説明

歯型模型検証装置及びそれを用いた歯型模型検証方法

【課題】2つの歯型模型の比較検証を正確に行うことができる歯型模型検証装置及びそれを用いた歯型模型検証方法を提供する。
【解決手段】歯型模型検証装置10は、歯型彫刻実習用の歯型模型1が保持される第1保持座12Aと、上記歯型模型と比較検証する歯型模型1が保持される第2保持座12Bと、上記第1保持座12A及び上記第2保持座12Bにそれぞれ保持された歯型模型1が隣り合わせで並ぶように上記第1保持座12A及び上記第2保持座12Bを支持する機台11と、上記機台11に設けられ、上記第1保持座12Aと上記第2保持座12Bとを、同一方向に同一角度で一緒に回動させる回転調整機構13と一緒に傾動させる傾き調整機構14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯型彫刻実習用の歯型模型を比較検証するために用いる歯型模型検証装置に関し、更に詳しくは、歯科技工の学習において正確な歯の形を覚えるべく、歯型彫刻実習で製作する歯型模型と見本となる歯型模型とを、容易かつ正確に比較検証することができる歯型模型検証装置及びそれを用いた歯型模型検証方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯科技工の学習として、歯の形(特に、歯冠の形)を立体的に覚えたり、歯科技工の基礎技術(器具・材料の性質・取扱い方等)を習得したりすることを目的として歯型彫刻の実習が行われている。
【0003】
この歯型彫刻の実習は、図10(a)〜(h)に示すように、石膏やワックスの角柱に展開図を書き、これを彫刻刀で粗彫りする複数回(例えば、6回)の粗彫り工程を順次行い、その後、最終的な仕上げ工程で滑らかで正確な歯の形を有する歯冠及び歯根を彫り上げることで行なわれる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
上記の歯型彫刻の実習では、教官の指導のもとに訓練生が歯型模型を製作するが、複数回の粗彫り工程の途中で歯軸等が微妙にずれてしまうと、仕上げ工程における最終的な歯の形が目標とする形に対して大きくずれてしまうことなる。
【0005】
そこで、訓練生や教官は、製作途中の歯型模型と、正確な歯の形となっている見本の歯型模型とを、唇側面、頬側面、舌側面、近心面、遠心面等といった各面がそれぞれ同じ方向を向くように接触させて並べ、両方をまとめて指の間に挟む等して手に持ち、手を動かしたり、頭を動かしたりして、2つの歯型模型を様々な方向から見て比較検証することで、目標とする形から歯の形がずれていないかを頻繁に確認している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐伯政友、瀬尾次郎著,「歯科技工士教本 歯の解剖学」,第1版,医歯薬出版株式会社,1998年1月20日,P139−173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来の歯型彫刻の実習では、製作途中の歯型模型と見本の歯型模型との比較検証を正確に行うことができず、訓練生にとって歯の形を短時間で簡易に覚えることが困難になっているという問題があった。
【0008】
すなわち、2つの歯型模型を比較検証する場合には、上記したように2つの歯型模型を接触させて並べたうえ指の間に挟み、手を動かしたり、頭を動かしたりするが、手をどの程度動かしたか、あるいは頭をどの程度動かしたか、あるいは何れの位置から歯型模型を見たかが曖昧であることが比較検証を不正確にしており、歯の形を立体的に覚えていない訓練生に対し、歯の形のずれを指摘し、認識させることを難しくしている。さらに歯型模型を斜め方向、特に斜め45°の方向から比較検証する場合は、互いに接触させたうえで指の間に挟んだ2つの歯型模型を同一方向から同一角度で見ることが非常に難しく、訓練生にとって歯の形のずれを発見すること、歯の形のずれを認識して理解することを非常に困難にしていた。