説明

歯周疾患検査方法

【目的】 歯周疾患の進行程度を診断及び予測する。
【構成】 口腔内から採取した検体にALP(アルカリフォスファターゼ)活性測定用基質、例えばp−ニトロフェニルリン酸2ナトリウムをpH7.5〜11の緩衝液中で反応させ、その発色程度から歯周疾患の程度を診断する。この場合、検体を45〜70℃で1〜15分間処理することにより、歯周病原性細菌由来のALPを選択的に検出できる。
【効果】 この検査方法は、発色程度が高い程歯周疾患進行程度が高いもので、これにより歯周疾患の進行程度を迅速、簡便かつ正確に判定できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、歯肉炎、歯周炎等の歯周疾患を容易に検査することができる歯周疾患検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、歯肉炎、歯周炎等の歯周疾患の検査方法としては、歯垢中の歯周病原性細菌を直接又は間接的に検出する方法や、歯肉溝浸出液などから炎症性酵素を検出する方法が知られており、例えば下記の■〜■に示す方法が提案されている。
【0003】〔歯垢中の歯周病原性細菌の検出〕
■ モノクローナル抗体法バクテロイデス・ジンジバリス(Bacteroides gingivalis)に対するモノクローナル抗体を用いて、歯周病の病巣におけるバクテロイデス・ジンジバリスの動態を調べる歯周病診断法(特開昭60−73463号公報)。アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)に特異的なモノクローナル抗体を用いた検査方法(特開昭62−211558号公報)。
■ DNAプローブ法ヒト口腔病変関連の微生物又はヒト細胞をDNA又はRNAプローブを用いて検出する方法(特開昭61−257200号公報)。
■ 細菌産生酵素検出法特定の基質を用いて細菌が産生するアミノペプチダーゼ様酵素活性を特異的に測定し得る歯周疾患検査薬(特開昭63−36800号、同63−87999号公報)。
【0004】〔炎症性酵素の検出〕
■ 歯肉溝液中の中性蛋白分解酵素、特にコラゲナーゼ酵素活性を検出する方法(特開昭61−71000号公報)。
■ パーオキシダーゼ酵素活性を測定することにより、歯周疾患を検出する唾液診断試験(特開昭60−222768号公報、同61−254854号公報)。
■ 口腔内に存在する白血球エステラーゼ量を測定する方法(特開昭64−34299号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、■の方法はモノクローナル抗体を得るのに高度な技術が必要である上、判定までに時間を要し、■のDNAプローブ法は高感度であるものの、アイソトープの使用など操作性に問題があった。また、■の方法は操作性は良いが、感度が十分とはいえない。更に、炎症性酵素を測定する■〜■の方法は、臨床との対応が現状では十分明確であるとはいえない。
【0006】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、歯周疾患の診断或いはその進行の予測を迅速、簡便かつ正確に行うことができる歯周疾患検査方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、唾液等の口腔内から採取された検体中のアルカリフォスファターゼ(以下、ALPと略す)活性の程度が歯肉炎、歯周炎等の歯周疾患の程度と対応し、この検体にALP活性測定用基質を反応させ、発色の程度を調べた場合、歯周疾患の進行程度が高ければ高い程、発色の程度も高く、従って発色の程度から歯周疾患の程度を検知することができること、そしてこの方法によれば、口腔内から採取した検体にALP活性測定用基質を反応させ、発色程度からこの検体中のALP活性を測定するだけであるから、簡単な技術及び操作で短時間に、しかも、肉眼で容易に歯周疾患の進行状態を客観的に診断できることを知見した。
【0008】この場合、ヒト血清中のALP活性を測定する方法としては、従来、特開平2−9397、2−207800、2−35098、3−83599号公報に提案があるが、本発明は口腔内から採取した検体のALP活性を直接測定するもので、これにより歯周疾患の程度を正確に判定し得ること、この際、口腔から採取した検体中のALP活性は血中のALP活性などに比較し、非常に微量であるため、明確な検出が行われない場合もあり、また時間を要することもあるが、ALP活性測定用基質としてフェニルリン酸、p−ニトロフェニルリン酸、β−グリセロリン酸、トルイジニウム・ブロモインドイルリン酸、アミノフェニルリン酸、ナフトールリン酸、ナフチルリン酸やそれらの塩、特にp−ニトロフェニルリン酸又はその塩を使用し、またより好ましくは反応をpH7.5〜11の緩衝液、特にアミン系バッファー中で行うことにより、感度が上昇し、口腔より採取した検体中のALP量が少なくともその測定が可能となり、より正確な病態を判定し得、反応時間もより短縮化し得ることを知見したものである。
