らかで、しかも外観差別性、使用性にも優れた歯ブラシの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、植毛穴1穴の刷毛断面積の総和を1.0mm以下、植毛穴の穴縁間隔を1.0mm以下、刷毛径を3〜10ミルの範囲とし、少なくともヘッド部植毛面の両側部側の最外側に位置する植毛穴を、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状とし、植毛穴の短軸方向をヘッド部の長さ方向に沿うように揃え、これら植毛穴の全ての長軸方向に平線を打ち込み、平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に1列に並べて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯間進入性、歯垢除去機能、外観差別性に優れるとともに、毛立ちも良好な平線植毛式の歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
平線植毛式の歯ブラシは、平線と呼ばれる金属片またはプラスチック片を用いて毛束を2つ折りに植毛穴に打ち込むことにより植毛している。このため、ヘッド部植毛面に形成される植毛穴は、隣り合う植毛穴同士の穴縁間隔を1.0mm以上とし、さらに、植毛する毛束も、1穴当たり刷毛本数16〜60本(折り返し本数で32〜120本)、折り返された状態での1穴当たりの刷毛断面積の総和が1.0mm以上の太い毛束を用いるのが一般的であった。
【0003】
上記のように太い毛束を用いた場合、植毛穴数の少数化と毛腰の向上をもたらすため、生産効率の向上につながるという利点があった。一方、太い毛束を用いた場合、口腔疾患の好発部位である歯頸部、歯間部、咬合面の小窩裂溝部などに刷毛先が届きにくく、口腔疾患予防上の問題が残されており、口腔衛生上好ましくない。
【0004】
すなわち、このような歯ブラシの場合、太い毛束による強力な清掃効果を実現できる一方で、毛束が太いためにブラッシング圧を毛束同士で支え合ってしまい、毛束を構成する刷毛単体が本来持っているしなやかな動きを発揮することができず、口腔疾患好発部位とされる歯間部、歯間三角などの小さな隙間部分に毛先が届きにくくなる。また、毛束が太い場合、歯間進入性が悪いほか、毛腰が硬くなりがちで、口腔粘膜に対する刺激も大きい。さらに、強度との関係で隣り合う植毛穴同士の穴縁間隔を1.0mm以上とする必要があり、デザイン上の制約も多くなることから、新奇性に乏しく、外観差別性も低かった。このため、従来においてはヘッド部やハンドルの形状、色などを工夫することにより、製品間の差別化を図っていた。
【0005】
この種の歯ブラシとしては、例えば、特許文献1に、植毛台の幅を8mm以内とするとともに、ハンドル長手方向と平行に毛束を4列以上配置し、さらに外側に位置する毛束を内側に位置する毛束よりも柔らかくした歯ブラシが示されている。しかし、この歯ブラシは、主としてバス法による歯磨き時の口腔内の粘膜に対する安全性の観点から外側の刷毛を柔らかくしたものであり、本発明とはその技術思想を異にするもので、本発明の特徴である植毛穴の穴縁間隔と植毛される刷毛の断面積との関係については何らの検討もなされていない。
【0006】
また、特許文献2には、長円形状の植毛穴に矩形状断面のフィラメントを植毛した歯ブラシが示されているが、本発明の特徴である植毛穴の穴縁間隔と植毛される刷毛の断面積との関係については何らの検討もなされていない。
【0007】
植毛穴の穴縁間隔を狭めて薄壁化した歯ブラシについても、例えば特許文献3などに示されているが、この発明の場合、平線を打ち込む植毛穴の間隔は一定方向において確保されているだけであり、さらに、本発明の特徴である植毛穴の穴縁間隔と植毛される刷毛の断面積との関係については何らの検討もなされていない。
【0008】
また、特許文献4には、植毛穴たる長孔の向きを長軸の向きが異なるように選択して組み合わせることにより、硬さ方向の異なる毛束を混在配置させた歯ブラシが、さらに、特許文献5、6には、ブラシ基台から多数の毛を突出させ、多数の毛は少なくとも断面楕円形の毛を複数含むようにした歯ブラシがそれぞれ示されているが、いずれも本発明の特徴である植毛穴の穴縁間隔と刷毛の断面積の総和との関係については何らの検討もなされていない。
【特許文献1】特開2000−300346号公報
【特許文献2】特開平11−318565号公報
【特許文献3】特開平11−113634号公報
【特許文献4】特開2002−10834号公報
【特許文献5】特開平10−327930号公報
【特許文献6】特開平10−327931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の平線植毛式歯ブラシでは、植毛のしやすさから大きめの植毛穴を採用し、隣り合う植毛穴の間隔も広めに設定していた。このため、使用する毛束も太くなるとともに、植毛された毛束同士の間隔も広くなりがちであった。
