説明

歯科用ホワイトニング組成物を使用する歯のホワイトニング方法

【課題】温度変化に反応できる粘度を有する歯科用ホワイトニング組成物を使用して歯の表面をホワイトニングする方法の提供。
【解決手段】口腔環境に適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物を使用する歯をホワイトニングする方法であって、
(a)前記組成物を歯科用トレー内に分取するステップと、
(b)前記歯科用トレーを使用者の口に入れるステップと、
(c)前記組成物と少なくとも1つの歯の表面との間に接触を引き起こすことで、前記組成物の粘度増大を開始するステップと、
(d)前記トレーを少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングまたは増白するのに十分な時間、口内に保持するステップと、
(e)前記歯科用トレーを前記口から取り出すステップと、
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度変化に反応できる粘度を有する歯科用ホワイトニングまたは増白組成物に関する。発明は、組成物を使用して歯の表面をホワイトニングまたは増白する方法、特に組成物を歯科用トレー内に、または直接歯の表面に分取して、口内に一定時間保持することで歯をホワイトニングまたは増白する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
家庭でできる歯ホワイトニングシステムは、歯科専門家を通じてあるいは店頭で1980代後半から入手できるようになった。これらのシステム以前には、より白いまたはより輝く歯を望む人々には、歯科医によって歯科用診療台の上で提供される様々な熱または光活性化システムが必要だった。典型的にこれらの実施には、歯科医が過酸化水素溶液を歯に塗布し、柔組織を結紮したラバーダムで保護して、塗布した溶液に熱を加えて酸化を達成することを伴った。このような酸化が歯の表面から変色を除去した。
【0003】
外観を向上させる製品に対する消費者需要の高まりにつれ、審美的歯科が相応して成長した。これらの製品に対する需要からは、より都合の良い場所と時間、および/またはより少ない器材で行える製品に対する関心が高まった。したがって家庭におけるプライバシーと便利さで、歯を処置してホワイトニングする手段を人々に提供する多数の製品が開発されている。
【0004】
概してホワイトニング過程を開始するためには、歯科医によって、または購入した歯科用ホワイトニングキットの一部として、使用者に歯科用トレーが提供される。トレーは、ホワイトニング組成物を所望の位置(群)に保持して、歯の表面とホワイトニング組成物との間の接触を保つことを意図する。処置に歯科医が関与する場合、典型的に歯科用トレーは使用者個人の歯列に合わせられる。歯科医によっては、十分量の歯ホワイトニング組成物を収容するように、歯科用トレー内に作られる歯処置区画またはレザバーを選択的に拡張することを選ぶかもしれない。このようなレザバーを有する目的は、より多量のホワイトニング組成物を提供して、所望するならば歯のホワイトニング剤への持続性曝露を確実にすることである。歯科用トレーにホワイトニング組成物が装填され、使用者が除去を望む変色の程度次第で、典型的に一定時間(例えば30分間〜8時間)患者によって着用される。この処置を十分な時間反復して、歯ホワイトニングおよび増白過程をもたらす。
【0005】
ホワイトニング組成物は、組成物を濃化組成物として提供するために、概してカルボキシポリメチレン、セルロースポリマーまたはヒュームドシリカなどの増粘流動学的調整剤と共に調合される。例えばPellicoの米国特許番号第5,361,000号は、グリセリンおよびカルボキシポリメチレンで濃化された歯科用ホワイトニング組成物に向けたものである。Pellicoの米国特許番号第5,718,886号は、増粘剤としてキサンタンガムを使用した安定化無水歯科用ホワイトニング組成物を開示する。
【0006】
トレーおよびホワイトニング組成物の口腔内適用中、システムは約22〜25℃の周囲温度から約37℃になる。この温度上昇の結果、ホワイトニング組成物は粘度低下してより流動性になる傾向がある。さらに組成物は、トレーに出入りする唾液によって希釈されるかもしれず、組成物の希釈が帰結する。この希釈と粘度低下により、組成物そしてひいてはホワイトニング剤がトレーから流れ出す傾向が生じ、所望の時間、目的位置の処置に利用できるホワイトニング組成物の量が減少する結果となる。
【0007】
