説明

歯ブラシ

【課題】特に前歯に対してブラッシングを行う際に、あまり力を入れずに、歯面の歯間部から平滑部に亘って相当の接触領域でブラシ部の先端の毛先を押し当てた状態を保持して、効率良くブラッシングを行うことのできる歯ブラシを提供する。
【解決手段】ブラシ部16を側面から見たときに、毛束15a,15bの先端を結んだ稜線sが、ブラシ部16の先端部分に配置される小山部17と、小山部17の後方に連続する、小山部17よりもブラシ部長手方向Xの長さL2が大きく、且つ大山部18は、小山部17との間の谷底部から頂部18aまで植毛台11からの高さが徐々に高く形成されている。小山部17の頂部17aは、大山部18の頂部18aよりも高くなっており、小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lの長さは4.3〜9.2mmとなっている。谷底部19からこの線分Lに降ろした垂線Dの長さは0.8〜1.6mmとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関し、特に複数本のブリッスルを束ねてなる毛束を植毛台に複数植設してブラシ部が形成された歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシは、複数本のブリッスルを束ねてなる毛束を、例えば植毛台に設けられた複数の植毛穴に平線を打ち込んだり、熱で融着させる方法等によって植設固定することにより、複数の毛束からなるブラシ部を形成して得られるものである。また、歯ブラシは、歯面の歯間部と平滑部、歯面の頬側と舌側等の歯の部位や、前歯、奥歯等の歯の種類に応じた適切な刷掃を効率良く行うことができるように、毛束の配置やブラシ部の全体の形状、ブリッスルの形状等に種々の工夫がなされている。
【0003】
例えば、ブラシ部を側面から見たときに、毛束の先端を結んだ先端線の稜線の形状が、連設する山形や波形となるようにブラシ部を形成して、歯間部や歯の舌側(裏側)の凹状部等、特に奥歯の歯間に対する歯垢除去機能を向上させた歯ブラシが開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】実開昭62−102431号公報
【特許文献2】特開2006−130012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、効果的な歯の手入れの仕方として、ブラシ部の先端の毛先を歯面に押し当てながら、小さく細かな振動を与えてブラッシングを行う、スクラッビング法やバス法といった磨き方が知られている。このような磨き方では、あまり力を入れずにブラシ部の先端の毛先を歯面に押し当てた状態でも、歯面に対してできるだけ大きな接触面積を確保できるようにすることが望ましい。
【0005】
また、例えば、前歯を綺麗に見せるために着色除去性能に優れた歯磨き剤が種々開発されており、これらの歯磨き剤を用いて着色除去を目的とした歯の手入れを行う場合には、前歯の歯面の歯間部から平滑部に亘って、相当の接触面積でブラシ部の先端の毛先を押し当てた状態を保持して、効率良く前歯のブラッシングを行えるようにすることが望ましい。
【0006】
本発明は、奥歯と奥歯の歯間を磨きやすくするとともに、前歯に対してブラッシングを行う際に、あまり力を入れずに、歯間部から平滑部に亘って相当の接触面積でブラシ部の先端の毛先を押し当てた状態を保持して、効率良くブラッシングを行うことのできる歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、植毛台に植毛された複数の毛束からなるブラシ部を有する歯ブラシであって、該ブラシ部を側面から見たときに、毛束の先端を結んだ稜線が、ブラシ部の長手方向の先端部分に配置される小山部と、谷底部を挟んで前記小山部の後方に連続し、前記小山部よりもブラシ部の長手方向長さの長い大山部とを含む形状を備え、前記大山部は、前記小山部との間の谷底部から頂部