説明

歯科用治療装置

【課題】 歯科用治療装置において、施術者がインスツルメントをホルダから引き出すと、手にはインスツルメントとそのチューブの重量が掛かるため施術者の負担になっていた。またチューブの垂れ下がり防止装置を装備したものでは、さらにチューブを引き戻す力が加わっていた。本件は簡単な構造でかつ通常の操作で、施術者の負担を防止する機能を備えた装置を提供する。
【解決手段】 インスツルメントホルダの下後方に、チューブを引き出す方向のみに回転可能なワンウェイクラッチが取着されかつ、表層が摩擦抵抗を有する棒状回転体を、チューブの上方において交差する方向に配設し、チューブを引き出して前記棒状回転体と交差接触する際に作動するごとく構成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
歯科医療において、施術者がインスツルメントをインスツルメントホルダから引き出して施療する時に、施術者の手に掛かる負担を軽減する機能を備えた歯科用治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用治療装置において、施療のため施術者がインスツルメントをインスツルメントホルダから引き出すと、前記インスツルメントに接続されているエア、水等の配管や、電源線、信号線等を内包するインスツルメントチューブも引き出され、
施術者の手には、前記インスツルメント及びインスツルメントチューブの重さが掛かるため、施術者の負担になっていた。
また、インスツルメントチューブが垂れ下がり床に接触するのを防止するための前記インスツルメントチューブの垂れ下がり防止装置を装備したものでは、前記インスツルメントチューブを引き戻す力も加わり施術者の大きな負担になっていた(図8)。
【0003】
また、インスツルメントチューブを引き出し又は引き戻すために、インスツルメントチューブ毎に正逆回転の駆動ローラを備え、センサ信号による停止時にインスツルメントホルダの奧でバネとローラでインスツルメントチューブを挟持するもの(特許文献1)、
あるいは、インスツルメントホルダの出口又は、インスツルメントチューブの所定位置に、使用状態で保持できるリングや網状の摩擦部を設け、前記摩擦部を予め前記インスツルメントチューブの複数部に固設しておくもの(特許文献2)や、
さらに、インスツルメントホルダのインスツルメントチューブの出口に、大小口径の連結口を設けて、前記インスツルメントチューブの引き出し又は引き戻し時には大口径の穴を通し、施療時(停止時)には前記インスツルメントチューブを小口径の穴の摩擦抵抗で保持するもの(特許文献3)、等が開示されている。
【特許文献1】特許第3788614号公報
【特許文献2】特許第3784571号公報
【特許文献3】実用新案第3087141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の、引き出し又は引き戻し用の正逆回転の駆動ローラをインスツルメントチューブ毎に配設するものは、ローラの回転数や回転時間の予測センサと、その信号による制御回路を要し複雑であった。
【0005】
また、特許文献2の、インスツルメントホルダの出口に摩擦部を設けるものは特定の部品の付設又は加工を要し、かつ出し入れの際の円滑度にも問題があり、
さらに、インスツルメントチューブの所定位置に、前記インスツルメントチューブを使用状態の時保持するためのリングや網状の摩擦部を設けるものは、前記インスツルメントチューブを引き出す長さに応じてその位置を移動させる必要があり、
そして、前記摩擦部を予めインスツルメントチューブの複数箇所に固設しておくものは、出し入れが円滑ではない等の問題があった。
【0006】
さらに、特許文献3のインスツルメントホルダのインスツルメントチューブの出口に、大小口径の連結孔を設けるものは、特殊な形状の器具の付設を要し、かつ施術者が大小の連結孔を使い分ける等面倒であった。
本発明は、インスツルメントを操作する施術者の手に掛かる負担を、簡単な装置でかつ、通常の操作状態で解決する機能を備えた歯科用治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み本発明者は鋭意実験研究の結果、下記の手段によりこの問題を解決した。
(1)インスツルメントを保持するインスツルメントホルダと、インスツルメントチューブと、インスツルメントホルダとインスツルメントチューブとの間の位置にインスツルメントチューブと交差する方向に配設された棒状回転体とから構成され、
前記インスツルメントチューブは前記インスツルメントホルダの後方に後端が固定され、前端にインスツルメントが装着され、かつインスツルメントホルダの下部に架設されてなり、
さらに前記棒状回転体は、前方に引き出されるインスツルメントチューブと接触する際に、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能にする逆転防止機構付きのものであることを特徴とする歯科治療装置。
