説明

歯科用の1液型セラミックス用プライマー組成物

【課題】 歯冠修復物等の歯科用のセラミックス製部材をレジンセメント等の歯科用レジンと接着させる場合に使用されるセラミックス用プライマー組成物において、高い接着性を有し、1液型で操作性にも優れ、さらに保存安定性にも優れるものを開発することを目的とする。
【解決手段】 (A)カップリング剤、好適には重合基を有するシランカップリング剤、
(B)B1)増感色素とB2)光酸発生剤とを含んでなる光重合開始剤、好適には、及び
(C)有機溶媒
を1液に含んでなることを特徴とする歯科用のセラミックス用プライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セラミックスに対するプライマー組成物に関し、さらに詳しくは、接着性および保存安定性に優れた歯科用の1液型セラミックス用プライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療において、う蝕歯あるいは欠損歯の修復を目的に歯科用セラミックス製歯冠修復物をレジンセメント等の歯科用レジンで歯牙に接着させることが行われる。その際には、該歯科用セラミックスと歯科用レジンの接着性を高めるためにシランカップリング剤を主成分とする表面処理剤(セラミックス用プライマー)が用いられている。
【0003】
例えば、シランカップリング剤と分子内に少なくとも1個のラジカル重合可能なオレフィン性二重結合を有する酸性型有機リン化合物を構成要素とする歯科用プライマー組成物が提案されている(特許文献1)。この歯科用プライマー組成物では、上記酸性型有機リン化合物が、シランカップリング剤を活性化させ、セラミックス表面のシラノール基の縮合を促進する触媒として働いている。
【0004】
しかし、該プライマー組成物では、その保存安定性の理由からシランカップリング剤と酸性型有機リン化合物は別な溶液として調合されており、使用直前に両液を混合するシステムである。現在、歯科臨床において多用されているセラミックス用プライマーは上述のような2液型であるが、使用直前に2液を混合する操作は煩雑である。
【0005】
1液型のプライマー組成物としては、シランカップリング剤と有機溶媒からなる組成物が提案されているが、該シランカップリング剤が容易に活性化されないため、その接着性は満足のいくものではない。そのため、充分な接着性を達成するためには、該1液型のプライマー組成物で処理した材料をドライアー等によって加熱処理を施し、該カップリング剤を活性化させる必要がある。本操作は臨床において非常に煩雑であり、また患者の口腔内ではこのような操作は現実的ではない。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−51308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、歯科用のセラミックス用プライマー組成物において、高い接着性を有し、1液型で操作性にも優れ、さらに保存安定性にも優れるものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねたところ、カップリング剤、増感色素と光酸発生剤からなる光重合開始剤、及び有機溶媒を1液に含んでなるプライマー組成物を用いれば、試薬の保存中は、系中には酸は存在せず安定であり、他方、使用時において対象とするセラミックスに処理を施して光を照射すると、該光重合開始剤を構成する増感色素と光酸発生剤とが作用しあって酸が発生しカップリング剤を活性化させて該セラミックスと良好に反応し、該セラミックスと歯科用レジンとを強固に接着することが可能になること見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(A)カップリング剤、
(B)B1)増感色素とB2)光酸発生剤とを含んでなる光重合開始剤、及び
(C)有機溶媒
を含んでなることを特徴とする歯科用の1液型セラミックス用プライマー組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプライマー組成物は、セラミックスに対して高い接着性を有し、しかも、操作性に優れる1液型でありながら、保存時には、該カップリング剤を活性化する酸が系中に存在しないため保存安定性が良好である。すなわち、長期間保存しても、上記したセラミックスに対する優れた接着性は良好に維持され、高い信頼度で使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記組成からなる本発明のプライマー組成物により、歯科用セラミックスを表面処理し、光照射すると、増感色素が光酸発生剤を分解させて酸が発生し、これがカップリング剤を活性化させて上記歯科用セラミックスと良好に反応し、該歯科用セラミックスと歯科用レジンを強固に接着させることを可能にする。
【0012】
しかし、その保存時には、上記カップリング剤を活性化する酸は系中に存在しないため、試薬は1液型の形態にすることができ、使用時の操作性に優れる。
