説明

歯科用プライマー組成物および歯科用キット

【課題】施術部の形状を問わず容易に塗布することが可能であり、塗布の後、従来のレジン系歯科用接着材により被着物を接着させると、接着材の種類を問わずに接着強さを著しく向上させることが可能であるプライマー組成物を提供する。
【解決手段】金属コロイド溶液よりなる歯科用プライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周疾患の治療に用いることができる歯科用プライマー組成物および歯科用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕により損傷を受けた歯牙の修復、あるいは歯列の矯正のために使用される接着材として(メタ)アクリル酸エステルなどのラジカル重合性モノマーと重合開始剤とから成るものが多数提案されている。すなわち(メタ)アクリル酸エステル系ビニルモノマーと(メタ)アクリロイル基含有芳香族カルボン酸(無水物)、アミンおよびスルフィン酸(塩)から成る硬化性組成物(特許文献1)や、特許文献2には常温で液状の(メタ)アクリル酸エステル、アミン、スルフィン酸(塩)、過酸化物から成る接着材などが提案され、実施されている。しかしながらこれら接着材は、修復部位の脱灰の程度、前処理の方法あるいは歯科医療従事者の技術などにより、歯牙に対する接着強さに変動が生じ、接着強さが減少した場合には特に、歯質−接着材界面に間隙が生じる、微小漏洩などが懸念される。微小漏洩を併発した場合には、この間隙より刺激性物質や細菌等が侵入し、さらに修復部分でのう蝕再発生の確率が高くなる。このため、特に優れた接着効果を持ち、同時に微小漏洩を発生させない接着材が望まれている。
【0003】
また、通常の歯科診療においては、う蝕病原菌におかされた歯牙の殺菌、消毒に次亜塩素酸製剤が高頻度に用いられている。しかしながらこれら製剤を用いたのちに、必然的に行う処理である接着操作に対して、この製剤は悪影響を及ぼすことが明らかであり、臨床上の大きな問題となっている。
【特許文献1】特開昭63−44508号公報
【特許文献2】特開昭53−39331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、微小漏洩などを生じない、接着性の高い歯科用接着材を提供することである。本発明の別の課題は、殺菌処理を行った歯牙に対して良好な接着操作を容易に行うことのできる歯科用接着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らが鋭意検討した結果、本発明の上記課題は、ナノ領域の粒径を持つ金属コロイド溶液よりなることを特徴とする、歯科用プライマー組成物により解決しうることを見いだし、本発明を完成させるに至った。本発明の歯科用プライマー組成物は、コロイド溶液の形態であり、施術部の形状に問わず容易に塗布することが可能である。本発明のプライマー組成物を塗布の後、従来のレジン系歯科用接着材により被着物を接着させると、接着材の種類を問わずに接着強さを著しく向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の歯科用プライマー組成物により、従来使用しているレジン系歯科用接着材を改変、変更することなく、接着強さを著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳述する。以下、本明細書において特別の断りのない限り「部」あるいは「%」は重量基準を示す。また、以下、本明細書において「アクリ・・・」と「メタアクリ・・・」の総称として「(メタ)アクリ・・・」と記載する。
【0008】
本発明の歯科用プライマー組成物は、金属コロイド溶液および所望により添加される添加材からなる。
本発明の歯科用プライマー組成物における必須成分は、金属コロイド溶液である。金属コロイド溶液とは、金属の粒子が液相に分散した状態のものをいう。場合によっては、金属が単原子乃至はそれに近い状態であっても、保護コロイド等にて安定に液層に分散可能ならば、これも金属コロイドと見なしても良い。前記金属は還元状態、即ち陽イオンとなっていない状態であることが好ましい。金属には、特に制限がないが、遷移金属が好ましく、なかでも触媒系金属や貴金属類がより好ましく、金、ニッケル、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムが更に好ましく、特に白金が好ましい。これら金属種は単独で使用しても、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよく、合金として使用しても構わない。これらの金属を含む合金としては、金および白金を含む合金が好ましく、白金を含む合金がとくに好ましい。さらに単一種金属のコロイド溶液でも、2種以上のコロイド溶液の混合物であっても構わないが、好ましくは単一金属のコロイド溶液、なかでも白金コロイド溶液が特に好ましい。
【0009】
金属粒子の粒子径には分布が存在するが、その数平均粒径は、好ましくは0.6〜20nm、より好ましくは0.8〜10nm、さらに好ましくは1〜6nm、最も好ましくは1.2〜5nmである。また粒子数にて90%以上の金属粒子の粒径が好ましくは0.3〜30nm、特に好ましくは0.6〜20nm、さらに好ましくは0.8〜10nm、最も好ましくは1〜6nmの範囲に入るものが用いられる。粒径についてのこれらの範囲がいずれも上回ると、コロイド状態を保つことができず、また、下回ると、製造上の困難が生じるため、ともに好ましくない。歯科用レジン系接着材では、それぞれのシステムにより、その順序に変化はあるが、いずれも歯質を脱灰し、歯質中のコラーゲンを露出させると同時にモノマーがコラーゲンおよび歯質へと浸透して硬化する。金属コロイドの粒径分布が狭くかつその平均粒径が上記範囲にあると、金属粒子は露出したコラーゲン鎖および/または歯質へと浸透し、レジン系歯科用接着材の接着強さを向上させることができる。なお、金属粒子の粒径は、原子間力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、走査型近接場光学顕微鏡などの走査型プローブ顕微鏡あるいは電子顕微鏡にて観察し、測定することができ、さらに動的光散乱によっても測定することができる。透過型電子顕微鏡を用いた測定の一例をあげると、金属コロイド溶液をマイクログリッドに浸漬し,室温にて乾燥したものを観察(測定)試料とすることができる。当該金属原子は電子線不透過性なので、透過型電子顕微鏡では無染色にて観察することで測定することができ、従って当該金属を含まない保護コロイドは粒径には含まれない。例えば1,000,000〜5,000,000倍の倍率にて得られた透過型電子顕微鏡像の黒色粒子を画像処理することによって粒径を算出することができる。なお、金属粒子の大きさが0.2nmを下回るものは、コロイドの範囲から大きく逸脱するので、当該測定からは除外されるものである。
【0010】
本発明の歯科用プライマー組成物における金属コロイド溶液の液相である、分散媒の種類は特に制限がないが、本発明の用途を考慮し、水のほか、エタノール、グリセロール、アセトン等の水溶性有機溶媒に好ましく代表される有機溶媒を使用することができる。とりわけ、水を使用することが特に好ましい。コロイド溶液を不安定化させない範囲内で、水に上記有機溶媒を配合させてもよい。前記分散媒はプライマー組成物を100重量%として、好ましくは90〜99.999重量%、より好ましくは92〜99.99重量%、更に好ましくは94〜99.9重量%の範囲にて含まれる。前記分散媒のうち、水はプライマー組成物を100重量%として、好ましくは30〜99.999重量%、より好ましくは40〜99.99重量%、更に好ましくは50〜99.9重量%の範囲にて含まれる。前記数値範囲の下限値を下回ると後述するコロイド保護材成分を膨潤させる等の原因にて、コロイド状態を保てなくなるおそれがあり、一方、上回ると白金による接着強さの向上を観察できなくなり、ともに好ましくない。
