説明

歯科用コンポジットレジンおよび歯科用充填キット

【課題】一段階の可視光照射のみによっても、十分な接着強さ、および辺縁封鎖性を有するコンポジットレジン硬化物が得られる、歯科用コンポジットレジンおよびボンディング材を構成要素とする操作性を向上した歯科用充填キットを提供すること。
【解決手段】特定配合量の酸性基含有単量体を含む歯科用コンポジットレジンと特定配合のボンディング材とを組み合わせた歯科用充填キットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用充填キットに関する。さらに詳しくは、歯質窩洞部位の充填に使用する特定組成の歯科用コンポジットレジン、およびボンディング材を構成に含む歯科用充填キットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属代替材料としてのコンポジットレジン(以下「CR」と略記する場合もある。)の性能は、歯科用ボンディング材の性能向上と合わせてめまぐるしい進化を遂げ、成形修復材料として臨床で十分使用に耐えうるものと認識されている。また、ボンディング材の性能が格段に進歩したことから、CR硬化物の脱落などのトラブルは極めて少なくなってきている。これらCRのうち、近年では、可視光線を照射して重合、硬化させる光重合型CRが多数を占めるようになってきている。
【0003】
この光重合型CRは、一般的には、(1)まず、窩洞表面にボンディング材(例えば、AQボンドプラス:サンメディカル社製)を塗布して可視光線照射によりボンディング材を硬化させる、(2)ついで、CR(例えば、メタフィルFlo:サンメディカル社製)を窩洞に充填して再度可視光照射を行いCR自体を硬化させる、という2段階の光重合による方法で用いられる。
【0004】
そのため、これら光重合型CRを用いて成形修復を行う場合は、まず、ボンディング材を硬化するために、口腔内部に光照射器の先端チップを入れる必要がある。しかしながら、特に処置を行う窩洞部が口腔内部奥深くの位置にある場合などには、窩洞表面に塗布したボンディング材を確実に硬化させるために、口腔内部奥深くまで光照射器の先端チップを入れることが必要であり、光照射器の先端チップを入れることに困難を伴う場合もある。また、患者も、術中、口を広く開けなければならないため苦痛を伴う場合もある。さらに、口を開けていると唾液があふれてきて窩洞表面が汚染されてしまうという問題もある。したがって、口腔内で何回も光照射を行うことは術者も患者も出来れば避けたい。
【0005】
しかしながら、従来の光重合型CRとボンディング材とを組み合わせて用いた場合は、ボンディング材を窩洞表面に塗布し、実質的に可視光照射を行うことなくさらにCRを充填し、一段階の可視光照射のみを行ってCR硬化物を得ても、歯牙ないしその補綴物に対する接着強さ、辺縁封鎖性などの性能は十分なものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一段階の可視光照射のみによっても、十分な接着強さ、および辺縁封鎖性を有するコンポジットレジン硬化物が得られる、歯科用コンポジットレジンおよびボンディング材を構成要素とする操作性を向上した歯科用充填キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定配合量の酸性基含有単量体を含む歯科用コンポジットレジンと特定配合のボンディング材とを組み合わせた歯科用充填キットを用いることにより、一段階の可視光照射のみによっても、十分な接着強さ、および辺縁封鎖性を有するコンポジットレジン硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明に係る歯科用充填キットは、
(A)酸性基を含有する単量体(a)、酸性基を含有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)、およびフィラー(d)を含む歯科用コンポジットレジンと、
(B)酸性基を含有する単量体(e)、酸性基を含有しない単量体(f)、光重合開始剤(g)、および水(h)を含有することを特徴とするボンディング材とを構成要素とし、上記コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)と単量体(b)との総重量に対する単量体(a)の総重量が0.01重量%以上15重量%以下の量であり、
上記ボンディング材(B)に含まれる単量体(e)と単量体(f)との総重量に対する単量体(e)の総重量が10重量%以上60重量%以下の量であることを特徴とする。
【0009】
上記コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)と単量体(b)との総重量に対する単量体(a)の総重量は0.01重量%以上10重量%以下の量であることが好ましい。
【0010】
上記歯科用コンポジットレジン(A)に含有される単量体(a)は、リン酸基含有単量体(a1)、カルボン酸基含有単量体(a2)、およびスルホン酸基含有単量体(a3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科用充填キットを用いれば、ボンディング材を窩洞表面に塗布し、実質的に可視光照射を行うことなくさらにCRを充填し、一段階の可視光照射のみを行って得たCR硬化物であっても、歯牙ないしその補綴物に対する接着強さ、辺縁封鎖性などの性能に優れる。また、窩洞へのボンディング材による処理、CR充填を行った後に可視光照射を1回行うだけでよいので、口腔内部奥深くまで光照射器のチップを挿入する必要がなく、操作時間が短縮できる。さらに、可視光照射部分もCR充填表面であるので、従来と異なり光照射の確認が容易で臨床上の操作性も極めて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明について具体的に説明する。