【0013】
本発明に使用する(A)カップリング剤としては公知のものが制限なく使用できる。ここで、カップリング剤とは有機質材料と無機質材料とを化学的に結合し得る表面処理剤であり、その分子中に有機官能基と加水分解基をそれぞれ有している化合物からなる。
【0014】
この様なカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシランカップリング剤類、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類が挙げられる。
【0015】
これらカップリング剤のなかでも、特に、接着性及び取扱い性の観点から重合基を有するシランカップリング剤が好適に使用される。ここで、重合基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基等が挙げられ、接着性の観点から特に(メタ)アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0016】
好適に使用される重合基を有するシランカップリング剤を具体的に例示すると、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0017】
上記のカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
本発明のプライマー組成物において、かかるカップリング剤の濃度は特に限定されないが、接着強度の観点から、プライマー組成物全体の質量を基準として0.01〜20質量%の範囲内であることが好適である。上記カップリング剤濃度のさらに好ましい濃度範囲は、0.05〜10質量%である。
【0019】
本発明に使用する(B)光重合開始剤は、B1)増感色素とB2)光酸発生剤をその成分として含む。
【0020】
本発明のB1)増感色素は、最大吸収波長を350〜680nmに持ち、可視光線照射により、モノマーまたは第3物質との間でエネルギー移動あるいは電子移動がおこり、重合に有効な活性種を生成させることができる色素であり、本発明においては、B2)成分である光酸発生剤を増感分解させることができる色素である。
【0021】
この増感色素としては、最大吸収波長が350〜680nmに存在する増感色素が何等制限なく使用できる。好適に使用できる増感色素としては、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、チアジン系色素、アジン系色素、アクリジン系色素、キサンテン系色素、スクアリウム系色素、およびピリリニウム塩系色素等が挙げられる。このうち、クマリン系色素、およびシアニン系色素が後述する本発明のB2)成分で示される光酸発生剤の増感分解を効率的に進行させる理由から好ましい。
【0022】
クマリン系色素を具体的に例示すると、3−チエノイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)クマリン、3−チエノイル−7−メトキシクマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)−7−メトキシクマリン、5,7−ジメトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)−5,7−ジメトキシクマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、7−ジエチルアミノ−3−チエノイルクマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−シアノベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジメチルアミノベンゾイル)クマリン、3−シンナモイル−7−ジエチルアミノクマリン、3−(p−ジエチルアミノシンナモイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−アセチル−7−ジエチルアミノクマリン、3−カルボキシ−7−ジエチルアミノクマリン、3−(4−カルボキシベンゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−10−(ベンゾチアゾイル)−11−オキソ−1H,5H,11H,−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン、3,3’−カルボニルビス(5,7−)ジメトキシ−3,3’−ビスクマリン、3−(2’−ベンズイミダゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−(2’−ベンズオキサゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−(5’−フェニルチアジアゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