【0009】更に、従来のALP活性の測定方法は、生体由来、細菌由来など、種々の由来のALPをまとめて測定するので、ALP活性の由来を明確にすることができず、従来法ではこれらを分離測定するのは困難であった。ところが、口腔内から採取した検体を45〜70℃で1〜15分間熱処理した後、そのALP活性を測定すると、バクテロイデス・ジンジバリス等の歯周病原性細菌由来のALP活性を特異的に検出し、ALPを由来により分けて病原性菌の存在を確認し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】なお、口腔より採取した検体中のALPは、バクテロイデス・ジンジバリス、スピロヘータ等の歯周疾患原因菌、及び白血球、血清等の生体(ヒト)からのものに由来するが、本発明によれば、原因菌の存在、それに伴う炎症反応(白血球遊走、出血)により、ALP活性が上昇するので、ALP活性を測定することにより、歯周疾患の程度を診断し或いはその進行を予測し得るものと考えられる。
【0011】以下、本発明につき更に詳述すると、本発明の歯周疾患検査方法は、口腔内から採取した検体のALP活性をALP活性測定用基質を用いて測定するものである。
【0012】ここで、検体としては、口腔内から採取したものであればいずれのものでもよく、例えば唾液,歯垢,歯肉溝浸出液などが好適である。
【0013】また、ALP活性測定用基質としては、例えばフェニルリン酸、p−ニトロフェニルリン酸、β−グリセロリン酸、トルイジニウム・ブロモインドイルリン酸、アミノフェニルリン酸、ナフトールリン酸、ナフチルリン酸やそれらの塩等の合成基質が好適に用いられ、これらの中でもp−ニトロフェニルリン酸及びその塩がより好ましいが、基質はこれらに限定されるものではない。なお、基質の使用量は0.001〜50mg/ml(緩衝液+検体)とすることが好ましい。
【0014】上記検体と基質との反応は0.01〜5モルで、pH7.5〜11のジエタノールアミンバッファー等のアミン系バッファー、炭酸バッファー、グリシンバッファー、ホウ酸バッファーなどの緩衝液、とりわけジエタノールアミンバッファー等のアミン系バッファー中で行うことが、上記反応を最適に(短時間で感度よく)行うことができる点から推奨される。なお、これらの緩衝液中には、アルカリフォスファターゼと基質の反応を効果的に進める目的でMgイオン、Znイオン、Mnイオンなどの金属イオンを添加することができる。
【0015】本発明の方法では上述した検体と基質とを好ましくは上記緩衝液中で反応させ、反応後の発色程度を判定するが、この場合検体と基質、更に緩衝液を混合後、20〜40℃で1〜30分間反応させることが好ましい。
【0016】反応終了後は、発色の程度を吸光度計、肉眼等により判定することで歯周疾患の程度や進行の予測を行うものである。
【0017】なお、発色の程度をより明瞭化するため、発色試薬を添加することができる。発色試薬としては基質の特性に応じたものが選定され、例えばモリブデン酸、アミノアンチピリン、カップリング剤、ファストレッド、ファストブルー、ファストブラック、ファストガーネット等を用いることができる。
【0018】ここで、上述した方法により口腔内から採取した検体中のALP活性を測定し得るが、本発明において、口腔内から採取した検体を熱処理する前処理を行うことにより、歯周病原性細菌のALPのみを検出することができる。
【0019】この熱処理条件としては、水浴上、恒温槽などで検体を好ましくは45〜70℃、より好ましくは55〜65℃の条件下で1〜15分間保温し、その後氷などで冷却して反応を停止する方法が好適である。このように前処理された検体を上記基質と反応させた後、その発色の程度を判定することによって歯周病原性細菌の存在を確認できる。
【0020】
【発明の効果】本発明の検査方法によれば、歯肉炎等の歯周疾患の進行程度の診断や予測を迅速、簡便かつ正確に判定することができる。従って、本発明方法は非常に実用的である。
【0021】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0022】〔実施例1〕下記方法により本発明の歯周疾患検査方法の有効性を調べた。
試験方法臨床所見上、歯肉が正常と認められた健常者2名、軽度歯肉炎と認められた者2名、重度歯肉炎と認められた者1名、歯周炎と認められた者2名のそれぞれから唾液を採取し、唾液中のALP活性を測定した。
【0023】即ち、p−ニトロフェニルリン酸2ナトリウム(2mg/ml)含有のジエタノールアミンバッファー(1.0M,pH10.0)0.5mlに唾液0.05mlを添加し、37℃で5分間反応させた。次いで、反応停止のため0.1規定NaOH溶液0.5mlを加えた後、発色の程度を肉眼により下記基準で判定した。結果を表1に示す。
色の変化の判定基準:発色しない −やや発色する ±発色する +強く発色する ++
【0024】
【表1】