【0010】
歯ブラシの必要条件としては、歯垢除去効果に優れるだけでなく、口腔内粘膜に対する安全性が高い点も求められるが、従来の平線植毛式歯ブラシの場合、毛束が太いため、歯面のステイン除去機能には優れるが、歯肉などの軟組織に対する刺激が強く、特に歯周炎や歯周病の患者に使用させるには細心の注意が必要であった。このため、歯周炎や歯周病の患者などには、毛腰の柔らかな刷毛を用いた歯ブラシを使用させるのが通例であるが、毛腰が柔らかいために十分な歯垢除去機能を発揮できないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、最近接する植毛穴との間の穴縁間隔と、植毛穴に植毛される刷毛の断面積の総和とを最適な値に設定することにより、口腔疾患好発部位における歯垢除去機能に優れるとともに、口腔内軟組織に対する刺激も柔らかで、しかも外観差別性、使用性にも優れた歯ブラシを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)本発明は、ハンドルとヘッド部を有し、複数本の刷毛を束ねた毛束をヘッド部植毛面の植毛穴に平線を用いて2つ折りに植毛した歯ブラシにおいて、植毛穴の1穴あたりの刷毛断面積の総和を1.0mm以下とし、植毛穴において最近接する任意の植毛穴どうしの間の穴縁間隔を1.0mm以下とし、前記刷毛径を3〜10ミルの範囲とし、少なくともヘッド部植毛面の最外側に位置する植毛穴の一部を、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状とし、前記寸法割合を1.0よりも大きな穴形状とした植毛穴の全てにおいてそれらの長軸方向に平線を打ち込むとともに、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて配置したことを特徴とする。
(2)本発明において、前記長軸方向に平線を打ち込んでなる植毛穴において、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて1列に配置しても良い。
(3)本発明において、前記刷毛径を5〜8ミルの範囲としても良い。
(4)本発明において、前記刷毛断面積の総和を0.10〜0.70mmの範囲としても良い。
(5)本発明において、前記最近接植毛穴の間隔を0.25〜0.70mmの範囲としても良い。
(6)本発明は、ハンドルとヘッド部を有し、複数本の刷毛を束ねた毛束をヘッド部植毛面の植毛穴に平線を用いて2つ折りに植毛した歯ブラシにおいて、
ヘッド部植毛面の幅方向両側の最外側に位置する植毛穴の一部を、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状とし、前記寸法割合を1.0よりも大きな穴形状とした植毛穴の全てにおいてそれらの長軸方向に平線を打ち込むとともに、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて配置し、前記平線を長軸方向に打ち込んだ前記植毛穴の1穴あたりの刷毛断面積の総和を1.0mm以下とし、植毛穴において最近接する任意の植毛穴どうしの間の穴縁間隔を1.0mm以下とし、前記刷毛径を5〜8ミルの範囲としたことを特徴とする。
(7)本発明において、前記長軸方向に平線を打ち込んでなる植毛穴において、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて1列に配置しても良い。
(8)本発明において、前記刷毛断面積の総和を0.10〜0.70mmの範囲とし、前記最近接植毛穴の間隔を0.25〜0.70mmの範囲としても良い。
【0013】
従来の平線植毛式歯ブラシでは、直径1.5〜2.2mmの円形の植毛穴に1穴当たり16〜60本、折り返しで32〜120本程度の刷毛を植毛していた。しかしながら、このような太い毛束では刷毛同士がブラッシング圧を支え合ってしまい、歯間部や歯頸部、小窩裂溝部などの口腔疾患好発部へ毛先が進入しにくかった。
そこで、本発明では、植毛穴に植毛された刷毛の折り返された状態での1穴当たりの刷毛断面積の総和は1.0mm以下、より好ましくは0.10〜0.70mmの範囲としたものである。刷毛の断面形状が円形の場合を例に採ると、折り返し状態での刷毛の断面積の総和が1.0mm以下となるのは、7mil(直径0.178mm)用毛では1穴当たりおよそ5〜14本、折り返しで10〜28本に相当する。
【0014】
この刷毛本数は、設計上の歯ブラシ仕様と刷毛径、断面形状などにより適宜設定できる。1つの植毛穴に植毛される刷毛の断面積の総和が1.0mmを超えると、毛束としての強度が大きくなるため、剛性の高い毛束となって毛束の柔軟性が極端に低下し、好ましくない。