<本発明で用いる組成物>
(A)歯科用コンポジットレジン
本発明に用いる(A)歯科用コンポジットレジンは、(a)酸性基を含有する単量体、(b)酸性基を含有しない単量体、(c)光重合開始剤、および(d)フィラーを含むことを特徴とする。
【0013】
〔単量体(a)〕
単量体(a)は、分子内に酸性基を有することを特徴とする単官能性単量体あるいは多官能性単量体である。これら分子内に酸性基を有する単量体は、ボンディング材とコンポジットレジンの相溶性を向上させるという作用を有する。一方、単量体(a)の歯科用コンポジットレジン(A)に対する配合量が多すぎると、コンポジットレジンの機械的特性が低下し、好ましくない傾向にある。
【0014】
単量体(a)に含有される上記酸性基としては、カルボキシル基またはその無水物基、リン酸基、スルホン酸基などを挙げることができる。
単量体(a)としては、例えば、
(メタ)アクリル酸などのビニル(ビニリデン)基に直接カルボキシル基が結合した化合物、
1,4−ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸などの複数のカルボキシル基を有
するベンゼン系化合物に1つ以上の(メタ)アクリロキシアルキル基を有する化合物、
6−(メタ)アクリロキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸などの複数のカ
ルボキシル基を有するナフタレン系化合物に1つ以上の(メタ)アクリロキシアルキル基を有する化合物、
N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−m−アミノ安息香酸などのN−(メタ)アクリロイルアミノ安息香酸系化合物、
N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸などのN−(メタ)アクリロイルアミノ基を有するサリチル酸、
4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシヘキシルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸などの(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸、およびその無水物、
2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸などの(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレートなどのβ−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンエステル化合物、
11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸などの一端に(メ
タ)アクリロイルオキシまたはアクリロイルオキシ、もう一端に1つ以上のカルボキシル基を有する鎖状脂肪族化合物などのカルボン酸基またはその部分無水物を含有する(メタ)アクリル酸(好ましくはそのエステル)単量体;
p−ビニル安息香酸などのビニル安息香酸のように芳香族性カルボン酸基を含有するビニル化合物単量体;
2−(メタ)アクリロキシエチルホスホリック酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフェニルホスホリック酸、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホリック酸、PM−2、2−アクリロキシエチルホスホリック酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートなどの(メタ)アクリロキシ基またはアクリロキシ基とホスホリック酸基とを有する炭化水素化合物などの燐酸基を含有する(メタ)アクリル酸(好ましくはその
エステル)単量体;
また、p−スチレンスルホン酸などのスチレンスルホン酸系化合物、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアクリルアミド基とスルホン酸基を有する化合物、などのスルホン酸基を含有する単量体、などを挙げることができる。
【0015】
これら酸性基を有する単量体のうち、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸、2−(メタ)アクリロキシエチルホスホリック酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフェニルホスホリック酸、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホリック酸、あるいは下記式(1)で示される化合物が好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、nは0または1であり、aは1または2であり、bはb=(3−a)の関係を満たす整数である。)
これら酸性基を含有する単量体は単独であるいは二種以上組み合わせて使用することが
できる。
【0018】
〔単量体(b)〕
(A)歯科用コンポジットレジンに使用される単量体(b)としては、公知の酸性基を含有しない単官能性単量体(b1)もしくは酸性基を含有しない多官能性単量体(b2)を使用することができ、好ましくはラジカル重合性単量体を使用することができる。
【0019】
これら単官能性単量体(b1)もしくは多官能性単量体(b2)の中でも(メタ)アクリレート系単量体は、人体への刺激性が比較的低いため好ましく使用することができる。