【0025】表1の結果より、歯周疾患患者の唾液は、健常者の唾液に比べて高い発色が認められ、従って口腔から採取した検体中のALP活性を測定することにより、歯周疾患の診断を客観的に、しかも短時間に行うことができることがわかった。
【0026】〔実施例2〕臨床所見上、歯肉が正常と認められた健常者2名と歯周炎と認められた者2名のそれぞれから唾液を採取し、唾液中のALP活性を実施例1と同様にして測定した。
【0027】比較のため、市販の血清中ALP測定キット〔アルカリ性ホスファBテストワコー(和光純薬工業社製)〕を用いて唾液中のALP活性を測定した。
【0028】判定は吸光度計により405nmの値を測定することによって行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】


【0030】表2の結果より、本発明方法によれば高感度に歯周疾患の診断を行うことができることが認められた。
【0031】〔実施例3〕臨床所見上、健常とみなされる成人男子の血清、白血球をそれぞれ採取したもの、及び歯周病原性細菌であるバクテロイデス(ポルフィロモナス)・ジンジバリス381株を検体とし、これらの検体を0.05mlずつ2本の試験管に分け、活性剤(トライトンX100など)を添加した後、一方の試料を56℃水浴中で10分間保温し、その後氷冷して温度を下げた。
【0032】次に、実施例1と同様の方法により熱処理した検体と未処理の検体のALP活性を吸光度計を用いて405nmの波長で測定した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】


【0034】表3の結果より、口腔検体中のALP活性の由来とされるもののうち、バクテロイデス・ジンジバリス381株のみが上記熱処理において安定であることが示され、口腔から採取された検体のALP活性のうち歯周病原性細菌のALPのみを特異的に検出できることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 口腔より採取した検体をアルカリフォスファターゼ活性測定用基質と反応させ、その発色の程度から歯周疾患の程度を診断することを特徴とする歯周疾患検査方法。
【請求項2】 反応をpH7.5〜11のアミン系緩衝液中で行うようにした請求項1記載の方法。
【請求項3】 口腔より採取した検体を45〜70℃の温度で1〜15分間熱処理する前処理を施した後、該検体中のアルカリフォスファターゼ活性を測定するようにした請求項1又は2記載の方法。