まで植毛台からの高さが徐々に高く形成され、前記小山部の頂部の植毛台からの高さは、前記大山部の頂部の植毛台からの高さよりも高く、前記小山部の頂部と前記大山部の頂部とを結んだ線分の長さが4.3〜9.2mmで、前記谷底部から前記小山部の頂部と前記大山部の頂部とを結んだ線分に降ろした垂線の長さが0.8〜1.6mmである歯ブラシを提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯ブラシによれば、歯間部を効率よく磨くことを可能にしつつ、前歯に対してブラッシングを行う際に、あまり力を入れずに、歯間部から平滑部に亘って相当の接触面積でブラシ部の先端の毛先を押し当てた状態を保持して、効率良くブラッシングを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシ10は、図1(a),(b)に示すように、把持部(図示せず)と植毛台11とこれらの間に位置する首部12とからなる。歯ブラシ10は、歯ブラシ本体の植毛台11に形成した複数の植毛穴13(13a,13b)に、複数本のブリッスル14(14a、14b)を束ねてなる毛束(タフト)15(15a,15b)を各々植毛(植設)することによって構成される。ここで、本実施形態によれば、第1植毛穴13aは、例えば直径が1〜2.5mmの大きな直径の円形の植毛穴となっており、この第1植毛穴13aには、ひし形断面ブリッスル14aを束ねたひし形毛束15aが植設されている。また、第2植毛穴13bは、例えば直径が1〜2.0mmの、第1植毛穴13aと同じ、好ましくは第1植毛孔13aと比較して小さな直径の円形の植毛穴となっており、この第2植毛穴13bには、円形断面ブリッスル14bを束ねた円形毛束15bが植設されている。
【0010】
そして、本実施形態の歯ブラシ10は、複数の毛束15a,15bからなるブラシ部16を有し、ブラシ部16を側面から見たときに、毛束15a,15bの先端(歯ブラシ10の短手方向Yで最も高い毛束の先端)を結んだ稜線sが、ブラシ部16の長手方向Xの先端部分に配置される小山部17と、谷底部19を挟んで小山部17の後方に連続し、小山部17よりもブラシ部16の長手方向Xの長さL2が大きな大山部18とを含んだ形状を備えている。ここで、小山部17と大山部18の間の谷底部19とは、稜線sが描く小山部17と大山部18の間の最も低い位置を意味する。そして、大山部18は、谷底部19から当該大山部18の頂部18aまで植毛台11からの高さが徐々に高くなっている。また、大山部18の稜線18bは、谷底部19と大山部18の頂部18aとを結んだ直線の植毛台11の表面に対する傾きが、小山部17の稜線17bの谷底部19と小山部17の頂部17aとを結んだ直線の植毛台11の表面に対する傾きよりも小さくなっている。
【0011】
本実施形態の歯ブラシ10は、小山部17の頂部17aの植毛台11からの高さが、大山部18の頂部18aの植毛台11からの高さよりも高く、小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lの長さが4.3〜9.2mmとなっており、谷底部19から小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lに降ろした垂線Dの長さが0.8〜1.6mmとなっている。
【0012】
また、本実施形態では、毛束15a,15bの先端を結んだ稜線sは、大山部18の後方に谷底部20を挟んで連続し、小山部17と略対称形状の後方小山部21を含んだ形状を備えている。
【0013】