(2)前記棒状回転体が、表層に摩擦抵抗を有する長尺の円柱状で、かつ、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能なワンウエイクラッチを備えてなることを特徴とする前項(1)に記載の歯科治療装置。
(3)前記棒状回転体が、前方に引き出されたインスツルメントチューブに接触している間、前記逆転防止機構が作動するよう構成されてなることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の歯科治療装置。
【発明の効果】
【0008】
1、本発明の請求項1の発明によれば、
インスツルメントを保持するインスツルメントホルダと、インスツルメントチューブと、インスツルメントホルダとインスツルメントチューブとの間の位置にインスツルメントチューブと交差する方向に配設された棒状回転体とから構成され、前記インスツルメントチューブは前記インスツルメントホルダの後方に後端が固定され、前端にインスツルメントが装着され、かつインスツルメントホルダの下部に架設されてなり、さらに前記棒状回転体は、前方に引き出されるインスツルメントチューブと接触する際に、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能にする逆転防止機構付きのものであるため、
インスツルメントチューブを引き戻す力は掛からないので、インスツルメントを引き出して操作する施術者の手に掛かる負担を、極く簡単な装置でかつ、通常の操作状態で、大幅に軽減することができる。
【0009】
2、請求項2、3の発明によれば、
インスツルメントチューブを引き出す方向のみに回転可能な棒状回転体が、
表層に摩擦抵抗を有する長尺の円柱状で、かつ、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能なワンウエイクラッチを取着されてなり、また前記インスツルメントチューブの上面が、棒状回転体の下面と交差接触した際に作動するため、
前記交差接触した状態では、インスツルメントチューブが戻る方向には前記棒状回転体のワンウェイクラッチと棒状回転体の表層の摩擦抵抗により動かず逆転防止機構として作動するため、
インスツルメント及びインスツルメントチューブの重量は、インスツルメントチューブと棒状回転体の交差接触箇所の前後に分割され、
施術者の手には前記交差接触箇所から前記インスツルメント側の重量のみが掛かり、
交差接触箇所からインスツルメントチューブ後端までの重量と、前記インスツルメントチューブの垂れ下がり防止装置によるインスツルメントチューブを引き戻す力は掛からないので、施術者の負担を大きく軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明を実施するための最良の形態を図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の歯科用治療装置の外観斜視図である。
図において、1は歯科用治療装置、2はインスツルメント、3はインスツルメントチューブ、4はインスツルメントホルダ、5はブラケットテーブル、6はインスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置、7は棒状回転体、8はインスツルメントチューブ後端、9は吊り環、10はインスツルメントチューブ前端、11はワンウェイクラッチ、12は取付け具,17は交差接触箇所、Aはインスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置によりインスツルメントチューブが引き戻される方向、Bはインスツルメントチューブ引き出しの方向を示す。
【0011】
図示したように、インスツルメントチューブ後端8は、ブラケットテーブル5の裏面に固定され、
そして、インスツルメントチューブ3は、ブラケットテーブル5の裏面後端部に配設されたインスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置6の吊り環9の中を通り、インスツルメントホルダ4裏面のインスツルメントチューブと交差する方向に配設されたインスツルメントチューブ3の棒状回転体7の下方を通って、その前端10が前記インスツルメント3に接続されている。
【0012】
図2は、図1の歯科用治療装置を右から見たインスツルメントの格納状態を示す説明図である。
図において13はインスツルメントチューブ3に作用する自重による垂下を示す。
この状態ではインスツルメントチューブ3の中間部分は下方にU字型に懸垂している。
【0013】
図3は、図1の歯科用治療装置を右から見たインスツルメントチューブを引き出した状態を示す説明図である。