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、2つの歯型模型の比較検証を正確に行うことができる歯型模型検証装置及びそれを用いた歯型模型検証方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、歯型彫刻実習用の歯型模型が保持される第1保持座と、上記歯型模型と比較検証する歯型模型が保持される第2保持座と、上記第1保持座及び上記第2保持座にそれぞれ保持された歯型模型が隣り合わせで並ぶように上記第1保持座及び上記第2保持座を支持する機台と、上記機台に設けられ、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる連動機構と、を備えていることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載において、上記連動機構は、上記歯型模型の歯軸を略中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動させることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2記載において、上記連動機構は、上記第1保持座及び上記第2保持座に保持された両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に傾動させることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3の何れか一項記載において、上記連動機構によって、上記第1保持座と上記第2保持座とを同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる場合に、上記第1保持座及び上記第2保持座の移動量をそれぞれ示す目盛部がさらに設けられていることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の歯型模型検証装置を用いた歯型模型検証方法であって、第1保持座又は第2保持座の何れか一方には見本となる歯型模型を保持し、何れか他方には該見本となる歯型模型と比較検証する歯型模型を保持し、連動機構により、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させ、検証者の視点に対して2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えることによって検証者からの見え方を同じにして、2つの歯型模型を比較検証することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯型模型検証装置によると、歯型模型が保持される第1保持座及び第2保持座と、該第1保持座及び該第2保持座にそれぞれ保持された歯型模型が隣り合わせで並ぶように該第1保持座及び該第2保持座を支持する機台と、を備えており、比較検証する2つの歯型模型を直接的に手で持つ必要がなく、該機台を所定の場所に置く等することで、該機台に支持された該第1保持座及び該第2保持座に各歯型模型を安定して保持しておくことができる。さらに該機台には、該第1保持座及び該第2保持座を同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる連動機構が設けられているので、手や頭を動かして見え方を変えるという曖昧な行為を行うことなく、検証者の視点を定位置に置いて2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えることができる。従って、機台に支持された第1保持座及び該第2保持座に2つの歯型模型を安定して保持することで検証者の視点をほぼ定めることができるとともに、連動機構で2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えることで検証者からの歯型模型の見え方が略一様に定まるので、2つの歯型模型の比較検証を正確に行うことができる。
【0012】
また上記連動機構が上記歯型模型の歯軸を略中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを同一方向に同一角度で一緒に回動させる場合、唇側面、頬側面、舌側面、近心面、遠心面等の各面をまっすぐな方向のみならず、斜め方向から見るなど、検証者の視点を定位置に置いたまま2つの歯型模型を略水平なあらゆる方向から見て比較することができるので歯の形のずれが認識しやすくなるとともに、歯型模型を保持したまま第1保持座や第2保持座を回動させることで製作途中の歯型模型の歯軸がずれていないかを確認することができる。
【0013】
また上記連動機構が両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを同一方向に同一角度で一緒に傾動させる場合、歯型模型の切縁観、咬合面等の各面をまっすぐな方向のみならず、斜め方向から見るなど、検証者の視点を定位置に置いたまま2つの歯型模型を略垂直なあらゆる方向から見て比較することができるので歯の形のずれが認識しやすくなる。
【0014】
