説明

歯矯正補助具及び歯矯正補助具製品

【課題】歯科矯正治療において容易かつ迅速に歯矯正治療作業を行うことができ、矯正治療において患者にも負担をかけることのない歯矯正補助具及び歯矯正補助具製品を提供する。
【解決手段】歯に装着された歯矯正器具を構成するワイヤーに係止する係合部11と、歯矯正用締付部材が係止される締付部材固定部12とを有し、棒状の把持部14と、把持部14の両端に、把持部14から分離可能に形成され、歯矯正器具のワイヤーに係合して固定でき歯矯正用締付部材を固定して使用することができる一対の歯矯正補助具部10とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯矯正補助具及び歯矯正補助具製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯科矯正治療を行う場合には、金属製の歯矯正ワイヤーにより形成された歯矯正器具を歯に取り付けて歯を締め付けて矯正する方法や、矯正用のゴムベルトを用いて歯を締め付ける方法が実施されていた。
矯正用のゴムベルトを使用する場合には、矯正用ゴムベルトを固定する部材が必要となる。
【0003】
従来は、矯正用ゴムベルトを固定する方法として、例えば、金属製のフック部材を歯矯正器具のワイヤーに蝋付け固定したり、金属製のフック部材を専用器具を用いて固定していた。
【0004】
しかしながら、このような従来の矯正用ゴムベルトの固定手段を形成するためには、上記のように、蝋付けの作業を必要としたり、専用器具を使用する必要があることから、歯矯正治療を行う際に、所定の準備作業が必要となることから非常に煩雑であり、また、作業に熟練する必要があることから、歯科治療の現場において容易かつ迅速に歯矯正治療作業を行うことはできなかった。
また、その結果、歯矯正治療を受ける患者にも負担をかけることともなっていた。
【特許文献1】特開2007―97987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、歯科矯正治療において容易かつ迅速に歯矯正治療作業を行うことができ、矯正治療において患者にも負担をかけることのない歯矯正補助具及び歯矯正補助具製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明にあっては、歯に装着された歯矯正器具を構成するワイヤーに係止する係合部と、歯矯正用締付部材が係止される締付部材固定部とを有することを特徴とする。
従って、請求項1記載の発明にあっては、上記係合部を歯矯正器具のワイヤーに係止させて固定し、歯矯正締付部材を上記締付部材固定部に固定させることができる。
【0007】
請求項2記載の発明にあっては、上記係合部及び上記締付部材固定部は、夫々、基部に設けられ、上記係合部は、上記基部の一端部に設けられると共に、上記締付部材固定部は上記基部の他端部に設けられ、上記係合部は全体短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に軸方向に沿って、上記ワイヤーが出入しうる開口部を有し、上記締付部材固定部は、上記歯矯正用締付部材が取り付けられる係止突起部により形成されていることを特徴とする。
従って、請求項2記載の発明に係る歯矯正補助具にあっては、全体略端円筒状に形成された係合部が歯矯正器具のワイヤーに係合する。
【0008】
請求項3記載の発明にあっては、上記基部は平面略方形状に形成され、上記係合部は、上記基部の幅寸法の全域に亘って形成されると共に、上記係止突起部は、上記基部に立設された軸部と、上記軸部の先端部に、上記軸部の径寸法よりも大きな径寸法に形成された大径部とにより構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明にあっては、上記係合部は、可撓性を有する素材により形成され、上記係合部の内方にはワイヤー収納部が形成され、上記開口部の間隔寸法は0.5mmであると共に上記ワイヤー収納部の内径寸法は0.7mmであることを特徴とする。
従って、請求項4記載の発明にあっては、一般に広く使用されている直径0.7mm又は0.8mmのワイヤーに係合させる場合には、上記開口部は撓んで大きく開口することから、所定の把持力を以てワイヤーに係合する。
【0010】
請求項5記載の発明にあっては、上記基部、係合部及び締付部材固定部は合成樹脂による一体成型により可撓性を有して形成されていることを特徴とする。
従って、請求項5記載の発明にあっては、上記係合部は上記歯矯正器具のワイヤーに係合する際に容易に撓むことができる。
【0011】