本発明で単官能性単量体(b1)として使用可能な単官能性の(メタ)アクリレートとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2または3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,2−または1,3−ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート;
エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートなどの(ポリ)グリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;
γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シランなどの(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;
およびテトラフルフリル(メタ)アクリレートなどの複素環を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0020】
これら単官能性(メタ)アクリレートのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルのような(メタ)アクリル酸アルキル;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピルモノ(メタ
)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレートのように水酸基含有(メタ)アクリレート;
トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのように分子内にエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレートなどが特に好ましく用いられる。
【0021】
これら単官能性単量体は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。また、単官能性単量体は後述する多官能性単量体と組み合わせて使用することもできる。
本発明で多官能性単量体(b2)として使用可能な多官能性の(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、へキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート、
1,6−ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン(UDMA)等のビス(メタクリロキシアルキルオキシカルボニルアミノ)アルカン;
下記式(2)で表わされる脂肪族または芳香族のジ(メタ)アクリレート;
【0022】
【化2】

【0023】
式中、Rは水素原子またはメチル基であり、mおよびnは同一でも異なってもよい、0〜10の整数である。そしてR1は、
【0024】
【化3】

【0025】
のいずれかである;
さらに、下記式(3)で表わされる脂肪族または芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート;
【0026】
【化4】

【0027】
式中、Rは水素原子またはメチル基であり、nは0〜10の整数であり、そしてR1
【0028】
【化5】

【0029】
である;
および下記式(4)で表わされる分子中にウレタン結合を有する多官能性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
式中、Rは水素原子またはメチル基であり、そしてR2
【0032】
【化7】

【0033】
である。
これら多官能性(メタ)アクリレートの中では、例えばトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのような分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート、
下記式(2)−aで表される化合物
【0034】
【化8】

【0035】
ここで、R、mおよびnの定義は式(2)に同じである;
下記式(3)−aで表される化合物;
【0036】
【化9】

【0037】
ここで、Rの定義は式(3)に同じである;
下記式(4)−aで表される化合物
【0038】
【化10】

【0039】
ここで、Rの定義は式(4)に同じである、
などが特に好ましく用いられる。
また、その他に使用可能な酸性基を含有しない単量体(b)としては、例えば、ビニル酢酸エステル、ビニルピロリドン、マレイン酸アルキルエステルなどを挙げることができる。これらは単独であるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
〔光重合開始剤(c)〕
本発明に使用される重合開始剤としては、光重合開始剤(c)を用いる。
光重合開始剤(c)としては、例えば、(c1)α−ケトカルボニル化合物、(c2)アシルホスフィンオキシド化合物などが挙げられる。
【0041】
α−ケトカルボニル化合物(c1)としては、例えば、α−ジケトン、α−ケトアルデ
ヒド、α−ケトカルボン酸、α−ケトカルボン酸エステルなどが挙げられる。具体的には、ジアセチル、2,3−ペンタジオン、2,3−ヘキサジオン、ベンジル、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−ジエトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、4,4'−ジクロルベンジル、4−ニトロベンジル、α−ナフチル、β−ナフチル、カンファーキノン、カ