−(2’−ベンズチアゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノ)クマリン、4−トリフロロメチル−7−アミノクマリン、4−トリフロロエチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−フェニル−7−アミノクマリン、3−(4’−アセチルアミノフェニル)−7−アセチルアミノクマリン、3−フェニル−7−(2H−ナフト[1,2d]トリアゾール−2’−イル)クマリン、3−エトキシカルボニル−5,6−ベンゾクマリン、4−トリフロロメチルピペリジノ[3,2−g]クマリン、3−(2’−ベンゾチアゾイル)−4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等を挙げることができる。
【0023】
シアニン系色素としては、3,3’−ジエチル−2,2’−チアシアニンアイオダイド、1,3,3,1’,3’,3’,−ヘキサメチル−2,2’−インドシアニンパークロレート、1,3’−ジエチル−2,2’−キノ−チアシアニンアイオダイド、1,3’−ジエチル−2,2’−キノ−セレナシアニンアイオダイド、1,1’−ジエチル−2,2’−キノシアニンアイオダイド、1,1’−ジエチル−2,4’−キノシアニンアイオダイド、1,1’−ジエチル−4,4’−キノシアニンアイオダイド等のモノメチンシアニン色素:3,3’−ジエチル−2,2’−チアゾリノカルボシアニンアイオダイド、3,3’−ジエチル−2,2’−チアゾリノカルボシアニンアイオダイド、3,3’−ジエチル−2,2’−オキサカルボシアニンアイオダイド、3,3’,9−トリエチル−5,5’−ジフェニル−2,2’−オキサカルボシアニンアイオダイド、1,3,3,1’,3’,3’−ヘキサメチル−2,2’−チアカルボシアニンアイオダイド、3,3’−ジエチル−2,2’−チアカルボシアニンアイオダイド、3,3’,9−トリエチル−2,2’−(6,7,6’,7’−ジベンゾ)チアカルボシアニンアイオダイド、1,1’−ジエチル−2,4’−キノカルボシアニンアイオダイド等のトリメチンシアニン色素:3,3’−ジエチル−2,2’−オキサジカルボシアニンアイオダイド、3,3’−ジエチル−9,11−ネオペンチレン−2,2’−チアジカルボシアニンアイオダイド、3,3’−ジエチル−2,2’−セレナジカルボシアニンアイオダイド等のペンタメチンシアニン色素等が挙げられる。
【0024】
その他、メロシアニン系色素の好適な具体例を示せば、3−エチル−5−[2−(3−メチル−2−チアゾリジニリデン)エチリデン]−2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン、1,3−ジエチル−5−[2−(3−エチル−2−ベンゾチアゾリニリデン)エチリデン]−2−チオヒダントイン、3−カルボキシメチル−5−[2−(3−エチル−2−ベンゾチアゾリジニリデン)エチリデン]ローダニン、3−エチル−5−[2−(3−エチル−2−ベンゾチアゾリニリデン)エチリデン]ローダニン、3−エチル−5−[2−(3−エチル−4−メチル−2−チアゾリニリデン)エチリデン]ローダニン等を挙げることができる。
【0025】
また、チアジン系色素を具体的に例示すれば、メチレンブルー、3,7−ジアミノ−1,2−ベンゾフェノキサゾニウムパークロレート等が挙げられ、アジン系色素としては、5−アセトキシベンゾフェナジン、1−アミノ−4−ニトロフェナジン等が挙げられる。
【0026】
さらに、アクリジン系色素を具体的に示せば、1−アミノアクリジン、9−(2’−ヒドロキシスチリル)アクリジン、アクリジンオレンジ等が挙げられる。
【0027】
さらに、キサンテン系色素を具体的に例示すれば、ローダミン110、ローダミン6G、テトラメチルローダミンパークロレート等が挙げられ、スクアリウム系色素を具体的に例示すれば、2−[[3−[(1,3−ジヒドロ−1−エチル−3,3,5−トリメチル−2H−インドール−2−イリデン)メチル]−2−ヒドロキシ−4−オキソ−2−シクロブテン−1−イリデン]メチル]−1−エチル−3,3,5−トリメチル−3H−インドリウム,内部塩、{4−[3−[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシフェニル]−2−ヒドロキシ−4−オキソ−2−シクロブテン−1−イリデン]−3−ヒドロキシ−2,5−シクロヘキサジエン−1−イリデン}−N−エチル−N−オクタデシルアンモニウムハイドロオキサイド,内部塩等が挙げられる。
【0028】
さらに、ピリリニウム塩系色素の好適な具体例としては、2,6−ジフェニル−4−(4−メチルフェニル)チオピリリニウムパークロレート、2,6−ビス(4−メチルフェニル)−4−(4−フェニル)チオピリリニウムパークロレート、2,4,6−トリフェニルチオピリリニウムパークロレート等が挙げられる。
【0029】