請求項6記載の発明にあっては、上記合成樹脂はポリカーボネートであることを特徴とする。
従って、請求項6記載の発明にあっては、上記歯矯正補助具はポリカーボネート製であることから、所定の可撓性と強度とを併せ持っている。
【0012】
請求項7記載の発明にあっては、合成樹脂による一体成型であって、棒状の把持部と、上記把持部の両端に、上記把持部から分離可能に形成され、歯矯正器具のワイヤーに係合して固定し、歯矯正用締付部材を固定して使用することができる歯矯正補助具部とを有することを特徴とする。
従って、請求項7記載の発明にあっては、治療者は、矯正治療作業に際して、
上記棒状の把持部を把持して患者の歯近傍まで持ちより、上記把持部を把持した状態で上記係合部を上記歯矯正器具のワイヤーに係合固定した後、歯矯正補助具部を把持部から分離して、歯矯正用締付部材を固定して歯矯正治療作業を行うことができる。
【0013】
請求項8記載の発明にあっては、上記一対の歯矯正補助具部は、歯矯正器具を構成するワイヤーに係止して固定される係合部と、歯矯正用締付部材が固定される締付部材固定部とを有し、上記係合部は、上記基部の一端部に設けられると共に上記締付部材固定部は上記基部の他端部に設けられ、上記係合部は全体短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に、軸方向に沿って上記ワイヤーが出入しうる開口部を有し、上記締付部材固定部は上記歯矯正用締付部材が取り付けられる係止突起部により形成され、上記把持部の両端部には、上記基部の締付部材固定部側が接合されると共に上記係合部は外方端部に配置される歯矯正補助具製品として構成されたことを特徴とする。
【0014】
従って、請求項8記載に係る歯矯正補助具製品にあっては、上記把持部に連設された一対の歯矯正補助具の係合部が外方に配置されていることから、歯矯正作業を行う場合には、治療者は、上記把持部を指で把持して上記一方の係合部を、患者の歯に装着された歯矯正器具を構成するワイヤーの一部に係止させて歯矯正締付部材の締付部材固定部を形成した後、他方の係合部を歯矯正器具のワイヤーの他の部位に係止させて歯矯正締付部材の他の締付部材固定部を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜6記載の発明にあっては、従来のように、矯正用ゴムベルト等の締め付け手段を歯矯正器具のワイヤーに固定するため金属製のフック部材をワイヤーに蝋付け固定したり、金属製のフック部材を専用器具を用いて固定する必要がなく、単に、歯矯正器具のワイヤーに歯矯正補助具を係止固定することにより、歯矯正用締め付け具の締付部材固定部位を容易かつ迅速に形成することが可能となる。その結果、歯科矯正治療の現場において、円滑に患者に対して歯矯正治療を施すことが可能となる。
その結果、歯矯正治療を行う際に、従来のように、所定の準備作業は不要となり、また、固定作業に熟練する必要もないことから、歯科治療の現場において容易かつ迅速に歯矯正治療作業を行うことができる。また、その結果、歯矯正治療を受ける患者にも負担をかけるという事態も解消することができる。
【0016】
請求項2記載の発明にあっては、上記係合部は、上記基部の一端部に設けられると共に、上記締付部材固定部は上記基部の他端部に設けられ、上記係合部は全体短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に軸方向に沿って、上記ワイヤーが出入しうる開口部を有し、上記締付部材固定部は、上記歯矯正用締付部材が取り付けられる係止突起部により形成され、全体略端円筒状に形成された係合部が歯矯正器具のワイヤーに係合するように構成されていることから、歯矯正器具に固定しやすい歯矯正治療補助具を提供することができる。
【0017】
請求項3記載の発明にあっては、請求項1記載の発明の効果に加えて、上記係合部は上記基部の幅寸法の全域に亘って形成され、所定の長さ寸法を有していることから、歯矯正装置のワイヤーに対して安定して係合固定することができる。
また、上記締付部材固定部は、上記基部に立設された軸部と、上記軸部の先端部に、上記軸部の径寸法よりも大きな径寸法に形成された大径部とにより構成されていることから、歯矯正締付部材を確実かつ容易に固定することができる。
【0018】
請求項4記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、上記係合部材は、可撓性を有する素材により形成され、横断面略J字状に形成され、開口部の間隔寸法は0.5mmであると共に、内径寸法は0.7mmに形成されていることから、一般に使用される0.7mm径及び0.8mm径のワイヤーに係合させる場合には、開口部は開口寸法以上に大きく撓んで上記ワイヤーに係止すため所定の把持力を以てワイヤーに係合することから、確実に上記ワイヤーに固定することができる。
