説明

歯周病予防剤または/および改善剤をスクリーニングする方法ならびにその方法に用いる歯周病動物モデルの作製方法

【課題】メタボリックシンドロームに起因して増悪する歯周病を予防し、または/および増悪した歯周病を改善または治療することができる剤をスクリーニングする方法、ならびに、前記したスクリーニング方法に用いる歯周病動物モデルを作製する方法を提供すること。
【解決手段】メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、被検試料または対照試料を投与するとともに、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種することを含む歯周病予防剤または/および改善剤をスクリーニングする方法、ならびに、メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種して歯槽骨の吸収を引き起こさせることを特徴とする歯周病動物モデルの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームに起因して増悪する歯周病を予防し、または/および増悪した歯周病を改善することができる剤をスクリーニングする方法、ならびに、かかる方法に用いる歯周病動物モデルおよび歯周病動物モデルの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタボリックシンドロームが歯周病増悪のリスク要因になることが注目されており、これらの疾患の関係に着目した、生活習慣病である2つの疾患に対する対策が重要視されている。
【0003】
そこで、このメタボリックシンドロームのリスクを保有するヒトの歯周病を予防・改善する剤をスクリーニングするためには、イン・ビトロ(in vitro)における一次スクリーニングに加えて、メタボリックシンドロームと歯周病とを併せ持った非−ヒト動物評価系が望まれる。
【0004】
歯周病評価モデルとしてはリガチャーにより歯槽骨吸収を誘導するモデルが主流であるが、ヒトの歯周病は歯周病原菌が引き金となって発症するものであり、ヒトの病態に近い評価を行うためには、歯周病原菌により歯槽骨吸収を誘導する感染モデルにおいて予防・改善剤を評価することが望ましい。
【0005】
しかしながら、現状においては、健常動物を用いた歯周病原菌感染モデルは多くの報告があるものの(非特許文献1および2)、メタボリックシンドローム(または、肥満症、2型糖尿病)動物を用いた歯周病評価においてはリガチャーモデル(非特許文献3)、頭蓋冠骨への感染モデル(非特許文献4)、リガチャーに歯周病原菌を保持させた感染モデル(非特許文献5)が報告されているのみで、歯周病原菌を口腔内に直接接種することで歯周病に感染した動物モデルによる歯槽骨吸収評価は報告されていない。
【0006】
これらの現状を詳細にみると、過食モデル(例えば、レプチン受容体欠損)では摂食回数が増えるために口腔内で歯周病原菌が定着しにくくなり、また、食餌性の肥満動物の場合は高脂肪の食餌を与える必要があり、高脂肪食摂取下においては口腔内で歯周病原菌が定着しにくくなるため、従来の感染方法では、非特許文献5で報告されているリガチャーに菌を物理的に保持させる方法以外に、歯周病原菌の感染により歯槽骨吸収を誘導する方法は存在しなかった。
【0007】
また、1型糖尿病動物への歯周病原菌感染モデルが報告されているが(非特許文献6)、これは健常動物の膵臓を薬剤投与によって破壊して1型糖尿病を発症させるものであり、健常動物への感染方法と同様の方法で歯槽骨吸収を誘導することが可能であった。
【0008】
しかし、1型糖尿病は、膵臓の破壊によりインスリンが分泌されずに糖尿病病態を発症するものであり、肥満症やメタボリックシンドロームの増悪によりインスリンに対する感受性が低下して糖尿病病態を発症する2型糖尿病とは発症機構が全く異なるものである。
【0009】
したがって、メタボリックシンドローム(または肥満症/2型糖尿病)の動物モデルに歯周病原菌を直接接種することにより歯槽骨吸収を誘導する方法はこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hamada,N.ら,J. Periodontol.,2007,Vol. 78:pp.933-9.
【非特許文献2】Kesavalu,L.ら,J. Dent. Res.,2006,Vol. 85(7):pp.648-52.