本実施形態では、歯ブラシ本体は、例えばポリプロピレン、ポリエステル、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)等の合成樹脂からなり、その植毛台11の平坦な表面には、長手方向Xの先端部分に3箇所の第1植毛穴13aが開口形成され、これらの第1植毛穴13aの後方部分には、ブラシ部16の巾方向Yに3列、合計8箇所の第2植毛穴13bが開口形成されている。またこれらの第2植毛穴13bの後方部分には、ブラシ部16の巾方向Yに1列、2箇所の第1植毛穴13aが開口形成されており、さらにこれらの第1植毛穴13aの後方部分には、ブラシ部16の巾方向Yに2列、合計6箇所の第2植毛穴13bが開口形成されている。そして、これらの第2植毛穴13bの後方部分には、ブラシ部16の長手方向Xの後端部分に位置して、ブラシ部16の巾方向Yに1列、2箇所の第1植毛穴13aが開口形成されている。
【0014】
これらの植毛穴13a,13bは、各々が1.5〜4.5mm程度の深さを有しており、各植毛穴13a,13bには、ひし形毛束15a、或いは円形毛束15bが、平線を打ち込む方法や熱で融着させる方法等によって、植毛台11の表面から7〜15mmの毛丈で植設されている。先端部分の3箇所の第1植毛穴13aには、ひし形毛束15aが植設されている。そして、これらのひし形毛束15aの後方の8箇所の第2植毛穴13bには、円形毛束15bが植設され、その後方の2箇所の第1植毛穴13aにひし形毛束15a、さらにその後方の6箇所の第2植毛穴13bに円形毛束15b、その後方の2箇所の第1植毛穴13aにひし形毛束15aが植設され、これがブラシ部16の後端に位置する。
【0015】
なお、本実施形態において、ひし形毛束15aとは全ブリッスル中の80〜100%がひし形断面ブリッスルとなっている毛束であり、円形毛束15bとは円形又は6角形以上の正多角形断面ブリッスルからなる毛束である。
【0016】
上述のようにして、ひし形毛束15a、及び円形毛束15bが歯ブラシ10の植毛台11に植設されることにより、ひし形毛束15aは、面積比で、ブラシ部16を構成する全毛束15a,15bの面積の総和の25〜75%の面積を占めている。ここで、各毛束15a,15bの面積は、各毛束15a,15bの根本部における断面積に相当し、これらが植設される第1植毛穴13a、第2植毛穴13bの開口面積を介して計算されるものである。本実施形態によれば、ひし形毛束15aは、ブラシ部16を構成する複数の毛束15a,15b内に面積比で25〜50%含まれていることが好ましく、30〜45%含まれていることがさらに好ましい。ひし形毛束15aが全毛束15a,15b内に面積比で25〜75%含まれていることにより、歯垢除去に有効であるという利点が得られる。
【0017】
ひし形毛束15aを構成するひし形断面ブリッスル14aは、ナイロン等の合成樹脂からなるフィラメント材であって、図3(a)に示すように、ひし形或いはひし形に近似する平行四辺形の断面形状を備えている。また、ひし形断面ブリッスル14aは、その毛径として、例えば断面二次半径の2倍が、6〜10mil(0.15〜0.25mm)の太さを有し、これを例えば十数本〜数十本束ねることによって、上述の第1植毛穴13aの開口形状に相当し、例えば1.0〜2.5mmの束径のひし形毛束15aが形成される。
【0018】
ここで、ひし形断面ブリッスル14aの断面形状は、ひし形又は平行四辺形形状の2本の対角線において、短い対角線に対する長い対角線の比(長い対角線/短い対角線)が1.2〜1.9となっていることが好ましい。短い対角線に対する長い対角線の比が1.2〜1.9となっていることにより、ブリッスルが歯間部位に入りやすくなると共に歯面の平滑部に対するブリッスルの接触面積が大きくなる利点が得られる。また、ひし形毛束15aは、当該毛束15aを構成するブリッスル中にひし形断面ブリッスル14aが80〜100%含まれていれば、ひし形毛束15aとしての機能を十分に発揮することが可能になる。なお、本実施形態によれば、各ひし形断面ブリッスル14aの先端の毛先には、ラウンド加工が施されている他、テーパー形状に加工することもできる。
【0019】