温度および唾液分泌の影響を克服するため、Fischerによる一連の特許、すなわち米国特許番号第5,098,303号、第5,234,342号、第5,376,006号、第5,409,631号、第5,770,105号、第5,725,843号、および第5,746,598号は、高い粘度と粘着性によって特徴づけられ、唾液による希釈を最小化し、ホワイトニング剤が歯の表面に接触する時間を延長する歯ホワイトニング組成物を開示する。これらの特許はその容器中での貯蔵中に、ホワイトニング組成物の高粘度特性を提供する、高濃度のカルボキシポリメチレンの使用について述べる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明は、粘度が温度変化に反応性で、粘度が温度上昇につれて増大する歯科用ホワイトニング組成物を提供する。これらの組成は、好ましくは温度が低下すると粘度を逆転させる能力も有する。発明の組成物は、ホワイトニング剤および熱的に反応性の改質剤を含む。
【0009】
発明の組成物は、温度が概して周囲温度または組成物の処置前温度よりも高い口腔環境で、非常に良好に機能する。この温度格差により組成物が増粘することで、口腔環境において濃化した半固体またはゲル様組成物が提供される。
【0010】
発明の好ましい使用方法は、組成物を歯科用トレー内に分取するステップと、それを引き続いて使用者の口に入れるステップと、を含む。組成物が口腔温度に曝露すると、組成物は半固体またはゲル様状態に増粘する。代案としては組成物は、そのトレーとの接触に際し組成物が増粘するように予熱したトレー内に分取できる。
【0011】
この発明は、口腔環境における温度上昇によって粘度低下が生じた、以前の歯科用ホワイトニング組成物の欠点を克服する。これは、温度上昇に応じて粘度増大を示す歯科用ホワイトニング組成物を提供することで達成される。別の利点として本発明の組成物および方法は、歯ホワイトニング組成物、特にその処置前温度において最初は低粘度の液体である組成物の容易なデリバリを提供する。これらの組成物は、小さなオリフィスを有するデリバリ装置から分取でき、分取により小さな力を必要とし、口腔環境の温度に曝された際にのみ、より濃厚またはより高粘度になる。
【0012】
この発明の組成物は口腔内環境で使用するのに特に適しており、周囲温度(室温)以下の処置前温度を有する組成物が、約30℃〜39℃の口腔温度前後である使用者の歯の表面に塗布される。特定の歯科用途では、組成物が熱的に可逆的であることが好ましい。この用途では、組成物はより高い口腔内温度で粘度増大する能力を有するだけでなく、温度低下に際してその粘度を逆転または低下させる。
【0013】
歯科用組成物が人の体温で増粘する能力は、この特性が以前のアプローチの不都合の多くを克服するので発明の重要な特性である。ここで組成物は処置の場所で増粘するため、溶液の消散的な特性が避けられる。さらに本組成物は処置前に易流動性液体であっても良いので、粘稠な組成物の調合、取り扱い、デリバリ、および塗布の問題が克服される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
「半固体」とは、ここでの用法ではその物理的状態が液体と固体の間である材料、網目状組織内に混入した純粋または混合溶剤または溶液であり、そして代案としてはゲルと見なすことができる。「純粋なまたは混合溶剤および/または溶液」とは、ここでの用法では溶剤混合物が網目状組織に吸収されても良いと見なされる。さらに溶剤は、網目状組織内に吸収されまたは混入しても良い溶液を形成するように塩またはその他の添加剤を含んでも良い。
【0015】
「増粘」とはここでの用法では、組成物がかなりの粘度増大を受けることである。増粘の程度は、組成物の初期粘度に左右される。
【0016】
発明の好ましい実施態様では、組成物の初期粘度は組成物が液体状態であるように十分低くても良い。引き続いてほぼ体温前後の温度に曝露すると、粘度が増大して濃化組成物が帰結する。約10〜約100倍の範囲の粘度増大は、組成物が液体であるように初期粘度が十分低い場合におこる。したがって例えば液体状態の組成物は、約0〜約7000ポアズ(700Pa・s)の粘度を有しても良い。温度上昇に応じて、組成物の粘度は少なくとも約10,000ポアズ(1000Pa・s)に増大できる。温度が低下すると、組成物は好ましくは粘度を逆転して液体の流れ特性に戻る能力を有する。
【0017】
さらに別の発明の好ましい実施態様では、組成物の初期粘度レベルは処置前温度で半固体またはゲル状態であり、より高い処置温度に曝露すると「超濃厚」または「超ゲル」組成物、あるいはかなり高い粘度と非常に低い流れ特性を有するものに転換する。これらの組成物は典型的に約7000ポアズ(700Pa・s)以上の初期粘度を有し、それは次に約2〜約5倍に増粘する。
【0018】
処置前温度は、塗布または処置前に組成物が曝される温度である。処置前温度の範囲は約5℃〜約29℃であることができるが、温度がこの範囲を越える場合もあるかもしれない。約20℃〜25℃の処置前温度を有することで、組成物は周囲または室温で容易に貯蔵できるようになる。代案としては、発明の組成物は約5℃〜約10℃のより低い冷蔵処置前温度に有利に貯蔵して、改善された安定性と貯蔵寿命を提供することもできる。