また上記第1保持座及び上記第2保持座の移動量をそれぞれ示す目盛部がさらに設けられている場合、2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で確実に揃えることができるとともに、検証者からの歯型模型の見え方を数値化して一定なものとすることができる。
【0015】
また本発明の歯型模型検証装置を用いた歯型模型検証方法によると、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させ、検証者の視点に対して2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えることによって検証者からの見え方を同じにして、2つの歯型模型を比較検証するので、該比較検証を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】実施例1に係る歯型模型検証装置の斜視図である。
【図2】実施例1に係る上顎右側第二小臼歯の歯型模型の、(a)は平面図、(b)は(a)のII矢視図、(c)は(a)のIII矢視図である。
【図3】実施例1に係る保持座の、(a)は斜視図、(b)は横断面図である。
【図4】実施例1に係る連動機構の平面図である。
【図5】実施例1に係る連動機構の動作を説明するための説明図である。
【図6】歯型模型検証装置を用いた検証方法を説明するための説明図である。
【図7】同じく、検証方法を説明するための説明図である。
【図8】ヒトの歯の種類を説明するための参考図である。
【図9】ヒトの歯の方向を説明するための参考図である。
【図10】従来一般の歯型彫刻の実習方を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0018】
1.歯型模型検証装置
本発明に係る歯型模型検証装置は、歯型彫刻実習用の歯型模型を比較検証するために用いるものであり、後述する第1保持座と、第2保持座と、機台と、連動機構と、を備えて構成される。この歯型模型検証装置は、例えば、後述する目盛部をさらに備えることができる。
【0019】
上記「歯型模型」は、その種類、大きさ、材質等は特に問わない。この歯型模型は、通常、歯冠部を備えて構成されており、後述する歯根部及び載置部のうちの少なくとも一方をさらに備えて構成されているものが好ましい。
【0020】
上記「歯冠部」は、その種類、大きさ、材質等は特に問わない。この歯冠部の種類としては、例えば、切歯及び犬歯を含む前歯、小臼歯及び大臼歯を含む臼歯等を挙げることができる。この前歯の歯冠部は、通常、近心面、遠心面、唇側面、舌側面及び切面を有している。また、この臼歯の歯冠部は、通常、近心面、遠心面、頬側面、舌側面及び咬合面を有している。また、歯冠部の大きさは、例えば、実際のヒトの歯冠と同じ大きさであったり、実際のヒトの歯冠に対して所定の倍率で拡縮された大きさであったりできる。また、歯冠部の材質としては、例えば、石膏、合成樹脂、金属等を挙げることができる。また、この歯冠部は、例えば、後述する載置部(又は歯冠部)に着脱可能な別部材であることができるが、載置部(又は歯冠部)と一体の部材であることが好ましい。尚、歯冠とは、歯のうちエナメル質に覆われた部分を意味する。
【0021】
上記「歯根部」は、上記歯冠部に連なるものである限り、その種類、大きさ、材質等は特に問わない。この歯根部の種類としては、例えば、切歯及び犬歯を含む前歯、小臼歯及び大臼歯を含む臼歯等を挙げることができる。また、歯根部の大きさは、例えば、実際のヒトの歯根と同じ大きさであったり、実際のヒトの歯根に対して所定の倍率で拡縮された大きさであったりできる。また、歯根部の材質としては、例えば、石膏、合成樹脂、金属等を挙げることができる。また、この歯根部は、例えば、後述する載置部(又は上記歯冠部)に着脱可能な別部材であることができるが、載置部(又は歯冠部)と一体の部材であることが好ましい。尚、歯根とは、歯のうちセメント質に覆われた部分を意味する。
【0022】
上記「載置部」は、テーブル等の床面に載置する平らな載置面を有する限り、その形状、大きさ、材質等は特に問わない。上記歯型模型が歯冠部のみを備える場合、この載置部は、通常、歯冠部に連なっている。上記歯型模型が歯冠部及び歯根部を備える場合、この載置部は、通常、歯根部に連なっている。また、この載置部の形状としては、例えば、ブロック状、平板状、多足状等を挙げることができる。
【0023】
尚、参考として、図8に示すように、ヒトの上顎及び下顎の歯には、中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯及び第三大臼歯がある。また、図9に示すように、切歯及び犬歯などの前歯が口唇粘膜に面する側を「唇側」、小臼歯及び大臼歯などの臼歯が頬粘膜に面する側を「頬側」という。さらに、唇側及び頬側の反対方向すなわち内側方向は、上顎では「口蓋側」、下顎では「舌側」であるが、本明細書では、上顎も下顎も全て「舌側」を用いることとする。