【非特許文献3】Pontes Andersen C.C.ら,J. Periodontol.,2007,Vol.78:pp.559-65.
【非特許文献4】Nishihara,R.ら,J. Periodont. Res.,2009,Vol.44:pp.305-10.
【非特許文献5】Amar,S.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 2007,Vol.104(51):pp.20466-71.
【非特許文献6】Lalla,E.,J. Periodont. Res., 1998, Vol.33:387-99.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
歯周病原菌感染モデルは、若齢であれば短期間の感染で歯槽骨吸収が誘導されるが、週齢が進むと長期間にわたって感染を続行しなければ歯槽骨吸収は起こらない。一方で、メタボリックシンドローム動物モデルでは、若齢で疾患を発症するモデルは存在せず、週齢が進んだ疾患発症動物に対して歯周病原菌の感染を成立させる必要がある。また、メタボリックシンドローム病態は骨代謝の異常を引き起こすことが知られており、週齢が進むとともに生理的な骨吸収が健常動物よりも顕著に進む。したがって、長期間にわたって感染を続行すると生理的な骨吸収と感染による骨吸収との差が小さくなり、歯周病原菌の感染による歯槽骨の評価を行うことが困難になってしまう。これらのことから、メタボリックシンドローム動物において歯周病感染モデルを構築するうえでは、感染の方法と期間が課題であった。
したがって、本発明の第1の目的は、メタボリックシンドロームに起因して増悪する歯周病を予防または/および増悪した歯周病を改善することができる剤をスクリーニングする方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、前記したスクリーニング方法に用いる歯周病動物モデルを作製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタボリックシンドローム、肥満症または2型糖尿病の動物モデルにおいて歯周病原菌を特定の時期的間隔で複数回接種することによりこれらの病態動物モデルにおいて歯周病の病態を確立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は:
[1] 歯周病予防または/および改善剤をスクリーニングする方法であって、
1)メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、被検試料または対照試料を投与するとともに、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種し;ついで
2)被検試料を投与した動物と対照試料を投与した動物との歯槽骨の吸収を調べる
ことを含む該方法;
[2] 6〜15週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する前記[1]記載の方法;
[3] 細菌懸濁液を一定の間隔をあけて2〜4回接種し、ついで、一定の期間を置いた後に1〜4回の接種を2〜4回繰り返す前記[1]または[2]記載の方法;
[4] 歯周病動物モデルの作製方法であって、
メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種して歯槽骨の吸収を引き起こさせることを特徴とする該方法;
[5] 6〜15週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する前記[4]記載の方法;
[6] 8〜10週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する前記[4]記載の方法;
[7] 細菌懸濁液を一定の間隔をあけて2〜4回接種し、その後、一定の期間を置いた後に1〜4回の接種を2〜4回繰り返す前記[4]ないし[6]のいずれか1に記載の方法
を提供するものである。
さらに本発明は、
[8] メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物がSHR/NDmcr-cp(cp/cp)ラットである前記[1]記載の方法;
[9] レッドコンプレックスに属する細菌がポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)である前記[1]記載の方法;