円形毛束15bを構成する円形断面ブリッスル14bは、ナイロン等の合成樹脂や、豚毛などの天然素材からなるフィラメント材であって、図3(b)に示すように、円形断面或いは6角形以上の正多角形断面を有している。また、円形断面ブリッスル14bは、その毛径として、直径が例えば6〜10mil(0.15〜0.25mm)の太さを有しており、これを例えば十数本〜数十本束ねることによって、上述の第2植毛穴13bの開口形状に相当する、例えば1.0〜2.0mmの束径の円形毛束15bが形成されることになる。また、本実施形態によれば、各円形断面ブリッスル14bの先端の毛先には、例えばラウンド加工を施すことができる他、テーパー形状や球状等に加工することもできる。
【0020】
そして、本実施形態の歯ブラシ10によれば、図1(b)及び図2に示すように、ブラシ部16を側面から見たときに、毛束15a,15bの先端(ブラシ部16の短手方向Yにおいて植毛台11からの高さが最も高い先端)を結んだ稜線sが、ブラシ部16の長手方向Xの先端部分に配置される小山部17と、谷底部19を挟んで小山部17の後方に連続する大山部18とを含む形状を備え、大山部18は、小山部17よりブラシ部16の長手方向Xの長さL2が長く、稜線18bの植毛台11表面に対する傾きが小山部17よりも小さくなっている。また、本実施形態によれば、ブラシ部16は、その巾方向Y(ブラシ部16の短手方向)に沿った各列の毛束15a,15bの先端による稜線が凹凸を成すものであっても良いが、毛束15a,15bの先端を同じ高さとして、巾方向Yに各列の毛束の先端を結んだ稜線を概ね水平に形成することが効率的なブラッシングの観点から好ましい。ここで、巾方向Yに各列の毛束の先端を結んだ稜線が概ね水平にある場合は、毛束を構成するブリッスル又は各毛束の高さの差があっても、当該差が0.3mmの範囲内、好ましくは0.1mmの範囲内にある。また、側面から見た稜線sが、中央の大山部18を挟んだ両側に、谷底部19,20を介して先端に小山部17、後端に後方小山部21が連続する、大山部18の中央を中心として略対称な形状を備えることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態では、小山部17の頂部17aを挟んだ両側の稜線17bは外側に凸の湾曲形状であって、曲率半径が2.0〜4.0mmとなっていると共に、後方小山部21の頂部21aを挟んだ両側の稜線21bもまた外側に凸の湾曲形状であって、曲率半径が2.0〜4.5mmとなっている。そして、大山部18の稜線18bも外側に凸の湾曲形状であって、小山部17と後方小山部21の稜線17b,21bよりも曲率半径が大きく、曲率半径が10〜25mmとなっている。
【0022】
さらに、本実施形態では、小山部17の頂部17aの植毛台11からの高さが、大山部18の頂部18aの植毛台11からの高さよりも高く、好ましくは0.2〜2.0mm、さらに好ましくは0.3〜0.7mm高い。小山部17の頂部17aの植毛台11からの高さが、大山部18の頂部18aの植毛台11からの高さよりも0.2〜2.0mm高くなっていることにより、小山部17を歯間に入れた状態で大山部18の歯面の平滑部への接触面積を大きくすることができる。
【0023】
そして、本実施形態では、小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lの長さが4.3〜9.2mmとなっており、5.0〜7.8mmとすることがさらに好ましい。この線分Lの長さを4.3〜9.2mmとすることにより、小山部17を歯間に入れた状態で大山部18の歯面の平滑部への接触面積を大きくすることができる。.
【0024】
また、谷底部19から小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lに降ろした垂線Dの長さは、0.8〜1.6mmとすることが好ましく、0.9〜1.3mmとすることがさらに好ましい。谷底部19から線分Lに降ろした垂線Dの長さを0.8〜1.6mmとすることにより、小山部17を歯間に入れた状態で、大山部18が歯面の平滑部に接触しやすくなり、特に前歯の歯面への接触面積を大きくすることができる。.