【0019】
処置温度は、口腔内塗布中に組成物が曝される温度である。これは体温前後、または約30℃〜約39℃であることができる。
【0020】
発明に従って、歯科用組成物は約30℃未満の周囲温度で液体またはゲルであり、約30℃を越える口腔温度で増粘を受ける、水混和性で生理適合性の媒体から成る。約25℃〜約40℃の範囲の増粘転移温度を有する組成物が、本発明の実施において有用であることが分かっている。好ましくは約25℃〜約39℃、より好ましくは約30℃〜約35℃の範囲の温度で増粘がおこる。
【0021】
この発明の組成物は、溶剤、ホワイトニング剤、および所望の高温範囲で所望の粘度増大を提供する熱的に反応性の粘度調整剤を含む。任意にその他の補助剤が組成物に添加されても良い。好ましくはこの発明の組成物は、歯ホワイトニング組成物が、人の組織または流体と接触した場合に有害反応が起きないよう、生理適合性であるべきである。溶剤、ホワイトニング剤、および熱的に反応性の粘度調整剤は、1つの混合物中に含有されても、または別々にマルチパート(multi−part)のシステム中に含有されても良い。マルチパートのシステムでは、処置直前に混合されるように、ホワイトニング剤が粘度調整剤から物理的に隔てられても良い。
【0022】
ここでの用法では「熱的に反応性の粘度調整剤」とは、温度上昇に応じてその粘度を実質的に増大させる能力を組成物またはポリマーシステムに提供する1つ以上のポリマー物質である。熱的に反応性の粘度調整剤として有用である適切なポリマー物質としては、ポリオキシアルキレンポリマー、特に商標名PLURONICの下に入手できるポリマー界面活性剤が挙げられる。この種類のポリマーは、BASF Wyandotte Corporationから市販される。その他のポリオキシアルキレンポリマーも熱的に反応性の組成物材料として有用かもしれない。
【0023】
この発明に従った好ましい歯科用組成物は、選択されたポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの水溶液を含む。ポリオキシエチレン単位数が全分子の単位数の少なくとも約50%であり、ブロックコポリマーが約1100〜約15,500の平均分子量を有するポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含む組成物が、特に有用であることが分かっている。組成物が共重合体中のモノマー単位総数の約70%のポリオキシエチレン単位を含み、共重合体が約11,500の平均分子量を有することがより好ましい。PLURONIC F−127は、これらの基準を満たす材料である。
【0024】
PLURONICポリマーは、一級ヒドロキシル基で終結するポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン縮合物として概して分類される、ブロックコポリマーと近縁関係にある。これらのポリマーは、プロピレンオキシドのプロピレングリコール核への縮合と、それに続くポリオキシプロピレンベース両端へのエチレンオキシドの縮合によって形成される。ベースプリポリマー末端のポリオキシエチレン親水基が最終ポリマーの約10%〜約80重量%を構成するよう、長さが調節される。
【0025】
PLURONICポリマー系列の製品は、式、HO(C24O)a(C36O)b(C24O)cH(式中aおよびcは統計学的に等しい。)によって経験的に表せる。
【0026】
ブロックコポリマーの濃度は重要なパラメータであり、その他の成分の濃度に対応するように調合できる。共重合体の濃度を調節して組成物中に存在するその他の溶質に合わせることで、周囲温度を越え体温未満の重要な範囲で、液体から半固体へのあらゆる所望の転移温度が達成できる。したがって主要な考慮は濃度の選択であり、それは組成物の全構成成分と共に、必要な範囲内での液体から半固体への転移、または代案としてはゲルから「超ゲル」への転移温度を提供する。
【0027】
有用なブロックコポリマー濃度は、重量で組成物の約5%〜約40%(重量%)、好ましくは組成物の約15重量%〜約26重量%であることが分かっている。約17重量%〜約26重量%のPLURONIC F−127を有する水溶液を使用して、優れた結果が得られている。
【0028】
室温では液体であるが、体温程度に暖められると半固体を形成するその他の既知のシステムは、エチレンジアミンと共に縮合されたポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンの四官能価ブロックポリマーから形成され、商標名TETRONICポリマー(BASF Wyandotte Corp.)の下に市販される。これらの組成物は、水性媒体中におよそ10〜50重量%のポリマーから形成される。例えば本願明細書に引用した米国特許番号第5,252,318号を参照されたい。