使用する増感色素は、重合に用いる光の波長や強度あるいはB2)成分で示される光酸発生剤の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独でまたは2種以上を混合して用いて使用できる。また添加量も組み合わせる他の成分の種類によって異なるが、通常は、光重合開始剤中に0.01〜80質量%、より好ましくは0.05〜60質量%の範囲から選べばよい。
【0030】
本発明のB2)成分の光酸発生剤は光照射によってブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成するものであり、本発明のB1)成分で示される増感色素によって可視光線照射下分解し、酸を発生するものならば公知のものが何等制限なく使用できる。
【0031】
該光酸発生剤を例示すれば、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、スルホン酸エステル化合物、ジスルホン化合物、ジアゾニウム塩化合物等を挙げることができる。
【0032】
本発明においては上記光酸発生剤の中でも、特に、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体系光酸発生剤、またはジフェニルヨードニウム塩系光酸発生剤を用いると、本発明のB1)成分で示される増感色素とエネルギー移動を行い、可視光線照射によって高効率に酸を発生する。
【0033】
代表的なハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体系光酸発生剤を一般式で示すと、下記一般式(1)
【0034】
【化1】

【0035】
(ただし、RおよびRは置換あるいは未置換のアルキル基、置換あるいは未置換のアリール基、置換あるいは未置換のアルケニル基、および置換あるいは未置換のアルコキシ基であり、RおよびRの少なくともひとつはハロメチル基である。)で示されるハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体が挙げられる。
【0036】
さらに、代表的なジフェニルヨードニウム塩系光酸発生剤を一般式で示すと、下記一般式(2)
【0037】
【化2】

【0038】
(ただし、R、R、RおよびRはそれぞれ同種あるいは異種の水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルコシキ基であり、Mはハロゲンイオン、BF、PF、AsF、CFSOおよびSbFである。)で示されるジフェニルヨードニウム塩化合物が挙げられる。
【0039】
前記一般式(1)中のハロメチル基に置換するハロゲン原子は塩素、臭素、ヨウ素の各ハロゲン原子が好適に使用されるが、塩素原子が3つ置換したトリクロロメチル基を有する化合物を用いるのが一般的である。
【0040】
以下、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体系光酸発生剤の具体例を示せば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(o−メトキシスチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4,5−トリメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等を挙げることができる。
【0041】
また一般式(2)で示されるジフェニルヨードニウム塩系光酸発生剤の具体的を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム等のクロリド、ブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフロロメタンスルホネート等が挙げられ、特に化合物の溶解性の点からテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフロロメタンスルホネート塩が好適に使用される。
【0042】
本発明で好適に使用される他の光酸発生剤を具体的に例示すれば、スルホニウム塩化合物として、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフィネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムトリフロロメタンスルホネート、p−メトキシフェニルジフェニルスルホネートヘキサフルオロアンチモネート、p−メトキシフェニルジフェニルスルホネートトリフロロメタンスルホネート、p−トルエンジフェニルスルホネートヘキサフルオロアンチモネート、p−トルエンジフェニルスルホネートトリフロロメタンスルホネート、メシチレンジフェニルスルホネートトリフロロメタンスルホネート、p−(t−ブチル)フェニルジフェニルスルホネートトリフロロメタンスルホネート等が挙げられる。
【0043】
また、スルホン酸エステル化合物の好適な具体例としては、ベンゾイントシレート、α−メチロールベンゾイントシレート、ピロガロールトリメシレート等が挙げられる。