図において、17は交差接触箇所、18は垂れ下がり防止装置による引き戻し力、19は施術者の手に掛かる加重を示す。
最初、インスツルメントチューブ3を短く引き出し、棒状回転体7と交差接触しない状態では、施術者の手にはインスツルメント2及びインスツルメントチューブ3の重さと、垂れ下がり防止装置による引き戻し力18が掛かるが、図のように、前記インスツルメントチューブ3を長く引き出して前記棒状回転体7とインスツルメントチューブ3が交差接触した状態では、ワンウェイクラッチ11の作用により棒状回転体7は、インスツルメントチューブ3を引き戻す方向には回転せず、かつ、棒状回転体7の表層との摩擦によりインスツルメントチューブ3が引き戻される方向に動かないため、逆転防止機構として作動する。
したがって、前記交差接触箇所17後方のインスツルメントチューブ3の重量と、前記垂れ下がり防止装置による引き戻し力18は、施術者の手に掛からず、施術者の手に掛かる負担は、インスツルメント2及びインスツルメントチューブ前端10から、前記交差接触箇所17迄の重量のみに限定されるため大きく軽減される。
【0014】
また、前記インスツルメント2をインスツルメントホルダ4に格納する際は、
引き出したインスツルメント2をインスツルメントホルダ4に戻す方向に移動させれば、インスツルメントチューブ3が弛むことにより、自重による垂下によって前記棒状回転体7との交差接触箇所17から離れるので、容易に戻すことができ、格納時の状態(図2)に戻る。
【0015】
図4は他の事例におけるインスツルメントチューブ引き出し時の状態を示す説明図である。
図において、26は交差接触箇所からインスツルメントチューブ後端8までの間の重量、を示す。
本事例では、インスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置は装備していない。
施療時、図のようにインスツルメント2をインスツルメントホルダ4から前方に引き出すと、下方にU字型に懸垂していたインスツルメントチューブ3は、前記棒状回転体7の下方に交差接触するように構成されている。
そして、前記、インスツルメントチューブ3が、棒状回転体7の下方と交差接触した場合、ワンウェイクラッチ11の作用により前記棒状回転体7が前記インスツルメントチューブ3を引き戻す方向には回転せず、かつ前記棒状回転体7表層の摩擦により、前記インスツルメントチューブ3が引き戻される方向に動かないため、
交差接触箇所17からインスツルメントチューブ後端までの間の重量26は、施術者の手に掛からず、
前記インスツルメント2及び、インスツルメントチューブの前端10から前記交差接触箇所17の重量のみが施術者の手に掛かるため、施術者の負担は大きく軽減される。
さらに、前記インスツルメント2を前記インスツルメントホルダ4に格納する時は、引き出した前記インスツルメント2を前記インスツルメントホルダ4に戻す方向に移動させれば、前記インスツルメントチューブ3が弛むことにより、前記棒状回転体7との交差接触箇所17から離れるので、容易に格納することができる。
【0016】
図5は、棒状回転体及び交差接触するインスツルメントチューブの断面図である。
図において、20は棒の表層、21は金属棒、22はインスツルメントチューブ内の配管・コードを示す。
【0017】
図6は、棒状回転体及び交差接触するインスツルメントチューブの断面図である。
図において、23はワンウェイクラッチの回転方向、24はインスツルメントチューブの引き出し方向、25はインスツルメントチューブの引き戻し方向を示す。
図5・図6に示したように、インスツルメントチューブ3の棒状回転体7は、長尺の円柱状で、前記円柱状の棒の表層20は摩擦抵抗を有している。例えば金属棒21の表面にゴム、シリコン樹脂、合成樹脂等の円筒を被せてもよい。
前記棒状回転体7の両端には、インスツルメントチューブの引き出し方向24(図6)のみに回転可能な、ワンウェイクラッチ11が取着されている。
そして、前記棒状回転体7は、前記インスツルメントホルダ4の下後方に、取付け具12によって架設状態に取付られている(図1)。
なお、前記ワンウェイクラッチ11は片方のみとし、他方はベアリング等でもよい。
【0018】
また、前記棒状回転体7の下方に交差接触している前記インスツルメントチューブ3は例えば、弾力と可撓性があり表面処理により表面を平滑にされたシリコン樹脂製のものである。
そして、インスツルメントチューブ内には配管・コード22が配設されている。
前述したように、前記ワンウェイクラッチ11はワンウェイクラッチ回転方向23のように、インスツルメントチューブの引き出し方向24のみに回転し、インスツルメントチューブの引き戻し方向25には回転しないから、インスツルメントチューブ3と棒状回転体7が交差接触すると、前記インスツルメントチューブ3は、前記棒状回転体7の、棒の表層20の摩擦抵抗により、インスツルメントチューブの引き戻し方向25には動かない。