【0011】
本発明の歯科用プライマー組成物における金属コロイド溶液において、金属の濃度については、特に制限されるものではなく、コロイド状態の安定性を損なわない範囲であればよい。一般的には、0.01nmol/L〜10mmol/L程度であれば安定性を維持するが、コロイド状態の安定性はそれぞれの金属により異なるので、この範囲に制限されるものではない。特に好ましい濃度範囲として、プライマー組成物の全量を基準として、0.00001〜0.2重量%、さらに好ましくは0.0001〜0.1重量%、最も好ましくは0.0002〜0.05重量%の範囲をあげることができる。上記範囲を下回ると、発明の効果が発揮できず、上回るとコロイド溶液の安定性を損なうおそれがあり、ともに好ましくない。
【0012】
本発明の歯科用プライマー組成物における金属コロイド溶液中には、上記コロイドの保護材を含有していることが好ましい。コロイド保護剤は金属に配位し、金属の分散媒に対する親和性を向上させる。コロイド保護材は金属コロイド溶液に直接配合させても、また、後述するように金属コロイド溶液の作製の際に使用しても構わないが、金属コロイド溶液の作製の際に使用することが好ましい。
コロイド保護材は、水溶性高分子、有機酸、界面活性剤からなる群より選択されることが好ましい。水溶性高分子としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸および/またはその塩、シクロデキストリン、アミノペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ハイドロキシエチルメチルセルロース、ハイドロキシプロピルメチルセルロース等をあげることができる。これら化合物は単独で使用しても、2種以上を組みあわせて使用しても構わない。ポリビニルピロリドンとしては、例えばポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)が好ましく、ポリアクリル酸の塩としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが好ましい。有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、あるいはこれらの塩などを好ましいものとして挙げることができる。有機酸の塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩やマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類塩等、あるいはこれらの混合物による塩を挙げることができる。界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸、アルファオレフィンスルホン酸などのアニオン系;アンモニウムクロライド、脂肪酸エステル、アルキルアミンエチレンオキサイド付加体などのカチオン性;エナジコールなどの両性系;あるいは高級アルコール、ポリオキシアルキレングリコールなどのノニオン性などのいずれでも良い。
【0013】
コロイド保護材がポリマーの場合、その使用量は、当該保護材となっているポリマーを構成モノマーのモル数の、金属のモル数に対する比、すなわち、コロイド保護材ポリマーの重量を構成モノマー残基1モル当たりの重量で割って算出したモノマー単位モル数(M)を、金属のモル数(M)で除した数(M/M、以下、Rとし、ポリマーが共重合体の場合には、共重合体組成により算出する。)より、好ましい値を算出することができる。金属コロイド溶液中のRは200以下であることが好ましく、80〜180がより好ましく、さらに好ましくは90〜170の範囲である。あるいは、プライマー組成物を100重量%として前記ポリマーは、好ましくは0.0005〜9重量%、より好ましくは0.005〜7重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%の範囲にて含まれる。これらの数値範囲外であると、コロイド保護剤自体がコロイド溶液中で分散し難いので好ましくない。
【0014】
金属コロイド溶液の製造方法は種々知られており、特公昭57−43125号公報、特公昭59−120249号公報、特開平9−225317号公報、特開平10−176207号公報、特開2001−79382号公報あるいは特開2001−122723号公報に開示されている。当業者はこれらの方法を参照することによって金属コロイド溶液を容易に調製することができる。例えばその製造方法として、沈殿法または金属塩還元反応法と呼ばれる化学的方法、あるいは燃焼法と呼ばれる物理的方法などを利用できる。金属コロイド溶液には、いずれの方法で調製されたものを使用してよいが、製造の容易性と品質面から金属塩還元反応法で調製された金属コロイドを用いることが好ましい。具体的な一例として、白金塩とポリアクリル酸塩とを使用して、金属塩還元反応法により白金コロイド溶液を作製する方法を以下に説明するが、白金酸も白金塩に属するものと見なし、ポリアクリル酸もポリアクリル酸塩に属するものと見なしても、本発発明の組成物の実用上、問題なく、以下、ポリアクリル酸(塩)などと表記する。
【0015】
(1)反応溶液の調製
白金塩と、ポリアクリル酸塩と、アルコールと、水とを含有する溶液を調製する。白金塩は、アルコールと水からなる溶媒に可溶であることが好ましい。白金塩としてはハロゲン等の陰イオン等で配位された錯体であることが好ましく、例えばヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウムがあげられる。これらのうち、ヘキサクロロ白金酸を好ましく使用することができる。ポリアクリル酸塩としては、カウンター陽イオンの塩となっていないポリアクリル酸であっても良いが、好ましくは、カルボキシル基の少なくとも一部が塩を形成しているポリアクリル酸塩であることが好ましい。かかる、陽イオンとしては、Li、Na、K等のアルカリ金属やMg、Ca等のアルカリ土類金属、或いはそれらの混合物による塩が挙げられる。水に対する溶解度が高く、反応溶液を調製しやすいため、好ましくはNaである。また、ポリアクリル酸(塩)のアクリル酸残基の水素原子が、炭化水素基、ハロゲン、酸素、窒素、燐、硫黄等のヘテロ原子を含む原子(団)にて置換されたアクリル酸誘導体残基であるポリアクリル酸誘導体であっても良く、それらの共重合体や混合物などであってもよい。又、ポリアクリル酸(塩)の重量平均分子量は好ましくは、10,000〜20,000,000、より好ましくは100,000〜10,000,000、更に好ましくは1,000,000〜6,000,000である。前記数値範囲の下限値を下回ると金属コロイドが安定化せず、一方、上限値を上回ると反応溶液が高粘度となり、取り扱いが難しくなり、何れも好ましくない。なお前記重量分子量測定は水系GPCで測定するのが通常なので、イオン解離状態での分子量となる。因みにポリアクリル酸(塩)以外のセルロース誘導体等の他の水溶性高分子の好適な分子量もおおよそ前記と同様の大きさであり、通常条件(室温、pH中性付近、水系溶媒中など)でイオン化するものは、解離状態での大きさと考えて良い。また、分子量が7百万を越える様な超高分子の場合では、粘度法等にて分子量測定することが好ましいが、この場合の分子量も、解離状態換算の値を用いるものとする。アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、エチレングリコールが好ましい。