[10] 9週齢のSHR/NDmcr-cp(cp/cp)ラットに細菌懸濁液の接種を開始する前記[8]記載の方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メタボリックシンドロームを患うヒトの口腔に類似した条件下で歯周病の予防または/および改善効果を奏する剤をスクリーニングすることができ、ヒトにおける臨床試験の前に使用して効果および安全性などについて候補剤をスクリーニングし得る動物モデルを提供することができる。
また、本発明によれば、メタボリックシンドローム患者における歯周病疾患の病態メカニズムを調べる動物モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1の態様の歯周病原菌懸濁液の接種スケジュール(1日間隔で3回接種(1接種群)、第1〜3接種群、接種群間の期間9日)を示す模式図である。
【図2】9週齢のメタボリックシンドローム動物モデル(SHR/NDmcr-cp(cp/cp)ラット(以下、「SHR/cpラット」という))に歯周病原菌(P. gingivalis ATCC 33277)を3回接種(1接種群)した場合の歯槽骨吸収量を示すグラフである。
【図3】9週齢のメタボリックシンドローム動物モデル(SHR/cpラット)に歯周病原菌(P. gingivalis ATCC 33277)を9回接種(3接種群)した場合の歯槽骨吸収量を示すグラフである。
【図4】メタボリックシンドローム動物モデル(SHR/cpラット)およびその起源動物(WKY/Izmラット(以下、「WKYラット」という))に歯周病原菌(P. gingivalis ATCC 33277)を9回接種(3接種群)した場合の歯槽骨吸収量を示すグラフである。
【図5】6〜15週齢のメタボリックシンドローム動物モデル(SHR/cpラット)に歯周病原菌(P. gingivalis ATCC 33277)を9回接種(3接種群)した場合の歯槽骨吸収量を示すグラフである。
【図6】モクセイ科オリーブ属植物の成分オレウロペインおよびヒドロキシチロソールによる歯周病改善(歯槽骨吸収抑制)効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は第1の態様において、歯周病の予防または/および改善剤のスクリーニング方法を提供する。
また、本発明は、第2の態様において、かかる歯周病動物モデルの作製方法を提供する。
さらに、本発明は、1の態様において、かかる作製方法により作製した歯周病動物モデル、歯周病予防または/および改善剤スクリーニングのためのメタボリックシンドローム動物モデルの使用を提供する。
詳細には、メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、被検試料または対照試料を投与するとともに、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種して歯周病を確立し、被検試料または対照試料を投与した動物の歯槽骨の吸収を調べることを含む歯周病予防剤をスクリーニングする方法、ならびにかかる歯周病が確立された歯周病動物モデルの作製方法およびかかる方法により作製した歯周病動物モデルを提供する。
ここに、対照試料とは歯周病に影響しないことが知られている物質または精製水をいう。
【0017】
本発明のスクリーニング方法の対象となる物質(被検試料)は、ヒトの歯周病を予防または/および改善する効果が予想される物質であり、自然界に存在する物質ならびに人工的に合成された物質および将来的に発見または合成される物質の両方が含まれる。ここに歯周病の予防効果とは歯周病の発症を阻害する効果をいい、歯周病の改善効果とは歯周病の進行を阻害して恒常性を維持する効果をいい、歯周病の予防および改善効果とはこれら両方の効果をいう。
【0018】
また、本発明において用いるメタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物には、メタボリックシンドロームモデルとして公知のげっ歯類動物であれば特に限定されるものではないが、例えば、食餌により誘導させてメタボリックシンドロームを発症させたげっ歯類動物や遺伝的要因により肥満症または2型糖尿病などのメタボリックシンドローム病態を発症することが知られているげっ歯類動物が含まれ、例えば、遺伝的要因によるげっ歯類動物の例としてはラット、マウス、ハムスター、モルモットなど、具体的には、SHR/cpラット、Zucker Fattyラット、Zucker Diabetic