【0044】
さらに、ジスルホン化合物の具体例としては、ジフェニルジスルホン、ジ(p−トリル)ジスルホン等が挙げられ、ジアゾニウム塩化合物の具体例としては、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−4−スルホン酸ナトリウム、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸ナトリウム、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸トシルエステル等を挙げることができる。
【0045】
上記した光酸発生剤は1種または2種以上を混合して用いても何等差し支えない。また添加量も組み合わせる他の成分の種類によって異なるが、通常は、光重合開始剤中に20〜99.99質量%、より好ましくは40〜99.95質量%の範囲から選べばよい。
【0046】
本発明のプライマー組成物において、B1)増感色素とB2)光酸発生剤からなる(B)成分である光重合開始剤の濃度は特に限定されないが、接着強度の観点から、プライマー組成物全体の質量を基準として0.01〜10質量%の範囲内であることが好適である。上記光重合開始剤濃度のさらに好ましい濃度範囲は、0.05〜5質量%である。
【0047】
本発明で好適に使用できる(C)成分である有機溶媒を具体的に例示すれば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中で、溶解性および保存安定性等の理由で、アセトン、トルエン、エタノール等が特に好ましく使用される。
【0048】
また、本発明では、有機溶媒として、前記カップリング剤および光重合開始剤を溶解する液状の単量体であるならば、重合性単量体も使用可能である。このような重合性単量体を有機溶媒として使用した場合、後から使用する歯科用レジンの濡れ性がよくなり効果的である。
【0049】
こうした有機溶媒として使用される重合性単量体としては、例えばラジカル重合性のものが好ましい。具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の重合性の高いアクリルまたはメタクリル系重合性単量体が挙げられる。
上記の有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0050】
本発明のプライマー組成物において、かかる(C)成分の有機溶媒の濃度は特に限定されないが、溶解性及び接着強度の観点から、プライマー組成物全体の質量を基準として75〜99質量%の範囲であることが好適である。上記揮発性有機溶媒濃度のさらに好ましい濃度範囲は、85〜98質量%である。
【0051】
また、本発明の歯科用1液型セラミックス用プライマー組成物には接着力を低下させない範囲で必要に応じて、重合禁止剤を添加することもできる。
【0052】
本発明の歯科用1液型セラミックス用プライマー組成物を調整する方法については特に制限がなく、前記の各成分を混合し、均一になるまで攪拌混合すればよい。
【0053】
本発明のプライマー組成物の使用方法は、歯科用セラミックスと歯科用レジンを良好に接着するために本発明のプライマー組成物をセラミックス表面に塗布した後、該塗布面に光照射を行い、その後該セラミックス表面に歯科用レジンを盛って、さらに該歯科用レジンを硬化させる方法が好適に採用できる。
【0054】
また、上記歯科用レジンが光重合可能の場合には、本発明のプライマー組成物を塗布後、該歯科用レジンを盛り付け、レジンと一緒に光照射することもできる。
【0055】
ここで、歯科用セラミックスの材質となるセラミックスとしては、歯冠修復物等の公知の材質が制限なく対象となるが、陶材、シリカ系結晶化ガラス等の組成からなるものが、本発明のプライマーにより高い接着性が得られるため好ましい。
【0056】
一方、この歯科用セラミックスに接着させる歯科用レジンとしては、歯科用修復物を歯質に接着させる目的に使用されるレジンセメント等が挙げられる。このレジンセメントとしては、アクリルまたはメタクリル系重合性単量体、重合開始剤、およびフィラーを主成分とする重合性組成物等が好ましい。
【0057】
上記プライマー組成物のセラミックス表面への塗布量は、特に制限されるものではないが、通常は、スポンジ等の塗布具を用いて一層塗布することにより実施すればよい。
【0058】
上記プライマー組成物への光照射の手段としては、公知の歯科用照射器が使用できる。具体的には、ハロゲン、キセノン、LED等を光源とする歯科用照射器を例示できる。その照射時間は、光源の波長、強度、更には使用する光重合開始剤によって異なるが、一般に3〜60秒程度の範囲である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【0060】
次に実施例中に使用した化合物の略称または構造を下に示す。
(1)略称または構造
(A)カップリング剤