【0019】
請求項5記載の発明にあっては、請求項1記載の効果に加えて、上記歯矯正補助具は合成樹脂製であることから、型による製造が可能であり、コストを低減して容易に多数製造することができる。
また、使用に際しては、軽量であることから指で把持してワイヤーに固定しやすく治療作業者が作業を行い易いと共に、金属製の歯矯正補助具に比して、患者に負担をかけることがない。
【0020】
請求項6記載の発明にあっては、ポリカーボネート製であることから、硬度が大きく、かつ高い可撓性を有している歯矯正補助具を提供することができる。
【0021】
請求項7記載の発明にあっては、治療者は、矯正治療作業に際して、上記棒状の把持部を把持して、患者の歯近傍まで持ちより、上記把持部を把持した状態で上記係合部を上記歯矯正器具のワイヤーに係合固定した後、歯矯正補助具を把持部から分離して、歯矯正用締付部材を固定して歯矯正治療作業を行うことができる。
【0022】
従って、歯矯正用締付部材を固定する締付部材固定部位を、他に特別な器具や作業工具等を必要とせず、容易かつ迅速に形成することが可能となる。その結果、治療作業者側及び患者側の、歯矯正器具の固定に要する負担を大幅に軽減することができる。
【0023】
請求項8記載に係る歯矯正補助具製品にあっては、上記把持部に連設された一対の歯矯正補助具部の係合部が外方に配置されていることから、歯矯正作業を行う場合には、治療者は、上記把持部を指で把持して上記一方の係合部を歯矯正器具のワイヤーの一部に係止させて歯矯正締付部材の締付部材固定部を一ヶ所形成した後、次に、他方の係合部を歯矯正器具のワイヤーの他の部位に係止させて歯矯正締付部材の他の締付部材固定部を形成することができる。
従って、請求項8記載の発明にあっては、歯矯正治療に際して、治療者は、本請求項に係る製品の一回の把持で、歯矯正治療に必要な締付部材固定部の形成を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る歯強制補助具製品の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】本発明に係る歯強制補助具製品の一実施の形態を示す側面図である
【図3】本発明に係る歯強制補助具製品の一実施の形態を示す背面図である
【図4】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を指で把持して、歯に装着された歯矯正器具のワイヤーに一方の歯矯正用補助具部を係合固定した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて、歯に装着された歯矯正器具のワイヤーに一方の歯矯正用補助具部を係合固定した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて、歯に装着された歯矯正器具のワイヤーに一方の歯矯正用補助具部を係合固定し、その後、把持部を歯矯正補助具部から除去した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて歯の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製のチェーン状締付部材を使用して前歯部の矯正を行う場合の準備状態を示す平面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて前歯部の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製のチェーン状締付部材を使用して前歯部の矯正を行っている状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて前歯部の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製の紐状締付部材を使用すると共に、ボタンを歯に接着して前歯部の矯正を行う場合を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて前歯部の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製の紐状締付部材を使用すると共に、ボタンを歯に接着して前歯部の矯正を行う場合を示す一