まず、ポリアクリル酸塩を水に溶解する。溶液中のポリアクリル酸塩の濃度は、構成モノマー残基単位について換算して0.01〜0.5mol/L(ポリアクリル酸ナトリウムの場合、0.94〜47g/L)となるような濃度であることが好ましい。別の容器に白金塩を含む水溶液を調製し、この白金塩水溶液をポリアクリル酸塩溶液に加えて白金塩−ポリアクリル酸塩溶液とする。白金塩−ポリアクリル酸塩溶液中の白金塩の濃度は、2mmol/L以下とすることが好ましく、1〜2mmol/lとすることがより好ましい。白金塩水溶液を加えた後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液を、好ましくは30〜40分間撹拌する。撹拌後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液にアルコールを加え、反応溶液とする。反応溶液中のアルコール/白金塩のモル比は10〜20とすることが好ましい。
【0016】
(2)反応
つづいて反応溶液を還流し、反応させる。反応は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。還流中にエタノール等のアルコールが白金イオンを還元して白金コロイドを生成させ、アルコールは酸化されてアルデヒドとなる。反応溶液中の白金塩の量にもよるが、2〜3時間還流すると白金イオンがほぼ消失し、上記粒径範囲の白金コロイドが生成する。白金イオンの消失や白金ナノコロイドの生成は、反応溶液の紫外可視吸光スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0017】
(3)アルコール溶液の調製
還流後の反応溶液を、体積が0.5〜2割程度となるまでアルコール及び水を留去させ、濃縮液を得る。得られた濃縮液にさらにアルコール例えばエタノールを加えて撹拌し、白金のアルコール溶液とする。加えるアルコールの量は原料の白金塩に対して20〜40(アルコール/白金塩のモル比)程度とすることが好ましい。
【0018】
(4)白金コロイドの調製
白金のアルコール溶液より溶媒を留去させると、ペースト状の白金コロイドが得られる。この白金ナノコロイドに所望の溶媒例えば水を加えて撹拌することにより、均一な白金コロイド溶液を調製できる。ペースト状の白金コロイドにアルコールを加えてアルコール溶液を調製する工程を経ず、反応溶液から直接全ての溶媒を留去させると、得られる残渣は非常に粘性が高く、べとついた状態になるため、均一な白金コロイド溶液を得ることが難しい。これに対し、この製造方法によると、アルコール溶液を調製して再度アルコールを留去する工程を行うので、優れた分散性を有する白金コロイド溶液を作製することができる。
【0019】
本発明の歯科用プライマー組成物には、さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、
界面活性剤(コロイド保護剤として使用するものを除く)
セルロース、アミロース、寒天、アルギン酸などのゲル化剤;
フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウムなどの可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出する化合物;
エタノールなどの脂肪族アルコール類、クロロブタノールなどのハロゲン化脂肪族アルコール、2−フェノキシエタノールなどの芳香族アルコール、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドおよびヘキサメチレンテトラミン、モノメチロールジメチルヒダントインなどの酸性条件下でアルデヒド類を生成させうるアルデヒド徐放剤、クロロアセトアミドなどのアミド;N,N’’−メチレンビス[N’−(3−(ヒドロキシメチル)−2,5−ジオキソ−4−イミダゾリジニルウレア]などのウレア類、亜硫酸ナトリウムなどの無機亜硫酸塩、重亜硫酸塩類およびピロ亜硫酸塩、ホウ酸などの無機酸、ギ酸などの有機酸化合物、p−ヒドロキシ安息香酸メチルなどのp−ヒドロキシ安息香酸エステル化合物、4−クロル−3−メチルフェノールなどのハロゲン化フェノール化合物、1−メチル−2−ヒドロキシ−4−イソプロピルベンゼンなどのフェノール化合物、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルなどのジフェニルエーテル化合物、3,4,4’−トリクロロカルバニリドなどのカルバニリド化合物、4,4’−ジアミジノ−α,ω−ジフェノキシプロパンイセチオネートなどのベンザミジン化合物、ピリジン−1−オキサイド−2−チオールナトリウム塩などの環状チオヒドロキサム酸またはその塩、5−アミノ−1,3−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルヘキサヒドロピリミジンなどのN−アセタール化合物、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシミドなどのフタルイミド誘導体、6−アセトキシ−2,4−ジメチル−m−ジオキサンなどのo−アセタール化合物、4,4−ジメチル−1,3−オキサゾリジンなどのオキサゾリジン化合物、8−ヒドロキシキノリンなどのキノリン化合物、ビス(p−クロロフェニルジグアナイド)ヘキサンなどの陽イオン性物質、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイドなどの4級塩化合物、エチルマーキュリーチオサリシレートなどの有機水銀化合物、よう素酸ナトリウムなどのよう素化合物、グリセリルモノラウレート類、1−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,4,4−トリメチルペンチル)−2−(1H)ピリドンエタノールアミン塩などのピリドン誘導体などに代表される抗菌剤;
塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、グリチルリチン酸ジカリウム、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化ベンゼトニウムなどの殺菌剤;
アンピシリンなどのβ−ラクタム、カナマイシンなどのアミノグリコシド、塩酸テトラサイクリンなどのテトラサイクリン、エリスロマイシンなどのマクロライド、クロラムフェニコール類、テリスロマイシンなどのケトライド、アムフォテリシンBなどのポリエンマクロライド、バンコマイシンなどのグリコペプチド、ホスミドシンなどの核酸類、レボフロキサシンなどのピリドンカルボン酸類、リネゾリドなどのオキサゾリジノン類などの抗生物質;
ソルビトール、l−メントール、リモネンなどの香料;
リン酸水素ナトリウムなどのpH調整剤;
ビタミンE、塩化ナトリウム、ニコチン酸−dl−α−トコフェロールなどの血行促進剤;
β−グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、ε−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、インドメタシン、イブプロフェン、エピジハイドロコレステリン、ジハイドロコレステロール、ヒノキチオール、セラペプターゼ、プロナーゼ、オウバクエキス、アラントインなどの抗炎症剤;
レチノール類、リボフラビン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール類、ニコチン酸類などのビタミン;
キレート剤;
アミラーゼ、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、プロテアーゼなどのプラーク溶解剤;
青色1号、青色404号、赤色106号、赤色201号、赤色220号、赤色225号、赤色226号、赤色227号、黄色4号、グンジョウ、コンジョウなどのの口腔内での組成物の識別を容易にするための着色料;
塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等の水溶性金属塩;
雲母チタン、酸化チタン、オキシ塩化ビスマス、合成金雲母、マイカ、酸化鉄などの無機顔料;