さらに、刷毛の断面積の総和が1.0mm以下の毛束を植毛した植毛穴と最近接する任意の植毛穴との穴縁間隔は1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.25〜0.70mmの範囲である。穴縁間隔が狭過ぎると、毛束の間隔も狭くなり、歯間に刷毛が入らず、歯間進入性が低下する。一方、穴縁間隔が広がると、外観差別性、使用感が低下する。植毛穴間隔が1.0mmを超えると、ブラッシング運動に伴う毛束の反発作用が強くなり、毛束のゴツゴツした感触が加わり、使用感が低下するばかりでなく、毛束の連続した運動が発揮されず、歯垢除去効果も低下する。
【0015】
本発明の歯ブラシは、細い毛束が最適な間隔で配置されるため、刷毛の1本1本が歯牙および歯肉に届きやすくなり、口腔疾患好発部位への毛先の到達性が改善される。また、少数の刷毛本数からなる毛束の植毛により、従来不可能であった細い毛束の連続した動きを発現させることができ、歯頸部、歯間乳頭部などの口腔粘膜に過大な負荷をかけることなく、歯垢除去、歯肉マッサージ機能を発現させることが可能となる。
上記条件を満たす植毛穴は、ヘッド部植毛面の任意の位置に形成すればよいが、歯間進入性をより向上させるためには、ヘッド部植毛面の両側部側の最外側に配置することが好ましい。この場合、刷掃実感やデザイン、生産性などの面から、ヘッド部植毛面の中央付近に太い毛束を配置するようにすれば、さらに好ましいものとなる。
【0016】
上記植毛穴の穴断面形状は通常用いられている円形や正方形でもよいが、楕円形または略楕円形、長円形または略長円形、長方形または略長方形など、穴断面に短軸方向(短径または短辺方向)と長軸方向(長径または長辺方向)を有する異形の穴形状とするのが好ましい。また、穴の向きを種々組み合わせて配置を設定することにより、目的とする毛の当たり心地、刷掃実感に応じた仕様の設計が可能である。また、ヘッド部植毛面の外側に位置して短軸が側縁に沿うように配列すると、同じ本数の刷毛を植毛した円形の毛束と比較して細く見え、外観差別性も向上させることができる。さらに、隣り合う植毛穴の平線同士の干渉を避けると同時により密毛化を図るため、植毛穴の配置を千鳥状としてもよい。
【0017】
植毛穴の長軸方向に沿って平線を打ち込めば、平線に沿って刷毛が並ぶため、植毛強度が向上する。また、平線の打ち込み方向によりヘッド部最外側の毛束が細く見えるため、外観差別性を向上させることができる。この際の植毛穴形状は、毛束と植毛穴の間隔を狭めるために略長方形が好ましい。また、短軸方向に沿って平線を打ち込む際には、毛束断面に対する外接円の直径と植毛穴の短軸方向を合致させることにより、植毛穴と毛束との空間をより少なくすることが可能となり、毛立ちの優れた植毛部を作成することができる。この際、使用する刷毛断面が円形の場合には、植毛穴形状を略楕円形、略長円形、略長方形とすればより好ましい。
【0018】
歯ブラシヘッド部は、形状、大きさ、デザインとも、何ら制限を受けない。また、歯ブラシで使用する平線の材質は、真鍮、ステンレスなどの金属のほか、硬質プラスチックや生分解性プラスチッなども使用可能である。また、平線の厚みを調節することによって、植毛穴と毛束とを確実に固定して空隙を少なくすることができる。使用する平線幅には特に制限はなく、任意に設定できる。
【0019】
歯ブラシのハンドル材料としては、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、飽和ポリエステル樹脂(PCTA,PCTG)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂(CP)、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)などの素材を単独または混合して用いることができる。また、熱可塑性エラストマーと組み合わせた多色成形ハンドルとすることも好ましい。なお、ハンドル材料は上記のものに限定されるものではない。
【0020】
刷毛(フィラメント)材料としては、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン6−10,ナイロン6−12,ナイロン12などのポリアミド、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニルなど、溶融紡糸可能な素材が利用されるが、使用感、耐久性などの点で、ナイロン、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、これらの刷毛を二重芯鞘状に成形して外側と内側の材質の異なる刷毛としたり、表面状態の異なる刷毛としたり、目的に応じて使い分けることが可能である。
【0021】
刷毛の太さとしては、3〜10ミル(0.076〜0.254mm)、好ましくは5〜8ミル(0.127〜0.203mm)のものがよく、使用性、刷掃感、清掃効果、耐久性を考慮して、これらを組み合わせて利用することも好ましい。特に、多数の植毛穴を配置した歯ブラシ仕様では、外側の毛束から中央に向かうに従って、刷毛の硬さを硬くしたり、太さ、材質、長さ、色、断面形状を変化させれば、使用感、外観差別化の上からより好ましい。
【0022】