なお、前記インスツルメントチューブ3と棒状回転体7とが交差する角度は、図のように直角である必要はない。
【0019】
図7は、従来装置におけるインスツルメントチューブを引き出した状態の説明図である。
本事例では、棒状回転体はなく、施療時、インスツルメント2をインスツルメントホルダ4から前方に引き出すと、前記インスツルメント2の重量及び、インスツルメントチューブ3の重さが施術者の手に掛かり、施術者の負担が大きかった。
【0020】
図8は、他の従来装置におけるインスツルメントチューブを引き出した状態の説明図である。
本事例では、棒状回転体はなく、インスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置6を
を有している。
インスツルメント2を引き出した時には、前記インスツルメント2の重さ、インスツルメントチューブ3の重さに加えて、インスツルメントチューブ3を引き出した長さに比例する垂れ下がり防止装置による引き戻し力18が働くため、施術者の手に掛かる負担は大きかった。
なお、前記インスツルメントチューブ3は弾力と可撓性があるが、インスツルメントチューブ内に配管・コード22を有しているので、ある程度の剛性があり、前記インスツルメントチューブ3が図のようにやや湾曲した状態でも、垂れ下がり防止装置による引き戻し力18が施術者の手に伝わる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の歯科用治療装置の外観斜視図。
【図2】図1の歯科用治療装置を右から見たインスツルメントの格納状態を示す説明図。
【図3】図1の歯科用治療装置を右から見たインスツルメントチューブを引き出した状態を示す説明図。
【図4】他の事例におけるインスツルメントチューブ引き出しの状態を示す説明図。
【図5】棒状回転体及び交差接触するインスツルメントチューブの断面図。
【図6】棒状回転体及び交差接触するインスツルメントチューブの断面図。
【図7】従来装置におけるインスツルメントチューブを引き出した状態の説明図。
【図8】他の従来装置におけるインスツルメントチューブを引き出した状態の説明図。
【符号の説明】
【0022】
1:歯科用治療装置
2:インスツルメント
3:インスツルメントチューブ
4:インスツルメントホルダ
5:ブラケットテーブル
6:インスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置
7:棒状回転体
8:インスツルメントチューブ後端
9:吊り環
10:インスツルメントチューブ前端
11:ワンウェイクラッチ
12:取付け具
13:インスツルメントチューブの自重による垂下
15:引き戻し力
17:交差接触箇所
18:垂れ下がり防止装置による引き戻し力
19:施術者の手に掛かる加重
20:棒の表層
21:金属棒
22:インスツルメントチューブ内の配管・コード
23:ワンウェイクラッチの回転方向
24:インスツルメントチューブの引き出し方向
25:インスツルメントチューブの引き戻し方向
26:交差接触箇所からインスツルメントチューブ後端までの自重による垂下
A:インスツルメントチューブ垂れ下がり防止装置によりインスツルメントチューブが引き戻される方向
B:インスツルメントチューブ引き出しの方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスツルメントを保持するインスツルメントホルダと、インスツルメントチューブと、インスツルメントホルダとインスツルメントチューブとの間の位置にインスツルメントチューブと交差する方向に配設された棒状回転体とから構成され、
前記インスツルメントチューブは前記インスツルメントホルダの後方に後端が固定され、前端にインスツルメントが装着され、かつインスツルメントホルダの下部に架設されてなり、
さらに前記棒状回転体は、前方に引き出されるインスツルメントチューブと接触する際に、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能にする逆転防止機構付きのものであることを特徴とする歯科治療装置。
【請求項2】
前記棒状回転体が、表層に摩擦抵抗を有する長尺の円柱状で、かつ、インスツルメントチューブが引き出される方向へのみ回転可能なワンウエイクラッチを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の歯科治療装置。
【請求項3】
前記棒状回転体が、前方に引き出されたインスツルメントチューブに接触している間、前記逆転防止機構が作動するよう構成されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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