Fatty(ZDF)ラット、Wistar fattyラット、高血圧自然発症ラット(SHR)、Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラット、脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)、Goto-kakizaki(GK)ラット、IRS-1ノックアウトマウス、IRIS-2ノックアウトマウス、KKAyマウス、ob/obマウス、アディポネクチンノックアウトマウス、11βHSDS1過剰発現(aP2-HSD1)マウスが含まれ、これらの中でもレプチン受容体遺伝子に変異を加えたレプチン受容体欠損モデル動物であるSHR/cpラット、Zucker Fattyラット、Wistar fattyラット、ob/obマウスが好ましく、SHR/cpラットがより好ましい。
【0019】
本発明において用いる細菌は、歯周病の発症に関与していることが知られている細菌であれば特に限定されるものではないが、中でもSocranskyの分類により歯周病との関連性が最も高いとされるレッドコンプレックスに属する細菌であり(Socransly, S. S.ら,J. Clin. Periodontol., (1998) Vol.25(2):133-44)、例えば、Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)、Tannerella (Bacteroides) forsythensis(タンネレラ(バクテロイデス)フォーサイセンシス)、Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコーラなどが挙げられる。また、ポルフィロモナス・ジンジバリス株としては、例えばP. gingivalis ATCC 33277(P. gingivalis DSM-20709、P. gingivalis JCM-12257)、P. gingivalis ATCC 53977、P. gingivalis ATCC BAA-308、P. gingivalis ATCC 53978、P. gingivalis FDC381などが挙げられる。これらの細菌は単独または2種以上を組み合わせ使用することができる。
【0020】
これらの細菌は、公知の培養方法で培養し、好ましくは対数増加期の後期のものを最終濃度として通常約105〜1013cfu/mL、好ましくは約107〜1013cfu/mLの濃度に調製したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)の懸濁液として接種に使用する。細菌懸濁液の接種は、動物の経口接種に使用する器具を使用して行うことができ、例えばゾンデ針を装着したシリンジなどを使用することができる。
ある種の態様において、この細菌懸濁液は増粘剤を添加して約100〜3000mPa・s、好ましくは約500〜2000mPa・s(ブルックフィールド型粘度計、#3スピンドル:25℃:60r.p.m.:120秒測定、70ml広口ガラス容器使用)に増粘した細菌懸濁液を使用することにより、細菌の口腔への定着を促進することができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられ、カルボキシセルロースを使用する場合は約1.3〜5.0質量%、好ましくは約2.0〜4.0質量%の濃度で添加することにより、各々、上記の粘度に調整することができる。
【0021】
本発明は、従来困難であった、メタボリックシンドロームモデル動物において歯周病の病態を確立した点に特徴があり、モデル動物の口腔に歯周病原菌懸濁液を一定間隔で複数回接種することによってなされたものである。
【0022】
細菌懸濁液の接種は、特定の週齢に達した動物に開始し、モデル動物がラットやマウスの場合は、約6〜15週齢、好ましくは約8〜10週齢、さらに好ましくは約9週齢で開始する。
【0023】
細菌懸濁液接種の開始が上記週齢から外れた場合は、対照区(対照試料投与区)と比較した歯周病の程度の差が小さくなり、精密なスクリーニングを行うことができなくなる。
また、細菌懸濁液の接種様式は、1回目の接種の後に一定の間隔をあけて2、3または4回目までの接種を行ってこれを第1の接種群とし、第1の接種群の後に一定の期間をおいて、第1の接種群と同様に一定の間隔をあけて1、2、3または4回目までの接種を行ってこれを第2の接種群とし、その後、同様に第3または第4の接種群まで行うことができる(図1、1日間隔で3回接種/接種群、第1〜3接種群の態様)。各接種群中の接種の間隔は、いずれの時間とすることもできるが、好ましくは1または2日である。また、各接種群間の期間は、好ましくは3〜20日、より好ましくは5〜20日、よりさらに好ましくは9〜19日である。