刷毛の種類としては、通常のラウンド用毛、テーパー用毛、ダイヤモンド用毛、フェザー用毛、異形断面用毛、グレイニー用毛、スパイラルキャッチ用毛、インジケータ用毛など、種々のものを利用することができる。なお、刷毛の種類もこれらに限定されるものではない。
【0023】
さらに、上記刷毛に関しては、自由端の毛切り(あるいはプロファイル)形状と刷毛長を適宜設定することにより、毛束先端面を単一平面状としたり、山切り状としたり、凹凸形状とすることができる。さらには、植毛面の外側と内側、先端部と後端部などで異なった毛束構成としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、少なくとも一部の植毛穴について、最近接する任意の植毛穴との間の穴縁間隔を1.0mm以下、かつ、該植毛穴に植毛された刷毛の折り返された状態での1穴当たりの刷毛断面積の総和を1.0mm2以下としたので、口腔疾患好発部位における歯垢除去機能に優れるとともに、口腔軟組織に対する安全性が高く、しかも外観差別性、使用性にも優れた歯ブラシを得ることができる。
また、本発明によれば、上記条件を満たす植毛穴を少なくともヘッド部植毛面の最外側の一部に配置したので、ブラッシング時、刷毛が歯面に接し易くなり、歯間進入性をより向上させることができる。
【0025】
また、本発明によれば、穴縁間隔1.0mm以下の植毛穴として、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状の植毛穴を用いたので、植毛穴の向きを工夫することにより、側面からの毛束の見え方を変えることができ、植毛部の外観差別性を向上させることができる。さらに、植毛穴の短軸方向に沿って平線を打ち込むなど、平線の打ち込み方向を工夫すれば、植毛された毛束と植毛穴との間の隙間を可能な限り小さくすることができ、毛立ちの優れた植毛部を作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明するが、本発明は以下に説明する各実施の形態に制限されるものではない。
図1に本発明に係る歯ブラシの一実施の形態を示す。図1(a)は平線を用いて植毛穴に2つ折りに植毛された毛束の模式斜視図、(b)はその断面図、(c)は隣り合う2つの植毛穴の略示平面図である。
図において、1は複数本の刷毛2を束ねて構成された毛束であって、この毛束1を、平線3を用いて2つ折りにしてヘッド部植毛面5の植毛穴4に打ち込むことにより固定している。本発明においては、この毛束1の植毛に際して、最近接する植毛穴4,4との間の穴縁間隔Lを1.0mm以下とし、かつ、これら植毛穴4,4に植毛される刷毛2の折り返された状態での1穴当たりの刷毛断面積の総和を1.0mm以下となるように設定したものである。
【0027】
最近接する植毛穴4,4の穴縁間隔Lと、植毛される毛束1の刷毛2の断面積の総和とを上記のような値に設定すると、刷毛2の1本1本が歯牙および歯肉に届きやすくなり、口腔疾患好発部位への毛先の到達性が改善される。また、少数本の刷毛2からなる毛束1となるため、従来不可能であった細い毛束の連続した動きを発現させることが可能となり、歯頸部、歯間乳頭部などの口腔粘膜に過大な負荷をかけることなしに優れた歯垢除去、歯肉マッサージ機能を発揮することができる。
【0028】
なお、上記の形態では、植毛穴4の穴形状を長円形、刷毛2の断面形状を円形とし、平線3を長円形状をした植毛穴4の長手方向と直交する向きに打ち込んだ場合を示したが、植毛穴4の穴形状と刷毛2の断面形状、および平線3の打ち込み方向はこれに限定されるものではなく、例えば図2(a)〜(e)に示すように歯ブラシの仕様に応じて種々採用できるものである。
【0029】
図2(a)は、植毛穴4の穴形状を長円形、刷毛2の断面形状を円形とし、平線3を長円形状になる植毛穴4の長手方向に沿って打ち込んだ場合の例、図2(b)は、植毛穴4の穴形状を長方形、刷毛2の断面形状を円形とし、平線3を長方形状になる植毛穴4の長手方向に沿って打ち込んだ場合の例、図2(c)は、植毛穴4の穴形状を角部を丸めた長方形、刷毛2の断面形状を菱形(いわゆるダイヤモンド形)とし、平線3を角部を丸めた長方形状の植毛穴4の長手方向に沿って打ち込んだ場合の例、図2(d)は、植毛穴4の穴形状を円形、刷毛2の断面形状を円形とし、平線3を円形状になる植毛穴4の所定の方向(図示では上下方向)に打ち込んだ場合の例、図2(e)は、植毛穴4の穴形状を円形、刷毛2の断面形状を長方形とし、平線3を所定の向き(図示では上下方向)に打ち込むことにより、断面長方形状になる刷毛2を平線3と平行に並べた場合の例を示すものである。
【実施例】
【0030】
図3〜図26に本発明に係る歯ブラシの各試験例を示す。また、図27〜図29に比較例としての従来仕様の歯ブラシを示す。これら試験例および比較例中、試験例1〜16(図3〜図18)と比較例1〜3(図27〜図29)については、表1にその植毛仕様を示した。また、試験例17〜24(図19〜図26)については、それぞれの図中にそれぞれの植毛仕様を記載した。なお、説明を分かり易くするため、植毛穴4,6のみを示し、植毛穴4,6に植毛された毛束については図示を省略した。また、各図において、黒く塗り潰された植毛穴6は従来仕様の植毛穴、塗り潰されていない白抜きの植毛穴4は本発明の条件を満たす植毛穴を示すものである。