ンファーキノンスルホン酸、カンファーキノンカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジオ
ンなどのα−ジケトン;
メチルグリオキザール、フェニルグリオキザールなどのα−ケトアルデヒド;
ピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、ピルビン酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル、フェニルピルビン酸メチル、フェニルピルビン酸ブチルなどが挙げられる。
【0042】
これらα−ケトカルボニル化合物の中では、安定性などの面からα−ジケトンを使用することが好ましく、α−ジケトンの中ではジアセチル、ベンジル、カンファーキノンが特に好ましい。
【0043】
アシルホスフィンオキシド化合物(c2)としては、例えば、ベンゾイルジメトキシホ
スフィンオキシド、ベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。(c1)成
分と(c2)成分とは、単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0044】
歯科用コンポジットレジン(A)に含まれる上記光重合開始剤(c)の配合量は、前記酸性基を含有する単量体(a)と酸性基を含有しない単量体(b)の合計重量100部に対して、0.01〜5重量部用いることが好ましい。
【0045】
さらに、上記光重合開始剤の重合開始効果を向上するため、化合物の触媒効果に悪影響を及ぼさない還元性化合物を併用することもできる。これら還元性化合物としては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−
p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−te
rt−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのエステル化合物(
例えば、N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチルなど)、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのエステル化合物(例えば、N,N−ジエチルアミノ安息香酸メチル
、N,N−ジエチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸ブトキシエチルなど)、N,N−ジメチルアミノベンツアルデヒド、N−フェニルグリシン、N−フェ
ニルグリシンのアルカリ金属塩、N−トリルグリシン、N−トリルグリシンのアルカリ金属塩、N,N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルグリシ
ンなどの有機還元性化合物が挙げられる。また、上記以外の還元性化合物としては、有機スルフィン酸またはその塩が挙げられ、これらのうち、好ましくは、有機スルフィン酸、または有機スルフィン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、およびアンモニウム塩を使用することができる。
【0046】
上記アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを例示することができ、上記アルカリ土類金属塩としてはマグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などを例示することができる。
【0047】
上記アミン塩としてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの第一アミンの塩;
ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ペピリジン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、ジフェニルアミン、N−メチルトルイジンなどの第二アミンの塩;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ
(β−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジン、N,N−(β−ヒドロキシエチル)トルイジンなどの第三アミンの塩を例示することができる。
【0048】
上記アンモニウム化合物の塩としてはアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩などを例示することができる。
【0049】
上記有機スルフィン酸としては、具体的には、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、ドデカンスルフィン酸などのアルカンスルフィン酸、シクロヘキサンスルフィン酸、シクロオクタンスルフィン酸などの脂環族スルフィン酸;ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸を挙げることができる。
【0050】