【0024】
上記「第1保持座」及び上記「第2保持座」は、歯型彫刻実習用の上記歯型模型が保持されるものである限り、その形状、材質、色、大きさ等は特に問わない。これら第1保持座及び第2保持座の形状としては、例えば、円筒状、角筒状等を挙げることができる。これら第1保持座及び第2保持座の材質としては、例えば、合成樹脂、金属、ガラス等を挙げることができる。これら第1保持座及び第2保持座の色としては、例えば、互いに同色又は異色の不透明や有色透明、あるいは無色透明等を挙げることができる。
【0025】
また第1保持座及び第2保持座は、他の差異に気を散らされることなく、それぞれに保持された歯型模型の形のずれを目立たせるという観点から、形状、大きさ、色等を同一とすることが好ましい。これら第1保持座及び第2保持座は、例えば第1保持座に訓練生が製作した歯型模型を保持して第2保持座に見本となる歯型模型を保持する等のように、通常、何れか一方に製作途中の歯型模型が、何れか他方に見本となる歯型模型が保持されるが、保持されるものが歯型模型である限り、例えば、同じ訓練生が過去に製作した歯型模型と現在製作している歯型模型、異なる訓練生がそれぞれ製作途中の歯型模型、上顎第二小臼歯の歯型模型と下顎第二小臼歯の歯型模型、等のように比較検証するべく保持される歯型模型の種類は特に問わない。
【0026】
上記「機台」は、上記第1保持座及び上記第2保持座にそれぞれ保持された歯型模型を隣り合わせで並べるものであり、且つ上記第1保持座及び上記第2保持座を支持するものである限り、その形状、材質、色、大きさ等は特に問わない。この機台の形状としては、例えば、箱状、枠状等を挙げることができる。この機台の材質としては、例えば、合成樹脂、金属、ガラス等を挙げることができる。
【0027】
上記「連動機構」は、上記機台に設けられ、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させるものである限り、その構成、構造、材質等は特に問わない。この連動機構としては、例えば、歯車の噛合によるもの、プーリーとベルトによるもの等を挙げることができる。
【0028】
ここで本発明に係る歯型模型検証装置は、上記連動機構が、例えば(1)上記歯型模型の歯軸を略中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動させる形態、(2)上記第1保持座及び上記第2保持座に保持された両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に傾動させる形態等を挙げることができる。また、これら(1)(2)形態を組み合わせた形態も挙げることができる。
【0029】
上記(1)形態の場合、上記歯型模型の歯軸を略中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に回動させるものである限り、その構成、回動方向等は特に問わない。この(1)形態の場合の回動方向としては、例えば、水平面内における左右方向の回動等を挙げることができる。
【0030】
なお、上記「歯軸」とは、歯の長軸であり、唇側、頬側、舌側または近遠心面の各方向からながめたときに、切縁または咬頭側から歯頸部(近遠心径の1/2)付近を通り、さらに根尖側方向に縦に走る直線、つまりは、歯型模型を2等分するように上下に伸びる軸をいう。従って、上記「歯軸を略中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に回動させる」とは、歯軸を中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に回動させる他に、鉛直方向に上下に伸びる軸(以下、「垂直軸」とも記載する。)を中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に回動させる場合を含むものとする。
【0031】
上記(2)形態の場合、上記第1保持座及び上記第2保持座に保持された両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に傾動させるものである限り、その構成、回動方向等は特に問わない。この(2)形態の場合の回動方向としては、例えば、垂直面内における前後方向の回動等を挙げることができる。
【0032】