リン酸、エチレンジアミン四酢酸、塩化鉄(II)、クエン酸などの歯質脱灰材;
アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびこれらの塩および/または水酸化物のほか、トラネキサム酸、タウリン等のアミノ酸類ないしはその類縁体;
ポリ(メチル(メタ)アクリレート)等のポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等のポリマーの水性エマルション等の粘度調整剤
などを添加しても何ら差し支えない。これら添加剤の形態は特に限定されず、溶剤や添加物の濃度に応じて選択できる。
【0020】
本発明の歯科用プライマー組成物は、従来使用しているレジン系歯科用接着材を改変、変更することなく、接着強さを著しく向上させることができるものである。かかる接着材としては特に限定されるものではないが、ラジカル重合系、特に(メタ)アクリレート系において、好ましく効力を発揮し、典型的一例として、後述の本発明に係るキットの歯科用接着性組成物(B)が挙げられる。
また、歯科用レジン系接着材の接着と同様の反応機構にて使用する材料、たとえばう食防止のために歯面をコーティングする材料や知覚過敏防止のために象牙細管を封鎖する材料などに対するプライミングにも当然使用することができ、これらの材料の効果や口腔内での耐久性を向上させることができる。
【0021】
本発明の歯科用プライマー組成物の使用の形態は、特に制限がないが、歯科用レジン系接着材に付属のエッチング材にて歯牙をエッチングの後、歯科用プライマー組成物を筆などを用いて施術部に塗布し、エアーにて余剰の分散媒を除去した後、レジン系接着材を塗布し、補綴物を装着する例などをあげることができる。なお、塗布後に水洗いなどする場合など、塗布方法に制限されるものではない。
続いて、上述の歯科用プライマー組成物を含む、歯科用キットについて詳述する。本発明の歯科用キットは、歯科用プライマー(A)と歯科用接着性組成物(B)とから構成される。歯科用接着性組成物は、好ましくは分子内に酸性基を有するラジカル重合性化合物(M1)と分子内に酸性基を有しないラジカル重合性化合物(M2)と重合開始剤(I)より構成される。
【0022】
本発明の歯科用キットにおける歯科用プライマー(A)は、前述の歯科用プライマー組成物と同様であり、金属コロイド溶液と所望により添加される添加材とからなる。好ましい金属粒子粒径や濃度等に関しても上述の通りである。
本発明の歯科用キットにおける歯科用接着性組成物(B)において、上記(M1)成分は分子内に酸性基を有するラジカル重合性化合物である。(M1)成分は分子内に酸性基とラジカル重合性基とを有していれば、特に制限はない。酸性基としては、例えばカルボキシル基、リン酸基、チオリン酸基、スルホ基、スルフィノ基をあげることができ、また、カルボキシル基の酸無水基のように実用条件において容易に分解して前期酸性基になるなど、実質上酸性基として機能するものも酸性基と見なすことができる。ラジカル重合性基としては、例えばビニル基、シアン化ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアマイド基などを挙げることができる。
【0023】
具体的な(M1)としては、分子内にカルボキシル基を有する化合物として、例えば
(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;
4−ビニル安息香酸等のビニル芳香環化合物;
11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;
6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;
4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸(4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸)等といった(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;
4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等のさらに水酸基を含有する化合物;
2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト等のカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;
N−(メタ)アクリロイル−4−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノ安息香酸、2−または3−または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−または5−(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸等のN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイル(アミノまたはオキシ)安息香酸系化合物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン等)などのポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物;
N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物;
4−[N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などのN−アルキル−N−(ヒドロキシ(メタ)アクリロイルオキシアルキル)アミノフタル酸化合物
などを挙げることができる。これらのうち、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸が好ましく用いられる。
【0024】
少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基として、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を好ましく例示することができる。このような基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2−および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2−または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等の2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェート
などを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートを好ましく使用することができる。
【0025】
スルホ基あるいはスルホ基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−または1−スルホ−1−または2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等の前記のアルキル部にハロゲンや酸素などのヘテロ原子を含む原子団を有する化合物;
1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の前記アクリレートに換えてアクリルアミドである化合物など;
さらには4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ−1−エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸
などを挙げることができる。これらのうち、4−スチレンスルホン酸を好ましく使用することができる。これら化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
これら酸性基を少なくとも1つ含有する重合性単量体のなかでは4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその無水物がもっとも好ましい。
【0026】
本発明の歯科用キットにおいて(M1)成分の配合量は歯科用接着性組成物(B)の全量を基準に、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは2〜25重量%の範囲である。この範囲を上回ると組成物の保管中の安定性に影響が出るおそれがあり、一方、この範囲を下回ると、歯牙あるいは補綴物との接着性が著しく低下するため、ともに好ましくない。
【0027】
本発明の歯科用キットにおいて、(M2)成分は、ラジカル重合性基を有しており、酸性基を有していなければ、特に制限はないが、具体的な化合物としては、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;
2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ハイドロキシブチル(メタ)アクリレート等のハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;
1,2−または2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(ポリハイドロキシ)アルキル(メタ)アクリレート;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;
エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、あるいはポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートに10−ウンデセニルアルコールがエーテル付加した化合物等のポリアルキレングリコールモノアルキル又はモノアルケニルエーテル(メタ)アクリレート;
(テトラハイドロフラン−2−イル)(メタ)アクリレート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイドなどの複素環を有する(メタ)アクリレートおよび/またはその塩;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート;
を挙げることができる。
さらに、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリ(オキシアルキレン)ジ(メタ)アクリレート;
グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、メソ−エリスリトールジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタントリオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート、ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
N−ベンジル−N,N−ビス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライドなどの複数個の(メタ)アクリロイル基を有するアンモニウム塩;
あるいは下記式(1)
【0028】
【化1】

【0029】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記式(2)
【0030】
【化2】

【0031】
のそれぞれで表わされる2価の基よりなる群から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1〜10、好ましくは1〜8の正の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレート、
下記式(3)で示される脂肪族、脂環族または芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート
【0032】
【化3】

【0033】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは上記式(2)の群から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、lは1〜10、好ましくは1〜5の正の整数を示す〕、
さらに下記式(4)で表される分子内にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート
【0034】
【化4】

【0035】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは上記式(2)の群から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示す〕、
さらには、ビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)ハイドロジェンホスフェートなどの少なくとも1つの酸性基を有し、複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物などを挙げることができる。
【0036】
また、メチル(メタ)アクリルアマイド、2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリルアマイド等、前記の(メタ)アクリレート類の(メタ)アクリルに代えて(メタ)アクリルアマイドである化合物も、好適に使用しうる。
これら化合物は単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
本発明の歯科用キットにおいて(M2)成分の配合量は歯科用接着性組成物(B)の全量を基準に、好ましくは49〜98重量%、より好ましくは69〜97重量%、さらに好ましくは74〜96重量%の範囲である。この範囲を上回ると歯牙あるいは補綴物との接着性が著しく低下し、また、この範囲を下回ると重合性接着性組成物の強度が低下することが懸念され、ともに好ましくない。
本発明の歯科用接着材キットにおける歯科用接着材(B)のうちの(I)成分は、ラジカル重合開始剤であり、有機ホウ素化合物、有機過酸化物、無機過酸化物、α−ジケトン化合物、ホスフィンオキサイド、有機アミン化合物、有機スルホン酸、有機スルフィン酸、無機硫黄化合物、有機リン化合物およびバルビツール酸類などの化合物群を挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
これらの重合開始剤は便宜的に常温化学重合タイプと光重合タイプとに分類することができる。具体的な(I)成分の例として、常温重合タイプでは、
トリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素などのトリアルキルホウ素;
ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;
ブチルジシクロヘキシルボラン、ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン;
テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチルなどのアリールボレート化合物;
部分酸化トリブチルホウ素などの部分酸化トリアルキルホウ素;
ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパーオキサイドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
過硫酸アンモニウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどの無機過酸化物
などを挙げることができる。これらの中では、トリブチルホウ素あるいは部分酸化トリブチルホウ素を用いることが好ましく、さらに部分酸化トリブチルホウ素が最も好ましく、重合速度を患部への適用に適当な速度としつつ、例えば水や血液などの存在下においても組成物を十分に硬化させることができるという利点を持つ。
【0039】
また、具体的な(I)成分の例として、光重合タイプでは、
4,4−ジクロロベンジル、ジアセチル、dl−カンファーキノン等のα−ジケトン;
アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのアセトフェノン類;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾイン・ベンゾインアルキルエーテル;
2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;
ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;
トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類;
などを挙げることができる。
【0040】
本発明の歯科用組成物キットにおいて、(I)成分の配合量は、歯科用接着性組成物(B)の全量を基準に、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.5〜25重量%、さらに好ましくは1〜20重量%、最も好ましくは1.2〜15重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると重合性の低下が懸念され、また、この範囲を上回ると処置中の過度な発熱が懸念されることから、ともに好ましくない。
また、本発明の歯科用キットにおいて、歯科用接着性組成物(B)には所望により還元性化合物(Ir)を配合させることができる。(Ir)として、無機化合物では、例えば亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、亜ジチオン酸、ジチオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩類を挙げることができる。これらの還元性無機化合物の中でも、亜硫酸塩を好ましく用いることができる。亜硫酸塩の具体的な化合物としては、特に亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムを好ましく例示することができる。
【0041】
また、(Ir)としての有機還元性化合物としては、例えばベンゼンスルフィン酸、o−またはp−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸またはその塩類;
N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジハイドロキシメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリンなどのほか、下記式(6)
【0042】
【化5】

【0043】
(ここで、R10およびR11は互いに独立して水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基であり、R12は水素原子または金属原子である。)
で表わされる化合物および下記式(7)
【0044】
【化6】

【0045】
(ここで、R13およびR14は互いに独立に水素原子またはアルキル基であり、R15は水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基またはアルコキシル基である。)
で表わされる基を挙げることができる。
【0046】
上記式(6)に含まれる具体的な化合物としては、例えばN−フェニルグリシン、N−トリルグリシン、N−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ハイドロキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび/またはこれらの塩を挙げることができる。このうち、N−フェニルグリシン、および/またはその塩を好ましく使用できる。
また、上記式(7)に含まれる具体的な化合物としては、例えばN,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルのほか、N,N−ジプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピル−N−メチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルなどで代表される脂肪族アルキルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル;
N,N−ジメチルアミノベンズアルデハイド、N,N−ジエチルアミノベンズアルデハイド、N,N−ジプロピルアミノベンズアルデハイド、N−イソプロピル−N−メチルアミノベンズアルデハイドなどで代表される脂肪族アルキルアミノベンズアルデハイド;
N,N−ジメチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジエチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジプロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソプロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソプロピル−N−メチルアミノアセチルベンゼンなどで代表される脂肪族アルキルアミノアセチルベンゼンおよび脂肪族アルキルアミノアシルベンゼンなどを挙げることができる。
これら化合物は単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
本発明の歯科用キットにおいて、所望により(Ir)成分を使用する際の配合量は、歯科用接着性組成物(B)の全量を基準に、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.5〜25重量%さらに好ましくは1〜20重量%、最も好ましくは1.2〜15重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると配合の効果が発揮されないおそれがあり、上回ると、保存安定性に影響を及ぼすばかりか、硬化時に組成物が高熱を発するおそれがあり、ともに好ましくない。
さらに本発明の歯科用キットにおいて、歯科用接着性組成物(B)には所望により粘度調整材((F)成分)を配合させることができる。(F)成分を用いることにより、口腔内への適用時操作性が向上させることができる。(F)成分としては有機フィラー(F1)、無機フィラー(F2)および有機無機複合化フィラー(F3)を挙げることができる。(F)成分を配合することにより、生体へ直接組成物を適用する際の、組成物の流動性を調節することができ、組成物が不用意に患部以外の部位へと流出するのを防ぎ、同時に、適用の操作性を向上させることができる。
【0048】
(F1)の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングルコール、ポリビニルアルコールなどのほか、ポリ(メチル(メタ)アクリレート)、ポリ(エチル(メタ)アクリレート)など、(M)成分として列挙したモノマーの単独あるいは共重合体を挙げることができる。