【0024】
ある種の態様において、本発明においては、上記した細菌懸濁液を接種する前に抗菌剤水溶液を摂取させて口腔内の常在細菌を減少させ、その後に蒸留水を摂取させて口腔内に残留した抗菌剤を除去して目的の細菌の定着を促進することができる。
使用する抗菌剤としては、例えば、約0.5〜3mg/mlのサルファメトキサゾール、約50〜500μg/mlのトリメトプリムなどが挙げられ、これらを単独または組み合わせて水溶液として、動物に約2〜6日間自由に摂取させることができる。また、その後の蒸留水は、動物に約2〜4日間自由に摂取させることができる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法においては、上述したようにメタボリックシンドローム動物モデルにおいて歯周病を確立するが、歯周病を確立する前、前から間、後、または全試験期間にわたって、スクリーニングすべき被検試料または対照試料をゾンデ針を用いて動物の口腔内に直接投与するか、または被検試料を含有する餌または含有しない対照餌を該動物に与え、両者において確立された歯周病の程度を調べることにより、歯周病の予防または/および改善剤をスクリーニングする。
被検試料またはそれを含有する餌を投与した動物モデルの歯周病の程度が、対照試料または対照餌を投与した動物モデルの程度と比べて低ければ、その被検試料は歯周病の予防剤または/および改善剤として有効と考えられる。
【0026】
動物モデルの歯周病は、細菌懸濁液の接種を開始してから約3〜16週後、好ましくは約5〜10週後、最も好ましくは約6〜8週後に評価することができ、動物モデルにおける歯周病の予防または/および改善効果は、動物モデルの歯槽骨吸収量を測定することにより評価することができる。歯槽骨の吸収量は、動物モデルの臼歯部のセメント質−エナメル質の境界から歯槽骨の頂点までの距離を測定する。
【0027】
歯周病予防剤をスクリーニングする方法においては、細菌懸濁液の接種を開始する前、または開始する前から接種期間にわたって被検試料を投与する。また、歯周病改善剤をスクリーニングする方法においては、細菌懸濁液の接種が完了した後に被検試料を投与する。さらに、歯周病の予防および改善剤をスクリーニングする方法においては、全試験期間にわたって被検試料を投与する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、各例中の量は、別段指摘しない限り質量%を示す。
【0029】
材料および方法
1.動物および使用菌種
8週齢のSHR/cpラットおよび対照動物として起源動物であるWKYラットを用いて以下の実験を行った。また、1実験区につきラット6匹を用いた。
歯周炎の惹起にはポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)ATCC33277(以下、「P.g.」という)を用い、ブレインハートインフュージョンブロス(BHI培地)に0.5%イーストエキストラクト、0.001%ヘミン、0.001%ビタミンK1を添加した培地にて、嫌気条件下(5% CO2、10% H2、85% N2)、37℃で約24〜48時間培養したものを実験に用いた。
【0030】
2.ラット実験的歯周炎の惹起
ラットの健康状態を確認後、体重の分布が均等になるように群分けし、8週齢のラットの口腔内の常在細菌の数を減少させるため、蒸留水に抗生物質であるサルファメトキサゾールおよびトリメトプリムをそれぞれ1mg/mlおよび200μg/mlとなるように添加し、飲料水として4日間自由に与えた。その後、3日間、口腔内残留薬物の除去を目的に、抗生物質を含まない蒸留水を自由に与えた。
9週齢時には、感染実験区については、PBSに5%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC、Sigma、粘度:Med)を溶解したものに、P.g. ATCC33277株の懸濁液(109CFU/mL以上)を1:1となるように混合し、ゾンデ針を装着したシリンジを用いて、口腔内に接種した。この細菌懸濁液の接種を2日毎に3回を1接種群とし9日間の間隔を空けて計3接種群、合計9回接種を行った。また、非感染実験区については、細菌懸濁液の代わりにPBSを加えたCMC溶液をラット口腔内へ感染実験区と同様に接種した。16週齢時に麻酔下で上顎右側の歯周組織を摘出した。この感染スケジュールを図1に示す。