【0031】
【表1】

【0032】
上記試験例1〜24および比較例1〜3の各歯ブラシについて、疑似プラークを用いた清掃力試験および専門パネラーによる使用試験を行なった。その結果を表2に示す。
この試験結果から明らかなように、本発明の歯ブラシは、従来仕様の歯ブラシに比べて歯頸部、小窩裂溝部における歯垢除去能力、歯間進入性に優れ、しかも従来仕様の歯ブラシに比べて心地良い使用感を得られることが確認された。
【0033】
【表2】

【0034】
なお、表2中の歯垢除去効果、官能評価、総合評価の各判定は、それぞれ以下の基準によった。
(1)歯垢除去効果
◎:歯垢除去率80%以上
○:歯垢除去率50%以上、80%未満
△:歯垢除去率30%以上、50%未満
×:歯垢除去率30%未満
【0035】
歯垢除去率は、下式によって算出した。また、プラーク占有面積は画像解析により求めた。
歯垢除去率(%)={1−(刷掃後のプラーク占有面積/刷掃前のプラーク占有面積)}×100
【0036】
(2)官能評価
専門パネラー20名によってそれぞれ評価し、最も評価数の多い評価結果を当該官能評価についての判定結果とした。
◎:非常に良い
○:良い
△:どちらとも言えない
×:良くない
【0037】
(3)総合評価
◎:歯垢除去効果+官能評価の合計の◎が3つ以上
○:歯垢除去効果+官能評価の合計の◎が1〜2または○が3つ以上
△:歯垢除去効果+官能評価の合計の×が1〜2
×:歯垢除去効果+官能評価の合計の×が3つ以上
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る歯ブラシの一形態を示すもので、(a)は平線を用いて植毛穴に2つ折りに植毛された毛束の模式斜視図、(b)はその断面図、(c)は最近接する2つの植毛穴の略示平面図である。
【図2】(a)〜(e)は、植毛穴の形状と刷毛の植毛状態についての他の例を示す図である。
【図3】試験例1に係る歯ブラシを示すもので、(a)はヘッド部の略示拡大平面図、(b)は最近接する植毛穴部分の拡大平面図である。
【図4】試験例2に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図5】試験例3に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図6】試験例4に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図7】試験例5に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図8】試験例6に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図9】試験例7に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図10】試験例8に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図11】試験例9に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図12】試験例10に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図13】試験例11に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図14】試験例12に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図15】試験例13に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図16】試験例14に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図17】試験例15に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図18】試験例16に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図19】試験例17に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図20】試験例18に係る歯ブラシを示すもので、(a)は歯ブラシ全体の略示拡大平面図、(b)はヘッド部の略示拡大断面図である。