なお、上記「両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に傾動させる」とは、両方の歯型模型の歯軸と直交する軸を中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に傾動させる他に、平行に伸びる2本の垂直軸と直交して横方向に伸びる軸(以下、「水平軸」とも記載する。)を中心に上記第1保持座と上記第2保持座とを一緒に傾動させる場合を含むものとする。
【0033】
上記「目盛部」は、上記連動機構によって、上記第1保持座と上記第2保持座とを同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる場合に、上記第1保持座及び上記第2保持座の移動量をそれぞれ示すものである限り、その種類、形状、大きさ、表示方法等は特に問わない。この目盛部としては、例えば、等間隔おきに印刷などされた線による表示、度数やπによる角度表示、アラビア数字やローマ数字などの数値表示等を挙げることができる。
【0034】
2.歯型模型検証装置を用いた歯型模型検証方法
本発明に係る歯型模型検証方法は、上記歯型模型検証装置を用いた歯型模型の検証方法であって、第1保持座又は第2保持座の何れか一方には見本となる歯型模型を保持し、何れか他方には該見本となる歯型模型と比較検証する歯型模型を保持し、連動機構により、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させ、検証者の視点に対して2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えたうえで、2つの歯型模型を比較検証することを特徴とする。この場合、検証者は、自らの視点の位置を変えることなく、固定したまま、2つの歯型模型の各面を斜め45°の方向や、上方向等のあらゆる方向から見ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、図面を参照して実施例により本発明を具体的に説明する。
【0036】
(1)歯型模型検証装置の構成
本実施例に係る歯型模型検証装置10は、図1に示すように、機台11と、該機台11に支持された2つの保持座12と、を備えている。この機台11には連動機構として、2つの保持座12を横方向に回動させる回転調整機構13と、2つの保持座12を縦方向で傾動させる傾き調整機構14と、が設けられている。そして、この歯型模型検証装置10は、各保持座12に歯型模型をそれぞれ保持し、回転調整機構13や傾き調整機構14で歯型模型の見え方を所望にあわせて適宜調整したうえで、2つの歯型模型を比較検証するのに使用される。また、この歯型模型検証装置10においては、保持座12の移動量を示す目盛部として、上記回転調整機構13による保持座12の回転角を示す角度目盛15と、上記傾き調整機構14による保持座12の傾度を示す傾度目盛16と、が設けられている。
【0037】
なお、2つの保持座12において、本実施例では、歯型模型検証装置10を正面視した場合に左側に位置するものを第1保持座12A、右側に位置するものを第2保持座12Bとするが、これら第1保持座12Aと第2保持座12Bとで特に構成の差異はなく、以下単に「保持座12」と記載する場合は第1保持座12A及び第2保持座12Bの両方を示すものとする。
【0038】
<歯型模型>
本実施例に係る歯型模型1は、図2(a)〜(c)に示すように、石膏よりなり、テーブル等に安定して載置される矩形状の載置部2を備えている。この載置部2からは、歯根部3が上方に延びている。
【0039】
ここで、本実施例に係る歯型模型1の歯軸5は、基本的に、載置部2から歯根部3が延びている方向に延びる線をいうものとし、より限定的には、平面視における載置部2の中心と、平面視における歯根部3の中心と、を通るように延びる線をいうものとする。従って、本実施例では、歯軸5と、垂直軸と、は略等しいものとする
【0040】
上記歯根部3からは、歯冠部6が上方に延びている。この歯冠部6は、臼歯(上顎右側第二小臼歯)のものであり、近心面、遠心面、唇側面、頬側面及び咬合面の各歯面を有している。また、歯冠部6と歯根部3との間には、エナメル質とセメント質との境界を示す歯頚線7が形成されている。
【0041】
なお、本実施例では、歯型模型として、上顎右側第二小臼歯の歯型模型1を例示するが、本発明の歯型模型検証装置10で使用される歯型模型1は、上記歯種に限定されることなく、全ての歯種に応じた模型を使用することができる。
【0042】
<機台>
本実施例に係る機台11は、図1に示すように、正面視で凹字状をなす脚体21と、該脚体21の上部に支承された支持台22と、からなる。この支持台22は、平面視で横長の直方体状をなしており、その長手方向の両端となる両側面のそれぞれ中央には、支軸23が水平方向へ延びるように突設されている。