【0029】
発明の組成物のために特に好ましいポリマーは、PLURONIC F−127およびF−108、そしてTETRONICポリマーの類である。これらの粘度調整剤は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーである。ブロックコポリマーの増粘傾向は、エチレンオキシド含量と総分子量が増大するに従って増大する。熱的に反応性のブロックコポリマーは、それらの全教示を本願明細書に引用した米国特許番号第4,474,751号、第4,474,752号、第5,441,732号、第5,252,318号、並びに製品カタログ「BASF Performance Chemicals」で開示されている。これらのブロックコポリマーは、人との接触を伴う用途のために極度の低毒性と、高度な穏やかさを提供する。
【0030】
この発明の組成物のための好ましい溶剤は水である。組成物中の水の濃度は、組成物の約30重量%〜約90重量%の範囲であることができ、好ましくは約50重量%〜約80重量%である。より好ましくは、水は組成物の約50重量%〜約75重量%の範囲で存在することができる。水溶液の形成において使用される水は、好ましくは蒸留、濾過、イオン交換などによって精製される。
【0031】
プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのポリオール成分を含む無水溶液をはじめとするその他の溶剤も使用できる。プロピレングリコールは組成物中に、組成物の約10重量%〜約55重量%の量で存在しても良い。約400〜約1500の分子量を有するポリエチレングリコールを組成物の約10重量%〜約50重量%の量で、この発明の実施において使用しても良い。構成成分としてグリセリン組成物を使用しても良い。
【0032】
本発明で使用されるホワイトニング剤は、歯のホワイトニング効果を有するあらゆる材料であっても良い。ホワイトニング剤は、好ましくは過酸化水素、およびその尿素複合体である過酸化カルバミド(CO(NH2222)から選択される。これらのホワイトニング剤は、尿素過酸化水素、過酸化水素カルバミド、またはペルハイドロール尿素の別名でも知られている。代案としては、次亜塩素酸ナトリウムが、ホワイトニング剤として使用するのに適しているかもしれない。組成物中のホワイトニング剤の濃度は、その反応性次第で異なることができる。カルバミド過酸化物では、例えばここで好ましい濃度範囲は約3%〜約40%であり、約4%〜約21%の範囲が最も好ましい。過酸化カルバミドよりも高反応性が高い過酸化水素の場合、ここでの好ましい濃度範囲は約2%〜約10%である。
【0033】
その他の補助剤も特定の目的のために組成物に添加できる。例えば発明の好ましい実施態様は、口腔組成物において望ましい添加剤であるフッ化物を含有することができる。添加剤を組成物中に含めて、調合の安定性を助けても良い。抗菌剤、抗真菌剤、および防腐剤を組成物に添加して、その貯蔵寿命を改善しても良い。組成物の粘着性を減少または増大させる接着性調整剤も調合物に含めることができる。組成物は、充填剤、染料、抗齲食性剤、着香料、甘味料、薬剤、および炭酸水素ナトリウムなどのその他の補助剤をさらに含んで良い。
【0034】
この発明の組成物の使用において、様々な方法を用いることができる。これらのホワイトニング組成物の使用法の1つは、組成物を組成物の容器から直接、またはびん、シリンジまたは管などのディスペンサーから、歯構造体に塗布することを伴う。代案としては、ブラシを使用してそれを歯の表面に塗ることでホワイトニング組成物が適用できる。組成物は使用者の歯の表面(群)に所望の時間保持され、ホワイトニングが達成される。組成物が歯の表面(群)に接触する時間は、使用者が除去したいと思う変色の量に左右される。
【0035】
好ましい方法では、ホワイトニング組成物が歯科用トレー内に装填される。このような歯科用トレーは使用者の歯列に合わせることができ、レザバー付きまたはなしで作られる。好ましいレザバーは、その開示内容を本願明細書に引用した本発明の譲受人に譲渡された1998年8月13日出願のMedication Delivery Trayと題される米国特許出願53911USA1Aで述べられている。歯科用トレーは、異なる厚さと柔軟性の可撓性熱成形性可塑性材料から作ることができる。典型的にこれらの材料は、厚さが0.02〜0.08インチである。ホワイトニング組成物を歯科用トレー内に分取または装填した後、使用者は次に装填したトレーを口内に入れて組成物の増粘を開始する。口腔環境のより高い処置温度に組成物が曝されると、増粘が起きる。トレーは口内に保持されて変色を除去するのに十分な時間、歯の表面(群)のホワイトニングが実施される。
【0036】