また、上記有機スルフィン酸塩としては、具体的には、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸マグネシウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸ストロンチウム、ベンゼンスルフィン酸バリウム、ベンゼンスルフィン酸ブチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アニリン塩、ベンゼンスルフィン酸トルイジン塩、ベンゼンスルフィン酸フェニレンジアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジフェニルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸トリエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アンモニウム塩、ベンゼンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、ベンゼンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウムを挙げることができる。さらに、o−トルエンスルフィン酸リチウム、o−トルエンスルフィン酸ナトリウム、o−トルエンスルフィン酸カリウム、o−トルエンスルフィン酸カルシウム、o−トルエンスルフィン酸シクロヘキシルアミン塩、o−トルエンスルフィン酸アニリン塩、o−トルエンスルフィ酸アンモニウム塩、o−トルエンスルフィン酸テトラエチルアンモニウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸バリウム、p−トルエンスルフィン酸エチルアミン塩、p−トルエンスルフィン酸トルイジン塩、p−トルエンスルフィン酸N−メチルアニリン塩、p−トルエンスルフィン酸ピリジン塩、p−トルエンスルフィン酸アンモニウム塩、p−トルエンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸ナトリウム、β−ナフタリンスルフィン酸ストロンチウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリエチルアミン、β−ナフタリンスルフィン酸N−メチルトルイジン、β−ナフタリンスルフィン酸アンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0051】
その他、使用可能な還元性化合物としては、バルビツール酸およびバルビツール酸誘導体を挙げることができ、具体的には、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリエチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、1−メチル−5−エチルバルビツール酸、1−メチル−5−プロピルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−メチル−1−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸またはこれらのアルカリ金属塩などを好ましく使用することができる。
【0052】
これら還元性化合物のなかでも、有機スルフィン酸またはその塩を好適に使用することができる。上記還元性化合物の配合量は、通常は、使用される光重合開始剤量に対して0
.3〜5倍の範囲内にある。
【0053】
また光重合開始剤(c)として、(c1)α−ケトカルボニル化合物、好ましくはカン
ファーキノンと、(c2)アシルホスフィンオキシド化合物、好ましくは2,4,6トリ
メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドとを併用した場合には、還元性化合物としてアミン化合物、好ましくはジメチルアミノ安息香酸−2−n−ブトキシエチルを組み合わせることも特に好ましい態様の1つである。このような組合せとすることで、光重合開始剤の触媒効果に悪影響を与えることなく、重合開始能を向上することができる。
【0054】
〔フィラー(d)〕
フィラー(d)は無機フィラー、有機フィラー、有機無機複合フィラーから適宜選択して使用される。
【0055】
本発明に使用される無機フィラーは、形状としては、球状体であっても不定形体であってもよい。また、無機フィラーの種類としては公知のものを適宜選択して使用でき、例えば、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属およびそれらの酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、珪酸塩、およびこれらの混合物、複合塩などから選択することができる。
【0056】
具体的には、二酸化珪素、ストロンチュウムガラス、ランタンガラス、バリウムガラスなどのガラス粉末、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、バリウム塩、フッ化バリウム、鉛塩、などの無機化合物粉末、ジルコニウム酸化物、スズ酸化物、その他のセラミックスからなるセラミック粉末、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス繊維、タルクを含有するガラスフィラー、コロイダルシリカ、シリカゲルなどを使用できる。
【0057】
無機フィラーの粒子径は適宜選択して使用されるが、平均粒径は通常0.001〜50μmであり、0.001〜10μmであることが好ましい。これら無機フィラーは単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができ、また、有機フィラーまたは/および有機無機複合フィラーと組み合わせて使用しても良い。
【0058】
有機フィラーとしては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体などの非架橋性ポリマー、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体などの(メタ)アクリレート重合体などが使用できる。有機フィラーの形状については特に制限はなく、また、フィラー粒子径も適宜選択して使用されるが、平均粒径は通常0.001〜50μmであり、0.001〜10μmであることが好ましい。