【0043】
上記支持台22は、該支軸23を上記脚体21の両側部の内面に挿入することで、該支軸23(水平軸)を中心として、傾動自在に構成されている。また支持台22には、上記保持座12を支持するための保持孔(図示略)が、該支持台22の縦方向(垂直方向)に開口するように形成されている。この保持孔は、第1保持座12Aと第2保持座12Bに対応して、2つ形成されており、2つの保持孔は、支持台22の長手方向で隣り合うように、支軸23(水平軸)の延びる方向に並んで配置されている。
【0044】
<保持座>
本実施例に係る保持座12は、図3(a),(b)に示すように、円筒状に形成された保持座本体31と、該保持座本体31の内周面上で上端部に取り付けられた弾性片32と、によって構成されている。この弾性片32は、弾性を有する金属製の薄板を、その下半部32bが上半部32aに比して保持座本体31の軸線寄りとなるように、屈曲させることによって形成されたものである。
【0045】
上記保持座12には、その上端側の開口の内側へ上記歯型模型1の載置部2が挿入されることにより、上記歯型模型1が保持されるように構成されている。すなわち、歯型模型1の載置部2が保持座12の開口の内側へ挿入された場合、該載置部2は、弾性片32の下半部32bを保持座12の周壁へ押しのけるように弾性変形させるが、この弾性変形された弾性片32は、元の形状に復元しようとすることで付勢力を発揮し、該載置部2を保持座12の内周面へ押し付けることで、該歯型模型1を該保持座12の上部に保持している。さらに歯型模型1は、弾性片32の付勢力により保持座12に保持されてはいるが、固定はされておらず、該弾性片32の付勢力に抗して保持座12へ押し込んだり、あるいは引き上げたりすることで、保持座12上における高さ位置を調整できるようになっている。また保持座12に歯型模型1が保持された状態において、歯型模型1の載置部2の平面視における中心は、該保持座12の平面視における中心と略一致しており(図4参照)、該歯型模型1の歯軸5と、保持座12の軸線とが略一致する。
【0046】
上記保持座12は、上記機台11の支持台22に形成された保持孔に挿通されることにより、該支持台22を介して上記脚体21に支持されている。該保持座12は2つが、該支持台22の2つの保持孔にそれぞれ挿通されることにより、第1保持座12A及び第2保持座12Bを構成している。そして、上記したように該支持台22の2つの保持孔が隣り合って並ぶように配置されていることから、第1保持座12A及び第2保持座12Bにそれぞれ保持された歯型模型1もまた隣り合わせで並ぶことになる。
【0047】
<連動機構>
本実施例に係る連動機構の回転調整機構13は、上記機台11において支持台22の内部に収容された大歯車41と、小歯車42と、を有している。大歯車41は、図1及び図3(a)に示すように、上記保持座12の外周面上に取り付けられている。上記保持座12によって構成された第1保持座12A及び第2保持座12Bは、支持台22の内部でそれぞれの大歯車41が互いに噛み合わないように、離隔して配置されている。小歯車42は、支持台22の内部において、図1及び図4に示すように、第1保持座12A及び第2保持座12Bの両方の大歯車41と噛合するように配置されている。この小歯車42には、回転操作ツマミ43が取り付けられている。該回転操作ツマミ43は、支持台22の下面から外方に突出し、外部に露出している。この回転操作ツマミ43を回転させると、図4中に矢印で示したように、小歯車42が回転し、該小歯車42の回転に伴って大歯車41が回転する。そして、大歯車41は保持座12の外周面上に取り付けられているので、第1保持座12A及び第2保持座12Bは、軸線、つまりは歯軸5(垂直軸)を中心に、同一方向に同一角度で一緒に回動する。
【0048】
本実施例に係る連動機構の傾き調整機構14は、図1及び図5(a),(b)に示すように、上記機台11に設けられた大プーリー44と、小プーリー45と、これら大プーリー44と小プーリー45との間に架けわたされたベルト46と、を有している。大プーリー44は、機台11において支持台22の一方の支軸23上に固定されている。小プーリー45は、機台11において脚体21の一側部の内面に回転自在に取り付けられている。この小プーリー45には、傾き操作ツマミ47が取り付けられている。該傾き操作ツマミ47は、脚体21の外側面から外方に突出し、外部に露出している。この傾き操作ツマミ47を回転させると、図5(a)中に矢印で示したように、小プーリー45が回転し、該小プーリー45の回転がベルト46を介して大プーリー44に伝わり、該大プーリー44が回転する。そして、大プーリー44は支持台22の支軸23上に固定されているので、支持台22が支軸23(水平軸)を中心に傾動し、該支持台22に支持された第1保持座12A及び第2保持座12Bは、支軸23(水平軸)を中心に、同一方向に同一角度で一緒に傾動する。