代案の使用法には、その中に組成物が装填される歯科用トレーを予熱することが組み込まれる。処置前温度を有する組成物がより高い温度を有するトレーに接触すると、組成物は増粘を受ける。この方法は、組成物がトレーの望ましくない区域に移動する、または組成物がトレーから流れ出す恐れが最小で、使用者の口に入れた装填されたトレーの容易な取り扱いを提供する。
【0037】
組成物が熱的に可逆的である場合、液体から半固体への転移温度未満の材料を冷却することにより、増粘効果を逆転させることで組成物が歯列またはトレーから容易に除去される。これは冷水またはその他の生理適合性の液体によって達成される。代案としては、水またはその他の溶液を口腔内に入れることで、ホワイトニング組成物中の成分濃度を調節して希釈しても良い。成分濃度を調節することにより転移温度が相応して調節されるので、温溶液を使って組成物を除去する能力が使用者に提供される。水またはその他の溶液は、すすぎカップ、噴射びん、液体を分取する歯科用工具、または溶液を口腔環境に提供できるあらゆるその他の液体を分取する装置を通じてかけられても良い。好ましくは冷水を組成物にかけることで、粘度の顕著な低下が提供できる。代案としては、組成物をブラシで落としたり、拭い落としたりあるいは吹き落としても良い。
【0038】
これらとその他の発明の態様を、範囲を制限するものではない以下の実施例によって例証する。特に断りのない限り、全ての分子量は数平均分子量であり、全ての割合、部、および百分率は重量による。
【実施例】
【0039】
原液1の調製
5gの30%H22(J.T.Baker)および5gの蒸留水をガラスバイヤルに入れて、およそ15%の過酸化水素(H22)を含有する水性原液を調製した。原液を完全に混合した。
【0040】
原液2の調製
4gの97%尿素過酸化水素(Sigma)および16gの蒸留水をガラスバイヤルに入れて、およそ20%の尿素過酸化水素(過酸化カルバミド)を含有する水性原液を調製した。原液を完全に混合した。(尿素過酸化水素の過酸化水素含量は約35%であった。)原液は、約7%のH22を含有した。
【0041】
実施例1
以下の成分をガラスバイヤルに入れて無色透明の溶液が得られるまで完全に混合し、熱的に可逆的である過酸化水素組成物を調製した。
【0042】
【表1】

【0043】
上記の溶液は、およそ12%の過酸化水素、68%の水、および20%のPLURONIC F127を含有した。バイアルを手の中に保持して、液体過酸化物溶液を含有するガラスバイヤルを体温に暖めた。続く約1〜2分間に、液体はバイアルを転倒しても流れない、無色透明な組成物に変換した。バイアルを室温に冷却したところ、半固体組成物は変換して低粘度状態に戻った。このサイクルを数回反復したところ結果は同じであった。
【0044】
過酸化水素分析ストリップを使用して、液体および半固体(ゲル)状態の双方を、過酸化水素について半定量的に評価した。分析では「EM Quant過酸化物試験ストリップ」(EM Science、ニュージャージー州ギブスタウン、カタログ番号10011−1)を使用した。製造元の使用法に従って組成物を評価した。
【0045】
試験結果は、液体および半固体状態の双方が、顕著な量の利用可能な過酸化物を含有することを示した。
【0046】
同一サンプルを2か月後に再評価したところ、なお熱的可逆的特性と、半定量的分析に基づいて比較できる過酸化水素レベルを示すことが分かった。
【0047】
実施例2
以下の成分をガラスバイヤルに入れて、無色透明の溶液が得られるまで完全に混合し、尿素過酸化水素を含有する熱的に可逆的である組成物を調製した。
【0048】
【表2】

【0049】
上の溶液は、およそ16%の尿素過酸化水素(または約5.6%の過酸化水素)、64%の水、および20%のPLURONIC F127を含有した。バイアルを人の手に保持して、液体過酸化物溶液を含有するガラスバイヤルを体温に暖めた。約1分後、液体はバイアルを転倒した際に流れない無色透明な組成物に変換した。バイアルを室温に冷却したところ、半固体組成物は変換して低粘度状態に戻った。このサイクルを数回反復したところ結果は同じであった。
【0050】
製造元の使用法に従って、過酸化水素分析ストリップEM Quant過酸化物試験ストリップ(EM Science、ニュージャージー州ギブスタウン、カタログ番号No.10011−1)を使用して、液体および半固体状態の双方を過酸化水素について半定量的に評価した。液体および半固体状態のどちらも、顕著な量の利用可能な過酸化物の存在を示した。
【0051】
同一サンプルを9日後に再評価間したところ、なお熱的可逆的特性と、半定量的分析に基づいて比較できる過酸化水素レベルを示した。
【0052】
表1に上の2つの例の結果をまとめる。「+」は粘度増大を示す。「−」は粘度低下を示す。表に示される過酸化水素の存在は、EM Quant過酸化物試験ストリップおよび試験法を使用して、半定量的試験から得られた結果である。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例3