部拡大斜視図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて臼歯の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製のチェーン状締付部材を使用すると共に、アダムスクラスプをより奥の歯に装着して臼歯の矯正を行う場合を示す斜視図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る歯強制補助具製品を用いて臼歯の矯正を行う場合であって、歯矯正締付部材である合成樹脂製のチェーン状締付部材を使用すると共に、アダムスクラスプをより奥の歯に装着して臼歯の矯正を行う場合を示す一部拡大斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づき、本発明を詳細に説明する。
図1〜図6に示すように、本実施の形態に係る歯矯正補助具10は、ポリカーボネート製であって、全体が半透明な歯矯正補助具製品13として全体が型による一体成型により作成されている。
図1〜図3に示すように本実施の形態に係る歯矯正補助具製品13は、棒状の把持部14と、上記把持部14の両端に、上記把持部14から分離可能に形成され、歯矯正器具19のワイヤー20に係合して固定でき歯矯正用締付部材21を固定して使用することができる一対の歯矯正補助具部10、10とを有している。
【0026】
上記歯矯正補助具部10、10は、一般成人の歯の歯茎からの表出部の大きさよりも大幅に小型に形成され、上記棒状の把持部14との間に形成された細幅部15、15を介して連設され、把持部14の径寸法は、上記歯矯正補助具部10、10の幅寸法Lと略同一に形成されている。
【0027】
歯矯正補助具部10は、上記ワイヤー20へ係止する係合部11と、上記歯矯正締付部材21が係止される締付部材固定部12とを有している。
上記係合部11及び上記締付部材固定部12は、夫々、全体略長方形板状の基部22に設けられており、上記係合部11は、上記基部22の長さ方向の一端部に設けられると共に、上記締付部材固定部12は上記基部22の長さ方向の他端部に設けられている。
【0028】
図2に示すように、上記係合部11は全体略短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に軸方向に沿って、上記ワイヤー20が出入しうる開口部23が形成され、上記基部22から上記係合部11にかけては側面略J字状に形成されている
【0029】
上記係合部11の内方には、上記開口部23に連続してワイヤー収納部25が形成され、上記開口部23の間隔寸法は0.5mmであると共に上記ワイヤー収納部25の内径寸法は0.7mmに形成されている。
従って、一般に使用される0.7mm径及び0.8mm径のワイヤー20に係合させる場合には、上記開口部23は開口寸法以上に大きく撓んで開いた状態で上記ワイヤー20に係止することから、上記ワイヤー20へ所定の把持力を以て係合するため、確実に上記ワイヤー20に係合固定することができる。
【0030】
一方、上記締付部材固定部12は、上記歯矯正用締付部材21が取り付けられる係止突起部24により形成されており、この係止突起部24は、上記基部22に立設された軸部24aと、上記軸部24aの先端部に、上記軸部24aの径寸法よりも大きな径寸法で、直交して形成された大径部24bとにより構成されている。
【0031】
以下、本実施の形態に係る歯矯正補助具製品13及び歯矯正用補助具10の作用について説明する。
本実施の形態に係る歯矯正用補助具製品13を使用して歯の矯正措置を施す場合、例えば、治療者がチェアサイドで行う場合(診療室で歯矯正治療作業を患者に施す場合)には、歯矯正治療作業に際し、治療者は、図4及び図5に示すように、一方の手の指37、37で歯矯正補助具製品13の把持部14を把持して、予め患者の歯に装着された歯矯正器具19のワイヤー20の適宜部位に、歯矯正用補助具製品13の一方の歯矯正補助具10の係合部11を係合固定させる。
【0032】
この場合、上記のように、上記開口部23の間隔寸法は0.5mmに形成されていることから、一般に使用される0.7mm径及び0.8mm径のワイヤー20に係合させる場合には、上記開口部23は開口寸法以上に大きく撓んで開いた状態で上記ワイヤー20に係止すると共に上記ワイヤー収納部25の内径寸法は0.7mmに形成されていることから、ワイヤー20はワイヤー収納部25内に確実に収納される。
【0033】