【図21】試験例19に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図22】試験例20に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図23】試験例21に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図24】試験例22に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図25】試験例23に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図26】試験例24に係る歯ブラシの略示拡大平面図である。
【図27】従来例(比較例1)に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図28】従来例(比較例2)に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【図29】従来例(比較例3)に係る歯ブラシのヘッド部の略示拡大平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 毛束
2 刷毛
3 平線
4 植毛穴
5 ヘッド部植毛面
6 植毛穴
L 穴縁間隔




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルとヘッド部を有し、複数本の刷毛を束ねた毛束をヘッド部植毛面の植毛穴に平線を用いて2つ折りに植毛した歯ブラシにおいて、
植毛穴の1穴あたりの刷毛断面積の総和を1.0mm以下とし、植毛穴において最近接する任意の植毛穴どうしの間の穴縁間隔を1.0mm以下とし、前記刷毛径を3〜10ミ
ルの範囲とし、
少なくともヘッド部植毛面の最外側に位置する植毛穴の一部を、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状とし、
前記寸法割合を1.0よりも大きな穴形状とした植毛穴の全てにおいてそれらの長軸方向に平線を打ち込むとともに、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて配置したことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記長軸方向に平線を打ち込んでなる植毛穴において、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて1列に配置したことを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記刷毛径を5〜8ミルの範囲としたことを特徴とする請求項1または2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記刷毛断面積の総和を0.10〜0.70mmの範囲としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記最近接植毛穴の間隔を0.25〜0.70mmの範囲としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の歯ブラシ。
【請求項6】
ハンドルとヘッド部を有し、複数本の刷毛を束ねた毛束をヘッド部植毛面の植毛穴に平線を用いて2つ折りに植毛した歯ブラシにおいて、
ヘッド部植毛面の幅方向両側の最外側に位置する植毛穴の一部を、短軸方向に対する長軸方向の寸法割合が1.0よりも大きな穴形状とし、
前記寸法割合を1.0よりも大きな穴形状とした植毛穴の全てにおいてそれらの長軸方向に平線を打ち込むとともに、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて配置し、
前記平線を長軸方向に打ち込んだ前記植毛穴の1穴あたりの刷毛断面積の総和を1.0mm以下とし、植毛穴において最近接する任意の植毛穴どうしの間の穴縁間隔を1.0mm以下とし、前記刷毛径を5〜8ミルの範囲としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項7】
前記長軸方向に平線を打ち込んでなる植毛穴において、各平線によって2つ折りに打ち込まれた刷毛を前記平線の両脇に沿って植毛穴の長軸方向に並べて1列に配置したことを特徴とする請求項6に記載の歯ブラシ。
【請求項8】
前記刷毛断面積の総和を0.10〜0.70mmの範囲とし、前記最近接植毛穴の間隔を0.25〜0.70mmの範囲としたことを特徴とする請求項6または7に記載の歯ブラシ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2006−297145(P2006−297145A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208939(P2006−208939)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【分割の表示】特願2003−185010(P2003−185010)の分割
【原出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】