【0025】
さらに、本実施形態では、小山部17のブラシ部16の長手方向Xの長さL1は、4.0〜4.7mmであることが好ましく、4.3〜4.7mmであることがさらに好ましい。小山部17の長手方向Xの長さL1が、4.0〜4.7mmとなっていることにより、小山部17を歯間に入れた状態で、小山部17の山裾部の領域が歯面の平滑部に当たりにくくなり、谷底部19が歯面の歯間部に続く角部に位置しやすくなり、大山部18の平滑部への接触面積を大きくすることができる。
【0026】
さらに、本実施形態では、大山部18のブラシ部16の長手方向Xの長さL2は、5.8〜10.5mmとなっていることが好ましい。大山部18の長手方向Xの長さL2が、5.8〜10.5mmとなっていることにより、大山部18を構成する毛束の先端による稜線18bは、植毛台11からの高さが谷底部19から頂部18aに徐々に高く形成され、小山部17を歯間に入れた状態で大山部18の歯面の平滑部への接触面積を大きくすることができる。
【0027】
そして、上述の構成を備える本実施形態の歯ブラシ10によれば、小山部17によって歯間を効率良くブラッシングできると共に、大山部18によって歯面を効率よくブラッシング可能とし、特に前歯に対してブラッシングを行う際に、あまり力を入れずに、歯面の歯間部から平滑部に亘って相当の接触面積でブラシ部16の先端の毛先を押し当てた状態を保持して、効率良くブラッシングを行うことが可能になる。
【0028】
すなわち、本実施形態によれば、毛束15a,15bの先端を結んだ稜線sが、植毛台11の先端部分に配置される小山部17の稜線17bと、谷底部19を挟んで小山部17の後方に連続し、小山部17よりもブラシ部16の長手方向長さの長い大山部18の稜線18bとを含んだ形状を備えており、且つ小山部17の頂部17aが大山部18の頂部18aよりも高く、小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lの長さが4.3〜9.2mm、谷底部19から線分Lに降ろした垂線Dの長さが0.8〜1.6mmとなっている。したがって、小山部17によって歯間を効率よくブラッシングできるとともに、図4に示すように、ブラシ部16の先端の毛先を歯面に押し当てながら、小さく細かな振動を与えてスクラッビング法やバス法によって前歯22のブラッシングを行う際に、小山部17の頂部17aを前歯22の歯間部22aに挿入すれば、小山部17と大山部18との間の谷底部19が、前歯22の平滑部22bの角部分に近接して配置されると共に、大山部18の稜線18bを形成する毛束の毛先が前歯22の平滑部22bの広い領域に亘って当接することになるので、前歯22の歯間部22aと平滑部22bとを、同時に広い範囲に亘って効率良くブラッシングすることが可能になる。
【0029】
また、本実施形態によれば、毛束15a,15bの先端を結んだ稜線sが、大山部18の後方に小山部17と略対称形状の後方小山部21を含んだ形状となっているので、前歯22に対する歯ブラシ本体のブラッシング角度を換えて、後方小山部21の頂部21aを歯間に挿入可能とし、さらに、後方小山部21を前歯22の歯間部22aに挿入すれば、後方小山部21と大山部18との間の谷底部20が、前歯22の平滑部22bの角部分に近接して配置されると共に、大山部18の稜線18bを形成する毛束の毛先が前歯22の平滑部22bの広い領域に亘って当接することになるので、上述と同様に、前歯22の歯間部22aと平滑部22bとを、同時に広い範囲に亘って効率良くブラッシングすることが可能になる。
【0030】
さらに、本実施形態によれば、小山部17の稜線17bと大山部18の稜線18bとが湾曲凸面となっているので、小山部17を構成する毛束の先端は歯間部22aにおける歯面に当接しやすくなり、大山部18の稜線18bを構成する毛束の先端は、前歯22の平滑部22bに当接する面積を増やすことができる。
【0031】