【0059】
有機無機複合フィラーとしては、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)、などが使用できる。有機無機複合フィラーの形状については特に制限はなく、また、フィラー粒子径も適宜選択して使用されるが、平均粒径は通常0.001〜50μmであり、0.001〜10μmであることが好ましい。
【0060】
フィラー(d)の配合量は、歯科用コンポジットレジン(A)に含まれる前記酸性基を含有する単量体(a)、酸性基を含有しない単量体(b)、および光重合開始剤(c)の合計100重量部に対して通常50〜90重量部である。
【0061】
〔その他添加剤〕
本発明に用いる歯科用コンポジットレジン(A)には、さらに本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤などの添加剤を使用してもよい。
【0062】
着色剤としては、公知の歯科用の顔料や染料が使用でき、例えば、公知の黒酸化鉄、黄色酸化鉄、弁柄、チタンイエロー、チタンホワイトなどの無機顔料やブロモフタールレッド、ブロモフタールイエローなどの有機顔料が使用できる。
【0063】
着色剤の配合量は、歯科用コンポジットレジン(A)に含まれる前記(a)酸性基を含有する単量体、酸性基を含有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)、およびフィラー(d)の合計100重量部に対して通常0.01〜3重量部である。
【0064】
また、歯科用コンポジットレジン(A)には、必要に応じて、親水性溶媒として水が含まれていても良い。また、それ以外の親水性溶媒としては、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコールなどの溶媒が含まれていても良い。これら溶媒の配合量としては、単量体(a)および単量体(b)の合計重量100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは1重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下である。
【0065】
他の添加剤の例としては、殺菌剤、安定剤、重合禁止剤などが挙げられる。
〔配合量の関係〕
上記歯科用コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)と単量体(b)との総重量に対する単量体(a)の総重量は、通常0.01重量%以上15重量%以下であり、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下である。
【0066】
単量体(a)の配合量が上記範囲内にあると、ボンディング材とコンポジットレジンとの相溶性を向上させるという作用をするとともに、コンポジットレジンの機械的強度を低下させることもない。
【0067】
また、本発明においては、歯科用コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)、単量体(b)、光重合開始剤(c)、およびフィラー(d)の総重量に対する単量体(a)に由来する酸性基の当量が、好ましくは1×10-7当量/g以上2×10-3当量/g以下、より好ましくは1×10-6当量/g以上6×10-4当量/g以下、さらに好ましくは1×10-5当量/g以上2×10-4当量/g以下の範囲となるよう単量体(a)が含まれていてもよい場合もある。
【0068】
単量体(a)に由来する酸性基の当量が上記範囲内にあると、ボンディング材との相溶性が向上する。
これら酸性基を含有する単量体は、(b)酸性基を含有しない単量体を100重量部とした場合、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部の範囲内の量で使用することも好ましい。
【0069】
また、酸性基を含有する単量体(a)と酸性基を含有しない単量体(b)との合計モル数に対する酸性基のモル数の比(モル/モル)が、好ましくは1×10-4〜5×10-1、より好ましくは1×10-3〜3×10-1、さらに好ましくは1×10-2〜2×10-1である。
【0070】
本発明において特に好ましい配合の1つとして以下の配合が挙げられる。なお、以下配合に示す重量%は、歯科用コンポジットレジン(A)全重量に対する重量%である。
酸性基を含有する単量体(a):
PM−2〔(メタアクリロキシエチル化)リン酸(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)1PO(OH)2、およびビス(メタアクリロキシエチル化)リン酸(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)2PO(OH)1の化合物の等モル混合物〕 0.1〜5重量%
酸性基を含有しない単量体(b):
RDMA〔1,3ジメタクリロキシエトキシベンゼン〕 1〜20重量%
TEGDMA〔トリエチレングリコールジメタクリレート〕 1〜20重量%
2.6E〔2,2ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン〕 1〜20重量%
α−ケトカルボニル化合物(C1):
CQ〔カンファーキノン〕 0.05〜1.0重量%
アシルホスフィンオキシド化合物(C2):
DTMPO〔2,4,6トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド〕 0.05〜5.0重量%