従って、素材としてのポリカーボネートの良好な可撓性及び大きな強度と相俟って、係合部11は、上記ワイヤー20へ相当の把持力を以て係合するため、確実に上記ワイヤー20に係合固定することができることから、一方の歯矯正補助具部10aはワイヤー20に確実に係合固定される。
【0034】
その後、図6に示すように、治療者は上記把持部14の周方向に沿って回転させて捻る等の操作を行うことにより、上記細幅部15において一方の歯矯正補助具部10を把持部14から捻じ切ることにより分離させることにより、歯矯正補助具10aを形成し、歯矯正締付部材21の一方の固定部位を形成することができる。
【0035】
一方の歯矯正補助具10aのみを利用して歯矯正締付部材21を係止させられる場合には、そのように作業を行い、他方の歯矯正補助具部10も歯矯正器具19に固定させて使用する必要がある場合には、上記同様の要領で、把持部14を把持して、他方の歯矯正補助具部10を歯矯正器具19のワイヤー20に係合させ、把持部14から分離させることにより、歯矯正締付部材21の他方の固定部位を形成することができる。
【0036】
従って、本実施の形態に係る歯矯正補助具製品13にあっては、上記把持部14に連設された一対の歯矯正補助具部10、10の係合部11が外方に配置されていることから、歯矯正作業を行う場合には、治療者は、上記把持部14を指で把持して上記一方の係合部11を歯矯正器具19のワイヤー20の一部に係止させて歯矯正締付部材21の締付部材固定部を一ヶ所形成した後、次に、他方の係合部11を歯矯正器具10のワイヤー20の他の部位に係止させて歯矯正締付部材21の他の締付部材固定部を形成することができる。
【0037】
従って、歯矯正治療に際して、治療者は、一回の把持で、歯矯正治療に必要な締付部材固定部の形成を効率的に行うことができる。
以下、歯矯正治療の様々な形態による実施例を示す。
【実施例1】
【0038】
図7及び8に示すように、本実施例は、歯矯正締付部材21である合成樹脂製のチェーン状締付部材21aを使用して前歯部の矯正を行う場合である。
上記チェーン状締付部材21aは、合成樹脂の一体成型であって可撓性を有し、小径の円環部28を多数長さ方向に連続して形成した形状となっている。
【0039】
前歯部26の歯矯正を行う場合には、前歯部26に装着された歯矯正器具19の、前部の両端部に形成された逆U字状のフック部27、27に、夫々、上記歯矯正補助具10a、10bを固定し、歯矯正締付部材21であるチェーン状締付部材21aの両端部の円環部28a、28bを、夫々、上記歯矯正補助具10、10の締付部材固定部12、12へ係止させて固定する。
【0040】
この場合、図7に示すように、上記歯矯正締付部材21は、上記逆U字状のフック部材27、27の間に、緊張状態で張り渡される長さ寸法に設定されている。
従って、この状態で、患者の前歯部26に上記歯矯正器具19を装着し、上記チェーン状締付部材21aを患者の前歯部26の前面部に沿わせて配置した場合には、図8に示すように、上記チェーン状締付部材21aは、長さ方向に引き伸ばされることから、チェーン締付部材21aは前歯部26の前面部に圧接し、長さ方向における張力は、前歯部26の夫々の歯30を口内方31へ押すように作用する。
【0041】
その結果、前歯部26の夫々の歯30は、上記チェーン状締付部材21aにより口内方へ押され続けることから、歯30は口内方31へ移動して矯正されることとなる。
【0042】
従って、本実施例にあっては、歯矯正器具19に本実施の形態に係る一対の歯矯正補助具10、10が固定され、上記上記一対の歯矯正補助具10a、10bとの間に歯矯正締付部材21としてのチェーン状締付部材21aを展張させて前歯部26に装着することにより、チェーン状締付部材21aが合成樹脂製であるため可撓性を有していることから、チェーン状締付部材21aがよく撓み、各歯30の前面部に広く圧接することから、各歯30への面接触が可能となる。
【0043】
その結果、単に歯矯正器具19のみを装着する場合に対比した場合、前歯部26の各歯30との接触部が、歯矯正器具19のみを装着する場合には点接触となるのに比して、より効果的に歯を口内方31方向へ移動させることが可能となる。
【0044】
この場合には、矯正の効果としては、前歯部26の両側部位に亘って締付部材としてのチェーン状締付部材21aを展張させて矯正することから、左右方向において均等な圧力を各歯30に対して作用させ、口内方31方向へ引っ張ることにより矯正することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例1の場合には、前歯部26の両側部に亘ってチェーン部材21aを展張させて前歯部26の各歯31を矯正する場合を例に説明したが、図9及び10に示す本実施例の場合には、例えば、前歯32、32、32の相互の間隔が開いている、いわゆる「正中の偏移」といわれる症例に適用した場合である。