図5(a),(b)は、本発明の好ましい他の実施形態に係る歯ブラシ30を示すものである。図5(a),(b)に示す歯ブラシ30では、植毛台11の巾方向Yの長さが、後端側から先端に向けて徐々に小さくなった先細形状に形成され、植毛穴13a、13bの数が歯ブラシ10よりも少ない。また、歯ブラシ30は、ひし形毛束15aが植設される第1植毛穴13a、及び円形毛束15bが植設され第2植毛穴13bは、1.7〜2.5mmの同じ内径で形成されている。そして、植毛台11の長手方向Xの先端部分の3箇所の第1植毛穴13aには、ひし形毛束15aが植設されている。これらのひし形毛束15aの後方の、3列合計15箇所の第1植毛穴13aや第2植毛穴13bには、中央列の先端側から1番目、3番目、及び4番目の第1植毛穴13aにひし形毛束15aが植設されており、その他の12箇所の第2植毛穴13bに円形毛束15bが植設されている。
【0032】
さらに、図5(a),(b)に示す歯ブラシ30では、毛束15a,15bの先端(短手方向Yにおいて植毛台11から最も高い毛束の先端)を結んだ稜線sが、植毛台11の先端部分に配置される小山部17と、小山部17の後方に連続する稜線18bを構成する大山部18とを含んだ形状を備えている。そして、大山部18の稜線18bは、小山部17よりも谷底部19から頂部18aまでの傾きが小さく形成されている。さらに、小山部17の頂部17aは大山部18の頂部18aよりも高くなっており、小山部17の頂部17aと大山部18の頂部18aとを結んだ線分Lの長さが4.3〜9.2mm、谷底部19から線分Lに降ろした垂線Dの長さが0.8〜1.6mmとなっている。このような構成を有することにより、図5(a),(b)に示す歯ブラシ30は、上記実施形態の歯ブラシ10と同様の作用効果を奏することになる。
【0033】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、小山部や大山部の稜線は湾曲形状となっている必要は必ずしもなく、直線状の山型となっていても、頂点を挟んで一方側のみ直線状となっていても良い。また、大山部の後方に先端側の小山部と概ね対称形状の後方小山部が設けられている必要は必ずしも無く、後方小山部は、省略されていても、小山部と非対称の形状であっても良い。さらに、ブラシ部を構成する複数の毛束にひし形毛束が含まれている必要は必ずしもない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により、本発明の歯ブラシをさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1,2〕
上記実施形態の歯ブラシ10と同様の構成を有する歯ブラシを実施例1の歯ブラシとした。上記他の実施形態の歯ブラシ30と同様の構成を有する歯ブラシを実施例2の歯ブラシとした。実施例1,2の歯ブラシについて、小山部の頂部と大山部の頂部とを結んだ線分Lを計測すると共に、谷底部から線分Lに降ろした垂線Dの長さを計測した。また、実施例1の歯ブラシのブラシ部の先端の毛先を、約200gの刷掃圧力で、図6(a)に示すような状態で額模型モデルの前歯の部分に押し当てた際の、歯ブラシの側面視で歯の平滑面への当該平滑面に沿った毛先の接触長さを測定した。さらに、実施例2の歯ブラシのブラシ部先端の毛先を、約200gの刷掃圧力で、図6(b)に示すような状態で額模型モデルの前歯の部分に押し当てた際の、歯ブラシの側面視で歯の平滑面への当該平滑面に沿った毛先の接触長さを測定した。計測した線分L及び垂線Dの長さ、及び測定した接触長さを各々表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
〔比較例1〜4〕
図7(a)のようなブラシ部を側面から見た形状を有する市販品Aを比較例1の歯ブラシとした。図8(a)のようなブラシ部を側面から見た形状を有する市販品Bを比較例2の歯ブラシとした。図9(a)のようなブラシ部を側面から見た形状を有する市販品Cを比較例3の歯ブラシとした。図10(a)のようなブラシ部を側面から見た形状を有する市販品Dを比較例4の歯ブラシとした。
【0038】
比較例1〜4の各歯ブラシについて、ブラシ部の先端の山部の頂部とこれに後続する山部の頂部とを結んだ線分Lを測定すると共に、これらの山部間の谷底部から線分Lに降ろした垂線Dの長さを測定した。測定結果を表1に示す.