還元性化合物:
DMEABA−BE〔ジメチルアミノ安息香酸-2−n−ブトキシエチル〕 0.05〜
1.0重量%
フィラー(d):
バリウムシリカガラスフィラー(平均粒径1μm) 50〜70重量%
微粒子シリカ(平均粒径20nm):0〜10重量%
有機質複合フィラー:0〜10重量%
その他添加剤:
BHT〔ジt−ブチルクレゾール〕 0.001〜0.5重量%
MEHQ〔4−メトキシフェノール〕 0.001〜0.5重量%
顔料 0.01〜5重量%
本発明の歯科用コンポジットレジン(A)が上述のような配合である場合には、コンポジットレジンとボンディング材の相溶性が向上し、強固な接着を得ることが出来る。また、機械的強度が優れ、かつ高い光硬化深度を得ることが出来る。
【0071】
また歯科用コンポジットレジン(A)が上述のような配合であり、さらに配合量の関係が上述の関係を満たす場合には特に好ましい。
(B)歯科用ボンディング材
接着面の改質処理に用いられる歯科用ボンディング材(B)には、酸性基を含有する単量体(e)、酸性基を含有しない単量体(f)、光重合開始剤(g)、および水(h)が含まれることを特徴とする。酸性基を含有する単量体(e)の種類としては、上記単量体(a)と同様のものを好適に用いることができる。また、酸性基を含有しない単量体(f)の種類としては、上記単量体(b)と同様のものを好適に用いることができる。さらに、光重合開始剤(g)としては、上記光重合開始剤(c)と同様のものを好適に用いることができる。
【0072】
〔配合量の関係〕
酸性基を含有する単量体(e)は、単量体(e)と単量体(f)との総重量に対する単量体(e)の総重量が、通常、10重量%以上60重量%以下の量、好ましくは、20重量%以上50重量%以下の量となるよう配合されている。配合量が上記範囲内にあると、歯質などへの接着性を向上させるという作用がある。
【0073】
水(h)は、通常1重量部以上50重量部以下の量、好ましくは5重量部以上40重量部以下の量になるよう配合されている。配合量が上記範囲内にあると、歯質への接着性を向上させるという作用がある。
【0074】
〔その他成分〕
さらに、本発明に用いる歯科用ボンディング材(B)にはアセトン、エタノール、イソプロピルアルコールなどの溶媒を用いることができる。
【0075】
溶媒の配合量としては、単量体(e)および単量体(f)の合計重量100重量部に対して、好ましくは、80重量部以下の範囲、より好ましくは0.1〜70重量部の範囲、さらに好ましくは1〜60重量部の範囲で用いることが出来る。
【0076】
溶媒を上記範囲内で用いると油成分である単量体と均一な溶液となり確実な塗布性が得られ、ボンディング材層を薄くすることもできる。
また本発明に用いるボンディング材(B)は、さらに本発明の目的を損なわない範囲内において他の添加剤を配合することもできる。添加剤の例としては、無機フィラー、有機フィラー、増粘剤、殺菌剤、安定剤、顔料および染料などの着色剤を挙げることができる。これら添加剤は0.01重量部以上、10重量部以下で含有することが好ましい。さらには0.01重量部以上5重量部以下であることがより好ましい。これらの添加剤を加えると、ボンディング材層の厚さが様々な条件でも均一に出来たり、保存安定性が向上する効果などがある。
【0077】
さらに、本発明に用いるボンディング材(B)には、フッ素イオン放出性物質を配合させてもよい。フッ素イオン放出性物質を配合することによって、歯質及び本発明の組成物と歯質とから構成される被膜層に耐酸性を付与させることができる。かかるフッ素イオン放出物質としては、フルオロアルミノシリケートガラスなどのフッ素ガラス、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等の金属フッ化物、さらにはメタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマーやセチルアミンフッ化水素酸塩などのフッ素イオン放出物質をあげることができる。
【0078】
<本発明の歯科用充填キットの構成>
本発明の歯科用充填キットの構成は、上記歯科用コンポジットレジン(A)、およびボンディング材(B)を構成要素とし、通常はそれぞれ独立の容器に充填されている。
【0079】
本発明の歯科用充填キットにはさらに(C)エッチング剤、(D)プライマーなどを組み合わせても良い。
<具体的な適用方法、手順>
CRを充填する歯牙表面をボンディング材で処理する。歯科用の気銃などで余剰分のボンディング材を除去した後、CRを充填する。ボンディング材は何回塗ってもかまわない。
【0080】
充填したCR表面を整えた後に歯科用光照射機で光照射を行い、硬化させる。なお、ボンディング材で処理をしてから光照射を行い、CR充填後に再び光照射を行ってもかまわない。耐久性を高めるためにエッチング剤を用いる場合は、ボンディング材を用いる前に適用をする。
【0081】
さらに耐久性を高めるためにプライマーを用いる場合は、エッチング処理の後に適用する。
〔実施例〕
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
〔化合物の略称〕
MMA:メチルメタクリレート
4−META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
PM−2:(メタアクリロキシエチル化)リン酸(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)1PO(OH)2、およびビス(メタアクリロキシエチル化)リン酸(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)2PO(OH)1の化合物の等モル混合物