温度の関数としての粘度について、いくつかの組成物を評価した。組成物については下で述べる。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
Rheometrics RDA II Rheometerを使用して、サンプルを15℃〜45℃の温度の関数としての粘度についてさらに評価した。調節された歪み流動計(「RDA2」、Rheometrics Scientific、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を使用して、温度データに対する複合粘度η*(測定単位はポアズ)を得た。板の直径が25mmで、ギャップがおよそ1mmの平行板配置を使用した。温度を15℃から45℃に上昇させながら(3℃/分)、サンプルに1ラド/秒の周波数で10%の振動歪みをかけた。
【0059】
下に示したのは、RDA粘度データである。図1は、室温から約45℃に暖めると比較的鋭い粘度増大を示すPLURONIC F127ポリマーを含有する水性組成物を例証する。(ヒュームドシリカの組み込みにより)室温で半固体様特性を示すサンプルCも温度上昇に伴って実質的に増大した。
【0060】
【表7】

【0061】
本願発明に関連する発明の実施の形態について以下に列挙する。
[実施の形態1]口腔環境に適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物。
[実施の形態2]前記組成物が温度低下に応じて粘度低下を受けることで可逆的に熱反応できる、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態3]前記処置前温度が約29℃以下である、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態4]前記処置前温度が約5℃〜約10℃である、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態5]前記処置前温度が約20℃〜約25℃である、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態6]前記処置温度が約30℃以上である、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態7]前記粘度調整剤がポリオキシアルキレンポリマーである、実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態8]前記組成物が約0〜約7000ポアズ(700Pa・s)の初期粘度を有し、温度上昇に応じて約10,000ポアズ(1000Pa・s)に増大する実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態9]前記組成物が約7000ポアズ(700Pa・s)を越える初期粘度を有し、温度上昇に応じて少なくとも約2倍に増大する実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態10]前記歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の改質剤が、処置直前の混合まで物理的に隔てられる実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態11]前記溶剤をさらに含む実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態12]溶剤が水を含む実施の形態11に記載の組成物。
[実施の形態13]前記歯ホワイトニング剤が前記組成物の約3重量%以上および約40重量%以下であって、粘度調整剤が組成物の約5重量%以上および約40重量%以下である実施の形態1に記載の組成物。
[実施の形態14]前記水が前記組成物の30重量%以上および約90重量%以下である、実施の形態11に記載の組成物。
[実施の形態15]口腔環境に適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物を使用する歯をホワイトニングする方法であって、
(a)前記組成物を歯科用トレー内に分取するステップと、
(b)前記歯科用トレーを使用者の口に入れるステップと、
(c)前記組成物と少なくとも1つの歯の表面との間に接触を引き起こすことで、前記組成物の粘度増大を開始するステップと、
(d)前記トレーを少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングまたは増白するのに十分な時間、口内に保持するステップと、
(e)前記歯科用トレーを前記口から取り出すステップと、
を含む方法。