【0049】
なお、上記したように第1保持座12Aと第2保持座12Bのそれぞれの回動中心となる歯軸5が本実施例では垂直軸と略等しく、また第1保持座12Aと第2保持座12Bが支軸23(水平軸)の延びる方向に並んで配置されていることから、支軸23(水平軸)は、第1保持座12A及び第2保持座12Bの両方の歯軸5と直交する。
【0050】
<目盛部>
本実施例に係る目盛部の角度目盛15は、上記支持台22の上面に、上記保持座12の上部を取り囲む円筒状の縦スリーブ51を突設し、該縦スリーブ51の上面に等間隔おきに目盛線を刻むことにより、設けられている。また該角度目盛15と対応して、保持座12の上面には指針52が設けられている。
【0051】
本実施例に係る目盛部の傾度目盛16は、上記脚体21の外側面に、上記傾き操作ツマミ47の軸部を取り囲む円筒状の横スリーブ53を突設し、該横スリーブ53の端面に等間隔おきに目盛線を刻むことにより、設けられている。また該傾度目盛16と対応して、傾き操作ツマミ47には指針54が設けられている。
【0052】
(2)歯型模型検証方法
本実施例に係る歯型模型検証装置10を使用した歯型模型検証方法について説明する。歯型模型検証装置10を使用する場合、まず第1保持座12A又は第2保持座12Bの何れか一方に見本となる歯型模型1を保持し、何れか他方に該見本と比較検証する歯型模型1を保持する。本実施例では第1保持座12Aに見本となる歯型模型1を、第2保持座12Bに比較検証する歯型模型1を保持するものとする。
【0053】
次いで、比較検証を行う検証者Eは、図6(a)に示すように、視点を歯型模型検証装置10の正面に置き、2つの歯型模型1を見比べ、比較検証する歯型模型1の形にずれがないかを確認する。
【0054】
このとき図6(b)に示すように、検証者Eは、回転操作ツマミ43を適宜回転させることにより、2つの歯型模型1を、歯軸5を中心に同一方向に同一角度で一緒に回動させることができる。そして、同一方向に同一角度で一緒に回動された2つの歯型模型1は、検証者Eの視点に対して同じ方向に同じ角度で揃っており、特に斜め45°の方向から見た際に歯型模型1の形にずれがないかを入念に確認する。
【0055】
また一方、図7(a),(b)に示すように、検証者Eは、傾き操作ツマミ47を適宜回転させることにより、2つの歯型模型1を、支軸23を中心に同一方向に同一角度で一緒に傾動させることができる。そして、同一方向に同一角度で一緒に傾動された2つの歯型模型1は、検証者Eの視点に対して同じ方向に同じ角度で揃っており、特に斜め45°の方向から見た際に歯型模型1の形にずれがないかを入念に確認する。
【0056】
(3)歯型模型検証装置の効果
本実施例の歯型模型検証装置によると、比較検証する2つの歯型模型1は、第1保持座12A及び第2保持座12Bにそれぞれ保持されており、手で持つ必要がなく、機台11を所定の場所に置くことで、比較検証時に歯型模型1をぐらついたりすることなく安定して保持しておくことができる。
【0057】
また機台11には、第1保持座12A及び第2保持座12Bを、同一方向に同一角度で一緒に回動させる回転調整機構13と、同一方向に同一角度で一緒に傾動させる傾き調整機構14が設けられているので、特に頭を動かさずに検証者Eの視点を定位置に置いたままで、歯型模型1の見え方を変えるために、該歯型模型1を同じ方向に同じ角度で揃えて動かすことができる。
【0058】
また回転調整機構13は、歯型模型1を、その歯軸5を略中心に360°方向へ回転させることができるので、検証者Eの視点を定位置に置いたままで、唇側面、頬側面、舌側面、近心面、遠心面等の各面をまっすぐな方向のみならず、斜め45°方向から見ることができる。
【0059】
また回転調整機構13は、2つの歯型模型を略水平なあらゆる方向から見て比較することができるので歯の形のずれを認識させやすくすることができるとともに、回転時の歯型模型1の振れを確認することで歯軸5のずれを容易に確認することができる。
【0060】
また傾き調整機構14は、歯型模型1を、その歯軸5と直行する支軸23を略中心に前後方向へ傾動させることができるので、検証者Eの視点を定位置に置いたままで、歯型模型1の切縁観、咬合面等の各面をまっすぐな方向のみならず、斜め45°方向から見ることができる。
【0061】