A−9300:2−プロペノイック酸(2,4,6−トリオキソ−1,3,5−トリアジン−1,3,5−(2H,4H,6H)トリル)トリ−2,1−エタンジイルエステル
DTMPO:ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイルフォスフィンオキシド)
UDMA:1,6ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
RDMA:1,3−ジメタクリロキシエトキシベンゼン
2.6E:2,2−ビス[4−(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン
CQ:カンファキノン
DMEABA−BE:ジメチルアミノ安息香酸−2−n−ブトキシエチル
〔実施例1〕
〔各種材料の調製〕
表1に記載の配合にしたがって、酸性基含有単量体、フィラー、および構造用単量体からなるコンポジットレジン(CR1)を調製した。
【0083】
ついで、表2に記載の配合にしたがって、アセトン41重量部、精製水29重量部、4−META13重量部、MMA4重量部、UDMA10重量部、HEMA3重量部、DMTPO0.3重量部、CQ0.3重量部、およびp-トルエンスルフィン酸0.3重量部からなるボンディング材(P1)を調製した。
【0084】
〔接着試験〕
以下に示す方法で接着試料を作製して、接着強度を測定した。
注水下、180#の耐水研磨紙で下額前歯を研磨し、平坦な接着用象牙質面を削り出した。直径4.8mmの穴を空けた両面テープを象牙質面に貼り、次いで直径4.8mmの穴が空いた厚さ2mmの厚紙を両面テープに貼り付けた。
【0085】
ボンディング材(P1)をスポンジに含ませ上記規定の象牙質質面に塗布して、エアーを吹き付け乾燥させた。
このボンディング材層の上に、コンポジットレジン組成物(CR1)を充填して、歯科用ハロゲン照射器で20秒間光照射して硬化させた。
【0086】
このコンポジットレジンの上にスーパーボンド(サンメディカル(株)製)を用いて接着ロッドを接着して植立した。
上記接着したサンプルを37℃、湿度100%の恒温槽に入れ、24時間経過した後、引張接着強度を測定した。試験機はAGS−1000D(島津)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minで行った。試験結果を表3に示す。
【0087】
〔実施例2〜36〕
表3に記載の組合せにしたがって、コンポジットレジン組成物(CR1)を表1−1に示したコンポジットレジン組成物(CR2〜16)に、ボンディング材組成物(P1)を表2に示したボンディング材組成物(P1〜P3)に、各々変更した以外は実施例1と同様に接着試験を行った。結果を表3に示す。
【0088】
〔比較例1〜10〕
表4に記載の組合せにしたがって、コンポジットレジン組成物(CR1)を表1−2に示したコンポジットレジン組成物(CR17〜20)に、ボンディング材組成物(P1)
を表2に示したボンディング材組成物(P1〜P3)に、各々変更した以外は実施例1と同様に接着試験を行った。結果を表4に示す。
【0089】
〔実施例37〕
コンポジットレジン組成物(CR1)を、以下記載の配合であるコンポジットレジン組成物(CR21)に、ボンディング材組成物(P1)を表2に示したボンディング材組成物(P3)に、各々変更した以外は実施例1と同様に接着試験を行った。その結果、接着強さは15MPaであった。
【0090】
<コンポジット組成物(CR21)>
PM−2 : 0.40重量部
RDMA : 7.50重量部
TEGDMA : 4.50重量部
2.6E : 18.00重量部
CQ : 0.30重量部
DTMPO : 1.00重量部
DMEABA−BE : 0.30重量部
バリウムシリカガラスフィラー(平均粒径1μm): 65.18重量部
微粒子シリカ(平均粒径20nm) : 0.80重量部
有機質複合フィラー : 1.50重量部
BHT(ジt−ブチルクレゾール) : 0.01重量部
MEHQ(4−メトキシフェノール) : 0.01重量部
顔料 : 0.50重量部
【0091】
【表1−1】

【0092】
【表1−2】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸性基を含有する単量体(a)、酸性基を含有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)、およびフィラー(d)を含む歯科用コンポジットレジンと、
(B)酸性基を含有する単量体(e)、酸性基を含有しない単量体(f)、光重合開始剤(g)、および水(h)を含有することを特徴とするボンディング材とを構成要素とし、
上記コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)と単量体(b)との総重量に対する単量体(a)の総重量が0.01重量%以上15重量%以下の量であり、
上記ボンディング材(B)に含まれる単量体(e)と単量体(f)との総重量に対する単量体(e)の総重量が10重量%以上60重量%以下の量であることを特徴とする歯科用充填キット。
【請求項2】
上記コンポジットレジン(A)に含まれる単量体(a)と単量体(b)との総重量に対する単量体(a)の総重量が0.01重量%以上10重量%以下の量であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用充填キット。
【請求項3】
上記歯科用コンポジットレジン(A)に含有される単量体(a)が、リン酸基含有単量体(a1)、カルボン酸基含有単量体(a2)、およびスルホン酸基含有単量体(a3)よりなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の歯科用充填キット。