[実施の形態16]f)前記口の内部を溶液ですすぐことにより、前記組成物の粘度低下または熱的に反応性の粘度調整剤の重量百分率低下を開始することで、前記口内の組成物を除去するステップをさらに含む実施の形態15に記載の方法。
[実施の形態17]前記歯科用トレーがレザバーを有する、実施の形態15に記載の方法。
[実施の形態18]前記歯科用トレーが前記組成物の前記処置前温度よりも高い温度を有する、実施の形態15に記載の方法。
[実施の形態19]口腔環境に適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物を使用する歯をホワイトニングする方法であって、
(a)前記組成物を処置前温度に貯蔵するステップと、
(b)前記組成物を使用者の口の少なくとも1つの歯の表面上に塗布することで、前記組成物の粘度増大を開始するステップと、
(c)前記組成物を、少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングまたは増白するのに十分な時間、歯の表面または表面群に接触し続けるステップと、
を含む方法。
[実施の形態20]d)前記口を溶液ですすぐことにより前記組成物の粘度低下または熱的に反応性の粘度調整剤の重量百分率低下を開始することで、前記組成物を除去するステップをさらに含む実施の形態19に記載の方法。
[実施の形態21](a)歯科用トレー材料と、
(b)歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含む口腔環境で使用するのに適した歯ホワイトニング組成物と、
を含む少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングするためのマルチパートの歯科用ホワイトニングシステムであって、
前記組成物が処置前温度での前記組成物粘度が処置温度での粘度よりも低くなるように、温度変化に応じて粘度変化を受けることができるホワイトニングシステム。
[実施の形態22]前記歯科用トレー材料が、使用者の歯列に合わせられる実施の形態21に記載のシ[実施の形態20]ステム。
[実施の形態23]前記歯ホワイトニング組成物が、物理的に隔てられて処置直前に混合されるホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤の成分を含む実施の形態21に記載のシステム。
[実施の形態24](a)口腔環境で使用するのに適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物と、
(b)前記ホワイトニング組成物を使用者の歯の表面または表面群に塗布するための歯科用組成物塗布具と、
を含む少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングするためのマルチパート歯科用ホワイトニングシステム。
[実施の形態25]前記歯ホワイトニング組成物が、物理的に隔てられて処置直前に混合されるホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤の成分を含む、実施の形態23に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、実施例3で述べた温度に対する粘度のデータをグラフで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔環境に適し、歯ホワイトニング剤および熱的に反応性の粘度調整剤を含み、処置前温度から処置温度への温度上昇に応じて粘度増大を受けることができる歯ホワイトニング組成物を使用する歯をホワイトニングする方法であって、
(a)前記組成物を歯科用トレー内に分取するステップと、
(b)前記歯科用トレーを使用者の口に入れるステップと、
(c)前記組成物と少なくとも1つの歯の表面との間に接触を引き起こすことで、前記組成物の粘度増大を開始するステップと、
(d)前記トレーを少なくとも1つの歯の表面をホワイトニングまたは増白するのに十分な時間、口内に保持するステップと、
(e)前記歯科用トレーを前記口から取り出すステップと、
を含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−62397(P2009−62397A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312020(P2008−312020)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【分割の表示】特願2000−582003(P2000−582003)の分割
【原出願日】平成11年3月16日(1999.3.16)
【出願人】(590000422)スリーエム カンパニー (144)
【Fターム(参考)】