【0046】
本実施例にあっては、前記実施例の場合と同様に、歯矯正器具19を前歯部26に装着する。但し、互いに間隔が開いた矯正しようとする歯32、32、32の内の、前歯部26において最も遠方の歯32aの前面部に合成樹脂製のボタン29を接着固定し、上記ボタン29と、歯矯正器具19のワイヤー20に係合固定させた歯矯正用補助具10との間に、矯正用締付部材としてのゴム製の紐状締付部材21bを引張状態で掛け回すことにより、上記ボタン29を介して上記の矯正しようとする歯32、32,32を歯列方向に移動させて矯正するものである。
【実施例3】
【0047】
本実施例は、臼歯の矯正に適用される場合である。この場合においては、図11及び図12に示すように、前歯部26に歯矯正器具19をセットし、同時に、矯正しようとする2本の臼歯33、34のさらに奥の歯35にアダムスクラスプ36を固定し、上記歯矯正器具19のワイヤー20に、本実施の形態に係る一方の歯矯正補助具10aを係合固定すると共に、他方の歯矯正補助具10bを上位アダムスクラスプ36を係合させて固定し、上記歯矯正補助具10a、10bの間に上記チェーン状締付部材21aを帳設し、上記チェーン締付部材21aにより上記臼歯33、34を歯前方より締め付け、口内方方向へ押圧して矯正するものである。
【0048】
従って、上記各実施例から分かるように、歯矯正器具19を使用する際に、本実施の形態に係る歯矯正用補助具10を使用した場合には、常時、各種の歯矯正締付部材21の締付部材の固定部を容易かつ迅速に、作業者の熟練度にかかわらず形成することができる。
また、上記歯矯正補助具10は、歯矯正締付部材21として、上記チェーン状締付部材21a及び紐状締付部材21bの双方共に使用することができ、矯正治療の多様性を確保することができる。
【0049】
また、上記のように、歯矯正器具19を使用して治療室において患者の歯矯正治療を行う際に、歯矯正器具19を患者の口腔内に設置した後に、本実施の形態に係る歯矯正補助具10を歯矯正器具に固定して歯締付部材21を引張することにより、歯の矯正治療を行うことができる。
【0050】
また、本実施の形態に係る歯矯正補助具10は、ポリカーボネートによる一体成型であることから可撓性に富み、治療者は容易かつ迅速に歯矯正器具に着脱ができる。また、設置に長時間を要さないことから、患者も矯正治療を受けやすいと共に、口内に設置された場合にも、金属製の歯矯正補助具に比して違和感が少ない。
【0051】
さらに、ポリカーボネートによる一体成型品であることから、型成型によりる大量生産が可能であり、従来のように、歯矯正器具の金属部に対して個別的に金属製の部材をロウ付けにより固定していた場合に比して、生産コスト及び治療コストを低減することができ、
【0052】
また、治療者の矯正治療の作業効率を向上させることができることから、従来のように、患者の口内への設置に複数の日を要することがなく、一回の来院で設置することができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る歯矯正補助具製品13は、棒状の把持部14の両端部に一対の歯矯正補助具部10、10が形成されていることから、一般的に、歯矯正治療では、1回の治療で、2個の歯矯正補助具を使用することが多く、このような治療現場の要請に応えることができる。
【0054】
また、治療者は、矯正治療の際に、上記把持部14を把持して設置作業を行うことができることから、歯矯正補助具そのものは歯の歯茎からの表出部に比してはるかに小型に形成されているが、矯正治療に際しての取り回しが容易であり、上記把持部14の両端部には、締付部材固定部12側が接合されると共に、上記係合部11は外方端部に配置されていることから、把持部14の一方端部に形成された歯矯正補助具10を、例えば、歯矯正器具19を構成するワイヤー20等の一部に固定した後、把持部14の他方端部の歯矯正補助具10bを他の部位に固定することができるため、円滑な固定作業を行うことができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る歯矯正補助具10は、使い切りとして使用することができるため、口内で使用する製品としては非常に衛生的である。
また、本実施の形態に係る歯矯正補助具10は、治療室において患者の歯矯正治療の際に歯矯正器具19等に設置して使用することもできれば、技工所において(ラボサイド)予め歯矯正器具19等に設置した後に、患者の治療に使用することもできる。