【0031】
3.歯槽骨吸収量の評価
歯槽骨吸収量の評価は、右側上顎口蓋側臼歯部のセメントエナメル境から歯槽骨頂までの距離を7箇所測定して行った。すなわち、右側上顎組織を2気圧下で10分間加熱後、3%次亜塩素酸ナトリウム液に浸漬して軟組織を除去し、1%メチレンブルー溶液で歯槽骨を染色して乾燥させた検体をマイクロスコープ下で測定した。これを各個体につき3回繰り返し測定を行った。7箇所の測定値を平均して個体あたりの骨吸収量とし3回の平均を算出した。群毎の平均値を平均骨吸収量として評価した。
【0032】
実験例
実験例1
従来行われている細菌感染方法と同様に1接種群(3回接種)の歯周病原菌接種によりメタボリックシンドローム動物モデルにおいても歯周病を確立し得るかを調べた。
8週齢のSHR/cpラットに、サルファメトキサゾールおよびトリメトプリムを各々1mg/mlおよび200μg/ml含有する蒸留水を飲料水として4日間自由に与えた。その後の3日間は飲料水として蒸留水のみを自由に与えた。
ついで、9週齢時のラットに、PBSに5%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC、Sigma、粘度:Med)を溶解したものに、P.g. ATCC33277株の懸濁液(109CFU/mL以上)を1:1となるように混合し、ゾンデ針を装着したシリンジを用いて、口腔内に接種し、接種完了から45−47日後にその平均歯槽骨吸収量を測定した。その結果を図2に示す。
【0033】
図2のグラフから明らかなように、SHR/cpラットに対する1接種群の細菌懸濁液接種では、細菌懸濁液を接種しなかった対照区と同程度の歯槽骨吸収量が示され、従来行われている1接種群の歯周病原菌投与では、メタボリックシンドローム動物モデルにおいて歯周病は確立し得ないことが示された。
【0034】
実験例2
そこで、同じ週齢の動物モデルに複数回の細菌懸濁液を接種した場合の歯周病の確立について調べた。
8週齢のSHR/cpラットに、サルファメトキサゾールおよびトリメトプリムを各々1mg/mlおよび200μg/ml含有する蒸留水を飲料水として4日間自由に与えた。その後の3日間は飲料水として蒸留水のみを自由に与えた。
ついで、9週齢時のラットに、PBSに5%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC、Sigma、粘度:Med)を溶解したものに、P.g. ATCC 33277株の懸濁液(109cfu/mL以上)を1:1となるように混合し、ゾンデ針を装着したシリンジを用いて口腔内に接種した。この接種を1日間隔で3回の接種を1の接種群とし、接種群間の期間を9日として第1から第3接種群までの、合計9回の細菌懸濁液の接種を行い、接種完了から17−19日後(16週齢時)に平均歯槽骨吸収量を測定した。対照区として、細菌懸濁液の代わりにPBSのみ接種したラットの平均歯槽骨吸収量を測定した。その結果を図3に示す。
【0035】
図3のグラフから明らかなように、図2の結果とは異なり、SHR/cpラットに対する複数回の細菌懸濁液接種により、対照区と比較して統計学的に有意な差の歯槽骨吸収量が示され、歯周病原菌を一定の間隔を置いた複数回の接種群で接種することによりメタボリックシンドローム動物モデルにおいても歯周病を確立し得ることが示された。
【0036】
実験例3
また、メタボリックシンドロームモデル(SHR/cpラット)とそのモデルの起源(WKYラット)に歯周病原菌を接種した場合の歯周病の程度を調べた。両方のラットに対して細菌懸濁液を接種する以外は実験例2に記載したのと同じ様式で合計9回の接種を行い、接種完了から17−19日後(16週齢時)に平均歯槽骨吸収量を測定した。その結果を図4に示す。
【0037】
図4のグラフから明らかなように、SHR/cpラットでは起源WKYラットと比較して統計学的に有意に大きな程度の歯槽骨吸収が認められた。このことから、メタボリックシンドロームモデルラットは、その起源ラットと比較して歯周病原菌が定着しにくい一方で、一旦定着すると歯槽骨吸収の程度が大きくなることが示された。
【0038】
実験例4
つぎに、細菌懸濁液接種を開始するモデル動物の週齢が歯槽骨吸収に及ぼす影響を調べた。細菌接種を開始するSHR/cpラットの週齢を6〜15週齢で行う以外は実験例2に記載したのと同じ様式で合計9回の接種を行い、接種完了から17−19日後(13〜22週齢時)に平均歯槽骨吸収量を測定した。その結果を図5に示す。