(F2)の具体例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、シリカ、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムあるいは、CaHPO、Ca(PO、Ca(POOH、CaO(PO、Ca(PO、Ca10(PO(OH)、CaP11、Ca(PO、Ca、Ca(HPO、CaO、Ca(OH)、Ca(HCO、CaCO、CaClなどの無機カルシウム塩、さらには、4−(2−(メタ)アクリロキシエチル)トリメリット酸カルシウムや4−スチレンスルホン酸カルシウムなど、有機酸のカルシウム塩などの金属塩粉末、シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー、銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどをあげることができる。
【0049】
また、(M1)および/または(M2)成分への分散性を向上させるために、これら無機フィラー(F2)に、従来公知の方法によりシラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施して使用してもかまわない。
【0050】
(F3)の例としてはトリメチロールプロパンメタアクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したものなどが使用できる。
これら(F)成分の中では、(M1)および/または(M2)成分の単独重合体を使用することが好ましく、なかでもポリ(メチルメタアクリレート)を使用することが最も好ましい。
これらの(F)成分は単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
(F)成分は粒子径が小さいほど少量の添加で粘度の調整が可能になるが、適用感や適用時の伸びなどの調整も可能である。好ましくは1nm〜50μm、より好ましくは5nm〜30μm、さらに好ましくは10nm〜20μmの範囲内にある平均粒子径のフィラーが使用される。
【0051】
本発明において所望により配合される(F)成分の使用量は組成物の全量を基準に、好ましくは0.5〜75重量%、より好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは2〜66重量%、特に好ましくは30〜60重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると配合の効果を確認することができず、また、上回ると流動性が著しく上昇することにより操作性に影響を与えるおそれがあり、ともに好ましくない。
本発明において、「構成される」とは、はじめから、この組成にてすべて混合されていることに限定されるものではなく、必要に応じて、各成分が適宜分封して保存されていて、使用時に混合されることも含まれる。
【0052】
本発明の歯科用キットの使用形態は、
(あ) (I)成分のうち、光重合開始剤を選択し、歯科用プライマー組成物(A)と歯科用接着性組成物(B)がそれぞれの容器に梱包されており、(A)を使用した後に、(B)を使用し、光照射器を用いて重合させて使用する方法;
(い) (I)成分のうち、光重合開始剤以外より選択し、歯科用プライマー組成物(A)が入っている容器Aと、(M1)および(M2)成分の入っている容器Bと(I)成分の入っている容器Cとに分けて保存し、(A)を使用した後に、容器Bと容器Cよりそれぞれ適量を取り出して混合の後、使用する方法;
(う) 歯科用プライマー組成物(A)が入っている容器Aと、(M1)成分の入っている容器Bとおよび(M2)成分の入っている容器Cと(I)成分の入っている容器Dとに分けて保存し、(A)を使用した後に、容器B、CおよびDよりそれぞれ適量を取り出して混合の後、使用する方法;
などを例示することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
<白金コロイド溶液の作製>
撹拌装置、滴下装置、冷却管と窒素導入口を取り付けたGL反応器に、ポリアクリル酸ナトリウム(平均分子量5百万、日本触媒(株)製)0.38gと精製水23mlを加え、10分間撹拌したのちに、1.66×10−2mol/lのヘキサクロロ白金酸水溶液2mlを加え、室温にて30分間撹拌させた。系内を窒素置換し、エタノール25mlを加え、100℃で2時間還流させ、反応を行った。反応生成物のUVスペクトルから、白金イオン由来のピークが消失していることを確認した後、反応生成物より溶媒を約5ml残して留去し、さらにエタノール50mlを加えた後に再度溶媒を留去し、得られたペースト状の白金粒子に66mlの精製水を加え、ポリアクリル酸濃度0.58重量%、白金濃度0.01重量%の金属コロイド溶液を得た。なお、得られた金属コロイド溶液のR値は122であり、得られた金属コロイド溶液を透過型電子顕微鏡によって観察し、無作為に抽出した5視野における、金属粒子の平均粒径は2.4±0.7nmであり、観察した全粒子のうち、90%以上の金属粒子の粒径が0.1〜20nmの範囲内であった。
【0055】
<接着試験体の作製>
便宜抜去したヒト臼歯の歯冠をダイヤモンドカッターにて歯軸に対して垂直に切断し、象牙質を露出させた後、耐水研磨紙#180まで研磨し、平滑な象牙質面を得た。研削したヒト歯の平滑面を一度気銃にて水分を除去した。
【0056】
<引っ張り接着試験>
後述の接着操作を行ったヒト歯を37℃水中に24時間浸漬した後、注水下、ダイヤモンドカッター(ビューラー製アイソメット)にて歯軸と平行に、約1mm間隔で切り出し、接着体スライスを得た。得られた接着体スライスを、注水下、ダイヤモンドカッターにて歯軸に平行、かつ、第一のスライス面に対して垂直に、約1mm間隔で切り出し、直方体状の引っ張り試験評価体を得た。得られた引っ張り接着試験評価体の接着面積を測定の後、万能試験機((株)島津製作所製EZ Test)にてクロスヘッドスピード1mm/分にて微少引っ張り強さを測定した。
【0057】
実施例1
接着試験体の象牙質面を象牙質表面処理材グリーン(商品名、クエン酸と塩化第二鉄を主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で10秒間処理し、水洗、乾燥した。上述の金属コロイド溶液30mgを象牙質面に塗布し、10秒間放置後に余剰の水分をエアーにて除去した。混合皿にスーパーボンドC&B(商品名、歯科用レジン系接着材)のモノマー液をボトルより4滴採取し、スーパーボンドキャタリスト(商品名、部分酸化トリブチルホウ素、酸素付加量トリブチルホウ素1モルに対し0.5モル、サンメディカル(株)製)をシリンジより1滴滴下し、スーパーボンドポリマー粉末クリア(商品名、ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)を付属スプーンにて1杯取り出し、これらを接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、1辺が1cmの直方体状のポリメチルメタアクリレート製ロッドを圧接して植立した。上述の接着強さは42.2MPaであった。比較例1および比較例5との比較により、金属コロイド溶液よりなる組成物の適用により接着性の向上が確認された。
【0058】
実施例2