A−174(商品名 日本ユニカー(株)):γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
Z−174:ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン
(B)光重合開始剤
B1)増感色素
【0061】
【化3】

【0062】
B2)光酸発生剤
【0063】
【化4】

【0064】
(C)有機溶媒
EtOH:エタノール
AC:アセトン
MMA:メチルメタクリレート
(2)歯科用1液型セラミックス用プライマー組成物を用いた歯科用セラミックスに対する接着強さ
被着体として、シリカ系結晶化ガラスを材質とする歯科用セラミックスである「セラエステ」((株)トクヤマデンタル社製、10×10×3mm)を用い、これを#1500の耐水研磨紙で研磨し、その処理面に接着面積を固定するために3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。接着面に実施例または比較例のプライマー組成物をそれぞれ筆で塗布し、溶媒を風乾させた後、可視光線照射器(ホワイトライト、タカラベルモント社製)にて10秒間光照射した。引き続き、該接着面に歯科用接着性レジンセメント(ビスタイトII(株)トクヤマデンタル社製)を用いてあらかじめ研磨した8mmφ×18mmのSUS304製丸棒を接着した。接着試験片を37℃水中に浸漬し、24時間後、水中より取り出し、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強さを測定した。各々6個の試験片の測定値を平均し、測定結果とした。
【0065】
実施例1
3.0gのカップリング剤A―174、0.01gの増感色素CDAC、および1.0gの光酸発生剤TCTを95.99gのエタノールに溶解させ、これをプライマー組成物とした。上記試験方法に従い、該プライマー組成物の歯科用セラミックスに対する接着効果を調べた。その結果、セラエステに対して、22.2MPaの接着強度を示した。
【0066】
また、上記プライマー組成物を調整した後、プライマーの保存安定性を評価する目的で37℃の恒温室で3ヶ月間保存した。保存後のプライマーを上記試験方法に準じて歯科用セラミックス「セラエステ」に対する接着強度を調べた。その結果、該歯科用セラミックスに対して、19.7MPaの接着強度を示した。
【0067】
37℃で3ヶ月間保存したプライマー組成物を用いた場合にも、セラエステに対する接着強度は初期値に比べて大きな低下は見られなかった。
【0068】
比較例1
実施例1において、プライマーの塗布なしに接着強度を評価したところ、その接着強度は3.7MPaであった。
【0069】
実施例1と比較例1の結果より、本発明のプライマー組成物の効果が確認された。
【0070】
実施例2〜11、比較例2〜5
表1に記載の組成からなるプライマー組成物を調整し、実施例1と同様に、その接着効果及び保存安定性を調べた。その結果、いずれの実施例においても比較例に比べて良好な接着強度が得られ、各実施例のプライマー組成物の接着効果および保存安定性が確認できた。
【0071】
【表1】

【0072】
比較例6
実施例1で使用したプライマー組成物において、光重合開始剤の代わりに酸性型有機リン化合物である10−メタクリロキシデシルジハイドロジエンホスフェート(1.01質量%)を添加したプライマー組成物を調整した後、実施例1に準じて保存安定性を評価した。
【0073】
その結果、歯科用セラミックス「セラエステ」に対する初期接着強度が20.1MPaであるのに対し、37℃保存後の接着強度は3.6MPaであり、該プライマー組成物の保存安定性は不良であった。
【0074】
実施例1と比較例6の比較より、本発明の歯科用1液型セラミックス用プライマー組成物の保存安定性は良好であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カップリング剤、
(B)B1)増感色素とB2)光酸発生剤とを含んでなる光重合開始剤、及び
(C)有機溶媒
を含んでなることを特徴とする歯科用の1液型セラミックス用プライマー組成物。
【請求項2】
(A)カップリング剤が、重合基を有するシランカップリング剤である請求項1記載の1液型セラミックス用プライマー組成物。
【請求項3】
(B)光重合開始剤において、B1)増感色素がクマリン系色素、またはシアニン系色素であり、B2)光酸発生剤がハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体系光酸発生剤、またはジフェニルヨードニウム塩系光酸発生剤である請求項1または請求項2記載の1液型セラミックス用プライマー組成物。

【公開番号】特開2007−169169(P2007−169169A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364823(P2005−364823)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】