【0039】
比較例1〜4についても、歯ブラシのブラシ部の先端の毛先を、約200gの刷掃圧力で、各々図7(b)、図8(b)、図9(b)、図10(b)に示す状態で額模型モデルの前歯部分に押し当てた際の、歯ブラシの側面視で歯の平滑面への当該平滑面に沿った毛束の接触長さを計測した。
【0040】
比較例1〜4の各歯ブラシについて、上記モデルにおいてブラシ部先端の毛先が前歯の平滑面に接触した長さの計測結果を表1に示す。
【0041】
図6(a)、図6(b)、図7(b)、図8(b)、図9(b)、図10(b)に示す、実施例1,2及び比較例1〜4の歯ブラシの、ブラシ部の前歯の平滑面への接触状況、及び表1に示す接触長さの計測結果によれば、本発明にかかる実施例1,2の歯ブラシは、歯面の歯間部から平滑部に亘って前歯の平滑部との間に大きな空隙を生じることなく、比較例1〜4の歯ブラシと比較して、前歯の歯面の平滑部と相当の大きさの接触領域を保持できることが判明した。
【0042】
〔比較例5、実施例3〕
比較例5の歯ブラシを図11に、実施例3の歯ブラシを図12に示す。比較例5、実施例3の歯ブラシは、図11(a)、図12(a)に示すように、実施例1と同じように植毛台11に植毛穴13a、13bが開口形成されている。比較例5の歯ブラシは、実施例1と同じように第1植毛穴13aにはひし形毛束15aが植設され、第2植毛穴13bには円形毛束15bが植設されているが、図11(b)に示すように、ブラシ部を側面からみた形状は、毛束15a、15bの植毛台からの高さが概ね均一で平切り形状である。実施例3の歯ブラシは、図12(b)に示すように、ブラシ部側面からみた形状は実施例1の歯ブラシと同じであるが、図12(a)に示すように、植毛穴13aと植毛穴13bのいずれにもひし形毛束15aが植設されている。尚、比較例5、実施例3の植毛穴13aの径は1.8mm、植毛穴13bの径は1.6mmで形成されている。
また、以下の歯垢又は汚れ除去の評価、使用感の評価において、実施例1の歯ブラシは、植毛穴13aの径を1.8mm、植毛穴13bの径を1.6mmのものを用いた。
そして、実施例1、実施例3、比較例5の歯ブラシの最も外周側にある植毛穴の外縁を結んだ植毛総面積は、137.4mm2であって、植毛穴の面積の総和は45.9mm2であった。
【0043】
実施例1、3及び比較例5の歯ブラシを用いて、歯垢又は汚れ除去効果を評価するために、以下の評価モデルにより評価した。歯垢または汚れ除去の評価モデルを以下に示す。
(方法)
(1)図13(a)に示すように、角部にR(曲率半径)が2.5mmの曲面を備える角型のアルミブロックの曲面同士を向き合わせて並置した歯モデルを作成する。
(2)(1)の歯モデルの歯面の歯垢又は着色汚れモデルとして、ビデオテープ(西友プライベートブランドの「S‘RIBBON」スタンダードタイプ(120分、型番3T120SR))を取り付け、これをビデオテープ磁性層とする。
(3)作成した着色汚れモデルを取り付けた歯モデル(アルミブロック)を試験台に装着し、ブラッシングマシーンを用い、各歯ブラシによる刷掃を行う(図13(a))。
(4)刷掃条件は、荷重300g、振幅30mm、速度120rpm、刷掃回数120(往復)として、歯磨剤0.5g(クリアクリーンプラスホワイトニング(花王製))を使用した。
(5)歯モデルの評価領域は、図13(b)に示すように、歯間部(アルミブロックのRが形成された領域)を除く歯間部を挟んだ両側の平滑面の領域とし、この評価領域においてビデオテープ磁性層の磁性層が剥がれてテープのベースが露出した(白くなった)部分の面積(mm2)を画像解析により算出し、汚れ除去面積とした。
【0044】
(結果)
実施例1、3、比較例5の歯ブラシについて行った汚れ除去効果の評価結果を表2に示す。表2には、各歯ブラシの評価モデルによる刷掃後の磁性層の写真と、汚れ除去面積、及び比較例5の歯ブラシによる汚れ除去面積を100%としたときの、実施例1、3の歯ブラシによる汚れ除去面積の相対評価を示した。さらに、表2には、女性3名の被験者による使用感も併せて示した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなように、比較例5の平切りの歯ブラシでは、歯間に歯ブラシが届き難いだけでなく、汚れ除去面積も小さく、同じ高さの毛束が全体として歯面、特に平滑部に突っ張るため、使用感はやや硬い磨き心地という評価であった。
実施例1、3のように本願発明の毛束先端の稜線形状を備える歯ブラシでは、比較例5のような毛束の高さが概ね均一な平切り形状に比べて、実施例1は約2.4倍、実施例3は約1.8倍の高い汚れ除去面積の結果が得られた。一方、実施例3のように、毛束の全てがひし形毛束である歯ブラシでは、汚れ除去面積は大きいが、実施例1に比べて剛性感があり、使用感では毛先が硬く感じられる評価であった。従って、実施例1は、実施例3よりもさらに歯垢又は汚れ除去の効果が高く、使用感においても高い評価を得た。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシの要部の構成を説明する、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシのブラシ部の先端部分の拡大側面図である。