接着試験体の象牙質面に30μlの5%次亜塩素酸水溶液を塗布し、1分間放置することで殺菌操作を行った。水洗、エアーブローの後、象牙質表面処理材グリーン(商品名、クエン酸と塩化第二鉄を主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で10秒間処理し、水洗、乾燥した。上述の金属コロイド溶液30mgを象牙質面に塗布し、10秒間放置後に余剰の水分をエアーにて除去した。混合皿にスーパーボンドC&B(商品名、歯科用レジン系接着材)のモノマー液をボトルより4滴採取し、スーパーボンドキャタリスト(商品名、部分酸化トリブチルホウ素、酸素付加量トリブチルホウ素1モルに対し0.5モル、サンメディカル(株)製)をシリンジより1滴滴下し、スーパーボンドポリマー粉末クリア(商品名、ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)を付属スプーンにて1杯取り出し、これらを接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、1辺が1cmの直方体状のポリメチルメタアクリレート製ロッドを圧接して植立した。上述の接着強さは23.5MPaであった。比較例1、比較例2、比較例5および比較例6との比較により、殺菌操作を行った歯牙であっても、金属コロイド溶液よりなる組成物の適用により接着性の向上が確認された。
【0059】
実施例3
接着試験体の象牙質面に上述の金属コロイド溶液30mgを塗布し、10秒間放置後に余剰の水分をエアーにて除去した。象牙質面にAQボンドSP(商品名、歯科用レジン系接着材、サンメディカル(株)製)液剤をボトルから2滴、混合皿に採取し、付属のスポンジを液剤に浸した後、スポンジを用いて接着試験体の象牙質面に塗布した。5秒間のエアーブローを行い、歯科用ハロゲン光照射器(キャンデラックス、(株)モリタ製作所製)にて塗布表面に3秒間光照射した後、歯科用コンポジットレジン(メタフィルC、A3、サンメディカル(株)製)を築盛し、さらに20秒間光照射した。つづいてスーパーボンドC&B(商品名、歯科用レジン系接着材)のモノマー液をボトルより4滴採取し、スーパーボンドキャタリスト(商品名、部分酸化トリブチルホウ素、酸素付加量トリブチルホウ素1モルに対し0.5モル、サンメディカル(株)製)をシリンジより1滴滴下し、スーパーボンドポリマー粉末クリア(商品名、ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)を付属スプーンにて1杯取り出し、これらを接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、1辺が1cmの直方体状のポリメチルメタアクリレート製ロッドを圧接して植立した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは40.5MPaであった。比較例3および比較例7との比較により、金属コロイド溶液よりなる組成物の適用により接着性の向上が確認された。
【0060】
実施例4
接着試験体の象牙質面にスコッチボンドエッチャント(商品名、リン酸を主成分とするエッチング材、3M社製)を塗布し、15秒間放置の後、水洗し、エアーブローを1秒間行い、余剰水分を除去した。つづいて上述の金属コロイド溶液30mgを塗布し、10秒間放置後にエアーブローを1秒間行い余剰の水分を除去した。直ちに象牙質面にシングルボンド(商品名、歯科用レジン系接着材、3M社製)を添付の筆を用いて塗布した。エアーにて乾燥させた後に、歯科用ハロゲン光照射器(キャンデラックス、(株)モリタ製作所製)にて塗布表面に5秒間光照射した後、歯科用コンポジットレジン(Z250、A3、3M社製)を築盛し、さらに20秒間光照射した。つづいてスーパーボンドC&B(商品名、歯科用レジン系接着材)のモノマー液をボトルより4滴採取し、スーパーボンドキャタリスト(商品名、部分酸化トリブチルホウ素、酸素付加量トリブチルホウ素1モルに対し0.5モル、サンメディカル(株)製)をシリンジより1滴滴下し、スーパーボンドポリマー粉末クリア(商品名、ポリメチルメタアクリレート、サンメディカル(株)製)を付属スプーンにて1杯取り出し、これらを接着用筆で混合し、接着歯面に塗布、続いて、1辺が1cmの直方体状のポリメチルメタアクリレート製ロッドを圧接して植立した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは75.1MPaであった。比較例4および比較例8との比較により、金属コロイド溶液よりなる組成物の適用により接着性の向上が確認された。
【0061】
比較例1
実施例1において、金属コロイド溶液を精製水に代えた以外は同様に操作した。上述の接着強さは18.4MPaであった。
【0062】
比較例2
実施例2において、金属コロイド溶液を精製水に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは15.1MPaであった。
【0063】
比較例3
実施例3において、金属コロイド溶液を精製水に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは32.1MPaであった。
【0064】
比較例4
実施例4において、金属コロイド溶液を精製水に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは61.2MPaであった。
【0065】
比較例5
実施例1において、金属コロイド溶液を1.66×10−4mol/lのヘキサクロロ白金酸水溶液に代えた以外は同様に操作した。上述の接着強さは15.3MPaであった。
【0066】
比較例6
実施例2において、金属コロイド溶液を1.66×10−4mol/lのヘキサクロロ白金酸水溶液に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは10.5MPaであった。
【0067】
比較例7
実施例3において、金属コロイド溶液を1.66×10−4mol/lのヘキサクロロ白金酸水溶液に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは29.8MPaであった。
【0068】
比較例8
実施例4において、金属コロイド溶液を1.66×10−4mol/lのヘキサクロロ白金酸水溶液に代えた以外は同様に操作した。上述の接着試験を行ったところ、破壊は接着材と歯質との界面でおきており、接着強さは50.4MPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コロイド溶液よりなることを特徴とする歯科用プライマー組成物。
【請求項2】
金属コロイド溶液の金属が遷移金属である請求項1に記載の歯科用プライマー組成物。
【請求項3】
金属コロイド溶液の金属が白金である請求項1又は2に記載の歯科用プライマー組成物。
【請求項4】
金属コロイド溶液の金属コロイド粒子が0.6〜5nmの平均粒径を有し且つその90%以上の金属コロイド粒子の粒径が0.3〜30nmの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用プライマー組成物。
【請求項5】
金属コロイド溶液が水溶性高分子化合物、有機酸および界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種をコロイド保護材としている請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用プライマー組成物。
【請求項6】
金属含量が0.00001〜0.2重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用プライマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用プライマーと、歯科用接着性組成物とからなることを特徴とする歯科用キット。

【公開番号】特開2009−234932(P2009−234932A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79533(P2008−79533)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】