また回転調整機構13による歯型模型1の回転量を示す角度目盛15と、傾き調整機構14による歯型模型1の傾き量を示す傾度目盛16と、を設けたので、検証者が角度目盛15又は傾度目盛16で読み取った数値を訓練生に伝えることで、検証者からの見え方と同じ見え方で歯型模型1を比較検証することができ、歯の形のずれを簡易に認識することができる。
【0062】
また本発明の歯型模型検証方法によると、上記第1保持座12Aと上記第2保持座12Bとを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させ、検証者Eの視点に対して2つの歯型模型1を同じ方向に同じ角度で揃えることによって検証者からの見え方を同じにして、2つの歯型模型を比較検証するので、該比較検証を正確に行うことができる。
【0063】
(4)実施例の変更例
本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で以下のように種々変更した実施例とすることができる。
【0064】
目盛部は、目盛線のみによるものに限らず、目盛線と数値、数値等で構成してもよい。また目盛部を省略してもよい。
【0065】
連動機構は、回転調整機構13と傾き調整機構14の2つを設ける必要はなく、例えば回転調整機構13のみを設けたり、傾き調整機構14のみを設けたりしてもよい。
【0066】
傾き調整機構14において、所定角度で傾動を止めるために、例えば傾き操作ツマミ47の軸部にゴムリングを巻いたり、ラッチを設けたりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば、専門学校や歯科大学等での歯科技工の学習及びこれに関連する分野に広く利用される。
【符号の説明】
【0068】
1;歯型模型、2;載置部、3;歯根部、5;歯軸、6;歯冠部、10;歯型模型検証装置、11;機台、12A;第1保持座、12B;第2保持座、13;回転調整機構、14;傾き調整機構、15;角度目盛、16;傾度目盛。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯型彫刻実習用の歯型模型が保持される第1保持座と、
上記歯型模型と比較検証する歯型模型が保持される第2保持座と、
上記第1保持座及び上記第2保持座にそれぞれ保持された歯型模型が隣り合わせで並ぶように上記第1保持座及び上記第2保持座を支持する機台と、
上記機台に設けられ、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる連動機構と、
を備えている
ことを特徴とする歯型模型検証装置。
【請求項2】
上記連動機構は、上記歯型模型の歯軸を略中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動させる
請求項1に記載の歯型模型検証装置。
【請求項3】
上記連動機構は、上記第1保持座及び上記第2保持座に保持された両方の歯型模型の歯軸と略直交する軸を中心に、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に傾動させる
請求項1又は請求項2に記載の歯型模型検証装置。
【請求項4】
上記連動機構によって、上記第1保持座と上記第2保持座とを同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させる場合に、上記第1保持座及び上記第2保持座の移動量をそれぞれ示す目盛部がさらに設けられている
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の歯型模型検証装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の歯型模型検証装置を用いた歯型模型検証方法であって、
第1保持座又は第2保持座の何れか一方には見本となる歯型模型を保持し、何れか他方には該見本となる歯型模型と比較検証する歯型模型を保持し、
連動機構により、上記第1保持座と上記第2保持座とを、同一方向に同一角度で一緒に回動又は一緒に傾動させ、
検証者の視点に対して2つの歯型模型を同じ方向に同じ角度で揃えたうえで、2つの歯型模型を比較検証する
ことを特徴とする歯型模型検証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−150183(P2012−150183A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7289(P2011−7289)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(593225552)
【Fターム(参考)】