【0056】
また、ポリカーボネート製であることから、強度が大きく、歯矯正締付部材21により大きな締め付け強度が作用した場合であっても破損することはない。
また、従来は、金属製のフック部材を歯矯正器具のワイヤーに係合させた後に、プライヤー等の工具を使用してカシメ固定しており、作業者の熟練度を必要とし、場合によっては、上記ワイヤーを破損する場合もあったが、本実施の形態に係る歯矯正用補助具にあっては、ポリカーカボネート製であって可撓性を有していることから、固定作業にあたって工具等は一切不要であり、作業者の熟練度にかかわらず、容易かつ迅速に固定作業を行うことができ、また、歯矯正器具側の破損の事態を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る歯矯正補助具及び歯矯正補助具製品は広く歯科矯正治療作業に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 歯矯正用補助具部
10a 歯矯正補助具
10b 歯矯正補助具
11 係合部
12 締付部材固定部
13 歯矯正補助具製品
14 把持部
15 細幅部
16 本体部
17 軸部
18 大径部
19 歯矯正器具
20 ワイヤー
21 歯矯正用締付部材
21a チェーン状締付部材
21b 紐状締付部材
22 基部
23 開口部
24 係止突起部
25 ワイヤー収納部
26 前歯部
27 フック部
28 円環部
29 ボタン
30 歯
31 口内方
32 前歯
33 臼歯
34 臼歯
35 奥の歯
36 アダムスクラスプ
37 指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯に装着された歯矯正器具を構成するワイヤーに係止する係合部と、歯矯正用締付部材が係止される締付部材固定部とを有することを特徴とする歯矯正補助具。
【請求項2】
上記係合部及び上記締付部材固定部は、夫々、基部に設けられ、上記係合部は、上記基部の一端部に設けられると共に、上記締付部材固定部は上記基部の他端部に設けられ、
上記係合部は全体短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に軸方向に沿って、上記ワイヤーが出入しうる開口部を有し、上記締付部材固定部は、上記歯矯正用締付部材が取り付けられる係止突起部により形成されていることを特徴とする請求項1記載の歯矯正補助具。
【請求項3】
上記基部は平面略方形状に形成され、上記係合部は、上記基部の幅寸法の全域に亘って形成されると共に、上記係止突起部は、上記基部に立設された軸部と、上記軸部の先端部に、上記軸部の径寸法よりも大きな径寸法に形成された大径部とにより構成されていることを特徴とする請求項2記載の歯矯正補助具。
【請求項4】
上記係合部は、可撓性を有する素材により形成され、上記係合部の内方にはワイヤー収納部が形成され、上記開口部の間隔寸法は0.5mmであると共に上記ワイヤー収納部の内径寸法は0.7mmであることを特徴とする請求項2記載の歯矯正補助具。
【請求項5】
上記基部、係合部及び締付部材固定部は、合成樹脂による一体成型により可撓性を有して形成されていることを特徴とする請求項4記載の歯矯正補助具。
【請求項6】
上記合成樹脂はポリカーボネートであることを特徴とする請求項5記載の歯矯正補助具。
【請求項7】
合成樹脂による一体成型であって、把持部と、上記把持部の両端に、上記把持部から分離可能に形成され、歯矯正器具のワイヤーに係合して固定され、歯矯正用締付部材が係止される一対の歯矯正補助具部とを有することを特徴とする歯矯正補助具製品。
【請求項8】
上記一対の歯矯正補助具部は、歯矯正器具を構成するワイヤーに係止される係合部と、歯矯正用締付部材が固定される締付部材固定部とを有し、
上記係合部は、上記基部の一端部に設けられると共に上記締付部材固定部は上記基部の他端部に設けられ、上記係合部は全体短円筒状に形成されると共に、周方向の一部に、軸方向に沿って上記ワイヤーが出入しうる開口部を有し、上記締付部材固定部は上記歯矯正用締付部材が取り付けられる係止突起部により形成され、
上記把持部の両端部には、上記基部の締付部材固定部側が接合されると共に、上記係合部は外方端部に配置されることを特徴とする請求項7記載の歯矯正補助具製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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