【0039】
図5のグラフから明らかなように、細菌懸濁液接種の有無にかかわらず、ラット加齢とともに歯槽骨吸収量は増加するが、細菌懸濁液を接種したラットではいずれの開始週齢においても非接種ラットよりも歯槽骨吸収量は大きいことが示された。また、接種開始が9週齢時の場合に、接種ラットと非接種ラットとの歯槽骨吸収量の差が最大になることが示され、この週齢に接種を開始すると、歯周病の予防または/および改善効果を最も明確に調べ得ることが示された。
【0040】
実験例5
6週齢時のSHR/cpラットに0.1質量%のオレウロペインまたは0.025質量%のヒドロキシチロソールを配合した餌30g/日を与えて飼育し、8週齢時にサルファメトキサゾールおよびトリメトプリムを各々1mg/mlおよび200μg/ml含有する蒸留水を飲料水として4日間自由に与えた。その後の3日間は飲料水として蒸留水のみを自由に与えた。ついで、9週齢時に口腔内にP.g. ATCC33277株の接種を開始した。この接種を1日間隔で3回までの接種を1の接種群とし、接種群間の期間を7日として第1から第3接種群までの、合計9回の細菌懸濁液の接種を行い、さらに第3の接種群の接種完了から16−18日後に1回のみの接種を行い、翌日(16週齢時)に平均歯槽骨吸収量を測定した。その結果を図6に示す。
【0041】
図6のグラフから明らかなように、オレウロペインまたはヒドロキシチロソール配合餌を与えたラットにおいては、非配合餌を与えたラットと統計学的に有意な差で歯周病の予防効果が認められ、低濃度においてオレウロペインおよびヒドロキシチロソールの優れた歯周病予防効果が示された。このように、オレウロペインおよびヒドロキシチロソールには歯周病の予防および改善効果が認められるので、これらの植物成分は歯周病予防剤として有効と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の歯周病予防または/および改善剤をスクリーニングする方法およびその方法に用いる歯周病動物モデルの作製方法は、歯ぐきの健康維持剤、歯肉の健康維持剤、歯を支える組織の健康維持剤、歯周病予防/治療/改善剤、歯周組織健康維持剤、歯槽骨吸収抑制剤、抗歯肉炎剤および抗歯周炎剤、ならびにそれらを含む飲食品、口腔用組成物および医薬組成物は、特に歯肉炎や歯周炎に伴う歯槽骨の吸収の予防または改善のための健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品、歯磨、薬用歯磨などの化粧品、医薬部外品や医薬品に配合する有効剤のスクリーニングに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周病予防または/および改善剤をスクリーニングする方法であって、
1)メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、被検試料または対照試料を投与するとともに、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種し;ついで
2)被検試料を投与した動物と対照試料を投与した動物との歯槽骨の吸収を調べる
ことを含む該方法。
【請求項2】
6〜15週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する請求項1記載の方法。
【請求項3】
細菌懸濁液を一定の間隔をあけて2〜4回接種し、ついで、一定の期間を置いた後に1〜4回の接種を2〜4回繰り返す請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
歯周病動物モデルの作製方法であって、
メタボリックシンドロームモデルのげっ歯類に属する動物に、レッドコンプレックスに属する細菌の1種以上の懸濁液を一定間隔で複数回、口腔内接種して歯槽骨の吸収を引き起こさせることを特徴とする該方法。
【請求項5】
6〜15週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する請求項4記載の方法。
【請求項6】
8〜10週齢の動物に細菌懸濁液の接種を開始する請求項4記載の方法。
【請求項7】
細菌懸濁液を一定の間隔をあけて2〜4回接種し、その後、一定の期間を置いた後に1〜4回の接種を2〜4回繰り返す請求項4ないし6のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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