【図3】(a)はひし形断面ブリッスルの説明図、(b)は円形断面ブリッスルの説明図である。
【図4】本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図5】本発明の好ましい他の実施形態に係る歯ブラシの要部の構成を説明する、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】(a)は実施例1の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図、(b)は実施例2の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図7】(a)は比較例1の歯ブラシのブラシ部の側面図、(b)は比較例1の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図8】(a)は比較例2の歯ブラシのブラシ部の側面図、(b)は比較例2の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図9】(a)は比較例3の歯ブラシのブラシ部の側面図、(b)は比較例3の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図10】(a)は比較例4の歯ブラシのブラシ部の側面図、(b)は比較例4の歯ブラシを用いて前歯をブラッシングする状況の説明図である。
【図11】(a)は比較例5の歯ブラシのブラシ部の平面図、(b)は側面図である。
【図12】(a)は実施例3の歯ブラシのブラシ部の平面図、(b)は側面図である。
【図13】(a)は着色汚れモデルを取り付けた歯モデルの説明図、(b)は歯モデルの評価領域の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10,30 歯ブラシ
11 植毛台
12 首部
13a 第1植毛穴
13b 第2植毛穴
14a ひし形断面ブリッスル
14b 円形断面ブリッスル
15a ひし形毛束
15b 円形毛束
16 ブラシ部
17 小山部
17a 小山部の頂部
17b 小山部の稜線
18 大山部
18a 大山部の頂部
18b 大山部の稜線
19,20 谷底部
21 後方小山部
21a 後方小山部の頂部
21b 後方小山部の稜線
22 前歯
22a 前歯の歯面の歯間部
22b 前歯の歯面の平滑部
s 毛束の先端を結んだ稜線
X ブラシ部の長手方向
Y ブラシ部の巾方向
L 小山部の頂部と大山部の頂部とを結んだ線分
L1 小山部のブラシ部長手方向の長さ
L2 大山部のブラシ部長手方向の長さ
D 谷底部から線分Lに降ろした垂線の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛台に植毛された複数の毛束からなるブラシ部を有する歯ブラシであって、
該ブラシ部を側面から見たときに、毛束の先端を結んだ稜線が、ブラシ部の長手方向の先端部分に配置される小山部と、谷底部を挟んで前記小山部の後方に連続し前記小山部よりもブラシ部の長手方向長さの長い大山部とを含む形状を備え、
前記大山部は、前記小山部との間の谷底部から頂部まで植毛台からの高さが徐々に高く形成され、
前記小山部の頂部の植毛台からの高さが、前記大山部の頂部の植毛台からの高さよりも高く、
前記小山部の頂部と前記大山部の頂部とを結んだ線分の長さが4.3〜9.2mmであり、前記谷底部から前記小山部の頂部と前記大山部の頂部とを結んだ線分に降ろした垂線の長さが0.8〜1.6mmである歯ブラシ。
【請求項2】
前記小山部と前記大山部は、前記谷底部を挟んだ領域において外側に凸の湾曲した形状を備えている請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記毛束の先端を結んだ稜線が、前記大山部の後方に谷底部を挟んで連続し、前記小山部と略対称形状の後方小山部を含んだ形状を備える請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記小山部の頂部の植毛台からの高さが、前記大山部の頂部の植毛台からの高さよりも0.2〜2.0mm高い請求項1〜3のいずれかに記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記小山部の前記ブラシ部の長手方向長さが、4.3〜4.7mmである請求項1〜4のいずれかに記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記複数の毛束が、ひし形断面ブリッスルを束ねたひし形毛束を含む請求項1〜5のいずれかに記載の歯ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−273760(P2009−273760A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129474(P2008−129474)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】